ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

2024年02月

かつて、Sarcocaulonと言う多肉植物がありました。しかし、いつの間にやらSarcocaulonはMonsoniaに吸収されてしまったといいます。ですから、ネット上のブログや販売サイトでは、Sarcocaulonだった植物はMonsoniaの名前で呼ばれています。しかし、本当にSarcocaulonとMonsoniaは分けることが出来ないのでしょうか?

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Sarcocaulon rigidum
『The Flowering Plants of South Africa』(1921年)より。S. rigidumとは、現在のS. 
patersonii (=M. patersonii)のことです。

履歴書
先ずはモンソニアとサルコカウロンの命名の経緯を見てみましょう。
Monsoniaは1767年にCarl von Linneにより命名されました。つまり、Monsonia L.です。対するSarcocaulonは1826年にSweetにより命名されました。つまり、Sarcocaulon (DC.) Sweetです。始めはSarcocaulonに含まれていた種はMonsoniaとされましたが、Sarcocaulonが出来てからは、新種はSarcocaulonとして命名されました。1824年にDe CandlleがSarcocaulonをMonsoniに含むとする提案を行ったこともありました。最終的には、1996年にAlbersの提案によりSarcocaulonは一斉にMonsoniaに含まれることとなりました。

1996年の提案
調べてみると、1996年のF.Albersの論文、『The taxonomy status of Sarcocaulon (Geraniaceae)』により、SarcocaulonはMonsoniaに吸収されたことが分かりました。内容的には雄蕊群の個体発生や核型、化学成分の分析に基いています。さらに、SarcocaulonとMonsoniaの形態学的な違いは、Peralgonium属内でも見られる程度の違いに過ぎないと述べています。

違いはあるか?
1996年のAlbersの提案はそれなりに妥当性はあったようですが、反対意見もあります。1997年にR.O.Moffettは、『The taxonomy status of Sarcocaulon』と言う論文で、SarcocaulonとMonsoniaの違いを指摘しています。Sarcocaulonの特徴として、可燃性のワックスと樹脂が染み込んだ硬くて光沢がある樹皮を持つと言うことです。含まれる樹脂とワックスの量が非常に多く、乾かさないでも松明のように燃えるため、S. burmanniは「candle bush」、S. rigidumは「bushman's candle」と呼ばれています。

南アフリカ国立標本館
南アフリカ国立標本館のコレクションとそのデータベースであるPRECISは、1996年のAlbersの提案を採用しませんでした。L.L.Dreyerらの1997年のAlbersの提案に対する回答である『Sarcocaulon: genus or section of Monsonia (Geraniaceae)?』を見てみます。
国立標本館では、Albersの提案に対する科学的妥当性を認めますが、コレクションやPRECISに対し導入しないことを決定しました。その理由は以下の通りです。
①歴史的にSweet(1826年)に続いてKnuth(1912年)により、2つの個別の属であることと言う認識が広く受け入れられてきました。別属として維持することで、混乱を避けることが出来ます。
②Sarcocaulonは主にアフリカ南部の砂漠や半砂漠地域に限定されています。対照的にMonsoniaはアフリカ南部からアラビア半島およびインドまで、はるかに広く分布しています。
③SarcocaulonとPelargoniumに見られる多肉質でトゲのある茎は、環境により誘発された特徴である可能性があります。しかし、この特徴はMonsoniaでは見られず、Sarcocaulonの分布域に生えるMonsoniaにおいても見られません。
④SarcocaulonをMonsoniaの姉妹群として保存することにより、命名上の安定性が促進されます。

2003年のチェックリスト
一般的にはSarcocaulonは消滅して久しい扱いですが、現在のキュー王立植物園のデータベースでは、Sarcocaulonは復活しています。そして、その根拠としているのは、2003年に南アフリカ国立標本館による南部アフリカの植物種のチェックリストである『Plants of Southern Africa an annotated checklist. Strelitzia』です。Sarcocaulonの消滅は実は短い期間だけだったのかも知れません。

遺伝子解析
2017年にSara Garcia-Aloyらの論文、『Opposite trends in the genus Monsonia (Geraniaceae): specialization in the African deserts and range expantions throughout eastern Africa』により、MonsoniaとSarcocaulonの分子系統が考察されました。ちなみに、この論文ではSarcocaulonはMonsoniaに含まれるものとして解析しています。
解析結果はMonsoniaは7グループに分けられると言うことです。Sarcocaulonに相当するグループは非常にまとまりがあります。むしろ、Monsoniaは思いの外まとまりがありません。Sarcocaulonを含んだ大きなMonsoniaとするか、7グループを別属に分割するかと言うことになるような気がします。

サルコカウロンは何種類か
現在の復活したSarcocaulonの一覧を示して終わります。

1. S. camdeboense
 =M. 
camdeboensis
2. S. ciliatum
 =M. ciliata
3. S. flavescens
 =M. 
flavescens
4. S. herrei
 =M. herrei
5. S. inerme
 =M. inermis
6. S. marlothii
 =M. 
marlothii
7. S. mossamedense
 =M. 
mossamedensis
8. S. multifidum
 =M. multifida
9. S. patersonii
 =M. patersonii
 =S. rigidum
 =S. rigidum ssp. glabrum
 =S. rigidum f. parviflorum
10. S. peniculinum
 =M. peniculina
 =S. ernii
11. S. salmoniflorum
 =M. 
salmoniflora
 =M. apiculate
 =M. macilenta
    =S. lheritieri v. brevimucronatum
 =S. patersonii ssp. badium
 =S. patersonii ssp. curvatum
12. S. spinosum
 =Geranium spinosum
 =M. burmanni
 =S. 
burmanni
 =M. classicaulis
 =S. 
classicaule
 =S. 
spinosum v. hirsutum
13. S. vanderietiae
 =M. 
vanderietiae


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植物園に行くと言っていましたが、まだ行けていません。むしろ、3月は忙しくて無理みたいです。論文検索もほとんど出来ていないため、正直ネタ不足です。まあ、記事を書いている時間もとれないのですけどね。
さて、本日は青白い葉を持つ硬葉系ハウォルチアのヘレイをご紹介します。美しい植物ですが、割とタイプ違いがあるためコレクションする楽しみがあります。


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Haworthiopsis glauca var. herrei
葉が非常に長いタイプのヘレイです。全体的に大柄で、まばらに結節があります。


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Haworthiopsis glauca var. herrei RIB0217
こちらは葉に丸みがあり短いタイプのヘレイです。結節ははっきりとしています。フィールドナンバーつき。


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Haworthiopsis glauca var. herrei 
H. jonesiaeの名前で入手したヘレイ。全体的に小型で華奢な感じがします。結節はほとんど目立ちません。


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バハ・カリフォルニア半島はサボテンが非常に豊富なことで知られています。しかし、バハ・カリフォルニア沿岸に散在する小島にも、サボテンが沢山生えていることは、一般的にはあまり知られていないようです。さて、このような海洋に浮かぶ小島は、大抵は海鳥の繁殖地となっていることが多く、海鳥の糞が堆積しています。この蓄積して固まった鳥の糞を「グアノ」と呼び、かつては肥料の成分とするために、盛んにリン鉱石として採掘されました。と言うわけで、本日はこのグアノとサボテンの関係についてのお話です。本日、ご紹介しますのは、Benjamin T. Wilderらの2022年の論文、『Marine subsides produce cactus forests on desert islands』です。

グアノと鳥島
カリフォルニア湾には、オグロカモメやユウガアジサシ、アオアシカツオドリ、アメリカオオセグロカモメなどの海鳥が多く生息しています。場所によってはグアノが岩上に10cmも堆積しています。そのため、このような鳥島では、窒素やリンの濃度が高いため多くの植物は生えることが出来ないようで、植物の多様性は大幅に減少します。北アメリカ南西部では、エルニーニョやハリケーンにより降水量が多い年はグアノから窒素が流入し、土壌中の窒素は元の100倍に増加する可能性があります。しかし、カリフォルニア湾の鳥島では、サボテンが豊富で多様性が高くなっています。いくつかの島では、cardonと呼ばれるサボテンが高密度で生息します。cardonとはPachycereus pringleiのことで、カリフォルニア半島とソノラ本土のソノラ砂漠に広く分布する柱サボテンです。

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Cardon
『Proceedings of the California Academy of Sciences』(1960-1968年)より。


同位体窒素の変動
グアノにはアンモニア態や硝酸態、あるいは尿酸の形で窒素が含まれます。これらは異なる速度で分解されます。窒素の原子量は14ですが、極わずかに原子量が15の同位体が存在します。グアノからはアンモニアが揮発し原子量14の窒素(14N)が多少失われるため、グアノは原子量15の同位体窒素(15N)の割合が増加します。自然環境下では、窒素同位体比が+25%を超えることは稀です。従って、植物そのものの15Nの割合を調べれば、グアノを栄養として取り込んだか否かが分かります。

鳥島のcardonは15N値が高い
San Pedro Martir島では、魚の15N値は平均+17.7%、海鳥の羽は平均19.7%でした。新鮮なグアノの15N値は平均14.8%でしたが、分解されて土壌中に残ったグアノの15N値は平均+32.4%に達しました。San Pedro Martir島のcardonは、15N値の平均は+30.3%でした。
また、鳥島ではないメキシコ湾の島の土壌の15N値は平均+15.0%、cardonでは+11.7%でした。バハ・カリフォルニア半島に生えるcardonの15N値は+8.13%、ソノラ本土に生えるcardonでは+11.2%でした。

鳥島の異様なサボテン密度
San Pedro Martir島のサボテン林の密度は、約2700本/haで、隣接する鳥島であるCholludo島では約23500本/haと言う桁違いに多くのcardonが生えています。バハ・カリフォルニアで約150本/ha、ソノラでは約60本/haですから、鳥島のサボテン密度は非常に高いものです。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文中のcardonとは
Pachycereus pringleiのことですが、日本では「武倫柱」の名前で知られている柱サボテンです。この論文では、武倫柱に対する鳥島のグアノの影響を調査しました。
鳥島であるSan Pedro Martir島の武倫柱の密度は1坪あたり0.9本、Cholludo島では1坪あたり8本にもなります。バハ・カリフォルニア半島の武倫柱は1坪あたり0.05本、ソノラ本土の
武倫柱は1坪あたり0.02本にしかなりませんから、いかにグアノが武倫柱の生育に影響を与えているかが分かります。
グアノに含まれる同位体窒素の割合により、
武倫柱はグアノ由来の窒素を大量に取り込んだことは明らかです。一般的に畑作では、肥料は与え過ぎると肥料焼けをおこして根をやられてしまうことが知られています。ですから、グアノの過剰な窒素やリン酸は植物には有害です。しかし、武倫柱は過剰な栄養素を取り込んで、異常な密度で生育することが出来るのです。


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最近忙しく、趣味に費やせる時間がありません。しばらくは、ブログも休みがちになるかも知れません。まあ、そんな感じですが、今日も我が家の多肉植物を少しご紹介しましょう。

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Euphorbia cap-saintemariensis
多肉質で葉が縮れるタイプの小型の花キリンです。冬の間は動きませんでした。E. decaryi系とされてきましたが、実際にはE. tulearensis系です。

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神蛇丸 Euphorbia clavarioides var. truncata
意外に難しいと噂されている神蛇丸ですが、どうも上手く行きません。水を絞っていますが、何故か間延びしてしまいます。

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Euphorbia viguieri var. capuroniana
ややトゲが強い印象のカプロニアナです。ただのヴィグイエリとの違いはまだ判然としません。

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Euphorbia polygona var. noorsveldensis
去年はもう少し厳しく育てても良かったかも知れません。ノオルスヴェルデンシスはポリゴナ11変種の1つですが、違いはよく分かりませんね。


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しかし、アロエと言う植物は一般的であるにも関わらず意外と奥が深いもので、調べてみると知らないことばかりで驚かされることが多々あります。多肉植物の即売会などでも、見たことがない美しいアロエが何気なく販売されており、ついつい買ってしまい置き場所がなくて困っているくらいです。さて、と言うわけで本日はアロエの話題です。
アロエは似ているものも多く、分類が難しく混乱した経緯がある種も珍しくありません。また、ある種が他種に含まれてしまったりすることは、アロエに限らずですがよくあることです。しかし、そのことが問題を引き起こすこともあるようです。本日は
Gideon F. Smith & Ronell Klopperの2022年の論文、『Conservation status of the recently reinstated Aloe davyana, A. davyana var. subolifera, A. labiaflava (Asphodelaceae subfam. Alooideae), three maculate aloes emdemic to South Africa』を見ていきます。思わぬ問題が起きてしまいました。

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Aloe davyana
『Journal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。

