ソテツは地球上で最も危機に瀕している植物グループと言われます。しかし、日本では国内産のソテツ(Cycas revoluta)が庭木や鉢植えとして一般的に利用されていますから、珍しいという感覚は持ちにくいかも知れませんが、海外では自生地の都市開発や違法採取によりソテツは急激に数を減らしています。本日は国際自然保護連合(IUCN)のソテツに対する評価と保護計画について書かれた2003年の『Status Survey and Conservation Action Plan, Cycad』より、ソテツの貿易と持続可能な利用についてまとめられた第7章、J. S. Donaldsonらの「Cycads in Trade and Sustainable Use of Cycad Population」をご紹介しましょう。
ソテツの利用
ソテツは各地で伝統的に利用されてきました。いくつかの文化では、おそらく先史時代からソテツは利用されています。また、有毒のソテツから食品を調製する技術を、異なる文化がそれぞれ独自に開発しました。
19世紀から20世紀にかけて、ソテツを取り巻く環境は激変しました。例えば、1845年頃からZamia integrifoliaからデンプンを抽出するために、フロリダに製粉所が設立され、週に8000〜12000本のZ. integrifoliaが採取されました。都市化による生息地の破壊と相まってZ. integrifoliaは激減し、ソテツの製粉産業は1925年までに完成に崩壊しました。同様にオーストラリアで1921年にMacrozamia communisを用いて操業を開始しましたが、こちらは技術的な理由で失敗しました。
Zamia integrifolia
(=Zamia floridana)
伝統医学や呪術のためのソテツの利用は様々な地域で続いており、人口増加により採取が激化しています。1994年の報告によると、南アフリカの2つの市場では毎月3000以上のStangeria eriopusが取引されていると言います。本来、農村部の人々は近隣に生えるソテツを利用しており、それは持続的に利用可能なものでした。しかし、ソテツを都市部に供給するために、人々が遠距離から採取に訪れるようになりました。
園芸植物としてのソテツ
1983年から1999年までに大量のCycasとBoweniaの葉が取引されました。これはフラワーアレンジメントでの使用で、主要な輸出国は日本でした。しかし、これは栽培植物由来のもので、野生植物に対する悪影響の証拠はありません。
20世紀のソテツの貿易パターンの劇的な変化は、園芸植物としての需要によりもたらされました。Cycas revolutaなどCycas属のソテツは、日本、中国、ベトナム、インドなどの国で、装飾用植物として何世紀にも渡り使用されてきました。しかし、都市造園やコレクターに由来する大規模な採取は、20世紀後半に発生しました。野生のソテツの採取が個体数の減少の主要な原因の1つと考えられていますが、その取引や野生植物への影響は分析されていません。
Cycas revoluta
造園用としてのソテツ
都市造園用として利用されるソテツは少なく、利用されるのは主にCycas revolutaとZamia furfuraceaです。C. revolutaは広く栽培されており、野生植物の採取はありません。Z. furfuraceaはメキシコで大量に採取され、月に40トンが米国に輸入されたという報告があります。しかし、現在はZ. furfuraceaはメキシコと米国で広く栽培されており、野生植物の採取は不必要かつ違法採取は逆に不経済となっています。また、Cycas taitungensisなどの種は、大規模な植栽により人気が高まっています。
ソテツは造園用植物として優れていますが、植栽用にはある程度の大きさある植物が求められます。栽培植物では需要に答えられないため、野生植物の市場が生まれています。中国では多数のCycas panzhihuaensisとCycas hongheensisが採取され、タイではCycas litoralisが採取されています。南アフリカではカジノ開発のために、植栽用に300本を超えるEncephalartos altensteiniiが採取されました。
また、都市部の庭師は必ずしも特定の種を探しているわけではないため、野生植物を採取したり、わざわざ野生由来の植物を探したりはしません。
Zamia furfuracea
ソテツ愛好家
植物のコレクターは、苗床から植物を購入し、他のコレクターと植物を交換し、愛好会などに入り植物や情報を交換します。コレクターはアクセス可能な地域のソテツの種子を採取したり、野生由来植物の可能性のある希少種を購入することはあるかも知れません。しかし、一般的にコレクターが珍しいソテツを探すために、それほどの時間とお金を費やすことはほとんどありません。
ただ、コレクションに多大な投資をしているコレクターもおり、野生由来の植物の取引に手を出していることもあります。しかし、野生植物の市場は犯罪シンジケートが関与しており、結果として組織犯罪に加担していることになります。
ソテツと貿易
