ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

2023年11月

急激な冷え込みが始まりました。そろそろ、寒さに強い多肉植物も流石に休眠し始める頃合いです。我が家の多肉植物たちは室内にいますから、まだ生長しているものもあります。本日もそんな我が家の多肉植物たちをご紹介します。

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紫翠殿 Haworthiopsis resendeana
九輪塔H. coarctata var. coarctataの結節が白くならないタイプです。実にゆっくりとしたペースで育っています。


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Gasteria glauca
グラウカは特徴的な灰緑色の葉を持つガステリアです。崖の岩の裂け目などに生え、石英質の岩に擬態していると言われます。ホームセンターで痩せていたのですが、ようやく新しい葉が出て来ました。新しい葉は太く良い葉ですね。

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Gymnocalycium ragonesei
塩分の高い草原に埋まるように生えるそうです。まあ、ギムノカリキウムの平たい種類が埋もれるというのはよく聞く話です。しかし、自生地は表土は塩分濃度が高いため、塩分濃度が低い深い場所まで根を張っているというのは本当でしょうか?

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Euphorbia ankarensis
花キリンに花が咲きました。ただ、葉に毛が生えていないのでE. desinianaのような気がします。

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E. cylindrifoliaなどに見られる地味な色の花です。かたまって咲いていますね。

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天馬空 Pachypodium succulentum
天馬空はあまり枝は伸びませんでした。一昨年、塊根が伸び過ぎて鉢を歪ませてしまい、葉がすべて落ちてしまいました。それ以来、どうにも調子がイマイチです。そろそろ立ち直って欲しいところです。
そう言えば、P. succulentumとP. bispinosumは良く似ており、花が咲くまで違いが分かりにくいようです。聞くところによると、P. succulentumのトゲは短く葉の裏には毛は生えていませんが、P. bispinosumのトゲは長く華奢で葉の裏には毛が生えると言うことです。


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Zamia integrifolia
インテグリフォリアはずいぶんと葉が増えました。しかし、シャクトリムシに葉を齧られるという、ソテツにあるまじき失態を犯しました。硬いし毒があるはずなんですけどね。ソテツを専門とするソテツシジミなら分かりますが何とも不思議です。
そう言えば、インテグリフォリアはZamia floridanaの名前で流通しています。インテグリフォリアはCarl von Linneの息子(Linne filius)が記載した種ですが、この時の記述に問題がある可能性があります。Linne filiusはZamia pumilaが複数種に分かれていると考えていたようです。この時に記載されたZ. integrifoliaにはZ. pumilaが含まれてしまっているのでは? という疑惑があるのです。これは、ラテン語の原文をどう解釈するかという話で、意見は対立していましたが、その後にZ. pumilaが除外出来ていることを示す論文も出ており、現在はインテグリフォリアで統一されています。



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多肉植物は葉挿しで増やすことが出来るものが多くあります。葉挿しする時に、エケベリアなどは用土に挿さないでそのまま置いておくだけで発根したりします。この時に、霧吹きで湿らすこともありますが、葉の表面から水分を吸収するのだと言う人もいます。個人的には発根のために空中湿度を高くする意味合いが強いような気もします。しかし、その程度はどうあれ、葉からの水分吸収はありそうなことです。実際にはどうなのでしょうか? 少し調べてみました。見つけたのは、Marc Fradera-Solerらの2023年の論文、『Revisiting an ecophysiological oddity: Hydathode mediated foliar water uptake in Crassula species from southern Africa』です。

FWUとは?
植物の根以外からの大気中の水分の取り込みについては、長年の議論がありました。しかし、現在では様々な植物の葉や茎からの水分吸収が報告されています。葉面からの水分吸収(FWU)は、水ポテンシャル勾配が減少する、一般的に空中湿度が高い場合の現象とされて来ました。しかし、急な水ポテンシャル勾配は、季節的な降雨や定期的に空中湿度が高まる乾燥した塩分の高い地域などで発生する可能性があります。

FWUの可能性
乾燥地に生える多肉植物の自生地の多くは土壌水分は極端に少ないものの、海洋の影響により空中湿度が高くなり霧や露を発生させます。このような環境は、アタカマ砂漠やソノラ砂漠の一部をなすバハ・カリフォルニア、アフリカ南部のKarooなどが知られてします。サボテンはアレオーレを介した水分摂取が疑われており、おそらくトゲや毛が霧を集めることにより促進されます。アフリカ南部ではAnacampseros科やハマミズナ科(ツルナ科、メセン科、マツバギク科)の多肉植物がFWUを疑われており、その表面には特殊な毛状突起や鱗片を持っています。また、特に注目を集めているのは、アフリカ南部のCrassula属で、長年に渡りFWUを疑われてきました。Crassulaはアフリカ南部の様々な環境に適応してきました。

クラッスラ属研究
初期の研究では、Crassulaに特有な葉の表面の毛状突起や非常に豊富な水孔を介してFWUが発生する可能性が推測されています。Tolken(1974年、1977年)は、Crassulaは十分に乾燥し脱水した条件では、葉の表面から水分(色素液)を吸収することを観察しました。Martin & von Willert(2000年)は、Crassulaは葉の表面を湿らせた後の葉の厚みを計測することにより、FWUが可能であることを示しました。しかし、湿潤の直接的な影響と蒸散の減少による間接的な影響を区別していないため、水孔を介したFWUであるかは分かりませんでした。

研究されたクラッスラ
著者らは、CrassulaのFWUの能力は、葉の表面の構造に強く影響されるのではないかと言う仮説を立てました。この研究では南アフリカ原産のCrassula属9種類を使用しました。使用したのは、アフリカ南部の南西および西海岸に沿って分布するコンパクトな6種類のCrassulaであるC. ausensis subsp. titanopsis、C. deceptor、C. fragarioides、C. plegmatoides、C. sericea var. sericea、C. tectaと、冬に降雨量が多いKarooのコンパクトではない3種類のCrassulaであるC. ovata、C. multicava subsp. multicava、C. perforata subsp. perforataです。

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Crassula deceptor
『Mitteilungen der Botanischen Staatssammlung Munchen』(1966-1968年)より、Crassula artaとして記載。「稚児姿」と呼ばれています。


FWUの確認試験
植物を乾燥させた状態で、蛍光色素が葉の水孔から吸収されるか顕微鏡で観察したところ、C. perforata以外の8種類は水孔を介したFWUの可能性が示されました。

FWUの理由
Kalanchoe、Aichryson、Sedumなどのベンケイソウ科植物は、一般に辺縁の毛状突起あるいは単一の毛状突起しか持ちません。しかし、Crassulaは層状の毛状突起を持ち多肉植物である数少ない例となっています。Crassulaの分布するKarooは湿度が高く、夜間と早朝の霧や露に依存している可能性があります。実際にCrassulaは海沿いの斜面に生え、湿度の高い海からの風が遮断されることにより、霧や露が発生します。

FWUしない理由
C. perforataではFWUは確認されませんでしたが、Tolken(1974年、1977年)の報告ではC. rupestrisとC. macowaniana、C. brevifoliaはFWUの兆候を示しませんでした。これらの種には共通点があり、無毛で疎水性のワックス状の葉を持ち、比較的大型となり低木状となります。大型であることから広域な根系を持ちます。

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Crassula ausensis
『Mitteilungen der Botanischen Staatssammlung Munchen』(1966-1968年)より、Crassula littlewoodiiとして記載。

葉の表面構造
葉の表面構造は非常に多様でした。C. ovataとC. multicavaの葉の表面は無毛で、まばらに白色の結晶の堆積が見られました。C. perforataは、無毛ですが葉の縁に沿って円錐形の毛状突起が見られました。C. deceptorとC. fragarioides、C. plegmatoidesは乳頭状の突起を持ち、C. sericeaは長い毛状突起がありました。C. ausensisとC. tectaは、鎖骨毛状突起と大型水孔細胞特異的芽細胞を有していました。また、C. ausensisやC. deceptor、C. tectaは結節(隆起)と窪みが存在しました。C. ausensisとC. tectaは、結節は毛状突起の集合部位と一致しました。

葉の湿潤性
Crassulaには、葉に多様な彫刻が見られます。これらは、過度の日射量を反射し、蒸散による水分損失を低減させます。しかし、これらの構造は露の形成にも関与している可能性があります。ただし、葉の表面は親水性から疎水性まで様々でした。例えば、C. tectaでは粗い親水性の葉の表面で、水分は毛細管現象により急速に広がります。一方、C. ausensisはかなる緩やかで目立ちませんでした。逆に水を弾く「ロータス効果」が見られるC. deceptorとC. plegmatoidesは超疎水性です。

葉の湿潤性とFWU
葉の湿潤性はFWUには、厳密には関係がありません。一般により高い湿潤性を持つ場合はより高いFWUの能力があるとされ、疎水性の葉はFWUの恩恵が少ないとされます。著者らの研究結果からは、一見して疎水性の葉を持っていても、水孔を介したFWUが可能でした。しかし、実験では典型的な雨粒のサイズである直径約2mm程度の水滴により行いましたが、自然条件下で発生する直径0.5mm程度の霧では湿潤性は異なるのかも知れません。いずれにせよ、Crassulaの葉に見られる複雑な表面構造は水孔のFWUへの仲介を促進し、一見して疎水性の種でもFWUが促進される可能性があります。

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Crassula perforata
『Drought resistant plants』(1942年)より。「十字星」、「南十字星」、「早乙女」などと呼ばれているようです。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
Crassulaはすべてではありませんが、葉からの水分吸収が可能であるという結果でした。しかし、まだ問題も残されています。論文にもあったように、疎水性で水を弾く場合、なぜ水を弾いてしまうのに水分吸収が可能であるかが分かりません。著者らの考えである水滴のサイズによるとしたら、葉挿しに霧吹きしてもあまり沢山かけると意味がないということになります。

また、私が一番疑問に思ったのは水分の吸収量です。植物の質量に対してどれほど吸収されるのか、実際に生存するために有用なだけの水分を得ることが出来るのかということです。葉からの水分吸収が可能であるということと、そのことが本当に意義があるのかどうかはまったく別の話でしょう。本当に意味があるのでしょうか? 疎水性の高い場合は、水分吸収が可能であっても極少量で、実際には役に立っていない可能性も否定出来ません。さらなる研究が望まれます。


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もう11月も終わり12月になります。あっという間に時間が過ぎてしまいますね。本日も我が家の多肉植物たちをご紹介します。

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Gymnocalycium friedrichii VoS 01-017/a
フィールドナンバーつきのギムノカリキウム。現在の学名はG. stenopleurumに統一されました。いわゆる牡丹玉ですが、G. friedrichiiは最近はLB 2178ばかりが持て囃されてあまり面白くありません。それはそうと、ちょっと日照が強すぎたみたいで真っ赤になってしまいました。まあ、いいトゲは出ているわけですが、焦がさないように気を付けないといけませんね。


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Euphorbia primurifolia
プリムリフォリアは古い葉か落ちて、隠れていた塊根が露わになりました。何となくイモムシ感があります。まだ、我が家の環境に慣れていないようです。まあ、ゆっくりと慣らしていきます。

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Euphorbia begardii
かつては、E. primurifoliaの変種とされてきましたが、近年独立しました。前々からE. primurifoliaに似ていないなあとは思っていましたが…

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Gasteria nitida
var. armstrongiiではないただのG. nitidaというか、G. nitida var. nitidaですね。var. armstrongiiと比べてあまり見かけません。遺伝子解析結果ではvar. nitidaとvar. armstrongiiは近縁ではありませんでしたが、まだデータベース上では記載に変化はありませんが、理由は分かりません。確証に至る新たな研究が望まれます。


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Aloe thompsoniae
アロエ感が薄い小型アロエです。残念ながらまだ花が咲きません。南アフリカの標高1500mを越える雲霧林に自生します。A. thompsoniaeを命名したGroenewaldは、このアロエを採取したThompson夫人に因んで1936年に名前をつけました。タイプ標本は1930年にThompson夫人により採取されたもののようです。

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Haworthia arachnoidea
軟葉系はあまり育てていませんが、禾が目立つタイプは気になっています。我が家のアラクノイデアは禾があまり目立たないノーマルなタイプです。現在、直径10cmになりますが、ロゼットは最大18cmになるといいます。そこまで育てたら、さぞ貫禄が出るでしょうね。


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多肉植物を育てていると、その不思議な形からどのような生態なのだろうかと思うことがあります。論文などを読んでいると、多肉植物に限らず植物の生態はあまりに多様で謎に満ち溢れています。教科書的な本も多少は読みましたが例外も多く、本を読む度に知らないことなどいくらでもあることに気付かされます。本日はそんな気付きを与えてくれる1冊をご紹介します。それは、1996年に刊行された『植物の生き残り作戦』(平凡社自然叢書)です。23人の研究者が自身が専門とする植物の生態について短くまとめたアンソロジー的なものです。1つ1つは短いですが、各々の研究者が様々な視点から植物を捉えているのが特徴です。

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さて、肝心な内容についてです。浅慮なことに私もそれなりに植物に詳しいつもりではいましたが、恥ずかしながら知らないことばかりでした。読んでいて色々と考えさせる事が多く、読むのに時間がかかってしまいました。1つだけ例を挙げてみます。

遷移が進んだ森林を極相林と言い、日本の平野部だと基本的には陰樹からなります。最近では森林は一様ではなく、また必ずしも安定はせず変化しうるものであるという考えから、極相林は存在しないという考え方もあるようです。しかし、極相林は基本的には安定しており、何かが起こっても最終的には極相に収束するのですから、個人的には未だ意味がある概念だと私は捉えています。そんな中、本書ではジャックパインという北米の亜寒帯のタイガに生える松が極相林を作るという話は非常に示唆的でした。そもそも、寒冷地では寒さに適応しなければならないため、樹種が少なく純林となることは珍しくはないと私は思っていました。しかし、必ずしもそうではなく、ジャックパインは他の樹木と競争があるというのです。何とジャックパインは陽樹であり、明るい場所に生える先駆植物だと言うのです。先駆植物は遷移を経て、やがて入れ替わるものです。しかし、ジャックパインが生える森林では高い頻度で山火事が発生し、すべてを焼き払ってしまいます。ジャックパインの松ぼっくりは火事で焼かれることで、開いて種子が出て来ます。しかも、ジャックパインの種子は25年に渡り発芽能力を維持しますから、ジャックパイン林にはおびただしい数の種子が眠っていることになります。ですから、競争相手である他の樹木が消え去った場所に、素早くジャックパイン林を形成することが可能なのです。遷移や陰樹の極相を許さず、陽樹であり先駆植物である特徴を生かしてジャックパインの極相林を維持しているという驚くべき話でした。