アロエの保全状況の評価
アロエの保全状況の評価は、1980年、1985年、1994年、1996年、1997年、1998年、2002年、2009年に実施されてきました。しかし、他種の異名に含まれたりして学名が変遷した場合、正確な評価が行われていない可能性があります。ここでは、学名が変遷した3種のアロエ、Aloe davyana var. davyana、Aloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflavaの保全状況の評価を行います。

Aloe davyana var. davyana
Aloe davyanaは、1905年にSchonlandが記載して以来、大幅に変化しました。1987年にはGlen & Hardyが、Aloe greatheadii var. davyanaとしました。また、Reynolds(1950年)などにより、他の黄斑アロエを異名に含めるなど種の概念を拡張しました。
しかし、
2020年にSmithらが独立した種であることを示す証拠を提示しました。その他の黄斑アロエも、それぞれ独立しています。さらに、2021年にSmithらが、Aloe davyana var. suboliferaを復活させたことから、従来のAloe davyanaはAloe davyana var. davyanaとなりました。
しかし、Aloe davyanaは種の概念が変遷したため、これらの調査による種と対応していないものもあります。Aloe davyanaの初めての評価は、Glen & Hardy(1987年、2000年)に従いAloe greatheadii var. davyanaとして、2000年に実施されたRaimondoらのもので、軽度懸念としました。Aloe davyanaの最新の評価(Mtshaliら、2018年)では、異名としてAloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflava、Aloe longibracteataが含まれています。

Aloe davyana var. davyanaは、南アフリカ中北東部の広い地域に分布し、草原とサバンナの低木地帯の両方の生息地の構成要素です。生息地の中心はGauteng州ですが、南アフリカでも人口の多い州です。金とプラチナの採掘により、大量の人口流入がありました。
このアロエは荒地でよく育ち、土壌を安定させて侵食を防ぐため、鉱山の尾鉱などで荒地に植えることが出来ます。
著作らは、Aloe davyana var. davyanaは分布域全体で一般的である、保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では脅威にさらされていません。


Aloe davyana var. subolifera
Aloe davyana var. suboliferaは、1939年にGroenewaldにより記載され、Reynoldsら(1950年)により認められてきました。しかし、1987年にGlen & Hardyにより、Aloe greatheadii var. davyanaの異名とされました。
2020年にAloe davyanaが復活したことから、2021年には
Aloe davyana var. suboliferaも復活しました。Aloe davyana var. suboliferaは、長くAloe greatheadii var. davyanaの異名とされてきたため、保全状況は不明です。
変種suboliferaの分布範囲は、変種davyanaと比べて南アフリカ中北東部により限定されていますが、分布は重なります。非常に密な林分を形成することがあります。メトロポリスを含むShoshanguve市はその全体が変種suboliferaの分布範囲に含まれます。さらに、高速道路に隣接する地域にも生えています。都市化と人間の定住は分布に影響を与えています。また、いくつかの保護区にも分布しますが、狩猟や畜産に焦点を当てており、自然火災は意図的に防がれています。そのような状況では、低木が草原に侵入し生態系や植物の多様性に悪影響があるかも知れません。また、家畜による撹乱や過放牧は変種suboliferaの個体数の増加をもたらす可能性があります。著作らはAloe davyana var. suboliferaは、分布域が狭いにも関わらずその全域でよく見られることを発見しました。保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では絶滅の危機に瀕していません。

Aloe labiaflava
Aloe labiaflavaは、1936年にGroenewaldにより記載されました。Reynolds(1950年)は、「Aloe labiaflavaはAloe davyanaとAloe longibracteaの交雑種である」と結論づけました。1987年のGlen & Hardyは、Aloe labiaflavaはAloe greatheadii var. davyanaの異名としました。
しかし、
2021年にSmith & Klopperは、Aloe labiaflavaは交雑種(nothospecies)ではないことを示し、独立した種として復活しました。Aloe labiaflavaも保全状況は不明です。
Aloe labiaflavaは他の2種より分布範囲が小さく、Mpumalanga西部のGemsbokspruit近くの狭い地域に限定されます。都市の拡大により約200個体が知られているだけです。絶滅危惧種に相当します。


最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
分類学はただ名前をつけるだけではなく、生物の保全のためにも重要です。異なる種が混同されてしまえば、正確な分布や個体数の把握は意味をなさなくなります。実際に論文でも、いくつかの種が混同されており、そのすべてを含めた調査がなされていたことが指摘されています。種の混同は、絶滅危惧種を保護の必要がないものと誤認させてしまいます。A. davyanaは絶滅の可能性はないようですが、A. labiaflavaは絶滅危惧種であるにも関わらずただの雑種として捨て置かれる可能性がありました。種の保全とその把握のためにも、分類学的研究が進展して欲しいものですね。


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今週は天気が荒れがちです。先週は春の陽気でしたが、また冬に逆戻りですね。何やら雪が振るとか言っていますが、どうでしょうか? 今日も我が家の多肉植物の様子を少しご紹介しましょう。

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Euphorbia phillipsiae
フィリプシアエが開花を始めました。小さい花は長く咲き続けます。
異名のE. golisanaから、「ゴリサナ」とか「ゴイサナ」の名前で流通しています。ソマリアもの。


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Euphorbia aerginosa
もっともポピュラーなユーフォルビアの1つです。開花しましたが、ユーフォルビアの中では花は少し大き目です。

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Aloe calcairophila
Guillauminiaとされたこともある小型アロエ。葉が回転せず2列性のまま育つようです。マダガスカルの高地性種。


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Tulista kingiana
やや怪しい色合いのキンギアナです。
ツリスタはハウォルチアから分離・独立しました。2013年にG. D. RowleyによりT. pumilaとT. marginataがツリスタになりましたが、T. kingianaは2017年にGideon F. Smith & Moltenoによりツリスタとされました。では何故、G. D. Rowleyは2013年にキンギアナをツリスタにしなかったのでしょうか? これは実に頭の痛い問題でしたが、これはすでに解決済みです。
そもそも、キンギアナは1937年にVon PoellnitzによりHaworthia kingianaとして記載されました。しかし、G. D. Rowleyは、PoellnitzのHaworthia kingianaを初めて記載した論文として、1936年の論文を参照として学名の変更を行いました。要するに参照として引用した論文が間違っていたため、これは有効な学名として認められなかったのです。そのため、2017年に新ためてGideon F. Smith &  Moltenoが、1937年のPoellnitzの論文を正しく引用しキンギアナをツリスタに変更したのです。


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ユーフォルビアは世界中に分布しますが、サボテンのような多肉質な種類のものは限られた地域に分布します。その多くは乾燥地への適応です。多肉質なユーフォルビアは、南北アメリカ大陸やオーストラリア、アジア地域にも分布しますが、その中心はアフリカ大陸です。特にアフリカ南部やアフリカ大陸東岸には豊富に分布します。しかし、アフリカの角の向岸であるアラビア半島や北アフリカのマカロネシア(Macaronesia)と呼ばれる島々にも多肉質なユーフォルビアは豊富です。普段あまり話題にならないこのような地域のユーフォルビアについて書かれた論文を見つけたのでご紹介しましょう。それは、A. Tahaらの2023年の論文ら『Comprehensive review of morphological adaptations and conservation strategies of cactiform succulents: A case study of Euphorbia species in arid ecosystems』です。

サボテン状ユーフォルビアの分布
稜(rib)を持つサボテン状ユーフォルビアはアフリカ大陸原産です。これらの植物はアフリカとアラビア半島のホットスポットで見られ、「Rand Flora」として知られる大陸全体に共通する古代植物相の生き残りです。これらの種は中新世の乾燥により湿潤地域に移動したため、その分布は2つの地域の境界付近にありました。結果として、マカロネシアと東アフリカ、アラビア半島南部の多肉質のユーフォルビアは、生態学的、地理的、系統学的な特徴を共有しています。

マカロネシアと中央アトラスを含む北西アフリカでは、このサボテン状ユーフォルビアはマカロネシア・グループであると考えられています。アラビア半島地域はSomaliaMasaii固有中央地域(SomaliaMasaii Center of Endemism)の一部でもあり、アラビア、アフリカ、地中海地域の植物が混在します。アラビア半島南西部のサボテン状ユーフォルビアは、約2300万年前の紅海開口後に出現したようです。これらの地域のサボテン状ユーフォルビアは、島、海岸地域、高地や高山など、海洋霧の影響を受ける地域でよく見られます。海洋霧は持続的に水分を供給する水資源です。

マカロネシアとアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアの特徴
マカロネシアとアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアの特徴は、腺(Glant)の数は5〜6個で付属器はなく、種子は無鉤形で、茎は柱サボテンのように稜(rib)があり、トゲは対になって互生します。単純な集散花序か緑色の茎につきます。シアチアは3つのセットを形成し、中央のシアチアは通常は雄性で始めに開花し、側方の2つのシアチアは両性です。

マカロネシア近辺のサボテン状ユーフォルビア
①E. resinifera
モロッコの固有種。トゲのあるサボテン状ユーフォルビア。通常は4本のribがあり、葉のない茎があります。主に石灰質カルスト台地に分布します。
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②E. officinarum subsp. beaumieriana
=E. officinarum subsp. officinarum
モロッコの固有種。トゲのあるサボテン状ユーフォルビア。葉のない茎に、8〜13本のribがあります。海抜300mまでの大西洋岸に頻繁に見られます。通常は石灰質台地上に見られます。
※現在、亜種officinarumは、亜種beaumierianaとは区別されています。

③E. officinarum subsp. echinus
分布は非常に広く、モロッコとマカロネシアの飛び地をカバーしています。モロッコ南部の海抜1900m以上で、岩の多い場所で育ちます。


マカロネシアのサボテン状ユーフォルビア
①E. handiensis
カナリア諸島のFuerteventura島の固有種。海抜50〜300mに見られます。トゲのあるサボテン状ユーフォルビアです。葉のない茎には8〜14本のribがあります。崩積土で生育します。E. officinarum ssp. echinusと関係します。
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②E. canariensis
カナリア諸島の固有種で、Lanzarote島を除くすべての島に分布します。海抜900mまでの岩の多い斜面、崖、溶岩に生育します。通常は高さ2〜4mで、4本のribがあります。
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アラビア半島のサボテン状ユーフォルビア
※2000年以降にアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアが複数種の新種が記載されました。せっかくですから、いくつかは画像のリンクを貼りました。

①E. madinahensis
サウジアラビアの固有種。高さ1.5mまでで、茎は3〜5本のribがあります。標高1050〜2350mの降水量の少ない花崗岩地に生えます。2007年に記載された絶滅危惧II(VU)。
https://guatemala.inaturalist.org/taxa/785985-Euphorbia-madinahensis

②E. saudiarabica
サウジアラビア南西部のQunfudhah-Djizan地域の固有種。高さ3mに達することもあり、3〜5本のribがあります。2007年に記載された絶滅危惧IB類(EN)。
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:77084100-1

③E. parciramulosa
イエメンとサウジアラビアの固有種。3〜4つのribがある、マカロネシア・ユーフォルビアの姉妹です。標高400〜2000mの低山の麓の、岩石と花崗岩の砂質土壌に生育します。

④E. taifensis
サウジアラビアの固有種。高さ10mに及び、3〜6(7)のribがあります。標高1700〜2100mのワジ(枯れ川)の石の多い土壌や、岩の多い斜面に見られます。2007年に記載されました。
https://www.inaturalist.org/observations/115071557

⑤E. collenetteae
紅海の島々や海岸沿いに生育します。茎は3〜8本のribを持ち、基部から枝分かれし高さ3〜4mになります。海抜75mまでの玄武岩質の露頭やサンゴ由来の土壌にも生育します。準絶滅危惧種への指定が提案されています。2007年に記載されました。

⑥E. cacturs
エリトリア、エチオピア、アラビア半島を含むSomaliaMasaii地域が分布の中心です。特にFayfa山脈、イエメン、オマーンのDhofar地域に生息します。標高2000mまでの岩の多い斜面や河原の石の堆積物にも生息します。3(まれに4または5)のribがあり、高さ1〜3mになります。

⑦E. inarticulata
アラビア半島の固有種。イエメンとサウジアラビアの固有種。茎は3〜5つのribがあり、高さ2mになります。標高300〜2000mの崖や石の多い場所に生育します。
https://www.inaturalist.org/taxa/1116311-Euphorbia-inarticulata/browse_photos

⑧E. fruticosa
イエメンの固有種。高さ約40cmで、茎は7〜10つのribがあります。ribは時として12本になります。標高1094〜2200mの崖や岩の多い平原に生えます。

