キダチアロエ(Aloe arborescent)は昔から普及しているアロエです。今でこそ健康食品として破竹の勢いのAloe veraに押されていますが、キダチアロエは「医者いらず」などと呼ばれ、丈夫なこともありあちこちで見かけたものです。さて、このような普及種でも、原産地では野生個体は少ないということは珍しくありません。キダチアロエの場合はどうでしょうか? 調べてみると、CITES(いわゆるワシントン条約)に関わるキダチアロエの話があるようです。それは、Gideon F. Smithの2008年の論文、『Aloe arborescens (Asphodelaceae: Alooideae) and CITES』です。早速、見ていきましょう。

CITESのための評価
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)は1975年に設立されました。CITESの附属書Iは国際取引により絶滅の危機に瀕している種、附属書IIは国際取引により脅かされる可能性のある種のためのものです。
著者はCITESの要請により、CITESでの分類のためにAloe arborescensを評価しました。これは、南アフリカ国立生物多様性研究所(SANBI)の絶滅危惧プログラム(TPS)の活動の一環として、南アフリカのレッドデータを再評価する機会にもなります。
アロエは1994年にCITESから削除されたAloe vera以外の550種類以上がCITESに記載されています。うち、22種類は附属書Iに、残りは附属書IIに記載されています(2008年)。

類似種と分布
A. arborescensに近縁とされるのは、A. hardyiやA. pluridens、A. mutabilis、A. vanbaleniiです。Glen & Hardy(2000)によると、A. mutabilisをA. arborescensの異名とする考えを示しました。これらの5種類のうち、成熟した植物でA. arborescensと間違える可能性があるのはA. mutabilisだけです。
A. arborescensは、アロエの中でも非常に広い地理的分布を持ちます。南アフリカのケープ半島から、海岸沿いに東に向かいモザンビークに達し、そこから内陸部の山地を迂回しマラウイに向かいます。2004年のGlen & Smithによると、南アフリカでは西ケープ州、東ケープ州、自由州、KwaZulu-Natal州、Mpumalanga州、リンポポ州からA. arborescensは記録されています。しかし、Kesting(2003)やMoll & Scott(1981)は、ケープ半島のA. arborescensは人為的に導入されたものであると主張しています。

判別困難と虚偽取引
さて、Aloe arborescensは分布域が広く個体数は非常に豊富です。しかし、地域によっては開発などにより減少しています。しかし、IUCNを適応すると低危険種(LC)とされており、絶滅の危機にある訳ではありません。
多くのアロエは生長後ならば互いに見分けるのは簡単です。しかし、小さな苗のうちは二葉性(distichous)であり、判別が難しくなります。税関職員が利用出来るCITESの植物ガイドでは、未成熟な苗の識別は出来ません。そのため、偽名で取引される可能性があるため、Aloe arborescensもCITESの附属書IIの記載が保持されるべきであると提案します。

以上が論文の簡単な要約です。
キダチアロエ自体は特に絶滅の危機に瀕している訳ではありません。しかし、もしキダチアロエがCITESの附属書から削除され国際取引きが解禁された場合、絶滅危惧種の小さな苗をキダチアロエと偽って密輸出来てしまう可能性があるのです。ですから、CITESの附属書に記載され国際取引を制限するべきであるという提案でした。
実は薬用植物としてはAloe feroxの方が有名で、非常に古くから利用されてきたようです。日本でも法律で薬用成分が記載されているのはAloe feroxだけです。しかし、日本では暖地では露地栽培が可能なことなどにより、キダチアロエが研究されてきました。日本でキダチアロエの成分の有効性について、非常に沢山の論文が出ているようです。そのためか、論文ではアロエの違法取引は日本が想定されると言います。これはおそらくキダチアロエを指しているのでしょう。キダチアロエの抽出物を利用した製品は、日本では昔から沢山ありますが国際的には珍しいのかも知れません。
現在では、Aloe veraが非常に注目を浴びており、製品化につながるせいか、成分の有効性についての論文が世界中から出されています。Aloe veraは世界中で栽培されていますから、1994年にCITESの附属書から除外されました。このことによる苗の虚偽取引については、どの程度の影響があったかは評価されていないということです。



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