マダガスカルは希少な動植物の宝庫で、マダガスカル島にしかいない固有種が多いことでもよく知られています。マダガスカルと言えばキツネザルが有名ですが、国際的な違法取引が蔓延しており危機的な状況にあります。あまり一般、あるいはメディアでは話題になりませんが、マダガスカルは植物の固有種も非常に多く、CITESにより国際的な取引が禁止されている種も沢山あります。しかし、残念ながらあまり関心を向けられないこともあり、多くのマダガスカルに分布する植物は絶滅の危機に瀕しております。マダガスカルは花キリンやアロエ、パキポディウム、ディディエレアなど多肉植物の宝庫ですから、多肉植物好きな私は関心を向けざるを得ません。という訳で、本日はマダガスカルの植物と環境について解説したJean-Andre Audissouの2007年の報告、『MADAGASCAR: which future?』をご紹介します。

Pachypodium densiflorum
森林の著しい減少
島の最初の住民は約2500年前に到着しました。マダガスカル島は森林に覆われていましたが、人口増加と共に伐採され、1950年以降は原生林は50%以上が失われました。1年あたり30万ヘクタールが破壊され、現時点では92%の森林が破壊されました。
著者は近年、マダガスカルを旅し、環境の劣化が加速していることを確認しました。最も重要な問題は、森林破壊、焼畑農業、過放牧ですが、これに外来種の侵入が加わる可能性があります。

Euphorbia makayensis
森林破壊
マダガスカルでは樹木の伐採は禁止されていますが、先住民は森に侵入し定期的に伐採を繰り返しています。そのため、島の北にあるフランセ山では着生ランや地生ラン、Impatiens tuberosaの希少性に気が付きます。
2006年に著者は3年振りにAmbositraの原生林を訪れましたが、非常に大きな変化がありました。森林は伐採され焼け落ち、生き残ったカメレオンが積もった灰の中を歩いていました。多くの野生ランやカランコエ、着生するペペロミアなどが消滅していました。
Tulear近郊のような一部の地域では、森林伐採により木材が枯渇し、木炭の価格が全国平均の5倍になっています。
2005年に著者と共にAmbalavao地方を訪れたJohn Lavranosは、ほんの30年前は一帯が森林に覆われていたと打ち明けてくれました。

Euphorbia tulearensis
過放牧と焼畑農業
数千万頭のコブウシと多数のヤギは、マダガスカルの生態系に大きな圧力をかけています。かつての森林は野焼きにより草原になり、家畜の放牧が行われています。乾季には草原も野焼きが行われますが、あまりに頻繁で大まかなため、放牧地以外も不必要に燃やされています。そのため、雨季に土壌の流出により土地が侵食されている地域もあります。Aloe macrocladaはかつては非常に豊富なアロエでしたが、分布域の広さからすると、今では希少となってしまいました。A. macrocladaは火災にも耐える能力はありますが、絶対ではありません。もう1つの例はAloe albifloraで、1939年のBoiteau以降は見つかっていません。2003年にNorbert Rebmannが指揮する探検隊に参加し、特にTsivory地方でA. albifloraを探しましたが、見つけることは出来ませんでした。この地域は焼畑農業が盛んで、A. albifloraは絶滅した可能性が高いようです。
マダガスカル南部では過放牧により破壊的な被害がありました。ディディエレア科の乾燥性森林は、1年の2/3に及ぶ乾季に家畜の侵入を受けます。植物は食べられたり踏みつけられたりし、CeropegiaやSenecio、Euphorbia、Stapelianthusなどの多数の小型の草本が消滅します。例としてTsiombeの東にあるIhodaの塩湖地域の周囲の森があり、よく保存されていると考えられていましたが、2006年に著者が訪れた時には大変な被害を受けていました。
これらの地面を被覆する植物の消失は、土壌流出を起こします。何世紀もサイクロンに耐えてきたAloe suzannaeも土壌侵食により倒壊しました。

Aloe albiflora
移入種
Agave sisalanaは海外から導入された経済植物で、プランテーションで栽培されます。Amboasary地域では、良質な繊維が取れるAgaveの栽培のために、数千ヘクタールの乾燥地帯の森林が破壊されました。3年間に2回訪れた著者は、Euphorbia ambovombensis var. ambatomenaensisが消滅していることに気が付きました。また、Aloe ruffingianaはまだ豊富にあるものの、適度に遮光してくれていたディディエレアの減少により、強光にさらされてしまっています。
その他の移入種としては、Agave ixtlii があり家畜を囲うための生け垣として利用されますが、大量のムカゴを生成し、ムカゴは地面にばらまかれ増えるため、自然植生に悪影響を及ぼします。
18世紀に導入されたOpuntia monacanthaはやはり生け垣として利用されました。しかし、あまりに増えすぎたため、1923年に天敵のコナカイガラムシの導入が決定されました。それからわずか4年でO. monacanthaは急激に減少しましたが、コナカイガラムシも同時に減少しいなくなりました。するとO. monacanthaは再び急激に増殖を開始しました。
Opuntia ficus-indica var. anacanthaisは乾季の牛の餌とするために導入されました。牧畜民は火でトゲを焼いてから牛に与えます。しかし、Saint Marie岬の保護区にO. ficus-indicaが投棄されたようで、年々分布を拡大しています。