⑨E. fractiflexa
イエメンとサウジアラビアの固有種。茎は3つのribを持ち、高さは最大2.5mになります。一般に標高150〜539mの海岸平野の岩の多い砂利や石の土壌に生育します。

https://www.inaturalist.org/taxa/1177654-Euphorbia-fractiflexa

⑩E. ammak
イエメンとサウジアラビアの固有種。高さ10mになる
2007年に記載されました。茎は通常4つのribを持ち、枝先は乱れることがあります。標高1000〜2500mの岩場に生育します。
https://uk.inaturalist.org/taxa/192176-Euphorbia-ammak

⑪E. momccoyae
オマーンのDhofar州の固有種。茎は5〜6つのribがあり、高さ1.25mで主茎から10〜30本の枝を出します。イエメンと国境を接するアラビア湾の海岸沿いの石灰岩の崖に生育します。インド洋の南西モンスーンの影響により、標高1000mまで見られます。2011年に記載されました。

https://www.inaturalist.org/observations/58404648

最後に
モロッコはアフリカ大陸のユーフォルビアの中心を考えると、アフリカ大陸の中では外れに位置します。E. officinarumやE. resiniferaは園芸的には珍しい種ではありませんが、面白いユーフォルビアです。モロッコに近いカナリア諸島を代表する2種のユーフォルビアは、かつて読んだ報告ではE. handiensisはE. officinarumと近縁ですがE. canariensisはアラビア半島経由で入ってきた種ではないかとされていました。さらなる研究が望まれます。
しかし、アラビア半島から沢山の新種が見つかっていることを初めて知りました。調査が未開拓な地域もまだまだあるのでしょう。これからも新種が見つかるホットな地域なのかも知れません。これは目が離せませんね。


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春一番が吹き荒れましたが、暖かい日が続きました。何やら週末はまた寒くなるみたいですね。

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Tylecodon buchholzianus
ティレコドンは塊茎があり太るものが人気ですが、ブクホルジアヌスの繊細で密な枝も良いものです。去年の12月に入手しましたが、しかしまったく葉が出ませんなあ。

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Euphorbia hedyotoides
ヘディオトイデスの小さな実生苗です。実は野生のヘディオトイデスは、本来埋まっている塊根の上部から、地面に水平に根を伸ばすそうです。塊根は埋めておいた方が早く大きくなると言いますが、ヘディオトイデスの場合は違いが顕著に出そうです。ですから、小さい内は埋めておいた方が良さそうですね。
そう言えばヘディオトイデスの枝は「hedyotoides型分岐」と言う面白い分岐の仕方をします。新しい枝を出す短枝と、長く伸びて分岐しない長枝を繰り返して生長します。


240219004817581
Astroloba spiralis
Astroloba spirellaとも言われますが、これは学術名ではありません。19世紀初頭にHaworthia spirellaとかAloe spirellaと呼ばれたことはありますが、Astrolobaとされずに消えた名前です。他にもA. pentagonaもA. spiralisの異名とされますが大型です。おそらく、A. halliiと呼ばれているものは、このA. pentagona系なのでしょう。ちなみに、A. halliiは裸名で学術名ではありません。


240219005116859
Astroloba hallii
ハリーは、Astroloba hallii nom. nud.です。この"nom. nud."は「裸名」と言われ、学術的に認められていない正当に発表や記載がなされていない、いわゆるなんちゃって学名、というか学名ではなく「学名風」なだけのあだ名みたいなものらしいです。アストロロバ・ハリーはペンタゴナ系と同一とされているようです。他にも、1783年に命名されたAloe cylindracea Lam.はペンタゴナのことらしいです。
ペンタゴナは大型で、一見してスピラリスとは似ていません。また、ハリーはペンタゴナの白みが強い個体につけられた園芸名みたいなものなのかもしれません。ペンタゴナとハリーは色以外はよく似ています。


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あれは去年の秋のことでした。鶴仙園で行われたPlant's Workとのコラボイベントに行った時のことです。「Astroloba aspera」と言う名前の美しい多肉植物を購入しました。外見的にはアストロロバですが、どうも聞いたことがない名前です。どのような植物なのか、少し調べてみました。

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Astroloba aspera

配置のない名前
あまり情報がない、と言うかアストロロバ自体が情報のない植物です。調べても販売サイトばかりなので、まずはキュー王立植物園のデータベースを見てみましょう。

Astroloba aspera (Haw.) Uitewaal
Synonym of : Aloe aspera Haw.

おやおや、これはおかしいですね。Astroloba asperaはAloe asperaの異名だと言うのです。アロエには見えませんが…。とりあえず、Aloe asperaを見てみましょう。

Aloe aspera Haw.
This name is unplaced
Unplaced names are names that cannot be accepted, nor can they be put into synonym


まあ、何となく分かりました。
「配置されていない名前は受け入れられず、異名にも含めることが出来ない名前です。」
配置されていない名前とは、まあ要するに当てはまるものがないと言うことでしょう。その理由は、正しい名前が存在しないであるとか、タイプ標本が知られていないためどの種か鑑定出来ない、あるいは文字資料だけでは同一性を確立出来ないといったあたりでしょう。

何故、アロエなのか?
何故、アロエなのかと言うと、現在のハウォルチアやアストロロバはすべてアロエだったからです。アロエはCarl von Linneが現在の学名のシステムを作った1753年に作りました。つまり、「Aloe L.」です。その後、1809年にDuvalが「Haworthia Duval」を提唱し、1947年にUitewaalが「Astroloba Uitewaal」を提唱し、アロエから独立していきました。アストロロバはアロエ→ハウォルチア→アストロロバと言う経緯をたどりました。
現在、Astroloba asperaと呼ばれている植物が何者であるかは、実はまったく重要ではありません。一番始めに記載された名前であるAloe asperaとは何者かです。なぜなら、現在語られるAstroloba asperaとHaworthが記載したAloe asperaが、果たして同じ植物を指しているのか分からないからです。


Haworthの記述
では、初めにAloe asperaが記載された時、どのような表記がされていたのでしょうか。データベースでは以下のように書かれていました。

First published in Trans. Lin. Soc. London 7 : 6 (1804)


これは、1804年に出版された、「Transactions of the Linnean Society of London」の7号6ページに記載があると言うことです。とりあえず探して見ました。
240216225435728~2
この表記がAloe asperaの初めての記述となります。内容はまずラテン語で特徴が記してあります。ラテン語は分からないので、合っているかは分かりませんが、機械翻訳にかけてみます。
「アロエの葉は、三辺が円形の卵形で尖った緑色。上は凹面。下に非常に結節があり、茎は短い。」
やや怪し気な訳文ですが、意味は理解出来ます。また、簡単過ぎる気もしますが、よく特徴を捉えています。
また、下にある英語文は、「この種は栽培が難しく、おそらくヨーロッパでは長く生き残ることはないでしょう。」とあります。本格的な温室栽培が広まる前だったものかも知れません。なんせ、1804年の記述ですからね。
気になるのは中段です。おそらくは採取情報で、南アフリカでMassonが採取したと読めます。Massonと言えば、キュー王立植物園が派遣した公式では初めてのプラントハンターである、Francis Massonが思い浮かびます。Massonは1772年から南アフリカで植物採取を行い、1775年に帰国しました。この採取旅行により採取された標本をもとに、Haworthが新種として記載したのでしょうか。

問題点?
さて、この記載のどこに問題があるのでしょうか? とりあえず、標本があれば万事解決なのですが、Massonの標本は現存しないのでしょう。イラストがありませんから、ラテン語の特徴だけでは判別が難しいのかも知れません。

図版を探す
古い図版を探して見ました。Salm-Dyckが1836年に出版した、『Monographia geneum aloes et mesembryanthemi』の図版を見てみましょう。
240216225245342
私のAstroloba asperaと言う植物に非常によく似ています。しかし、このような図版があるにも関わらず、タイプとして指定されていないのは少し不思議です。まあ、Aloe asperaは1804年ですから、Haworthの記述と同じ種であるかは分かりません。

A. corrugata?
そう言えば、2022年にアストロロバは何種類あるか調べた記事を書いたことがあります。その時はAloe asperaはAstroloba corrugataの異名と書きました。

しかし、Aloe asperaは「配置されていない名前」となっていますから、情報が更新されているようです。今回改めてAstroloba corrugataの情報を見てみると、以下のような記述ががありました。

Heterotypic Synonyms
Apicra aspera var. major Haw., 1819
Haworthia aspera var. major (Haw.) Parr., 1971


A. corrugataはA. asperaではなく、Apicra aspera var. majorを指すと言うのです。と言うことは、Salm-Dyckの図版も、A. asperaではなくA. aspera var. majorを指していたのかも知れません。ちなみに、Apicraとはハウォルチアなどを含んでいた今は現存しない属名です。Aloe asperaも1811年にApicra asperaとする意見がありました。

Astroloba corrugataとは?
Astroloba corrugataと言っても様々なタイプがありますが、ここではAstroloba asperaに似たタイプの野生個体の写真を探してみました。

https://www.inaturalist.org/photos/329261689

https://www.inaturalist.org/photos/245276813


Aloe asperaとは?
結局、Aloe asperaとは何かは分かりませんでした。おそらく、現在流通しているAstroloba asperaとはAstroloba corrugataのことであり、タイプとしてはApicra aspera var. majorにあたるのでしょう。しかし、Haworthの記述したAloe asperaとは何者だったのでしょうか? 今後もHaworthやUitewaalの記述を探してみます。何か分かりましたら、また記事にします。


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エキノプシスは割と庶民的なサボテンで、短毛丸などは庭先に放置された鉢でも花を咲かせていたりします。さて、どうもエキノプシスと言えばそのようなイメージだったわけですが、神代植物公園の大温室に行った時に意外な事実に遭遇しました。益荒丸と言う巨大な柱サボテンが植えられており、ネームプレートには「Echinopsis rhodotricha」とありました。驚くべきことに、この巨大な柱サボテンがエキノプシスだったのです。

DSC_0585
益荒丸 Echinopsis rhodotricha
エキノプシスに見えませんが、ネームプレートにはそうありました。


いつの間にやら全部Echinopsis
また、トリコケレウス属を調べていた時に、いくつかの種類がエキノプシスとされたことがあることを知りました。これは一体どういうことなのでしょうか? まず、トリコケレウスがエキノプシスに含まれるとした考え方に対する、いくつかのサイトの説明を見てみましょう。

「問題は1974年にH. friedrichが、EchinopsisとTrichocereusは種子や花により区別出来る違いはなく、区別して分類すべきではないことを発見しました。そして、Echinopsisの方が(命名が)早いため、TrichocereusはEchinopsisに折り畳まれます。サン・ペドロ(=Trichocereus)をEchinopsisの一部には呼ぶことも正しいのでしょう。」

「1974年にH. FriedrichはTrichocereusとEchinopsisの花は同じ種類であると結論付けました。彼の主張では、子房と花管にトゲはないが毛があり、開放型あるいは散在型の蜜腺と、2連の雄しべがあると言うものでした。結論は、Echinopsisが古い属であると言う事実により、Trichocereusのすべての種はEchinopsisに再分類されました。」


遺伝子解析
以上のように、1974年にTrichocereusはEchinopsisの一部であると言う意見が出されました。もし、サイズ以外の違いがないのなら、それは正しい意見と言うことになります。では、外見上の違いではなく、遺伝的な違いはどうでしょうか? ここでは、Boris O. Schlumpberger & Susanna S. Reinnerの2012年の論文、『Molecular Phylogenetics of Echinopsis (Cactaceae): Polyphyly at all levels and convergent evolution of pollination modes and growth forms』を見てみましょう。内容は省略して、遺伝子解析の結果だけ見てみましょう。

遺伝子を解析して分子系統を作成しています。とりあえず、Echinopsisを含むグループは4つに大きく分けられるようです。ここでは仮にA、B、C、Dとしました。また、現在のキュー王立植物園のデータベースの情報も加えました。

          ┏━━D
      ┏┫
      ┃┗━━C
  ┏┫ 
  ┃┗━━━B
  ┫
  ┗━━━━A

グループA
グループAは、E. famatimensisとE. bonnieaeが含まれます。
実はグループBとグループDにもEchinopsisが含まれるため、グループAに含まれる種はEchinopsisとすべきではありません。この2種はかつてはLobiviaとされてきましたが、本来のLobiviaとも系統的に遠い種です。現在はReicheocactusに分類されています。


グループB
グループBは非常に複雑ですから、以下に分子系統を示します。

          ┏━━B4
      ┏┫
      ┃┗━━B3
  ┏┫ 
  ┃┗━━━B2
  ┫
  ┗━━━━B1

B1はArthrocereusです。

B2はCleistocactus(C. bmaumannii、C. smaragdiflorus)、Espostoa、Weberbauerocereus、Yungasocereus、Cephalocleistocactus、Samaipaticereusからなります。
ただし、現在はCephalocleistocactusはCleistocactusに吸収されました。また、B2に含まれるEspostoa(E. guentheri)はVatricaniaとなっています。

