今年の3月にEuphorbia heterodoxaなるユーフォルビアを入手しました。棒状の奇妙な多肉植物です。しかし、調べて見ると特徴が今一つ符合しません。さらに言うならば、このような棒状のユーフォルビアは1つの種類を調べても、ネット上の画像では明らかに複数種と思われるものが出て来てしまいます。これは一体どういうことなのでしょうか?
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ご覧の通りあまり特徴がありません。いや、棒状で特徴的ではないかと思われるかもしれませんが、そう上手くはいかないのです。実はユーフォルビアはこのような棒状の形態のものが沢山あり、アフリカ大陸、マダガスカル、カナリア諸島、オーストラリア、南アメリカなど、それぞれの地域で異なる種類の棒状ユーフォルビアが自生しているのです。
その中でも有名なのはTirucalli節のEuphorbia tirucalli(ミルクブッシュ、緑珊瑚)やDeuterocalli節のEuphorbia alluaudiiなどでしょう。しかし、それらはツルッとした見た目で、このような縦に筋が入るものはそれほど多くはありません。見た瞬間に南アメリカ原産、つまりはユーフォルビア亜属New World Cladeだと思いました。さらに、ただ棒状なだけではなく、縦に筋状の角(rib)があることが特徴的です。とりあえずは、Euphorbia heterodoxaを調べてみましょう。

E. heterodoxaはユーフォルビア亜属New World CladeのStaciydium節です。E. comosaなど基本的に草本で、E. heterodoxaだけは多肉質になります。しかし、E. heterodoxaには特徴的なribがありません。これは明らかに別種です。よく調べると、ある国内の販売サイトでは、ribある棒状ユーフォルビアにE. heterodoxaの名前を付けて販売しているようです。どこかで混同があったのかもしれません。

外見的にはEuphorbia phosphorea(夜光キリン)によく似ています。しかし、E. phosphoreaの仲間は皆よく似ています。E. phosphoreaはユーフォルビア亜属New World CladeのBrasilienses節に分類されます。しかし、Brasilienses節は皆ribがある棒状の多肉植物で、ネットの画像からは違いがいまいち分かりません。また、数種類が混同されているようで、まったく信頼がおけません。
困った時の論文頼みということで、論文を漁ってみたところ、Brasiliense節の新種と、既存種を説明した論文を見つけました。2018年の『A new species molecular phylogeny of Brazilian succulent Euphorbia sect. Brasilienses』です。
論文には分かりやすく、茎を切断した断面と花の写真がありました。見分けるポイントのようです。とりあえず、ribの数が少ないE. sipolisii、E. tetrangularisは異なります。残るはE. phosphoreaとE. attastoma、E. holochlorinaです。せっかくですから、Brasiliense節5種類の見分け方を記します。
① ribは4つ
    1 ) Cynthiumと腺(glands)は赤色で付属物がある。
          →Euphorbia sipolisii
    2 ) Cynthiumと腺は緑色で直立した付属物がある。
          →Euphorbia tetrangularis
②ribは6~8つ
    1 ) 明るい緑色の枝。1~2つのcyathiaがある。
          壺型の総苞。
          →Euphorbia holochlorina
    2 ) 緑色または黄色がかった枝。
          2つ以上のcyathia。釣り鐘型の総苞。
        Ⅰ, ribは6~8。通常5つ以上のcyathia。
          →Euphorbia phosphorea
        Ⅱ, ribは6つ。通常は2~4のcyathia。
          →Euphorbia attastoma
とまあ、こんな感じにまとめられていましたが、少し分かりにくいですね。ちなみに、私の入手したユーフォルビアのribは8つですから、Brasilienses節ではE. phosphoreaが該当します。cyathiaは1つの節に10個はついています。ただし、枝の色は深い緑色で少しイメージが異なります。しかし、日照により変わりそうですから、あまり当てに出来る指標ではないようにも思えます。

