「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以外、CITES)」は希少な野生の動植物の国際的な取引を禁止しています。サボテンや多肉植物の多くはCITESの附属書に記載された希少な植物です。我々のような趣味家にも無関係ではなく、知らずに違法取引による植物を入手してしまう可能性もありますが、それでも知らないでは済まされないことだと私は思います。ですから、私自身の勉強を兼ねて、CITESや植物の違法取引について、今日から何本かの論文を参照に見ていきましょう。
CITESは重要ですが、条約が存在するだけでは意味がなく、有効的に運用されて初めて意味を持ちます。本日は、サボテンや多肉植物に関するCITESの取り組みについて書かれた、Maurizio Sajevaらの2007年の論文、『The Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES) and its Role in Conservation of Cacti and Other Succulent Plants』をご紹介します。少し古い論文ですが、基礎的なことから丁寧に解説されています。
CITESの誕生と目的
生息地の破壊は生物多様性の減少の主な原因ですが、2番目は野生動植物の取引が原因です。野生生物の取引の規制は、1963年のICUN(国際自然保護連合)に承認された決議草案により生まれました。CITESのテキストは、1973年に約80か国により承認され、1975年の7月に発効しました。CITESはUNEP(国連環境計画)を通じて国連の傘下にあります。現在(2007年)、170か国以上がCITESの加盟国になっています。
CITESは生息地での生存に対する深刻な脅威となる、あるいは将来に取引される可能性のある種の取引を管理・規制することを目的としています。
CITESの骨格
CITESは国際条約であり、締結国は管理当局と科学当局を任命する必要があります。管理当局は政府の部門であり、条約の規定を実行しCITESの許可を発行する責任があります。CITESの事務局はスイスのジュネーブに本拠があり、条約の実施を支援します。
科学当局はCITES許可する申請について管理当局に科学的な助言をします。また、植物の輸出、または輸入が野生の生物に有害であるかを管理当局に助言します。CITES締結国会議(CoP)の会合は、2〜3年ごとに開催され、締結国が附属書を修正し、政策の問題について議論します。採決は投票により行われ、各国政府に1票の投票権があります。非政府組織もCoPに参加出来ますが、投票権はありません。
附属書
CITESは脅威のレベルに応じ、3種類の附属書を発行しています。CITES附属書には、約5000種類の動物と25000種類以上の植物が含まれています。
附属書Iは、絶滅の危機に瀕しており、その取引が絶滅につながる種です。野生個体の取引は禁止されていますが、人工繁殖個体は適切な承認を条件に許可されています。
附属書IIは、取引が制御されず継続した場合、絶滅する可能性がある種です。附属書IIには、絶滅の危機に瀕していないかも知れないが、判別が困難な種も含まれています。ほとんどの野生植物は附属書IIに含まれ、その取引には許可が必要です。
附属書IIIは、各国により保護され、CITESの締結国から協力を求められている種です。
CITESの及ぶ範囲
CITESは植物そのものだけではなく、植物の一部や、植物から作られた製品の取引も管理の対象です。また、植物標本などの科学資料も含まれます。
各国は自国の貿易に関する年次報告書を作成しなくてはなりません。問題が発生した場合、CITES常任委員会が制裁を行う可能性があり、多くの場合は是正措置が行なわれるまで貿易禁止の対象となります。
サボテンと多肉植物
昔からサボテンや多肉植物は栽培されてきましたが、第二次世界大戦後は福祉と輸送の改善のため、その栽培と取引は急増しました。
野生植物に対する高い需要は、野生の個体群に非常に高い圧力をもたらし、一部の分類群は1970年代の終わりまでに絶滅しました。
①サボテン科 Cactaceae
サボテンはアメリカ大陸に固有で、リプサリスなどの着生種の一部はマダガスカルやスリランカに自生します。サボテン科は祖先型のペレスキアから、アリオカルプス、メロカクタスまで非常に幅広い形態を持ちます。直径はブロスフェルディアの数センチメートルから、エキノカクタスの1メートル以上まで、高さはカーネギアの数メートルまで様々です。
CITESが発効された時、サボテン科はすべて附属書IIに記載され、一部は附属書Iに記載されました。附属書Iには約90種が含まれます。
②ユーフォルビア属 Euphorbia
ユーフォルビア属には2000種類以上が含まれ、世界中に分布しています。一年草から木本、多肉植物まで様々な形態を持ちます。最も有名なユーフォルビアは、ポインセチア(Euphorbia pulcherrima)です。
