かつて、Sarcocaulonと言う多肉植物がありました。しかし、いつの間にやらSarcocaulonはMonsoniaに吸収されてしまったといいます。ですから、ネット上のブログや販売サイトでは、Sarcocaulonだった植物はMonsoniaの名前で呼ばれています。しかし、本当にSarcocaulonとMonsoniaは分けることが出来ないのでしょうか?
Sarcocaulon rigidum
『The Flowering Plants of South Africa』(1921年)より。S. rigidumとは、現在のS. patersonii (=M. patersonii)のことです。
履歴書
先ずはモンソニアとサルコカウロンの命名の経緯を見てみましょう。
Monsoniaは1767年にCarl von Linneにより命名されました。つまり、Monsonia L.です。対するSarcocaulonは1826年にSweetにより命名されました。つまり、Sarcocaulon (DC.) Sweetです。始めはSarcocaulonに含まれていた種はMonsoniaとされましたが、Sarcocaulonが出来てからは、新種はSarcocaulonとして命名されました。1824年にDe CandlleがSarcocaulonをMonsoniに含むとする提案を行ったこともありました。最終的には、1996年にAlbersの提案によりSarcocaulonは一斉にMonsoniaに含まれることとなりました。
1996年の提案
調べてみると、1996年のF.Albersの論文、『The taxonomy status of Sarcocaulon (Geraniaceae)』により、SarcocaulonはMonsoniaに吸収されたことが分かりました。内容的には雄蕊群の個体発生や核型、化学成分の分析に基いています。さらに、SarcocaulonとMonsoniaの形態学的な違いは、Peralgonium属内でも見られる程度の違いに過ぎないと述べています。
違いはあるか?
1996年のAlbersの提案はそれなりに妥当性はあったようですが、反対意見もあります。1997年にR.O.Moffettは、『The taxonomy status of Sarcocaulon』と言う論文で、SarcocaulonとMonsoniaの違いを指摘しています。Sarcocaulonの特徴として、可燃性のワックスと樹脂が染み込んだ硬くて光沢がある樹皮を持つと言うことです。含まれる樹脂とワックスの量が非常に多く、乾かさないでも松明のように燃えるため、S. burmanniは「candle bush」、S. rigidumは「bushman's candle」と呼ばれています。
南アフリカ国立標本館
南アフリカ国立標本館のコレクションとそのデータベースであるPRECISは、1996年のAlbersの提案を採用しませんでした。L.L.Dreyerらの1997年のAlbersの提案に対する回答である『Sarcocaulon: genus or section of Monsonia (Geraniaceae)?』を見てみます。
国立標本館では、Albersの提案に対する科学的妥当性を認めますが、コレクションやPRECISに対し導入しないことを決定しました。その理由は以下の通りです。
①歴史的にSweet(1826年)に続いてKnuth(1912年)により、2つの個別の属であることと言う認識が広く受け入れられてきました。別属として維持することで、混乱を避けることが出来ます。
②Sarcocaulonは主にアフリカ南部の砂漠や半砂漠地域に限定されています。対照的にMonsoniaはアフリカ南部からアラビア半島およびインドまで、はるかに広く分布しています。
③SarcocaulonとPelargoniumに見られる多肉質でトゲのある茎は、環境により誘発された特徴である可能性があります。しかし、この特徴はMonsoniaでは見られず、Sarcocaulonの分布域に生えるMonsoniaにおいても見られません。
④SarcocaulonをMonsoniaの姉妹群として保存することにより、命名上の安定性が促進されます。
2003年のチェックリスト
一般的にはSarcocaulonは消滅して久しい扱いですが、現在のキュー王立植物園のデータベースでは、Sarcocaulonは復活しています。そして、その根拠としているのは、2003年に南アフリカ国立標本館による南部アフリカの植物種のチェックリストである『Plants of Southern Africa an annotated checklist. Strelitzia』です。Sarcocaulonの消滅は実は短い期間だけだったのかも知れません。
遺伝子解析
2017年にSara Garcia-Aloyらの論文、『Opposite trends in the genus Monsonia (Geraniaceae): specialization in the African deserts and range expantions throughout eastern Africa』により、MonsoniaとSarcocaulonの分子系統が考察されました。ちなみに、この論文ではSarcocaulonはMonsoniaに含まれるものとして解析しています。
解析結果はMonsoniaは7グループに分けられると言うことです。Sarcocaulonに相当するグループは非常にまとまりがあります。むしろ、Monsoniaは思いの外まとまりがありません。Sarcocaulonを含んだ大きなMonsoniaとするか、7グループを別属に分割するかと言うことになるような気がします。
サルコカウロンは何種類か
現在の復活したSarcocaulonの一覧を示して終わります。
1. S. camdeboense
=M. camdeboensis
2. S. ciliatum
=M. ciliata
3. S. flavescens
=M. flavescens
4. S. herrei
=M. herrei
5. S. inerme
=M. inermis
6. S. marlothii
=M. marlothii
7. S. mossamedense
=M. mossamedensis
8. S. multifidum
=M. multifida
9. S. patersonii
=M. patersonii
=S. rigidum
=S. rigidum ssp. glabrum
=S. rigidum f. parviflorum
10. S. peniculinum
=M. peniculina
=S. ernii
11. S. salmoniflorum
=M. salmoniflora
=M. apiculate
=M. macilenta
=S. lheritieri v. brevimucronatum
=S. patersonii ssp. badium
=S. patersonii ssp. curvatum
12. S. spinosum
=Geranium spinosum
=M. burmanni
=S. burmanni
=M. classicaulis
=S. classicaule
=S. spinosum v. hirsutum
13. S. vanderietiae
=M. vanderietiae
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Sarcocaulon rigidum
『The Flowering Plants of South Africa』(1921年)より。S. rigidumとは、現在のS. patersonii (=M. patersonii)のことです。
履歴書
先ずはモンソニアとサルコカウロンの命名の経緯を見てみましょう。
Monsoniaは1767年にCarl von Linneにより命名されました。つまり、Monsonia L.です。対するSarcocaulonは1826年にSweetにより命名されました。つまり、Sarcocaulon (DC.) Sweetです。始めはSarcocaulonに含まれていた種はMonsoniaとされましたが、Sarcocaulonが出来てからは、新種はSarcocaulonとして命名されました。1824年にDe CandlleがSarcocaulonをMonsoniに含むとする提案を行ったこともありました。最終的には、1996年にAlbersの提案によりSarcocaulonは一斉にMonsoniaに含まれることとなりました。
1996年の提案
調べてみると、1996年のF.Albersの論文、『The taxonomy status of Sarcocaulon (Geraniaceae)』により、SarcocaulonはMonsoniaに吸収されたことが分かりました。内容的には雄蕊群の個体発生や核型、化学成分の分析に基いています。さらに、SarcocaulonとMonsoniaの形態学的な違いは、Peralgonium属内でも見られる程度の違いに過ぎないと述べています。
違いはあるか?
