Aloe glaucaは南アフリカ南西部に分布するアロエで、葉の縁に並ぶ赤褐色のトゲが特徴です。このA. glaucaの名前には何やら曰くがあるようです。まあ、A. glaucaの命名が18世紀という時点ですでに嫌な感じがします。Carl von Linne(Linneaus)が現在のニ名式学名を公表したのは1753年ですが、それからしばらくは種の記載はラテン語で特徴のみ記したようなものも多く、それが現在のどの種類にあたるのか不透明だったりします。そのため、ここらへんはつつくと大変面倒くさい話になります。という訳で、本日はAloe glaucaの学名に関するGideon F. Smithの2018年の提案、『Proposal to conserve the name Aloe glauca (Asphodelaceae: Alooideae) with a conserved type』をご紹介します。

1753年にLinneausがAloe perfoliata var. "κ"の特徴をラテン語で、「κ。アフリカのアロエ、葉は灰色: 背中の縁と上部にトゲがある、花は赤色。Commelijnの図譜(※1)75t. 24. hort. 2. p. 23. t. 12.」と示しました。その後にもリンネによりこのラテン語のフレーズは繰り返し使われましたが、花色については示されませんでした。1701年のCommelijnの図譜には花序が含まれていませんでしたが、1703年に追加された図譜では花が描かれました。これらの植物は現在のA. glaucaと一致します。

(※1) オランダの植物学者のCasper Commelijn。

リンネによるAloe perfoliata var. "κ"の公表から15年後(1768年)、MillerによりAloe glauca Mill.と命名されました。MillerはAloe feroxと解釈されてきたCommelijnの図譜をA. glaucaに含めました。Millerは生きた植物を観察していましたが標本は引用していません。Millerはラテン語で「アロエの茎は短い、葉は2つに分かれトゲは端で曲がる、花は直立」と説明しました。しかし、MillerがA. feroxを引用したため、必然的にA. glaucaとA. feroxは同義語となってしまいます。ただし、Millerのラテン語の説明の、葉の二列性や花が頭頂花序については、A. glaucaもG. feroxも何故か該当しないことには注意が必要です。
ちなみに、1789年にはAitonがAloe perfoliata var. glauca (Mill.) Aitonを、1804年にHaworthがAloe glauca Haw.を命名しています。


A. glaucaはCommelijnの図譜があるため、それがレクトタイプ(※2)です。しかし、Millerの命名したA. glauca Mill.はCommelijnのA. feroxを引用しており、深刻な矛盾をきたす可能性があります。

(※2) 正式な標本がないか行方不明、2種類混じる場合に、改めて選定される標本。


Aloe glaucaという名前が維持されることは望ましく、命名上の安定性のためにも必要です。文献でも一貫してAloe glaucaが使用されています。例えば、Berger(1908年)、Groenewald(1941年)、Reynolds(1969年)、Bornman & Hardy(1971年)、Newton(2000年)、Grace(2011年)、Van Whyk & Smith(2014年)などがあります。
もし、Aloe glaucaという名前が使われない場合、1800年に命名されたAloe rhodacantha DC.が使用されることになります。この名前は使用されておらず、特にBergerやReynoldsによる影響力の強い文献により異名とされてきました。


以上が論文の簡単な要約です。
アロエ・グラウカはその命名は非常に古いものの、タイプ標本がありません。現在使用されている慣れ親しんだ学名を命名したMillerが、誤った図譜を引用してしまったことから、Aloe glaucaの名前が誤った学名として異名に陥る可能性があるのです。その場合、まったく使用されていないAloe rhodacanthaが採用されます。これは、命名規則では命名が早い名前が優先されるからです。
このような、非常に古い時代の誤りは結構あるみたいです。調べるのも中々大変だと思います。しかし、Aloe glaucaのように親しまれた名前の場合、その変更が混乱を招く原因となる可能性もあります。例えば、Euphorbia francoisiiと呼ばれてきた花キリンは、実はEuphorbia decaryiであることが分かりました。しかし、E. decaryiの名前で呼ばれてきた花キリンがすでにあり、こちらはEuphorbia boiteauiが正しい学名であるとされました。おそらくは、2種類が混同されて誤った組み合わせが使われて来たのでしょう。この誤りは、学術的には正されました。とはいえ、過去の論文において、Euphorbia decaryiの名前が出た場合、本来のE. decaryiのことを示しているのか、E. boiteauiとなった旧・E. decaryiを示しているのかがよく分からなくなりました。この場合は明らかな混同ですから、誤った組み合わせを保存出来る可能性はおそらくありません。ただ、その論文(Castillon & Castillon)を読んだ学者のコメントがあり、ややこしいので古い学名は廃棄して、新しく命名し直した方が良いのではないか?という思わぬ感想でした。命名規則上で可能か否かは分かりませんが、混乱の是正と言う意味においては、聞くに値する意見のようにも感じました。



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