植物にも病気になるものがあり、場合によっては病気が原因で枯れてしまうこともあります。症状は様々で、その原因も様々です。植物の病原菌の大半は真菌、細菌、ウイルスが原因です。真菌とはカビやキノコの仲間のことですが、その多くは落ち葉や動物の遺骸を腐らせ分解しますが、一部は生きた植物に感染します。植物寄生性の細菌は葉に茶色い斑点を作ったりしますが、このような斑点は生理障害や葉焼けなどが原因の場合もあります。植物にウイルスが感染すると、葉に斑模様が現れ花が縮れるなどの症状が現れます。昔はこのようなウイルス斑が入った植物を珍しがって高値で取引されたこともあります。
さて、このような植物に感染する病原菌に興味を持ち何冊かの本を読んだりしましたが、2019年に非常に良い本が出版されたのでご紹介します。日本植物病理学会による『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』(講談社ブルーバックス)です。少しだけ内容を見てみましょう。

植物は動けないからといって無抵抗な訳ではありません。まず、植物の葉には病原菌から見ると非常に分厚いクチクラ層や細胞壁があり、簡単に侵入することは出来ません。いったいどのように侵入しているのでしょうか?
まず、カビから見ていきましょう。カビは付着器という器官を持ち、そこから穴を開けて侵入します。穴を開ける仕組みも巧妙です。付着器には粘性の高いグリセロールが溜まっており、水が流入すると膨れ上がります。その圧力は自動車のタイヤの空気圧の40倍にもなるそうです。その高い圧力で葉の表面に穴を開けているのです。
次に、非常に小さな細菌では葉に穴を開けることば出来ませんから、植物の気孔から侵入します。植物は光合成のために二酸化炭素を取り込まなくてはならないため、気孔という穴を開閉する必要があります。しかし、気孔は細菌を感知すると閉じてしまうのだそうです。そのため、細菌は植物ホルモンの類似物質や様々な毒素を分泌して気孔を開かせるのです。
植物はただ硬くなるだけではありません。病原菌に侵入を許したとしても、様々な防御機構があります。
その1つが、ファイトアンティシピンと呼ばれる抗菌性の化学物質群です。常に存在するものや、病原菌の侵入により活性化するものなど様々です。ファイトアンティシピンとして有名なのは、お茶に含まれるカテキンなどのポリフェノールです。しかし、病原菌はファイトアンティシピンを分解する物質を作って対抗するものもあります。
また、植物は病原菌に攻撃されると、様々なタンパク質を分泌します。例えば、17のタイプがあるPRタンパク質は、カビの細胞壁の成分であるキチンやグルクンを分解するキチナーゼやグルカナーゼといった酵素や、カビや細胞に抗菌性を示すディフェンシンやチオチン、卵菌に抗菌性を示すPR-1やソーマチン様タンパク質、ウイルスに対するリボヌクレアーゼなど様々です。
さらに、極端な植物の防衛策として、過敏感反応があります。過敏感反応は病原菌の周囲の植物の細胞が自ら死を選び、自分もろとも病原菌に対抗する反応です。これは、生きた細胞内でしか生きられないような、完全に寄生性の病原菌には非常に有効です。しかし、毒素を撒き散らしながら組織を浸潤するような病原菌の場合、逆に病原菌が活性化してしまいます。
思いもよらぬ対抗策もあります。実験用の植物の細胞の内外の糖分の出し入れに関わるタンパク質に変異がが入った場合、何故か細菌に感染しやすくなることがわかりました。詳しく調べると、細菌に感染するとこのタンパク質は活性化して急速に糖分を細胞内に吸収します。細菌は細胞内ではなく細胞の間に潜むため、細胞外の糖分が失くなると栄養分が足りなくなります。ある種の兵糧攻めのようなものです。
以上はごく一部の要約です。実際には詳しいメカニズムも解説されます。さらに言うならば、以上の話は本の前半のみの内容です。これ以上に激しい植物と病原菌とのせめぎあいがあります。
しかし、どうやら植物の病原体は環境中にいくらでもおり、動かない植物ですが常にそれらの病原体と激しい攻防を繰り返しているようです。この本を読んで、私の持っていた植物のイメージは完全に変わってしまいました。大変、勉強になる本ですのでぜひ一読してみて下さい。
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さて、このような植物に感染する病原菌に興味を持ち何冊かの本を読んだりしましたが、2019年に非常に良い本が出版されたのでご紹介します。日本植物病理学会による『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』(講談社ブルーバックス)です。少しだけ内容を見てみましょう。

植物は動けないからといって無抵抗な訳ではありません。まず、植物の葉には病原菌から見ると非常に分厚いクチクラ層や細胞壁があり、簡単に侵入することは出来ません。いったいどのように侵入しているのでしょうか?
