植物の花は繁殖のための器官であり、種子を作るには受粉する必要があります。ですから、植物にとって受粉は非常に重要です。当ブログも植物の受粉に関して度々記事にしていますが、それは私が非常に興味があるからでもあり、実際に植物の論文では受粉に関係するものが非常に多いという現実を映しているせいでもあります。何か面白い論文はないかと探していたら、2009年の「South African Journal of Botany」という学術誌の75号に、南アフリカの植物の受粉についてまとめた社説が掲載されていたので、本日は簡単に見ていきましょう。タイトルは『Advances in the pollination biology of South African plants』です。
1. ダーウィンから現在まで
ダーウィンは1859年に自然淘汰、1862年にランの受粉、1877年に植物育成システムについての本を出版しました。ダーウィンは受粉生物学の枠組みを提供し、ヴィクトリア朝に南アフリカに入植した自然主義者に大きな影響を与えました。この時期、南アフリカに拠点を置く博物学者による花の機能形態に関する論文がダーウィンに送られ、リンネ協会のジャーナルに掲載されました。この時期の注目すべき人物は、東ケープに拠点を置くイギリスの博物学者であるJP Mansell Wealeや、グラハムズタウンに拠点を置く入植者のMary Barber、ケープタウンの南アフリカ博物館の最初の学芸員であるRoland Trimenなどが挙げられます。
受粉生物学はダーウィンの時代に開花した後、南アフリカでは衰退しました。1951年にStefan Vogelが南アフリカに遠征し、1954年に南アフリカの花の受粉に関する画期的なモノグラフを出版するまであまり研究されませんでした。1950年から1980年の間、受粉生物学の分野では持続的な研究はありませんでした。例外は1978年のDelbert Wiens & John Rourkeによる研究で、ヤマモガシ科植物のげっ歯類による受粉の発見につながりました。1980年代には、鳥類とフィンボスの植物の受粉相互作用に焦点が当てられました。
1990年から現在までは、南アフリカでは受粉生物学の研究は著しく増加しています。注目に値するのは、アヤメ科およびラン科植物の、昆虫による高度に専門化された受粉システムや、花の擬態様式、共進化といった概念が研究されています。受粉生物学がまだ探索段階であり、次々と新しい植物鳥花粉媒介者の相互作用が発見されています。最近の論文は、効果的な花粉媒介者の特定、受粉の状況、花のポリネーターへのアピールと報酬の定量化、新しい植物育種システム、第三者による相互作用という5つのテーマがあります。
2. 効果的な花粉媒介者
①昆虫による受粉システム
Potgieterら(2009)は、Plectranthus属のS字形の花冠が花粉媒介者である蜂の湾曲した口に対する適応であり、花粉を媒介者しない、あるいは効率の悪い訪問者を排除するフィルターとして機能する可能性を指摘しました。
次に花粉媒介者に適応した送粉シンドロームと花粉媒介者の関係についてです。De Merxemら(2009)は、Tritoniopsis revolutaの細長い花は口器の長いナガテングバエにより受粉するとされてきました。しかし、ナガテングバエがいない場合、蜜が溜まって口器の短いミツバチも蜜を吸うことが出来ることが分かりました。
ミツバチは鳥媒花にも訪れます。アロエは南アフリカの代表的な鳥媒花ですが、Symelら(2009)はAloe greatheadii var. davyanaを訪問するミツバチが、重要な花粉媒介者であることを示しました。
アフリカのソテツであるEncephalartos属は、甲虫により花粉が媒介される可能性があります。Suinyuyら(2009)は、3種類の甲虫(ヒラタムシとゾウムシ)がEncephalartos friedrici-guilielmiの効果的な花粉媒介者であることを示しました。
②脊椎動物による花粉媒介
南アフリカはオーストラリアと同様に、鳥類や哺乳類による受粉に適応した割合が高いとされています。Brownら(2009)は高地のKniphora属の植物の花の、最も頻繁な訪問者はDrakensberg Siskinというヒワの仲間でした。これは、蜜を主食としない鳥による開花時期だけの花粉媒介者が、非常に受粉に重要であることが分かりました。
Westerら(2009)は、Whiteheadia bifoliaという1属1種のユリ科植物が、げっ歯類による花粉媒介を受けていることを明らかとしました。
3. 花のポリネーターへのアピールと報酬
ほとんどの植物は受粉のために動物の行動を誘導する必要があります。花粉媒介者にアピールするための花の色や香り、報酬となる蜜と花粉を利用します。
Peterら(2009)は、地生蘭であるHabenaria epipactideaの香りの生成が、スズメガの活動時間と一致していることを示しました。
上で取り上げたBrownらの論文では、Kniphoraの蜜は非常に希薄でヘキソースが優勢であり、鳥媒花に一般的なパターンであることを示しました。
タイヨウチョウ(sunbird)は蜜を専門とするスペシャリストですが、効率化した採蜜により受粉に関与しない盗蜜を頻繁に行います。Coombsら(2009)によると、ゴクラクチョウカの仲間(Strelizia reginae)の強化された花被の基部により、タイヨウチョウや昆虫の盗蜜を防ぐ障壁となっているということです。
植物は動物を利用しますが、それが無報酬であることすらあります。Combs & Pauw(2009)によると、報酬のないランであるDisa karrooicaへのナガテングバエの訪問は、近隣に生えるペラルゴニウムに似ているからかも知れません。
以上が論文の簡単な要約です。この号は花粉媒介者や受粉に関する特集号だったみたいで、そのまとめのようなものです。内容を限定したにも関わらず、内容は多岐にわたり受粉生物学の研究が盛んであることが分かると同時に、新しい知見の多さからはあまりに調査が進んでいない分野であることも分かります。