B3はHarrisiaと、E. terscheckii、E. atacamensisからなります。
B3に含まれるEchinopsisは、現在では
Leucosteleとされています。

B4はすべてEchinopsisです。E. tubiflora、E. aurea、E. oxygona、E. calochloa、E. densispina、E. haematantha、E. chrysantha、E. breviflora、E. jajoana、E. marsoneriからなります。かつてLobiviaとされたものが多いようです。

Echinopsisと呼ばれる種は、この時点でB3とB4に含まれています。属は近縁でまとまりのあるグループですから、B4のみをEchinopsisとするか、B3とB4を合わせてEchinopsisとするかしかありません。後者の場合、HarrisiaはEchinopsisに吸収されてしまいます。著者らは前者の立場です。つまり、B4に含まれる種のみをEchinopsisと考えるのです。また、Harrisiaは遺伝的にまとまりがありますから、Harrisia以外のB3に含まれるEchinopsisにも新たな名前が必要となります。著者の
SchlumpbergerはLeucosteleを提唱し、現在は認められています。

グループC
グループCはOreocereusの仲間です。Oreocereus、Pygmaeocereus、Mila、Oroya、Haageocereus、Rauhocereus、Matucanaが含まれます。ただし、B2に含まれていたCleistocactusやEspostoaも含みます。つまり、CleistocactusとEspostoaは近縁ではない種で構成されていたと言うことになります。また、グループCのCleistocactusとMatucanaは単系統ではなく、まとまりがありません。グループC全体の見直しが必要です。
現在、PygmaeocereusはHaageocereusに吸収されました。グループCに含まれているCleistocactusは、Loxanthocereus(C. sextonianus)やBorzicactus(C. sepium)となっています。CleistocactusはグループBに含まれる方を指します。しかし、これでも整理が中途に思えます。


グループD
グループDも非常に複雑です。

              ┏━D5
          ┏┫
          ┃┗━D4
      ┏┫
      ┃┗━
━D3
  ┏┫ 
  ┃┗━━━D2
  ┫
  ┗━━━━D1


D1はDenmozaとAcanthocalycium、E. mirabilis、E. leucanthaからなります。しかし、B4を本来のEchinopsisとした場合、D1に含まれる種はEchinopsisではありません。
現在、E. 
mirabilisはSetiechinopsisとなり、E. leucanthaはAcanthocalyciumとなっています。私が植物園で見た巨大なEchinopsisはD1に含まれ、現在はAcanthocalyciumとされています。

D2はE. pachanoiとE. lageniformisからなります。旧Trichocereusです。
現在、E. pachanoiはTrichocereus macrogonus var. pachanoiとなっています。E. lageniformisはTrichocereus bridgesiiと呼ばれていましたが、データベース上ではEchinopsisのままです。

D3のE. saltensisやE. chamaecereus、E. schreiteriは、かつてLobiviaとされたこともありますが、現在は著者によりChamaecereusとされています。また、E. formosaやE. warteri、E. huascha、E. strgona、E. rowleyi、E. lobivioides、E. bruchii、E. candidens、E. angelesiae、E. hahnianaは、LobiviaやTrichocereusとされたこともありますが、現在は著者によりSoehrensiaとされています。
D3は本来のEchinopsisとは近縁ではなく、Lobiviaの姉妹群です。

D4にはE. pereziensis、E. bridgesii、E. sucrensis、E. caineana、E. mamillosaが含まれます。D4は元よりEchinopsisとされて来ましたが、本来のEchinopsisとは近縁ではなく、著者によりLobiviaとされています。
D5にはE. rojasii、E. calorubra、E. obrepanda、E. calliantholiacina、E. coronata、E. pojoensis、E. callichroma、E oligotricha、E. boyuibensis、E. subdenudata、E. cardenasiana、E. ancistrophora、E. chrysochete、E. schieliana、E. maximiliana、E. tegeleriana、E. hertrichiana、E. arachnacantha、E. tiegeliana、E. pentlandii、E. cinnabarina、E. ferox、E. lateritia、E. pugionacantha、E. backebergii、E. tacaquirensis、E. yuquinaが含まれます。D5はもともとLobiviaとされてきたグループです。
D4はよくまとまったグループであるため、D4とD5を別属とすることも可能なような気もしますが、著者らは合わせてLobiviaとしています。


最後に
よく見てみると、Echinopsisとされる種は、他の柱サボテンの属のあちこちに散在することが分かります。つまり、現在Echinopsisと言われている種は、まとまりがない雑多な寄せ集めでしかないと言うことです。また、グループDはEchinopsisと近縁ではなく、外見的類似により統合されてしまったことは明らかです。明確にLobiviaやTrichocereusは分離可能です。一方で、あちこちに現れるEchinopsisは、著者により新属とされました。
論文はすべてのEchinopsisとされる種の遺伝子を確認したわけではありませんから、名前がないものも多いでしょう。さらに、この論文の結果がすべて分類学的に反映されているわけでもありません。しかし、形態学的な分類が難しいEchinopsisが、分けられることが明らかとなりました。消滅したTrichocereusも復活し、Echinopsisとよく似た近縁ではない種も独立し、Echinopsisは大幅に縮小しました。最盛期は100〜150種と目されていたEchinopsisも、今や20種しかありません。
せっかくですから一覧を示して終わります。

Echinopsis albispinosa
Echinopsis aurea
Echinopsis breviflora
Echinopsis calochlora
Echinopsis chalaensis
Echinopsis chrysantha
Echinopsis clavata
Echinopsis cuzcoensis
Echinopsis densispina
Echinopsis haematantha
Echinopsis jajoana
Echinopsis lageniformis
Echinopsis marsoneri
Echinopsis oligotricha
Echinopsis oxygona
Echinopsis rauschii
Echinopsis rojasii
Echinopsis tacaquirensis
Echinopsis torrefluminensis
Echinopsis werdermannii



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先週は世界らん展日本大賞に行って参りましたが、行列と人混みで妙に疲れてしまいました。今週は人の少ない冬の植物園でも行って、のんびりと散策する予定です。
さて、日中は妙に暖かい日もあり、何やらすでに春の気配もあります。あまり寒くない冬でしたね。本日も我が家の多肉植物を少しご紹介しましょう。


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Euphorbia dichroa
ディクロアは根元から枝が吹いてきました。叢生するようですから、将来的には中々面白い姿になりそうです。そう言えば細長く伸びるユーフォルビアは何種類かありますが、これほど細くヒョロっとしたものはあまりないような気がします。枝は柔らかく、水が切れると少し倒れたりします。
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よく見ると美しい模様があります。

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Portulacaria namaquaensis
Ceraria namaquaensis
去年の11月に入手してから、かなり生長しました。
ほとんど暖房はかけていませんが、暖冬の影響か生長が止まりません。日照が弱いのでやや徒長気味かも知れませんが。
そう言えば、Ceraria属は遺伝的にはPortulacaria属と分離出来ないことが明らかとなっています。
Portulacaria属の方が命名が早いため、Ceraria属はPortulacaria属に吸収されました。そのため、Ceraria属はすべてPortulacaria属となっています。

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Haworthia chloracantha var. denticulifera
クロラカンタは軟葉系ハウォルチアですが、軟葉系に期待されるような透き通った美しい「窓」はありません。しかし、硬葉系とも異なる独特の美しさがあります。この色も実に良いですね。変種デンティクリフェラ。

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Haworthia chloracantha var. subglauca RIB 0099
こちらもクロラカンタですが、変種スブグラウカ(サブグラウカ)になります。フィールドナンバーつきで、非常に野趣溢れる姿です。こうなると、変種クロラカンタも欲しくなってしまいますね。

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皇帝
Tulistaの交配種の皇帝です。T. marginata系でしょうか。まだ小さいのですが、割と大型になり貫禄ある姿になります。育てるのに相当な年数がかかりますが、ゆっくり育てていきます。



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最近、トリコケレウスの誕生やその経緯について記事にしました。内容的にはSofia Albesiano & Roberto Kieslingの2012年の論文、『Identity and Neotypification of Cereus macrogonus, the Type Species of the Genus Trichocereus (Cactaceae)』を参照としました。しかし、この論文には続きがあり、Trichocereus peruvianusやTrichocereus pachanoiはTrichocereus macrogonusに含まれるというのです。一体どういうことなのか、内容を見て見ましょう。
ちなみに、トリコケレウスは、始めはケレウス属でトリコケレウス属とされ、最終的にエキノプシスとされました。ですから、同じ種でも複数の名前が出て来ますから、ご注意下さい。

Trichocereus macrogonus
=Cereus macrogonus
=Echinopsis macrogona

Trichocereus pachanoi
=Echinopsis pachanoi

Trichocereus peruvianus
=Cereus peruvianus
=Echinopsis peruviana

また、Trichocereusの命名の経緯を記事にしていますから、こちらを先に読んだ方が理解がしやすいと思います。


T. peruvianusとT. pachanoi
Britton & Rose(1920年)は、Trichocereus peruvianusとTrichocereus pachanoiという2種類の新種のトリコケレウスを記載しました。
T. macrogonusとT. peruvianusの密接な関係は、Backeberg & Knuth(1936年)を含む数人の著者により言及されていますが、Backebergの一部の著書ではこの意見を支持していません。Ritter(1981年)は、野外観察に基づきT. peruvianusをT. pachanoiの1種であることを提案しました。ただし、RitterはT. macrogonusには言及していません。
Madsen(1989年)は、E. pachanoiを詳細に説明し、T. peruvianusを異名として挙げています。この時のE. pachanoiの図は非常に明瞭で、その説明は、Cereus macrogonusを記載したSalm-DyckのC. macrogonusの説明と一致しています。


T. macrogonusとは?
Huntら(2006年)は、E. peruvianaとE. pachanoiを種として認識していましたが、E. macrogonaは「元の用途が不明または議論の余地がある名前」のカテゴリーにリストアップしました。Huntらによると、「E. macrogonaの現代の記述は、オリジナルから逸脱しており、その名前は誤って適用されている可能性がある」としています。しかし、その根拠は示されませんでした。もっともらしい仮説として、この判断がアマチュアの温室で栽培された植物を観察したものではないかというものです。つまり、栽培されている植物がSalm-Dyckの記述に対応していないだけではないかと言うのです。

トゲが異なると言う記述
トゲの有無とサイズが、T. peruvianusとT. pachanoiを区別する主な特徴であるとされています。しかし、T. pachanoiの最初の記述はタイプ標本で見られるように、トゲのないものから長さ1〜2cmで3〜7本まで多様性があります。Schultes & Hoffman(1979年)は、栽培されたT. pachanoiにはトゲはありませんが、野生条件下ではトゲが発達すると指摘しました。著者らも、T. pachanoiを比較的暗い場所から直射光が当たる場所に移動した際、同じ経験をしました。
標本や写真、参考文献、Britton & Roseの説明などを見ると、T. peruvianusは高さ2〜4m(最大5m)で、T. pachanoiは高さ3〜6m(最大7m)です。特徴を以下に示します。

T. macrogonus v. macrogonus
=T. peruvianus
古いアレオーレにもトゲは18〜20本あり、そのうち3〜4本はより強く頑丈で長さ約5cmになります。枝は直立あるいは斜上し、幹は太く直径16〜20cmになります。

240213214531251~3
Trichocereus peruvianus Britton & Rose
『The Cactaceae, II』(1920年)より。
T. peruvianusはこのBritton & Roseの著作において命名されました。


T. macrogonus v. pachanoi
=T. pachanoi
古いアレオーレにはトゲがないか少なく場合があり、3〜7本です。トゲは同じサイズで長さ約1〜2cmです。茎は直立し互いに平行になります。 茎は細く直径6〜11(〜15)cmとなります。

240213214523597~2
Trichocereus pachanoi Britton & Rose
『The Cactaceae, II』(1920年)より。
T. pachanoiはこのBritton & Roseの著作において命名されました。


T. macrogonusに含まれる
種が初めて記載された時の記述と、実際のTrichocereusを比較した結果、C. macrogonusはT. peruvianusと同種です。T. pachanoiは同種ではあるが、区別可能です。形態学的および遺伝的証拠による分類学的分析により、T. peruvianusとT. pachanoiとの間に密接な関係があることが確認されています(Albesiano & Terrazas, 2012年)。
一方でフィールドで植物を広く観察したRitter(1981年)やMadsen(1989年)が、それぞれT. peruvianusとT. pachanoiを認識していたことは注目に値します。これらは、別の2種ではなく、同一種内の変種としました。

