花と言えば、色とりどりの美しい姿を思い浮かべますが、それらは被子植物の花です。被子植物の多くは蜜などの報酬を与え、目立つ花弁で昆虫などの花粉媒介者を引き寄せ、花粉媒介者があちこちの花をめぐることにより受粉し種子が出来ます。被子植物より早い時代に誕生した裸子植物は、針葉樹などその多くが風媒花です。この裸子植物から被子植物への進化の過程で、古い時代に花粉媒介者により受粉する植物が誕生したのでしょう。近年、ソテツ類が昆虫により受粉する虫媒花であるという論文が出ており、様々な種類と分類のソテツで虫媒が確認されています。もしかしたら、ソテツが地球上で初めて花粉媒介者により受粉した植物かも知れません。当然、現在のソテツの花粉媒介者たちの祖先が、初めて花粉媒介者となった動物である可能性があります。ソテツの花粉媒介者は甲虫がよく知られていますが、アザミウマも関与するという話も聞いたことがあります。
さて、という訳で本日のお題は花粉媒介者の誕生についてです。本日ご紹介するのは、Irene Terryの2002年の論文、『Thrips: the primeval pollinators?』です。この「Thrips」とは「アザミウマ」のことです。アザミウマは原始的な昆虫で、一般的には作物や園芸植物につく害虫として知られていますが、実際にはカビや胞子を食べるものや、肉食のものもあります。アザミウマは非常に古い時代に生まれた昆虫ですが、地球で最初の花粉媒介者なのでしょうか?
アザミウマ媒花の発見
アザミウマには花粉食の種類が沢山おり、受粉に影響を与える可能性があります。しかし、学術的には見過ごされてきました。それは、アザミウマが効率的な花粉媒介者の特徴を欠いているからです。まず、アザミウマは非常に小さいため花粉が付着する数も少なく、花粉が付着するような構造もありませんし、移動性もあまりないと言われてきました。しかし、Gottsberger(1995)はアマゾンのシソ科植物2種類で、花粉を運ぶアザミウマを発見しました。花は小さく直径4mm以下でした。その後も、トウダイグサ科のMacaranga属の2種類など、熱帯地方の小型の花を咲かせる植物でアザミウマによる花粉媒介が報告されています。
ソテツと虫媒
さて、ソテツは古生代に生まれた雌雄異株の植物で、現存する裸子植物の中では最も古い植物です。長い間、ソテツは風媒花と考えられて来ました。しかし、Norstogら(1986)はメキシコ原産のソテツであるZamia furfuraceaはゾウムシにより受粉ことを観察し、ゾウムシの除去により種子生産が大幅に減少することを報告しました。それ以降、ゾウムシの仲間と様々なソテツとの共生関係が報告されています。
ソテツとアザミウマの関係
オーストラリアのソテツであるMacrozamia macdonnelliiは、1994年のFosterらの報告によりゾウムシにより媒介されることが明らかになりました。そのため、Macrozamiaはゾウムシか風により受粉すると考えられて来ました。しかし、Mound(1991)やChadwick(1993)によりMacrozamia communisで、Mound(1998)によりMacrozamia riedleの花でアザミウマが見つかりました。また、Terry(2001)によりMacrozamia communisのアザミウマの花粉媒介を試験しました。風の効果を除外したりゾウムシを除外しても、種子生産は減少しませんでした。
アザミウマの重要性
著者らは、複数のMacrozamia macdonnellii群で、1つの雄花で5万匹ものアザミウマ(Cycadothrips albrechti)を確認しました。雄花は10m離れた場所でも分かる強烈な臭気を発し、アザミウマは午後には一斉に臭気を発する雌花に移動しました。アザミウマ1匹あたり平均20粒の花粉をついていました。1日で胚珠あたり5700粒もの花粉が運搬されました。著者はC. albrechtiというアザミウマがM. macdonnelliiの唯一の花粉媒介者であると考えています。
Macrozamiaのうち4種類はアザミウマでのみ花粉媒介され、8種類はゾウムシでのみ花粉媒介され、3種類はアザミウマとゾウムシにより花粉媒介されます。また、20種類以上のMacrozamiaはまだ調査されていません。今まではアザミウマが花粉媒介する可能性を考慮していませんでしたから、今後の調査次第ではアザミウマ媒花のソテツは増えるかも知れません。
アザミウマ媒花は新しい?
