植物栽培は様々な病害虫との闘いですが、そのなかでも致命的なのはウイルス病です。簡単に伝播・蔓延し、基本的に治す手段はありません。この植物のウイルス病については、何故かあまり園芸書にも詳しく書かれていません。そんな植物のウイルス病について書かれた珍しい本がありますので、ご紹介します。本日ご紹介するのは、井上成信による『ランのウイルス病 診断・検定・防除』(農文協、2001年)です。

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植物のウイルスはインフルエンザウイルスのように、空中を漂って感染したりはしません。基本的に接触感染ですが、ウイルスに感染した植物に触れた手で他の植物に触ると感染する可能性があります。特に植え替えの際にランの根は傷つきやすく、大量のウイルスが手に付くことになります。また、株分けや枯れ葉の処理のために使用したハサミやナイフからも感染します。また、アブラムシ、ハダニ、アザミウマ、センチュウなどにより媒介されます。灌水した際に鉢底から流れ出る水からもウイルスは検出され、特に吊り鉢から流れ出る水がウイルスをばらまくことがあります。面白いことに、市販のタバコはタバコモザイクウイルスが90〜100%という高率で含まれているという報告があります。しかも、紙巻きタバコに加工されていても感染力があるため、タバコをもみ消した時などに葉に指が触れた手で植物に触れると、感染が起こる可能性があるということです。
基本的にウイルス病は治す手段がないため、持ち込まないことが重要です。そして、感染源となるアブラムシやハダニの防除に努めるしかありません。また、ウイルス病の鉢があった場所に、他の鉢を置くと感染してしまうため、置き場を流水でよく洗い、漂白剤などで消毒します。鉢同士も葉が接触しないように少し離し、落ち葉が他の鉢に落ちないように気を配る必要があります。使用するハサミやナイフ、ピンセットなども使いまわしはせず、流水で物理的な汚れを取り除いてから消毒します。鉢や用土の使いまわしはウイルスの感染が起きるため注意が必要です。用土は使いまわしはせず、鉢はしっかりと洗浄と消毒が必要です。
本書は様々な種類のウイルス病についての専門的な解説もありますが、興味を引くのはなんと言っても様々な症状が写真で示されていることです。ウイルス病ではよくあるまだら模様になるだけではなく、葉がよれたり、褐斑を生じたり、凹みを生じたりと症状は様々です。

以上が本の一部を抜粋したです。あくまでランの話であってサボテンや多肉植物には関係がなさそうですが、必ずしもそうとは言えません。ランはウイルス病の見本市のようなもので、とにかくウイルス病はなんでも感染してしまうため、このような本が出たわけです。しかし、植物のウイルス病は本来の宿主とは異なる植物にも感染するため、サボテンや多肉植物にも野外の植物からアブラムシやハダニなどを介してウイルスが感染する可能性があります。実際にランのウイルスを鑑定するために、他の植物にランのウイルスを接種する試験があるくらいです。

植物のウイルス病と言えば、オランダのチューリップバブルの頃は、モザイク斑がウイルス病であると分からず、非常に高額で取引されました。これは、日本の古典植物にも見られ、江戸時代の園芸書の品種には、明らかにウイルス病とおもわれるものがありました。本書でも、寒蘭などの古典園芸で用いられてきたCymbidiumには、「金砂」と呼ばれる明瞭な斑が現れるタイプがありましたが、これはORSVというウイルスによるものでした。この事実は著者が明らかにしたということですが、植物に価値がなくなるため、中々受け入れられなかったそうです。しかし、ウイルス斑であるか否かなど我々のような素人には分かりませんから、斑入りの植物を目の前にした時に区別が付かない気もします。


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