先日、ここ10年あまりのアガヴェの新種について、記事を書きました。その中で、今年出た論文でアガヴェから新属を分離するという話がありました。これは、一体どういうことなのでしょうか? 詳細が知りたいため、当該論文を読んでみることにしました。
ということで、本日はJ. Anthonio Vazquez-Garciaらの2024年の論文、『NEW GENERA AND NEW COMBINATIONS IN AGAVACEAE (ASPARAGALES)』をご紹介しましょう。
アガヴェの歴史
Agave属(Agave L.、リュウゼツラン属)の分類学上の位置づけと、リュウゼツラン科(Agavaceae)は歴史的に変化してきました。Bentham & Hooker(1883)およびEngler & Prantl(1988)の分類体系では、主に子房下位の特徴からアガヴェは他のユリ科植物と共にアマリリス亜綱(Amaryllidae)に分類されました。Hutchinson(1934)と長く使われてきたCronquist(1981)の分類体系では、子房の位置に関係なく多かれ少なかれ繊維状の葉を持つリュウゼツラン科に含まれてていました。しかし、YuccaとAgaveだけが独自の核型を共有していることが分かり、Agaveのような核型を持つギボウシ(Hosta)をリュウゼツラン科とする解釈や、それをただの収斂進化と見る研究者もいました。Dahlgrenら(1985)の分類体系では、化学的特徴を追加しリュウゼツラン科をYucca族(Yucceae)とAgave族(Agaveae)により減らしましたが、これは後の遺伝子解析により裏付けられています。遺伝子解析による国際的な植物分類の研究の成果であるAPGシステムでは、APG II(2003)まではリュウゼツラン科は認識されていましたが、以降はキジカクシ科(Asparagaceae)という大きな科に含まれることになりました(APG III, 2009、APG IV, 2016)。同様にAgave属はManfredaやPolianthes、Prochnyanthesなど、伝統的に形態が異なる属を含むように拡大しました(Thiede et al., 2020)。
Choritepalae節の誕生
Gentry(1982)はAgave bracteosaとAgave ellemeetianaが、トゲのない葉と明確な花冠節を持つ円盤状の花托という際立った特徴を共有していることを指摘しました。2015年にはChoritepalae節として公式化されました。Gentryはその特徴からこのグループをAgave属から分離する提案を行いました。最近の遺伝子解析では、約618万年前にA. bracteosaが広義のAgaveから早期に分離し、約425万年前にA. ellemeetianaがJuncineae節から分離したと推定されます。Juncineae節はかつてStrictaグループと呼ばれていました。
新属の分離
以前の著者らは、Agave属を単系統群として、Manfreda、Polianthes、ProchnyanthesをAgave属に含めることを提案しました。しかし、この分類では形態が異常に多様になっています。遺伝的(Jamez-Barron et.al. 2020)、形態学的、推定分岐年代の証拠から、Agave属のより正確な範囲を指定し、Echinoagave、Paraagave、Paleoagaveの3つの新属を分離します。
Agave sensu lato(広義のアガヴェ)の系統解析
┏━━Agave sensu stricto
┏┫ (狭義のアガヴェ)
┃┃┏━Polianthes
┃┗┫ (incl. Prochnyanthes)
┏┫ ┗━Manfreda
┃┃
┃┃┏━━Echinoagave
┃┗┫
┫ ┗━━Paraagave
┃
┗━━━━Paleoagave
新属をAgave属から分離する目的は、より自然なあるいは単系統群に基づき、正確な分類を提供することです。また、Manfreda、Polianthes、Prochnyanthesからなる系統群は狭義のAgave属(Agave sensu stricto)とは分けられます。分類群の特徴とサンプル数を増やすことで、Manfreda、Polianthes、Prochnyanthesの間の関係をより明確に出来る可能性があります。
Agave striata=Echinoagave striata
筑波実験植物園(2024年7月)
Agaveの分類
①Echinoagave
葉縁は微細な鋸歯状。葉は条線があり先端はカールせずにトゲがある。花は交互に均等な融合花被片を持ち筒状。
1. E. albopilosa (A. albopilosa)
2. E. cryptica (A. cryptica)
