Haworthia koelmaniorumは、葉の上面に透明な窓があるハウォルチアです。しかし、硬葉系ハウォルチアはHaworthiaから分離しHaworthiopsisとなったことから、コエルマニオルムもHaworthiopsis koelmaniorumとなりました。さて、このコエルマニオルムですが、原産地の南アフリカでは減少しており、保護の対象となる希少な多肉植物であるとされています。本日はコエルマニオルムの生息地を調査したE.T.F.Witkowski & R.J.Listonの1997年の論文、『Population structure, habitat profile and regeneration of Haworthia koelmaniorum, a vulnerable dwarf succulent, endemic to Mpumalanga, South Africa』を参考に見ていきましょう。
Haworthiopsis koelmaniorum
透き通っている様子が良く分かります。
夏場は遮光していても、ストレスで赤くなり透明な窓が分かりにくくなります。
コエルマニオルムは珪岩で出来た尾根の斜面に7個体群が存在しますが、すべて自然保護区外です。1994年のBoydによる保全報告書では1800〜2000個体が自生すると推定されました。コエルマニオルムの知られている脅威は、コレクターによる収集や、伝統医学の医薬品としての採取があります。また、近年では特に日本のコレクターがハウォルチアに対して非常に熱心です。
この7つの個体群は、すべてMpumalanga州のGroblesdal地区(標高900〜1100m)に位置します。25年間の年間降水量の平均は720mmであり、その84%は10月から3月にかけて降ります。平均気温は暑い月で37.1℃、寒い月で3.1℃でした。冬には霜が下ります。また、コエルマニオルムの分布する尾根の間の低地が麦畑となったたことで、畑にならなかった高地のコエルマニオルムだけが飛び地状に残った可能性もあるそうです。
さて、実際の調査の結果、全体で1591個体のコエルマニオルムを確認しました。個体群は場所により25〜588個体までと幅がありました。また、火災により67%が被害を受けていました。種子を採取して発芽させたところ、湿らせてから7〜9日で発芽しました。発芽率は79〜89%でした。コエルマニオルムに近縁とされるH. limifoliaの種子の寿命は約5〜7ヶ月であるため、コエルマニオルムは貯蔵種子(seed bank)は持たない可能性が高いと考えられます。
コエルマニオルムの生える尾根と、尾根と尾根の間のコエルマニオルムが生えていない地域の土壌も比較されています。それによると、どこの土壌も砂質でほぼ同じでしたが、小さな違いはあったようです。分布域の土壌はほぼ同質でしたが、コエルマニオルムが生えていない土壌はやや粘土質が多い傾向がありました。
コエルマニオルムは岩の亀裂に生える傾向がありました。ただ、岩の亀裂がコエルマニオルムの生育に適しているかは分かりません。例えば、通常の場所に生えたコエルマニオルムは牛の踏みつけにより破壊されていることが報告されています。さらに、そういう場所は他の草も生えていることから、火災があった時に枯れ草を燃料として強く燃え上がり、コエルマニオルムに強いダメージを与えた可能性があります。
自生地のコエルマニオルムは、成熟した植物はありましたが苗は見られませんでした。これは、発芽はするもののすべて枯れてしまっているようです。苗にとって非常に好ましい特殊な環境がある程度長く続いた時のみ、苗は定着可能であると考えられます。そのため、自生するコエルマニオルムは分結して増えているものも多いと推定され、遺伝的多様性は低いと考えられます。
コエルマニオルムは寿命が長い植物と考えられており、分結と稀に訪れる苗の生育可能な時まで種子を作り続けることにより維持されてきたようです。ですから、家畜の踏みつけや違法採取により親植物が失われると、非常にダメージが大きいと考えられます。その生長の遅さもあり、回復には大変な時間が必要でしょう。
火災のダメージについては、多肉植物を対象とした2つの仮説があります。
①多肉植物は火に耐性はなく、燃えやすい他の植物が生えない岩場や砂場、たまたま火災が起きていない場所でのみ生きられる。
②多くの多肉植物は生長点が十分に保護されており、火災に強い。
コエルマニオルムは火災が起きない岩場の破れ目に生えることにより、火災から身を守っているようにも見えます。しかし、コエルマニオルムは火災によりダメージを受けても、生き残ることも確認されています。上記の2つの仮説はコエルマニオルムに関して、両方とも当てはまると言えます。岩の破れ目付近には、燃料となる植物が少なく、火災が起きても強い火力で焼かれにくいことは明らかだからです。さらに、他の植物より火災に強いコエルマニオルムは、火災により他の植物が失われることにより、他の植物との競争を有利なものとしている可能性もあります。