ほとんどの多肉質のユーフォルビアは緑色の茎を持ち、高さは数センチメートルから高さ4メートルを超えるものまで様々です。通常、葉は短命で、トゲを持つものもあります。多肉質なユーフォルビアは、アメリカ大陸でサボテンが担う役割をアフリカで果たしています。多肉質なユーフォルビア約700種は附属書IIに記載され、10種類のマダガスカルの矮性種が附属書Iに記載されています。
③アロエ属 Aloe
アロエ属には500種以上が含まれ、アフリカ南部とアフリカ東部、マダガスカルに集中しています。
22種類のアロエが附属書Iに記載され、Aloe vera以外のアロエは附属書IIに記載されています。Aloe veraはCITESの対象とならない唯一のアロエで、医薬品や化粧品産業に供給するために世界中で栽培されています。1994年のCoPでAloe veraは野生個体が存在しないとされ、CITESから除外されました。
④パキポディウム属 Pachypodium
パキポディウム属は附属書IIに記載され、3種類は附属書Iに記載されています。附属書Iに記載された種はマダガスカル原産で、その希少性と貿易需要のため1990年代にリストアップされました。
⑤ディディエレア科 Didiereaceae
ディディエレア科はAlluaudia、Alluaudiopsis、Decarya、Didiereaからなる多肉植物です。マダガスカル南部と南西部の乾燥したトゲのある森林の重要な構成員です。ディディエレア科植物は伐採により生息地は脅かされています。園芸取引の需要は1980年代にピークを迎え、その後は一般化しました。ディディエレア科のすべては附属書IIに記載されています。
⑥フォウクエリア属 Fouquieria
フォウクエリア属には11種類が含まれ、メキシコと米国南西部に限定的に分布します。
附属書IにはF. fasciculataとF. purpusiiが記載され、F. columnarisなど3種類は附属書IIに記載されています。
⑦アナカンプセロスとアボニア
Anacampseros & Avonia
アナカンプセロスとアボニア(かつてはアナカンプセロスに含まれていた)には20種類以上が含まれ、その大部分はアフリカ原産です。すべての種は附属書IIに記載されています。
アフリカ原産種は園芸的に価値が高く、コレクターは脅威です。しかし、現在のCITESの貿易データでは、取引はほとんどされていないことになっていますが、違法取引の報告はあります。
⑧Welwitschia mirabilis
ウェルウィッチアは霧などの湿気で生存する最大1500年に及ぶ長寿命の固有種です。以前は附属書Iに記載されていましたが、生息数はそれほど珍しくはなく、十分に保護されていることから、附属書IIに下げられました。種子を除いて野生個体が取引される可能性は低いと考えられます。アンゴラとナミビアの原産です。
⑨アガヴェ Agave
リュウゼツラン属には200種類以上が含まれますが、CITESで規制されているのは2種類だけです。附属書IにはA. parvifloraが、附属書IIにはA. victoria-reginaeが記載されています。これらの種類が国際取引される可能性はあまりありません。
⑩パイナップル科 Bromeliaceae
いわゆるアナナスとかブロメリアの仲間ですが、これらを多肉植物と考える人もいます。熱帯アメリカに300種類以上あり、着生植物でエアプラントと呼ばれています。原産地では電線などにも着生し一般的です。これらのうち、7種類は附属書IIに記載されています。グアテマラは主要な生産・輸出国です。アナナスの貿易は持続可能と考えられて来ましたが、Tillandsia xerographicaの栽培品とされるものが、CITESの人工繁殖の定義に当てはまるのか疑問視されています。
人工繁殖の免除
CITESの利点の1つは、多くの植物の人工繁殖を促進することです。人工繁殖は野生個体への圧を取り除き、野生植物を採取する必要をなくし、安価で高品質で病気のない植物を提供出来ます。このことから、締結国はCITESの管理からいくつかの種類を免除しました。サボテンの栽培品種を始め、ユーフォルビアの3種、蘭の栽培品種が含まれます。
CITESの人工繁殖の定義は、管理された環境下での栽培品を指します。野生個体を採取してきて栽培したものは当てはまりません。栽培品はCITESの許可により確立したものでなくてはなりません。違法採取された野生個体から種子をとり、その種子を実生してできた個体は人工繁殖したものとは見なされません。人工繁殖をするためには野生個体を採取する必要が生じますが、これもCITESの許可により実施されるべきです。
以上が論文の簡単な要約です。
しかし、読んでいて思うのは、内容があまりに理想主義過ぎるということです。そうであるべきであるというのは分かりますが、実際にそうであるかはまた別の問題です。CITESは万能ではありません。明日はそんなCITESの現実的な話についてご紹介したいと思います。残念ながら多肉植物ではありませんが、貴重な植物の宝庫であるマダガスカルも関係する樹木の輸出に関する話題です。CITESのこれからを占う重要な論文です。ぜひ、御一読のほどをお願いいただけますと嬉しく思います。
