Rhipsalisというサボテンがありますが、サボテンファンにはあまり人気がないかも知れません。Rhipsalisは熱帯性のサボテンで、多湿な環境で樹木に着生して垂れ下がるように育ったりします。栽培環境からすると、洋蘭や食虫植物の栽培と相性が良いかも知れません。私も沢山の種類があることくらいは知っていますが、イマイチ興味が持てないでいました。しかし、詳細不明であったRhipsalisの1種が近年再発見されたと知り、それ自体が大変喜ばしいことですから、ぜひご紹介したいと思った次第です。ご紹介したいのは、Weverson Cavalcante Cardosoらの2021年の論文、『Rediscovering Rhipsalis hoelleri (Cactaceae), a Critically Endangered species from Brazilian Atlantic Forest』です。

1995年に記載
Rhipsalis hoelleriはブラジルのEspirito Santo州に固有の着生サボテンです。カーマインの花により他のRhipsalisとは区別されます。R. hoelleriは1987年に採取され、ドイツのボン大学の植物園に収容された栽培標本に基づき1995年に記載されました。しかし、その正確な生息地などの情報は不明であり、保全状況は評価出来ませんでした。

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Rhipsalis

新しい分布地域
著者らの調査により、R. hoelleriの分布地域を拡大することが出来ました。観察されたのは、CasteloのForno Grande州立公園、Domingos MartinsのPedra Azul州立公園、Santana Maria de JetibaのPedra do Garrafao、Santa Lucia Biological Station、Augusto Ruschi生物保護区、Santa Teresaの私有地内の森林、Morro de Sao Carlos、Vergem Altaの保護されていない地域でした。

多様性
新種として記載された情報と、新しく発見された地域の個体を比較すると、ある程度のばらつきがあり多様性があることが分かりました。花の直径は10mmとされていましたが、観察された個体は8.5〜15mmでした。この変異は、他のRhipsalisでも確認されている一般的な特徴です。花色にも変化があり、カーマインから鮮紅色(Cerise)、深紅色まで様々でした。果実の色は濃いトマトレッドで不透明とされてきましたが、ピンク色で光沢のある果実も観察されました。また、栽培していると、トマトレッドからオレンジ色まで変化することが報告されており、果実の色では種の判別は出来ない可能性があります。

生態
R. hoelleriはブラジルの春である9月から11月の間に咲きます。ヨーロッパでも同じ季節に開花することが報告されています。また、夏にあたる2月下旬に稀に開花することもあるようです。果実は成熟に6ヶ月かかると言われています。

保全状況
R. hoelleriは多くの場合、inselberg(※)に関連する特異性の高い小さな亜集団からなります。発生範囲(EOO)は1578平方キロメートルと推定され、占有面積(AOO)は36平方キロメートルであり、どちらも絶滅危惧種の閾値を下回ります。亜集団は5〜7で個体数ら少なく、観察された個体数から250個体未満と推定されました。成熟個体は多くても10個体、多くは5個体未満で、集団がひどく断片化されてしまっています。IUCNレッドリストでは絶滅危惧IA(CR)に相当します。

(※) inselbergとは、地形の侵食により露出した花崗岩や片麻岩などでできた孤立した岩の丘のことです。

以上が論文の簡単な要約です。
このような分布が狭く個体数が少ない植物は、絶滅の可能性について評価される前に、開発などで絶滅してしまうことは珍しいことではありません。保全活動において、植物は動物と比べて軽視される傾向があり、保全状況や個体数などの基本的な情報すら不明なものが大半です。しかし、そのための資金も動物に偏っており、希少な植物の調査は難しい現状があります。動物並みに調査や保全が行われて欲しいところです。でもまあ、調査が実施されただけ良かったとは思います。



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