Fouquieriaはメキシコの乾燥地に生える灌木です。日本でも一部の種類は実生苗がある程度は流通しています。私も何種類か育てていますが、意外にもFouquieriaは乾燥に敏感で葉がすぐに落ちてしまい困っていました。そんな中、Fouquieriaを種子から10年間栽培したEnrico Ceottoの2017年の『Cultivation of Ocotillo from Seeds to Flowers: A Ten Year Experience in Northern Italy』という論文を見つけました。夏は暑く冬は寒い北イタリアでの栽培記録です。同じく、夏は暑く冬は寒い日本のFouquieria栽培の参考になるかも知れません。
野生のOcotillo
Ocotillo(Fouquieria splendens)は、米国南西部とメキシコ北部に分布する干ばつ落葉性砂漠低木です。高さは6mまでで、赤色の花を咲かせハチドリやミツバチにより受粉します。西部の個体は花が長くハチドリが主要な花粉媒介者で、東部の個体は花が短くミツバチが主要な花粉媒介者であるとされています。
干ばつ落葉植物は乾燥するとすぐに葉を落として休眠します。葉を落とすことにより、蒸散による水分損失を最小限として、長期間の乾燥に耐えるのです。Ocotilloも葉のない状態で干ばつに耐え、雨が降ると急速に葉を出します。
ボローニャの環境
論文ではイタリア北部のボローニャで著者がOcotilloを栽培しました。ボローニャの気候はOcotilloの自生地とは異なります。ここでは、アリゾナ州のツーソンと比較します。ボローニャの年間降水量は平均671mmで、主に春と秋に降ります。7〜8月はツーソンと比較するとボローニャの方が降水量が少なく乾きます。しかし、相対湿度はボローニャが通年にわたり高くなっています。ボローニャの気温はツーソンより低くなりますが、6〜8月には非常に暑くなることが頻繁にあります。ボローニャの夏は34〜37℃に達し、相対湿度が高いこともあり実際の気温より暑く感じます。このように、まったく異なる環境でOcotilloを、種子から10年間にわたり育てた記録です。
実生
Ocotilloの種子は平らで奇妙なものです。著者はアリゾナ州のMohave郡Yuccaで、2008年7月に種子を採取し月末に播種しました。播種した20個の種子は1週間以内に発芽し、14本の幼苗を得ました。
干ばつに強い砂漠の植物であっても、種子の発芽と幼苗の生存には水分が必要です。著者は発芽にはJiffy Peat Pellet(水で膨らむピートで出来たポット)を使用しました。ピートは多孔質で空気を含み、水分を貯蔵します。発芽後は根が急速に育つため、植え替えが必要です。
水やり
Ocotilloのアキレス腱は根腐れ病に対する弱さで、常に湿った土壌では生きられません。著者の経験ではサボテンと比較しても根腐れを起こしやすく敏感です。著者は水はけを重視し、砂質土とピートの組み合わせをチョイスしました。
Brookbank(1992)は、Ocotilloの土壌は湿らせておく必要があるが、ずっと湿っていてはならないと言っています。標準的な方法は、乾いてから水やりをすることです。著者は以下の2つの規則を採用しました。曰く、①土壌の表面が濡れている時には水をやらない、②土の表面の1/4以下湿らせ残りを乾いたままにする、ということです。
さて、実生は多くの水分を必要としますが、砂漠では湿った環境が数週間続くため幼苗は急速に育ちます。しかし、タイミングよく雨が降らないとその後は生き残れません。
栽培から1年でOcotilloの特性を備えた成体のミニチュアに育ちました。すでに干ばつに耐えることができます。生育期に過剰にならない水をやることで、急速に育ちます。Ocotilloは通常は肥沃度の低い土壌に生えるため、施肥はほとんど必要ありません。とはいえ、著者は窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、および微量元素が入った液肥を与え、その効果は確認したようです。
著者の4年目の栽培では8月に雨が降らなかったため、葉を落として干ばつに耐えていましたが、8月31日に雷雨がありました。その10日後には新しい葉が生え揃いました。
害虫