以上のように考えさせる内容が満載です。扱われるのは雑草から野菜まで様々で、生態や受粉、種子散布、環境保全など、目下私の興味の中心をなす事柄が多くあり大変勉強になりました。やや古い本ですから分類学はあくまで数世代前のものでもはや古色蒼然とした感がありますが、観察された事象は事実であり今も変わらないでしょう。大変勉強になる非常に良い本でした。


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多肉植物は基本的に室内に取り込みましたが、植物用ライトの当たり具合で適不適が生じているようです。ですから、その都度動かしたりして調整したりしています。環境が変わって多肉植物たちも何かと不満がありそうですが、来年の春まで我慢してもらうしかありません。

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青々錦 Aloiampelos tenuior
旧アロエ属が気になっています。しかし、植物用ライトにガンガン当てていたら、真っ赤になってしまいました。ちょっと刺激が強すぎたみたいです。アロエというには物足りない、薄っぺらい葉を持ちます。

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Gymnocalycium bayrianum 
快天丸とか言う馴染みがない名前もあるようです。寒くて赤くなったのではなく、入手した時からこんな感じです。あんまり育っている感じはしません。

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天平丸 Gymnocalycium spegazzinii
トゲに袖を引っ掛けて、2回ほどひっくり返してしまいましたが割と元気です。申し訳ない。

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Gymnocalycium berchtii TOM 6/481
フィールドナンバーつきのベルクティイです。まだ小さい苗ですが、地面に潜りがちです。ギムノカリキウムはそれほど強い日照を必要としていませんが、やや強めに日を当てているからかも知れません。

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蒼蛮閣 Euphorbia ×curvirama
学名に「×」が入っていますが、これは自然交雑種であることを示しています。人工的な交配ではなく、自然に生じたというところが面白いところです。交雑親はE. caerulescens × E. triangularisと推定されているみたいです。去年はなぜか酷く焦げましたが、今年は平気でした。


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Euphorbia longetuberculosa
アフリカの角とアラビア半島南部原産ですが、イマイチ育て方が分かりません。最初、焦がしましたが、慌ててかなり遮光下に置きました。新しい節が出てきましたが、これが正解なのかは不明です。


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小松緑 Trichodiadema bulbosum
去年は乾かし過ぎて、葉が枯れて貧相になってしまいました。今年は強遮光して水やりを頻度にしましたが、少し間延びしているような気もします。正直、よく分かりませんな。

本日はこんなところです。せっかく室内に多肉植物があるので、今年の冬は我が家の多肉植物たちを、沢山ご紹介するつもりです。


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最近は妙に忙しかったりして、ブログの更新がきつくなっています。多肉植物の論文はまだ沢山あるのですが、探す時間もありますがとにかく書く時間が足りていません。年末年始以外は記事をアップしてきましたが、そろそろ限界かも知れません。まあ、別に強制されているわけでありませんから、個人的なこだわりの問題です。論文の頻度は落ちるでしょうから、ご容赦下さい。
さて、多肉植物はあらかた室内に取り込みましたが、いつの間にやらアロエの花が咲いていました。最近はあまりじっくり多肉植物を見られていませんから、今日はただただ多肉植物を見てみましょう。

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Aloe albifloraが開花しました。
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アロエは赤・橙色系が多いため、白い花は珍しいほうです。明らかな虫媒花。花の寿命は短く直ぐにしぼんでしまいます。

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紅彩ロリカ
紅彩閣と炉裡火の交配種。蕾が出て来ました。奇妙な姿の交配種ですが、花も飛び出して咲きますから、やはり奇妙な感じがします。

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紅彩閣 Euphorbia heptagona
紅彩ロリカの交配親である紅彩閣にも蕾が出て来ました。E. heptagonaは紅偏閣あるいは彩閣とも呼ばれており、まるで紅彩閣とは別種のように扱われていますが同種です。紅彩閣は大抵はE. enoplaとされていますが、これはE. heptagonaの異名です。


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Euphorbia infausta
インファウスタは周年開花します。おそらくE. meloformisの異なるタイプです。稜が多く花茎が弱く残りにくいようです。ただ、Euphorbia infaustaと言う名前はN.E.Brownにより1915年に命名されたわけですが、同じN.E.Brownにより1912年にE. polyacanthaに対しても命名されています。いずれにせよ異名ですが、すでに命名済みの名前ですから、E. meloformisの方のE. infaustaはより瑕疵がある名前です。と言うより、N.E.Brownがなぜ同じ名前を使用したのか、その経緯が気になります。


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昭和キリン Euphorbia bubalina
開花してから2週間以上経ちましたが、まだ咲き続けています。多肉ユーフォルビアではここまで長く咲く花は初めてです。野生環境下ではどのような意味があるのでしょうか?


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Gasteria glomerata
小型のガステリア。初めて記載された野生のグロメラタと同じタイプです。


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こちらは、白雪姫の名前で入手したG. glomerata。葉が太く短く、全体的に丸っこい感じです。ガステリアは同種でも葉の長さや太さが異なり、一見して同種に見えないものがあります。


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基本的に植物は受粉のために花粉媒介者を必要とします。しかし、共通する花粉媒介者に頼った場合、花粉媒介者が競合してしまう可能性があります。しかし、ある論文では3種類の開花期の異なるサボテンが、上手く花粉媒介者の競合を避け、花粉媒介者に1年中資源を提供し支えていることが示されています。その論文の解説は以下の記事をご参照下さい。

さて、本日はギムノカリキウムの開花期について詳しく調べた研究をご紹介します。それは、Melisa A. Giorgisらの2015年の論文、『Flowering phenology, fruit set and seed mass and number of five coexising Gymnocalycium (Cactaceae) species from Cordoba mountain, Argentina』です。

この研究はアルゼンチンのCordoba州、Sierras Chicas山脈の標高1200メートルの東斜面で実施されました。Cordoba州の山々には約17種類のギムノカリキウムが生息しそのほとんどが固有種です。山脈には5種類のギムノカリキウムが局所的には共存しています。

Gymnocalycium亜属
①G. bruchii
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『Latest news from cactus land』(1953年)より。
Johnson Cactus Gardenのカタログ。


②G. capillense

Trichomosemineum亜属
③G. quehlianum
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『Succulent news』(1956年)より。
Johnson Cactus Gardenのカタログ。


Scabrosemineum亜属
④G. monvillei
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『The Cactaceae』(1922年)より。

⑤G. mostii

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『The Cactaceae』(1922年)より。

以上のギムノカリキウムは自家不和合性で自家受粉しません。主な花粉媒介者はミツバチです。花の寿命は2〜3日です。種子は約5週間で成熟し、Elaiosomeにより蟻に運ばれます。
開花が最も早いのはG. bruchiiでした。G. bruchiiの開花が減り始める頃に、入れ替わるようにG. quehlianumが開花のピークを迎えました。G. quehlianumの開花期は長く、他のギムノカリキウムの開花期の最後まで緩やかに減少しながら開花し続けました。G. quehlianumの次は、G. monvilleiとG. mostiiの開花のピークを迎えます。G. monvilleiは急激なピークを迎え、短期間で開花を終えました。対するG. mostiiは、ピークはG. monvilleiと同時期でしたが、一度下がってからやや盛り返し、最後まで咲き続けました。最後にG. capillenseが咲きましたが、開花数は少ないものでした。G. capillaenseの開花のピークは、G. monvilleiの花が急激に減少している頃で、G. mostiiの開花の谷間にあたります。G. capillenseの開花期は短く、花が減少し始めるとG. mostiiの開花が盛り返し、G. quehlianumの開花も少ないものの続きます。

種子の成熟期間を考慮すると、開花が早い種類は種子が大きく、開花が遅い種類は種子が小さいと考えられます。しかし、実際には開花が最も早いG. bruchiiと開花が最も遅いG. capillenseの種子が大型でした。
しかし、開花が遅いG. capillenseは結実率が低く、時期的に生育期の終わりであることから、気温の低下により成熟期間が短かすぎる可能性があります。また、生育期の始まりと終わりの時期は、気候条件により花粉媒介者の活動が低下していることも考慮する必要があります。
また、開花期が2番目に早く長い期間開花するG. quehlianumは、開花数が最も多く結実数も非常に多いものでした。しかし、G. quehlianumは出来る種子の数に比べ、個体数は他のギムノカリキウムよりも少ないものでした。これは、実生の生存率などによるものかも知れません。

以上が論文の簡単な要約です。
5種類のギムノカリキウムは、開花時期は多少重なるものの、そのピークは基本的には遷り変わるものでした。ある程度、花粉媒介者の競合を避けるメカニズムがあるようです。しかし、G. monvilleiとG. mostiiの開花期のピークはほぼ重なりますが、G. monvilleiは短い時期に大量開花することにより、花粉媒介者を独占的に引き寄せているのかも知れません。対するG. mostiiは開花期間が長く、他のギムノカリキウムと競合しながらも、トータルでは必要な結実数を確保しているのかも知れません。
開花時期が早いG. bruchiiや開花時期が遅いG. capillenseは、競合を避ける戦略ですが、花粉媒介者が少ないというリスクを背負うことになります。生態系は基本的に全部取りは出来ず、常にtrade-offの関係にあります。あれもこれもは難しいのです。


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昨日の記事で、Ceraria属がPoutulacaria属に吸収されて消滅したという論文をご紹介しました。Poutulacariaは2種に旧Ceraria5種が加わり、合計7種となりました。その見分けが論文にまとめられていたのでご紹介します。昨日に引き続き2014年の論文、『Phylogenetic relationships in the Didiereaceae with special reference to subfamily Portulacarioideae』からの引用です。


・高さ30cmまでの矮性亜低木。
 枝は広がり枝垂れる。
 →P. pygmaea
・高さ0.3〜5mまでの低木から小高木。
 生長すると枝は直立する傾向がある。
 →②


・葉は平らで、円形から倒卵形。
 →③
・葉は円筒形や円柱状。落葉樹。
 →⑥


・葉は30〜70mm × 30〜40mm。
 花序は高さ1〜5m。
 →P. armiana
・葉は4〜25(56)mm × 4〜25(68)mm。
 花序は枝や短枝から10cm。
 →④


・密に枝分かれし葉が茂る。
 高さ1〜4m。常緑で明るい緑色。
 →P. afra
・まばらに枝分かれし葉は少ない。
 高さ0.3〜3m。落葉し灰緑色。
 →⑤


・葉は4〜8mm × 3〜8mm。
 葉は幅よりやや長いことが多い。
 花序は花柄がない。
 →P. fruticulosa
・葉は10〜35(56)mm × 10〜30(68)mm。
 葉の幅と長さが同じくらい。
 花には花柄がある。
 →P. carrissoana


・枝は太く二股に分かれる。
 先端の枝では太さ3〜5mm。
 葉の長さは3〜5mm。
 花序は1〜15mm。
 →P. namaquensis
・枝は細い不規則に分岐。
 先端の枝では太さ2〜3mm。
 葉は長さ6〜15mm。
 花序は10〜40mm。
 →P. longipedunculata

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Poutulacaria namaquensis
=Ceraria namaquensis


さて、Ceraria属がPoutulacaria属に吸収されてしまったわけですが、Poutulacaria属は現在7種類が記載されています。せっかくですから、新しい学名と異名と記載年の一覧を示しましょう。
※PoutulacariaとCeraria以外の異名は省きました。

1, Poutulacaria afra, 1787
 異名:
    Poutulacaria portulacaria, 1915
2, Poutulacaria namaquensis, 1862
 異名:
    Ceraria namaquensis, 1912
    Ceraria gariepina, 1912
3, Poutulacaria fruticulosa, 2014
    異名:
    Ceraria fruticulosa, 1912
    Ceraria schaeferi, 1915
4, Poutulacaria pygmaea, 1928
 異名:
    Ceraria pygmaea, 1996
5, Poutulacaria carrissoana, 2014
 異名:
    Ceraria carrissoana, 1939
    Ceraria kuneneana, 2008
6, Poutulacaria longipedunculata, 2014
 異名:
    Ceraria longipedunculata, 1961
    Ceraria kaokoensis, 2007
7, Poutulacaria armiana, 1984


先のビッグバザールでP. namaquensisを入手したわけですが、調べてある程度詳しくなるとついつい欲しくなってしまうのは困ったことです。Poutulacariaはディディエレア科に含まれますから、Alluaudiaも近縁です。今回のビッグバザールではAlluaudiaも複数種見かけました。しかし、この仲間を集め始めると大変というか、手を広げ過ぎるためしばらくは自重します。


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近年、小型のコーデックスであるCeraria pygmaeaが結構人気があるようです。見た感じからして、いかにもスベリヒユ科ですが、その後整理されディディエレア科ポルツラカリア亜科とされています。これは、Alluaudia、Didierea、Poutulacaria、Ceraria、Decaryaなどが非常に近縁であるということを受けてのことです。その根拠となったのは、Peter V. Bruynsらの2014年の論文、『Phylogenetic relationships in the Didiereaceae with special reference to subfamily Portulacarioideae』です。遺伝子解析の結果を見てみましょう。私が少し解説を加えます。ちなみに、ディディエレア科はサボテン科に近縁で、3つの亜科に分けられます。

          ┏━━ディディエレア亜科
      ┏┫
      ┃┗━━カリプトロテカ亜科
  ┏┫      
  ┃┗━━━ポルツラカリア亜科
  ┫
  ┗━━━━サボテン科


ディディエレア亜科
カリプトテカ亜科

ディディエレア亜科は、Alluaudia属、Didierea属、Decarya属、Alluaudiopsis属からなります。それぞれ単系統で綺麗に分かれていますが、Decarya属だけはDidierea属に組みこまれています。DidiereaとDecaryaが非常に近縁であることは意外でした。Alluaudia属は、A. comosa(Didierea comosa)、A. dumosa(Didierea dumosa)、A. ascdndens(Didierea ascendens)、A. humberii(Alluaudia decaryi)、A. procera(Didierea procera)、A. montagmaciiからなります。Didierea属は2種類あり、D. madagascariensis(D. mirabilis)とD. trolliiからなります。Decarya属はD.madagarcariensis(Alluaudia geayi)のみの単型属です。Alluaudiopsis属は、A. marnierianaとA. fiherenensisからなります。
また、カリプトテカ亜科のCalyptrotheca属もここに示しました。Calyptrotheca属は2種類あり、C. somalensisとC. taitensis(C. stuhlmannii)からなります。


