2020年に『菌根の世界 菌と植物のきってもきれない関係』(築地書館)という本が出版されました。菌根とは植物と菌類が共生関係を結び形成されるものです。菌根自体は昔から知られており、私も90年代には図鑑の簡単な説明があり、存在自体は知っていました。しかし、私の認識としては、一部の植物にだけ関係する特殊な事例だと勘違いしていました。その後、菌根は特殊なものではなく、樹木から雑草まで普遍的にどこにでも存在することを知りました。『菌根の世界』を読んでから菌根について興味がわき、多肉植物と菌類の関係を調べ、サボテンやWelwitschiaが菌根を形成していることを確認した論文を記事にしたことがあります。菌根は植物と菌類の間で栄養のやり取りがあるわけですが、それだけではなく、特殊な環境に生える植物は、乾燥耐性や強酸性・強アルカリ性土壌への耐性は菌根の形成が担っていたりもするのです。

さて、前置きばかり長くなりましたが、『菌根の世界』の続刊が出ました。『もっと菌根の世界 知られざる根圏のパートナーシップ』(築地書館)です。前巻でカバーしきれなかった部分、ツツジ科植物のエリコイド菌根やトリュフに代表される地下性菌、葉緑体がなく光合成せずに菌類に依存する腐生植物など非常に魅力的なラインナップです。厳密には菌根とは異なるかも知れませんが、DSEというカビが植物と共生していることなどは私も初めて知りました。非常に勉強になります。ただ、部分的にはかなり専門的な内容も含まれます。私は経歴的にある程度は分かりましたが、それでも実験のイメージがまったくつかない話もありました。まあ、簡単に図解するだけで、何となく理解が出来なくもないような気もしました。
それはそうと、植物と菌類の共生は欠かさざるえないものであることは明らかでしょう。本書を読んでいてまず関心したのは、植物の遷移と共生菌との関係です。山火事や崖崩れ、火山の噴火など様々な要因で、植生がリセットされた崩壊地が生まれます。崩壊地には生長の早い一年草が生え、腐植質が溜まれば松などの先駆的な樹木も生えて来るでしょう。温暖多雨な日本では、割と早く森林となりますが、樹種は移り変わって行きます。これを遷移といいますが、実は植物と共生する菌類の種類も遷移していくということを、初めて知りました。さらに、崩壊地に生える草の近くに樹木の実生が生えるのは、草の根の菌根菌が樹木の実生の根と繋がっているからであるというのです。偶然に樹木の種子の芽生えた根の近くに菌根菌の胞子があったり、風で偶然に胞子が飛んでくることを期待することは難しいことでしょう。資源の量からしても、すでに発達した菌根にアクセス出来るということは、大変なメリットです。まさに、森林は菌根菌あって初めて成立しているのです。
植物の進化史は、水中の植物が上陸したことは、非常に大きな出来事でした。それは、動物が上陸するに際して、すでに陸上に植物があったから可能であったことは明らかです。その植物も上陸初期は非常に未熟な根しか持っていなかったことが化石から明らかとなっています。おそらくは、上陸初期の植物はすでに菌類と共生関係を結んでおり、未熟な植物の根の代わりをしていたのでしょう。遺伝子解析の結果からは、菌根菌の一部は植物の上陸した時期にはすでに存在していたことが推定されています。そうなると、動物が上陸出来たのは植物のおかげで、植物が上陸出来たのは菌根のおかげということになります。我々人類が誕生したのは、遠因を辿ると植物と菌根が共生関係を結んだ時点まで行き着くとも言えるかも知れませんね。
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それはそうと、植物と菌類の共生は欠かさざるえないものであることは明らかでしょう。本書を読んでいてまず関心したのは、植物の遷移と共生菌との関係です。山火事や崖崩れ、火山の噴火など様々な要因で、植生がリセットされた崩壊地が生まれます。崩壊地には生長の早い一年草が生え、腐植質が溜まれば松などの先駆的な樹木も生えて来るでしょう。温暖多雨な日本では、割と早く森林となりますが、樹種は移り変わって行きます。これを遷移といいますが、実は植物と共生する菌類の種類も遷移していくということを、初めて知りました。さらに、崩壊地に生える草の近くに樹木の実生が生えるのは、草の根の菌根菌が樹木の実生の根と繋がっているからであるというのです。偶然に樹木の種子の芽生えた根の近くに菌根菌の胞子があったり、風で偶然に胞子が飛んでくることを期待することは難しいことでしょう。資源の量からしても、すでに発達した菌根にアクセス出来るということは、大変なメリットです。まさに、森林は菌根菌あって初めて成立しているのです。
植物の進化史は、水中の植物が上陸したことは、非常に大きな出来事でした。それは、動物が上陸するに際して、すでに陸上に植物があったから可能であったことは明らかです。その植物も上陸初期は非常に未熟な根しか持っていなかったことが化石から明らかとなっています。おそらくは、上陸初期の植物はすでに菌類と共生関係を結んでおり、未熟な植物の根の代わりをしていたのでしょう。遺伝子解析の結果からは、菌根菌の一部は植物の上陸した時期にはすでに存在していたことが推定されています。そうなると、動物が上陸出来たのは植物のおかげで、植物が上陸出来たのは菌根のおかげということになります。我々人類が誕生したのは、遠因を辿ると植物と菌根が共生関係を結んだ時点まで行き着くとも言えるかも知れませんね。
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