著者は最初は室内で幼苗を育てようとしましたが、葉が不自然な見た目になったので、完全な日照を必要としていることを示しています。また、温室栽培は便利ですが、防除が難しいコナジラミがつきやすく、屋外ではクモなどにより害虫により減少しました。また、いくつかの年にはアブラムシがつきました。Ocotilloの新しい葉や茎はアブラムシに敏感でした。アブラムシは取り除くのはなかなか困難で、殺虫剤が必要です。
Fouquieria splendens
アブラムシがついて少し葉が縮れました。
冬期
秋と冬はOcotilloは休眠します。温暖な気候では、休眠は11月から4月まで続きます。休眠中は土壌は乾燥させておきます。著者はOcotilloを無加温の温室に置いて、雨から保護しました。冬の間は氷点下になりましたが、Ocotilloは耐えることができました。
挿し木
Ocotilloは茎を挿し木することにより増やすことが出来ます。挿し木苗は実生苗と比べて急速に育ちますが、著者の挿し木苗は側枝がいつまで経っても出てこないということです。
木質化した茎を挿し木に使用しますが、冬の終わりに茎を切断すると夏の間は休眠状態となり、気候が穏やかな9〜10月に新しい葉を出す傾向があります。そのため、著者は秋に茎を切断して乾いたピートに挿して室内に置いておき、春先に控え目に水やりを始めればやがて葉が出て来ます。
開花
2016年の5月、8歳のOcotilloは開花しました。花は豊富な蜜を出し、ミツバチが頻繁に訪れます。著者はミツバチによる受粉によりOcotilloの種子を手にすることが出来ました。
今年はよく育ち、枝は去年までの高さと同じくらい伸びました。
以上が論文の簡単な要約です。
私もFouquieriaを苗ですが何種類か育てており、乾燥に敏感ですぐに葉を落としてしまうことが悩みでした。これは論文にあるように、干ばつに耐えるための戦略で、何もおかしなことではなかった訳です。しかし、ちょうど乾いたタイミングで水やりをするのは中々困難なので、私の育てているFouquieriaは葉が出たり落ちたりを繰り返しており中々育ちません。仕方がないので、今年は浅く腰水して育てていますが、今のところ根腐れの兆候はありません。むしろ、急激に枝が伸び始めて驚いているくらいです。危ない橋を渡っているのかも知れませんからおすすめは出来かねますが…。まあ、ある程度大きく育てば、もう少し耐えられるようになるでしょうか? いずれにせよ、私がFouquieriaの花を拝めるのは遠い未来のようですね。
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野生のOcotillo
Ocotillo(Fouquieria splendens)は、米国南西部とメキシコ北部に分布する干ばつ落葉性砂漠低木です。高さは6mまでで、赤色の花を咲かせハチドリやミツバチにより受粉します。西部の個体は花が長くハチドリが主要な花粉媒介者で、東部の個体は花が短くミツバチが主要な花粉媒介者であるとされています。
干ばつ落葉植物は乾燥するとすぐに葉を落として休眠します。葉を落とすことにより、蒸散による水分損失を最小限として、長期間の乾燥に耐えるのです。Ocotilloも葉のない状態で干ばつに耐え、雨が降ると急速に葉を出します。
ボローニャの環境
論文ではイタリア北部のボローニャで著者がOcotilloを栽培しました。ボローニャの気候はOcotilloの自生地とは異なります。ここでは、アリゾナ州のツーソンと比較します。ボローニャの年間降水量は平均671mmで、主に春と秋に降ります。7〜8月はツーソンと比較するとボローニャの方が降水量が少なく乾きます。しかし、相対湿度はボローニャが通年にわたり高くなっています。ボローニャの気温はツーソンより低くなりますが、6〜8月には非常に暑くなることが頻繁にあります。ボローニャの夏は34〜37℃に達し、相対湿度が高いこともあり実際の気温より暑く感じます。このように、まったく異なる環境でOcotilloを、種子から10年間にわたり育てた記録です。
実生
Ocotilloの種子は平らで奇妙なものです。著者はアリゾナ州のMohave郡Yuccaで、2008年7月に種子を採取し月末に播種しました。播種した20個の種子は1週間以内に発芽し、14本の幼苗を得ました。