Macrozamia属は化石による記録では、少なくとも白亜紀後期には誕生しています。しかし、ソテツのアザミウマ媒はオーストラリアでのみ見つかっています。アザミウマとソテツの関係は新しい時代に出来た可能性もあります。化石記録は不足しており、化石からの推定は困難です。
著者はオーストラリアの地理とソテツの分布から、アザミウマ媒の起源を考察しています。Macrozamiaは大陸全体に分布していましたが、現在はいくつかの地域に残されているだけです。対するCycadothrips属のアザミウマはすべての地域で見られ、他の植物には見られませんでした。さらには白亜紀の大規模な海洋侵入は大陸を島々に分裂しましたが、この島々はMacrozamiaとCycadothripsが対応していました。このことから、白亜紀の海洋侵入前にソテツとアザミウマは関係を結んでいたと考えることも出来ます。
化石記録からの推定
ソテツは少なくともペルム紀には存在し、初期のMacrozamiaは6500万年前の化石で、8500万年前にオーストラリアから分離したニュージーランドで発見されました。ゾウムシの祖先はジュラ紀後期に、現存するゾウムシ類は白亜紀前期から見つかっていますが、ソテツの受粉に関わるゾウムシの仲間は新生代まで進化しませんでした。現在、ソテツに関与するゾウムシは、木材に穿孔するタイプの祖先に由来すると考えられています。現在のソテツは各大陸に分布しますが、ゾウムシの花粉媒介はそれぞれ独立に進化したと考えられています。この仮説が正しければ、ソテツの花粉媒介者はゾウムシの進化の前に存在していたことになります。
アザミウマの起源
アザミウマの祖先グループは古生代に誕生し、被子植物と現代のソテツの属の誕生前から存在しています。Cycadothrips属はアザミウマの系統解析が結果からは被子植物の誕生前から存在すると考えられています。著者はアザミウマが植物の最も古い花粉媒介者であると考えています。
2億8000万年前 石炭紀
→ソテツ誕生?
2億4400万年前 ペルム紀
→アザミウマ誕生
2億1300万年前 三畳紀
→ソテツ優勢、甲虫誕生
1億4400万年前 ジュラ紀
→被子植物誕生?、ゾウムシ誕生
6500万年前 白亜紀
→現代のソテツ科の誕生、Macrozamia誕生、
現代のゾウムシ科の誕生
5500万年前 暁新世
→現代のゾウムシ属の台頭?
3800万年前 始新世
→ソテツと関係するゾウムシ属の誕生
以上が論文の簡単な要約です。
マクロザミアとアザミウマの関係から、始原の花粉媒介者の存在まで推定していますが、やや飛躍し過ぎている気もします。しかし、ソテツが一番古い虫媒花であるならば、それが絶滅した今は存在しない分類群の昆虫でない限りは、アザミウマかゾウムシが最も古い花粉媒介者である可能性があることは確かでしょう。だだし、著者に抜けているのは、風媒花の視点です。古代のソテツは、アザミウマやゾウムシが誕生してもまだ風媒花であり、虫媒を開始したのは最近かも知れません。化石記録が見つかるまではその可能性も除外出来ないのではないでしょうか?
しかし、それはそうと、最近は販売されるソテツも増えて来ましたが、まったくソテツは流行りませんでしたね。今は新葉が展開するソテツ栽培にとって素晴らしい時期にも関わらず、ネット掲示板のソテツスレも閑散としており、まったく悲しい限りです。私のソテツ関連記事も非常に不人気です。本当はもっとソテツが流行って、様々な種類が販売されるようになれば私も嬉しいのですが…
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さて、という訳で本日のお題は花粉媒介者の誕生についてです。本日ご紹介するのは、Irene Terryの2002年の論文、『Thrips: the primeval pollinators?』です。この「Thrips」とは「アザミウマ」のことです。アザミウマは原始的な昆虫で、一般的には作物や園芸植物につく害虫として知られていますが、実際にはカビや胞子を食べるものや、肉食のものもあります。アザミウマは非常に古い時代に生まれた昆虫ですが、地球で最初の花粉媒介者なのでしょうか?
アザミウマ媒花の発見
アザミウマには花粉食の種類が沢山おり、受粉に影響を与える可能性があります。しかし、学術的には見過ごされてきました。それは、アザミウマが効率的な花粉媒介者の特徴を欠いているからです。まず、アザミウマは非常に小さいため花粉が付着する数も少なく、花粉が付着するような構造もありませんし、移動性もあまりないと言われてきました。しかし、Gottsberger(1995)はアマゾンのシソ科植物2種類で、花粉を運ぶアザミウマを発見しました。花は小さく直径4mm以下でした。その後も、トウダイグサ科のMacaranga属の2種類など、熱帯地方の小型の花を咲かせる植物でアザミウマによる花粉媒介が報告されています。
ソテツと虫媒
さて、ソテツは古生代に生まれた雌雄異株の植物で、現存する裸子植物の中では最も古い植物です。長い間、ソテツは風媒花と考えられて来ました。しかし、Norstogら(1986)はメキシコ原産のソテツであるZamia furfuraceaはゾウムシにより受粉ことを観察し、ゾウムシの除去により種子生産が大幅に減少することを報告しました。それ以降、ゾウムシの仲間と様々なソテツとの共生関係が報告されています。
ソテツとアザミウマの関係
オーストラリアのソテツであるMacrozamia macdonnelliiは、1994年のFosterらの報告によりゾウムシにより媒介されることが明らかになりました。そのため、Macrozamiaはゾウムシか風により受粉すると考えられて来ました。しかし、Mound(1991)やChadwick(1993)によりMacrozamia communisで、Mound(1998)によりMacrozamia riedleの花でアザミウマが見つかりました。また、Terry(2001)によりMacrozamia communisのアザミウマの花粉媒介を試験しました。風の効果を除外したりゾウムシを除外しても、種子生産は減少しませんでした。
アザミウマの重要性
著者らは、複数のMacrozamia macdonnellii群で、1つの雄花で5万匹ものアザミウマ(Cycadothrips albrechti)を確認しました。雄花は10m離れた場所でも分かる強烈な臭気を発し、アザミウマは午後には一斉に臭気を発する雌花に移動しました。アザミウマ1匹あたり平均20粒の花粉をついていました。1日で胚珠あたり5700粒もの花粉が運搬されました。著者はC. albrechtiというアザミウマがM. macdonnelliiの唯一の花粉媒介者であると考えています。
Macrozamiaのうち4種類はアザミウマでのみ花粉媒介され、8種類はゾウムシでのみ花粉媒介され、3種類はアザミウマとゾウムシにより花粉媒介されます。また、20種類以上のMacrozamiaはまだ調査されていません。今まではアザミウマが花粉媒介する可能性を考慮していませんでしたから、今後の調査次第ではアザミウマ媒花のソテツは増えるかも知れません。
アザミウマ媒花は新しい?
