多肉植物が好きでボチボチ育てておりますが、基本的には植物そのものに興味があります。植物の分類や進化、生態に関する本が出たらなるべく読むようにしています。裳華房から「生命の神秘と不思議」という新しいシリーズが始まり、何冊か読んでいるのですが、いつの間にやら「植物メタボロミクス」に関する著作が出版されていました。近所の書店では取り扱いが、ないため気が付きませんでした。早速取り寄せて読んでみましたから、軽いブックレビューをしてみます。ご紹介するのは、2019年に刊行された斉藤和季 / 著、『植物メタボロミクス -ゲノムから解読する植物化学成分-』(裳華房)です。

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そもそも、植物メタボロミクスとは何ぞやという話ですが、メタボロミクスとはどうやら代謝産物の探索を指すようです。植物は様々な化学物質を合成していますが、それらを単離することは容易なことではありませんでした。しかし、遺伝子工学の発展により、遺伝子配列から植物が合成する物質を推測することが可能となりました。しかし、実際に物質を分析することはかなり難しく、複数種の機器を駆使して様々な方法で行われます。植物の代謝産物は非常に種類が多く、次々と新たな成分が特定されており、活発な分野であることが分かります。植物の代謝産物は生理活性があるものも多く、薬や漢方の主成分も含まれます。
本の前半は、植物のメタボロミクスについて、一般的な傾向や分類、特徴がやさしく解説されています。後半は実際に著者が成分の特定に関わった話が中心となります。後半はやや専門的な話があるため、少々難解に感じるかも知れません。

意外と面白いと思ったのは、遺伝子組み換えの話です。それほど詳しくは解説されませんが、中々興味深い指摘がありました。現在、新しい品種を作る方法は大まかに3種類あります。1つは昔ながらの交配と選抜によるもので、2つめは遺伝子組み換えによるものです。遺伝子組み換えは導入する遺伝子がどこに入るのか分からず、思わぬ突然変異がおこる可能性があるものでした。しかし、近年になり3つめのゲノム編集が加わりました。ゲノム編集はピンポイントに場所を指定して遺伝子導入が可能なため、非常に安全性が高い方法です。著者は昔ながらの交配は思わぬ突然変異が起きる可能性があることから、1箇所しか変わらないゲノム編集の方が安全なのではないかと述べています。まあ、それはあくまで理屈の上の話ですから、安全性は徹底的に検査する必要はあるでしょう。しかし、気になったのは、交配による突然変異の可能性です。言われなければ思いもしない意外な話でした。
少し考えたのですが、交配により新しい品種を作る場合、外見や味を基準に選抜されます。しかし、外見や味以外の、表に出てこない変異もあるはずです。例えば、毒性の高い成分が新品種では増えているかも知れません。そんなバカなと思われたかも知れませんが、食用作物でも人体には無害なレベルの有害物質は産生されています。特に害虫にかじられたりすると、植物は害虫に害のある物質を大量に産生します。ですから、無農薬野菜は良いような気もしますが、あまり害虫にやられていると有害物質が蓄積してしまいます。もし、交配によりそのような遺伝子に変異が入り、有害物質を大量に産生してしまっているかも知れません。問題は、それを見抜くことが出来ないことで、一々新品種が出来た時に安全性の確認などは行われていないのです。とは言え、だから新品種は危ないのではなく、我々はそれぐらいは平気であるということなのかも知れませんね。


植物は約39万種が知られておりますが、そのほとんどの種は代謝産物が特定されておりません。それどころか、遺伝子解析されている植物など、研究用植物や稲など極一部の有用植物だけです。当然ながら、代謝産物が研究されたのは、すでに効果が知られている薬用植物程度となっています。植物は種により異なる代謝産物を複数持っているかもしれず、未だ未知の成分が数え切れないぐらい存在することは自明でしょう。このような植物の代謝産物の解明が進めば、様々な分野に応用可能な成分も沢山あるはずです。実際、2015年には、クソニンジンから抽出された抗マラリア薬アルテミシニンの発見により、ノーベル賞が与えられています。これからも新たな発見が続くかも知れません。非常に今後が楽しみな分野ですね。


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