                     Alluaudia
                        ┏A. comosa 
                          ┏┫ 
                          ┃┗A. dumosa 
                      ┏┫  
                      ┃┗━A. ascendens
                  ┏┫ 
                  ┃┗━━A. humbertii
                  ┃
              ┏┫┏━━A. procera
              ┃┗┫
              ┃    ┗━━A. montagnacii
              ┃    Didierea
              ┃    ┏━━D. madagasacriensis
          ┏┫┏┫
          ┃┃┃┗━━D. trollii
          ┃┗┫   Decarya
          ┃    ┗━━━D. madagascariensis
          ┃     Alluaudiopsis
      ┏┫┏━━━━A. marnieriana
      ┃┗┫
      ┃    ┗━━━━A. fiherenensis
  ┏┫    カリプトテカ亜科
  ┃┗━━━━━━C. somalensis
  ┫
  ┗━━━ポルツラカリア亜科

231120005023100
Alluaudiaの葉の比較
『Adansonia』(1961年)より。
上段がA. procera、中段かA. ascendens、下段がA. motagnacii。


231120004853621~2
Alluaudia ascdendens
231120004836459~2
Alluaudia humbertii
231120004911588~2
Alluaudia procera
『Flora de Madagascar et des Comores』(1963年)より。


231120004934450~2
Calyptrotheca(右)
『Die Vegetation de Erde』(1915年)より。
右上はC. somalensis、右下はC. stuhlmannii(C. taitensisの異名)。


231120004955458~2
Didierea trollii
『Adansonia』(1961年)より。


ポルツラカリア亜科
ポルツラカリア亜属はPortulacaria属とCeraria属からなります。以下に見るように、Portulacaria属とCeraria属が分離出来ません。実はCeraria pygmaeaはもともとはPortulacaria pygmaeaとして記載され、その後に殊更の根拠もなくCeraria属に移された経緯があります。分離の基準はそれほどはっきりしていなかったのかも知れません。ちなみに、C. namaquensisも初めはPortulacariaとして記載されています。

                  ┏━P. armiana
              ┏┫
              ┃┗━C. namaquensis
          ┏┫
          ┃┗━━C. longipedunculata
          ┃
      ┏┫┏━━C. fruticulosa      
      ┃┗┫
      ┃    ┗━━C. pygmaea
  ┏┫
  ┃┗━━━━C. carrissoana 
  ┫
  ┗━━━━━P. afra

231120005112793~2
Portulacaria afra(上)
『The flora of South Africa with synoptical tables of the genera of the higher plants』(1913年)より。


231120004950662~2
Portulacaria namaquensis
=Ceraria namaquensis
『Annals of botany』(1912年)より。
Ceraria gariepinaとして記載。


Portulacaria属とCeraria属を分離出することが出来なず、明らかに1つのまとまりのあるグループとなっています。つまり、Portulacaria、あるいはCerariaに統一する必要があるのです。学名は先に命名された方が優先されるという「先取権の原理」に従います。この場合は、1912年に命名されたCeraria H.Pearson & Stephansより、1787年に命名されたPortulacaria Jack.が優先されるのです。つまり、今までCeraria属とされてきた5種類はPoutulacaria属となります。キュー王立植物園のデータベースでも、すでにCeraria属はPortulacaria属の異名とされています。Ceraria属は消滅してしまいました。Ceraria pygmaeaもPortulacaria pygmaeaに変更されています。
ちなみに、ポルツラカリア亜科はアンゴラから南アフリカに分布していますが、カリプトテカ亜科は東アフリカ原産、ディディエレア亜科はマダガスカル原産です。系統樹の分岐を見ると、アフリカ南西部からアフリカ東部、そしてマダガスカルに到達したように見えます。サボテン科との近縁性からは、アフリカ大陸と南アメリカがかつて1つだったころまで、共通祖先は遡るのかも知れませんね。
さて、このような属レベルの変更は、遺伝子解析が発展したため、これからも続くのでしょう。今後も出来る限りこのような変更について、ご紹介出来ればと考えております。


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土曜日は鶴仙園のハオルチア・オンリーのイベントに行ってきました。日曜日に11月のサボテン・多肉植物のビッグバザールがありましたが、中々忙しくちょっといけないかなぁと思っていました。しかし、意外にもゴタゴタが早く片付いたので、行けることになりました。とは言え、少々お疲れ気味でしたから悩みましたが、ビッグバザールはここ10回ほど連続で参加していましたから、まあ見るだけでもということになりました。
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TOCビルもクリスマス仕様。

最近は開場前に並んでいましたが、今日はゆっくりと11時くらいに行きました。内容的には多少スカスカになりますが、まあ良いでしょう。今日は非常にブースが多く、通路が狭く渋滞がおきるくらいでした。人出も多く会場は真夏のような暑さでした。思ったより疲れていたようで、少しボンヤリしてしまったので早目に引き上げました。
さて、多肉植物のラインナップとしては、やはり冬型多肉が非常に多くありました。ケープバルブもあちこちにありました。あと、流行りモノのアガベと、ハウォルチアも豊富でした。ただ、今回は全体的に高額で驚きました。いつもは小さな実生苗を買いますが、基本的に2000〜3000円を目安にしています。今回は店によりますが、小さな実生苗や挿し木苗でも5000円からといった感じでした。このような高値が続くようなら、ちょっと参加は見合わせたい感じですね。
それはそうと、今回は久しぶりにラフレシアリサーチさんがソテツ苗を持ってきていたので購入しました。しかし、ソテツはイマイチ流行りませんね。あと、ちょうどCerariaを調べていたので、たまたま目についたCeraria namaquensisをうっかり購入。どこの店で購入したかは忘れましたが。また、アロエは割と豊富でしたが、最近はアロエばかり買っているので、今回は止めておきました。


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Cycas sp. Thai Silver
いわゆる「タイ・シルバー」というやつで、個体によりますが育つと葉が白く育ちます。店主が原産地で採取した種子が由来とのことですから、親株は良い個体なのでしょう。しかし、他家受粉ですから実生は当たり外れはあると思います。今回は3個体のみの限定販売でしたが、残り2個体から調子が良さそうな方をチョイス。割と安価。


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ケラリア・ナマクアエンシス
Ceraria namaquaensisです。「自根」と書いてあり一体何のことかと思いましたが、要するに接ぎ木ではないというだけの話のようです。ケラリア属は人気のCeraria pygmaeaを含め、現在はPoutulacaria属に吸収されてしまいました。ですから、現在はPoutulacaria namaquaensisとされています。その根拠となった論文は明日記事にします。割と高価。


さて、というわけで11月のサボテン・多肉植物のビッグバザールでした。高い値札と疲労により、目がチカチカしてしまいました。さらに、山手線の内回りが一部工事で止まっていました。そのため、行きも帰りも外回りでしたから、ちょうど山手線を一周したことになりますね。まあ、何と言うか疲れました。


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去年の今頃に鶴仙園で、ハウォルチアのオンリー・イベントが開催されました。山口県のPlant's Workさんとのコラボイベントです。私はフィールドナンバーつきのH. woolleyiを入手して大満足だったわけですが、何と今年も開催するということです。最近は妙に忙しく土日もバタバタしていて、正直出かけるどころではないのですが、今日は無理をして行きました。朝一で行って昼前に家につく弾丸ツアー状態です。

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今日は朝からよく晴れて午前中は少し暑いくらいでした。店内はハウォルチア・ファンが沢山来ていました。きらびやかな宝石のような交配種がところ狭しと並んでおり、何とも非日常感がありました。さて、そんな中で私は相変わらず地味な硬葉系ハウォルチアを探しましたが、様々なタイプのH. nigraやフィールドナンバーつきのH. tessellata系、H. sordidaなどがありました。今回は珍しいことにAstrolobaがあったので購入しました。

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H. jonesiae
見た瞬間、H. glauca var. herreiとわかるわけですが、H. jonesiaeとして流通しているタイプなのでしょう。H. glauca var. herreiは産地により相当葉の形やサイズが異なりますね。すでに、葉の丸いタイプと非常に長いタイプは入手していますが、このように葉が短く尖り結節がほとんどないタイプは初めてです。小型で華奢な感じがします。葉が青い美しい硬葉系ハウォルチア。


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Astroloba spiralis
A. spiralisは説明が面倒臭いアストロロバです。A. spirellaとも言われますが、これは学術名ではありません。19世紀初頭にHaworthia spirellaとかAloe spirellaと呼ばれたことはありますが、Astrolobaとされずに消えた名前です。他にもA. pentagonaもA. spiralisの異名とされますが大型です。おそらく、A. halliiと呼ばれているものは、このA. pentagona系なのでしょう。ちなみに、A. halliiは裸名で学術名ではありません。A. hallii名義のアストロロバは育成中です。


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Astroloba aspera
これは説明に困るアストロロバです。Haworthが1804年にAloe asperaと命名し、Astroloba属を創設したUitewaalが1947年にAstrolobaに移動させました。ただ、もとになったAloe asperaが何だったか実はよくわからないらしく、学名自体が無効となっています。ただ、流通しているA. asperaはA. corrugataの異名とされることが多いようです。とは言え、Haworthが記載したAloe asperaと同じものを指しているかは分かりませんけどね。

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拡大画像です。非常に美しいですね。

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H. rynveldii
こちらはイベント品ではなく、鶴仙園さんのハウォルチアです。あまり見ないタイプで、気になってつい購入してしまいました。H. rynveldiiはH. nigra v. nigraの異名とされていますが、ニグラの大型タイプや葉が尖るタイプとも異なり、かなり個性的です。
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拡大画像です。ニグラ系は表面に凹凸がありますが、このように結節がはっきりしているタイプは初めて見ました。特異的な美しさがあります。

これだけ大量のハウォルチアを見ることもそうそうありませんから、興奮してうっかり沢山買ってしまいました。しかし、良いイベントです。毎年の恒例行事なって欲しいものです。イベントは本日も開催されています。場所は西武池袋の屋上の方ですから、お間違いなきようお気を付け下さい。


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多肉植物の受粉に関する研究を度々ご紹介してきました。その中で気になったのはタイヨウチョウの存在です。タイヨウチョウはアフリカに分布する花蜜専門の鳥です。しかし、過去にご紹介した論文では、タイヨウチョウが花に訪れても受粉に寄与せず、ただの蜜泥棒になっているというのです。それらの論文は主に巨大アロエの受粉についてでした。では、タイヨウチョウにより受粉する植物とは何でしょうか? 気になって調べたところ、タイヨウチョウが受粉に寄与するかを調査した論文を見つけました。それは、A. L. Hargreavesらの2019年の論文、『Narrow entrance of short-tubed Aloe flowers facilitates pollen transfer on long sunbird bills』です。

植物が複数の生態に特化することはほとんどないため、trade-offは生態学的特化の進化における主要要因と考えられています。つまり、特定の花粉媒介者に最適化して受粉効率を高めると、他の花粉媒介者に対する効率は低下します。それは、花粉媒介者により大きさや行動が異なるためです。しかし、2つの花粉媒介者に対する効果的な形態の中間をとる二峰性受粉システムも報告されています。

ミツバチに最適化した花は短い花冠と少量の濃縮された蜜持ち、タイヨウチョウのような蜜食性の鳥に最適化した花は細長い花冠と豊富で希薄な蜜を持ちます。一般的に赤い花の大型アロエは鳥媒花でありミツバチは蜜泥棒となります。白色や薄ピンクの花を持つ小型アロエの花はミツバチの受粉に特化しています。黄色の花を持つ中型のアロエはタイヨウチョウとミツバチにより受粉する可能性があります。

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Aloe kraussii
『Natal plants』(1902年)より。


著者らはAloe kraussiiを研究しました。これまでのフィールドワークでは、A. kraussiiにはマラカイトタイヨウチョウ(Nectarinia famosa)やアメジストタイヨウチョウ(Chalomitra amethystina)と、複数種のミツバチが定期的に訪問していることが確認されています。これらのタイヨウチョウは2.5cmのクチバシを持ち、さらに1cmの舌を伸ばすことが出来ます。
さて、タイヨウチョウが花にアクセス出来ないようにアロエの花をケージで囲むと、ミツバチが盛んに採蜜し効果的に受粉することが確認されています。しかし、ミツバチを排除してタイヨウチョウだけの効果を確認出来ないため、A. kraussiiに対するタイヨウチョウの受粉は不明です。タイヨウチョウの長いクチバシに対してA. kraussiiの花は短く、タイヨウチョウの顔に花粉はつかないことが想定されます。マラカイトタイヨウチョウのクチバシは30〜40mm、アメジストタイヨウチョウのクチバシは25〜35mm、A. kraussiiの花冠の深さは10.7mmですから、タイヨウチョウのクチバシは花の2倍以上の長さがあります。


著者らはマラカイトタイヨウチョウを捕獲し、鳥小屋に入れてA. kraussiiの花を置き採蜜させました。タイヨウチョウが採蜜した後に、花粉を除去したA. kraussiiの花を採蜜させ、柱頭に花粉がついたかを確認しました。すると、柱頭には大量の花粉が付着しており、タイヨウチョウがA. kraussiiの受粉に寄与していることが分かりました。また、A. kraussiiの花は先端がすぼまる形をしていますが、人為的にすぼまる花を開いてから同様の試験を行うと、柱頭への花粉の付着は減少しました。採蜜後のタイヨウチョウから花粉を回収すると、タイヨウチョウのクチバシから207
粒の花粉が付着していました。人為的に開いた花を採蜜したタイヨウチョウからは、85粒の花粉が回収されました。
一般的に鳥の花粉媒介は頭に付着した花粉を研究対象としています。滑らかで硬いクチバシは花粉が付着しにくいと考えられるからです。しかし、A. kraussiiではクチバシによる花粉媒介が出来るようです。A. kraussiiは花の短さによりミツバチによる受粉を可能とし、花の先端がすぼまることによりタイヨウチョウより短い花でも受粉が可能となっているようです。以上のことにより、A. kraussiiはミツバチとタイヨウチョウの二峰性受粉システムであることが確認されました。しかし、ミツバチとタイヨウチョウの受粉への寄与の具合は、この試験では分かりません。

以上が論文の簡単な要約です。
花に様々な動物が訪れても大抵は盗蜜か花粉を食べに来たりしていて、有効な花粉媒介者以外はほとんど受粉には寄与しないことが多いように思われます。それは、花の大きさや色、形、開花時間などにより規定されます。例えば、夜間に咲くカップ状の柱サボテンの白く大きい花はコウモリ媒、筒状で赤いサボテンの花はハチドリ媒という風に、花と花粉媒介者には一定の組み合わせがあります。しかし、論文のような二峰性受粉システムは、本来は異なる受粉システムを両取りしている上手い方法です。花粉媒介者が常に安定とは限りませんから、どちらかが減少しても受粉数の減少を最低限に留めることが可能になるのかも知れませんね。



