最近、イベントや園芸店でウチワサボテンを以前より目にするようになりました。流通の兆しでしょうか? 思うにゲオメトリクスや武蔵野などのテフロカクタスが先鞭をつけたような気もします。しかし、ウチワサボテンの仲間はよく似ており、見分けるのは中々困難です。ただし、新しい枝を重ねる特徴から一目でウチワサボテンと分かります。
ウチワサボテンはOpuntia属とされてきましたが、やがていくつかの属が独立しました。しかし、ここいら辺の事情はよく分かりませんから、少しずつ調べてみることにしました。本日はウチワサボテンの分類について書かれた、Matias Kohlerらの2021年の論文、『"That's Opuntia, that was!", again: a new combination for an old and enigmatic Opuntia s. l. (Cactaceae)』をご紹介します。

Opuntia schickendantziiは、Catamarca & Tucumanの資料に基づいて1898年に記載された古くて謎めいた種で、Cylindropuntia亜属とされました。種の説明は、アルゼンチン北西部の山岳地帯とボリビアに沿って分布している、緑色で光沢のある枝、トゲのあるアレオーレ、エメラルドグリーンの柱頭を持つ黄色の花などの特徴で示されました。命名後は形態学的特徴から、Cylindropuntia属、Austrocylindropuntia属、Salmiopuntia属で暫定的に扱われました。しばしば、「地位が不確定(incertae sedis)」とされました。

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Opuntia schickendantzii
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より


2012年に遺伝子解析によりO. schickendantziiがBrasiliopuntiaのグループであることが示され、2014年にBrasiliopuntia schickendantziiが提案されました。しかし、地理的にO. schickendantziiとBrasiliopuntiaを結びつける形態学的特徴はありません。さらに、研究で使用された資料は、アリゾナのBoyce Thompson樹木園の「Lion's Tongue」と呼ばれる栽培された個体由来であることが判明しました。

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Brasiliopuntia brasiliensis
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より


著者らは2006年から2019年にかけて、南アメリカ南部の主要な生態地域を網羅するフィールドワークを実施しました。採取されたウチワサボテンの遺伝子を解析しました。解析結果を以下に示します。

               ┏━━━━Opuntia spp.
               ┃
           ┏┫        ┏━Tacinga spp.

           ┃┗━━┫

           ┃            ┗━Brasiliopuntia brasiliensis
           ┃
           ┃                ┏S. salminiana1
           ┃            ┏┫
           ┃            ┃┗S. salminiana2
           ┃        ┏┫
           ┃        ┃┗━S. salminiana3
           ┃       

           ┃    ┏┫┏━O. schickendantzii
           ┃   
┃┗┫
           ┃   
┃    ┗━S. salminiana4
           ┃
┏┫
       ┏┫┃┗━━━Tunilla spp.           
       ┃┗┫
       ┃    ┗━━━━Miquelliopuntia miquelii
   ┏┫
   ┃┗━━━━━━Consolea
   ┫ 
   ┗━━━━━━━Out group


※「spp.」とは複数種を含むという意味です。

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Salmiopuntia salminiana
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より

遺伝子解析の結果から分かったことは、O. schickendantziiはSalmiopuntiaに含まれるということです。さらに、4つの産地から採取したSalmiopuntia salminianaは3個体はまとまりがありましたが、1つの個体はO. schickendantziiと近縁でした。
ちなみに、2012年に解析された「Lion's Tongue」は、Brasiliopuntiaに含まれることが分かりました。このBoyce Thompson樹木園のウチワサボテンは野生のO. schickendantziiと比較した結果、特徴がまったく異なることが明らかになりました。このタイプのウチワサボテンは栽培されたものが世界中で野生化しており、オーストラリアやスペインなどでも誤ってO. schickendantziiの名前で報告されています。このウチワサボテンは「Lion's Tongue」という名前で市販されていますが、起源は不明であり交配種である可能性もあります。


以上が論文の簡単な要約です。
この論文は、あまり情報がないOpuntia schickendantziiがSalmiopuntiaに属するということを示したものです。このように、少しずつ研究は進んでいます。形態学的な分類から遺伝学的な分類に徐々に移行しつつあります。Opuntiaは分解され、現在のウチワサボテンはOpuntia sensu stricto(狭義のOpuntia)となっています。ウチワサボテンの仲間全体は今どうなっているのでしょうか? これからも、徐々に調べていくつもりです。



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