花はそのサイズや形、花色により、花を訪れる花粉媒介者はある程度は決まっていたり制限されています。小さな花はそれだけで訪問者をある程度は限定しますし、細長い管状の花ならば差し込むことが出来る細長いクチバシや口吻が必要です。逆に巨大な花ならば、ミツバチのような小型の昆虫は花粉に触れることがなく、花粉に触れていても柱頭に触れることがなければ受粉しませんから有効な花粉媒介者とは言えません。学術的には花の構造などから有効な花粉媒介者が想定されており、花を訪れても受粉には重要な役割を果たしていないと見なされることがあります。しかし、それは実際の調査により観察され、花粉媒介者の種類により結実するか否かを確認する必要があります。本日は、そんな本来予測される花粉媒介者ではない花粉媒介者の意義について調査したD. Geelhand de Merxemらの2009年の論文、『The important of flower visitors not predicted by floral syndrome』をご紹介します。
論文で調査の対象となるのは、Tritoniopsis revolutaという南アフリカ固有のアヤメ科植物です。管状の花を咲かせ、長い口吻を持つProsoeca longipennisというツリアブモドキ科の昆虫(以下、ナガテングバエ)により受粉すると考えられています。この論文では、本来の花粉媒介者ではないAmegillaというミツバチがT. revolutaの花を訪れる意義について調査しています。
T. revolutaは産地により花の長さが異なり、管状の花に適応した花粉媒介者により受粉すると考えられています。Swartberg山地ではT. revolutaの管の長さは14〜34mmで観察によりテングバエ(Prosoeca ganglbaueri)が花を訪れることを確認しました。Langeberg山地では管の長さは最大84mmに達しており、これまでの観察では花粉媒介者は不明なままです。ナガテングバエは38〜40mmの口吻を持ち、T. revolutaの花粉媒介者とされますが、その口吻はLangeberg山地のT. revolutaの花より短いものでした。
著者らはLangeberg山地のGysmanshoek峠沿いに生えるT. revolutaを調査しました。峠の北側には非常に長い花(平均55.8mm)が生え、南側には短い花(平均30.5mm)のT. revolutaが生えていることがわかりました。また、Tradouws峠の北側には非常に長い花(平均69.6mm)を持つT. revolutaが自生します。Tradouws峠の南側には短い管状の花(平均10.6mm)を持つTritonio ramosaが自生しますが、ミツバチにより受粉したという記録があります。さらに、Potberg近郊のDe Hoop自然保護区に短い花(平均29.6mm)を持つT. revolutaでも観察されました。観察は日中に花を訪れた昆虫の種類と、実際の花の長さ、花が受粉し種子が出来たかを確認し受粉成功率を算出しました。
結果として、T. revolutaにはミツバチがどの場所でも訪れました。ミツバチはGysmanshoek峠の短い花に頻繁に訪れ、Gysmanshoek峠の長い花とT. ramosaにはあまり訪れませんでした。Tradouwsではナガテングバエが採集されました。また、GysmanshoekではCosmina fuscipennisというハエが花粉を食べている様子が観察されています。このC. fuscipennisというハエは、9匹中1匹のみが花粉を持っていました。ミツバチ(Amegilla)は21匹中18匹で86%が花粉を持っていました。他の種類のミツバチも7匹中5匹で花粉を持っていました。ナガテングバエは採集された1匹には花粉がありました。
口吻の長さはミツバチでは4.6〜8.6mmでしたが、ナガテングバエでは71.3mmでした。これは、TradouwsのT. revolutaの花の長さと一致しています。しかし、著者らの3年間に及ぶ観察では、ナガテングバエはほとんど観察されていません。ミツバチ(Amegilla)は数が多くT. revolutaの花に頻繁に訪れ、花粉が付着している可能性が高いことから、T. revolutaにとってミツバチが重要な花粉媒介者であると考えられます。ミツバチは長い花にはあまり訪れず、短い花により多く訪れました。長い花は種子が少なく、短い花のT. revolutaはT. ramosaと同じくらいの種子を作りました。これらの結果から何が言えるでしょうか?
