ソテツは起源の古い植物で、針葉樹やイチョウと同じ裸子植物です。針葉樹は風で花粉を運ぶ風媒花ですから、裸子植物は概ね風媒花と考えられて来ました。しかし、20世紀中頃くらいからソテツの仲間は風媒花ではなく、アザミウマやゾウムシにより受粉する虫媒花であると言われるようになりました。しかし、ソテツには昆虫にアピールするための目立つ花弁や苞はありませんし、昆虫に対する報酬である花の蜜もありません。いかなる手段で昆虫を引き寄せているのでしょうか?
調べてみたところ、2021年の割と新しい論文が見つかりました。それは、Shayla Salzmanらの論文、『Cycad-Weevil Pollination Symbiosis Is Characterized by Rapidly Evolving and Highly Specific Plant-Insect Chemical Communication』です。早速、内容を見ていきましょう。
Zamia属のソテツは、Rhopalotriaというゾウムシにより受粉が行われる虫媒花です。ゾウムシはソテツの雌花(corn)を食べて繁殖します。Zamiaはゾウムシに受粉を依存し、ゾウムシもまたZamiaに依存しています。要するに、これは共進化であり、お互いがお互いに適応して進化したと考えられます。例えば、Zamia furfuracea(※1)にはRhopalotria furfuraceaというゾウムシが、Zamia integrifolia(※2)にはRhopalotria slossoniというゾウムシという風に、ソテツとゾウムシの決まった組み合わせが出来ているのです。
(※1) Zamia furfuracea
日本ではZamia pumilaの名前で販売されることが多いようですが、Z. furfuraceaとはまったくの別種です。Z. furfuraceaは葉の幅が広く厚みがありますが、Z. pumilaの葉は細長く国内ではまったく流通していません。

Zamia furfuracea
(※2) Zamia integrifolia
一般的にはZamia floridanaの名前で販売されています。古い論文でも、Z. floridanaの名前が使われていましたが、Z. floridanaより命名の古い名前が複数あることが判明し、最も命名が古いZ. integrifoliaが正しい学名とされました。このZ. integrifoliaが正しくZ. floridanaにあたる植物に相当するかは議論もあるようですが、その場合においてもZ. floridanaより古い他の名前が採用されるため、Z. floridanaが今後学術的に使用されることはありません。

Zamia integrifolia
ゾウムシはソテツの発する揮発性物質に誘引されていると言います。論文ではZ. integrifoliaの雌花から揮発性物質を採取し、含まれる物質にゾウムシが反応するかを試験しました。ゾウムシを誘引する物質はサリチル酸メチルである、Z. furfuraceaのゾウムシを誘引する物質とは異なっていました。実際にZ. furfuraceaに誘引されるゾウムシは、サリチル酸メチルに反応しませんでした。逆にZ. furfuraceaから放出される1,3-オクタジエンは、Z. integrifoliaに誘引されるゾウムシは反応しませんでした。やはり、決まった相手と深く関係を結んでいることが明らかになりました。
また、論文ではZamiaの遺伝子を解析し、系統関係を調べています。さらに、Zamia各種の雌花から揮発性物質を採取し、そちらも分析して種類による違いを調べています。まず、Zamiaの遺伝子の遠近と葉の形などの外見には、あまり相関が見られませんでした。要するに、葉の形が似ているからと言って近縁とは限らないということです。しかし、雌花から放出される物質は、外見よりも遺伝的遠近に関係が見られました。
以上が論文の簡単な要約です。
これは、大変興味深い結果だと私は思いました。ソテツとゾウムシが一対一の関係を結び、さらにはソテツの揮発性物質に系統関係と相関するならば、ソテツに来るゾウムシの系統関係を調べるべきでしょう。おそらくは、ソテツの遺伝子の分岐の仕方と、ゾウムシの遺伝子の分岐の仕方は、ある程度は相関があるはずだからです。仮にソテツAにゾウムシAが関係している時、ソテツAからソテツBが分岐したとしましょう。この時に、ゾウムシAと無関係のゾウムシXがソテツBと関係するようになる訳ではなく、ゾウムシAからソテツBに反応するゾウムシBが分岐する可能性が高いと考えられます。このような関係は、実際に様々な生物間で発見されています。
例えば、新型コロナはコウモリが由来ではないかという説があります。その真偽は兎も角として、コウモリの種分化と、感染するコロナウイルスの種分化には相関が見られます。他の例では、カメムシとカメムシの腸内細菌でも、この関係が見られます。カメムシはストロー状の口で植物の汁を吸いますが、植物の汁は糖分ばかりでタンパク質など様々な栄養素がほぼ含まれておりません。そのため、カメムシは腸内に種類ごとに特有の細菌がいて、植物の汁の糖分から様々な栄養素を作り出します。カメムシと腸内細菌の分子系統は驚くほどよく似ています。
実はソテツの受粉に関する話は過去に記事にしたことがあります。それは、日本のソテツに対する研究の話です。日本のソテツであるCycas revolutaは基本的に風媒花ですが、それは近くにある個体同士だけの話であり、ケシキスイという昆虫が花粉媒介に関わっているというものです。日本のソテツは風媒も虫媒もしていますから、まさに風媒花から虫媒花への移行の途中段階を目の当たりにしているのかも知れませんね。
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Zamia属のソテツは、Rhopalotriaというゾウムシにより受粉が行われる虫媒花です。ゾウムシはソテツの雌花(corn)を食べて繁殖します。Zamiaはゾウムシに受粉を依存し、ゾウムシもまたZamiaに依存しています。要するに、これは共進化であり、お互いがお互いに適応して進化したと考えられます。例えば、Zamia furfuracea(※1)にはRhopalotria furfuraceaというゾウムシが、Zamia integrifolia(※2)にはRhopalotria slossoniというゾウムシという風に、ソテツとゾウムシの決まった組み合わせが出来ているのです。
(※1) Zamia furfuracea
日本ではZamia pumilaの名前で販売されることが多いようですが、Z. furfuraceaとはまったくの別種です。Z. furfuraceaは葉の幅が広く厚みがありますが、Z. pumilaの葉は細長く国内ではまったく流通していません。

