世界各地には未だに伝統医学が存在し、地域によっては住民の生活に深く根付いています。特に現代医学が浸透していない開発途上国には顕著です。しかし、このような伝統医学は様々な野生の植物を利用するため、場合によっては希少な植物が用いられてしまうこともあります。このような場合、野生の植物ではなく栽培された植物を利用することが出来れば、簡単に解決するでしょう。しかし、問題は栽培した植物が野生の植物より劣っていないかという疑念です。これは、薬用植物の栽培を考案する際の一番の問題点で、栽培品を下に見るのことは世界的に一般的です。しかし、希少植物の保護の観点から薬用植物の栽培を行う場合は、栽培品はその効果が疑われ、結局は野生の希少植物が使われてしまうという悪循環を断つことが中々出来ていない現状があります。ですから、栽培品の品質の証明は野生植物の保全対策としても急務課題と言えます。本日は栽培された蒼角殿(Bowiea volubilis)を市場で取引される野生株との薬効を比較した、M. A. Masondoらの2013年の論文、『A comparison of the pharmacological properties of garden cultivated and mutch market-sold Bowiea volubilis』を見ていきます。
蒼角殿 Bowiea volubilis
B. volubilisの花
蒼角殿(Bowiea volubilis)は、南アフリカ東部に広く分布し、南アフリカの伝統医学で使用される薬用植物の14%におよびます。球根にはいくつかの強心配糖体が含まれています。強心配糖体は心筋に作用し鬱血性心不全の治療にも使用されますが、使い方次第では心臓に悪影響があります。しかし、伝統医学では様々な病気に対して利用されてきました。球根の汁を分娩時に妊婦に与えたり、感染症対策に皮膚に塗布したり、眼痛に対しても使用されます。さらに、ズールーの薬草医は腹水、不妊、膀胱炎、腰痛、筋肉痛などのためにB. volubilisを処方します。
南アフリカでは公式あるいは非公式の市場の両方で、薬草植物の需要は増加しており、明らかに規制はされていません。最大の懸念は使用される薬用植物の部位の85%は、球根や塊茎、樹皮などの再生不可能な部位であることです。多くの植物が過剰収穫により絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕しています。B. volubilisもまた、過剰収穫により減少し、南アフリカのレッドデータリストで脆弱種に指定されています。
研究者は薬用植物の絶滅リスクに対抗するために、薬用植物の小規模農業を提案しました。しかし、伝統医学のヒーラーは野生の薬用植物はより強力であると信じているため、栽培品への転換は進まないままです。
著者らは大学の植物園で栽培された約5歳のB. volubilisを、Muthi市場で取引されている株と比較しました。B. volubilisは乾燥させてから粉末にし、5gを石油エーテル(PE)、ジククロメタン(DCM)70%エタノール(EtOH)、および水で1時間の超音波処理により抽出しました。抽出物を濾過した後に真空濃縮し、これを微生物への薬効を見るためにエイムズ試験を実施しました。エイムズ試験では、4種類の最近株である枯草菌ATCC6051株、黄色ブドウ球菌ATCC12600株、大腸菌ATCC11775株、肺炎桿菌ATCC13883株、および真菌であるカンジダ・アルビカンスATCC10231株を試験しました。
エイムズ試験の結果は、枯草菌に対しての各抽出物は栽培品と野生植物で同等あるいは栽培品の方がやや有効、黄色ブドウ球菌に対しては栽培品が有効なものと野生植物が有効なものとがあり、大腸菌は栽培品と野生植物で同等、肺炎桿菌は野生植物の方がやや有効、真菌は野生植物の方がやや有効でした。
B. volubilisは様々な感染症に利用されていますが、今回の試験結果では野生植物であっても抗菌力はかなり貧弱でした。とはいえ、今回試験された微生物以外に効果が高い可能性もあります。とりあえず、今回の結果からは栽培品と野生植物の間で大きな違いはないことが確認されました。植物の薬理活性は育ち方や年齢、サイズ、季節により異なるとされ、効果が最大となる栽培方法が分かればより有効かも知れません。
次に抗炎症作用(いわゆる消炎作用)についても試験され、栽培品も野生植物も抗炎症作用を持つことが確認されました。有機溶媒で抽出されたものより、水で抽出されたものの方が作用は強いものでした。2種類の炎症物質を阻害するかを見ましたが、1種類(COX-2)は水抽出物では栽培品も野生植物も100%炎症物質を阻害しました。もう1種類(COX-1)は水抽出物では栽培品は約50%の阻害、野生植物では90%以上を阻害しました。今回の結果から、伝統医学における疼痛および炎症性疾患に対するB. volubilisの有効性が確認されました。
以上が論文の簡単な要約となります。
抗菌力に対しては調べた範囲では曖昧な結果でしたが、消炎作用に関しては強い作用があることが確認されました。わざわざ有機溶媒を使用しなくても水で抽出可能であったことは、伝統医学での利用方法と合致しており、実際に利用される際に利便性が高いと言えるでしょう。COX-1に関しては野生植物の方が強い作用があるようですが、論文中にもあるように適切な栽培方法の確立により解決可能であるかも知れません。また、野生植物においてもCOX-2に対する効果の方が高いので、COX-2の効果に適した利用方法を考慮するという考え方もあるでしょう。
この論文の最大のネックは、その検体の少なさです。そもそも、B. volubilisが収穫された場合により生育が異なるでしょうから、期待される効果にバラツキがあるかも知れません。あちこちの産地を比較する必要があります。もしかしたら、産地により大幅に成分比率が異なるかも知れず、その場合は栽培品以下のものもあるかも知れません。さらに言えば、栽培品の生育環境が不明であり、それが標準的な栽培方法かどうか考えなければなりません。