1983年から1999年の貿易データによると、この期間中に5000万を超えるソテツの種子と、1300万の生きたソテツが、ワシントン条約(CITES)締結国から輸出されました。日本は最も重要なソテツの輸出国で、ソテツの種子輸出の90%近くを、生きたソテツの65%を占めています。C. revolutaとZ. furfuracea以外のソテツの取引は少ないものの、これは報告がされていないことによります。また、野生植物の少なさから考えると、かなり多くのEncephalartosが取引されています。現在でも絶滅危惧種のソテツが違法取引が続いており、CITESだけでは違法取引を食い止めることが出来ません。そのため、CITESは保全ツールの1つに過ぎないと見なさなければならず、合法的な取引のためにソテツの需要を満たすための行動が必要です。
ソテツの人工繁殖
ソテツを人工繁殖による大規模な商業生産することが可能ならば、ソテツの需要を人工繁殖したソテツで埋めることが出来るかも知れません。現在、種子繁殖が最も実用的な方法です。しかし、人工繁殖の場合、ソテツは雌雄異株であるため花の時期が合わなかったり、特定の花粉媒介者がいることなどから、種子が勝手に出来ません。最近の研究では、花粉は0℃で最大2年間は50%の生存率が維持出来ることが判明しており、雌雄の花が揃わなくても受粉が可能かも知れません。
最後に
以上が第7章の簡単な要約です。
ソテツはその減少が進行してしまっており、対策が急務です。すでに悠長にCITESに頼る段階ではないようです。サボテンや多肉植物では、趣味家たちはCITESは必要としながらも、CITESに物足りなさを感じているようです。趣味家たちは、珍しいサボテンや多肉植物の人工繁殖を積極的に行い、市場の需要を満たすことにより、野生植物の違法取引を減らせると考えています。しかし、ソテツでは趣味家ではなくIUCNが人工繁殖の推進を提唱しています。よくよく考えて見れば、この人工繁殖の推進はソテツの研究者により考えられたもののような気がします。なぜなら、ソテツの育て方や増やし方に関する論文がいくつも出されているからです。これは植物の研究としては珍しい部類ですね。
さて、ソテツの輸出の大半が日本からということでした。日本でCycas revolutaが庭木とされるのは、近年の流行ではなく、かなり昔からの話です。古い民家では、玄関先に背丈よりも高いC. revolutaが植えてあったりしますが、野生植物由来ではなく何十年もかけて大きくなったものです。そもそも、植木屋にはかなりの大きさのC. revolutaが植えられていますからね。ソテツはある程度のサイズになると脇芽が吹いてきますから、脇芽を発根させた鉢植えが沢山流通しています。日本ではC. revolutaはどこにでもあり、誰でも簡単に入手出来ますが、世界のソテツの希少性からすると珍しいことかも知れません。
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ソテツの利用
ソテツは各地で伝統的に利用されてきました。いくつかの文化では、おそらく先史時代からソテツは利用されています。また、有毒のソテツから食品を調製する技術を、異なる文化がそれぞれ独自に開発しました。
19世紀から20世紀にかけて、ソテツを取り巻く環境は激変しました。例えば、1845年頃からZamia integrifoliaからデンプンを抽出するために、フロリダに製粉所が設立され、週に8000〜12000本のZ. integrifoliaが採取されました。都市化による生息地の破壊と相まってZ. integrifoliaは激減し、ソテツの製粉産業は1925年までに完成に崩壊しました。同様にオーストラリアで1921年にMacrozamia communisを用いて操業を開始しましたが、こちらは技術的な理由で失敗しました。
Zamia integrifolia
(=Zamia floridana)
伝統医学や呪術のためのソテツの利用は様々な地域で続いており、人口増加により採取が激化しています。1994年の報告によると、南アフリカの2つの市場では毎月3000以上のStangeria eriopusが取引されていると言います。本来、農村部の人々は近隣に生えるソテツを利用しており、それは持続的に利用可能なものでした。しかし、ソテツを都市部に供給するために、人々が遠距離から採取に訪れるようになりました。
園芸植物としてのソテツ
1983年から1999年までに大量のCycasとBoweniaの葉が取引されました。これはフラワーアレンジメントでの使用で、主要な輸出国は日本でした。しかし、これは栽培植物由来のもので、野生植物に対する悪影響の証拠はありません。
20世紀のソテツの貿易パターンの劇的な変化は、園芸植物としての需要によりもたらされました。Cycas revolutaなどCycas属のソテツは、日本、中国、ベトナム、インドなどの国で、装飾用植物として何世紀にも渡り使用されてきました。しかし、都市造園やコレクターに由来する大規模な採取は、20世紀後半に発生しました。野生のソテツの採取が個体数の減少の主要な原因の1つと考えられていますが、その取引や野生植物への影響は分析されていません。