まず、カビから見ていきましょう。カビは付着器という器官を持ち、そこから穴を開けて侵入します。穴を開ける仕組みも巧妙です。付着器には粘性の高いグリセロールが溜まっており、水が流入すると膨れ上がります。その圧力は自動車のタイヤの空気圧の40倍にもなるそうです。その高い圧力で葉の表面に穴を開けているのです。
次に、非常に小さな細菌では葉に穴を開けることば出来ませんから、植物の気孔から侵入します。植物は光合成のために二酸化炭素を取り込まなくてはならないため、気孔という穴を開閉する必要があります。しかし、気孔は細菌を感知すると閉じてしまうのだそうです。そのため、細菌は植物ホルモンの類似物質や様々な毒素を分泌して気孔を開かせるのです。
植物はただ硬くなるだけではありません。病原菌に侵入を許したとしても、様々な防御機構があります。
その1つが、ファイトアンティシピンと呼ばれる抗菌性の化学物質群です。常に存在するものや、病原菌の侵入により活性化するものなど様々です。ファイトアンティシピンとして有名なのは、お茶に含まれるカテキンなどのポリフェノールです。しかし、病原菌はファイトアンティシピンを分解する物質を作って対抗するものもあります。
また、植物は病原菌に攻撃されると、様々なタンパク質を分泌します。例えば、17のタイプがあるPRタンパク質は、カビの細胞壁の成分であるキチンやグルクンを分解するキチナーゼやグルカナーゼといった酵素や、カビや細胞に抗菌性を示すディフェンシンやチオチン、卵菌に抗菌性を示すPR-1やソーマチン様タンパク質、ウイルスに対するリボヌクレアーゼなど様々です。
さらに、極端な植物の防衛策として、過敏感反応があります。過敏感反応は病原菌の周囲の植物の細胞が自ら死を選び、自分もろとも病原菌に対抗する反応です。これは、生きた細胞内でしか生きられないような、完全に寄生性の病原菌には非常に有効です。しかし、毒素を撒き散らしながら組織を浸潤するような病原菌の場合、逆に病原菌が活性化してしまいます。
思いもよらぬ対抗策もあります。実験用の植物の細胞の内外の糖分の出し入れに関わるタンパク質に変異がが入った場合、何故か細菌に感染しやすくなることがわかりました。詳しく調べると、細菌に感染するとこのタンパク質は活性化して急速に糖分を細胞内に吸収します。細菌は細胞内ではなく細胞の間に潜むため、細胞外の糖分が失くなると栄養分が足りなくなります。ある種の兵糧攻めのようなものです。
以上はごく一部の要約です。実際には詳しいメカニズムも解説されます。さらに言うならば、以上の話は本の前半のみの内容です。これ以上に激しい植物と病原菌とのせめぎあいがあります。
しかし、どうやら植物の病原体は環境中にいくらでもおり、動かない植物ですが常にそれらの病原体と激しい攻防を繰り返しているようです。この本を読んで、私の持っていた植物のイメージは完全に変わってしまいました。大変、勉強になる本ですのでぜひ一読してみて下さい。
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