Zamia furfuracea
(※2) Zamia integrifolia
一般的にはZamia floridanaの名前で販売されています。古い論文でも、Z. floridanaの名前が使われていましたが、Z. floridanaより命名の古い名前が複数あることが判明し、最も命名が古いZ. integrifoliaが正しい学名とされました。このZ. integrifoliaが正しくZ. floridanaにあたる植物に相当するかは議論もあるようですが、その場合においてもZ. floridanaより古い他の名前が採用されるため、Z. floridanaが今後学術的に使用されることはありません。

Zamia integrifolia
ゾウムシはソテツの発する揮発性物質に誘引されていると言います。論文ではZ. integrifoliaの雌花から揮発性物質を採取し、含まれる物質にゾウムシが反応するかを試験しました。ゾウムシを誘引する物質はサリチル酸メチルである、Z. furfuraceaのゾウムシを誘引する物質とは異なっていました。実際にZ. furfuraceaに誘引されるゾウムシは、サリチル酸メチルに反応しませんでした。逆にZ. furfuraceaから放出される1,3-オクタジエンは、Z. integrifoliaに誘引されるゾウムシは反応しませんでした。やはり、決まった相手と深く関係を結んでいることが明らかになりました。
また、論文ではZamiaの遺伝子を解析し、系統関係を調べています。さらに、Zamia各種の雌花から揮発性物質を採取し、そちらも分析して種類による違いを調べています。まず、Zamiaの遺伝子の遠近と葉の形などの外見には、あまり相関が見られませんでした。要するに、葉の形が似ているからと言って近縁とは限らないということです。しかし、雌花から放出される物質は、外見よりも遺伝的遠近に関係が見られました。
以上が論文の簡単な要約です。
これは、大変興味深い結果だと私は思いました。ソテツとゾウムシが一対一の関係を結び、さらにはソテツの揮発性物質に系統関係と相関するならば、ソテツに来るゾウムシの系統関係を調べるべきでしょう。おそらくは、ソテツの遺伝子の分岐の仕方と、ゾウムシの遺伝子の分岐の仕方は、ある程度は相関があるはずだからです。仮にソテツAにゾウムシAが関係している時、ソテツAからソテツBが分岐したとしましょう。この時に、ゾウムシAと無関係のゾウムシXがソテツBと関係するようになる訳ではなく、ゾウムシAからソテツBに反応するゾウムシBが分岐する可能性が高いと考えられます。このような関係は、実際に様々な生物間で発見されています。
例えば、新型コロナはコウモリが由来ではないかという説があります。その真偽は兎も角として、コウモリの種分化と、感染するコロナウイルスの種分化には相関が見られます。他の例では、カメムシとカメムシの腸内細菌でも、この関係が見られます。カメムシはストロー状の口で植物の汁を吸いますが、植物の汁は糖分ばかりでタンパク質など様々な栄養素がほぼ含まれておりません。そのため、カメムシは腸内に種類ごとに特有の細菌がいて、植物の汁の糖分から様々な栄養素を作り出します。カメムシと腸内細菌の分子系統は驚くほどよく似ています。
実はソテツの受粉に関する話は過去に記事にしたことがあります。それは、日本のソテツに対する研究の話です。日本のソテツであるCycas revolutaは基本的に風媒花ですが、それは近くにある個体同士だけの話であり、ケシキスイという昆虫が花粉媒介に関わっているというものです。日本のソテツは風媒も虫媒もしていますから、まさに風媒花から虫媒花への移行の途中段階を目の当たりにしているのかも知れませんね。
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