サボテンや多肉植物の自生地での減少や、違法取引について度々記事にしていますが、論文を調べる中で「plant bindness」なる用語に出会いました。直訳すると「植物失明」ですが、これでは意味がわからないので「植物盲目症」と意訳しました。この用語に出会った文脈としては、希少な絶滅危惧種であっても動物と植物とでは、関心の高さも、保護活動のための資金もまったく異なると言うことです。要するに、「植物盲目症」とは、動物と比較すると植物は非常に軽視される傾向があり、存在するはずなのに見えていないかのように扱われると言う現実を表現した言葉です。本日は、そんな「植物盲目症」が違法な野生生物取引(IWT)を助長しているのではないかと言う疑いを検証した、Jered D. Marguliesらの2019年の論文、『Illegal Wildlife trade and the persistence of "plant bindness"』をご紹介します。

植物盲目症の実害
違法な野生生物取引(IWT)に対する政策は近年重視されており、国際的な会議や法令の制定、世界銀行の計画と1億3100万米ドルの予算など、様々なプログラムがあります。しかし、これらの取り組みは「植物盲目症」であり、その政策と研究は植物を無視しています。
生物学的な保全に関して、「植物盲目症」は依然として進行中の問題です。その資金の獲得に関しても重大な偏見があり、特に大型の動物はその危機に対する評価でも資金面に関しても過大評価されています。植物はその危機に関しても資金面でも過小評価されています。しかし、植物は生態学的には非常に重要で、過大評価されている動物の生存を支える働きがあります。
学問的にも植物学は動物学と比較すると、数十年に渡り衰退をし続けています。植物の絶滅を評価する努力は非常に遅れており、脊椎動物は68%が評価されているのに対し、植物はわずか8%しか評価されていません。
保全のための資金や法律にも不均等があります。例えば、米国の絶滅危惧種法に記載されている種の57%は植物ですが、絶滅危惧種保護のための連邦資金の4%未満しか植物に対して下りていません。

米国における保護活動と植物盲目症
保全科学における「植物盲目症」は動物に特権を与えており、米国連邦野生生物保護法の最も古い部分の1つであるLacey法でも確認出来ます。つまり、米国の最も初期の連邦野生生物保護法に「植物盲目症」が組み込まれており、動物保護の特権化を暗黙のうちに強化することになりました。Lacey法は植物を無視しており、象牙などの動物由来の輸入品には適応されましたが、海外の熱帯から採取された蘭などの絶滅危惧種の輸入品には適応されませんでした。Lacey法は1900年に制定されましたが、ここに植物が組み込まれたのは2008年のことでした。ただし、これは木材の資源としての取引に関するものでしかありません。
米国の最も重要な野生生物法の1つは、植物は「野生生物」には含まれないと主張しています。実際には植物は連邦野生生物法の下で保護されていますが、連邦法の定義では植物は野生生物とは見なされません。これらのことにより、植物保護のための資金と保護のための優先事項に影響を及ぼしています。


IWT対策は人気のある動物に集中
2018年に開催された野生生物の違法に関するロンドン会議では、象やサイ、大型ネコ科動物にスポットライトが当てられ、植物に関しては木材の商取引についての話題があっただけでした。国際的なメディアも、注目するのは大型の哺乳類だけです。
植物の違法取引の脅威にも関わらず、CITES(ワシントン条約)の交渉の占める割合は非常に小さいものです。また、違法な植物取引を研究するための資金は不十分です。米国や英国の野生生物保護のための基金は、人気のある一部の動物に偏り、植物と不人気の動物には与えられません。これらのIWT対策・野生生物保護のための基金は、始めから植物を除外していることが多く、野生植物の研究や保護に関するNGO活動などを難しくしています。

無視される植物のIWT
特定の植物分類群は過去数十年に渡り違法に取引されてきましたが、これらの植物に対する研究は不足しています。ソテツは地球上で最も絶滅の危機に瀕している分類群の1つですが、IWTに関する文献ではほとんど注目されていません。同様にサボテンはIWTが非常に強力な脅威であるにも関わらず注目されていません。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
法制上、植物が野生生物から除外されている現実は、保護活動や認知バイアスに強い影響を与えていることは間違いないのでしょう。しかし、それだけではなく、動物を特別視する傾向は我々も社会習慣的にバイアスが思考に染み付いています。これは、何も植物に限ったことではなく、動物でも可愛かったり美しいものは注目を集め重視され、可愛くなかったり美しくないものは無視されます。結局は人間の好みにより野生生物はその生存権を左右され、人気がないものは絶滅しても心は傷まないのです。人間は身勝手な理由で野生生物を滅ぼして来ましたが、人気種に対してだけ保護活動をするのですから、その身勝手な本質はあまり変わってはいないのでしょう。


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