最近は基本的にサボテンと多肉植物の論文をご紹介してきましたが、花と受粉に関する話題に興味があり積極的に取り上げてきました。しかし、最近は種子の行方にも興味が出て来ました。論文を漁っていたところ、「Serotiny」なる用語に出会いました。「Serotiny」とは、成熟した種子がすぐに散布されず、親個体に長く残る現象を指します。有名な植物はオーストラリアのバンクシアで、種子は火事により加熱されないと出て来ません。調べると、一部のサボテンも「Serotiny」であると言うのです。一体どういうことなのでしょうか?
本日はそんな「Serotiny」であるサボテンについて調査した、Edward M. Petersの2009年の論文、『The adaptive value of cued seed dispersal in desert plants: Seed retention and release in Mammillaria pectinifera (Cactaceae), a small globose ca cactus』をご紹介しましょう。
Mammillaria pectiniferaは直径3〜4cmの球形のサボテンで、メキシコのPuebla州Tehuacan Valleyの固有種です。土壌は保水力が高くアルカリ性です。M. pectiniferaは環境破壊や違法取引などにより絶滅が危惧されており、ワシントン条約(CITES)では附属書Iに含まれ国際取引が制限されています。メキシコ政府の絶滅危惧種リストにも記載されています。
M. pectiniferaの櫛状のアレオーレには白い棘があり、日照を和らげています。果実は白っぽい液果で、すぐに果実ごと種子が放出されることもあれば、サボテンのイボの中に埋め込まれたまま7〜8年かけて徐々に種子を放出する場合もあります。
Mammillaria pectinifera(右)
『The Cactaceae』(1922年)より。Solisia pectiniferaとして記載。
著者らは、M. pectiniferaを2年間観察しました。1年目はエルニーニョ現象の影響により非常に乾燥し、2年目はラニーニャ現象により比較的雨が多い時期でした。乾燥した1年目は果実が放出されることはなく、埋め込まれた果実から種子がこぼれました。雨が多かった2年目は、新しい果実の21.5%は放出されました。2年目は実生が増え、苗の定着率も1年目の5倍に達しました。
また、温室内で水やりの量をコントロールすると、与えた水が多いほど果実の放出が多くなりました。年間降水量1000mm以上を想定したシミュレーションでは、ほぼすべての果実が放出されました。
M. pectiniferaの保持される種子の存在は、これが貯蔵種子(seed bank)として機能していることを示唆します。苗の死亡率が高い植物では、乾燥などの悪質な環境を避ける戦略かも知れません。それは、乾燥した年と雨が多い年の比較や、降水量をシミュレーションした実験からも伺えます。
以上が論文の簡単な要約です。
乾燥していたら種子をなるべく放出せず、雨が多ければ種子を放出するという賢い戦略です。雨が多い年には実生の生存率は上がります。乾燥した年に種子を放出するリスクを減らす意味もあります。M. pectiniferaは降水量をスイッチとしたSerotinyと言えるでしょう。
さて、論文ではサボテンのSerotinyは小型の球形サボテンで、現在25種類が確認されているそうです。Serotinyとされたのは、Mammillaria、Coryphantha、Dolichothele、Neobesseya、Echinocactus、Aztekium、Lophophora、Obregonia、Ariocarpus、Pelecyphoraに含まれていました。Serotinyはサボテンの中に、割と広く存在するようです。Mammillaria、Coryphantha、Obregonia、Pelecyphoraは遺伝的にも非常に近縁なため何となく分かりますが、それほど近縁ではなさそうなものもあります。乾燥に対する戦略として有効なため、分類群のあちこちで進化したのでしょうか? サボテン科全体の遺伝子解析は調べていないため断言出来ません。また、調べないといけないことが増えてしまいました。
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