烏羽玉(Lophophora williamsii)は幻覚作用を持つアルカロイドを含み、その成分は法律で禁止されている国が多いようです。一般的にペヨーテ(Peyote)と呼ばれていますから、ここではペヨーテと呼ぶことにします。ところで、歴史的にその幻覚作用が宗教的に利用されてきた経緯から、アメリカ合衆国ではペヨーテの宗教的利用が許可されています。アメリカ合衆国でもペヨーテの幻覚成分は規制物質ですが、宗教的に許可されたその経緯とはどのようなものでしょうか。本日は、その経緯を辿ったMartin Terry & Keeper Troutの2017年の論文、『Regulation of Peyote (Lophophora williamsii: Cactaceae) in the U.S.A.: A historical victory of region and politics over science and medicine』をご紹介します。

Lophophora williamsii
Anhalonium williamsiiとして記載。
『Gartenflora』(1888年)より
ペヨーテはメキシコとテキサス州の国境地帯のチワワ砂漠とTamaulipan Thornscrub地域に自生します。少なくとも6000年前に人が利用したとされます。現在、アメリカ先住民教会(NAC)におけるペヨーテの利用が行われています。
アメリカ合衆国では、アメリカインディアンによるペヨーテの使用は部族以外にはほとんど知られていませんでしたが、1人のインディアン局の職員により1912年に公表され、デモナイズ(悪しき者として、demonize)されました。それは、大麻が1930年代と1940年代に単独の個人により激しくデモナイズされた時と同じ方法でした。1954年にAldous Huxleyが『The Doors of Perception(知覚の扉)』を出版し、1955年にBeat GenerationはPeyoteの主要なアルカロイドであるメスカリンの精神活性効果を発見しました。
1960年代、1970年代に、ヒッピーを含む新しいカウンターカルチャーがあらわれました。古い価値観とは異なる若者たちの主張で、音楽や文学でも表現されました。カウンターカルチャーでは向精神薬なども利用されました。1960年代にペヨーテの規制に力がかかるようになりました。当時の状況を整理すると、まずカウンターカルチャーによる薬物に対する開放性や、ベトナム戦争における米兵の間での大麻や阿片の使用により、一般的に薬物使用が増加しました。次にペヨーテがアメリカ先住民以外に侵略され始めました。1990年代には、好ましいサイズのペヨーテの不足が気付かれ始めました。このペヨーテの不足は、NAC以外の人を式典に招待することが難しくなりました。米国麻薬取締局(DEA)による、許可されたペヨーテの使用の定義を狭める可能性があるという発表により、それはより悪化しました。
薬物による幻覚作用について、主流文化とカウンターカルチャーの間のギャップが拡大しました。1970年の規制物質法(CSA)は、薬物問題の主流文化側からの解決策でした。しかし、CSAはペヨーテを規制物質としてしまいました。米国議会は薬物問題の解決に関心があり、先住民の使用の正当性を認証せずにペヨーテを幻覚剤としました。
NACが1918年に設立されて以来、ペヨーテを合法的に使用して来ました。しかし、20世紀初頭にはペヨーテ宗教に対する禁止主義者や宗教的反対者により、激しいロビー活動が行われていました。先住民は何年にも渡りいくつか議会で主張を繰り返し、1944年のアメリカインディアン宗教自由法改正(AIRFAA)によりペヨーテの使用を禁止すべきではないということになりました。
しかし、議会は長い間、ペヨーテを中毒性が高いと見なしていました。しかし、ペヨーテに中毒性があるという主張は科学的に立証されていません。現実的には、ペヨーテを使用する儀式は連続して行われません。ペヨーテの使用頻度は多くて週1回、ほとんどのNACのメンバーは月1回かそれ以下です。このようにペヨーテの使用頻度は低く、日常的に繰り返して使用される中毒性薬物とは異なります。また、ペヨーテを
用いて定期的に儀式を行っているNACのメンバーに対する研究が行われ、神経毒性や認知障害は引き起こされていないことが確認されました。また、ペヨーテ中毒者の治療は行われたことはありません。
米国社会では、大麻はペヨーテよりはるかに良く知られており、広く使用されています。アメリカ人の49%が大麻を経験していますが、ペヨーテは約2%に過ぎません。大麻と異なり、ペヨーテは海外輸出用の観賞用植物として小規模に栽培されているだけです。ペヨーテは種子の播種から収穫まで約10年かかり、商業的な利益は少なく、ペヨーテの安全性や医学的用途のための研究は不足しています。メキシコではリウマチの痛み止めとして、局所チンキや軟膏が広く使用されています。
以上が論文の簡単な要約です。
宗教的な文脈とはいえ、幻覚成分を含むペヨーテの合法性を擁護する論文です。しかし、著者らが指摘するように、ペヨーテは大量生産が難しく時間がかかり、金にならないため、流行することはなさそうです。ペヨーテの幻覚成分はある程度のサイズにならないと蓄積しないため、効率が非常に悪いと言えます。
さて、日本ではペヨーテは規制されておりませんが、その成分は規制の対象です。つまり、ペヨーテから成分を抽出したら違法となります。とはいえ、日本にはペヨーテを利用する習慣はありませんから、特に問題にほならないのでしょう。こういうものは、基本的に文化に根ざしたものです。例えば酒は日本でも非常に長い歴史があり、日本特有の文化と文脈があります。しかし、例えば大麻などは日本に大麻文化がないため、その合法化は難しいかも知れません。それを利用するに際してのTPOがまったく存在しないため、濫用されるだろうことは想像に難くありません。慣習は文化が規定するため、文化がなければ社会の一部にはなりません。現在の日本の大麻解禁に関する話は文化を無視しており、他人への理解を求めるようなものではありません。現状の攻撃的で個人主義的な主張からは、とても大麻解禁を求める声が多数派になることは考えにくいことでしょう。