T. macrogonusの履歴書
以上が論文の簡単な要約です。
初めてC. macrogonus=T. macrogonusを記載したSalm-Dyckの記述は、T. peruvianusの特徴とよく符合します。著者らはT. macrogonus=T. peruvianusであると主張します。さらに、T. pachanoiは形態学的にも遺伝的にもT. peruvianusと近縁ではあるものの、はっきりと判別出来ることからT. macrogonusの変種としました。ここで、T. macrogonusの異名についてまとめてみましょう。

T. macrogonus系
1850年 C. macrogonus
1909年 T. macrogonus
1920年 T. peruvianus
1931年 C. rosei
1956年 T. puquiensis
              (publ. 1957)
1957年 T. trichosus
1974年 E. macrogona
              E. peruviana
              E. puquiensis
              E. trichora
1981年 T. pachanoi f. peruvianus
              T. tacnaensis
1998年 E. peruviana ssp. puquiensis
2013年 T. macrogonus v. peruvianus
               (publ. 2012)
2014年 T. peruvianus ssp. puquiensis


T. pachanoi系
1920年 T. pachanoi
1931年 C. pachanoi
1956年 T. santaensis
              (publ. 1957)
1958年 T. schoenii
1974年 E. pachanoi
              E. santaensis
              E. schoenii
1981年 T. torataensis
2012年 T. macrogonus v. pachanoi
2022年 T. macrogonus ssp. sanpedro


現在の分類は著者らの主張通りとなっています。見てお分かりのように、エキノプシスに統合する動きがありました。現在はエキノプシスではなくトリコケレウスとされています。しかし、現在はトリコケレウス属自体が縮小しています。具体的には、T. macrogonus、T. spinibarbis、T. uyupampensis(=E. glauca=T. glaucus)のわずか3種類です。エキノプシスと言う肥大化したグループについても、気になっていますから、そのうち記事にする予定です。


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多肉植物にはトゲが生えているものもありますが、特にサボテンやユーフォルビアには強いトゲを持つものがあります。サボテンもユーフォルビアも、新しいトゲは美しいものが多いですよね。冬でも新しいトゲを出すものもありますから、少しトゲの写真を撮ってみました。

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Gymnocalycium ferocior
フェロキオル(フェロシオール)は良いトゲが出ています。冬は室内で植物用ランプをガンガン当てています。


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Gymnocalycium spegazzinii
天平丸も綺麗な黒いトゲが出ています。


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Euphorbia handiensis
ハンディエンシスも強いトゲが出ています。

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Euphorbia polygona v. polygona
ポリゴナも新しいトゲが出てきました。このポリゴナはトゲが出たり出なかったりするタイプです。

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Euphorbia officinarum
大正キリンも元気に新しいトゲを盛んに出しています。そう言えば、大正キリンはE. echinusと国内では言われて来ましたが、正しくはE. officinarumが正しい学名と私も思っていました。しかし、現在ではE. echinusは、E. officinarum subsp. echinusとされているようです。



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Euphorbia knuthiiと言う塊根性ユーフォルビアがあります。この種小名は人名から来ているとされているみたいです。いわゆる献名ですね。本日はE. knuthiiの名前に関する話ですが、その前にE. knuthiiの簡単な紹介をしましょう。

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Euphorbia knuthii Pax.
狗奴子キリンと言う名前でも呼ばれています。

E. knuthiiの履歴書
E. knuthiiは南アフリカからモザンビークに分布する、多肉質の茎と塊根を持つユーフォルビアです。SchlechterがモザンビークのRessano Garciaで1897年に採取した標本がタイプ標本となっています。ドイツの植物学者であるFerdinand Albin Paxが、1904年にEuphorbia knuthii Pax.と命名しました。
1911年にイギリスの植物学者、分類学者であるNicholas Edward Brownが、Euphorbia johnsonii N.E.Brown.を新種として記載しましたが、後にE. knuthiiの異名扱いされました。しかし、ローデシアの植物分類学者であるLeslie Charles Leachにより、1963年にE. johnsoniiはE. knuthiiの亜種とされました。つまり、Euphorbia knuthii subsp. johnsonii (N.E.Br.) L.C.Leachです。この学名は現在でも有効です。
また、亜種johnsoniiが出来たことにより、今までE. knuthiiと呼ばれていた植物は、Euphorbia knuthii subsp. knuthiiとなりました。よって、E. knuthiiとは、亜種knuthiiと亜種johnsoniiを合わせたものを指しています。


「knuthii」は「Kunth」から?
ここからが、本題です。
某サイトには、「knuthii」とはドイツの植物学者であるCarl Sigismund Kunthに対する献名とありました。そして、何故か「Kunth」が「knuthii」になってしまったのだとありました。初めてその記事を読んだ時は特に疑問に思いませんでした。しかし、最近になり論文を読んでいたら「Knuth」と言う植物学者が登場したため、おやおやと思いました。ようするに、「Kunth」ではなく「Knuth」に対する献名なのではないかと言う、真っ当な疑問が湧いたわけです。


命名者の情報
E. knuthiiの命名者であるPaxは、サクラソウ科、トウダイグサ科、カエデ科を専門としていたようです。Paxは1858年生まれで1942年に没しています。
献名は知り合いか、その分野に貢献した研究者に対するものが多いように思われます。知り合いの場合、研究者なら分かりますが、標本を送ってくれた人に対するものもあり、命名者が本などに誰に対する献名かを記載してくれない限り、由来が分からないものもあります。
さて、ではCarl Sigismund Kunthはどうでしょうか? Kunthは1788年生まれで1850年に没しています。生没年からして、Paxと直接的なつながりはありませんよね。考えられるとしたら、南アフリカのユーフォルビア研究に多大な貢献をしているのかも知れません。しかし、Kunthはチリ、ペルー、ブラジル、ベネズエラ、中央アメリカ、西インド諸島といったアメリカ大陸を専門とした研究者でした。Paxが献名するようには思えません。


海外でも混乱
日本語のサイトでは他には情報がなさそうでしたから、海外の情報を見てみました。
海外では国内とは異なり、情報が直ぐに出てきました。
ただし、困ったことに、サイトにより異なる人物を挙げているのです。それは、以下の3人です。

①Paul Erich Otto Wilhelm Knuth
ドイツの植物学者、生態学者。1854年生まれ1900年没。
②Reinhard Gustav Paul Knuth
ドイツの分類学者、植物学者、昆虫学者。1874年生まれ1957年没。
③Fredrick Marcus Knuth
デンマークの分類学者。サボテンの収集と分類で知られる。1904年生まれ1970年没。

何れにせよ、Carl Sigismund Kunthは関係がなさそうです。

Paxの記載
では、E. knuthiiを初めて記載したPaxの記述を見てみましょう。Adorf Englerの『Botanische Jahrbucher fur Systematik』にPaxの記述があります。
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おそらく、上の段はラテン語で植物の特徴を記しています。下の段はドイツ語の説明でしょう。ラテン語もドイツ語も読めませんが、「knuthii」の語源については、残念ながら記されていないようです。なお、E. schinziiに近縁と書かれているようです。

論文の情報
すっかり、行き詰まってしまいました。仕方がないので、手当たり次第にE. knuthiiの情報を漁ってみました。すると、何やら興味深い論文を発見したのです。それは、Jose Manuel Sanchez de Lorenzo Caceresの2013年の論文、『Eponimos del genero Euphorbia L.』です。この論文はユーフォルビアの名前の由来を解説したものです。早速、E. knuthiiの項目を見て見ましょう。

★Euphorbia knuthii Pax.
「花の生物学の専門家であるドイツの植物学者、Paul Erich Otto Wilhelm Knuth(1854-1900)に因んでつけられました。」


どうやら、3人の候補の①が正しいようです。ついでに、E. johnsoniiについても見てみましょう。

★Euphorbia johnsonii(=E. knuthii)
「植民地資源を搾取し、明らかにこの植物を収集したモザンビーク会社の農業部長William Henry Johnson(1875-?)に捧げられています。」


最後に
ようやく決着です。このような情報は得るのは中々難しいですね。いくつかのサイトで情報が異なっていたように、根拠のないあやふやなものも多いのでしょう。この場合、命名者であるPaxと同年代に活躍したKnuthと言う植物学者が3人もいたことが、混乱のもとでした。さらに、国内のKunthであると言う情報は明らかに根拠のないただの類似にしか思えません。
ただし、誰に献名されたかは、命名者の生前の記述がない場合は、後の時代では当て推量となってしまいます。おそらくそうだろう、その可能性が高いといった根拠レベルのものもあります。今回のE. knuthiiに関しても、論文でもその根拠は示されていません。もしかしたら、PaxとP. Knuthに手紙のやり取りなど、個人的なつながりがあったのかも知れませんけど。
そう言えば、過去にも献名に関する記事を挙げたことがあります。しかし、インターネット上で誤った情報が流布されていることを注意喚起している論文もありました。献名については、私のような素人には基本的に情報が探し出せないと考えています。研究者が大学や博物館に収蔵されている資料を漁って初めて明らかになるものでしょう。似ているからと言って適当に由来をでっち上げるのは、差し控えるべきです。私もインターネット上の情報のあやふやさを思い知った次第です。


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引き続き、2024年・世界らん展日本大賞の写真をご紹介しています。

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Clctn. merrillianum
青い蘭として有名なクレイソケントロンです。今は、らん展の会場でも苗を購入出来ます。


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Den. petiolatum
面白い形のデンドロビウムです。あまり蘭ぽくない花ですね。

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Den. pseudoglomeratum
かたまって咲いていますが、実に目を引きます。

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Den. tetragonum fma. album
地味ですがこういうタイプの花は好きです。

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Den. ruppianum
こちらも変わった花の形のデンドロビウムです。


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 Cym. Enzan My Dream
シンビジュームですが、驚くような大輪です。


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Coel. cristata
らん展では
お馴染みの、大株のコエロギネ(セロジネ)です。クリスタタは一般的。

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Coel. formosum
何となくデンドロキルム感がありますが、知らぬ間にデンドロキルムはコエロギネに吸収されてしまったようです。


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Fdk. After Dark
フレッドクラーケアラで、カタセツム×クロウエシア×モルモデスの3属交配属だそうです。「黒い蘭」として話題になっているようです。

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Corybas neocaledonicus
コリバスは熱帯雨林の林床に生える地生蘭です。いかにも高湿度の環境を好みそうです。かなりのレアではないですかね?


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Ptst. collina
プテロスティリスは球根性の地性蘭です。どちらかと言えば山野草のような雰囲気です。


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Orcp. manabina
オーニソケファルスです。小さい花が大量に咲いていますね。

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Lyc. Cosmo-Borvileo
バルブが見えないくらい密に開花しています。リカステのイメージとは少し異なりますが、非常に美しいですね。


NHKの趣味の園芸ブースがあり、少し多肉植物の展示がありました。
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亀甲竜
まぁまぁのサイズですが、良い形ですね。面白いつるの仕立て方です。


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観峰玉
寸胴な形の観峰玉。

と言うことで、本日で世界らん展のご紹介は最後です。久しぶりのらん展でしたが、普段見れない蘭を沢山見ることが出来て良かったですね。ただ、やっぱりプリズムホールは狭いですね。展示より植物の販売スペースの方が広いくらいです。
そう言えば、販売スペースでは、蘭だけではなく熱帯植物も販売されていました。私は買いませんでしたが、珍しい蘭を購入出来る機会ですから、楽しみにしている方も多いのでしょう。しかし、公式グッズの種類が少なく販売スペースも狭く、1箇所なのはいただけませんね。出口もボトルネック構造で人が詰まりがちでしたから、もう少し考えた方が良いでしょうね。



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昨日に引き続き、開催中の世界らん展日本大賞の写真をご紹介しています。取り上げたのは、私が気になった極一部です。写真と実際に目にするとではかなりの違いがありますし、見ていると花の甘い香りが漂ってきたりと、中々楽しめました。

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Rth. Candy House
非常に目立つ配色の交配系カトレア。
カトレアは近縁属の間で複雑に交配されており、品種改良がもっとも進んだ蘭です。名前を聞いても、何を交配したものかよく分かりません。Rth.はリンカトレアンテのことで、リンコレアリア×カトレア×グアリアンテという3属交配属だそうです。


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C. Flame of Love
あまり派手さのないカトレアですが、深すぎず明るすぎない絶妙な色合いです。大きくバイカラーの派手なカトレアの中では異彩を放っていました。

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C. Cherry Bee
先端部だけ色づくカトレア。小型で可愛らしい一鉢。