Macrozamia属は化石による記録では、少なくとも白亜紀後期には誕生しています。しかし、ソテツのアザミウマ媒はオーストラリアでのみ見つかっています。アザミウマとソテツの関係は新しい時代に出来た可能性もあります。化石記録は不足しており、化石からの推定は困難です。
著者はオーストラリアの地理とソテツの分布から、アザミウマ媒の起源を考察しています。Macrozamiaは大陸全体に分布していましたが、現在はいくつかの地域に残されているだけです。対するCycadothrips属のアザミウマはすべての地域で見られ、他の植物には見られませんでした。さらには白亜紀の大規模な海洋侵入は大陸を島々に分裂しましたが、この島々はMacrozamiaとCycadothripsが対応していました。このことから、白亜紀の海洋侵入前にソテツとアザミウマは関係を結んでいたと考えることも出来ます。
化石記録からの推定
ソテツは少なくともペルム紀には存在し、初期のMacrozamiaは6500万年前の化石で、8500万年前にオーストラリアから分離したニュージーランドで発見されました。ゾウムシの祖先はジュラ紀後期に、現存するゾウムシ類は白亜紀前期から見つかっていますが、ソテツの受粉に関わるゾウムシの仲間は新生代まで進化しませんでした。現在、ソテツに関与するゾウムシは、木材に穿孔するタイプの祖先に由来すると考えられています。現在のソテツは各大陸に分布しますが、ゾウムシの花粉媒介はそれぞれ独立に進化したと考えられています。この仮説が正しければ、ソテツの花粉媒介者はゾウムシの進化の前に存在していたことになります。
アザミウマの起源
アザミウマの祖先グループは古生代に誕生し、被子植物と現代のソテツの属の誕生前から存在しています。Cycadothrips属はアザミウマの系統解析が結果からは被子植物の誕生前から存在すると考えられています。著者はアザミウマが植物の最も古い花粉媒介者であると考えています。
2億8000万年前 石炭紀
→ソテツ誕生?
2億4400万年前 ペルム紀
→アザミウマ誕生
2億1300万年前 三畳紀
→ソテツ優勢、甲虫誕生
1億4400万年前 ジュラ紀
→被子植物誕生?、ゾウムシ誕生
6500万年前 白亜紀
→現代のソテツ科の誕生、Macrozamia誕生、
現代のゾウムシ科の誕生
5500万年前 暁新世
→現代のゾウムシ属の台頭?
3800万年前 始新世
→ソテツと関係するゾウムシ属の誕生
以上が論文の簡単な要約です。
マクロザミアとアザミウマの関係から、始原の花粉媒介者の存在まで推定していますが、やや飛躍し過ぎている気もします。しかし、ソテツが一番古い虫媒花であるならば、それが絶滅した今は存在しない分類群の昆虫でない限りは、アザミウマかゾウムシが最も古い花粉媒介者である可能性があることは確かでしょう。だだし、著者に抜けているのは、風媒花の視点です。古代のソテツは、アザミウマやゾウムシが誕生してもまだ風媒花であり、虫媒を開始したのは最近かも知れません。化石記録が見つかるまではその可能性も除外出来ないのではないでしょうか?
しかし、それはそうと、最近は販売されるソテツも増えて来ましたが、まったくソテツは流行りませんでしたね。今は新葉が展開するソテツ栽培にとって素晴らしい時期にも関わらず、ネット掲示板のソテツスレも閑散としており、まったく悲しい限りです。私のソテツ関連記事も非常に不人気です。本当はもっとソテツが流行って、様々な種類が販売されるようになれば私も嬉しいのですが…
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