進化とは基本的には効率化する傾向があります。その特徴が有利にも不利にもならないならば、不要に思えるものも残りますが、そうでないならば有利な方向へ進化します。それは多肉植物も同じで、砂漠などの乾燥地に進出したものは、環境に最適化する傾向があります。乾燥地への適応において、サボテンとユーフォルビアは最も多様化したグループでしょう。サボテンとユーフォルビアが乾燥地に対して最も最適化されているとは限りませんが、水分を貯蔵するために多肉質となり、蒸散を最低限とするために葉を無くしたり夜間に二酸化炭素を吸収したり(CAM植物)と、共通する特徴があり収斂進化の教科書的なお手本のようです。
さて、ユーフォルビアは非常に小さく地味な花を咲かせますが、サボテンは割と大きく派手な花を咲かせます。花を作るにはサイズに見合ったコストがかかりますし、貴重な水分を浪費し花からの蒸散も起こります。一般論としては、乾燥地の植物ほどコストが高い大きな花は短命になることが予想されます。乾燥地に最適化した進化として、短命な花が選択されるのではないでしょうか?
前置きが長くなりましたが、本日はサボテンの花の開花寿命を調査した、Marbela Cuartas-Dominguezらの2022年の論文、『Large flowers can be short-lived: Insights from a high Andean cactus』をご紹介しましょう。著者らはチリ中部の標高2200mのアンデス山脈の乾燥地帯で、Eriosyce curvispinaを調査しました。
Eriosyce curvispina
Echinocactus horridus Guyとして記載
「Historia fisica y politica de Chile segun documentos adquiridos en esta republicada durante doce anos de residencia en ella y publicada bajo los auspicios del supremo gobierno」(1848年)より
まず、著者らは乾燥地の花の特性として、気温の上昇と、受粉が花の寿命に影響を与える可能性を考えました。あまり高温だと花からの水分喪失が多くなるため、開花は短い方が良いようにも思えます。しかし、実際には気温は花の寿命に関係はありませんでした。
次に受粉についてです。受粉した後も花を咲かせ続けるのは、如何にも非効率です。アルストロメリアなどいくつかの植物でこの受粉誘発性花の老化は確認されています。E. curvispinaは基本的に自家受粉しない自家不和合性ですから、他家受粉したら花を閉じればいいだけです。しかし、受粉も花の寿命には関係がないようです。サボテン科では受粉誘発性花は未確認で、Mammillaria glochidiataやM. grahamiiでもやはり受粉と花の寿命は関係がないことが確認されています。
Primack(1985)は大きな花は大量の資源が費やされているため、小さな花より長持ちするはずであると主張しました。実際に熱帯雨林に生えるラン科のPaphiopedilumでは、花の寿命は花の重量と相関がありました。しかし、水資源が乏しい乾燥地の植物は、水資源を消費するため花は短命であると予想されます。E. curvispinaは40枚以上の花弁花被片を持ち、調査地域で最も高い花の資源量があります。花が全開となった時間は約10時間でした。E. curvispinaが完全に開花した時間は、チリ中央アンデスの山地に自生する24種類の花で記録された平均花寿命4.2日よりも45%短くなっています。
以上が論文の簡単な要約です。
少し解説します。花と気温の関係を気にするのは、花が蒸散しやすいからかも知れません。サボテンは体表から水分が逃げないように表皮を厚くするなどの仕組みがありますが、花は薄くそのような仕組みがありませんから、水分は逃げやすくなります。気温が高ければ、花自体の水分はあっという間に失われ萎れてしまいますが、実際にはサボテン本体から水分が供給され続けるため簡単には萎れないのです。
次に花の寿命についてですが、あまり開花時間が短いと受粉に悪影響があるような気がします。自家受粉する花ならば問題にはなりませんが、E. curvispinaは他家受粉する花です。著者らはE. curvispinaの花を訪れる花粉媒介者を記録しました。複数種類のミツバチと大型のハチドリが訪れましたが、2種類のミツバチで98.9%の割合に達しました。E. curvispinaの1つの花あたりの花粉媒介者の訪問数は平均16回でした。非常に短い開花時間にも関わらず、結実率は62.2%と高いものでした。高コストの花を咲かせるのは、非常に目立ち花粉媒介者を呼び寄せるのに最適な花と言えます。コストを最小限とするために開花時間を短くして、短時間で受粉すると言う戦略なのでしょう。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村
にほんブログ村
さて、ユーフォルビアは非常に小さく地味な花を咲かせますが、サボテンは割と大きく派手な花を咲かせます。花を作るにはサイズに見合ったコストがかかりますし、貴重な水分を浪費し花からの蒸散も起こります。一般論としては、乾燥地の植物ほどコストが高い大きな花は短命になることが予想されます。乾燥地に最適化した進化として、短命な花が選択されるのではないでしょうか?