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C. Final Blue
交配系カトレアのカトレアンテです。カトレア×グアリアンテとのことです。


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C. Sunset Glow
小型ですが沢山咲いていて目を引きました。


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Barkeria butterflier
バルケリア属は初めて見ました。長く伸びた花茎の先に固まって花が咲いていました。


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L. Maronii
レリアです。すっきりとした花ですね。

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Bc. Morning Glory
何となくブラサボラ感がありますが、Bc.はブラサボラ×カトレアと言うことです。ブラサボラは白花なので、赤系は新鮮です。


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Bc. Pretty Star
同じくブラサカトレアですが、こちらはカトレア感が強いですね。


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Ett. Volcano Tric
エピカタンテは、カトレア×エピデンドラム×グアリアンテの3属交配属。

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Comp. oberhansen
図鑑ではよく目にするコンパレッティアです。オンシジュームと似ていますが、オンシジュームは黄色系でコンパレッティアは赤色系です。

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Alcra. Donald Nalliday
奇抜な花を咲かせるアルクラですが、ブラッシア×ミルトニア×オンシジュームの3属交配属だそうです。


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Alcra. Marfitch
こちらもアルクラですが、ブラッシアとミルトニアの影響が強く出ていますね。面白い花です。


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Rdza. secunda
ロドリグエズィア(ロドリゲチア)です。面白い形の花ですが、撮影モードを間違えて暗くなってしまいました。


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Onc. × bockemuliae
ブラッシアっぽい雰囲気ですが、オンシジュームだそうです。


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Onc. leucochilum
こちらはやたらに花茎が長いオンシジューム。


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Phal. Happy Vivien
小型のファレノプシスです。非常に花が密集しています。


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Phal. Miura Dream(amabilis × OX Happy Girl)
面白い模様の入り方をしているファレノプシスです。


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V. lombokensis
ヴァンダはとにかく派手なイメージですが、花色は地味ですね。しかし、その存在感は実にヴァンダです。

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Ang. sesquipedale
アングレカムは好きな蘭です。長大な距を持ちます。ダーウィンが、この長い距に溜まった蜜を吸える、長い吻を持つ蛾がいると予言しました。そして、その41年後に長大な吻を持つキサントパンスズメガが発見されたのです。


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Den. polyanthum
今回の大賞花は下垂するタイプのデンドロビウムです。下垂するタイプは、花が下垂するものと茎が下垂するタイプとがあります。まあ、茎というか偽球根ですけど。

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大賞花は茎が下垂するタイプです。実に見事ですね。


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2月7日から開催されております、「世界らん展日本大賞」に行ってまいりました。新型コロナ下でここ数年は自粛していましたから、久しぶりのらん展です。新型コロナ前は東京ドームの開催でしたが、今は隣のプリズムホールでの開催です。
連休中は混みそうなので平日に行きましたが、恐ろしい混み具合でした。午前11時くらいに到着しましたが、入場出来たのは12時でしたね。このレベルの行列は初めてです。その理由はなんとなく分かります。展示ブースに行くまでの通路が狭すぎて、人が詰まっちゃうわけです。花の迷路みたいにしたかったようですが…。プリズムホールは狭いから、通路も拡げられなかったのでしょう。やはり、東京ドームで開催した方が良い気がします。

まずは入口の狭い花の道から。

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ここからは、入賞したものから、個人的に気になったものをピックアップしてご紹介します。
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Paph.(micranthum × In-Charm Space)
パフィオペディルムは割と好きですが、評価基準はよく分かりません。他の蘭は沢山花茎が出ているとか咲きそろっているとかでしょう。パフィオは正面を向いていて形が綺麗に開いているとかでしょうか?


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Phal.({Diane Sheena × Fortune Glad} × World Class) 
ファレノプシスですが、リップに模様がないため変わった見た目です。


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Lyc. Katsuragawa
大型のリカステですが、よく咲きそろっていますね。


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Max.(porphyrortele × schunkeana)
マキシラリアの赤黒い花。小さい花ですが目を引きます。


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Cym. Devon Wine
キンビディウム(シンビジューム)は、花茎が垂れ下がるアイスキャスケード系が一気に広がりました。しかし、これはお見事。


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Rmps. Lion's Splendor
レナノプシス(レナンテラ × バンドプシス)ですが、実に巨大です。

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Epi.(neoporpax × melanoporphyreum)
地味な色合いのエピデンドラムですが、よく咲いていますね。


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Lsz. Lava Burst
レオメセジアという名前は初めて聞きましたが、レオキルス×オンキディウム(オンシジューム)×ジゴセパルムの3属交配属ということです。以前はホウェアラと呼ばれていました。


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Paph. Shin-Yi's Pride
こういうパフィオは憧れます。しかし、大きくなりますし、上手く育てる自信はないですね。

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Den. Mtn's Butterfly Kisses
可愛らしい色合いのデンドロビウム。ぱっと目を引きますね。


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C. praestans fma. concolor
独特の質感のカトレア。そう言えば、カトレアはラン展では存在が大きいのですが、私はほとんど撮影していないことに気が付きました。私自身、見慣れすぎて格別に目を引かなくなってしまっているような気がします。


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以前、トリコケレウスを調べていた時に、その立ち位置の微妙さであるとか、分類の混乱を感じました。果たしてトリコケレウスとは何者なのか、調べてもよく分からないのが現状です。本日は、トリコケレウス属のタイプであるTrichocereus macrogonusの歴史を少し見て見ましょう。参照とするのは、Sofia Albesiano & Roberto Kieslingの2012年の論文、『Identity and Neotypification of Cereus macrogonus, the Type Species of the Genus Trichocereus (Cactaceae)』です。
Trichocereusは基本的にアンデスに分布し、エクアドルならペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン南東部を経て大西洋きしまで広がっています。Trichocereusは円筒形の茎を持ち、丈夫で稜(rib)があり、根本から枝分かれしています。20世紀初頭まではTrichocereusはCereusに含まれていました。

始まりはCereus
Cereus macrogonusと言う学名は、Salm-Dyck(1850年)により記述されました。花や原産地の情報はまったくありませんでしたが、種を特定出来るいくつかの特徴が記されています。
K. Schumann(1890年, 1897〜1898年)は、現在Pilosocereusとされているブラジル原産種にCereus macrogonusの名前を使用しました。Schumannはベルリン植物園に在籍し、Salm-Dyckから標本を受け取ったとされているため、オリジナルのC. macrogonusを持っていた可能性があります。ただし、Schumannの著作ではSalm-Dyckの説明とは特徴が異なります。このSchumannの誤認はBerger(1904年)により否定されました。Bergerは現在のTrichocereusにあたる植物に対する完全な説明を行いました。

トリコケレウス属の誕生
Berger(1905年)は、いくつかの亜属を作ることにより、後に行われたCereusの分離に重要な役割を果たしました。BergerはTrichocereus亜属として14種を認識しました。そのうちの1つが、Cereus macrogonus(=T. macrogonus)です。
Riccobono(1909年)は、Bergerの亜属の中でもTrichocereusを属レベルまで引き上げました。この時のTrichocereusには、T. macrogonusとT. spachianusからなっていました。
Britton & Rose(1920年)はTrichocereusを属として採用し、19種類に拡大し、C. macrogonus=T. macrogonusを属のタイプとして指定しました。この指定は以降のすべての著者に踏襲されています。同時に、T. pervianusとT. pachanoiについても記載しました。さらに、Schumannの説明するC. macrogonusとは、Cephalocereus arabidae(=Pilosocereus arabidae)を指していると指摘しました。Werdermann(1942年)も同様の見解を示しています。

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Cereus macrogonus
『Flora Brasiliensis v.4, pt.2』(1893年)より。
この図譜は正しいマクロゴヌスを示しているのでしょうか?


いくつかの情報
Schelle(1926年)は、C. macrogonusを説明し図を示しました。写真の解像度は低いのですが、5本程度の鈍い肋と頂端に花が咲く栽培された円柱状のサボテンで、Trichocereusの特徴を示しています。Borg(1937年, 1951年)は、T. macrogonusについての長い解説を行いました。その原産地はアルゼンチンとボリビアであるとしています。BorgはTrichocereusを接ぎ木の素材としての利用に注目していました。Rauh(1958年)は、ペルーのサボテンに関する著作でT. macrogonusについては言及していませんが、近縁種類をいくつか記載しています。

不鮮明なマクロゴヌス
Backeberg & Knuth(1936年)は、T. macrogonusについて言及していますが、以前から知られている情報だけでした。Backeberg(1966年)は、1941年のメモではペルーの野生のT. macrogonusを発見し1ページ以上の文書と鮮明な写真を報告したと述べています。しかし、奇妙なことに、同時にT. macrogonus=T. peruvianusという明確な異名を作りました。
さらに、Backeberg(1959年)は、Werner Rauhがペルー中央で見つけた植物の図を、T. macrogonusの野生型として示しました。栽培植物よりも強力なトゲがあります。また、ペルー北部産のT. santaensisや、ペルー南部産のT. chalaensis、T. peruvianus、T. pachanoiなどよく似た種が示されています。しかし、1941年のメモや、ペルーでの調査や野生のT. macrogonusの発見についての言及は見当たりません。

Krainz(1975年)は、T. macrogonusを説明し、栽培されたトリコケレウスの花の写真を示しました。しかし、同時にスペインの庭園で育てられている他の2枚の写真も掲載しましたが、その果実の特徴からするとPilosocereusに相当します。Schumannのように、様々なサボテンを混同していた可能性があります。さらに、KrainzはSchumannの情報に従い、Trichocereusをブラジル原産としました。

その後のマクロゴヌス
Cereus macrogonusと言う名前は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて一貫して使用されてきました。最近では、Trichocereus macrogonusやEchinopsis macrogonaと言う名前が、植物学者により使用され続けています。Schelle(1929年)やBabkeberg(1959年)、Anderson(2001年, 2005年)などの出版物にはイラストも掲載されています。Hunt(1989年)はHausteinのイラスト(1983年)に言及しました。ブラジル原産と記されている以外は、著者らの種の同定と一致しています。参考文献のほとんどが、著しく光沢のある表皮と、優れた接ぎ木材料としての使用を強調しています。
Ostolaza(2011年)は、E. pachanoiとE. peruvianaを認識し、その違いはE. peruvianaのより強力なトゲと、含まれるアルカロイド濃度が高いことにより区別されます。

エキノプシス?
Friedrich(1974年)がTrichocereusをEchinopsisに含めました。しかし、Friedrichの意見は後の研究者たちに必ずしも共有されませんでした。
TrichocereusとEchinopsisは近縁ですが、ほとんどの種は形態学的に明確かつ明瞭に分けることが出来ます。

Trichocereus
高さ0.5〜12mで、枝の高さは中央の茎とほぼ同じです。茎は円筒形です。花は夜行性あるいは昼行性で、釣鐘状です。果実は果汁質です。幹は繊維質で硬く、エクアドルからアルゼンチン、チリにかけてアンデス山脈に生えます。

Echinopsis
高さ0.1〜0.3mです。茎は球形で円筒形にはなりません。ただし、E. leucantha complexとE. ayopayanaは通常1m、稀に1.5mに達し、茎は円筒形になります。花は主に夜行性で、漏斗状です。果実は半乾燥状態です。幹は繊維がなく、主に南アメリカ東部、一部はアルゼンチンとボリビアのアンデス山脈に生えます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
トリコケレウスのタイプであるマクロゴヌスの混乱が見て取れます。
気になって、キュー王立植物園のデータベースを調べてみましたが、T. macrogonusは以下のような名前の変遷があったとしています。

1850年 C. macrogonus
1909年 T. macrogonus
1920年 T. peruvianus
1931年 C. rosei
1956年 T. puquiensis
              (publ. 1957)
1957年 T. trichosus
1974年 E. macrogona
              E. peruviana
              E. puquiensis
              E. trichora
1981年 T. pachanoi f. peruvianus
              T. tacnaensis
1998年 E. peruviana ssp. puquiensis
2013年 T. macrogonus v. peruvianus
              (publ. 2012)
2014年 T. peruvianus ssp. puquiensis


Trichocereus macrogonusが現在の正式な学名で、Cereus macrogonusは現在の学名のもとになったバシオニムです。さらに、Echinopsis macrogonaは、Homotypic Synonymです。
それ以外の学名は、Trichocereus macrogonus var. macrogonusのHeterotypic Synonymとなります。よく見るとT. peruvianusはT. macrogonus var. macrogonusの異名扱いです。変種macrogonusがあると言うことは、当然ながら他にも変種があると言うことになります。それは、Trichocereus macrogonus var. pachanoiとなります。
しかし、T. peruvianusやT. pachanoiがT. macrogonusと関連して整理されていますが、これは一体どういうことなのでしょうか? 実は本日の内容は論文の前半部分だけで、TperuvianusやT. pachanoiの話は後半に出て来ます。記事が長くなったので、続きはまたの機会としましょう。