1996年のAlbersの提案はそれなりに妥当性はあったようですが、反対意見もあります。1997年にR.O.Moffettは、『The taxonomy status of Sarcocaulon』と言う論文で、SarcocaulonとMonsoniaの違いを指摘しています。Sarcocaulonの特徴として、可燃性のワックスと樹脂が染み込んだ硬くて光沢がある樹皮を持つと言うことです。含まれる樹脂とワックスの量が非常に多く、乾かさないでも松明のように燃えるため、S. burmanniは「candle bush」、S. rigidumは「bushman's candle」と呼ばれています。
南アフリカ国立標本館
南アフリカ国立標本館のコレクションとそのデータベースであるPRECISは、1996年のAlbersの提案を採用しませんでした。L.L.Dreyerらの1997年のAlbersの提案に対する回答である『Sarcocaulon: genus or section of Monsonia (Geraniaceae)?』を見てみます。
国立標本館では、Albersの提案に対する科学的妥当性を認めますが、コレクションやPRECISに対し導入しないことを決定しました。その理由は以下の通りです。
①歴史的にSweet(1826年)に続いてKnuth(1912年)により、2つの個別の属であることと言う認識が広く受け入れられてきました。別属として維持することで、混乱を避けることが出来ます。
②Sarcocaulonは主にアフリカ南部の砂漠や半砂漠地域に限定されています。対照的にMonsoniaはアフリカ南部からアラビア半島およびインドまで、はるかに広く分布しています。
③SarcocaulonとPelargoniumに見られる多肉質でトゲのある茎は、環境により誘発された特徴である可能性があります。しかし、この特徴はMonsoniaでは見られず、Sarcocaulonの分布域に生えるMonsoniaにおいても見られません。
④SarcocaulonをMonsoniaの姉妹群として保存することにより、命名上の安定性が促進されます。
2003年のチェックリスト
一般的にはSarcocaulonは消滅して久しい扱いですが、現在のキュー王立植物園のデータベースでは、Sarcocaulonは復活しています。そして、その根拠としているのは、2003年に南アフリカ国立標本館による南部アフリカの植物種のチェックリストである『Plants of Southern Africa an annotated checklist. Strelitzia』です。Sarcocaulonの消滅は実は短い期間だけだったのかも知れません。
遺伝子解析
2017年にSara Garcia-Aloyらの論文、『Opposite trends in the genus Monsonia (Geraniaceae): specialization in the African deserts and range expantions throughout eastern Africa』により、MonsoniaとSarcocaulonの分子系統が考察されました。ちなみに、この論文ではSarcocaulonはMonsoniaに含まれるものとして解析しています。
解析結果はMonsoniaは7グループに分けられると言うことです。Sarcocaulonに相当するグループは非常にまとまりがあります。むしろ、Monsoniaは思いの外まとまりがありません。Sarcocaulonを含んだ大きなMonsoniaとするか、7グループを別属に分割するかと言うことになるような気がします。
サルコカウロンは何種類か
現在の復活したSarcocaulonの一覧を示して終わります。
1. S. camdeboense
=M. camdeboensis
2. S. ciliatum
=M. ciliata
3. S. flavescens
=M. flavescens
4. S. herrei
=M. herrei
5. S. inerme
=M. inermis
6. S. marlothii
=M. marlothii
7. S. mossamedense
=M. mossamedensis
8. S. multifidum
=M. multifida
9. S. patersonii
=M. patersonii
=S. rigidum
=S. rigidum ssp. glabrum
=S. rigidum f. parviflorum
10. S. peniculinum
=M. peniculina
=S. ernii
11. S. salmoniflorum
=M. salmoniflora
=M. apiculate
=M. macilenta
=S. lheritieri v. brevimucronatum
=S. patersonii ssp. badium
=S. patersonii ssp. curvatum
12. S. spinosum
=Geranium spinosum
=M. burmanni
=S. burmanni
=M. classicaulis
=S. classicaule
=S. spinosum v. hirsutum
13. S. vanderietiae
=M. vanderietiae
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