近年、海外のソテツが販売されているのを、たまに目にします。よく見るのは、メキシコ周辺に分布するZamiaやDioonです。しかし、多肉植物の即売会ではEncephalartosも販売されていたりすることもあります。Encephalartosは希少かつ高額で、販売に制限があり、取引には国の許可が必要なソテツです。それほど一般的なソテツではないでしょう。国内で販売されるEncephalartosはE. horridusですが、Encephalartosは実は沢山の種類があります。本日はそんなEncephalartosの進化と分布について見てみましょう。参考とするのは、Ledile T. Mankgaらの2020年の論文、『On the origin and diversification history of the African genus Encephalartos』です。
Encephalartosは約65種類からなるアフリカの固有種です。しかし、Encephalartosのうち45種類はアフリカ南部に分布し、中央アフリカで5種類、西アフリカは1種類、北アフリカには分布しないなど、その分布には偏りがあります。この謎を解決するために、遺伝子解析と地理的な拡散の経路の分析を行いました。
以下の系統図は、遺伝子解析の結果から近縁な9グループの関係性を示します。ある程度、分布地域ごとにまとまりがあることが分かります。ちなみに、論文ではアフリカ西部とはベナン、ガーナ、ナイジェリアのギニア湾沿いの国で、アフリカ中央部とはコンゴ共和国、アフリカ東部とはタンザニア、ケニア、ウガンダ、スーダン、アフリカ南部とはザンビア、南アフリカ、モザンビーク、スワジランド、マラウイを指しています。
┏━━A
┏┫ (アフリカ中央部)
┃┗━━B
┏┫ (アフリカ東部等)
┃┗━━━C
┏┫ (アフリカ東部・南部)
┃┗━━━━D
┏┫ (アフリカ東部・南部)
┃┗━━━━━E(アフリカ南部)
┏┫
┃┗━━━━━━F(アフリカ南部)
┏┫
┃┗━━━━━━━G
┏┫ (アフリカ東部・南部)
┃┗━━━━━━━━H(アフリカ南部)
┫
┗━━━━━━━━━I(アフリカ南部)
それぞれのグループに含まれる、解析されたEncephalartosを示します。
グループA(アフリカ中央部原産)
E. marunguensis、E. schmitzii、E. poggei、E. schanijesii、E. laurentianus
グループB(アフリカ東部・西部・中央部原産)
E. equatorianus(アフリカ東部原産)、E. bubalinus(アフリカ東部原産)、E. barteri(アフリカ西部原産)、E. macrostrobilus(アフリカ東部原産)、E. ituriensis(アフリカ中央部原産)、E.whitelockii(アフリカ東部原産)、E. tegulaneus(アフリカ東部原産)、E. septentrionalis(アフリカ東部原産)
グループC(アフリカ東部・南部原産)
E. hildebrandtii(アフリカ東部原産)、E. sclavoi(アフリカ東部原産)、E. kisambo(アフリカ東部原産)、E. turneri(アフリカ南部原産)、E. gratus(アフリカ南部原産)
グループD(アフリカ東部・南部原産)
E. ferox(アフリカ南部原産)、E. mackenziei(アフリカ東部原産)
グループE(アフリカ南部原産)
E. manikensis、E. concinnus、E. chimanimaniensis、E. pterogonus、E. munchii、E. dolomiticus、E. nubimontanus、E. eugene-maraisii、E. dyerianus、E. cupidus、E. middleburgensis、E. cerinus
グループF(アフリカ南部原産)
E. inopinus、E. umbeluziensis、E. villosus、E. aplanatus、E. caffer、E.ngoyanus
Encephalartos caffer
「Tijdschrift voor natuurlijke geschiedenis en physiologie」(1838年)より。Encephalartos brachyphyllusとして記載。
グループG(アフリカ南部・東部原産)
E. hirsutus(アフリカ南部原産)、E. delucanus(アフリカ東部原産原産)
グループH(アフリカ南部原産)
E. paucidentatus、E. heenanii、E. lebomboensis、E. aemulans、E. senticosus、E. relictus、E. transvenosus、E. natalensis、E. msinganus、E. woodii、E. altensteinii、E. lehmannii、E. latifrons、E. arenarius、E. horridus、E. trispinosus、E. princeps、E. longifolius
Encephalartos horridus(左下)
「Tijdschrift voor natuurlijke geschiedenis en physiologie」(1838年)より。Encephalartos nanusとして記載。
グループI(アフリカ南部原産)
E. ghellinckii、E. humillis、E. leavifolius、E. brevifoliolatus(絶滅種)、E. lanatus、E. friederici-guilielm、E. cycadifolius
以上が論文の簡単な要約となります。
実際に論文では、分岐年代などを考察していますが、ここでは割愛させていただきます。
さて、系統図を見ると、アフリカ南部がEncephalartosの起源地に見えます。アフリカ南部からアフリカ東部、アフリカ東部からアフリカ中央部とアフリカ西部という道筋をたどりながら進化したのかも知れません。
過去の遺伝子解析の結果からは、不思議なことにEncephalartosは同じアフリカ大陸原産のStangeriaに近縁ではありません。むしろ、Encephalartosはオーストラリア原産のLepidozamia、Macrozamia、Boweniaに近縁です。おそらく、アフリカ大陸とオーストラリアが繋がっていた時に、共通祖先が伝播したのでしょう。ペルム紀から三畳紀にかけて存在したパンゲア大陸では、南極大陸をはさんでアフリカ大陸とオーストラリアがありました。南極大陸からも植物の化石が見つかっていますが、Encephalartosとオーストラリアのソテツの共通祖先の化石が見つかっているのか気になるところです。それはそうと、アフリカ大陸と南極大陸の結合部は、現在のアフリカ南部であることも何やら意味深です。