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多肉植物が好きでボチボチ育てておりますが、基本的には植物そのものに興味があります。植物の分類や進化、生態に関する本が出たらなるべく読むようにしています。裳華房から「生命の神秘と不思議」という新しいシリーズが始まり、何冊か読んでいるのですが、いつの間にやら「植物メタボロミクス」に関する著作が出版されていました。近所の書店では取り扱いが、ないため気が付きませんでした。早速取り寄せて読んでみましたから、軽いブックレビューをしてみます。ご紹介するのは、2019年に刊行された斉藤和季 / 著、『植物メタボロミクス -ゲノムから解読する植物化学成分-』(裳華房)です。

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そもそも、植物メタボロミクスとは何ぞやという話ですが、メタボロミクスとはどうやら代謝産物の探索を指すようです。植物は様々な化学物質を合成していますが、それらを単離することは容易なことではありませんでした。しかし、遺伝子工学の発展により、遺伝子配列から植物が合成する物質を推測することが可能となりました。しかし、実際に物質を分析することはかなり難しく、複数種の機器を駆使して様々な方法で行われます。植物の代謝産物は非常に種類が多く、次々と新たな成分が特定されており、活発な分野であることが分かります。植物の代謝産物は生理活性があるものも多く、薬や漢方の主成分も含まれます。
本の前半は、植物のメタボロミクスについて、一般的な傾向や分類、特徴がやさしく解説されています。後半は実際に著者が成分の特定に関わった話が中心となります。後半はやや専門的な話があるため、少々難解に感じるかも知れません。

意外と面白いと思ったのは、遺伝子組み換えの話です。それほど詳しくは解説されませんが、中々興味深い指摘がありました。現在、新しい品種を作る方法は大まかに3種類あります。1つは昔ながらの交配と選抜によるもので、2つめは遺伝子組み換えによるものです。遺伝子組み換えは導入する遺伝子がどこに入るのか分からず、思わぬ突然変異がおこる可能性があるものでした。しかし、近年になり3つめのゲノム編集が加わりました。ゲノム編集はピンポイントに場所を指定して遺伝子導入が可能なため、非常に安全性が高い方法です。著者は昔ながらの交配は思わぬ突然変異が起きる可能性があることから、1箇所しか変わらないゲノム編集の方が安全なのではないかと述べています。まあ、それはあくまで理屈の上の話ですから、安全性は徹底的に検査する必要はあるでしょう。しかし、気になったのは、交配による突然変異の可能性です。言われなければ思いもしない意外な話でした。
少し考えたのですが、交配により新しい品種を作る場合、外見や味を基準に選抜されます。しかし、外見や味以外の、表に出てこない変異もあるはずです。例えば、毒性の高い成分が新品種では増えているかも知れません。そんなバカなと思われたかも知れませんが、食用作物でも人体には無害なレベルの有害物質は産生されています。特に害虫にかじられたりすると、植物は害虫に害のある物質を大量に産生します。ですから、無農薬野菜は良いような気もしますが、あまり害虫にやられていると有害物質が蓄積してしまいます。もし、交配によりそのような遺伝子に変異が入り、有害物質を大量に産生してしまっているかも知れません。問題は、それを見抜くことが出来ないことで、一々新品種が出来た時に安全性の確認などは行われていないのです。とは言え、だから新品種は危ないのではなく、我々はそれぐらいは平気であるということなのかも知れませんね。


植物は約39万種が知られておりますが、そのほとんどの種は代謝産物が特定されておりません。それどころか、遺伝子解析されている植物など、研究用植物や稲など極一部の有用植物だけです。当然ながら、代謝産物が研究されたのは、すでに効果が知られている薬用植物程度となっています。植物は種により異なる代謝産物を複数持っているかもしれず、未だ未知の成分が数え切れないぐらい存在することは自明でしょう。このような植物の代謝産物の解明が進めば、様々な分野に応用可能な成分も沢山あるはずです。実際、2015年には、クソニンジンから抽出された抗マラリア薬アルテミシニンの発見により、ノーベル賞が与えられています。これからも新たな発見が続くかも知れません。非常に今後が楽しみな分野ですね。


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今年は秋に入っても暖かく中々気温は下がりませんでしたが、今週から急激に冷え込んで来ました。土日に急いで室内に多肉植物を取り込みましたから、ギリギリセーフです。まあ、ほとんどの多肉植物は氷点下にでもならない限りは平気かも知れませんが、選別の手間と時間が惜しいため、考えなしのピストン輸送で入るだけ入れてしまいました。のんびり構えていると、あっという間に12月になってしまいそうです。室内に入れるのは面倒ですが、じっくり見られるところは利点です。というわけで、室内栽培に切り替えたばかりの11月の多肉植物をご紹介します。

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Gymnocalycium ferocior
去年の10月に鶴仙園で購入しました。良い棘が出ています。購入時は下の写真でしたから、結構いい感じです。

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Haworthia venosa ssp. wooleyi GM 79
去年、鶴仙園で山口県のPlant's Workさんとコラボしたハウォルチアのオンリー・イベントが開催されました。その時の購入品です。ちなみに、現在はHaworthiopsis woolleyiが正式な学名ですが、フィールドナンバーがついている場合は、フィールドナンバーがつけられた時の名前で呼ぶ習わしですから、名札はHaworthia venosa ssp. wooleyi GM 79と表記するのが正しいのです。
何と今年もコラボイベントが開催されるとのことです。開催日は11/18(土)と11/19(日)の2日間で、会場は西武池袋の屋上です。一応、リンクも貼っておきます。


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Aloe descoingsii
最小のアロエと呼ばれています。ビッグバザールでRuchiaさんから購入しました。子株がポコポコ出て来ました。


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Aloe humilis
葉の枚数は増えたものの、なぜか花を咲かせません。


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Aloe bowiea
だいぶ充実してきました。


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Garteria obliqua
今年の6月に開催されたビッグバザールで、Garteria bicolorの名前で入手しました。ガステリアにしては生長が早く、新しい葉は購入後に出たものです。良い葉が出ています。


11月19日はサボテン・多肉植物のビッグバザールが開催されますが、残念ながら参加できなさそうです。しかし、鶴仙園さんのイベントは18日に行くつもりです。


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最近、般若(Astrophytum ornatum)の受粉に関する論文をご紹介しました。論文では般若の受粉率は低く、同じ時期に咲き、共通した花粉媒介者を持つ他の種類のサボテンと競合している可能性を指摘していました。実際にそのようなことがあるのか気になったので、関連する論文を探してみました。そこで見つけたのが、Erica Arroyo-Perezらの2021年の論文、『Shared pollinators and sequential flowering phenologies in two sympatric cactus species』です。この論文では、開花時期が重複しないメリットについて書かれています。

調査地はメキシコのQueretaro州中西部で、チワワ砂漠の最南端です。標高は1400mで、Queretaro-Hidalguense半乾燥地域に含まれるSierra Madre東部地域に属します。調査したのは、Ariocarpus kotschoubeyanusとNeolloydia conoideaで、それぞれ200個体以上を1年間観察し、花への訪問者などの繁殖システムを記録しました。この2種類のサボテンは開花期が重なりませんが、同じ色と形状の花を咲かせます。2種類は共にミツバチによる受粉(melittophily)とされています。ちなみに、2種類とも絶対的他家受粉で自家受粉はしません。

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Ariocarpus kotschoubeyanus(中段右)
『The Cactaceae』(1922年)より。


調査の結果、2種類のサボテンの開花期は重なりませんでした。Ariocarpusは最も乾燥する季節の始まりである10月から12月まで開花し、Neolloydiaは春から夏にかけて咲き、最も温暖で湿気が多い5月に多くの花を咲かせます。両者共に9時〜10時に開花し14時〜15時に閉じました。また、開花してから2日間は雌雄同株で、やがて雌雄離熟を示しました。
2種類のサボテンの最も多い花への訪問者はミツバチとアリでした。訪問者のうち共通するのは60%でした。ただし、花における行動を観察したところ、両者を訪れる有効な花粉媒介者はミツバチであることが分かりました。ちなみに、ミツバチの共有種は75%でした。

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Neolloydia conoidea
『The Cactaceae』(1923年)より。
Neolloydia conoideaは2021年にCochemiea conoideaとされています。


2種類のサボテンの開花期は重なりませんでした。興味深いのはこの2種類が開花しない時期には、Mammillaria parkinsoniiが開花し、3種類のサボテンで花資源の年間サイクルが出来ていたことです。このことは、異なる種のサボテンの共存を促進する重要な要素かも知れません。そのためには、花粉媒介者の共有が必要です。

231115055845208~2
Neolloydia conoidea
『The Cactaceae』(1923年)より。

以上が論文の簡単な要約です。
2種類のサボテンは類似した花を持ちますが、花の時期が異なることで花粉媒介者の競合を防いでいます。さらに、類似した花を持ち有効な花粉媒介者が共通するということは、1年を通して有効な花粉媒介者を複数種の植物で支えているとも言えるでしょう。
このような複雑なサボテンと花粉媒介者の関係性は、非常に驚くべきものでした。しかし、ある意味では繊細なバランスの下にあり、1種類のサボテンがその地域で絶滅しただけで、花粉媒介者の採蜜の年間サイクルが崩れてしまうかも知れません。場合によっては花粉媒介者の組成や絶滅により、他のサボテンの受粉に悪影響が出る可能性もあるでしょう。
N. conoideaは分布が広く個体数も多いため問題なさそうですが、A. kotschoubeyanusは分布が限られており、国際自然保護連合(IUCN)は準絶滅危惧種に指定し、ワシントン条約(CITES)では附属書Iに記載され国際取引は禁止されています。しかし、絶滅危惧種に指定されても格別の保護がなされるわけではないので、絶滅の可能性はつきまといます。そのようなことはないと良いですが、希少サボテンの環境や個体数が増えて絶滅の危機から脱したという話は聞かないので、いつかは起きてしまうかも知れません。


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多肉植物のみならず植物を栽培するに際して、日照や灌水に並ぶ重要な要素は用土でしょう。多肉植物の培養土は市販品もありますが、自身で配合するという方もおられるでしょう。多肉植物の用土の組み合わせはどのようなものご良いのでしょうか? 本日は多肉植物の培養土の組み合わせの良し悪しを調べた、Vishal Lodhiらの2021年の論文、『Influence of potting media on growth of succulent under shade net condition』を見てみましょう。

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Crassula ovata
『The botanist's repository』(1797-1811年)より。Crassula obliquaとして記載。

試験は2020年12月から2021年3月まで、インドのSHUATS園芸局園芸研究所で実施されました。50%遮光下で、5種類の多肉植物を3種類の培養土で栽培しました。用いた多肉植物は、Crassula ovata(※1)、Pachyphytum hookeri、Senecio rowleyanus(※2)、Sedum rubrotinctum(※3)、Crassula capitella(※4)です。用いた培養土の組み合わせは、
①土+砂+ミミズ堆肥、
②土+砂+ミミズ堆肥+木炭、
③ココピート+パーライト+FYM(※5)
を試験しました。

※ 1 ) 「金のなる木」。
※ 2 ) 「緑の鈴」、「グリーンネックレス」。現在の学名は、Curio rowleyanus。
※ 3 ) 「虹の玉」。現在の学名は、Sedum ×rubrotinctum。
※ 4 ) 「火祭り」。
※ 5 ) FYMとは堆肥などの有機物資材。

栽培90日後の多肉植物の背の高さと葉の枚数、葉の厚さ、葉の面積、子株の数、根の長さ、根域面積、根の本数を測定しました。
C. ovataは、①は背の高さと葉の枚数、根の長さが優位、②は葉の厚さと葉の面積、子株の数、根の本数が優位、③は葉の面積と子株の数、根域面積、根の本数が優位でした。
P. hookeriは、①は特に優位な項目はなく、②は葉の枚数と葉の厚さ、葉の面積、子株の数、根の長さ、根域面積、根の本数で優位、③は葉の数と葉の厚さ、葉の面積、子株の数、根域面積、根の本数で優位でした。
S. rowleyanusは、①は背の高さと葉の枚数で優位、②は背の高さと葉の厚さ、葉の面積、子株の数、根の長さ、根域が優位、③は葉の枚数と根域面積、根の本数で優位でした。
S. rubrotinctumは、①は特に優位な項目はなく、②は葉の面積と子株の数、根の長さで優位、③は葉の厚さと葉の面積、根域面積で優位でした。
C. capitellaは、①は特に優位な項目はなく、②は葉の面積と子株の数で優位、③は葉の枚数と葉の厚さ、子株の数、根の長さ、根の本数で優位でした。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、この論文の結論は5種類の多肉植物の生長具合を比較していますが、今ひとつ私にはピンときません。異なる種の多肉植物は生長も異なりますから、直接の比較はナンセンスです。単純に生産性を見ているようですが…。では、同じ植物で異なる培養土で生長が変わるかを見るべきです。その視点で見てみると、どうでしょうか?
*Crassula ovata(金のなる木)
5種類の中では最も大型で、唯一木質化した幹を持ちます。①は背の高さと葉が枚数は多いものの、子株は少なくなっています。逆に②や③は背の高さや葉の枚数は少なく、子株は多いものでした。背の高さや葉の枚数と子株の数はtrade-offの関係にあるのでしょう。金のなる木は木質化し大型であることから、子株を作るためのコストが高いということかも知れません。おそらく、金のなる木の培養土は③が最も適した資材なのでしょう。②は全体的に高いものの、葉の枚数や根の長さがかなり低いため、どうしても③に劣ります。
*Pachyphytum hookeri
P. hookeriは非常に多肉質な丸い葉を持つ、やや立ち上がるロゼットを作ります。こちらは圧倒的に②が優れており、葉の枚数は①の1.9倍、子株の数も①の1.75倍と、かなりの差がありました。③も①よりも高いのですが、全体的に②より劣り、根の長さが低めでした。
*Senecio rowleyanus(緑の鈴)
緑の鈴は長く垂れ下がる茎に球状の多肉質の葉がつきます。緑の鈴は、③の培養土が非常に良好です。③は葉の厚さと葉の面積が高い代わりに、葉の枚数が少ないものでした。これは、球状の葉の1つ1つが大きく充実しているためではないでしょうか。逆に①や②の培養土では、小さな葉が沢山ついているようです。
*Sedum rubrotinctum(虹の玉)
虹の玉は葉の丸いセダムですが、培養土の違いによる差が非常に少ないのが特徴です。全体的に誤差範囲レベルの違いしかありません。ただ、②は葉の面積と子株の数、根の長さが良好です。
*Crassula capitella(火祭り)
火祭りは多肉質の平たい葉を持ちロゼットを作ります。火祭りは培養土の違いによる差が最も小さかったようです。ただ、③は培養の枚数や葉の厚さで、微妙に優勢でした。