3. E. cremnophila (A. cremnophila)
4. E. dasylirioides (A. dasylirioides)
5. E. gracielae (A. gracielae)
6. E. kavandivi (A. kavandivi)
7. E. lexii (A. lexii)
8. E. petrophila (A. petrophila)
9. E. rzedowskiana (A. rzedowskiana)
10. E. strata (A. strata)
11. E. stricta (A. stricta)
12. E. tenuifolia (A. tenuifolia)
②Paleoagave
葉縁は微細な鋸歯状。葉は条線がなく先端はカールしトゲはない。花は交互に不均等な自由花被片を持つ。
1. P. bracteosa (A. bracteosa)
③Paleoagave
葉縁は微細な鋸歯状ではない。葉の先端にトゲはなく、先端は硬い。
1. P. ellemeetiana (A. ellemeetiana)
④Agave sensu stricto
葉縁は微細な鋸歯状ではない。葉の先端にトゲがある。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
趣旨としてはアガヴェから、3つの属を分離する提案です。割りとはっきりした結果ですので、認められまる可能性は高いように思われます。個人的にはこの提案には驚きました。というのも、分離されるのがManfredaやPolianthesといったアガヴェらしからぬグループではなかったからです。Manfredaなどはアガヴェとはかなり外見上の特徴は異なりますから、アガヴェ属への統廃合には違和感を覚える人も多いでしょう。しかし、狭義のAgaveとManfreda、Polianthesは非常に近縁で、新属Echinoagaveなどと遺伝的にかなり距離があるようです。要するに、EchinoagaveやParaagave、Paleoagaveの方がManfredaなどよりも分離の要件を満たしているということです。ただ、今年発表されたばかりの論文ですから、まだ3つの新属は認められていません。今後、審査されていくでしょう。来年、「The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2025. 」において新属として記載されるか、私も注視していきたいと思います。
ということで、本日はJ. Anthonio Vazquez-Garciaらの2024年の論文、『NEW GENERA AND NEW COMBINATIONS IN AGAVACEAE (ASPARAGALES)』をご紹介しましょう。
アガヴェの歴史
Agave属(Agave L.、リュウゼツラン属)の分類学上の位置づけと、リュウゼツラン科(Agavaceae)は歴史的に変化してきました。Bentham & Hooker(1883)およびEngler & Prantl(1988)の分類体系では、主に子房下位の特徴からアガヴェは他のユリ科植物と共にアマリリス亜綱(Amaryllidae)に分類されました。Hutchinson(1934)と長く使われてきたCronquist(1981)の分類体系では、子房の位置に関係なく多かれ少なかれ繊維状の葉を持つリュウゼツラン科に含まれてていました。しかし、YuccaとAgaveだけが独自の核型を共有していることが分かり、Agaveのような核型を持つギボウシ(Hosta)をリュウゼツラン科とする解釈や、それをただの収斂進化と見る研究者もいました。Dahlgrenら(1985)の分類体系では、化学的特徴を追加しリュウゼツラン科をYucca族(Yucceae)とAgave族(Agaveae)により減らしましたが、これは後の遺伝子解析により裏付けられています。遺伝子解析による国際的な植物分類の研究の成果であるAPGシステムでは、APG II(2003)まではリュウゼツラン科は認識されていましたが、以降はキジカクシ科(Asparagaceae)という大きな科に含まれることになりました(APG III, 2009、APG IV, 2016)。同様にAgave属はManfredaやPolianthes、Prochnyanthesなど、伝統的に形態が異なる属を含むように拡大しました(Thiede et al., 2020)。
Choritepalae節の誕生
Gentry(1982)はAgave bracteosaとAgave ellemeetianaが、トゲのない葉と明確な花冠節を持つ円盤状の花托という際立った特徴を共有していることを指摘しました。2015年にはChoritepalae節として公式化されました。Gentryはその特徴からこのグループをAgave属から分離する提案を行いました。最近の遺伝子解析では、約618万年前にA. bracteosaが広義のAgaveから早期に分離し、約425万年前にA. ellemeetianaがJuncineae節から分離したと推定されます。Juncineae節はかつてStrictaグループと呼ばれていました。