ソテツの進化と伝播はどのような筋道を辿ったのでしょうか? これからも関係ありそうな論文を読んでいくつもりです。良い論文がありましたら、ご紹介出来ればと考えております。
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Encephalartosは約65種類からなるアフリカの固有種です。しかし、Encephalartosのうち45種類はアフリカ南部に分布し、中央アフリカで5種類、西アフリカは1種類、北アフリカには分布しないなど、その分布には偏りがあります。この謎を解決するために、遺伝子解析と地理的な拡散の経路の分析を行いました。
以下の系統図は、遺伝子解析の結果から近縁な9グループの関係性を示します。ある程度、分布地域ごとにまとまりがあることが分かります。ちなみに、論文ではアフリカ西部とはベナン、ガーナ、ナイジェリアのギニア湾沿いの国で、アフリカ中央部とはコンゴ共和国、アフリカ東部とはタンザニア、ケニア、ウガンダ、スーダン、アフリカ南部とはザンビア、南アフリカ、モザンビーク、スワジランド、マラウイを指しています。
┏━━A
┏┫ (アフリカ中央部)
┃┗━━B
┏┫ (アフリカ東部等)
┃┗━━━C
┏┫ (アフリカ東部・南部)
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┏┫ (アフリカ東部・南部)
┃┗━━━━━E(アフリカ南部)
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┃┗━━━━━━F(アフリカ南部)
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┏┫ (アフリカ東部・南部)
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┗━━━━━━━━━I(アフリカ南部)
それぞれのグループに含まれる、解析されたEncephalartosを示します。
グループA(アフリカ中央部原産)
E. marunguensis、E. schmitzii、E. poggei、E. schanijesii、E. laurentianus
グループB(アフリカ東部・西部・中央部原産)
E. equatorianus(アフリカ東部原産)、E. bubalinus(アフリカ東部原産)、E. barteri(アフリカ西部原産)、E. macrostrobilus(アフリカ東部原産)、E. ituriensis(アフリカ中央部原産)、E.whitelockii(アフリカ東部原産)、E. tegulaneus(アフリカ東部原産)、E. septentrionalis(アフリカ東部原産)
グループC(アフリカ東部・南部原産)
E. hildebrandtii(アフリカ東部原産)、E. sclavoi(アフリカ東部原産)、E. kisambo(アフリカ東部原産)、E. turneri(アフリカ南部原産)、E. gratus(アフリカ南部原産)
グループD(アフリカ東部・南部原産)
E. ferox(アフリカ南部原産)、E. mackenziei(アフリカ東部原産)
グループE(アフリカ南部原産)
E. manikensis、E. concinnus、E. chimanimaniensis、E. pterogonus、E. munchii、E. dolomiticus、E. nubimontanus、E. eugene-maraisii、E. dyerianus、E. cupidus、E. middleburgensis、E. cerinus
グループF(アフリカ南部原産)
E. inopinus、E. umbeluziensis、E. villosus、E. aplanatus、E. caffer、E.ngoyanus
Encephalartos caffer
「Tijdschrift voor natuurlijke geschiedenis en physiologie」(1838年)より。Encephalartos brachyphyllusとして記載。
グループG(アフリカ南部・東部原産)
E. hirsutus(アフリカ南部原産)、E. delucanus(アフリカ東部原産原産)
グループH(アフリカ南部原産)
E. paucidentatus、E. heenanii、E. lebomboensis、E. aemulans、E. senticosus、E. relictus、E. transvenosus、E. natalensis、E. msinganus、E. woodii、E. altensteinii、E. lehmannii、E. latifrons、E. arenarius、E. horridus、E. trispinosus、E. princeps、E. longifolius
Encephalartos horridus(左下)
「Tijdschrift voor natuurlijke geschiedenis en physiologie」(1838年)より。Encephalartos nanusとして記載。
グループI(アフリカ南部原産)
E. ghellinckii、E. humillis、E. leavifolius、E. brevifoliolatus(絶滅種)、E. lanatus、E. friederici-guilielm、E. cycadifolius
以上が論文の簡単な要約となります。
実際に論文では、分岐年代などを考察していますが、ここでは割愛させていただきます。
さて、系統図を見ると、アフリカ南部がEncephalartosの起源地に見えます。アフリカ南部からアフリカ東部、アフリカ東部からアフリカ中央部とアフリカ西部という道筋をたどりながら進化したのかも知れません。
過去の遺伝子解析の結果からは、不思議なことにEncephalartosは同じアフリカ大陸原産のStangeriaに近縁ではありません。むしろ、Encephalartosはオーストラリア原産のLepidozamia、Macrozamia、Boweniaに近縁です。おそらく、アフリカ大陸とオーストラリアが繋がっていた時に、共通祖先が伝播したのでしょう。ペルム紀から三畳紀にかけて存在したパンゲア大陸では、南極大陸をはさんでアフリカ大陸とオーストラリアがありました。南極大陸からも植物の化石が見つかっていますが、Encephalartosとオーストラリアのソテツの共通祖先の化石が見つかっているのか気になるところです。それはそうと、アフリカ大陸と南極大陸の結合部は、現在のアフリカ南部であることも何やら意味深です。
ソテツの進化と伝播はどのような筋道を辿ったのでしょうか? これからも関係ありそうな論文を読んでいくつもりです。良い論文がありましたら、ご紹介出来ればと考えております。
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