次に培養土の特徴を見てみましょう。①の培養土は土と砂とミミズ堆肥からなります。ミミズ堆肥は養分が豊富で団粒構造を作り、微生物が増えやすく排水にも寄与します。②は①に木炭を加えたものです。木炭は通気性と保肥、排水に寄与します。通気性や栄養の持ちが良くなるでしょう。③はココ椰子の実の繊維を発酵させたもので、ピートモスと異なりpH調整の必要はありません。保水力や透水性、通気性に寄与します。パーライトも加えられていますが、これはよく分かりません。というのも、パーライトには黒曜石から作られるものと、真珠岩から作られるものとがあり、それぞれ排水性と保水性という真逆の作用があるからです。まあ、いずれせよ透水性は高まるでしょう。

園芸店やホームセンターには、様々な培養土が販売されており、その内容物は見た目からして異なります。個人ブログなどで使用した感想を見ることは出来ますが、生育環境が異なることもあり、最終的な良し悪しは自身で確かめてみるしかありません。既製品は販売中止や、いつも行く園芸店での取り扱いを止めてしまったりもします。個人的には自分で配合したほうが安上がりで、かつ生育環境に合わせられるのでおすすめです。多肉植物の栽培は排水性が重要ですが、これは水やりの間隔に合わせる必要があります。少し保水力を高め乾きにくくして水やりの回数を減らすのか、排水性を重視して乾きやすくして水やりの回数を増やすのか、個々人のライフスタイルや好みによるでしょう。この論文はあくまで地元で入手しやすい資材を用いた園芸生産性に関するものですから、あまり我々の参考にはならないかも知れません。しかし、すべての多肉植物に適した培養土はないであろうことを教えてくれます。


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すっかり寒くなりましたが、多肉植物の室内への取り込みは遅れています。先週末、一気に片付けましたが、それでも7割といったところです。週末はバタバタと残りの多肉植物を室内へ取り込みました。これで最後です。

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ガステリア、ハウォルチオプシス、アロエ。

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同じくガステリア、ハウォルチオプシス、アロエ。

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ハウォルチオプシス。

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ユーフォルビアの残り。

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ユーフォルビア、アロエ。

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Fouquieriaたち。

大き目な多肉植物を取り込んで最後です。
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Aloe peglerae
ようやく見られるようになった来ました。


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Dioon edule
非常に生長が遅いことで知られています。今年は2枚の良い葉が出ました。


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Dioon spinulosum
世界最大のソテツ。


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Zamia furfuracea
今年の日差しは異常で、フルフラケアの葉も日焼けしてしまいました。


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Pachypodium densiflorum
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取り込むのが遅れたため、葉が真っ赤です。

というわけで、多肉植物の室内への取り込みはなんとか終了しました。バタバタやっていて疲れました。


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花は甘い蜜を分泌しミツバチなどの花粉媒介者を引き寄せ、受粉し結実します。しかし、世界には苦い花蜜も存在すると言うのです。非常に不思議です。なぜ、苦い蜜を出すのでしょうか? さらに気になるのは、その苦い蜜を訪れる花粉媒介者とは何者なのでしょうか?
本日はSteven D. Johnsonらの2006年の論文、『DARK, BITTER-TASTING NECTAR FUNCTION AS A FILTER OF FLOWER VISITORS IN BIRD-POLLINATED PLANT』をご紹介します。


色のついた蜜
Aloe vryheidensisは南アフリカ原産の高さ2mの多肉低木ですが、その花の蜜は暗褐色で苦味があります。花蜜は花粉媒介者を呼び寄せますが、動物種により好む蜜の量と濃度は異なります。そのため、その組み合わせにより好ましい花粉媒介者のみを選別するためのフィルターとして機能します。しかし、蜜の量と濃度の組み合わせは厳密なものではなく、ミツバチは鳥媒花にもよく訪れて採蜜します。色のついた蜜はアルカロイドやフェノールなどの二次化合物を含み、その味が決定的な選別のためのフィルターとして作用を果たしている可能性があります。例えば、ノウゼンカズラ科のCatalpa speciosaの花蜜にはイリドイド配糖体が含まれ、アリや蝶などの蜜泥棒を排除する一方、ミツバチには影響を与えませんでした。二次化合物は外観や味、消化率を変化させる可能性があります。
南アフリカではAloe spicata、Aloe castanea、Aloe vryheidensisの3種類のアロエが、人間にとって独特の苦みがある暗赤褐色の蜜を持ちます。この色と味はフェノール化合物によるものです。


花への訪問者
研究はKwaZulu-Natal州のLouwsberg近くにあるiGwala Gwala動物保護区において、Aloe vryheidensisの開花個体200株からなる個体群が観察されました。観察中に8種類の鳥がA. vryheidensisの花を訪問しました。訪れたのは、主にルリガシライソヒヨ(Cape Rockthrushes)、マミジロサバクヒタキ(Buffstreaked Chats)、ホオグロカナリア(Streaky-headed Canaries)、ケープメジロ(Cape White-eyes)、サンショクヒヨドリ(Dark-capped Bulbuls)でした。これらの鳥はかなりの量の花粉を顔につけていることが確認されました。また、これらの鳥は蜜食専門ではないという共通点があります。逆に蜜食専門のタイヨウチョウは調査地に3種類豊富に生息していますが、A. vryheidensisの花を訪れたのはオオゴシキタイヨウチョウ(Greater Double-collared Sunbird)のみで、しかも観察されたのはわずかに1羽で訪問も短時間でした。
A. vryheidensisの花には複数種のミツバチが頻繁に訪れましたが、採蜜行動は観察されず花粉の採取を行いました。
A. vryheidensisの花にメッシュをかけて鳥が採蜜出来ないようにしたところ、メッシュをかけない花より種子生産数が減少しました。

苦い蜜に対する鳥の反応
飼育環境下の鳥に砂糖水とA. vryheidensisの蜜を与えたところ、鳥の種類により反応が異なりました。ヒヨドリは両者を区別しませんでした。メジロは砂糖水を好みましたが、A. vryheidensisの蜜の73%を消費しました。タイヨウチョウはA. vryheidensisの蜜を強く拒否しました。タイヨウチョウはA. vryheidensisの蜜を与えると、クチバシを引っ込めて激しく首を振りました。メジロは蜜を吸うと後ずさりして首を振りましたが、その後は蜜を飲み続けました。ヒヨドリは特に反応は示しませんでした。また、ミツバチにA. vryheidensisの蜜を与えたところ、強く拒絶されました。

蜜泥棒を防ぐ
花蜜の主な機能は花粉媒介者を引き寄せることですから、苦い味の蜜は矛盾しているように思えます。しかし、有効な花粉媒介者さえ妨げなければ、受粉に寄与しない花への訪問者を減らすことが出来ます。受粉に寄与しない訪問者は花蜜を枯渇させるだけです。ミツバチやタイヨウチョウといった蜜食専門の訪問者にとっては明らかに不快であり、A. vryheidensisにとっては望ましくないはずです。
花にメッシュをかけて鳥の採蜜を妨害した場合、受粉率が低下することから、A. vryheidensisの有効な花粉媒介者は鳥でしょう。しかも、タイヨウチョウは基本的にA. vryheidensisには訪花せず、剥製を用いたシミュレーションでは、タイヨウチョウはクチバシが長く細いため、花粉媒介者としては適していないと考えられます。また、メッシュにより受粉率は低下しましたが、ある程度の受粉への貢献はあるようです。しかし、これは単純にミツバチが非常に豊富で、訪花回数が鳥の数百倍多かったからだと考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本来は甘い蜜が苦いというのは驚きです。苦みで花粉媒介者を選択して、盗蜜を防いでいるのです。しかし、植物の花は蜜に限らず、その形や構造で花粉媒介者を選択することは珍しいことではありません。様々な工夫がある中で、蜜の苦みは非常に優れた方法と言えるでしょう。
今回、蜜食のスペシャリストであるタイヨウチョウは、有効な花粉媒介者とは見なされませんでした。そう言えば、過去の論文ではAloe feroxの花に訪れるタイヨウチョウは雄しべや雌しべにまったく触れないで盗蜜する様子が観察されています。ヒヨドリなどの鳥は、蜜を専門としていないジェネラリストです。このような鳥は、採蜜が洗練されておらず、頭を花に突っこんでしまうため、顔に大量の花粉をつけることになります。おそらくは、A. vryheidensisの盗蜜の排除は、地域に豊富に存在するタイヨウチョウなのでしょう。訪れたミツバチの種類は不明ですが、おそらくは外来種である西洋ミツバチがかなりいたと推測します。西洋ミツバチがいない本来の環境ならば、単独性のミツバチが少し来るくらいだったのではないかと思います。まあ、いずれにせよ、ミツバチはA. vryheidensisからは採蜜しないので、それほどの脅威ではないのかも知れませんね。


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般若(Astrophytum ornatum)は、Astrophytumの中でも大型のサボテンです。野生のAstrophytumは減少していますが、それは般若も同じことのようです。希少生物の保護を考える場合、まずは現在の分布と個体数の調査に加えて、その生態を詳しく知る必要があります。例えば、人工的に増やした植物を砂漠に移植した時に、その植物の適切な花粉媒介者がその周囲に分布していないと、せっかく移植した植物は実を結ばず自力で増えることが出来なくなります。他の例では、花粉媒介者が減少した結果、植物は沢山生えているものの新しい実生がほとんどなくなってしまい、将来的に絶滅の可能性が出てきたということもあります。
本日はA. ornatumの受粉形式を調査したMaria Loraine Matias-Palafoxらの2017年の論文、『Reproductive ecology of the threatened "star cactus" Astrophytum ornatum (Cactaceae): A strategy of continuous reproduction with low success』をご紹介しましょう。

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Astrophytum ornatum
『Malayan garden plants, Botanic Gardens』(1949-1952年)より。

Astrophytum ornatumとは
Astrophytum ornatumは、高さ160cmに達する短円筒形のサボテンです。5〜8本の稜(rib)を持ち、アレオーレには1つか2つの中央棘と10本の放射状棘があります。花は昼行性です。A. ornatumはチワワ砂漠高地の石灰質土壌の急斜面に生育します。メキシコでは絶滅危惧種に指定されており、ワシントン条約では附属書IIに記載され国際取引は規制されています。

開花は年間4回
調査はCactus Sanctuary Gardenの標高1294m地点で実施されました。
花芽は一年中あるにも関わらず、1年間の観察で開花したのは4回でした。著者らは複数の花が咲いた時を開花と見なし、これを「開花イベント」と呼びました。開花イベントはすべて乾季におこり、2010年11月、2011年3月、2011年4月、2011年5月でした。開花した個体は、11月で全体の15%、3月で88%、4月で91%、5月で33%でした。11月の開花は2日間続きましたが、他の月の開花イベントは1日で終了しました。ちなみに、6月に開花した個体もありましたが、1つのみの開花で受粉しなかったため、これを開花イベントとは見なしませんでした。

花の情報
個体あたりの花芽の生産数は平均46個、開花した花は平均4個、結実は平均3.5個でした。個体の生長と花芽の生産数には関係があり、花芽の数は前の月の最低気温に反比例しました。開花は9時30分から10時に始まり17時頃に終わりました。著者らは花蜜の採取を試みましたが失敗しました。花を訪れた花粉媒介者の行動からも、花蜜は非常に少量であると考えられます。

青般若
Astrophytum ornatum

花粉媒介者
花を1時間半観察したところ、32匹の花への訪問者が確認されました。その内訳は、4属のミツバチが全体の91%を占め、甲虫は6%、バッタは3%で花粉と花被を食べていました。
A. ornatumは日中開花し、豊富で目立つ黄色の花粉を持つことから、花蜜の少なさを考慮すると、花粉が花粉媒介者を引き寄せていることが示唆されます。

絶え間ない花芽の謎
年間46個ものツボミをつけるにも関わらず、平均して4個しか開花しません。これは、花芽の89.2%が出現後2〜3週間で中止されるからです。A. ornatumの継続的な花芽生産は他のサボテンでは報告されていない珍しい現象です。この絶え間ない花芽の生産は、高いエネルギーコストが必要でしょう。
一般的に単一の大きな開花期を持つほうが、繁殖率を上がることが予測されます。しかし、乾燥した環境下においては、決まった開花期に開花に適した環境になるとは限らないため、リスクを分散させている可能性があります。

受粉率の低さ
A. ornatumの開花は1〜2日と短いにも関わらず、群落内で同調して開花することは注目に値します。おそらく、A. ornatumは自家受粉しない自家不和合性であると考えられるため、集団で咲くことに意味があるからです。
ただ、実際の結実は少ないと言えます。これは、Astrophytum asteriasでは人工的に受粉させた場合より自然に受粉する率が低いことが判明していることと同じかも知れません。つまり、有効な花粉媒介者が不足しているのです。可能性としては、外来のミツバチが多いからかも知れません。外来ミツバチApis melliferaはA. ornatumの花への訪問者の47%を占めていました。
さらに、同時期に開花する他のサボテンと花粉媒介者が競合しているからかも知れません。例えば、4月にはTurbinicarpus horripilusも開花のピークを迎えます。共通する花粉媒介者がいた場合、花粉媒介者を巡る競争が起きる可能性があります。


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Astrophytum ornatum(下)
『Herman Tobusch』(1932年)より。Seed & Nursery Catalogです。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
受粉生物学を扱った論文では、花粉媒介者の種類や割合を調査してそこで終わりというパターンが多いように思われます。中には受粉率を調べ有効な花粉媒介者を探し出すこともありますが、本日ご紹介した論文のように詳細に開花について調査されることは稀でしょう。
絶え間なく出来続けるツボミの謎は大変興味深いものでした。環境によく適応した結果と言えるでしょう。問題は現実的には受粉率は低いことです。他のサボテンとの花粉媒介者の競合であるならば、それが本来的な姿であるから問題はないでしょう。しかし、外来のミツバチが受粉率を下げていた場合、外来ミツバチは受粉妨害をしていることになります。果たして、般若の本来的な受粉のあり方とはどのようなものだったのでしょうか? 外来ミツバチが幅を利かせる現状では、それを窺い知ることは難しいかも知れません。

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地球規模の気候変動が問題となっています。原因の1つとされる大気中の二酸化炭素の増加による地球温暖化については異論もあるようです。しかし、その原因はともかくとして、現実問題として様々な異常がおきている事実は覆すことは出来ません。さて、気候変動は多肉植物が自生する乾燥地にも影響しており、サボテンが高温により枯死したり、雨が降らなくてアフリカの多肉植物が枯死するなどの報告があります。
本日は2011年に開催されたThe Ecological Society of Americaという国際会議において発表された会議資料を見てみましょう。本日ご紹介するのは、Sarah Chambliss & Elizabeth G. Kingの『Plants  behaving badly: Proliferation of a native succulent in Kenyan drylands』です。「悪い行動をとる植物」とは、どういう意味なのでしょうか?

