美しい花は我々を楽しませてくれますが、中には地味で奇妙な花を咲かせる植物も存在します。基本的に花は昆虫などの花粉媒介者へのアピールですから、それなりに目立つものが多いのです。では、地味は色合いの花にはどのような意味があるのでしょうか?
日があまり当たらない森林の林床には、肉色(腐肉)と評される、赤黒い花を咲かせる植物がいくつかあります。代表的なのはラフレシアで、腐臭を出してハエを誘っていると言われています。ラフレシアは割と明るい色合いですが、Bulbophyllum属(着生ラン)、Brachystelma属(ガガイモ科の塊根植物)、Aristolochia属(ウマノスズクサ属、ツル性)の中には、暗い色合いの花を咲かせるものが多いようです。神代植物公園に行った折、大温室でAristolochiaの不思議な花を見ることが出来ました。このAristolochiaはやはりハエを呼び受粉するタイプの植物で、中には訪れたハエを閉じ込める罠を持つものもあるそうです。しかし、調べるうちに、ハエと面白い関係を結んだAristolochiaがあるという論文を見つけました。それは、Shoko Skaiの2002年の論文、『Aristolochia spp. (Aristolochiaceae) Pollinated by files breeding on decomposting flower in Panama』です。
Aristolochia gigantea(神代植物公園)
人の顔くらいある巨大の花です。例によって肉色の花。Aristolochiaは、種類によって柑橘系だったり腐敗臭だったりと、様々な臭いで昆虫を呼びます。
この研究はパナマの乾季の森林で実施されました。観察したのは、Aristolochia maximaとAristolochia inflataです。A. maximaはフロリダ南部からパナマまで、A. infataはメキシコ南部からパナマまでに分布します。調査地では高さ10〜30mの高さで開花しました。A. maximaの花の一部は低い幹にもつきました。
A. maximaの花に訪れる昆虫の53%がMegaselia sakaieというハエで、そのうち99.7%がメスでした。19%は数種類のショウジョウバエで、そのうち58%はメスでした。訪れたハエは、花の蜜をなめる様子が観察されました。A. inflataを訪れたハエはM. sakaieのみで、すべてメスでした。ハエが花に訪れて数日後にM. sakaieの幼虫が現れ、腐った花を食べながら育ちました。
A. inflataの主要な花粉媒介者はM. sakaieですが、A. maximaは異なるようです。A. maximaの花を訪れたM. sakaieを調べると、非常に少数の花粉しか付着していませんでした。これは、M. sakaieの花を訪れてからの行動の違いによると考えられます。A. maximaの花粉媒介者はショウジョウバエである可能性がありますが、少数ですが花に来る甲虫も受粉に関与するかも知れません。
花粉媒介者はA. maximaやA. inflataの花を訪れるのは、おそらくは臭いと花の色によると思われます。Aristolochiaに関する研究のほとんどが、Aristolochiaは腐肉臭や糞便臭、キノコ臭などを模倣し、花粉媒介者のハエが騙されて花を訪れると説明しています。ハエに対するA. maximaやA. inflataの報酬は、蜜と繁殖場所の提供です。他の種類のAristolochiaでは、ハエを閉じ込めるものもあり、場合によってハエは閉じ込められたまま死んでしまうこともあります。この場合の花の蜜は花の外にあり、閉じ込められたハエの食糧にはなりません。蜜はハエをおびき寄せるためのものだからです。しかし、A. maximaやA. inflataは、ハエを閉じ込めずに蜜を与えます。これは、ハエの産卵に必要である可能性があります。ほぼメスしか訪れないM. sakaieとは対照的に、ショウジョウバエはオスも訪れます。これは、A. maximaの花が産卵だけではなく、交尾の場所でもあるからかも知れません。ハエを罠に掛けるAristolochiaより、A. maximaやA. inflataはより進んだ共生関係を示しているのかも知れません。
Aristolochia spp.