Cycas revoluta
造園用としてのソテツ
都市造園用として利用されるソテツは少なく、利用されるのは主にCycas revolutaとZamia furfuraceaです。C. revolutaは広く栽培されており、野生植物の採取はありません。Z. furfuraceaはメキシコで大量に採取され、月に40トンが米国に輸入されたという報告があります。しかし、現在はZ. furfuraceaはメキシコと米国で広く栽培されており、野生植物の採取は不必要かつ違法採取は逆に不経済となっています。また、Cycas taitungensisなどの種は、大規模な植栽により人気が高まっています。
ソテツは造園用植物として優れていますが、植栽用にはある程度の大きさある植物が求められます。栽培植物では需要に答えられないため、野生植物の市場が生まれています。中国では多数のCycas panzhihuaensisとCycas hongheensisが採取され、タイではCycas litoralisが採取されています。南アフリカではカジノ開発のために、植栽用に300本を超えるEncephalartos altensteiniiが採取されました。
また、都市部の庭師は必ずしも特定の種を探しているわけではないため、野生植物を採取したり、わざわざ野生由来の植物を探したりはしません。
Zamia furfuracea
ソテツ愛好家
植物のコレクターは、苗床から植物を購入し、他のコレクターと植物を交換し、愛好会などに入り植物や情報を交換します。コレクターはアクセス可能な地域のソテツの種子を採取したり、野生由来植物の可能性のある希少種を購入することはあるかも知れません。しかし、一般的にコレクターが珍しいソテツを探すために、それほどの時間とお金を費やすことはほとんどありません。
ただ、コレクションに多大な投資をしているコレクターもおり、野生由来の植物の取引に手を出していることもあります。しかし、野生植物の市場は犯罪シンジケートが関与しており、結果として組織犯罪に加担していることになります。
ソテツと貿易
1983年から1999年の貿易データによると、この期間中に5000万を超えるソテツの種子と、1300万の生きたソテツが、ワシントン条約(CITES)締結国から輸出されました。日本は最も重要なソテツの輸出国で、ソテツの種子輸出の90%近くを、生きたソテツの65%を占めています。C. revolutaとZ. furfuracea以外のソテツの取引は少ないものの、これは報告がされていないことによります。また、野生植物の少なさから考えると、かなり多くのEncephalartosが取引されています。現在でも絶滅危惧種のソテツが違法取引が続いており、CITESだけでは違法取引を食い止めることが出来ません。そのため、CITESは保全ツールの1つに過ぎないと見なさなければならず、合法的な取引のためにソテツの需要を満たすための行動が必要です。
ソテツの人工繁殖
ソテツを人工繁殖による大規模な商業生産することが可能ならば、ソテツの需要を人工繁殖したソテツで埋めることが出来るかも知れません。現在、種子繁殖が最も実用的な方法です。しかし、人工繁殖の場合、ソテツは雌雄異株であるため花の時期が合わなかったり、特定の花粉媒介者がいることなどから、種子が勝手に出来ません。最近の研究では、花粉は0℃で最大2年間は50%の生存率が維持出来ることが判明しており、雌雄の花が揃わなくても受粉が可能かも知れません。
最後に
以上が第7章の簡単な要約です。
ソテツはその減少が進行してしまっており、対策が急務です。すでに悠長にCITESに頼る段階ではないようです。サボテンや多肉植物では、趣味家たちはCITESは必要としながらも、CITESに物足りなさを感じているようです。趣味家たちは、珍しいサボテンや多肉植物の人工繁殖を積極的に行い、市場の需要を満たすことにより、野生植物の違法取引を減らせると考えています。しかし、ソテツでは趣味家ではなくIUCNが人工繁殖の推進を提唱しています。よくよく考えて見れば、この人工繁殖の推進はソテツの研究者により考えられたもののような気がします。なぜなら、ソテツの育て方や増やし方に関する論文がいくつも出されているからです。これは植物の研究としては珍しい部類ですね。
さて、ソテツの輸出の大半が日本からということでした。日本でCycas revolutaが庭木とされるのは、近年の流行ではなく、かなり昔からの話です。古い民家では、玄関先に背丈よりも高いC. revolutaが植えてあったりしますが、野生植物由来ではなく何十年もかけて大きくなったものです。そもそも、植木屋にはかなりの大きさのC. revolutaが植えられていますからね。ソテツはある程度のサイズになると脇芽が吹いてきますから、脇芽を発根させた鉢植えが沢山流通しています。日本ではC. revolutaはどこにでもあり、誰でも簡単に入手出来ますが、世界のソテツの希少性からすると珍しいことかも知れません。
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