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関東にも雪が降り、だいぶ冷え込みました。室内の最低気温も一桁だったかも知れません。窓際の多肉植物たちはさぞ寒かろうと思います。さて、そんな寒さの中ですが、本日も我が家の多肉植物たちを少々ご紹介しましょう。

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Pachypodium horombense
ホロムベンセは葉は落ちてはいるものの、かなり葉が残っています。パキポディウムの中でも丈夫で育てやすい部類です。

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Fouquieria columnaris
一度は葉をすべて落としたコルムナリスですが、どういうわけかまた葉が出てきました。雪が降ったくらいの低気温ですから、このタイミングで葉を出されてもとは思います。


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Fouquieria fasciculata
ファスキクラタは下の方の古い葉以外はほとんど落ちません。むしろ、盛んに生長していますが、日照が弱いので逆に困りますね。


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Haworthiopsis fasciata DMC 05265
私のお気に入りのファスキアタです。結節のパターンが非常に美しいですね。ファスキアタは自然と均整のとれた姿に育ちます。
本物のファスキアタは入手困難ですが、タイプ違いをあと何株か入手したいところです。


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スーパーゼブラ Haworthiopsis attenuata cv.
スーパーゼブラは結節が太く密な選抜品種です。だいぶ葉の枚数が増えて見られるようになってきました。
ちなみに、ラベルにはH. fasciataとありましたが誤りで、実際はアテヌアタです。「十二の巻」はアテヌアタ系交配種ですが、なぜかファスキアタの名前で流通してしまっています。そのため、国内のアテヌアタはファスキアタと呼ばれています。まあ、そもそもファスキアタとアテヌアタがあると言うこと自体が、あまり知られていないような気もします。2種の分け方は簡単で、アテヌアタは葉の内側にも結節がありますが、ファスキアタにはありません。



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本日は少し緩い話をします。当ブログでは今まで250本を超える学術論文の要約を記事にしてきました。しかし、一般に論文を読むことは、かなりハードルが高いようにも思われています。論文のほとんどは英語で書かれていますから、外国語の苦手な日本人には向いていないと言う面もあるでしょう。とは言え、私も格別に英語が得意なわけではなく、割と分からない単語も多く、調べ調べしながら訳しています。

専門用語が分からない
論文を読むにあたり、私にとって最大の問題は専門用語です。論文には日本語でも分からない用語が頻出しますから、用語の意味やニュアンスと言うか使い所が分からないと、文の意味が中々掴めません。前後の文脈にも影響しますから、いつも四苦八苦しています。

英語じゃないと分からない
サボテンや多肉植物の原産地は必ずしも英語圏ではないため、気になる論文が英語以外の場合もあります。例えば、マダガスカルはフランス語圏、メキシコはスペイン語圏なので、フランス語やスペイン語の論文もそれなりにあったりします。しかし、残念ながらフランス語やスペイン語はさっぱりなので、基本的に諦めています。機械翻訳を試してみたりもしましたが、どうも専門用語との相性が悪く、正しく訳せていないようです。ただ専門用語を誤訳しているだけではなく、前後の文脈も可怪しくなっていたりしますから、これは使えませんね。スペルを1つずつ訳していけば何とかなるかも知れませんが、流石に手間がかかり過ぎます。

論文は無料が好き
私は基本的に無料で公開された論文を読んでいます。これは、何も不正にダウンロードしたわけではなく、論文には有料のものと無料のものとがあると言うだけの話です。とは言え、有料のものは1本で数千円しますから、中々手が出ません。もしかしたら、著作権を思い浮かべ、ケチケチするなと思われるかも知れません。しかし、一般的には著作権者=執筆者ですが、学術論文ではまったく異なります。学術論文では出版社が著作権者なので、論文が売れても論文を執筆した研究者には一銭も支払われません。なぜなら、文芸雑誌は出版社が作家に依頼して書いてもらいますが、論文は研究者が出版社に載せていただけるようにお願いするからものだからです。研究者は学術雑誌に研究成果が掲載されることが絶対的な評価基準ですから、立場的には弱いのです。出版社は沢山送られてくる論文の中から良いものだけを選び掲載します。この時点で論文には競争があるのです。ちなみに、論文掲載が決まっても、研究者はかなりの額の掲載料を出版社に支払う必要があります。日本国内の研究では、1年に掲載料だけで23億円に達すると言う新聞記事を見たことがあります。研究とは実に金にならないものなのです。

公益性とインパクト・ファクター
論文が無料で公開されていることにも意味があります。特に医学系の論文では、広く公知されることが公共益になりますから、無料で公開されることは重要です。個人的には、大学や研究には公金=税金が投入されているのですから、研究成果を広く公開して欲しいと思っています。
さらに言えば、論文はできるだけレベルの高い雑誌に掲載されることが目指されます。一般にも有名なのは、ネイチャーやサイエンスですが、これらの雑誌のレベルはインパクト・ファクターにより決まります。インパクト・ファクターとは、掲載した論文がどれだけ他の論文で引用されたかを示す数字です。これは、その分野を研究するにあたり、根拠として引用した重要な内容を含むと判断された論文なわけです。

有料論文の高騰
学術世界は常に新しい知識でアップデートする必要がある、厳しい競争の世界です。大学院生や若手研究者も関連する分野の論文を沢山読む必要がありますが、有料論文が問題となります。読まなくてはならない重要な論文が有料だと、実験より論文に資金を吸い取られてしまいます。近年、論文の有料化とその高額化が進んでおり、若手研究者からは悲鳴があがっています。この点はかなり問題となっているようです。これからの時代は研究者個人ではなく、大学や国のサポートが必要となるのではないでしょうか。

最後に
学術論文は敷居が高く感じますが、内容は様々で必ずしも難解なものではありません。単純に生態や分布を調査したような論文は、誰でも割と読みやすい部類です。私はなるべく多肉植物全般を記事にしようとしていますが、論文の選択はやはり私の好みに左右されます。気になる多肉植物があるならば、ぜひ論文を読んでみることをお勧めします。
ちなみに、有料の論文はそれぞれの掲載誌ごとに購入するものもありますが、様々な雑誌の論文を購入出来るプラットフォームのようなサイトもあります。あるサイトでは論文1本の価格は10ドルか20ドル、あるサイトでは4980円となっていました。読んだだけで記事にしない論文もありますから、月に10本購入するだけで年間数十万円になってしまうでしょう。これは、ちょっと無理ですかね。また、掲載誌を定期購読したら論文1本あたりの単価は下がりますが、学術誌の種類が増えたため、あちこちの雑誌に掲載されますから、読みたい論文がその雑誌に掲載されるとは限りません。読みたい論文は山のようにあるのに、読めないものが多くフラストレーションが溜まります。これ以上、論文の有料化が進まないことを願っております。


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冬真っ盛りなのでサボテンや多肉植物もまだまだシーズンではありませんが、鶴仙園公式ブログで毎日入荷している多肉植物たちを見ていたら、居ても立っても居られなくなり、久しぶりに鶴仙園西武池袋店へ行ってきました。去年の11月のイベント以来の訪問です。調べたら去年の今頃にも行っていましたね。ブログの記事を確認すると、雪が降った後だとか書いてありました。さて、怪しげな天気模様でしたが、雪が降るかもなんて天気予報では言っていましたね。今が寒さの底かも知れません。

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実はフィールドナンバーつきのH. attenuataが2/1に入荷したので、気になっていたと言う部分はあります。しかし、あまり人気がない硬葉系だからまだあるかなと思ったりしましたが、残念ながらもうありませんでした。たった3日なのに、流石鶴仙園ですね。お客も実に目ざとい、と言うかお目が高い。
それはともかく、店舗前の多肉植物はほとんどなく、ダシリリオンなどの耐寒性がある大株くらいでした。店内はエケベリア、メセン、オトンナ、ガステリアは沢山入荷していました。あと、ケープバルブがいくつかありましたね。ハウォルチアは相変わらず圧倒的な数がありましたが、私の好きな硬葉系はほとんどありませんでした。サボテンの部屋も充実していましたが、入口の塊根性モナデニウムやコミフォラが目を引きました。あと、珍しいことに灌木のEuphorbia antsoがありましたが、置く場所がないのであきらました。サボテンと言うか、私の好きなギムノカリキウムは、相変わらずLB2178やデイドリーム、天平丸、瑞昌玉あたりは豊富でした。G. bicolorが少し気になりましたが、今回は購入せず。
と言うことで、本日の購入品はこちら。

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Euphorbia clivicola
クリビコラはすでに入手済みですが、去年急に弱ってしまいました。全体的に黄色くなってしまい、シワが寄っていたので根をやられている雰囲気がありました。抜いてみたら根が裂けて、黒いつぶつぶが露出していました。菌核菌というやつで寄生性のカビです。殺菌剤をまいて小康状態に持ち込みましたが、余談を許さない状況です。春に植え替えて根の様子を見てますが、駄目な可能性もあるため、苗を買ってみた次第です。


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H. chloracantha v. denticulifera
珍しく軟葉系ハウォルチアを購入しました。
ハウォルチアは、最近は硬葉系ばかりで軟葉系は買っていませんでした。しかし、去年の秋にタナベフラワーで開催されたSucculent Station宮崎台で、たにっくん工房のブースで購入したH. chloracantha v. subglauca RIB 0099が素晴らしい野趣的な姿で、すっかり気に入ってしまいました。硬葉系の持つ渋さがあるため、軟葉系の中でもH. chloracanthaは個人的には格別です。


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Haworthia tessellata 'mediate' IB 6776
いわゆる「竜鱗」ですが、こちらはフィールドナンバーつきです。この「mediate」の意味はよく分かりません。ラベルには、「old road between Steytlerville and Uitenhage」とありましたから、採取地の大まかな位置が分かります。
一般的過ぎて竜鱗自体があまり見かけないのですが、ご覧の通り非常に個性的で美しい硬葉系ハウォルチアです。もっと注目されても良いと思うのですがね。

と言うことで、久しぶりに鶴仙園に行ってきました。アテヌアタは残念でしたが、最近論文を読んで記事にしたコミフォラを沢山見れて良かったです。また、フィールドナンバーつきのH. tessellataは別格の美しさで、大変な驚きでした。たまには顔を出してみるものです。しばらくは多肉植物のイベントもあまりなく、あっても交通の便が極端に悪かったり、興味のないアガヴェ系イベントばかりです。3月のビッグバザールまでは引きこもりになりそうですから、どこか植物園を見に行こうかと思っています。
そう言えば、2月7日〜2月14日まで、「世界らん展日本大賞」が東京ドーム脇のプリズムホールで開催されますね。ちょうど三連休がありますから、良いタイミングですがめちゃくちゃ混みそうではあります。新型コロナの関係で行くのは何年ぶりですが、行けたら行くつもりです。


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本日は鶴仙園に行く予定です。まあ、久しぶりですが、時期的にはあまり私好みの多肉植物はないかも知れませんが。何か購入したら明日記事にする予定です。それはそうと、本日も我が家の多肉植物を少しご紹介します。

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新鳳頭
扁平に育っています。新鳳頭はあまり見かけないギムノカリキウムです。

瑞昌玉と同じくG. quehlianumとされています。

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Gymnocalycium pseudoquehlianum
正体不明のギムノカリキウムです。この名前は正式に命名された学名ではなく、どうやら裸名のようですね。つまり、「n. n.」、あるいは「nom. nud.」と表記した方が良さそうです。Detlev Metzingらの1995年のギムノカリキウムの種のチェックリストでは、由来不明とされています。

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Euphorbia tulearensis
トゥレアレンシスもだいぶ枝分かれして、混み合ってきました。この密な姿が魅力ですから、徒長させたくないものです。
去年は実生苗が大量に出回り、即売会では割と安価で入手できるようになりました。私の購入時の半額くらいになっています。

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Aloe somaliensis
ソマリエンシスはかなり遮光していても、夏に下葉が枯れがちになります。強光だけではなく、暑さも苦手な感じがします。

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Aloe bakeri
バケリはやや繊細ですが、問題なく育っています。去年の冬に入手して、植え替えせずに冬越ししましたが、根腐れして春に慌てて植え替えしました。野生絶滅種。


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サボテンはリプサリスなど一部を除き、南北アメリカ大陸およびその周囲の島嶼部に分布します。しかし、サボテンは乾燥地に良く適応した植物であるため、世界中の乾燥地域に侵入し外来種として猛威を振るっています。もちろん、これは初めは人間が移動させたものですが、競争がないことや天敵がいないなど有利な環境であっという間に増殖して手に負えなくなってしまったのです。砂漠の緑化になるような気もしますが、競合する元来自生していた他の植物やそれらを頼って生きている他の生物にとっては、サボテンはある種の災害のようなものです。
さて、現実問題として外来サボテンを駆除しようと言う動きはありますが、あまり上手くいってはおりません。特にウチワサボテンは厄介で、トゲがあるため重機で駆除したりします。しかし、節がバラけてしまい、バラけた節が根を張って直ぐに再生してしまいます。では一体どうしたら良いのでしょうか?

