多肉植物の生息地は、開発によりその生息が脅かされています。多肉植物は分布が狭く、特殊な環境にのみ生えるものも多いことから、多くの多肉植物が絶滅の危機に瀕しています。保護活動によりこれらの多肉植物を救うことは出来るのでしょうか?
本日は希少な多肉植物を救うための保護活動に目を向けます。Stefan Siebert & Frances Siebertの2022年の報告である、『Beating the boom: The fight to save a tiny succulent』をご紹介しましょう。小型のメセンであり、野生では非常に希少なFrithia humilisの保護活動の顛末です。
妖精の象の足
「妖精の象の足」(Faily elephant feet)と呼ばれるFrithia humilisは、南アフリカの固有種です。Gauteng州とMpumalanga州の境界にまたがる約600平方キロメートルの範囲の、岩盤上に乗った砂利の隙間にのみ生えます。非常に特殊な土壌条件が必要です。乾燥しわずか2cmしかない浅い土壌は、珪岩砂と腐植質からなり、0.5cmの珪岩砂利に覆われている必要があります。しかし、残念なことに南アフリカの発電所に供給される石炭が採掘される石炭鉱床は、F. humilisの分布と重なります。すでに、鉱山開発などによりF. humilisは生息地の半分以上を失っています。
救出作戦
新しい石炭鉱山の開発予定地に、4000個体に及ぶF. humilisが発見されました。しかし、南アフリカの政策により、この希少植物を他の土地に移植しなくてはなりませんでした。そのため、時間が限られる中、適切な代替地を探し出し、2009年に移植が敢行されました。移植が終わると、本来の自生地は採掘のため、すぐに爆破されてしまいました。
挫折と行き詰まり
救出活動以来、移植先を定期的に監視しました。当初、移植したF. humilisの生存と繁殖は有望に見えました。確かに、移植当初はネズミによる減少がありました。ところが、個体数が大幅に減少し始めたのは、2017年以降でした。著者らはこれは個体数が少ないことから、遺伝的多様性の低下により自家受粉が増えたからではないかと考えました。
著者らは移植先における花粉媒介者の数や訪問頻度、開花や結実について調査しましたが、これらの指標は他の自生地と変わりがありませんでした。つまり、種子や実生の数が少ないわけではないということです。
保護の難しさ
F. humilisは土壌ごと移植されたため、貯蔵種子(Seed bank)からの発芽が期待されました。実際に移植後に実生が出現し、それは2013年まで続きました。そして、干ばつ後の2017年以降、減少が始まりました。それ以降、観察により花の数、成体の植物数、実生苗の数は減少し続けています。
F. humilisのような特殊な土壌に生える植物は、数十億年かけて形成された生息地に、数百万年かけて適応してきました。単純に移動させたら、新しい生息地で繁栄することを期待することは出来ません。一度介入したならば、監視を続け生息地の維持のために投資する必要があります。最終的には、自生地には手を加えずに残しておく必要があります。
最後に
以上が報告の簡単な要約です。
保護活動は失敗に終わりました。これだけ文明が発達した現代においても、未だ自然とはあまりに未知であり、まったくコントロールが効かない存在であることを改めて実感しました。
しかし、F. humilisを育てるのはそれほど難しくないと思った方もおられるでしょう。これは、当然ながら自然環境下は栽培環境とはまったく異なるからです。自然環境下では植え替えも施肥も、水やりや遮光も出来ないのですから、自然と育って増えてくれるのを期待するしかありません。まったく同じ自然環境を用意することはあまりに難しいでしょう。やはり、自然環境ごと保全することが肝要ということなのでしょう。
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妖精の象の足
「妖精の象の足」(Faily elephant feet)と呼ばれるFrithia humilisは、南アフリカの固有種です。Gauteng州とMpumalanga州の境界にまたがる約600平方キロメートルの範囲の、岩盤上に乗った砂利の隙間にのみ生えます。非常に特殊な土壌条件が必要です。乾燥しわずか2cmしかない浅い土壌は、珪岩砂と腐植質からなり、0.5cmの珪岩砂利に覆われている必要があります。しかし、残念なことに南アフリカの発電所に供給される石炭が採掘される石炭鉱床は、F. humilisの分布と重なります。すでに、鉱山開発などによりF. humilisは生息地の半分以上を失っています。
救出作戦
新しい石炭鉱山の開発予定地に、4000個体に及ぶF. humilisが発見されました。しかし、南アフリカの政策により、この希少植物を他の土地に移植しなくてはなりませんでした。そのため、時間が限られる中、適切な代替地を探し出し、2009年に移植が敢行されました。移植が終わると、本来の自生地は採掘のため、すぐに爆破されてしまいました。
挫折と行き詰まり
救出活動以来、移植先を定期的に監視しました。当初、移植したF. humilisの生存と繁殖は有望に見えました。確かに、移植当初はネズミによる減少がありました。ところが、個体数が大幅に減少し始めたのは、2017年以降でした。著者らはこれは個体数が少ないことから、遺伝的多様性の低下により自家受粉が増えたからではないかと考えました。
著者らは移植先における花粉媒介者の数や訪問頻度、開花や結実について調査しましたが、これらの指標は他の自生地と変わりがありませんでした。つまり、種子や実生の数が少ないわけではないということです。
保護の難しさ
F. humilisは土壌ごと移植されたため、貯蔵種子(Seed bank)からの発芽が期待されました。実際に移植後に実生が出現し、それは2013年まで続きました。そして、干ばつ後の2017年以降、減少が始まりました。それ以降、観察により花の数、成体の植物数、実生苗の数は減少し続けています。
F. humilisのような特殊な土壌に生える植物は、数十億年かけて形成された生息地に、数百万年かけて適応してきました。単純に移動させたら、新しい生息地で繁栄することを期待することは出来ません。一度介入したならば、監視を続け生息地の維持のために投資する必要があります。最終的には、自生地には手を加えずに残しておく必要があります。
最後に
以上が報告の簡単な要約です。
保護活動は失敗に終わりました。これだけ文明が発達した現代においても、未だ自然とはあまりに未知であり、まったくコントロールが効かない存在であることを改めて実感しました。
しかし、F. humilisを育てるのはそれほど難しくないと思った方もおられるでしょう。これは、当然ながら自然環境下は栽培環境とはまったく異なるからです。自然環境下では植え替えも施肥も、水やりや遮光も出来ないのですから、自然と育って増えてくれるのを期待するしかありません。まったく同じ自然環境を用意することはあまりに難しいでしょう。やはり、自然環境ごと保全することが肝要ということなのでしょう。
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