Carnegiea giganteaは巨大な柱サボテンです。映画などで砂漠の風景に登場するサボテンと言ったほうがわかりやすいかも知れません。日本では弁慶柱とも呼ばれています。育つのが遅く巨大に育つため、個人で栽培するタイプのサボテンではありませんから、日本では基本的に植物園で見ることになります。
私がちょうどCarnegieaについの論文を読んでいた時、衝撃的なニュースが流れて来ました。以下のニュースはアリゾナのCarnegieaが暑さて次々と枯死しているというのです。論文の内容とも合致します。

さて、本日ご紹介するのはカーネギアの将来を占うThomas V. Orumらの2016年の論文、『Saguaro (Carnegiea gigantea) Mortality and Population in the Cactus Forest of Saguaro National Park: Seventy-Five Years and Counting』です。国立公園でカーネギアの個体数を実に75年に渡り調査した驚きの記録です。以降はカーネギアのネイティブな呼び名であるSaguaroと呼ぶことにしましょう。

DSC_1049
弁慶柱 Carnegiea gigantea

DSC_1244
神代植物公園の大温室の巨大なカーネギア

「サボテンの森」
調査はアリゾナ州のTucsonにあるSaguaro国立公園のRincon Mountain地区にある「サボテンの森」で、野生のSaguaroの個体群の死亡率と再生について、1942年から2016年までの75年間に渡り調査されました。
「サボテンの森」では調査からわずか7年後の1940年には、管理人がSaguaroの高い死亡率に気が付きました。個体数に対する懸念から死亡率が研究され始めました。さらに、Mielkeは調査地域に若いSaguaroがほとんどいないことを観察し、大きなSaguaro以外は被覆がなく地面が剥き出しであることを説明しました。これらは、過放牧や木材(木版画用)、げっ歯類の多さに起因していました。1950年代は深刻な長期間の干ばつに見舞われ、これは過去400年間で最悪の干ばつであったと見なされました。

再生の始まりから終わりまで
1942年はSaguaroの加齢に伴い著しく死亡率が上昇しました。しかし、Saguaroの再生は1959年頃に始まり、1977年〜1984年の間にピークを迎えました。その後は先細りとなり、1993年には再生は終了しました。再生期間中に828個体の新しいSaguaroが増えましたが、1993年以降はわずか3個体しか増えませんでした。
1962年にAlcorn & Mayは、このまま再生が起こらなければ、2000年にはすべてのSaguaroが失われると予測しました。1962年の予測の10年半後に再生が始まったものの、1942年に調査された6区間のSaguaroの1437個体は2016年には34個体(2%)まで減少してしまいました。
1963年にNiering、Whittaker、Lowe は、「サボテンの森」で放牧が続いているため、個体群の再生には悲観的でした。彼らは自然環境の影響ではなく、人為的な原因である放牧と捕食者(コヨーテ)の制御を指摘しました。牛は大地を被覆する草本を減らしてしまい、捕食者の欠如がげっ歯類の数を増やしてしまい、若いSaguaroが定着する前にげっ歯類に食べられてしまいます。彼らの努力もあって、最終的に放牧は削減されました。
再生が終わった1993年以降は、長期間の干ばつにより、Saguaroの芽生えを保護してくれるナース植物(paloverdeとmesquite)が大幅に減少しました。

エルニーニョによる再生
Betancourtらは、1900年から1930年の間、および1960年から少なくとも1993年の間には、頻繁なエルニーニョ現象が発生したと述べています。エルニーニョの頻繁する期間はSaguaroの再生とリンクしています。Swetnam & Betancourtは、1976年以降(1977年〜1984年)はニューメキシコの樹木からは、前例のない年輪により特徴づけられると述べています。これは、より湿った状態を意味します。

繁殖能力
Pierson、Turner、Betancourtは、長期間の再生不良が続くと、繁殖能力が低下した状態が続いてしまうと指摘しました。繁殖能力を測るために、個体数ではなく分岐した枝の数を1ヘクタールあたりの本数で調べたところ、再生期間中は最高で63〜80本に達しました。しかし、2003年にはわずか29本に減少し最小を記録しました。それでも、2010年には68年ぶりに上昇し、2012年を除いて上昇を続けています。

現在の干ばつ
Weiss、Castro、Overpeckは、1950年代と2000年代の干ばつを比較し、2000年代の干ばつの方が気温が高いことを指摘しています。彼らは気温が高いほど、特にモンスーン前に蒸散を増加させているようです。つまり、現在は枝の本数=繁殖能力よりも、干ばつがSaguaroの再生を妨げる要因と考えられます。
2000年以降の干ばつは、実際には1996年から始まりました。1993年以降の干ばつ前に発芽したSaguaroは、1〜4歳の時に始まった干ばつによりほぼ全滅したと考えられます。1997年から1998 年にかけてエルニーニョがありましたが、干ばつ前に間に埋め込まれたエルニーニョでは、Saguaroの再生を支えるには不十分でした。アリゾナ州Tucsonに近いTumamoc Hillでの85年に渡る研究に基づき、Pierson & Turnerは、凍結や干ばつの影響を受けやすい苗木は死亡率が高く、雨期がSaguaroの再生につながるとは限らないと警告しています。


凍結による枯死
Saguaroの枯死の主な理由は凍結によるものです。しかし、1979年から2011年まで、30年以上に渡り壊滅的な凍結はありませんでしたが、Saguaroの老化に伴う枯死率の増加は急速に続いています。
2007年には大規模な凍結が発生し、1978年以来最大の凍結でしたが、壊滅的なものではありませんでした。しかし、2011年には壊滅的な凍結がおきました。非常に若い個体と老化した個体は高い枯死率でした。若い個体はナース植物や被覆により守られています。また、通常の個体は枝にダメージを受けても回復可能でした。特に80歳以上の個体が凍結の影響を受けやすいことが分かりました。

 
以上が論文の簡単な要約です。
Saguaroが数を減らし新しく芽生えた若い個体が少ないことが分かります。しかし、それが地球規模の気候変動のせいなのかどうかは分かりません。
Saguaroは30〜45歳で果実の生産を始め、寿命は125〜175歳と推定されます。この長い寿命は、毎年種子をばらまいて、苗が育つ環境になるのを待っているからでしょう。おそらく、苗は数年間、干ばつがなければ育つのかも知れません。しかし、沢山の雨が降って沢山の苗が芽生えても、翌年に干ばつがあれば1歳の苗はすべて枯死するでしょう。
多肉植物は寿命が長いものが多いようです。過去に読んだ論文や報告でも、Haworthiopsis koelmaniorumには若い個体がいないだとか、Gasteriaでは若い個体がいないが種子を蒔くとほぼ100%発芽するから実生はほとんど枯死するのだろうなどという内容でした。これらの多肉植物も毎年のように種子を作り、いつか種子が育つ環境になるまで待っているのでしょう。
とはいえ、近年の異常気象や温暖化を考えると、これらの多肉植物たちにはもうチャンスは訪れないのかも知れません。ニュース記事では次々と枯死しており、将来に期待するのも中々困難です。野生の多肉植物たちに、我々はいつまで出会うことが出来るのでしょうか。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村