サボテンに限らず生物は突然変異をおこして、場合によっては姿が大きく変化します。しかし、もとより環境に適応した姿が変わってしまうため、あるべき特徴がない場合、環境適応が出来ない一過性の突然変異であることが多いように思われます。死亡率がノーマルタイプより高いため子孫には広がっていかず、普通は消滅してしまいます。動物なら目立ってしまい、捕食率が高くなってしまうアルビノが有名です。サボテンでもトゲがなかったりする変異はたまにあり、園芸的には珍重されます。なにか良い論文はないか調べたところ、Richard R. Montanucci & Klaus-Peter Kleszewskiの2020年の論文、『A TAXONOMIC EVALUATION OF ASTROPHYTUM MYRIOSTIGMA VAR. NUDUM (CACTACEAE)』を見つけました。鸞鳳玉の白点がないタイプを調査した論文です。
鸞鳳玉(Astrophytum myriostigma)は、メキシコ原産の白点に覆われた美しいサボテンです。しかし、自生する鸞鳳玉の中にも、白点があまりないか、あるいはまったくないタイプも存在すると言います。サボテン図鑑では、Astrophytum myriostigma "nuda"などと表記されますが、一体どのような存在なのでしょうか? 

鸞鳳玉の分類
その前に、鸞鳳玉の現在の分類について軽く触れておきます。鸞鳳玉の学名は、1839年に命名されたAstrophytum myriostigma Lem.です。亜種はsubsp. myriostigmaと、1932年に命名されたsubsp. quadricostatum (H. Moeller) K. Kayserの2つだけが認められています。var. strongylogonumが有名ですが、命名者のBackebergはタイプ標本を指定しなかったため、現在ではA. myriostigma subsp. myriostigmaの異名とされています。というより、Backebergの説明は我々がイメージする丸みを帯びたタイプとは異なるため、そもそも別のものを指しているのかも知れません。また、var. potosinum、あるいはsubsp. potosinumはsubsp. myriostigmaの異名に、var. tamaulipense、あるいはsubsp. tamaulipenseはsubsp. quadricostatumの異名とされています。白点がないタイプは1925年にvar. nudumとされましたが、現在では認められておりません。ちなみに、var. coahuilense、あるいはsubsp. coahuilenseは、Astrophytum coahuilenseとして独立種となりました。

2つの"nuda"タイプ
白点がないヌード植物は、メキシコの中央高原とJaumave渓谷北部で発生します。Hoockの1993年のSan Luis Potosiでの観察では、ヌード植物とまばらに白点があるセミヌード植物は互いに近接して育っていました。ヌード植物とセミヌード植物は、低木の陰になる場所に優先的に自生していました。さらに、著者らによる2019年のJaumave渓谷北部の観察では、やはり同様の環境が見られ、逆に白点のあるタイプは完全に太陽光にさらされていました。
中央高原とJaumave渓谷では遺伝的交流はなく、まったく個別にヌードタイプが発生したと考えられます。中央高原の鸞鳳玉はsubsp. myriostigmaで、Jaumave渓谷の鸞鳳玉はsubsp. quadricostatumと推定されています。

標高が上がるとよりヌードに
2004年のHoock & Kleszewskiの観察によると、ヌード植物の集団は、標高1700m以上の高地でのみ発生すると言います。しかも、標高が上がるにつれヌード植物が増加する傾向が見られました。また、太陽光を浴びる場所に生えたヌード植物は、しばしば淡い黄色で部分的に赤味を帯びていました。著者らはアントシアニンによるものと考えましたが、アントシアニンはサボテンには存在しません。サボテンの作る赤色の色素はベタシアニンです。

ヌード植物は日照に弱い
光合成色素のクロロフィルは過度な太陽光線により変性しやすく、ヌード植物の色はクロロフィル変性によるストレスにさらされていることが分かります。鸞鳳玉の白点は日照を和らげる働きがあり、白点がないヌード植物はアガヴェなどの陰で育ちます。また、完全な日照にさらされたまだ小さなヌード植物は、今後の生長は難しいと見られました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
他にも論点はありましたが、はっきりしない感じがあり割愛させていただきました。さて、どうやら、いわゆる"nuda"タイプの鸞鳳玉は、亜種と言えるほど独立してはいないようです。過去に観察されたvar. nudumアレオーレが赤味を帯びるだとか言われていました。しかし、自生地のヌード植物を観察すると、アレオーレが赤味があるものも灰色のものもあり、ヌード植物特有の共通した特徴とは言えないようです。
しかし、鸞鳳玉の白点の効果を考えれば、ヌード植物は通常の日照では枯れてしまうはずです。ですから、ヌード植物は偶発的に発生してもやがて消滅するはずですが、意外にも他の植物の陰で上手く生き残っているところが非常に面白いですね。サボテンも思いの外、強かに環境に適応しているのです。


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