Euphorbia ambovombensis
外来の樹木による悪影響
森林再生の試みも外来種の発生源となっています。薪や木材の不足を緩和し、土壌侵食を食い止めるためにユーカリや松、アカシアなどの外来種の植林が1世紀前から開始されました。残念ながらこれらの植林地も野放図な焼畑により更地になり、土壌侵食が進行していることも珍しくありません。また、これらの樹種の下では、在来種は育ちません。Fort Dauphinではユーカリが土壌を不毛にしてしまい、元来の植生が徐々に消えつつあります。例えば、Euphorbia francoisiiは深刻な絶滅の危機に瀕しています。
Ambositra地域では、松のプランテーションにより植生に被害が出ています。IvatoではAloe coniferaは針葉樹の生えない花崗岩の岩の上にしか残っていません。残念ながら他にも沢山の例が挙げられます。

Euphorbia francoisii
開発による脅威
最近、Fort Dauphinで大規模な石炭鉱床が発見されました。露天掘りによる開発が始れば、数百ヘクタールの植生を破壊してしまいます。この地域はアロエやユーフォルビアなどの多肉植物や食虫植物、蘭などの重要な自生地です。開発前に植生の調査が実施されないことは残念です。
石炭輸送のために幹線道路と港湾の工事が進行中です。Aloe bakeriの自生していた丘は石材のために爆破され、今は更地になってしまいました。

Aloe bakeri
未記載種
マダガスカルにはまだ発見されていない種が沢山あると考えられており、毎年のように新種が発見されています。地元の採取者により採取されたため、正確な自生地が分からないものもあります。Aloe pronkiiやAloe florenceaeなどがそうです。しかし、発見される前に消滅した種が沢山あるはずです。
植生が消滅した地域に再び植林出来ると考えるのは幻想的です。侵食した土壌は不毛の地になります。この侵食による深い傷である「lavaka」(※)がそれを証明しています。

Aloe florenceae
(※) マダガスカルの丘の側面によく見られる侵食地形のこと。自然でも形成されるが、森林破壊、過放牧、道路建設、野焼きなどによることもある。
以上が2007年の報告の簡単な要約です。
想像以上に状況は悪化していることが分かります。しかし、地元の人々が貧したゆえに、生きるために短期的な利益を得るため自然破壊を行うことを、我々が咎めることが果たして出来るでしょうか? 短期的な利益のためであったとしても、土壌侵食や植生の消滅は、将来的に地元の人々を養うことを不可能にするでしょう。著者も「人口増加と政治当局の欠陥は、この国に取り返しのつかない暗い未来を示しているようだ。」という一文で締めています。非常に残念なことですが、我々に出来ることはあまりにも小さく無力であることを実感させられます。果たして解決策はあるのでしょうか?
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Pachypodium densiflorum
森林の著しい減少
島の最初の住民は約2500年前に到着しました。マダガスカル島は森林に覆われていましたが、人口増加と共に伐採され、1950年以降は原生林は50%以上が失われました。1年あたり30万ヘクタールが破壊され、現時点では92%の森林が破壊されました。
著者は近年、マダガスカルを旅し、環境の劣化が加速していることを確認しました。最も重要な問題は、森林破壊、焼畑農業、過放牧ですが、これに外来種の侵入が加わる可能性があります。

Euphorbia makayensis
森林破壊
マダガスカルでは樹木の伐採は禁止されていますが、先住民は森に侵入し定期的に伐採を繰り返しています。そのため、島の北にあるフランセ山では着生ランや地生ラン、Impatiens tuberosaの希少性に気が付きます。
2006年に著者は3年振りにAmbositraの原生林を訪れましたが、非常に大きな変化がありました。森林は伐採され焼け落ち、生き残ったカメレオンが積もった灰の中を歩いていました。多くの野生ランやカランコエ、着生するペペロミアなどが消滅していました。
Tulear近郊のような一部の地域では、森林伐採により木材が枯渇し、木炭の価格が全国平均の5倍になっています。
2005年に著者と共にAmbalavao地方を訪れたJohn Lavranosは、ほんの30年前は一帯が森林に覆われていたと打ち明けてくれました。