本日はアフリカに侵入したサボテンの駆除を目指した、I. D. Patersonらの2011年の論文、『Biological control of Cactaceae in South Africa』をご紹介します。如何なる成果が得られたのでしょうか。

①Pererkia aculeata
Pererkia aculeataはよく発達した葉と木質の茎と枝を持つ原始的な匍匐性サボテンです。P. aculeataは中央アメリカとカリブ海地域の一部、並びにブラジル南東部とアルゼンチン北部に自生します。

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Pererkia aculeata
『The Cactaceae I』(1919年)より。
Pererkia pereskiaとして記載。

アフリカへの侵入
1858年に南アフリカのケープタウン植物園で初めて記録され、ケープタウン周辺とGauteng州、Mpumalanga州、Limpopo州に帰化しました。また、東ケープ州とKwaZulu-Natal州の東海岸沿いにも帰化し、非常に侵入性が高く森林や海岸植生に豊富に生息しています。P. aculeataは繁殖しすぎて、固有の植生を消滅させています。1983年には農業資源保護法により雑草に指定され、2004年の生物多様性法により侵略的外来植物とされています。

防除方法
P. aculeataは在来の植生に絡み合って育つため、機械的に除去することは困難です。さらに、P. aculeataは千切れた破片からも再生するため、これは有効な方法ではありません。よって、生物学的防除がP. aculeataを防除する唯一の、経済的に実行可能かつ持続可能な方法です。

ハムシの放出
Phenrica gueriniと言うハムシの仲間を天敵として、KwaZulu-Natalでは少数を放出しましたが、P. aculeataの目立つ減少は見られませんでした。最近、より多くのハムシが放出されたことにより、KwaZulu-Natalの一部ではハムシが定着しました。

新たな天敵の発見
1984年から2007年までに、P. aculeataの自生地であるブラジル南部やアルゼンチン北部、ベネズエラ、ドミニカ共和国で8回の現地調査が実施されました。調査中に43種の昆虫がP. aculeata上で発見され、この内6種は一般的に見かけました。
・Loxomorpha cambogialisや、未記載種のPorphyrosela sp.と言う蛾は、宿主範囲が広く他の植物にも影響があるため使用出来ませんでした。
・Maracayia chlorisalisと言う蛾は非常に有効な天敵ですが、ドラゴン・フルーツが採れるHylocereusの害虫です。ドラゴン・フルーツはアフリカでも有望な新作物であり、この蛾の導入は利益相反を引き起こす可能性があります。しかし、効果が期待出来る天敵です。
・未記載のハチが発見されましたが、類似した幼虫が他の植物でも観察されたため、確認が必要です。
・Bruchophagus sp.と言うハバチは虫瘤を作りますが、必ずしもP. aculeataに強いダメージを与えているわけではないようです。
・ゾウムシの幼虫がブラジルで見つかりましたが、成虫が同定されておらず、宿主範囲も不明です。

今後
発見されたP. aculeataの天敵を採取し研究する必要があります。同時に新たな天敵の探索も行われる必要があります。また、南アフリカで栽培されるドラゴン・フルーツに対するM. chlorisalisの影響も調査するべきでしょう。また、一部地域ではP. gueriniが定着し、P. aculeataに対する大規模な被害が発生しています。P. guerini放出の評価を行う必要があります。


②Opuntia stricta
南アフリカにおけるOpuntia strictaの生物学的防除では、蛾とカイガラムシにより個体数を抑制することに成功しています。

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Opuntia stricta(左上)
『The Cactaceae I』(1919年)より。


コチニールカイガラムシ
クルーガー国立公園では、O. strictaのバイオマスが、Dactylopius opuntiae(コチニールカイガラムシ)の放出から6年で約90%減少しました。それ以来、サボテンの生息数は低いままです。ただ、雨が多い年にはコチニールカイガラムシは減少し、一時的にO. strictaは増加しました。しかし、コチニールカイガラムシは、サボテンの個体数を減らすだけではなく、平均サイズの大幅な減少を引き起こし、2005年以降はO. strictaの結実が見られませんでした。よって、O. strictaはコチニールカイガラムシにより完全に封じ込めることが出来ます。


③Cylindropuntia fulgida
Cylindropuntia fulgida var. fulgidaは、直立しよく枝分かれしたサボテンです。末枝は簡単に外れ、通る動物や人の服に付着します。果実のアレオーレから新しい花を咲かせるため、連結した果実が形成されます。この種はアリゾナ州のソノラ砂漠や、シナロア州ソノラ、バハ・カリフォルニア北部に自生します。一般には「chain-fruit cholla」あるいは「jumping cholla」と呼ばれています。

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Cylindropuntia fulgida
『The Cactaceae I』(1919年)より。
Opuntia fulgidaとして記載。


chain-fruit chollaの蔓延
chain-fruit chollaは、少なくとも1940年代には南アフリカに観賞用として輸入されました。現在は牧草地や自然保護区にも侵入し、家畜や小型アンテロープ、その他の小型哺乳類や鳥に至るまでに危害を与えています。時としてそれらの動物の死を招くこともあります。北ケープ州のダグラス周辺やLimpopo州などで蔓延しています。
農務省の補助金による防除は1970年代後半から実施されていますが、あまり成果がありません。侵入が多い特に価値の低い土地では、かかる費用は法外に高くなります。

分類上の疑義
このサボテンは分類上の混乱がおきており、最適な天敵の探索や使用を妨げています。長年に渡りC. rosea(=C. pallida)とされてきましたし、それ以前はC. tunicataと混同されてきました。
C. roseaにつくDactylopius tomentosusと言うカイガラムシを放出したものの、小型の植物を枯らすことはありましたが、大型の植物には効果はありませんでした。この時、このサボテンの正体について若干の疑問が生じたため、メキシコや米国のサボテンの分類学者と協議した結果、C. fulgida var. fulgidaであることが確認されました。これは、ダグラス近郊では化学物質による防除が行われていたため、連結する特徴的な果実が見られなかったからです。しかし、ジンバブエ近くでは管理されていないサボテンがあり、特徴的な連結する果実が確認されました。また、ダグラス近郊の古い写真からも、その連結する果実が確認されています。


生物型の違い
D. tomentosusを調査し、C. fulgida var. fulgida、C. fulgida var. mamillata、C. chollaから採取しました。コチニールカイガラムシは異なる生物型を持つものがあります。生物型の違いにより、成熟にかかる時間などが異なります。C. chollaから採取した「cholla」タイプが一番上手く定着しました。
「cholla」タイプのカイガラムシはダグラス近郊の農場で大規模なや放出されました。しかし、サボテンに対する被害は予想されたほどではありませんでした。カイガラムシの大量飼育中にC. imbricataにつくカイガラムシが混入した可能性があるため、新たに「cholla」タイプのカイガラムシを採取し、大量飼育が開始されました。


効果あり
2008年には大量放出され、4ヶ月後には大量のカイガラムシが定着し、サボテンの枝は落ちて小さいサボテンは枯死しました。放出場所から最大5mまでの拡散が確認されました。2009年には多くのサボテンが枯れ、その地域でカイガラムシがいないサボテンを見つかることは困難となりました。2010年にはカイガラムシは87ヘクタールを拡散しました。小さいサボテンは枯死し、大型のサボテンも枝が枯れ落ちました。現在、除草剤を撒く代わりにカイガラムシの散布が行われることが決定されました。C. fulgida var. fulgidaは完全に制御されていると考えられます。


④Cereus jamacaru
「queen of the night cactus」として知られるCereus jamacaru(ヤマカル柱)は、コナカイガラムシの仲間であるHypogeococcus pungensと、幼虫が茎に穿孔するカミキリムシの仲間であるNealcidion cereicolaを生物学的防除として利用しました。これらは、Harrisia martinii由来ですが、C. jamacaruに直ぐに定着しました。

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Cereus jamacaru
『The Cactaceae II』(1920年)より。


天敵の効果
カミキリムシは少数の場所でしか定着しませんでしたが、個体数が多くなると非常に効果的です。サボテンの構造組織が弱くなり植物全体が倒れたりします。
コナカイガラムシは南アフリカのC. jamacaruの分布域全体に広がり、ほとんどの地域では生物学的防除として効果的です。このコナカイガラムシは植物の異常生長を引き起こし、特に茎の先端が腫れてしまいます。節間が短くなりトゲの間隔が狭くなり、シュートが細くねじれながら増殖します。このコナカイガラムシに寄生された植物は、何れ枯れてしまいます。若い個体は開花するサイズに達する前に枯れますが、高さ数メートルになってからコナカイガラムシに寄生されると、枯れるまで最大4年かかる場合もあります。しかし、コナカイガラムシは蕾に集まるため、果実の生産量は著しく減少します。



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
天敵を利用した生物学的防除は、思いの外効果的なようです。すべての植物には、その植物に特有の害虫がいると言う発想による外来サボテンの防除が目指されています。しかし、Pererkiaのように適切な害虫の選定段階のものもあります。コチニールカイガラムシのように実績のある害虫とは異なり、他の植物に対する悪影響も考慮する必要があります。
また、論文に取り上げられた例では、非常に上手くいっていますが、これからは少し注意が必要な場面も考えられます。これはマダガスカルの例なのですが、ウチワサボテンが蔓延してしまったことから、害虫のカイガラムシを放出しました。ウチワサボテンはほぼ壊滅状態になりましたが、ウチワサボテンが減少したためカイガラムシも減少しいなくなってしまいました。やがて、害虫がいなくなったことでウチワサボテンは再増殖をしてしまったのです。この話の教訓は、害虫を温存しておいて、外来植物が減少してきた時に害虫の再散布による追い打ちをかける必要があると言うことです。また、外来植物の再増殖に備える体制も必要です。常に監視し必要ならば介入すべきです。今後の外来サボテンの同行は注視していきたいですね。


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いよいよ寒くなって来ました。今年は暖冬だったので、ようやく冬らしい寒さです。我が家は風が強く、1月は強風が吹き荒れました。多肉植物置き場のビニールが吹き飛びそうになっていたので処分しました。強風ですっかり傷んでボロボロでしたからね。我が家は一部を除き、冬は室内栽培なのでまあ問題はありませんが困ったことです。本日も少し我が家の多肉植物をご紹介しましょう。

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瑞昌玉
昔からあるタイプの瑞昌玉です。何だか妙に盛り上がった形に育ちました。下の瑞昌玉と並べて育てていますから、原因がよく分かりません。
そう言えば、瑞昌玉や鳳頭は
Gymnocalycium quehlianumとも言われていますね。

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瑞昌玉
ホムセンで購入した瑞昌玉。最近、このようなトゲが張り付かないタイプを良く目にします。こちらは扁平に育っています。


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Euphorbia leistneri
レイストネリが完成に葉を落としました。花キリンのように最初から木質化せず、徐々に木質化していきます。当初はE. monteiroiと混同されていたユーフォルビアです。
レイストネリは非常に
分布が狭いようですが、水力発電のためのダム計画で自生地が消失する可能性があると言われていましたが、現在はどうなっているでしょうか?

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Gasteria pillansii
ピランシイはゆっくり生長中です。そう言えば、牛舌殿なる名前もあるようです。遺伝子解析の結果から、ピランシイは分子系統の根本にあり、原始的なガステリアとも言えるかも知れません。ガステリアはおそらく南アフリカ北西部あるいはアンゴラ南部が起源で、南アフリカ南部で一気に種分化し、現在は南アフリカ東部まで到達しています。

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白磁盃 Aloe pratensis
A. humilisとの交配種の場合もあるみたいです。そこで、A. pratensisの野生個体の画像を探しましたが、野生のA. pratensisはみな大きく育ちきったものばかりで、あまり比較対照としては相応しくないように思われます。とは言え、正直なところ明らかにA. humilisよりの外見に見えるわけで…。まあ、育っていけばやがて違いが見えてくるかも知れませんから、気長に待つことにしましょう。

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帝王錦 Aloe humilis
せっかくなので、比較のためにフミリスにも登場してもらいます。フミリスは大部葉が混んで来ましたね。


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