ケニア中北部の乾燥地帯の固有種であるSansevieria volkensiiは、 ここ数十年で劇的に増加しました。このような植物群落の構造が変化は、放牧地の生態系と生産性を変化させ、牧畜民の生計を脅かす可能性があります。実際にS. volkensiiの密集した群落は、家畜や人の移動を妨げ、家畜の飼料としても価値が低く、牧畜民にとって望ましいものではありません。しかし、S. volkensiiの増殖の動態は調査されておりませんでした。

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Sansevieria volkensii
『Bulletin of miscellaneous information』(1915年)より。Sansevieria intermediaとして記載。ちなみに、Sansevieria属はDracaena属に吸収されたことから、2018よりDracaena volkensiiとなっています。

干ばつだった2009年に樹冠下(※1)のS. volkensiiは開けた場所の個体より健全であることに気が付きました。大雨が続いた2010年の再調査では、平均して30%多いramets(※2)と葉が見つかりました。樹冠下の群落は大きかったのですが、新しい葉の割合は開けた場所の群落でより大きいものでした。

※1 ) 樹冠とは樹木の枝の広がった、枝と葉が密集した部分のこと。
※2 ) rametsとはいわゆる子株のことで、株分け出来る各個体のこと。同一クローン分球体。


以上が会議資料の要約です。
簡単な報告といった感じですが、気候変動が問題とされる昨今、固有種が増えると言う思わぬ現象について述べています。内容的には樹冠の陰になった部分にS. volkensiiは生えやすいようですが、大雨のあった年は開けた場所の群落も拡大していたことから、より重要な条件は水分であることが分かります。
それはそうと、S. volkensiiの増加を問題視していますが、何が問題なのでしょうか? 移入種ではない固有種の増加は、一見して望ましいものに思えます。著者らの言う牧畜民の利便性について述べていますが、それだけではありません。生物は有限のリソースを糧に競争しているのですから、何かが増えれば代わりに何かが減ることになります。要するに、生態系のバランスが崩れてしまうということです。しかし、本来的に生態系は変化し続けるものですから、必ずしもおかしなことではないかも知れません。報告は気候変動によるものであるとは明言されていませんから、S. volkensiiの増加が自然のサイクルの一部に過ぎないのか、あるいは自然のサイクルを逸脱した異常な事態であるかは不明です。ただ、著者らはこれを良くないこととして捉えているようです。確実な事を言うには、過去を含めた気象データとS. volkensiiの分布の関係を長期に渡り監視する必要があるでしょう。



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植物にとって花は繁殖のための非常に重要な器官です。さらに、植物の分類は花の形式を基準に発展してきました。ですから、植物にとっても学者にとっても花は重要なものと言えます。花の受粉は植物と花粉媒介者との相互作用により成立しています。植物の種類ごとに受粉形式は異なる可能性があります。しかし、残念ながら植物の受粉形式については、その重要さに関わらず、それほど詳しく調査されているわけではありません。
本日はアロエの受粉についてご紹介しましょう。それは、C. T. Symesらの2009年の論文、『Appearance can be deceiving: Pollination in two sympatric winter-flowering Aloe species』です。アロエの受粉生物学については非常に未熟で、ほとんど明らかとなっておりません。Aloe feroxやAloe marlothiiなどの巨大アロエは鳥媒花であることは判明していますが、その事実が他のアロエにも通用するのでしょうか?


花粉媒介者のタイプを予測するための受粉シンドローム(※1)の信頼性は疑問視されるようになり、多くの植物では複数種の花粉媒介者が関与している可能性があります。

※1 ) 受粉シンドロームとは、花粉媒介者に合わせて花の形式を適応させること。特定の相手との関係が想定される。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


かつて、Aloe feroxは虫媒花であると予測されたことがありました。ミツバチは非常に豊富なためです。しかし、実際にはミツバチはAloe feroxの受粉にはほとんど寄与しないことが明らかとなりました。もし、その花に様々な訪問者が来たとしても、それらの訪問者が重要な花粉媒介者ではないかも知れません。一部のアロエの花粉媒介者が確認されたのは最近のことです。しかし、アフリカ熱帯地域の約450種類のアロエは、未だに花粉媒介者が確認されておりません。野外実験と観察が必要です。

著者らは南アフリカ北部および北東部に生える2種類のアロエに着目しました。調査地は夏に降雨があり、アロエは乾燥した冬に開花します。1つは高さ6mにもなるAloe marlothiiで、岩の多い北向きの斜面に生えます。目立つオレンジ色から赤色の管状花は、様々な鳥を惹きつけます。もう1つは、あまり目立たない斑点のあるAloe greatheadii var. davyanaは、岩だらけの地形や草原で育ちます。サーモンピンクから赤色の花を咲かせます。過放牧地域に密集して生えます。

A. marlothiiの花の蜜は希薄(12%)で多量(250μL)ですが、A. greatheadii var. davyanaの花の蜜はより高い濃度(21%)で少量(33μL)です。一般に蜜の濃度が低い場合(8〜12%)は一般的な日和見な鳥(※2)を惹きつけ、蜜が少量(10〜30μL)、および高濃度(15〜25%)の花はハチドリやタイヨウチョウなどの花蜜専門のスペシャリストが訪れます。一般的な傾向からすると、A. marlothiiには日和見な鳥が訪れ、A. greatheadii var. davyanaはスペシャリストであるタイヨウチョウが訪れることにより受粉することが考えられます。


※2 ) 日和見な鳥とは、花蜜を専門としない様々なエサを食べる鳥のこと。花蜜に特化したタイヨウチョウはスペシャリストであるのに対し、日和見な鳥はジェネラリストと言える。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


著者らは、アロエの花にネットをかけて花粉媒介者を妨害してみました。1つは昆虫は入ることが出来ますが、鳥は入れない網です。もう1つは、ネットをかけていない花を比較のために観察しました。
A. marlothiiの場合、ネットをかけていない花と比較すると、昆虫は入れるネットをかけた花はほとんど受粉しませんでした。つまり、A. marlothiiの花は、昆虫による花粉媒介はほとんどおこらず、主に鳥により受粉することが想定されます。
対してA. greatheadii var. davyanaの場合、ネットをかけていない花と、昆虫は入れるネットをかけた花はほぼ同じくらい受粉しました。つまり、A. greatheadii var. davyanaは、受粉は昆虫により行われ、鳥による受粉はほとんどおきていないことが想定されます。


A. marlothiiの花には、2種類のタイヨウチョウを含む39種類の鳥が訪れました。日和見の鳥は顔や体に花粉が付着しましたが、タイヨウチョウでは花粉はクチバシの先端にのみ付着し、A. marlothiiにおける花粉媒介者としての貢献度は低下していることを示唆します。
A. greatheadii var. davyanaの花には、2種類のタイヨウチョウを含む11種類の鳥が訪れました。花を訪れたほとんどの鳥は、A. greatheadii var. davyanaの垂れ下がった筒状の花よりクチバシが短く、花蜜にアクセスしにくいため花を破壊する行動も見られました。また、花を訪れたタイヨウチョウの顔に花粉は確認されませんでした。

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Aloe davyana
『Journal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。現在、Aloe greatheadii var. davyanaは、独立種であるAloe davyanaとされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。
A. greatheadii var. davyanaの花には鳥も訪れますが、その受粉への寄与はどうやら低いようです。タイヨウチョウは花蜜に特化しているだけに、雄しべや雌しべに触れないで蜜のみを抜き取る盗蜜を行います。タイヨウチョウで受粉するのは、タイヨウチョウに適応した花だけです。A. feroxの受粉はタイヨウチョウではなく日和見な鳥であるというのもその結果です。もしかしたら、A. marlothiiもタイヨウチョウの受粉への寄与は少ないかも知れません。
最初に述べた通り、アロエの花粉媒介者はまだまだ謎だらけです。同じ地域に生え同じ時期に咲くアロエでも、花粉媒介者は異なるのです。研究が進展したら、未だに知られていない面白い受粉形式が存在するかも知れません。今後が楽しみな研究分野ですね。


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Fockea属はアフリカに6種類分布するキョウチクトウ科の植物です。塊根や塊茎と落葉するツルを持ち、火星人(Fockea edulis)に代表されます。4種類は南アフリカとナミビアにのみ分布しますが、F. multifloraとF. angustifoliaはアフリカ南部から東アフリカまで広く分布します。問題はF. multifloraは南のザンベジ川渓谷と北のタンザニア中央部の間に分布の空白地帯があることです。その空白地帯とはマラウイのことです。
本日はJoachid Thiedeらの2010年の論文、『FILLING THE GAP: FOCKEA MULTIFLORA K.SCHUM. (APOCYNACEAE) IN MALAWI』をご紹介します。F. multifloraの分布のギャップを埋めるべく、過去のマラウイにおける調査記録を探し出し検討しました。

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Fockea multiflora
『Kunene Sambesi expedition』(1903年)より。


マラウイにおける現地調査は、1965〜1968年および1976〜1981年のBruce J. Hargreavesと、1991年のJoachim Thiedeにより実施されました。また、2つの標本がMontfort L. Mwanyamboによりマラウイ国立標本館に収蔵されています。これらの情報を精査しました。

①Joachim Thiede, 1991年
マラウイ南部Blantyre地区Blantyre-Mwanza道路の東のinselberg(残丘の1種)。花崗岩のinselbergの亀裂に、葉のないF. multifloraがいくつか生えていました。また、いくつかの乾性植物や小さなバオバブなどが伴っていました。F. multifloraにはCissus quadrangularisが巻き付いていました。

②Bruce J. Hargreaves, 1977年

マラウイ南部Phalombe地区Phalombe平原。

Bruce J. Hargreaves, 1977-1978年
マラウイ南部Machinga地区、Liwonde国立公園。Euphorbia espinosaに巻き付いたり、Adenium obesumやTalinum portulacifoliumと共に見られました。
Dudley(1994, 1997, 2001)は、Liwonde国立公園へのクロサイの再導入に関連し公園の植生を詳細に調査しました。F. multifloraは、Mopane(Colophospermum mopane)の群生するサバンナ、あるいはMopaneの森林の茂みで見られました。
また、1983年と1984年にマラウイ南部Machinga地区のLiwonde国立公園から標本が採取されています。採取地点は、1983年の標本はChinguni丘陵の麓で、1984年の標本はLikwenu川付近で採取されました。

④Scholes, 1982年
マラウイ南部のMonkey BayとNkopola Lodgeの間にあるSpearhead社のタバコ農園内。
乾燥したアカシアとバオバブの低木地帯で、F. multifloraが「支木の上に元気に生長」しているとしました。

⑤Bruce J. Hargreaves, 1978年
マラウイ中央州Dedza地区Golomoti近くで見られました。

Bruce J. Hargreaves, 1978年
マラウイ北部州Rumphi地区Njakwa峡谷において、F. multifloraは岩の露出部に生育していました。岩の亀裂に根を張り、周囲の低木に絡みついていました。
Thiede(2009年)によると、この峡谷は多肉植物に富み、Aloe、Ceropegia、Cyanotis、Dorstenia、Euphorbia、Kalanchoe、Kedrostis、Plectanthus、Sansevieria、Sarcostemmaに属する16種が含まれます。


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Fockea multiflora
『Die Pflanzenwelt Afrikas』(1910年)より。


以上が論文の簡単な要約です。
論文ではマラウイの6つの地域からのF. multifloraの分布を確認しました。つまり、ザンビア南部、ジンバブエ北部、モザンビーク西部という国境沿いのF. multifloraの分布と、タンザニアの分布の中間にあたるマラウイにおける分布を確認したということです。これにより、分布の空白地帯は目出度くなくなったわけです。F. multifloraのように分布が広い場合、調査の如何により空白地帯が生じたり、飛び地状の分布になってしまいます。この論文では過去の記録を精査して、情報を正したと言ったほうが適切かも知れません。しかし、新たに調査したとしても、残念ながらすでに開発等で生息地が消失している可能性もあります。F. multifloraのように古い調査記録がそれなりに残っていることは、実に幸いなことです。


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多肉植物の室内への取り込みが思うように進まず、割と焦っています。とりあえず、室内に運べるだけ運びました。すべてではありませんが、なんとか半分以上は取り込めたはずです。10往復ぐらいしかしていませんが、すっかりバテてしまいました。神田神保町古本まつりだの北区グリーンフェスティバルだのと、連日の外出により疲労はピークに達しています。自業自得ですが、何とも疲れたので続きは来週末にやります。多肉植物たちは寒いかも知れませんが、我慢してくださいな。

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ガステリア、ツリスタ、小型アロエの寄せ集めです。これらはプレステラ90のサイズのみで、これ以上のサイズのものはまだですね。

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ユーフォルビア①

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ユーフォルビア②

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ユーフォルビア③

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ユーフォルビア④

とりあえず、室内の床に並べたら置く場所がなくなったので、とりあえずここまでにしました。後は棚に並べるだけですが、直射日光と植物用ランプのあたり具合を考えて、並べる直します。これが非常に面倒でやたらに時間がかかりました。以下は並べ替え後の様子です。

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背の高い連中。ほぼユーフォルビア。

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ユーフォルビアたち。

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こちらもユーフォルビア。

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やっぱりユーフォルビア。

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しつこくユーフォルビア。

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並べていたら昭和キリン(Euphorbia bubalina)が開花していました。初開花です。緑色で分かりにくいので中々気が付きません。
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分類的には鉄甲丸(Euphorbia bupleurifolia)に近縁ですから、花も似た雰囲気ですがこちらの方が大きく、苞も丸みがあります。

後はハウォルチアとガステリア、アロエ、ソテツ類の取り込みが残っています。まあ、ユーフォルビアはまだありますが…。来週から最低気温が一桁になる予報ですから、あまりのんびりはしていられませんね。