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CITESは重要ですが、条約が存在するだけでは意味がなく、有効的に運用されて初めて意味を持ちます。本日は、サボテンや多肉植物に関するCITESの取り組みについて書かれた、Maurizio Sajevaらの2007年の論文、『The Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES) and its Role in Conservation of Cacti and Other Succulent Plants』をご紹介します。少し古い論文ですが、基礎的なことから丁寧に解説されています。
CITESの誕生と目的
生息地の破壊は生物多様性の減少の主な原因ですが、2番目は野生動植物の取引が原因です。野生生物の取引の規制は、1963年のICUN(国際自然保護連合)に承認された決議草案により生まれました。CITESのテキストは、1973年に約80か国により承認され、1975年の7月に発効しました。CITESはUNEP(国連環境計画)を通じて国連の傘下にあります。現在(2007年)、170か国以上がCITESの加盟国になっています。
CITESは生息地での生存に対する深刻な脅威となる、あるいは将来に取引される可能性のある種の取引を管理・規制することを目的としています。
CITESの骨格
CITESは国際条約であり、締結国は管理当局と科学当局を任命する必要があります。管理当局は政府の部門であり、条約の規定を実行しCITESの許可を発行する責任があります。CITESの事務局はスイスのジュネーブに本拠があり、条約の実施を支援します。
科学当局はCITES許可する申請について管理当局に科学的な助言をします。また、植物の輸出、または輸入が野生の生物に有害であるかを管理当局に助言します。CITES締結国会議(CoP)の会合は、2〜3年ごとに開催され、締結国が附属書を修正し、政策の問題について議論します。採決は投票により行われ、各国政府に1票の投票権があります。非政府組織もCoPに参加出来ますが、投票権はありません。
附属書
CITESは脅威のレベルに応じ、3種類の附属書を発行しています。CITES附属書には、約5000種類の動物と25000種類以上の植物が含まれています。
附属書Iは、絶滅の危機に瀕しており、その取引が絶滅につながる種です。野生個体の取引は禁止されていますが、人工繁殖個体は適切な承認を条件に許可されています。
附属書IIは、取引が制御されず継続した場合、絶滅する可能性がある種です。附属書IIには、絶滅の危機に瀕していないかも知れないが、判別が困難な種も含まれています。ほとんどの野生植物は附属書IIに含まれ、その取引には許可が必要です。
附属書IIIは、各国により保護され、CITESの締結国から協力を求められている種です。
CITESの及ぶ範囲
CITESは植物そのものだけではなく、植物の一部や、植物から作られた製品の取引も管理の対象です。また、植物標本などの科学資料も含まれます。
各国は自国の貿易に関する年次報告書を作成しなくてはなりません。問題が発生した場合、CITES常任委員会が制裁を行う可能性があり、多くの場合は是正措置が行なわれるまで貿易禁止の対象となります。
サボテンと多肉植物
昔からサボテンや多肉植物は栽培されてきましたが、第二次世界大戦後は福祉と輸送の改善のため、その栽培と取引は急増しました。
野生植物に対する高い需要は、野生の個体群に非常に高い圧力をもたらし、一部の分類群は1970年代の終わりまでに絶滅しました。
①サボテン科 Cactaceae
サボテンはアメリカ大陸に固有で、リプサリスなどの着生種の一部はマダガスカルやスリランカに自生します。サボテン科は祖先型のペレスキアから、アリオカルプス、メロカクタスまで非常に幅広い形態を持ちます。直径はブロスフェルディアの数センチメートルから、エキノカクタスの1メートル以上まで、高さはカーネギアの数メートルまで様々です。
CITESが発効された時、サボテン科はすべて附属書IIに記載され、一部は附属書Iに記載されました。附属書Iには約90種が含まれます。
②ユーフォルビア属 Euphorbia
ユーフォルビア属には2000種類以上が含まれ、世界中に分布しています。一年草から木本、多肉植物まで様々な形態を持ちます。最も有名なユーフォルビアは、ポインセチア(Euphorbia pulcherrima)です。
ほとんどの多肉質のユーフォルビアは緑色の茎を持ち、高さは数センチメートルから高さ4メートルを超えるものまで様々です。通常、葉は短命で、トゲを持つものもあります。多肉質なユーフォルビアは、アメリカ大陸でサボテンが担う役割をアフリカで果たしています。多肉質なユーフォルビア約700種は附属書IIに記載され、10種類のマダガスカルの矮性種が附属書Iに記載されています。
