烏羽玉(Lophopiora williamsii)はトゲがなく、何やらモチモチしている柔らかいサボテンで、様々な姿をとるサボテンの中でもかなり変わった部類でしょう。特筆すべきは、烏羽玉には幻覚作用のあるメスカリンと言う物質が含まれており、大昔から呪術師に使われて来たと言うことです。現地ではペヨーテと呼ばれています。しかし、この幻覚作用は日本で栽培されているものには、ほとんど含まれていないと言われています。原産地の烏羽玉は生長に時間がかかり、見た目よりも長く生きているため、メスカリンを沢山蓄積しているのだなどと言われたりしますが、本当かどうかは分かりません。ただ、鉢栽培した烏羽玉はただひたすらに苦いだけだそうです。そのためか、日本では法律で規制されておりません。そこら辺の事情を知りたかったのですが、中々見当たらないので、代わりに烏羽玉に関する面白そうな論文を見つけました。それは、Masako Araganeらの2011年の論文、『Peyote identification on the basis of differences in morphology, mescaline content, and trnL/trnF sequence between Lophophora williamsii and L. diffusa』です。日本発の論文です。
内容に入る前に、現在のLophophoraの分類を見てみましょう。キュー王立植物園のデータベースによると、現在認められているLophophoraは4種類あり、変種や亜種は認められておりません。1つ目は、1894年に命名されたL. williamsiiです。日本では烏羽玉と呼ばれ、タイプによって大型烏羽玉や仔吹き烏羽玉が園芸上では区別されています。また、銀冠玉はL. williamsii var. decipiensとする人もいるようです。L. decipiensと書かれたサイトもありましたが、おそらくは学術的に記載された学名ではないと思います。いずれにせよ、
現在ではL. williamsiiと同種とされています。2つ目は1967年に命名されたL. diffusa、翠冠玉と呼ばれています。3つ目は1975年に命名されたL. fricii、最後は2008年に命名されたL. alberto-vojtechiiです。ちなみに、現在はL. friciiを銀冠玉としているようです。ただし、この論文ではLophophoraは、L. williamsiiとL. diffusaの2種類があると言う立場のようです。CITESなどの情報からそう判断したようですが、2011年当時は4種類とも命名されていましたが、命名されただけでまだ認められていなかったのかも知れません。

L. williamsiiはメスカリンを含み、L. diffusaは含まないという報告があります。L. williamsiiは原産地ではペヨーテと呼ばれ、伝統医学や宗教的儀式で広く使用されます。著者らは日本国内ではL. williamsiiが規制されていないため、規制する必要があると言います。その場合、メスカリンを含有したL. williamsiiを確実に見分けられなければなりません。そのため、著者らは日本国内で入手したL. williamsiiおよびL. diffusaの遺伝子とメスカリン濃度を測定しました。

結果として過去の報告通り、調べた4個体のL. diffusaからはメスカリンは検出されませんでした。対して10個体のL. williamsiiからは22.2〜48.3mg/gのメスカリンが検出されました。また、大型烏羽玉と呼ばれる2個体からも12.7mg/gと35.4mg/gのメスカリンを、1個体の仔吹き烏羽玉からも25.0mg/gのメスカリンを検出しました。さて、問題はかつて銀冠玉と呼ばれたタイプで、何とメスカリンは検出されませんでした。メスカリン以外の特徴も見てみましょう。
花色は烏羽玉と大型烏羽玉はパールピンク、銀冠玉はピンクか深いピンク、L. diffusaは白花です。電子顕微鏡で表面の構造を見た場合、表面の微小突起が烏羽玉と大型烏羽玉、仔吹き烏羽玉は小さく、銀冠玉は大きく、L. diffusaは中間くらいでした。遺伝子のタイプは4つに分かれており、烏羽玉はAタイプ、大型烏羽玉はAタイプおよびBタイプ、仔吹き烏羽玉はAタイプ、銀冠玉はCタイプ、L. diffusaはDタイプでした。

以上が論文の簡単な要約となります。
しかし、その特徴を見ると、かつて烏羽玉と呼ばれていた種は2つに分離出来ます。このメスカリンを含まないタイプは要するにE. friciiにあたる種類のことなのでしょう。様々な特徴が異なるため、別種とするのが妥当と言えます。
しかし、この論文では栽培された烏羽玉からもメスカリンは検出されています。すべてが現地球とも思えませんから、栽培品でも幻覚成分は含まれていることが分かります。まあ、それが麻薬として使用できる濃度のメスカリンが含まれているかは別問題でしょう。この検出量が多いのか少ないのか分かりませんが、あるいは問題にならない量かも知れません。いずれにせよ、日本にはペヨーテの利用方法に関する知識や習慣が皆無なので、安くもない烏羽玉を齧ろうとする人はいないとは思いますけどね。まあ、日本の烏羽玉は殺ダニ剤をタップリ吸っているでしょうから、違う意味で食べるのは危険な感じがします。
始めに書きましたが、栽培個体と野生個体でメスカリン含有量が異なるのか興味があり、無駄にアレコレと烏羽玉を調べてしまったので、ネタはもう少しだけあります。せっかくですから明日も烏羽玉の記事を書く予定です。



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