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実はサボテンや多肉植物も、毎年のように新種が発見されています。地球上のすべての土地が調査し尽くされているわけではないため、未踏の場所を調査したら新種は見つかるもののようです。さらに、詳しく研究されず、似た種類を1種類にまとめてしまっていたりもします。そのようなものは、最近になって再び研究されて整理され始めています。ここ10年ちょいの多肉植物の新種については、サボテン、アロエ、アガベ、セダムについて最近記事にしてまとめて来ました。本日はエケベリアの近年の新種について見てみましょう。論文を軽く漁っただけなので、すべての新種を網羅してはいないかも知れません。

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Echeveria whitei
『Addisonia』(1925年)より。


2011年
・メキシコのMichoacanより、新種のEcheveria purhepechaが記載されました。

2012年
・メキシコのSinaloaより、新種のEcheveria cheveriaが記載されました。

2013年
・メキシコ西部のSierra de Manantlanより、新種のEcheveria yalmanantlanensisが記載されました。石灰岩の山塊Cerro de Grandeの固有種です。

2014年
・メキシコのColima火山より、新種であるEcheveria muniziiが記載されました。E. fulgensに似ています。
・メキシコ西部Colimaの石灰岩地より、新種であるEcheveria cerrograndensisが記載されました。E. fulgensと近縁と考えられます。
・メキシコのJaliscoより、新種のEcheveria marianaeが記載されました。E. novogaliciana、E. dactyliferaに似ています。

2015年
・メキシコのJaliscoより、Echeveria rulfianaが記載されました。

2016年
・メキシコのMichoacanより、新種であるEcheveria pistioidesが記載されました。
・メキシコのMichoacanより、新種であるEcheveria coruanaが記載されました。


2017年
・Echeveria pringlei var. parvaを独特させ、Echeveria fjammigeraを代替名として提案しました。しかし、この提案は認められておりません。

2019年
・メキシコのMichoacanより、新種であるEcheveria michihuacanaが記載されました。
・メキシコのGuerreroより、新種であるEcheveria xochipalensisが記載されました。
・メキシコのNevado de Colima火山より、新種であるEcheveria sonianevadensisが記載されました。


2020年
・エクアドルとペルーの国境より、既存種より2種の新種が分離されました。1つはEcheveria quitensisとされてきた中から、Echeveria cojitambensisが分離されました。もう1つはEcheveria cuencaensisと混同されてきたEcheveria tabaconasensisが分離されました。
・メキシコのSinaloaより、新種であるEcheveria coppiiが記載されました。

2021年
・ペルーのTayacaja州より、新種であるEcheveria incaicaが記載されました。E. oreophilaに似ています。
・ペルーのCastrovirreyna州より、新種のEcheveria ostolazaeが記載されました。
・メキシコのGuerreroより、新種であるEcheveria islasiaeが記載されました。
・メキシコのDurangoより、新種であるEcheveria kristeniiが記載されました。E. dactyliferaおよびE. novogalicianaに似ています。


2022年
・メキシコのOaxacaのMixteca Atla産地より、新種であるEcheveria andreaeが記載されました。

以上がエケベリアの新種たちです。意外と新種は見つかっていますし、これからも見つかる可能性が高そうです。エケベリアの分布の中心はメキシコのようですが、エクアドルでも新種が見つかっていますね。もしかしたら、メキシコ以外では調査が遅れているだけで、これからまだまだ新種が見つかるかも知れません。また、今は何と言っても遺伝子解析の時代です。エケベリアは形態学的によく似た種類が多いため、混同されている種類もありそうですから、遺伝子解析により大幅に改訂されてしまうかも知れません。これからのエケベリア研究は目が離せませんね。


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毎年、王子駅近くの飛鳥山公園にて、北区の区民植木市が開催されています。多肉植物が多いイベントということでしたが、今年は北区グリーンフェスタなる名称に変更されたようです。何でも今年は植木の販売はなく、多肉植物だけということです。多肉植物はNPO法人日本多肉植物の会のメンバーが出店する模様。私も少し気になりましたから見に行きました。ちなみに、3日(金)と4日(土)の開催でしたが私は4日に参戦しました。

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飛鳥山公園の鬱蒼とした小路を歩いて会場に向かいます。

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イベントを知らせる看板を発見。

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野菜やパンなどの販売もあり、キッチンカーがいくつも出ていました。

他のイベントと比べたら、サボテンが少し多目でしょうか? メセンやハウォルチアは沢山ありました。季節柄、ケープバルブがちらほらありました。あと、「Chamaealoe africana」なる名札のアロエを見つけました。古い時代から株分けで増やされてきた株なのかも知れませんね。
今回は安いアロエと花キリンを購入。最近は花キリンばかりですが、何だか好きなんですよね。
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Aloe bergerii
多分、Aloe bergeriana=Chortolirion bergerianumのことだと思いますが、コルトリリオンらしさはないですね。コルトリリオンは根元が球根状になっているはずですが、どうでしょうか? Aloe albifloraに似ている気もします。花が咲かないと分かりませんか…

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Euphorbia tardieuana
とげなし花キリンです。花が楽しみなタイプ。

錦玉園さんのブースあたりを彷徨いていた時に漏れ聞こえてきた言によると、3日の方が充実していた模様です。まあ、わざわざ補充に戻らないでしょうから、当たり前の話ですね。そもそも、3日だけ参加する店もあると事前にお知らせがありました。私は3日は神田神保町古本まつりの最終日に参加していたので泣く泣くです。しかし、あまり混雑しない穴場イベントでしたね。まあ、今日は11月だと言うのに恐ろしいぐらい強い日差しで、汗をかきながら多肉植物を見ました。来年は上手く日程調整出来ると良いのですが…


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神保町の古本まつりは毎年参加する恒例行事でしたが、新型コロナの流行で開催が中止になったりしました。去年は久々の開催でしたが、忙しく残念ながら不参加でした。今年こそはと勇んでおりましたが、仕事が入ったりして、先週末は行くつもりだったのに行けませんでした。今年も不参加と思いきや、昨日は祝日で休みなので、最終日ですが神保町古本まつりに参加してきました。本当に久しぶりの古本まつりです。

あちらこちらの古本屋台を見てちまちま買って行きましたが、いくつかの書店にも立ち寄りました。まずは、自然科学系に強い鳥海書房から。鳥海書房の別館が無くなっていましたから、本店に立ち寄りました。サボテンの本もありましたが、かなり高額なので諦めました。購入したのはソノラ砂漠の自然の様子を描いた以下の本です。表紙のSaguaroとOcotilloに惹かれて購入を決意しました。
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「サボテンと捕虫網」
平河出版社、1988年刊行


お次は学術系書籍専門の明倫館書店へ。大型本が多いためあまり立ち寄りませんが、外のワゴンセール品には気楽に読めるものもあります。気になっている受粉生物学関連で、こんな本がありました。最近は論文ばかり読んでいて基礎が疎かになっているような気がしますから、こういう本は貴重です。
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「虫媒花と風媒花の観察」
ニュー・サイエンス社、1976年刊行


最後は3店舗もあり勢いのある澤口書店へ。いつも寄るのは巌松堂ビル店です。購入品は2冊。熱帯雨林の方は単純に読み物として面白そうで、もう片方は勉強になりそうな感じがします。
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「熱帯多雨林の植物誌」
平凡社、1986年刊行


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「植物の生き残り作戦」
平凡社自然叢書、1996年刊行


古本屋台では、あちこちで何冊か購入しました。時間があればもう少し買ったかも知れません。
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「なんじゃもんじゃ」
北隆館、1973年刊行。
様々な植物の和名と学名の解説本。


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「スルタンガリエフの夢」
東京大学出版会、1986年刊行

前々から気になっていた本ですが偶然目に止まりました。一瞬の閃光のような人生を描いています。

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「古代人の化粧と装身具」
東京創元新社・創元選書、1963年刊行
このような思わぬ本に出会えるのも、古本まつりの醍醐味の1つです。

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「染織の歴史」
「漁業の歴史」
1970年代の至文堂の日本歴史新書。


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「神を殺した男」
講談社選書メチエ、1994年刊行
ダーウィニズムに関する本。
「日本人と東南アジア」
小学館創造選書、1983年刊行
70年代から80年代にかけては、このような海外に出て改めて日本の事を考えるという本が沢山出されていました。海外旅行が当たり前の現代とは発想が異なるのです。


実は大失敗をしてしまいました。ウトウトしていたら電車を乗り過ごしてしまい、気付いたら上野駅で慌てて降りました。銀座線を経由して半蔵門線に乗りたいわけですが、銀座線がやたらに遠く面倒臭いったらないですね。予定より到着が遅れ、しかも午後から所用がありましたから、あまりじっくりとは見られませんでした。昔は古本まつり開催中に3回は足を運んで100冊以上購入していましたが、今回はこんなものです。
まあ、今回時間がなかっただけではなく、読む時間も減ってしまっています。読みたい本はいくらでもあるわけですが、読書に費やせる時間が中々取れません。まったくもって、やりたいことを十全にやるには人生は短く、何かにつけて思い通りにはならないものです。

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めっきり寒くなって来ましたが、ほとんどの多肉植物は室外に出しっぱなしです。早くどうにかしたいのですが、またもや土曜日に仕事があったりして、中々時間が取れません。仕方がなく、帰宅後に少しずつ室内に取り込んでいます。室内の置き場所の整理すらまだなので、とにかく取り込んだだけです。今週末に一気に片付けたいところです。

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瑠璃晃 Euphorbia susannae
中々に良い色合いの瑠璃晃。それなりに締めて作っているので、どっしりとした形に育ちましたが、これ以上は太くならないかも知れません。


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Euphorbia multifolia
面白い形の葉が密につくムルティフォリアです。丈夫で育てやすいユーフォルビアですが、逆に甘やかして徒長してしまわないようにしたいですね。
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幹は木質化します。

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Euphorbia phillipsiae
フィリプシアエはソマリアものですが、それほど気難くはありません。
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こちらは別の個体。

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Euphorbia columnaris
難物のコルムナリスですが、相変わらず根の張りは弱そうです。イマイチ育て方が分からないユーフォルビアです。

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玉鱗宝 Euphorbia globosa
新しい「玉」が出て来ました。購入してからというもの、花ばかり咲いて新しい節が出なかったのですが、これでとりあえずは一安心。玉鱗宝は徒長しやすいので気をつけなければ。

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稚児キリン Euphorbia pseudoglobosa
こちらは、「偽のグロボーサ」なる不名誉な名前をつけられた稚児キリンです。こちらは育ちは悪くありませんが花が咲きません。

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火星人 Fockea edulis
塊根植物を入門種とも言える火星人です。ツルはかなり伸びましたが、なぜか塊根の生長はイマイチ。

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幻蝶カズラ Adenia glauca
一応、「幻蝶カズラ」なる名前はありますが、普通に「アデニア・グラウカ」と呼ばれています。光沢のある深緑の幹が美しいですね。幹は直射日光に当てると日焼けしたり、色がくすんだりしてしまうため、弱光下で育てています。
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アデニア・グラウカはそれほどの日照を必要としていないので、玄関の小窓の光で育てています。ツルは1.5mは越えたでしょうか。天井までいかないかと期待していましたが、今年はここまでのようです。しかし、何やら徒長してしまいそうですが、徒長と言ったところでそもそもがツル植物なのですから、伸びたら切り戻せば良いだけのことだったりします。

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多肉植物を増やす方法はいくつかあります。種子を採ったり、株分けしたり、挿し木したりというのは何も多肉植物に限った話ではなく、他の植物でも出来なくはないでしょう。しかし、葉挿しに関しては多肉植物特有の増やし方と言えます。例えば、エケベリアやカランコエ、ハウォルチア、ガステリアなどは葉挿しが可能ですが、庭木の桜や椿、鉢植えの草花は葉挿しが出来ません。なぜ、多肉植物は葉挿しが可能なのでしょうか? ここで、Root Gorelickの2015年の論文、『WHY VEGETATIVE PROPAGATION OF LEAF CUTTING IS POSSIBLE IN SUCCULENT AND SEMI-SUCCULENT PLANTS』を参考にその謎に迫ってみましょう。

イントロダクション
通常、植物の葉は新しい根や芽を作ることが出来ない末端器官です。雑草であっても葉挿しで発根させることは出来ません。しかし、必ずしも近縁ではない複数の科にまたがる多肉質の葉を持つ植物の葉は、この規則に反します。アロエや一部のウチワサボテンを除いて、多肉質あるいは半多肉質の葉を持つ植物は葉挿しが簡単に出来るのです。多肉植物の葉挿しは如何にして可能であるのでしょうか?