前置きが長くなりましたが、本日はサボテンの花の開花寿命を調査した、Marbela Cuartas-Dominguezらの2022年の論文、『Large flowers can be short-lived: Insights from a high Andean cactus』をご紹介しましょう。著者らはチリ中部の標高2200mのアンデス山脈の乾燥地帯で、Eriosyce curvispinaを調査しました。
Eriosyce curvispina
Echinocactus horridus Guyとして記載
「Historia fisica y politica de Chile segun documentos adquiridos en esta republicada durante doce anos de residencia en ella y publicada bajo los auspicios del supremo gobierno」(1848年)より
まず、著者らは乾燥地の花の特性として、気温の上昇と、受粉が花の寿命に影響を与える可能性を考えました。あまり高温だと花からの水分喪失が多くなるため、開花は短い方が良いようにも思えます。しかし、実際には気温は花の寿命に関係はありませんでした。
次に受粉についてです。受粉した後も花を咲かせ続けるのは、如何にも非効率です。アルストロメリアなどいくつかの植物でこの受粉誘発性花の老化は確認されています。E. curvispinaは基本的に自家受粉しない自家不和合性ですから、他家受粉したら花を閉じればいいだけです。しかし、受粉も花の寿命には関係がないようです。サボテン科では受粉誘発性花は未確認で、Mammillaria glochidiataやM. grahamiiでもやはり受粉と花の寿命は関係がないことが確認されています。
Primack(1985)は大きな花は大量の資源が費やされているため、小さな花より長持ちするはずであると主張しました。実際に熱帯雨林に生えるラン科のPaphiopedilumでは、花の寿命は花の重量と相関がありました。しかし、水資源が乏しい乾燥地の植物は、水資源を消費するため花は短命であると予想されます。E. curvispinaは40枚以上の花弁花被片を持ち、調査地域で最も高い花の資源量があります。花が全開となった時間は約10時間でした。E. curvispinaが完全に開花した時間は、チリ中央アンデスの山地に自生する24種類の花で記録された平均花寿命4.2日よりも45%短くなっています。
以上が論文の簡単な要約です。
少し解説します。花と気温の関係を気にするのは、花が蒸散しやすいからかも知れません。サボテンは体表から水分が逃げないように表皮を厚くするなどの仕組みがありますが、花は薄くそのような仕組みがありませんから、水分は逃げやすくなります。気温が高ければ、花自体の水分はあっという間に失われ萎れてしまいますが、実際にはサボテン本体から水分が供給され続けるため簡単には萎れないのです。
次に花の寿命についてですが、あまり開花時間が短いと受粉に悪影響があるような気がします。自家受粉する花ならば問題にはなりませんが、E. curvispinaは他家受粉する花です。著者らはE. curvispinaの花を訪れる花粉媒介者を記録しました。複数種類のミツバチと大型のハチドリが訪れましたが、2種類のミツバチで98.9%の割合に達しました。E. curvispinaの1つの花あたりの花粉媒介者の訪問数は平均16回でした。非常に短い開花時間にも関わらず、結実率は62.2%と高いものでした。高コストの花を咲かせるのは、非常に目立ち花粉媒介者を呼び寄せるのに最適な花と言えます。コストを最小限とするために開花時間を短くして、短時間で受粉すると言う戦略なのでしょう。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村
にほんブログ村
コメント