多肉植物の論文を読んでいると、大抵の多肉植物は様々な原因で減少しており、絶滅が危惧されているものも珍しくないということが分かります。都市開発や農業開拓などの大規模な環境破壊もありますが、放牧による家畜の踏みつけなども侮れない要因です。しかし、他の植物と比べて多肉植物に多いのは、違法採取による減少です。
しかし、自生地の環境の悪化や開発に関しては、現地調査による論文がありますが、違法採取や違法取引に関しては正確な状況は不明瞭です。本日はサボテンの違法取引に対する、我々のような趣味家の意識調査を実施したJared D. Margulieらの2022年の論文、『Prevalence and perspective of illegal trade in cacti and succulent plants in the collecter community』を参照にしてみましょう。

論文では、違法な野生生物取引(IWT)は生物多様性に対する深刻な脅威であるにも関わらず、違法な植物採取と違法取引の蔓延に関する研究は不足しているとしています。サボテンと多肉植物の愛好家のいくつかのグループの441人を対象に、サボテンと多肉植物の違法採取や違法取引に関するアンケートを実施しました。
違法なIWTは比較的裕福な国が主体となり、植物の違法取引は量も金額でもIWTの大部分を占めます。植物は絶滅の可能性のおそれのある種の国際取引に関する条約(CITES)に記載される種の85%にもなります。鑑賞用に国際取引される植物の中でも、サボテンと多肉植物は過剰採取により最も強く脅かされており、その多くは違法です。国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種レッドリストのサボテンの評価では、種の31%が絶滅の危機に瀕しており、47%が鑑賞用のコレクションのための採取の影響を受けていることが明らかとなっています(2015年)。

CITESに対する意識調査
調査はオンラインの匿名で実施され、主にアメリカ合衆国とイギリスの愛好会を対象としました。
回答の59%はサボテンの国際輸送にはCITESの文書が必要であることを知っていましたが、他の多肉植物(Aloe、Pachypodium、Euphorbia)においてもCITESに関係していることを理解している人はあまりいませんでした(39%以下)。また、メキシコのサボテンの種子の国際輸送にCITESの許可が必要であることは、回答者の半数(50.8%)が知っていました。

CITESに関する意識調査では、CITESがサボテンや多肉植物の保護のために非常に重要である(60.6%)、やや重要である(26.5%)と捉えています。また、CITESがサボテンや多肉植物の違法採取や違法取引を減らすためにやや役立つ、あるいは非常に役立つとする回答は72%に上りました。しかし、一方で否定的な意見もあります。例えば、「種子は自由取引されるべきで、種子からの栽培は利益の少なさから植物密輸業者には旨味がありません。CITESがあっても違法取引は行われており、CITESは金銭的利益のために生息地での商業的違法採取を止めていません。それは、種子から苗床で栽培された無害な国際取引を違法としているため、監視されていない密輸を奨励する結果となっています。」という意見がありました。CITESの有効性に関しての懸念は、CITESは種の喪失に対する主要な脅威に対処していない、あるいは不十分な抑止であるとするものでした。回答者はCITESは重要であることは認めつつ、「希少種の繁殖は促進されるべきで、そのような植物が合法的に購入できるのならば、違法採取はなくなるでしょう。」と、ただ禁止するだけのシステムを批判し解決策を提示しています。

さて、このようなCITESに対する懸念にも関わらず、74%の回答者は野生のサボテンと多肉植物の採取が非常に深刻な問題であり、71%が違法採取の問題の増加を認識していました。回答者は野生植物の採取は受け入れられないと考えています。愛好家は野生植物の採取より種子の採取に肯定的でした。

では、実際の愛好家たちの植物の取引について見てみましょう。結果、回答者の5.3%が書類なしで植物を購入し、8.6%が書類なしで植物を輸送したと回答しました。
回答者の85%がサボテンと多肉植物の愛好会が植物保護の取り組みにおいて、重要なあるいは非常に重要な役割を持っていると報告しました。回答者はCITESが愛好家と協力し、植物を合法的かつ安全に繁殖と配布を行うことを望んでいました。

