花を訪れ花粉を運ぶ花粉媒介者には、1種類の植物の花に特化したものも少数ですがあります。本日は、そのような特殊な共生関係について調査したJ. Nathaniel Holland & Theodore H. Flemingの2002年の論文、『Co-pollinators and specialization in the pollinating seed-consumer mutualism between senita cacti and senita moths』をご紹介します。
特定の花粉媒介者に対して植物が特殊化することがありますが、特定の相手以外の受粉者が豊富な場合は、そのような方向へは進化しないかも知れません。
ソノラ砂漠に生えるsenita cactus(Lophocereus schottii)は、senita moths(Upiga virescens)という蛾により受粉すると言われています。しかし、senita mothsは夜間にsenita cactusを訪れますが、実は日中(早朝)のsenita cactusにはミツバチが訪れます。このミツバチの受粉に対する寄与次第では、senita mothsの評価も変わってきます。果たして、senita mothsはsenita cactusと特殊な関係を結んだ特別な花粉媒介者なのでしょうか? それとも、沢山いる花粉媒介者の1種類に過ぎないのでしょうか?
senita cactusの花は白っぽいピンク色で、自己不適合で雌雄同株です。日没後に開花し16時間以内に閉じます。開花時期は3月下旬から9月まで続くことがあります。1995年、1996年、1998年から2000年にかけて、メキシコのソノラ州のsenita cactusを観察しました。ハチが来れないように日中にネットをかけた場合と、蛾が来れないように夜間にネットをかけた場合の結実率を比較しました。
ミツバチは日の出後の数時間はsenita cactusの花から花粉を集めましたが、蜜の採取は観察されませんでした。ただし、どちらかといえば、ミツバチは大量の花粉と蜜を持つsaguaro (Carnegiea gigantea)やorgan pipe (Stenocereus thurberi)に惹きつけられるようです。また、気温が高いと花が萎れ、senita cactusは日の出前に花が閉じてしまうこともあり、必ずしもミツバチが花に訪れることができるとは限りませんでした。ミツバチがsenita cactusの花を訪問できるのは、一般に気温が低い4月から5月中旬です。それ以降の開花では、ミツバチはsenita cactusの花を訪れることは出来ません。
さて、では結果を見てみましょう。基本的に花からミツバチを除外しても、結実率は減少しませんでした。しかし、蛾を除外すると結実率は大幅に減少しました。
また、蛾により花粉が運ばれた花に人工的に花粉を追加しても、結実率は高くはなりませんでした。senita cactusは日没後に開花するため、基本的にすでに蛾の訪問を受けた花に、日の出後にミツバチが訪問します。花粉の追加により結実率が上がらない以上、ミツバチが後から訪問することによる追加の花粉には意味がないのかも知れません。
ただし、たまたまsenita mothsが少ない年には、ミツバチの除外により結実率が減少しました。ミツバチはsenita cactusのメインの花粉媒介者ではありませんが、本来の花粉媒介者が少ない場合に補完する存在なのかも知れません。
Lophocereusは2種類ありますが、遺伝子解析の結果からは3種類からなるPachycereusと近縁とされ、現在ではLophocereusはPachycereusに含まれています。Pachycereusはコウモリ媒花と考えられておりますが、例えばP. marginatusは大きく日中に咲く赤い花は大量の蜜を分泌し、ハチドリにより受粉するとされます。しかし、senita cactusは小型で夜に咲く白っぽいピンク色の花を咲かせ、蜜の量は非常に少ないのが特徴です。この蜜の少なさから、senita moths以外の蛾は基本的に訪れないようです。このように、Pachycereusの中で、LophocereusはP. marginatusと同様に特殊化したものと言えます。
以上が論文の簡単な要約となります。
基本的にはミツバチはsenita cactusの重要な花粉媒介者ではありませんでしたが、場合によっては受粉に寄与することもあります。しかし、これはsenita cactusがsenita mothsとの深い共生関係を結ぶための進化にどのような影響があるのでしょうか? 長い開花期間中でミツバチが受粉可能な時期はあまりに短く、補完的な意味しかないならば、共進化に揺り戻しを起こすほどではないような気もします。ただ、現状が安定しているならばこのままでしょうし、開花時間は明るさや温度など機械的に決まるようですから、開花時間によるミツバチの完全排除は起きないような気もします。花の形状がsenita mothsに特化する可能性もありますが、そもそもが蜜が少ないのでミツバチは花粉を集めていることから、採蜜出来なくなったとしても影響はなくミツバチは花粉を集めに来るでしょう。
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