サボテンの受粉は、様々な動物により行われてます。夜間に白い花を咲かせる柱サボテンは、種類によりますがコウモリや蛾により受粉します。逆に日中に咲く赤系統の細長い花にはハチドリが訪れます。ところで、花の受粉と言えばミツバチですが、サボテンではどうなのでしょうか? 近年では今までほどミツバチは重要ではない可能性が指摘されています。しかし私自身、サボテンとミツバチの関係についてよく知らないことに気が付きました。何か良い論文はないか調べたところ、M. E. Mcintoshの2005年の論文、『Pollination of two species of Ferocactus: interaction between cactus-specialist bees and their host plants』が見つかりました。内容は、2種類のFerocactusの花を訪れるミツバチを調査したものです。この論文で調査されたFerocactus cylindraceusとFerocactus wislizeniの2種類はミツバチにより受粉することが前提として、研究がスタートしています。では、何を調べたのかと言えば、スペシャリストとジェネラリストについてです。花粉媒介者は、ある植物の花に特化したスペシャリストと、様々な植物の花を訪れるジェネラリストに分けられます。スペシャリストが来るからと言っても、必ずしもスペシャリストが受粉に適しているとは限りません。その植物と1対1の関係を結んでいるのならばまだしも、タイヨウチョウのように花の蜜に特化したスペシャリストだと、植物の種類によっては単なる蜜泥棒となります。

さて、著者らはFerocactus cylindraceusとFerocactus wislizeniの花を観察し、花への訪問者とその花の結実と種子を確認しました。アリゾナ州のツーソンの北西の尾根でF. cylindraceusを、ツーソンの南40kmのサンタリタ実験場でF. wislizeniを観察しました。F. cylindraceusは4月下旬から9月に開花し、F. wislizeniは7月中旬から10月に開花しました。どちらも自家不和合性で、自身の花粉での受粉は約2%に過ぎません。
結果として、2種類のFerocactusはサボテン専門のミツバチである「サボテンミツバチ」の訪問を受けていることが明らかとなりました。特に、F. cylindraceusは、ほぼDiadasia rinconisというサボテンミツバチしか訪問せず、その他の少数の訪問者もSvastra duplocinctaやAshmeadiella opuntiaeという、異なる種類のサボテンミツバチでした。
対するF. wislizeniは、上記の3種類のサボテンミツバチにより65〜80%受粉しました。3種類のミツバチの割合は毎年変動がありました。
また、外来種のセイヨウミツバチやハエ、蝶の訪問では受粉しませんでした。
ここで、花粉媒介者の質を見てみます。
F. wislizeniには3種類のサボテンミツバチが訪問しますが、花への訪問による結実には違いがありました。D. rinconisの訪問は約33%に過ぎないにも関わらず、種子生産の79%を占めていました。

以上が論文の簡単な要約です。
2種類のフェロカクタスは、サボテンに特化したスペシャリストにより受粉することが明らかとなりました。しかも、Diadasia rinconisという特定種に依存しています。しかし、スペシャリストとの関係は大変興味深いものです。スペシャリストが受粉に有利であるならば、サボテンも受粉率が上がり増えやすくなります。サボテンの個体数が増えれば、サボテンミツバチにも有利な環境となります。このような緩い共生関係は、気付かないだけで自然界では幾重にも張り巡らされているのでしょう。
そう言えば、セイヨウミツバチが受粉に関与しないとされています。近年、セイヨウミツバチの受粉について過大評価であったとされていますが、ここでも確認出来ます。そもそも、種類によるとは思いますが、野生のサボテンにはあまりセイヨウミツバチは訪れないという観察は昔からされています。ただし、著者らは、サボテンミツバチの毛深さが花粉媒介者として重要かも知れないと言います。ですから、アリゾナ州のツーソンではサボテンミツバチによるというだけで、マルハナバチなどが生息している地域では異なるかも知れません。まあ、マルハナバチがサボテンの花を積極的に訪れるならばの話ですが。


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