CITESに対する疑念
回答者はCITESの存在とサボテンと多肉植物の国際取引の許可にかなり精通し、ほとんどの回答者がCITESを非常に重要であると捉えていました。しかし、27%の回答者はCITESの有効性に対して不確実性あるいは疑問を呈し、一部はCITESに関する十分な知識の欠如によるものでした。回答者の認識としては、CITESは「欠陥がある」、「効果がない」、「多くの抜け穴がある」としており、大幅な改訂を望んでいます。CITESに対する信頼の低下は、貿易規制を無視することを正当化してしまう原因になる可能性があります。

東アジアが原因?
回答者の中には、違法採取の深刻化は北米やヨーロッパの趣味家には関係がなく、東アジアの趣味家の問題であると回答しました。しかし、実際に最近起きている事件は、アジア地域特有の問題ではなく、ヨーロッパやアメリカ合衆国でも依然として問題となっています。このような、「擦り付け」は非常に人気があるようです。しかし、ヨーロッパ地域とアメリカ合衆国だけではなく、多肉植物の違法取引需要の中心地の1つとして、中国、日本、韓国を含む東アジアが重要なことは確かであり、調査が必要です。

違法取引を減らすことは可能か?
回答者はCITESに詳しく、愛好会に対して教育すれば良いという問題ではないことが明らかとなりました。サボテンや多肉植物の愛好家は人工繁殖した植物や種子の提供し、サボテンや多肉植物の保全に対し貢献できると考えています。著者らは保全対策立案者やCITES締結国に対し、利害関係者との協議を奨励します。合法で人工的に繁殖した植物のみを収集することを提唱すると共に、愛好会内の違法取引を減らすことが不可欠です。

以上が論文の簡単な要約です。
基本的にCITESは違法取引の監視と規制が主体であり、希少植物の取引自体を減らすための取り組みが、十全になされているとは言えません。回答者の例にあるように、希少植物の人工繁殖により流通量を増加させる取り組みは必要だと思います。しかし、この方法は規制に穴を開けるために悪用されたり、偽装が行われる可能性があるでしょう。しかし、ただ手をこまねいているより、監視体制や取引を厳格にすることなどにより、運用すべきではないでしょうか。現状は守りに入っているだけですが、これからは積極的に違法取引の旨味を1つずつ潰していく必要を私は感じます。


あと、日本を含めた東アジアの違法取引の現状については、私にもよく分かりません。ただし、 Pachypodium rosulatum subsp. graciliusなどの現地球が、あちこちの園芸店に当たり前のように置かれ、その状態が10年以上続いている現状は恐ろしく感じています。近年ではコピアポアが人気なようですが、取引が禁止されている現地球と思われるサイズの黒王丸(Copiapoa cinerea)がなぜか市場に現れているようで、何かしらの疑念が拭えません。とはいえ、日本政府がCITESを無視しているという事実はなく、日本もCITESに従い希少植物の輸入を禁止していますし、摘発された事例もそれなりにあります。しかし、事実として沢山の希少植物が輸入されていることもまた事実ですが、必要な書類が揃っていれば日本政府はそれ以上の追求は出来ないため、日本政府を責めても解決はしないでしょう。むしろ、現地球の入手に関して、我々趣味家の意識を変えることの方が重要かも知れません。現地球の購入や栽培は、あるべき趣味家の姿として恥ずべきことであるという共通認識を持ち、現地球の栽培に対して批判的な姿勢を趣味家の多くが持つことが出来れば、国際的な批判を受けざるを得ない現状を変えることが出来るかも知れません。完成された現地球を調度品のように飾るのではなく、日本で実生された苗を現地球の姿を目指し工夫して育て上げることは、むしろ趣味家としての本懐であり本来のあるべき姿であると言えないでしょうか?


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