干ばつに強い砂漠の植物であっても、種子の発芽と幼苗の生存には水分が必要です。著者は発芽にはJiffy Peat Pellet(水で膨らむピートで出来たポット)を使用しました。ピートは多孔質で空気を含み、水分を貯蔵します。発芽後は根が急速に育つため、植え替えが必要です。
水やり
Ocotilloのアキレス腱は根腐れ病に対する弱さで、常に湿った土壌では生きられません。著者の経験ではサボテンと比較しても根腐れを起こしやすく敏感です。著者は水はけを重視し、砂質土とピートの組み合わせをチョイスしました。
Brookbank(1992)は、Ocotilloの土壌は湿らせておく必要があるが、ずっと湿っていてはならないと言っています。標準的な方法は、乾いてから水やりをすることです。著者は以下の2つの規則を採用しました。曰く、①土壌の表面が濡れている時には水をやらない、②土の表面の1/4以下湿らせ残りを乾いたままにする、ということです。
さて、実生は多くの水分を必要としますが、砂漠では湿った環境が数週間続くため幼苗は急速に育ちます。しかし、タイミングよく雨が降らないとその後は生き残れません。
栽培から1年でOcotilloの特性を備えた成体のミニチュアに育ちました。すでに干ばつに耐えることができます。生育期に過剰にならない水をやることで、急速に育ちます。Ocotilloは通常は肥沃度の低い土壌に生えるため、施肥はほとんど必要ありません。とはいえ、著者は窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、および微量元素が入った液肥を与え、その効果は確認したようです。
著者の4年目の栽培では8月に雨が降らなかったため、葉を落として干ばつに耐えていましたが、8月31日に雷雨がありました。その10日後には新しい葉が生え揃いました。
害虫
著者は最初は室内で幼苗を育てようとしましたが、葉が不自然な見た目になったので、完全な日照を必要としていることを示しています。また、温室栽培は便利ですが、防除が難しいコナジラミがつきやすく、屋外ではクモなどにより害虫により減少しました。また、いくつかの年にはアブラムシがつきました。Ocotilloの新しい葉や茎はアブラムシに敏感でした。アブラムシは取り除くのはなかなか困難で、殺虫剤が必要です。
Fouquieria splendens
アブラムシがついて少し葉が縮れました。
冬期
秋と冬はOcotilloは休眠します。温暖な気候では、休眠は11月から4月まで続きます。休眠中は土壌は乾燥させておきます。著者はOcotilloを無加温の温室に置いて、雨から保護しました。冬の間は氷点下になりましたが、Ocotilloは耐えることができました。
挿し木
Ocotilloは茎を挿し木することにより増やすことが出来ます。挿し木苗は実生苗と比べて急速に育ちますが、著者の挿し木苗は側枝がいつまで経っても出てこないということです。
木質化した茎を挿し木に使用しますが、冬の終わりに茎を切断すると夏の間は休眠状態となり、気候が穏やかな9〜10月に新しい葉を出す傾向があります。そのため、著者は秋に茎を切断して乾いたピートに挿して室内に置いておき、春先に控え目に水やりを始めればやがて葉が出て来ます。
開花
2016年の5月、8歳のOcotilloは開花しました。花は豊富な蜜を出し、ミツバチが頻繁に訪れます。著者はミツバチによる受粉によりOcotilloの種子を手にすることが出来ました。
今年はよく育ち、枝は去年までの高さと同じくらい伸びました。
以上が論文の簡単な要約です。
私もFouquieriaを苗ですが何種類か育てており、乾燥に敏感ですぐに葉を落としてしまうことが悩みでした。これは論文にあるように、干ばつに耐えるための戦略で、何もおかしなことではなかった訳です。しかし、ちょうど乾いたタイミングで水やりをするのは中々困難なので、私の育てているFouquieriaは葉が出たり落ちたりを繰り返しており中々育ちません。仕方がないので、今年は浅く腰水して育てていますが、今のところ根腐れの兆候はありません。むしろ、急激に枝が伸び始めて驚いているくらいです。危ない橋を渡っているのかも知れませんからおすすめは出来かねますが…。まあ、ある程度大きく育てば、もう少し耐えられるようになるでしょうか? いずれにせよ、私がFouquieriaの花を拝めるのは遠い未来のようですね。
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