最後に、抗菌力に関して1つだけ。本来ならば、B. volubilisが利用される地域で疫学調査を行い、その地域でB. volubilisにより治療などで対策される微生物を特定し、その微生物に対して効果があるかを見る必要があります。しかし、現実的には①薬用植物の薬理作用の研究、②薬用植物の原産地における利用方法の調査、③疫学調査の3点はバラバラに研究されています。この3点はセットにならないと本当の意味における確証が得られませんから、本来の目的である栽培品への代替は進まないでしょう。
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蒼角殿 Bowiea volubilis
B. volubilisの花
蒼角殿(Bowiea volubilis)は、南アフリカ東部に広く分布し、南アフリカの伝統医学で使用される薬用植物の14%におよびます。球根にはいくつかの強心配糖体が含まれています。強心配糖体は心筋に作用し鬱血性心不全の治療にも使用されますが、使い方次第では心臓に悪影響があります。しかし、伝統医学では様々な病気に対して利用されてきました。球根の汁を分娩時に妊婦に与えたり、感染症対策に皮膚に塗布したり、眼痛に対しても使用されます。さらに、ズールーの薬草医は腹水、不妊、膀胱炎、腰痛、筋肉痛などのためにB. volubilisを処方します。
南アフリカでは公式あるいは非公式の市場の両方で、薬草植物の需要は増加しており、明らかに規制はされていません。最大の懸念は使用される薬用植物の部位の85%は、球根や塊茎、樹皮などの再生不可能な部位であることです。多くの植物が過剰収穫により絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕しています。B. volubilisもまた、過剰収穫により減少し、南アフリカのレッドデータリストで脆弱種に指定されています。
研究者は薬用植物の絶滅リスクに対抗するために、薬用植物の小規模農業を提案しました。しかし、伝統医学のヒーラーは野生の薬用植物はより強力であると信じているため、栽培品への転換は進まないままです。
著者らは大学の植物園で栽培された約5歳のB. volubilisを、Muthi市場で取引されている株と比較しました。B. volubilisは乾燥させてから粉末にし、5gを石油エーテル(PE)、ジククロメタン(DCM)70%エタノール(EtOH)、および水で1時間の超音波処理により抽出しました。抽出物を濾過した後に真空濃縮し、これを微生物への薬効を見るためにエイムズ試験を実施しました。エイムズ試験では、4種類の最近株である枯草菌ATCC6051株、黄色ブドウ球菌ATCC12600株、大腸菌ATCC11775株、肺炎桿菌ATCC13883株、および真菌であるカンジダ・アルビカンスATCC10231株を試験しました。
エイムズ試験の結果は、枯草菌に対しての各抽出物は栽培品と野生植物で同等あるいは栽培品の方がやや有効、黄色ブドウ球菌に対しては栽培品が有効なものと野生植物が有効なものとがあり、大腸菌は栽培品と野生植物で同等、肺炎桿菌は野生植物の方がやや有効、真菌は野生植物の方がやや有効でした。
B. volubilisは様々な感染症に利用されていますが、今回の試験結果では野生植物であっても抗菌力はかなり貧弱でした。とはいえ、今回試験された微生物以外に効果が高い可能性もあります。とりあえず、今回の結果からは栽培品と野生植物の間で大きな違いはないことが確認されました。植物の薬理活性は育ち方や年齢、サイズ、季節により異なるとされ、効果が最大となる栽培方法が分かればより有効かも知れません。
次に抗炎症作用(いわゆる消炎作用)についても試験され、栽培品も野生植物も抗炎症作用を持つことが確認されました。有機溶媒で抽出されたものより、水で抽出されたものの方が作用は強いものでした。2種類の炎症物質を阻害するかを見ましたが、1種類(COX-2)は水抽出物では栽培品も野生植物も100%炎症物質を阻害しました。もう1種類(COX-1)は水抽出物では栽培品は約50%の阻害、野生植物では90%以上を阻害しました。今回の結果から、伝統医学における疼痛および炎症性疾患に対するB. volubilisの有効性が確認されました。
以上が論文の簡単な要約となります。
抗菌力に対しては調べた範囲では曖昧な結果でしたが、消炎作用に関しては強い作用があることが確認されました。わざわざ有機溶媒を使用しなくても水で抽出可能であったことは、伝統医学での利用方法と合致しており、実際に利用される際に利便性が高いと言えるでしょう。COX-1に関しては野生植物の方が強い作用があるようですが、論文中にもあるように適切な栽培方法の確立により解決可能であるかも知れません。また、野生植物においてもCOX-2に対する効果の方が高いので、COX-2の効果に適した利用方法を考慮するという考え方もあるでしょう。
この論文の最大のネックは、その検体の少なさです。そもそも、B. volubilisが収穫された場合により生育が異なるでしょうから、期待される効果にバラツキがあるかも知れません。あちこちの産地を比較する必要があります。もしかしたら、産地により大幅に成分比率が異なるかも知れず、その場合は栽培品以下のものもあるかも知れません。さらに言えば、栽培品の生育環境が不明であり、それが標準的な栽培方法かどうか考えなければなりません。
最後に、抗菌力に関して1つだけ。本来ならば、B. volubilisが利用される地域で疫学調査を行い、その地域でB. volubilisにより治療などで対策される微生物を特定し、その微生物に対して効果があるかを見る必要があります。しかし、現実的には①薬用植物の薬理作用の研究、②薬用植物の原産地における利用方法の調査、③疫学調査の3点はバラバラに研究されています。この3点はセットにならないと本当の意味における確証が得られませんから、本来の目的である栽培品への代替は進まないでしょう。
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