新属の分離
以前の著者らは、Agave属を単系統群として、Manfreda、Polianthes、ProchnyanthesをAgave属に含めることを提案しました。しかし、この分類では形態が異常に多様になっています。遺伝的(Jamez-Barron et.al. 2020)、形態学的、推定分岐年代の証拠から、Agave属のより正確な範囲を指定し、Echinoagave、Paraagave、Paleoagaveの3つの新属を分離します。
Agave sensu lato(広義のアガヴェ)の系統解析
┏━━Agave sensu stricto
┏┫ (狭義のアガヴェ)
┃┃┏━Polianthes
┃┗┫ (incl. Prochnyanthes)
┏┫ ┗━Manfreda
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┃┃┏━━Echinoagave
┃┗┫
┫ ┗━━Paraagave
┃
┗━━━━Paleoagave
新属をAgave属から分離する目的は、より自然なあるいは単系統群に基づき、正確な分類を提供することです。また、Manfreda、Polianthes、Prochnyanthesからなる系統群は狭義のAgave属(Agave sensu stricto)とは分けられます。分類群の特徴とサンプル数を増やすことで、Manfreda、Polianthes、Prochnyanthesの間の関係をより明確に出来る可能性があります。
Agave striata=Echinoagave striata
筑波実験植物園(2024年7月)
Agaveの分類
①Echinoagave
葉縁は微細な鋸歯状。葉は条線があり先端はカールせずにトゲがある。花は交互に均等な融合花被片を持ち筒状。
1. E. albopilosa (A. albopilosa)
2. E. cryptica (A. cryptica)
3. E. cremnophila (A. cremnophila)
4. E. dasylirioides (A. dasylirioides)
5. E. gracielae (A. gracielae)
6. E. kavandivi (A. kavandivi)
7. E. lexii (A. lexii)
8. E. petrophila (A. petrophila)
9. E. rzedowskiana (A. rzedowskiana)
10. E. strata (A. strata)
11. E. stricta (A. stricta)
12. E. tenuifolia (A. tenuifolia)
②Paleoagave
葉縁は微細な鋸歯状。葉は条線がなく先端はカールしトゲはない。花は交互に不均等な自由花被片を持つ。
1. P. bracteosa (A. bracteosa)
③Paleoagave
葉縁は微細な鋸歯状ではない。葉の先端にトゲはなく、先端は硬い。
1. P. ellemeetiana (A. ellemeetiana)
④Agave sensu stricto
葉縁は微細な鋸歯状ではない。葉の先端にトゲがある。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
趣旨としてはアガヴェから、3つの属を分離する提案です。割りとはっきりした結果ですので、認められまる可能性は高いように思われます。個人的にはこの提案には驚きました。というのも、分離されるのがManfredaやPolianthesといったアガヴェらしからぬグループではなかったからです。Manfredaなどはアガヴェとはかなり外見上の特徴は異なりますから、アガヴェ属への統廃合には違和感を覚える人も多いでしょう。しかし、狭義のAgaveとManfreda、Polianthesは非常に近縁で、新属Echinoagaveなどと遺伝的にかなり距離があるようです。要するに、EchinoagaveやParaagave、Paleoagaveの方がManfredaなどよりも分離の要件を満たしているということです。ただ、今年発表されたばかりの論文ですから、まだ3つの新属は認められていません。今後、審査されていくでしょう。来年、「The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2025. 」において新属として記載されるか、私も注視していきたいと思います。