植物と昆虫は非常に複雑かつ密接な関係を結んでいます。蝶や蛾の幼虫は植物を食害しますが、成虫は受粉に重要な役目を果たしたりもします。植物との関係においては、蟻に勝る高度な関係性はあまりないかも知れません。ということで、本日の議題は植物と蟻の関係についてです。
蟻は植物を食害する昆虫を捕えたりするため、植物に対してポジティブに働くこともあります。中にはアリ植物という、蟻に住処やエサを与える植物も存在し、蟻は他の昆虫を積極的に攻撃します。しかし、アブラムシから蜜を得るために、蟻がアブラムシを保護してしまうこともあります。ちょうど、サボテンと蟻の関係性について調査した論文があったのでご紹介します。それは、Katherine E. LeVanらの2014年の論文、『Floral visitation by the Argentine ant reduces pollinator visitation and seed set in the coast barrel cactus, Ferocactus viridescens』です。
植物の蟻を利用する戦略として花外蜜腺があります。花以外に蜜腺を持つ植物は、蜜を求めて訪れる蟻により害虫などが排除されます。しかし、花外蜜腺に蟻が沢山集まれば、蟻が花に来てしまうかも知れません。蟻が花にいると花粉媒介者は蟻を嫌がり近づきません。この、蟻を巡る2つ出来事はトレード・オフの関係にあります。
南カリフォルニア沿岸に自生するFerocactus viridescensは花外蜜腺を持ちます。F. viridescensを訪れる在来種の蟻(Crematogaster californica)と、外来種で侵略性のアルゼンチンアリ(Linepithema humile)を比較しました。なお、1個体のサボテンには1種類の蟻が集まります。

(→)日の出丸の花外蜜腺
F. viridescensを最も多く訪れた花粉媒介者は、Diadasia属のミツバチでした。全体の60.4%を占めています。観察では、在来アリが占有するサボテンでは、アルゼンチンアリが占有するサボテンよりミツバチの訪問時間が62%長くなりました。さらに、アルゼンチンアリが集まるサボテンでは、果実の種子数は6〜33%減少しました。
F. viridescensはその受粉をミツバチ(Diadasia)に依存しており、アルゼンチンアリは受粉に悪影響を与えています。著者らはアルゼンチンアリが訪れたミツバチを攻撃することを観察しました。
以上が論文の簡単な要約です。
ここで言われていることは、サボテンと蟻が長い時間をかけて築いてきた共生関係を、外来種が撹乱しているということです。在来アリは花外蜜腺に引き寄せられても、受粉には影響を与えません。アリは花外蜜腺より蜜を得ることができ、サボテンはアリにより害虫を排除出来るのです。しかし、外来種であるアルゼンチンアリはサボテンとの付き合い方が分からないため、花外蜜腺だけではなく花も独占してしまいます。サボテンにとっては、害虫からは守られますが、受粉効率が低下してしまいます。アルゼンチンアリは数を増やしているということですから、将来的にはサボテンの花外蜜腺はアルゼンチンアリに占有されてしまい、サボテンは数を減らしていく可能性もあります。外来種が思わぬ影響を及ぼしかねないという実例が示された、非常に優れた論文でした。
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蟻は植物を食害する昆虫を捕えたりするため、植物に対してポジティブに働くこともあります。中にはアリ植物という、蟻に住処やエサを与える植物も存在し、蟻は他の昆虫を積極的に攻撃します。しかし、アブラムシから蜜を得るために、蟻がアブラムシを保護してしまうこともあります。ちょうど、サボテンと蟻の関係性について調査した論文があったのでご紹介します。それは、Katherine E. LeVanらの2014年の論文、『Floral visitation by the Argentine ant reduces pollinator visitation and seed set in the coast barrel cactus, Ferocactus viridescens』です。
植物の蟻を利用する戦略として花外蜜腺があります。花以外に蜜腺を持つ植物は、蜜を求めて訪れる蟻により害虫などが排除されます。しかし、花外蜜腺に蟻が沢山集まれば、蟻が花に来てしまうかも知れません。蟻が花にいると花粉媒介者は蟻を嫌がり近づきません。この、蟻を巡る2つ出来事はトレード・オフの関係にあります。
南カリフォルニア沿岸に自生するFerocactus viridescensは花外蜜腺を持ちます。F. viridescensを訪れる在来種の蟻(Crematogaster californica)と、外来種で侵略性のアルゼンチンアリ(Linepithema humile)を比較しました。なお、1個体のサボテンには1種類の蟻が集まります。

(→)日の出丸の花外蜜腺
F. viridescensを最も多く訪れた花粉媒介者は、Diadasia属のミツバチでした。全体の60.4%を占めています。観察では、在来アリが占有するサボテンでは、アルゼンチンアリが占有するサボテンよりミツバチの訪問時間が62%長くなりました。さらに、アルゼンチンアリが集まるサボテンでは、果実の種子数は6〜33%減少しました。
F. viridescensはその受粉をミツバチ(Diadasia)に依存しており、アルゼンチンアリは受粉に悪影響を与えています。著者らはアルゼンチンアリが訪れたミツバチを攻撃することを観察しました。
以上が論文の簡単な要約です。
ここで言われていることは、サボテンと蟻が長い時間をかけて築いてきた共生関係を、外来種が撹乱しているということです。在来アリは花外蜜腺に引き寄せられても、受粉には影響を与えません。アリは花外蜜腺より蜜を得ることができ、サボテンはアリにより害虫を排除出来るのです。しかし、外来種であるアルゼンチンアリはサボテンとの付き合い方が分からないため、花外蜜腺だけではなく花も独占してしまいます。サボテンにとっては、害虫からは守られますが、受粉効率が低下してしまいます。アルゼンチンアリは数を増やしているということですから、将来的にはサボテンの花外蜜腺はアルゼンチンアリに占有されてしまい、サボテンは数を減らしていく可能性もあります。外来種が思わぬ影響を及ぼしかねないという実例が示された、非常に優れた論文でした。
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