花粉媒介者と受粉のシステムは考えられていたよりも非常に複雑で、意外性のあるものでした。当ブログでも度々取り上げてはいますが、論文を読むたびに毎度驚かされます。
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1. ダーウィンから現在まで
ダーウィンは1859年に自然淘汰、1862年にランの受粉、1877年に植物育成システムについての本を出版しました。ダーウィンは受粉生物学の枠組みを提供し、ヴィクトリア朝に南アフリカに入植した自然主義者に大きな影響を与えました。この時期、南アフリカに拠点を置く博物学者による花の機能形態に関する論文がダーウィンに送られ、リンネ協会のジャーナルに掲載されました。この時期の注目すべき人物は、東ケープに拠点を置くイギリスの博物学者であるJP Mansell Wealeや、グラハムズタウンに拠点を置く入植者のMary Barber、ケープタウンの南アフリカ博物館の最初の学芸員であるRoland Trimenなどが挙げられます。
受粉生物学はダーウィンの時代に開花した後、南アフリカでは衰退しました。1951年にStefan Vogelが南アフリカに遠征し、1954年に南アフリカの花の受粉に関する画期的なモノグラフを出版するまであまり研究されませんでした。1950年から1980年の間、受粉生物学の分野では持続的な研究はありませんでした。例外は1978年のDelbert Wiens & John Rourkeによる研究で、ヤマモガシ科植物のげっ歯類による受粉の発見につながりました。1980年代には、鳥類とフィンボスの植物の受粉相互作用に焦点が当てられました。
1990年から現在までは、南アフリカでは受粉生物学の研究は著しく増加しています。注目に値するのは、アヤメ科およびラン科植物の、昆虫による高度に専門化された受粉システムや、花の擬態様式、共進化といった概念が研究されています。受粉生物学がまだ探索段階であり、次々と新しい植物鳥花粉媒介者の相互作用が発見されています。最近の論文は、効果的な花粉媒介者の特定、受粉の状況、花のポリネーターへのアピールと報酬の定量化、新しい植物育種システム、第三者による相互作用という5つのテーマがあります。
2. 効果的な花粉媒介者
①昆虫による受粉システム
Potgieterら(2009)は、Plectranthus属のS字形の花冠が花粉媒介者である蜂の湾曲した口に対する適応であり、花粉を媒介者しない、あるいは効率の悪い訪問者を排除するフィルターとして機能する可能性を指摘しました。
次に花粉媒介者に適応した送粉シンドロームと花粉媒介者の関係についてです。De Merxemら(2009)は、Tritoniopsis revolutaの細長い花は口器の長いナガテングバエにより受粉するとされてきました。しかし、ナガテングバエがいない場合、蜜が溜まって口器の短いミツバチも蜜を吸うことが出来ることが分かりました。
ミツバチは鳥媒花にも訪れます。アロエは南アフリカの代表的な鳥媒花ですが、Symelら(2009)はAloe greatheadii var. davyanaを訪問するミツバチが、重要な花粉媒介者であることを示しました。
アフリカのソテツであるEncephalartos属は、甲虫により花粉が媒介される可能性があります。Suinyuyら(2009)は、3種類の甲虫(ヒラタムシとゾウムシ)がEncephalartos friedrici-guilielmiの効果的な花粉媒介者であることを示しました。
②脊椎動物による花粉媒介
南アフリカはオーストラリアと同様に、鳥類や哺乳類による受粉に適応した割合が高いとされています。Brownら(2009)は高地のKniphora属の植物の花の、最も頻繁な訪問者はDrakensberg Siskinというヒワの仲間でした。これは、蜜を主食としない鳥による開花時期だけの花粉媒介者が、非常に受粉に重要であることが分かりました。
Westerら(2009)は、Whiteheadia bifoliaという1属1種のユリ科植物が、げっ歯類による花粉媒介を受けていることを明らかとしました。
3. 花のポリネーターへのアピールと報酬
ほとんどの植物は受粉のために動物の行動を誘導する必要があります。花粉媒介者にアピールするための花の色や香り、報酬となる蜜と花粉を利用します。
Peterら(2009)は、地生蘭であるHabenaria epipactideaの香りの生成が、スズメガの活動時間と一致していることを示しました。
上で取り上げたBrownらの論文では、Kniphoraの蜜は非常に希薄でヘキソースが優勢であり、鳥媒花に一般的なパターンであることを示しました。
タイヨウチョウ(sunbird)は蜜を専門とするスペシャリストですが、効率化した採蜜により受粉に関与しない盗蜜を頻繁に行います。Coombsら(2009)によると、ゴクラクチョウカの仲間(Strelizia reginae)の強化された花被の基部により、タイヨウチョウや昆虫の盗蜜を防ぐ障壁となっているということです。
植物は動物を利用しますが、それが無報酬であることすらあります。Combs & Pauw(2009)によると、報酬のないランであるDisa karrooicaへのナガテングバエの訪問は、近隣に生えるペラルゴニウムに似ているからかも知れません。
以上が論文の簡単な要約です。この号は花粉媒介者や受粉に関する特集号だったみたいで、そのまとめのようなものです。内容を限定したにも関わらず、内容は多岐にわたり受粉生物学の研究が盛んであることが分かると同時に、新しい知見の多さからはあまりに調査が進んでいない分野であることも分かります。
花粉媒介者と受粉のシステムは考えられていたよりも非常に複雑で、意外性のあるものでした。当ブログでも度々取り上げてはいますが、論文を読むたびに毎度驚かされます。
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