続けてRichard Riinaらの2015年の論文、『Euphorbia from Brazil: the succulent section Brasilienses』を見てみましょう。まだ、2015年にはE. tetrangularisは発見される前ですから記述はありませんが、他の4種類については詳しい説明があります。
・E. attastoma
    ribは6面で表面は凹む。
    3つのribから節が生じ、同じ節に到達する。
    古い枝は木化する。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色か赤色/黄色/緑色。
・E. holochlorina
    ribは6面で表面は凹む。
    3つのribから生じ、同じ節に到達。
    木化しない。
    総苞茎は壺型。
    子房はほぼ緑色。
・E. phosphorea
    ribは8~9面で表面は少し凹む。
    3つのribのうち2つが、次の節に到達する。
    3番目のribが異なる節に集まる。
    主幹は木化する。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色、赤色/黄色か赤色/緑色。
・E. sipolisii
    ribは4面で表面は凹まない。

    3つのribのうち2つが、次の節に到達する。
    3番目のribが異なる節に集まる。
    木化しない。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色か赤色/黄色。
おやおや、先の論文と異なりE. phosphoreaのribは8~9となっています。しかし、その場合でも一番近いのはE. phosphoreaですね。ribと節の関係の説明が分かりにくいので、実際の写真で見てみます。
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下の矢印の節から3本のribが上に伸びていますが、そのうち1本が上の矢印の節に合流しています。

実はEuphorbia weberbaueriもよく似ています。
E. weberbaueriはユーフォルビア亜属New World CladeのEuphorbiastrum節ですが、基本的には木本が多いようです。ribがあり棒状のものは、E. pteroneuraとE. weberbaueriがありますが、E. pteroneuraは短い枝が連なり特徴が異なります。
しかし、E. weberbaueriについてはあまり情報がありません。仕方がないので、E. weberbaueriが新種として記載された1931年の『Repertorium specierum novarum regni vegetabilis』を見てみましょう。
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内容は前半がラテン語、後半はドイツ語ですからよく分かりません。古い雑誌ですから文字のかすれや黄ばみ、汚損が激しくPDFをWordに上手く変換出来ず、コピペも文字化けしてしまい機械翻訳が出来ませんでした。ただ、最後に類似種の判別の仕方が記載されていました。それによると、E. weberbaueriとE. phosphoreaは似ているが、E. phosphoreaには腺に2つの角のある付属肢がある、とあります。これが何を指しているのかよく分かりませんが、キュー王立植物園のデータベースにあるE. phosphoreaの写真には、確かに節には突起物があります。花茎の跡でしょうか? やはりよく分かりません。
しかし、私が入手したユーフォルビアの枝の深い緑色はE. weberbaueriに似ていますが、E. phosphoreaほど細かい特徴が分かりません。GBIF(地球規模生物多様性情報機構)に示されたペルーで撮影された写真を見ると、「
3つのribのうち2つが、次の節に到達する。3番目のribが異なる節に集まる。」というEuphorbia phosphoreaと同じ特徴があるようです。E. phosphoreaはブラジル原産ですから、ペルーで撮影されたからにはE. weberbaueriである確実性の高い情報です。おそらく間違いないでしょう。

ということで、調べきれませんでした。それでも、一応はE. phosphoreaとE. weberbaueriのどちらかだろうとあたりはつけました。しかし、花が咲けば見分けられるかもしれません。E. phosphoreaは赤色と緑色、あるいは赤色と黄色といった2色だったりしますが、赤色単色のものもあります。対してE.weberbaueriは赤褐色です。花の形は異なるでしょうから、咲けば分かるでしょう。しかし、今年中の開花は難しそうですから、はっきりするのはしばらく先になりそうです。
しかし、棒状ユーフォルビアは調べて出てくる画像は様々でかなり混乱しているようです。一度、その他の棒状ユーフォルビアについても調べてみたいと思っています。



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