③アロエ属 Aloe
アロエ属には500種以上が含まれ、アフリカ南部とアフリカ東部、マダガスカルに集中しています。
22種類のアロエが附属書Iに記載され、Aloe vera以外のアロエは附属書IIに記載されています。Aloe veraはCITESの対象とならない唯一のアロエで、医薬品や化粧品産業に供給するために世界中で栽培されています。1994年のCoPでAloe veraは野生個体が存在しないとされ、CITESから除外されました。
④パキポディウム属 Pachypodium
パキポディウム属は附属書IIに記載され、3種類は附属書Iに記載されています。附属書Iに記載された種はマダガスカル原産で、その希少性と貿易需要のため1990年代にリストアップされました。
⑤ディディエレア科 Didiereaceae
ディディエレア科はAlluaudia、Alluaudiopsis、Decarya、Didiereaからなる多肉植物です。マダガスカル南部と南西部の乾燥したトゲのある森林の重要な構成員です。ディディエレア科植物は伐採により生息地は脅かされています。園芸取引の需要は1980年代にピークを迎え、その後は一般化しました。ディディエレア科のすべては附属書IIに記載されています。
⑥フォウクエリア属 Fouquieria
フォウクエリア属には11種類が含まれ、メキシコと米国南西部に限定的に分布します。
附属書IにはF. fasciculataとF. purpusiiが記載され、F. columnarisなど3種類は附属書IIに記載されています。
⑦アナカンプセロスとアボニア
Anacampseros & Avonia
アナカンプセロスとアボニア(かつてはアナカンプセロスに含まれていた)には20種類以上が含まれ、その大部分はアフリカ原産です。すべての種は附属書IIに記載されています。
アフリカ原産種は園芸的に価値が高く、コレクターは脅威です。しかし、現在のCITESの貿易データでは、取引はほとんどされていないことになっていますが、違法取引の報告はあります。
⑧Welwitschia mirabilis
ウェルウィッチアは霧などの湿気で生存する最大1500年に及ぶ長寿命の固有種です。以前は附属書Iに記載されていましたが、生息数はそれほど珍しくはなく、十分に保護されていることから、附属書IIに下げられました。種子を除いて野生個体が取引される可能性は低いと考えられます。アンゴラとナミビアの原産です。
⑨アガヴェ Agave
リュウゼツラン属には200種類以上が含まれますが、CITESで規制されているのは2種類だけです。附属書IにはA. parvifloraが、附属書IIにはA. victoria-reginaeが記載されています。これらの種類が国際取引される可能性はあまりありません。
⑩パイナップル科 Bromeliaceae
いわゆるアナナスとかブロメリアの仲間ですが、これらを多肉植物と考える人もいます。熱帯アメリカに300種類以上あり、着生植物でエアプラントと呼ばれています。原産地では電線などにも着生し一般的です。これらのうち、7種類は附属書IIに記載されています。グアテマラは主要な生産・輸出国です。アナナスの貿易は持続可能と考えられて来ましたが、Tillandsia xerographicaの栽培品とされるものが、CITESの人工繁殖の定義に当てはまるのか疑問視されています。
人工繁殖の免除
CITESの利点の1つは、多くの植物の人工繁殖を促進することです。人工繁殖は野生個体への圧を取り除き、野生植物を採取する必要をなくし、安価で高品質で病気のない植物を提供出来ます。このことから、締結国はCITESの管理からいくつかの種類を免除しました。サボテンの栽培品種を始め、ユーフォルビアの3種、蘭の栽培品種が含まれます。
CITESの人工繁殖の定義は、管理された環境下での栽培品を指します。野生個体を採取してきて栽培したものは当てはまりません。栽培品はCITESの許可により確立したものでなくてはなりません。違法採取された野生個体から種子をとり、その種子を実生してできた個体は人工繁殖したものとは見なされません。人工繁殖をするためには野生個体を採取する必要が生じますが、これもCITESの許可により実施されるべきです。
以上が論文の簡単な要約です。
しかし、読んでいて思うのは、内容があまりに理想主義過ぎるということです。そうであるべきであるというのは分かりますが、実際にそうであるかはまた別の問題です。CITESは万能ではありません。明日はそんなCITESの現実的な話についてご紹介したいと思います。残念ながら多肉植物ではありませんが、貴重な植物の宝庫であるマダガスカルも関係する樹木の輸出に関する話題です。CITESのこれからを占う重要な論文です。ぜひ、御一読のほどをお願いいただけますと嬉しく思います。
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