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Anhalonium williamsiiとして記載。
『Gartenflora』(1888年)より
ペヨーテはメキシコとテキサス州の国境地帯のチワワ砂漠とTamaulipan Thornscrub地域に自生します。少なくとも6000年前に人が利用したとされます。現在、アメリカ先住民教会(NAC)におけるペヨーテの利用が行われています。
アメリカ合衆国では、アメリカインディアンによるペヨーテの使用は部族以外にはほとんど知られていませんでしたが、1人のインディアン局の職員により1912年に公表され、デモナイズ(悪しき者として、demonize)されました。それは、大麻が1930年代と1940年代に単独の個人により激しくデモナイズされた時と同じ方法でした。1954年にAldous Huxleyが『The Doors of Perception(知覚の扉)』を出版し、1955年にBeat GenerationはPeyoteの主要なアルカロイドであるメスカリンの精神活性効果を発見しました。
1960年代、1970年代に、ヒッピーを含む新しいカウンターカルチャーがあらわれました。古い価値観とは異なる若者たちの主張で、音楽や文学でも表現されました。カウンターカルチャーでは向精神薬なども利用されました。1960年代にペヨーテの規制に力がかかるようになりました。当時の状況を整理すると、まずカウンターカルチャーによる薬物に対する開放性や、ベトナム戦争における米兵の間での大麻や阿片の使用により、一般的に薬物使用が増加しました。次にペヨーテがアメリカ先住民以外に侵略され始めました。1990年代には、好ましいサイズのペヨーテの不足が気付かれ始めました。このペヨーテの不足は、NAC以外の人を式典に招待することが難しくなりました。米国麻薬取締局(DEA)による、許可されたペヨーテの使用の定義を狭める可能性があるという発表により、それはより悪化しました。
薬物による幻覚作用について、主流文化とカウンターカルチャーの間のギャップが拡大しました。1970年の規制物質法(CSA)は、薬物問題の主流文化側からの解決策でした。しかし、CSAはペヨーテを規制物質としてしまいました。米国議会は薬物問題の解決に関心があり、先住民の使用の正当性を認証せずにペヨーテを幻覚剤としました。
NACが1918年に設立されて以来、ペヨーテを合法的に使用して来ました。しかし、20世紀初頭にはペヨーテ宗教に対する禁止主義者や宗教的反対者により、激しいロビー活動が行われていました。先住民は何年にも渡りいくつか議会で主張を繰り返し、1944年のアメリカインディアン宗教自由法改正(AIRFAA)によりペヨーテの使用を禁止すべきではないということになりました。
しかし、議会は長い間、ペヨーテを中毒性が高いと見なしていました。しかし、ペヨーテに中毒性があるという主張は科学的に立証されていません。現実的には、ペヨーテを使用する儀式は連続して行われません。ペヨーテの使用頻度は多くて週1回、ほとんどのNACのメンバーは月1回かそれ以下です。このようにペヨーテの使用頻度は低く、日常的に繰り返して使用される中毒性薬物とは異なります。また、ペヨーテを
用いて定期的に儀式を行っているNACのメンバーに対する研究が行われ、神経毒性や認知障害は引き起こされていないことが確認されました。また、ペヨーテ中毒者の治療は行われたことはありません。
米国社会では、大麻はペヨーテよりはるかに良く知られており、広く使用されています。アメリカ人の49%が大麻を経験していますが、ペヨーテは約2%に過ぎません。大麻と異なり、ペヨーテは海外輸出用の観賞用植物として小規模に栽培されているだけです。ペヨーテは種子の播種から収穫まで約10年かかり、商業的な利益は少なく、ペヨーテの安全性や医学的用途のための研究は不足しています。メキシコではリウマチの痛み止めとして、局所チンキや軟膏が広く使用されています。
以上が論文の簡単な要約です。
宗教的な文脈とはいえ、幻覚成分を含むペヨーテの合法性を擁護する論文です。しかし、著者らが指摘するように、ペヨーテは大量生産が難しく時間がかかり、金にならないため、流行することはなさそうです。ペヨーテの幻覚成分はある程度のサイズにならないと蓄積しないため、効率が非常に悪いと言えます。
さて、日本ではペヨーテは規制されておりませんが、その成分は規制の対象です。つまり、ペヨーテから成分を抽出したら違法となります。とはいえ、日本にはペヨーテを利用する習慣はありませんから、特に問題にほならないのでしょう。こういうものは、基本的に文化に根ざしたものです。例えば酒は日本でも非常に長い歴史があり、日本特有の文化と文脈があります。しかし、例えば大麻などは日本に大麻文化がないため、その合法化は難しいかも知れません。それを利用するに際してのTPOがまったく存在しないため、濫用されるだろうことは想像に難くありません。慣習は文化が規定するため、文化がなければ社会の一部にはなりません。現在の日本の大麻解禁に関する話は文化を無視しており、他人への理解を求めるようなものではありません。現状の攻撃的で個人主義的な主張からは、とても大麻解禁を求める声が多数派になることは考えにくいことでしょう。
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