著者はナガテングバエが豊富にいた場合は、ミツバチは蜜にアクセス出来ず頻繁に訪れないと言います。これは、ナガテングバエは口吻が長く上手に蜜を吸ってしまうため、競合したらミツバチには分が悪いということなのでしょう。ただ、ナガテングバエの個体数は変動が激しく、ナガテングバエが少なければミツバチがメインの花粉媒介者となるのでしょう。
以上が論文の簡単な要約となります。
T. revolutaの花はミツバチの口吻の3倍程度の長さがあることから、T. revolutaはナガテングバエの受粉に適応している可能性は高いのですが、短い花ならばミツバチにより受粉します。どっちつかずな気もしますが、花の長いT. revolutaはナガテングバエとの共生を強化していき、いずれミツバチが完全にアクセス出来ないより長い管状の花に進化するかも知れません。しかし、短い花はミツバチにより受粉しますから、花が長くならないかも知れません。ミツバチは学習効果により、短い花が生える地域に多く訪れますから、やがて生殖隔離が起きて別種となるかも知れませんね。
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論文で調査の対象となるのは、Tritoniopsis revolutaという南アフリカ固有のアヤメ科植物です。管状の花を咲かせ、長い口吻を持つProsoeca longipennisというツリアブモドキ科の昆虫(以下、ナガテングバエ)により受粉すると考えられています。この論文では、本来の花粉媒介者ではないAmegillaというミツバチがT. revolutaの花を訪れる意義について調査しています。
T. revolutaは産地により花の長さが異なり、管状の花に適応した花粉媒介者により受粉すると考えられています。Swartberg山地ではT. revolutaの管の長さは14〜34mmで観察によりテングバエ(Prosoeca ganglbaueri)が花を訪れることを確認しました。Langeberg山地では管の長さは最大84mmに達しており、これまでの観察では花粉媒介者は不明なままです。ナガテングバエは38〜40mmの口吻を持ち、T. revolutaの花粉媒介者とされますが、その口吻はLangeberg山地のT. revolutaの花より短いものでした。
著者らはLangeberg山地のGysmanshoek峠沿いに生えるT. revolutaを調査しました。峠の北側には非常に長い花(平均55.8mm)が生え、南側には短い花(平均30.5mm)のT. revolutaが生えていることがわかりました。また、Tradouws峠の北側には非常に長い花(平均69.6mm)を持つT. revolutaが自生します。Tradouws峠の南側には短い管状の花(平均10.6mm)を持つTritonio ramosaが自生しますが、ミツバチにより受粉したという記録があります。さらに、Potberg近郊のDe Hoop自然保護区に短い花(平均29.6mm)を持つT. revolutaでも観察されました。観察は日中に花を訪れた昆虫の種類と、実際の花の長さ、花が受粉し種子が出来たかを確認し受粉成功率を算出しました。
結果として、T. revolutaにはミツバチがどの場所でも訪れました。ミツバチはGysmanshoek峠の短い花に頻繁に訪れ、Gysmanshoek峠の長い花とT. ramosaにはあまり訪れませんでした。Tradouwsではナガテングバエが採集されました。また、GysmanshoekではCosmina fuscipennisというハエが花粉を食べている様子が観察されています。このC. fuscipennisというハエは、9匹中1匹のみが花粉を持っていました。ミツバチ(Amegilla)は21匹中18匹で86%が花粉を持っていました。他の種類のミツバチも7匹中5匹で花粉を持っていました。ナガテングバエは採集された1匹には花粉がありました。
口吻の長さはミツバチでは4.6〜8.6mmでしたが、ナガテングバエでは71.3mmでした。これは、TradouwsのT. revolutaの花の長さと一致しています。しかし、著者らの3年間に及ぶ観察では、ナガテングバエはほとんど観察されていません。ミツバチ(Amegilla)は数が多くT. revolutaの花に頻繁に訪れ、花粉が付着している可能性が高いことから、T. revolutaにとってミツバチが重要な花粉媒介者であると考えられます。ミツバチは長い花にはあまり訪れず、短い花により多く訪れました。長い花は種子が少なく、短い花のT. revolutaはT. ramosaと同じくらいの種子を作りました。これらの結果から何が言えるでしょうか?
著者はナガテングバエが豊富にいた場合は、ミツバチは蜜にアクセス出来ず頻繁に訪れないと言います。これは、ナガテングバエは口吻が長く上手に蜜を吸ってしまうため、競合したらミツバチには分が悪いということなのでしょう。ただ、ナガテングバエの個体数は変動が激しく、ナガテングバエが少なければミツバチがメインの花粉媒介者となるのでしょう。
以上が論文の簡単な要約となります。
T. revolutaの花はミツバチの口吻の3倍程度の長さがあることから、T. revolutaはナガテングバエの受粉に適応している可能性は高いのですが、短い花ならばミツバチにより受粉します。どっちつかずな気もしますが、花の長いT. revolutaはナガテングバエとの共生を強化していき、いずれミツバチが完全にアクセス出来ないより長い管状の花に進化するかも知れません。しかし、短い花はミツバチにより受粉しますから、花が長くならないかも知れません。ミツバチは学習効果により、短い花が生える地域に多く訪れますから、やがて生殖隔離が起きて別種となるかも知れませんね。
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