種子を作るのは植物にとって体力を消費する行為です。植物が小さいうちは沢山の種子は作れませんが、大きくなれば養分を種子生産により多く割り当てることが可能になります。しかし、その種子の品質はどうでしょうか? 植物が大きくなると、種子あたりに注ぎ込める養分も増えますが、そのようなことはあり得るのでしょうか?
本日はサボテンのサイズと種子の品質の関係を追った、C. Ceballosらの2022年の論文、『Do large plants produce more and better seeds and seedlings? Testing the hypothesis in a globose cactus, Wigginsia sessiliflora』をご紹介しましょう。
Parodia erinaceus
=Wigginsia sessiliflora
Echinocactus erinaceus Lem.として記載。
『Gesamtbeschreribung der Kakteen』(1908年)より
研究はアルゼンチンのCordoba州のSan Pedro Norte townの近くで行われました。Wigginsia sessilifloraを185個体の果実を調査し、直径と種子の関係を調べました。W. sessilifloraは11月の短期間に咲くため、果実は同時期に熟します。種子を洗浄し3ヶ月保管してから発芽試験を実施しました。
調査したW. sessilifloraのサイズは14〜130mmでしたが、うち54%(97個体)は果実を作りませんでした。果実を生産した個体のサイズは、44〜120mmでした。分析すると、中型個体が最も多くの果実を生産していました。同様に中型個体の種子数と種子重量も最大でした。しかし、種子の発芽率はサイズと関係がありませんでした。発芽した実生は、親植物のサイズが大きいほど背が高いことが明らかとなりました。
意外にも、種子数は小型個体では少なく、中型個体では多く、大型個体では減少しました。これは、例えば樹木は幹の内部組織は生きていませんが、サボテンは大きくなるにつれて光合成しない組織の割合が増えてます。そのため、非光合成組織の維持に消費されるコストが増えてしまい、種子生産に割けるリソースが少なくなる可能性があります。
実生のサイズと形は、発芽後の苗の定着率に関係するかも知れません。大きな親から生まれた種子は、発芽させると、背が高くなり円柱状になります。背が高いと光を得やすくなる可能性があります。また、表面体積比が高くより生長率が高くなる可能性があります。その場合、大きなW. sessilifloraは種子の生産は少なくなるものの、実生の生存率が高くなるのかも知れません。
生殖可能なサイズのW. sessilifloraの50%以上は観察期間中に果実をつけませんでした。資源の節約のため、毎年繁殖するわけではなく、十分な準備が出来るまで回復させていると考えられます。
以上が論文の簡単な要約です。
植物が小さければ少量の種子、大きければ沢山の種子を作るというのは分かりやすい話です。しかし、その品質も変化するという驚きの結果でした。考察が正しいものとして内容をまとめると、小さな植物は種子数も少なく種子生存率も低い、中型の植物は種子数は多く種子生存率は普通、大きな植物は種子数は少なく種子生存率は高いということになります。生長期のサボテンはとにかく種子を沢山生産することを目指し、いわゆる数撃ちゃ当たる方式ですが、大型になり熟成した個体は個々の種子の品質を高めて生存率を高くしているのでしょう。
ただし、これはすべての種子植物がそうであるかは分かりませんから、様々な植物で追試する必要があります。果たして、W. sessiliflora特有の特徴なのか、サボテン科の特徴なのか、乾燥地の植物の特徴なのか、あるいはすべての植物の特徴なのか、現時点では分かりません。
ちなみに、論文ではWigginsia sessilifloraという名前ですが、現在ではParodia erinaceusの異名となっているようです。これはWigginsia erinaceusとも呼ばれていましたね。Wigginsia属はParodia属に吸収されて消滅したため、旧・Wigginsia属は名前がすべて変更されているので、注意が必要です。
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Parodia erinaceus
=Wigginsia sessiliflora
Echinocactus erinaceus Lem.として記載。
『Gesamtbeschreribung der Kakteen』(1908年)より
研究はアルゼンチンのCordoba州のSan Pedro Norte townの近くで行われました。Wigginsia sessilifloraを185個体の果実を調査し、直径と種子の関係を調べました。W. sessilifloraは11月の短期間に咲くため、果実は同時期に熟します。種子を洗浄し3ヶ月保管してから発芽試験を実施しました。
調査したW. sessilifloraのサイズは14〜130mmでしたが、うち54%(97個体)は果実を作りませんでした。果実を生産した個体のサイズは、44〜120mmでした。分析すると、中型個体が最も多くの果実を生産していました。同様に中型個体の種子数と種子重量も最大でした。しかし、種子の発芽率はサイズと関係がありませんでした。発芽した実生は、親植物のサイズが大きいほど背が高いことが明らかとなりました。
意外にも、種子数は小型個体では少なく、中型個体では多く、大型個体では減少しました。これは、例えば樹木は幹の内部組織は生きていませんが、サボテンは大きくなるにつれて光合成しない組織の割合が増えてます。そのため、非光合成組織の維持に消費されるコストが増えてしまい、種子生産に割けるリソースが少なくなる可能性があります。
実生のサイズと形は、発芽後の苗の定着率に関係するかも知れません。大きな親から生まれた種子は、発芽させると、背が高くなり円柱状になります。背が高いと光を得やすくなる可能性があります。また、表面体積比が高くより生長率が高くなる可能性があります。その場合、大きなW. sessilifloraは種子の生産は少なくなるものの、実生の生存率が高くなるのかも知れません。
生殖可能なサイズのW. sessilifloraの50%以上は観察期間中に果実をつけませんでした。資源の節約のため、毎年繁殖するわけではなく、十分な準備が出来るまで回復させていると考えられます。
以上が論文の簡単な要約です。
植物が小さければ少量の種子、大きければ沢山の種子を作るというのは分かりやすい話です。しかし、その品質も変化するという驚きの結果でした。考察が正しいものとして内容をまとめると、小さな植物は種子数も少なく種子生存率も低い、中型の植物は種子数は多く種子生存率は普通、大きな植物は種子数は少なく種子生存率は高いということになります。生長期のサボテンはとにかく種子を沢山生産することを目指し、いわゆる数撃ちゃ当たる方式ですが、大型になり熟成した個体は個々の種子の品質を高めて生存率を高くしているのでしょう。
ただし、これはすべての種子植物がそうであるかは分かりませんから、様々な植物で追試する必要があります。果たして、W. sessiliflora特有の特徴なのか、サボテン科の特徴なのか、乾燥地の植物の特徴なのか、あるいはすべての植物の特徴なのか、現時点では分かりません。
ちなみに、論文ではWigginsia sessilifloraという名前ですが、現在ではParodia erinaceusの異名となっているようです。これはWigginsia erinaceusとも呼ばれていましたね。Wigginsia属はParodia属に吸収されて消滅したため、旧・Wigginsia属は名前がすべて変更されているので、注意が必要です。
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