コエルマニオルムは自然な種子繁殖はあまり期待出来ないため、種子由来の苗を人工的に育てて移植するなどの方法により、保護活動を行う必要があります。牛の放牧を減らしことにより、踏みつけによる被害を減少させることが出来ます。
以上が論文の簡単な要約です。
しかし、野生のコエルマニオルムはたった1591個体しか存在しないというのは、中々衝撃でした。現在、国内で売りに出されているコエルマニオルムは1500株ではすまないでしょうし、趣味家が育てているコエルマニオルムはそれ以上でしょうから、野生のコエルマニオルムがいかに少ないかが分かります。我々趣味家としては、野生の多肉植物の減少は悲しむべきことでしょう。
しかし、論文の中で日本のコレクターの台頭が軽く触れられておりますが、これは何を意味するでしょうか? さすがに日本人が南アフリカまで頻繁に行って、違法採取を繰り返しているという訳ではないでしょう。違法採取は現地の人たちの収入源になっていたりしますが、これはその違法採取した植物を欲しがる人がいるから行われているのです。
現在の日本の状況は、正直あまり褒められたものではありません。輸入されてきたベアルートがイベントや専門店だけではなく、基本的に管理が出来ない大型園芸店などにも並べられており、どれだけの野生株が違法採取により失われたのかを考えると胸が痛みます。違法採取された植物は正規ルートでは買えませんが、あちこち回って採取情報がロンダリングされてしまうため、結局は市場に出回ることになります。これは種子の売買以外を禁止することでしか防ぐ方法はありません。その他の取り組みとしては、例えばソテツは市場に流通量が増えれば違法採取は減ると考えて、効率の良い増やし方や育て方が研究されています。また、Euphorbia susannaeは原産地では非常に希少な多肉植物ですが、どうやらアメリカで組織培養による大量生産がされたようで、市場流通量が激増して一気に安価な普及種となり、もはや違法採取されまものをわざわざ購入する必要はなくなりました。日本でもE. susannaeは、種子によるものと考えられますが、大手業者により大量生産されており、流通量も多く安価な普及種となっています。
現地株ではなく種子由来の苗が出回れば良いわけですが、現在日本国内に流通しているのは小型の苗ですから国内実生なのでしょう。コエルマニオルムは日本では人気種ではありませんが、軟葉系ハウォルチアなどは人気です。しかし、日本ではきらびやかな交配種が人気で、ハウォルチアの現地球を求めている人はほとんどいないでしょう。とはいえ、我々趣味家も野生の多肉植物の保全に対して、もう少し興味を持っても良いように思います。
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Haworthiopsis koelmaniorum
透き通っている様子が良く分かります。
夏場は遮光していても、ストレスで赤くなり透明な窓が分かりにくくなります。
コエルマニオルムは珪岩で出来た尾根の斜面に7個体群が存在しますが、すべて自然保護区外です。1994年のBoydによる保全報告書では1800〜2000個体が自生すると推定されました。コエルマニオルムの知られている脅威は、コレクターによる収集や、伝統医学の医薬品としての採取があります。また、近年では特に日本のコレクターがハウォルチアに対して非常に熱心です。
この7つの個体群は、すべてMpumalanga州のGroblesdal地区(標高900〜1100m)に位置します。25年間の年間降水量の平均は720mmであり、その84%は10月から3月にかけて降ります。平均気温は暑い月で37.1℃、寒い月で3.1℃でした。冬には霜が下ります。また、コエルマニオルムの分布する尾根の間の低地が麦畑となったたことで、畑にならなかった高地のコエルマニオルムだけが飛び地状に残った可能性もあるそうです。
さて、実際の調査の結果、全体で1591個体のコエルマニオルムを確認しました。個体群は場所により25〜588個体までと幅がありました。また、火災により67%が被害を受けていました。種子を採取して発芽させたところ、湿らせてから7〜9日で発芽しました。発芽率は79〜89%でした。コエルマニオルムに近縁とされるH. limifoliaの種子の寿命は約5〜7ヶ月であるため、コエルマニオルムは貯蔵種子(seed bank)は持たない可能性が高いと考えられます。
コエルマニオルムの生える尾根と、尾根と尾根の間のコエルマニオルムが生えていない地域の土壌も比較されています。それによると、どこの土壌も砂質でほぼ同じでしたが、小さな違いはあったようです。分布域の土壌はほぼ同質でしたが、コエルマニオルムが生えていない土壌はやや粘土質が多い傾向がありました。