Euphorbia tulearensis
過放牧と焼畑農業
数千万頭のコブウシと多数のヤギは、マダガスカルの生態系に大きな圧力をかけています。かつての森林は野焼きにより草原になり、家畜の放牧が行われています。乾季には草原も野焼きが行われますが、あまりに頻繁で大まかなため、放牧地以外も不必要に燃やされています。そのため、雨季に土壌の流出により土地が侵食されている地域もあります。Aloe macrocladaはかつては非常に豊富なアロエでしたが、分布域の広さからすると、今では希少となってしまいました。A. macrocladaは火災にも耐える能力はありますが、絶対ではありません。もう1つの例はAloe albifloraで、1939年のBoiteau以降は見つかっていません。2003年にNorbert Rebmannが指揮する探検隊に参加し、特にTsivory地方でA. albifloraを探しましたが、見つけることは出来ませんでした。この地域は焼畑農業が盛んで、A. albifloraは絶滅した可能性が高いようです。
マダガスカル南部では過放牧により破壊的な被害がありました。ディディエレア科の乾燥性森林は、1年の2/3に及ぶ乾季に家畜の侵入を受けます。植物は食べられたり踏みつけられたりし、CeropegiaやSenecio、Euphorbia、Stapelianthusなどの多数の小型の草本が消滅します。例としてTsiombeの東にあるIhodaの塩湖地域の周囲の森があり、よく保存されていると考えられていましたが、2006年に著者が訪れた時には大変な被害を受けていました。
これらの地面を被覆する植物の消失は、土壌流出を起こします。何世紀もサイクロンに耐えてきたAloe suzannaeも土壌侵食により倒壊しました。

Aloe albiflora
移入種
Agave sisalanaは海外から導入された経済植物で、プランテーションで栽培されます。Amboasary地域では、良質な繊維が取れるAgaveの栽培のために、数千ヘクタールの乾燥地帯の森林が破壊されました。3年間に2回訪れた著者は、Euphorbia ambovombensis var. ambatomenaensisが消滅していることに気が付きました。また、Aloe ruffingianaはまだ豊富にあるものの、適度に遮光してくれていたディディエレアの減少により、強光にさらされてしまっています。
その他の移入種としては、Agave ixtlii があり家畜を囲うための生け垣として利用されますが、大量のムカゴを生成し、ムカゴは地面にばらまかれ増えるため、自然植生に悪影響を及ぼします。
18世紀に導入されたOpuntia monacanthaはやはり生け垣として利用されました。しかし、あまりに増えすぎたため、1923年に天敵のコナカイガラムシの導入が決定されました。それからわずか4年でO. monacanthaは急激に減少しましたが、コナカイガラムシも同時に減少しいなくなりました。するとO. monacanthaは再び急激に増殖を開始しました。
Opuntia ficus-indica var. anacanthaisは乾季の牛の餌とするために導入されました。牧畜民は火でトゲを焼いてから牛に与えます。しかし、Saint Marie岬の保護区にO. ficus-indicaが投棄されたようで、年々分布を拡大しています。

Euphorbia ambovombensis
外来の樹木による悪影響
森林再生の試みも外来種の発生源となっています。薪や木材の不足を緩和し、土壌侵食を食い止めるためにユーカリや松、アカシアなどの外来種の植林が1世紀前から開始されました。残念ながらこれらの植林地も野放図な焼畑により更地になり、土壌侵食が進行していることも珍しくありません。また、これらの樹種の下では、在来種は育ちません。Fort Dauphinではユーカリが土壌を不毛にしてしまい、元来の植生が徐々に消えつつあります。例えば、Euphorbia francoisiiは深刻な絶滅の危機に瀕しています。
Ambositra地域では、松のプランテーションにより植生に被害が出ています。IvatoではAloe coniferaは針葉樹の生えない花崗岩の岩の上にしか残っていません。残念ながら他にも沢山の例が挙げられます。

Euphorbia francoisii
開発による脅威
最近、Fort Dauphinで大規模な石炭鉱床が発見されました。露天掘りによる開発が始れば、数百ヘクタールの植生を破壊してしまいます。この地域はアロエやユーフォルビアなどの多肉植物や食虫植物、蘭などの重要な自生地です。開発前に植生の調査が実施されないことは残念です。
石炭輸送のために幹線道路と港湾の工事が進行中です。Aloe bakeriの自生していた丘は石材のために爆破され、今は更地になってしまいました。

Aloe bakeri
未記載種
マダガスカルにはまだ発見されていない種が沢山あると考えられており、毎年のように新種が発見されています。地元の採取者により採取されたため、正確な自生地が分からないものもあります。Aloe pronkiiやAloe florenceaeなどがそうです。しかし、発見される前に消滅した種が沢山あるはずです。
植生が消滅した地域に再び植林出来ると考えるのは幻想的です。侵食した土壌は不毛の地になります。この侵食による深い傷である「lavaka」(※)がそれを証明しています。

Aloe florenceae
(※) マダガスカルの丘の側面によく見られる侵食地形のこと。自然でも形成されるが、森林破壊、過放牧、道路建設、野焼きなどによることもある。
以上が2007年の報告の簡単な要約です。
想像以上に状況は悪化していることが分かります。しかし、地元の人々が貧したゆえに、生きるために短期的な利益を得るため自然破壊を行うことを、我々が咎めることが果たして出来るでしょうか? 短期的な利益のためであったとしても、土壌侵食や植生の消滅は、将来的に地元の人々を養うことを不可能にするでしょう。著者も「人口増加と政治当局の欠陥は、この国に取り返しのつかない暗い未来を示しているようだ。」という一文で締めています。非常に残念なことですが、我々に出来ることはあまりにも小さく無力であることを実感させられます。果たして解決策はあるのでしょうか?
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