一般に砂漠や湿地、高山などの特殊な環境に生える植物は環境の変動に脆弱です。当然ながら、乾燥地に生えるサボテンも強い影響を受ける可能性があります。世界規模で地球環境が変動する可能性が指摘されていますが、実際にはどうなのでしょうか? 気候変動がサボテンに与える影響をシミュレーションしたMichiel Pilletらの2022年の論文、『Elevated extinction risk of cacti under climate change』を見てみましょう。
サボテンは南北アメリカ大陸に分布しますが、環境により常に他の植物より優占している訳ではありません。サボテンは乾燥に適応したものが多いのですが、より湿った環境では、乾燥にそれほど強くない植物には勝てません。
しかし、今後アメリカ大陸は乾燥化がより進むと予想されるため、より乾燥に強いサボテンがむしろ増えるのではないかという意見もあります。たしかに、乾燥に強くないの植物は乾燥化に耐えられないでしょう。サボテンはCAM植物(※1)であり、乾燥化に対してはより有利だとされます。
しかし、乾燥化だけではなく、より高温となることも予測されており、多くのサボテンにとって好ましい状況とは言えないかも知れません。最近の研究では、わずか+2℃の高温によりサボテンに光合成障害が起きることや、高温によるサボテンの種子の発芽率の低下が報告されています。
(※1) CAM植物は、暑い日中は気孔を閉じて水分の放出を最低限とし、涼しい夜間に気孔を開いて二酸化炭素を吸収します。さらに、取り込んだ二酸化炭素をリンゴ酸として水に溶かした状態で貯蔵することが出来ます。ただし、その分だけコストがかかりますから、通常の植物(C3植物)より生長は緩やかとなります。
論文では、408種類のサボテンを評価しています。シミュレーションは、2050年と2070年の予測下の気候変動に対して、サボテンがどのように分布を拡大・縮小するかを見ています。
結果としてはSCA(※2)の変動が起きました。サボテンの大部分は好ましい気候の減少を経験する可能性があります。平均SCAは6%の減少に過ぎないため、比較的軽微に見えますが、これは一部の種類の大幅な増加により、減少が隠されてしまっているからです。分析すると、SCAの中央値付近では23%がSCAの1/4以上を失い、わずか2%がSCAの1/4以上を獲得すると予測されます。全体としては、種の60%がSCAの減少を経験します。
(※2) 適切な気候地域。(suitable climate area)
サボテンには種の多様性が高いホットスポットが存在し、メキシコ中央部、ブラジルの大西洋岸、ブラジルのCaatingaなどが知られていますが、将来的にこれらの地域では絶滅危惧種の急激な増加が予測されます。フロリダ州とアメリカ中央部の広い範囲で、サボテンの50%以上の種類が失われ、カリブ海地域や中南米のほとんどで絶滅危惧種が増加する可能性があります。
以上が論文の簡単な要約となります。
シミュレーションや解析のアルゴリズムは、残念ながら私には理解出来ませんから、その妥当性についての判断は出来ませんでした。しかし、過去の知見からすると、将来訪れるであろう高温に対し、サボテンがどこまで耐えることが出来るのかは悲観的にも感じます。また、乾燥に対しても論文ではサボテンに有利としていますが、それは他の植物との競争に対しての話でしかありません。他植物より相対的に乾燥に強いというだけで、極度の乾燥に強いという訳ではないはずです。以前、マダガスカルのユーフォルビアは、幹を太らせるサボテンタイプより、乾季に葉を落として休眠する塊根タイプの方が、乾燥に強いという論文をご紹介しました。果たして、サボテンは極度の乾燥に耐えられるのでしょうか? ユーフォルビアとサボテンは異なりますから、イコールではないかも知れませんが、あまり甘い見立てで安心すべきではないと思います。何れにせよ、論文を読んでいて気候変動が多肉植物に対してポジティブに働くケースを私は知りません。まったくの一般人である私には、美しい野生の多肉植物がこの世界から失われないことをただ祈るだけです。
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サボテンは南北アメリカ大陸に分布しますが、環境により常に他の植物より優占している訳ではありません。サボテンは乾燥に適応したものが多いのですが、より湿った環境では、乾燥にそれほど強くない植物には勝てません。
しかし、今後アメリカ大陸は乾燥化がより進むと予想されるため、より乾燥に強いサボテンがむしろ増えるのではないかという意見もあります。たしかに、乾燥に強くないの植物は乾燥化に耐えられないでしょう。サボテンはCAM植物(※1)であり、乾燥化に対してはより有利だとされます。
しかし、乾燥化だけではなく、より高温となることも予測されており、多くのサボテンにとって好ましい状況とは言えないかも知れません。最近の研究では、わずか+2℃の高温によりサボテンに光合成障害が起きることや、高温によるサボテンの種子の発芽率の低下が報告されています。
(※1) CAM植物は、暑い日中は気孔を閉じて水分の放出を最低限とし、涼しい夜間に気孔を開いて二酸化炭素を吸収します。さらに、取り込んだ二酸化炭素をリンゴ酸として水に溶かした状態で貯蔵することが出来ます。ただし、その分だけコストがかかりますから、通常の植物(C3植物)より生長は緩やかとなります。
論文では、408種類のサボテンを評価しています。シミュレーションは、2050年と2070年の予測下の気候変動に対して、サボテンがどのように分布を拡大・縮小するかを見ています。
結果としてはSCA(※2)の変動が起きました。サボテンの大部分は好ましい気候の減少を経験する可能性があります。平均SCAは6%の減少に過ぎないため、比較的軽微に見えますが、これは一部の種類の大幅な増加により、減少が隠されてしまっているからです。分析すると、SCAの中央値付近では23%がSCAの1/4以上を失い、わずか2%がSCAの1/4以上を獲得すると予測されます。全体としては、種の60%がSCAの減少を経験します。
(※2) 適切な気候地域。(suitable climate area)
サボテンには種の多様性が高いホットスポットが存在し、メキシコ中央部、ブラジルの大西洋岸、ブラジルのCaatingaなどが知られていますが、将来的にこれらの地域では絶滅危惧種の急激な増加が予測されます。フロリダ州とアメリカ中央部の広い範囲で、サボテンの50%以上の種類が失われ、カリブ海地域や中南米のほとんどで絶滅危惧種が増加する可能性があります。
以上が論文の簡単な要約となります。
シミュレーションや解析のアルゴリズムは、残念ながら私には理解出来ませんから、その妥当性についての判断は出来ませんでした。しかし、過去の知見からすると、将来訪れるであろう高温に対し、サボテンがどこまで耐えることが出来るのかは悲観的にも感じます。また、乾燥に対しても論文ではサボテンに有利としていますが、それは他の植物との競争に対しての話でしかありません。他植物より相対的に乾燥に強いというだけで、極度の乾燥に強いという訳ではないはずです。以前、マダガスカルのユーフォルビアは、幹を太らせるサボテンタイプより、乾季に葉を落として休眠する塊根タイプの方が、乾燥に強いという論文をご紹介しました。果たして、サボテンは極度の乾燥に耐えられるのでしょうか? ユーフォルビアとサボテンは異なりますから、イコールではないかも知れませんが、あまり甘い見立てで安心すべきではないと思います。何れにせよ、論文を読んでいて気候変動が多肉植物に対してポジティブに働くケースを私は知りません。まったくの一般人である私には、美しい野生の多肉植物がこの世界から失われないことをただ祈るだけです。
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