『Monatsberichte der Koniglichen Preussische Akademie des Wissenschaften zu Berlin』(1859年)より。
以上が論文の簡単な要約です。
ハエは報酬の蜜と産卵場所のために、2種類のAristolochiaの花を訪れます。Aristolochiaからしたら、蜜だけではなく産卵行動まで含めて、滞在時間を増やして受粉率を上げているのかも知れません。特にA. inflataは、花にM. sakaieしか訪れていないことから、より深く共生関係を結んでいるようです。このような関係が進めば、やがて植物と花粉媒介者が互いに不可欠な存在となる絶対共生となるのかも知れませんね。
しかし、花を食べさせるという特殊な関係が結ばれていることに改めて驚かされます。しかし、A.maximaの花は赤褐色でいかにもハエを呼び寄せそうな花色ですが、A. inflataの花は黄色です。個人的にはこの点が気になります。M. sakaieは黄色に強く引き寄せられたりするのでしょうか? とても不思議です。
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日があまり当たらない森林の林床には、肉色(腐肉)と評される、赤黒い花を咲かせる植物がいくつかあります。代表的なのはラフレシアで、腐臭を出してハエを誘っていると言われています。ラフレシアは割と明るい色合いですが、Bulbophyllum属(着生ラン)、Brachystelma属(ガガイモ科の塊根植物)、Aristolochia属(ウマノスズクサ属、ツル性)の中には、暗い色合いの花を咲かせるものが多いようです。神代植物公園に行った折、大温室でAristolochiaの不思議な花を見ることが出来ました。このAristolochiaはやはりハエを呼び受粉するタイプの植物で、中には訪れたハエを閉じ込める罠を持つものもあるそうです。しかし、調べるうちに、ハエと面白い関係を結んだAristolochiaがあるという論文を見つけました。それは、Shoko Skaiの2002年の論文、『Aristolochia spp. (Aristolochiaceae) Pollinated by files breeding on decomposting flower in Panama』です。
Aristolochia gigantea(神代植物公園)
人の顔くらいある巨大の花です。例によって肉色の花。Aristolochiaは、種類によって柑橘系だったり腐敗臭だったりと、様々な臭いで昆虫を呼びます。
この研究はパナマの乾季の森林で実施されました。観察したのは、Aristolochia maximaとAristolochia inflataです。A. maximaはフロリダ南部からパナマまで、A. infataはメキシコ南部からパナマまでに分布します。調査地では高さ10〜30mの高さで開花しました。A. maximaの花の一部は低い幹にもつきました。
A. maximaの花に訪れる昆虫の53%がMegaselia sakaieというハエで、そのうち99.7%がメスでした。19%は数種類のショウジョウバエで、そのうち58%はメスでした。訪れたハエは、花の蜜をなめる様子が観察されました。A. inflataを訪れたハエはM. sakaieのみで、すべてメスでした。ハエが花に訪れて数日後にM. sakaieの幼虫が現れ、腐った花を食べながら育ちました。
A. inflataの主要な花粉媒介者はM. sakaieですが、A. maximaは異なるようです。A. maximaの花を訪れたM. sakaieを調べると、非常に少数の花粉しか付着していませんでした。これは、M. sakaieの花を訪れてからの行動の違いによると考えられます。A. maximaの花粉媒介者はショウジョウバエである可能性がありますが、少数ですが花に来る甲虫も受粉に関与するかも知れません。
花粉媒介者はA. maximaやA. inflataの花を訪れるのは、おそらくは臭いと花の色によると思われます。Aristolochiaに関する研究のほとんどが、Aristolochiaは腐肉臭や糞便臭、キノコ臭などを模倣し、花粉媒介者のハエが騙されて花を訪れると説明しています。ハエに対するA. maximaやA. inflataの報酬は、蜜と繁殖場所の提供です。他の種類のAristolochiaでは、ハエを閉じ込めるものもあり、場合によってハエは閉じ込められたまま死んでしまうこともあります。この場合の花の蜜は花の外にあり、閉じ込められたハエの食糧にはなりません。蜜はハエをおびき寄せるためのものだからです。しかし、A. maximaやA. inflataは、ハエを閉じ込めずに蜜を与えます。これは、ハエの産卵に必要である可能性があります。ほぼメスしか訪れないM. sakaieとは対照的に、ショウジョウバエはオスも訪れます。これは、A. maximaの花が産卵だけではなく、交尾の場所でもあるからかも知れません。ハエを罠に掛けるAristolochiaより、A. maximaやA. inflataはより進んだ共生関係を示しているのかも知れません。
Aristolochia spp.
『Monatsberichte der Koniglichen Preussische Akademie des Wissenschaften zu Berlin』(1859年)より。
以上が論文の簡単な要約です。
ハエは報酬の蜜と産卵場所のために、2種類のAristolochiaの花を訪れます。Aristolochiaからしたら、蜜だけではなく産卵行動まで含めて、滞在時間を増やして受粉率を上げているのかも知れません。特にA. inflataは、花にM. sakaieしか訪れていないことから、より深く共生関係を結んでいるようです。このような関係が進めば、やがて植物と花粉媒介者が互いに不可欠な存在となる絶対共生となるのかも知れませんね。
しかし、花を食べさせるという特殊な関係が結ばれていることに改めて驚かされます。しかし、A.maximaの花は赤褐色でいかにもハエを呼び寄せそうな花色ですが、A. inflataの花は黄色です。個人的にはこの点が気になります。M. sakaieは黄色に強く引き寄せられたりするのでしょうか? とても不思議です。
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