葉は生長が終わった器官?
葉の終末生長の性質が、ほとんどの植物が葉挿し出来ない理由かも知れません。根や新芽には脇芽などの休眠分裂組織が含まれています。例えば、サボテンのアレオーレは、新しい枝や花を生長させたり、トゲを生長させたりする短枝に過ぎません。維管束形成層は別の維管束形成層に接ぎ木出来ます。根や新芽とは異なり、葉には休眠中の頂端分裂組織(※1)がありません。シュートはシュートを生長させ(※2)、葉や花、根を生長させることが出来ますが、葉は終生しているため追加の葉やシュート、根や花を生長させることは出来ません。同じ議論は他のすべての維管束植物(裸子植物、大葉シダ植物※3、小葉植物※4)の末端器官にも当てはまります。したがって、Agnes Arber(1950年)は、葉を「部分芽」(partial shoots)と呼びました。葉の終末性は、単純な葉の場合に特に当てはまります。単純な葉では、小さく短命である周縁分裂組織(※5)を介して葉身が生長します。

※1 ) 頂端分裂組織とは、維管束植物の茎葉部あるいは根の先端にある分裂組織で、一般的には生長点と呼ばれる。
※2 ) 1本の茎とその茎につく葉をまとめてシュート(shoot)と呼ぶ。
※3 ) 大葉シダ植物は小葉植物を除くシダ植物。
※4 ) 小葉植物はシダ植物のうち、ヒカゲノカズラ、ミズニラ、イワヒバからなるヒカゲノカズラ亜門。
※5 ) 周縁分裂組織とは、周縁部に存在する分裂組織で、器官面積を増やす生長を行う。

多肉質であることが重要
多くの多肉植物、特にベンケイソウ科植物は葉挿しが容易です。いくつかのカランコエ(Kalanchoe  Adans)は、葉の縁に新しい個体が生長します。なぜ、一部の葉だけが新しい根や芽を伸ばすことが出来るのでしょうか。カランコエ属Bryophyllum亜属(※6)とセントポーリア(Saintpaulia H.Wendl., ※7)に関する1930年代の研究があります。葉の一次維管束(※8)には未分化な柔組織(※9)が含まれており、葉が落ちたり切断された時に新しい分裂組織を形成する可能性があります。未分化組織はイポメア(Ipomoea arborescens)やホホバ(Jojoba, Simmondsia chilensis)、ブーゲンビレア(Bougainvillea spectabilis)のように、師部(※10)を含む多くの乾性植物の茎の二次生長で顕著です。つまりは、木部柔組織から分化する師部です。葉は終末器官かも知れませんが、葉の維管束組織内および周囲の未分化柔組織は、根とシュートの頂端分裂組織を新たに生長させることが出来ます。これらの葉が多肉質であることから、おそらく新たに頂端分裂組織を生長させるのに必要な期間、葉が生きていられることが必要なのでしょう。Kerner & Oliver(1902年)は、「Bryophyllum calyciumの葉は厚く多肉質なため、成熟すると蓄えられる養分と水分が豊富に含まれ、外部からの養分の吸収は不要となる」(※11)と述べています。逆に非多肉質の葉は、初期の頂端分裂組織の発達するために必要な期間までに枯れてしまう可能性があります。

※6 ) Bryophyllum亜属を独立属とする意見もある。
※7 ) Saintpaulia属は現在はStreptocarpus Lindl.の異名となっている。
※8 ) 単純な形の葉は二次生長しない。
※9 ) 柔組織は細胞壁が木質化されていない組織で、地下茎や球根、種子などを含む貯蔵組織と、光合成を行う同化組織に大別される。
※10 ) 師部とは維管束を構成する組織の1つで、師管や師細胞組織、師部繊維組織、師部柔組織からなる。師部の主な機能は光合成産物の輸送。
※11 ) Bryophyllum calyciumとは、いわゆるセイロンベンケイのこと。現在はKalanchoe pinnataあるいはBryophyllum pinnataと呼ばれる。


分裂組織は師部組織から
新しい根とシュートの分裂組織は、おそらく葉から切り離された師部組織から発達します。これは、新しい頂端分裂組織が葉の脈管構造を利用していることが想定されます。被子植物の葉の中の一次師管は、師管要素(sieve-tube element, ※12)、伴細胞(※13)、師部柔組織、師部繊維で構成されます。Event(2006年)によると、被子植物の葉の師部組織からの頂端分裂組織の発生は、師部柔組織や伴細胞であるとしています。なぜなら、成熟した師管には核がなく、師管繊維には細胞分裂を妨げるほどの厚みがある細胞壁があるためです。葉には介在分裂組織活性(※14)があり、新しい根とシュートの頂端分裂組織が形成されるため、多肉植物の葉挿しはそれほど驚くべきことではないのかも知れません。介在分裂組織には機能的な師部と木部が含まれます。

※12 ) 師管要素とは師管を構成する生細胞で、篩状の板を縦に連結した構造をとる。
※13 ) 伴細胞は師管細胞に隣接する生理活性の高い柔組織で、師管細胞の通道を助けている。
※14 ) 介在分裂組織とは、分化が進んだ部分に挟まれた位置に存在する分裂組織。タケノコやトクサの節間を伸ばしたり、花茎の急激な伸長などが知られる。


異なる意見
多肉植物が葉挿し出来る理由としては異なる意見もありますが、これらは誤りです。1つは、葉の基底分裂組織(basal meristem, ※15)から形成されるというものです。セイロンベンケイは葉の縁に沿って小さな個体を生産し、ほかの多肉植物では葉柄や葉身を切り取っても、また新しい植物を得ることが出来ます。イワタバコ(Streptocarpus Lindl.)の葉挿しは、葉が葉脈に対して並行に切断されたか垂直に切断されたかに関係なく、新しい根とシュートを出すことが出来ます。ほとんどの植物は、葉に基底分裂組織を持たず代わりに介在分裂組織を持ちます。
もう1つは、脇芽が離層(※16)の反対側、あるいは離層の両側に形成されるというものです。ベンケイソウ科植物の滑らかな幹は初めの考えを説明しているようにも見えます。しかし、茎に脇芽がついているように見えますが、実際には脇芽は深く埋まっており、高度に休眠しています。これは、シュートの頂端分裂組織を除去することで、休眠中だった下部の頂端分裂組織が生長し始めることで確認出来ます。後者の考え方は、(仮想の)2つの脇芽の間に関連性がある証拠はありません。さらに、葉柄が脱落した後も葉から発根出来るということは、葉挿しして出てくる新しい根とシュートが脇芽由来ではないことを示しています。

※15 ) 基底分裂組織とは、維管束以外の基本組織に分化する細胞群。
※16 ) 離層とは、葉などが脱落する際に器官と植物との接点に出来る薄い細胞壁を持つ特殊な細胞層。


ベンケイソウ科植物の場合
ベンケイソウ科のBryophyllum亜属は、まだ茎についている葉に、新しい脇芽と粘着性の原基がある点において独特です。葉がシュートについている間は原基はホルモン的に阻害されます。これは、頂端分裂組織が頂端以外の頂端分裂組織の生長を抑制するホルモンを生成していることと同じです。カランコエ以外のベンケイソウ科では、Crassula ovataやCrassula multicava、Echeveria elegans、Sedum stahliiの葉挿しからの繁殖は報告があります。これらの種では、明確な休眠中の根やシュートの頂端分裂組織がないにも関わらず、葉の一部は葉全体と同じくらい容易に再生します。葉を垂直あるいは水平に切断したかに関わらず、新しい根とシュートは葉柄がついていた側に近い部分に形成されました。要するに極性(方向性)があり、葉の根元に近い場合に頂端分裂組織が形成されやすいということです。新しい分裂組織は維管束鞘(※17)などの生きた維管束内の師部細胞および、おそらく周囲の柔組織から生じます。海綿状組織(※18)からは生じません。したがって、クラッスラ、エケベリア、セダムの切断された葉の新しい分裂組織は、師部柔組織や伴細胞から生じることを示しています。ベンケイソウ科植物の葉挿しは、他の植物と同様に傷が治癒する過程を経ているようです。まず、疑似葉痕(pseudocicatrices)を形成します。傷口の組織は崩壊し表皮層が折りたたまれて、切断面が病原菌や乾燥から保護されます。次に葉痕が形成され、カルス(※19)が出来ます。新しい根とシュートの頂端分裂組織は、葉痕直下の柔組織から生じます。

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Kalanchoe sp.
葉の縁から新しい植物が出来ます。


※17 ) 維管束鞘とは、維管束の外側を鞘状に取り囲む1層からなる細胞。
※18 ) 海綿状組織は普通は葉の裏にある不揃いな細胞。細胞間隙が多く、間隙は気孔を通じて外界とつながる。
※19 ) カルスとは傷口を覆う癒傷組織のこと。

葉脈と再生能力
典型的な双子葉植物は網状脈(※20)を持つため、切断方向に対する感受性は単子葉植物より低いはずです。Kerner & Oliver(1902年)によるとベゴニア(Begonia L.)の栽培者は、葉の切り口を出来るだけ太い葉脈と交差するようにしているということを指摘しました。根やシュートを再生する能力があるという点において、網状脈を持つ少数の単子葉植物は切断方向に対して鈍感であるはずです。網状脈を持つ単子葉植物としては、ヤマノイモ属(Dioscorea L.)やアンスリウム属(Anthurium Scotto.)、シオデ属(Salix L.)などが知られていますが、葉挿し出来るほど多肉質な葉は持たないようです。
新しい分裂組織が師部組織、つまりは師部柔組織と伴細胞から切り出された葉に由来する場合、葉脈の密度とパターンが重要です。葉脈が密集している葉は発根しやすいかも知れません。

※20 ) 単子葉植物の多くは葉脈が主脈に並行に並ぶ並行脈で、双子葉植物の多くは葉脈が網状に広がる網状脈を持つ。


複葉と葉挿し
複葉(※21)は小葉や羽軸(※22)を生長させる能力など、茎に似た性質を持つように見えます。しかし、複葉は単純な葉よりも葉挿しは難しいようです。理由ははっきり分かりませんが、複葉を持つ多肉植物が少ないからかも知れません。複葉を持ち葉挿しが可能な植物は、わずかに多肉質な葉を持つクサノオウ属(Chelidonium L.)、Clianthus Sol. ex Lindl.(マメ科)、Atherurus Blume(サトイモ科、※23)、コンニャク属(Amorphophallus Blume ex Decne)だけです。複葉の葉身および小葉は通常は多肉質ではありませんが、葉柄はコンニャクイモ(voodoo lily)のように多肉質になることがあります。葉身そのものの挿し木より、葉柄の挿し木の方が発根は容易であることから、挿し木する組織が十分な養分と水分を持っていることが重要であることを示しています。

※21 ) 複葉とは葉軸に小葉がつくタイプの葉。
※22 ) 葉身全体の葉軸を中軸といい、そこから分岐した軸を羽軸と呼ぶ。
※23 ) Atherurus属は現在ではハンゲ属Pinellia Ten.の異名。


硬い組織を持つ植物の葉挿し
より分厚い細胞壁を持つ厚角細胞(※24)や厚壁細胞(※25)は分裂能力がないため、新しい分裂組織を作ることが出来ません。したがって、Yucca L.やZamia L.(メキシコのソテツ)のように高度に木質化した植物の葉は、多肉質であったとしても発根することは困難です。しかし、Luz(1903年)はアツバキミガヨラン(Yucca gloriosa)は葉挿し出来ると主張しましたが、その後確認されていません。

※24 ) 厚角細胞は不均一に厚い一次壁を持つ細胞。植物の身体を機械的に支えている。葉の中肋など角の部分によく見られる。
※25 ) 厚壁細胞はリグニンが蓄積し木質化した死細胞からなり、植物の身体を機械的に支えている。木本の表面近くに見られるが、木部繊維組織など維管束にも存在する。


最後に
以上が論文の要約です。
重要な話が多く互いに関連していたりするせいで、あまり要約出来ませんでした。おかげですっかり疲れてしまいました。さらに、専門用語が頻出するため、脚注を付けまくりました。
まあ、色々と難しい話が続きましたが、結局は多肉植物の葉は水分がたっぷり入っているから、根やら芽やらが出るまで干からびませんというだけの話です。後は、いったいどのような根やら芽やらが出るのかという理屈の話でした。



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植物にとって花を咲かせることは、受粉し種子を作るために重要です。しかも、受粉は非常に多様で様々な工夫があり、植物の進化を考える上でも非常に面白い対象です。さらに、受粉について調べることは、希少植物の生態を理解し、保護のための基礎知識を与えます。ですから、花の受粉については割と詳しく研究されています。多肉植物の受粉についても調べられていますが、残念ながら調査対象に偏りがあります。例えば、サボテンは割と詳しく研究されており、種により受粉形式にかなりの違いがあることが明らかとなっています。アロエの受粉形式はごく一部が研究されているに限り、その少ない研究を見ただけで、非常に多様で知られていない生態がいくらでもあることが分かります。しかし、アフリカに分布する多肉質のユーフォルビアに関しては、ほとんど論文がありません。ユーフォルビアの研究と言えば、ヨーロッパ原産の草本が主なのです。しかしそんな中、珍しいことにアフリカの多肉ユーフォルビアに関する受粉を扱った論文を見つけました。それは、Dino J. Martinsの2010年の論文、『Pollination and Seed Dispersal in the Endangered Succulent Euphorbia brevitorta』です。

矮性のEuphorbia brevitortaは、ケニア固有の多肉植物です。その分布は局所的かつ分散しており、潜在的に絶滅の危機に瀕している植物として保全の対象となっています。過去に行われたE. brevitortaの研究は、ナイロビ近くの主要な生息地が人為的に撹乱されたことに端を発し、その分類学や生物地理、および保全状況に焦点が当てられて来ました。この研究は、E. brevitortaの花を訪れる花粉媒介者を記録し、その種子散布を観察することです。トウダイグサ科植物はそのほとんどが昆虫による受粉と考えられています。しかし、トカゲにより受粉するEuphorbia dendroidesなど珍しい花粉媒介者の例もあります。結実と種子の散布は絶滅危惧種の植物にとっては重要で、適切な受粉が行われなければ絶滅する可能性があります。

E. brevitortaの花の観察においては、ハエと複数種のミツバチ、スズメバチが最も多くの花粉を運びました。アリや甲虫類は花粉を運ぶ量が少ないことが分かりました。
ユーフォルビアの種子はカプセルが弾けて飛散します。E. brevitortaの種子の拡散は5cmから2mと幅があり、平均で69.84cm 拡散されました。
種子は丸く滑らかで、拡散された後で地面をさらに転がる可能性があります。アリによる二次的な散布を調べるために、種子をアリに与えたところ、50個中38個は無視されました。10個の種子はアリに食べられ、2個は運ばれたものの巣に運ばれる前に捨てられました。


以上が論文の簡単な要約となります。
著者はE. brevitortaは特定の花粉媒介者に頼らないため、環境が撹乱されて昆虫相が変化しても受粉出来る可能性があるかも知れないと述べています。要するに、花粉媒介者に関しては環境変動に強い可能性があるのです。1種類の花粉媒介者に頼る場合(スペシャリスト)、花粉媒介者もその植物の花に適応しているため、受粉の可能性は高くなります。しかし、このような一対一の関係は、片方がいなくなるともう片方も存在出来なくなります。対して、広く浅く花粉媒介者を集める場合(ジェネラリスト)、花粉媒介者は数も種類も安定しないため、受粉も不安定になりかねません。ところが、1種類の花粉媒介者に対する依存性が希薄なため、花粉媒介者がまったく変わってしまっても問題が少ないのです。
種子の散布はどうでしょうか。ユーフォルビアの種子は、熟すと弾き飛ばされるため、ある程度は拡散されます。しかし、論文にあるように親株からそれほど遠くには行けません。他の植物種子の拡散戦略では、動物に食べられたり、動物の体毛に付着したり、風で飛ばされたりと、親株とはまったく異なる場所に散布されます。散布方法としては最大2mはいかにも貧相です。アリによる散布もわずか2%に過ぎません。ところで、E. brevitortaが乾燥地の植物であることを考えた場合、種子が遠くに拡散されてもまったく育たない可能性があります。なぜなら、乾燥地では実生が育つのに適した場所は少ないからです。逆に考えた場合、親株が存在する場所は実生が育つのに適した環境かも知れません。なぜなら、親株がその場所で育っている以上は、親株は実生からその場所で育っていることが明らかだからです。ですから、親株の近くに飛ばされた種子は、遠く拡散された場合よりも生存率が高くなる可能性があるのです。



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