コエルマニオルムは岩の亀裂に生える傾向がありました。ただ、岩の亀裂がコエルマニオルムの生育に適しているかは分かりません。例えば、通常の場所に生えたコエルマニオルムは牛の踏みつけにより破壊されていることが報告されています。さらに、そういう場所は他の草も生えていることから、火災があった時に枯れ草を燃料として強く燃え上がり、コエルマニオルムに強いダメージを与えた可能性があります。
自生地のコエルマニオルムは、成熟した植物はありましたが苗は見られませんでした。これは、発芽はするもののすべて枯れてしまっているようです。苗にとって非常に好ましい特殊な環境がある程度長く続いた時のみ、苗は定着可能であると考えられます。そのため、自生するコエルマニオルムは分結して増えているものも多いと推定され、遺伝的多様性は低いと考えられます。
コエルマニオルムは寿命が長い植物と考えられており、分結と稀に訪れる苗の生育可能な時まで種子を作り続けることにより維持されてきたようです。ですから、家畜の踏みつけや違法採取により親植物が失われると、非常にダメージが大きいと考えられます。その生長の遅さもあり、回復には大変な時間が必要でしょう。
火災のダメージについては、多肉植物を対象とした2つの仮説があります。
①多肉植物は火に耐性はなく、燃えやすい他の植物が生えない岩場や砂場、たまたま火災が起きていない場所でのみ生きられる。
②多くの多肉植物は生長点が十分に保護されており、火災に強い。
コエルマニオルムは火災が起きない岩場の破れ目に生えることにより、火災から身を守っているようにも見えます。しかし、コエルマニオルムは火災によりダメージを受けても、生き残ることも確認されています。上記の2つの仮説はコエルマニオルムに関して、両方とも当てはまると言えます。岩の破れ目付近には、燃料となる植物が少なく、火災が起きても強い火力で焼かれにくいことは明らかだからです。さらに、他の植物より火災に強いコエルマニオルムは、火災により他の植物が失われることにより、他の植物との競争を有利なものとしている可能性もあります。
コエルマニオルムは自然な種子繁殖はあまり期待出来ないため、種子由来の苗を人工的に育てて移植するなどの方法により、保護活動を行う必要があります。牛の放牧を減らしことにより、踏みつけによる被害を減少させることが出来ます。
以上が論文の簡単な要約です。
しかし、野生のコエルマニオルムはたった1591個体しか存在しないというのは、中々衝撃でした。現在、国内で売りに出されているコエルマニオルムは1500株ではすまないでしょうし、趣味家が育てているコエルマニオルムはそれ以上でしょうから、野生のコエルマニオルムがいかに少ないかが分かります。我々趣味家としては、野生の多肉植物の減少は悲しむべきことでしょう。
しかし、論文の中で日本のコレクターの台頭が軽く触れられておりますが、これは何を意味するでしょうか? さすがに日本人が南アフリカまで頻繁に行って、違法採取を繰り返しているという訳ではないでしょう。違法採取は現地の人たちの収入源になっていたりしますが、これはその違法採取した植物を欲しがる人がいるから行われているのです。
現在の日本の状況は、正直あまり褒められたものではありません。輸入されてきたベアルートがイベントや専門店だけではなく、基本的に管理が出来ない大型園芸店などにも並べられており、どれだけの野生株が違法採取により失われたのかを考えると胸が痛みます。違法採取された植物は正規ルートでは買えませんが、あちこち回って採取情報がロンダリングされてしまうため、結局は市場に出回ることになります。これは種子の売買以外を禁止することでしか防ぐ方法はありません。その他の取り組みとしては、例えばソテツは市場に流通量が増えれば違法採取は減ると考えて、効率の良い増やし方や育て方が研究されています。また、Euphorbia susannaeは原産地では非常に希少な多肉植物ですが、どうやらアメリカで組織培養による大量生産がされたようで、市場流通量が激増して一気に安価な普及種となり、もはや違法採取されまものをわざわざ購入する必要はなくなりました。日本でもE. susannaeは、種子によるものと考えられますが、大手業者により大量生産されており、流通量も多く安価な普及種となっています。
現地株ではなく種子由来の苗が出回れば良いわけですが、現在日本国内に流通しているのは小型の苗ですから国内実生なのでしょう。コエルマニオルムは日本では人気種ではありませんが、軟葉系ハウォルチアなどは人気です。しかし、日本ではきらびやかな交配種が人気で、ハウォルチアの現地球を求めている人はほとんどいないでしょう。とはいえ、我々趣味家も野生の多肉植物の保全に対して、もう少し興味を持っても良いように思います。
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