ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

2023年07月

暑い暑いと言っていましたが、さらに輪をかけて暑い日が続き、多肉植物も参ってしまいそうです。まあ、しかしそんな中でもサボテンは割と元気です。そんなサボテンというかギムノカリキウムたちの現在はどうでしょうか? あまり遮光していないので、今年はやや心配です。

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Gymnocalycium prochazkianum
プロカズキアヌムは暑いさなかでも元気に新しいトゲが出ています。こういう粉を吹くタイプは日照に強い印象があります。


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Gymnocalycium prochazkianum
      subsp. simile VoS 147
プロカズキアヌム亜種シミレも元気です。新しいトゲが綺麗ですね。


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Gymnocalycium berchtii TOM 6/481
ベルクティイも粉を吹くタイプです。まだ小さいですが日照に強いみたいです。


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Gymnocalycium esperanzae VoS 1791
エスペランザエは黒いトゲが美しいギムノです。強い日照にもよく耐えています。

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Gymnocalycium gibbosum subsp. borthii
ギボスム亜種ボルティイはややしわがよっています。巨大な塊根があるタイプですから、まあ大丈夫なのでしょう。


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Gymnocalycium andreae v. leucanthum LB15239
ややしぼみがちなアンドレアエ変種レウカンツムですが、夏の間はもう少し遮光した方が良いかも知れません。同じようにエリナケウムや大型鬼胆丸あたりも、しぼみがちです。

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Gymnocalycium ragonesei
我が家では割と新入りのラゴネセイですが、新しいトゲが出ているのかよくわかりません。干ばつ耐性は強そうです。

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Gymnocalycium pseudoquehlianum nom. nud.
プセウドクエフリアヌムは正体不明のギムノで、正式に記載されていない裸名です。G. quehlianumは竜頭や瑞昌玉にあたると言われますが、現時点ではあまり似ていません。


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Gymnocalycium saglionis
新天地も元気にトゲを出しています。そう言えば、新天地は冬でも新しいトゲを出しますよね。



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Astrophytum属は白点が特徴のサボテンです。現在4種類、あるいは6種類あるとされていますが、その分類には問題もあるとされています。1つは白鸞鳳玉は独立種であるかです。白鸞鳳玉は鸞鳳玉A. myriostigmaの亜種、つまりA. myriostigma subsp. coahuliensisとされたり、単純にA. myriostigmaの同種であるとする見解もあり、独立種であるA. coahulienseとされることもあります。もう1つは新種であるA. caput-medusaeは、2002年に記載されたときは新属Digitostigmaに分類されましたが、A. caput-medusaeは本当にAstrophytumなのでしょうか?
という訳で、本日はAstrophytumの分類に挑んだAlejandra Vazquez-Loboらの2015年の論文、『Phylogeny and biogeographic history of Astrophytum (Cactaceae)』の内容を少しだけご紹介しましょう

著者らは遺伝子解析によりAstrophytumの分子系統を解明しました。その前に、Astrophytumは、A. myriostigma(鸞鳳玉)とA. ornatum(般若)からなるAstrophytum亜属と、A. asterias(兜丸)とA. capricorne(瑞鳳玉)、およびA. coahuliense(白鸞鳳玉)からなるNeoastrophytum亜属、A. caput-medusaeからなるStigmatodactylus亜属からなるとする意見があります。この分類は花の形態からなされたものです。
さて、では遺伝子解析の結果を見てみましょう。

         ┏━━A. asterias
           ┏┫
           ┃┗━━A. capricorne
       ┏┫
       ┃┗━━━A. coahuliense
   ┏┫
   ┃┗━━━━A. caput-medusae 
   ┫ 
   ┃    ┏━━━A. myriostigma
   ┗━┫
           ┗━━━A. ornatum


驚くべきことに、花の形態からの分類がかなり正確であることが分かりました。はっきりしたことは、A. myriostigmaとA. coahulienseはまったく近縁ではなく、別種であるということです。面白いことに、近縁であるA. myriostigmaとA. ornatumはメキシコ南部の原産で、産地的にも他とは分けられるということです。次にA. caput-medusaeは明らかにAstrophytum属に含まれるということです。Astrophytum属であったとしても形態がまったく異なるので、他の種類とは離れて孤立していそうなものですが、A. asteriasとA. capricorne、A. coahulienseと近縁で1つのグループを形成しています。要するに、Astrophytumは2つのグループからなるということが明らかになったのです。

実際の論文の内容は、Astrophytumの種類が分岐した年代を推測し、地理的分布と気候変動から進化について考察しています。しかし、今回私が知りたい主題ではないため、割愛させていただきます。論文の内容はここまでですが、せっかくなのでAstrophytumの歴史について簡単な解説をして締めましょう。

Astrophytumは、サボテンの研究で知られるフランスの植物学者、Charles Antoinie Lemaire(1800-1871)により命名されました。1839年に命名された、Astrophytum Lem.です。この時、LemaireはAstrophytum myriostigma Lem.を新種として命名しました。しかし、A. myriostigmaが一番早くに命名されたのではなく、Astrophytumの命名前から他の種類は発見されていました。Astrophytumの命名前でしたから、初めはEchinocactusとして命名されていました。一番、命名が早いのは、1828年に命名されたEchinocactus ornatus DC.、つまり現在のAstrophytum ornatum (DC.) Britton & Roseです。1828年の命名でした。しかし、1922年にはAstrophytumとされました。実はこの1922年のBritton & RoseによるAstrophytumへの移動は重要で、Astrophytum capricorne (A. Dietr.) Britton & Roseもこの時にAstrophytumとなりました。ちなみに、A. capricorneは、1851年にEchinocactus capricornis A. Dietr.として初めて命名されています。つぎに、1845年にEchinocactus asterias Zucc.が命名されました。現在のAstrophytum asterias (Zucc.) Lem.です。1868年にLemaireがAstrophytumへ移動させました。ここまでは、19世紀の命名でしたが20世紀に入ります。1927年の命名されたEchinocactus myriostigma subsp. coahuliensis H. Moeller、現在のAstrophytum coahuliense (H. Moeller) Kanferです。1932年にAstrophytumへ移動させました。同年には、Astrophytum myriostigma  subsp. coahuliense (H. Moeller) Kanferも提唱されていました。さらに時代は流れて、21世紀によもやの新種が発見されます。2002年に命名されたDigitostigma caput-medusae Velazco & Nevarezです。2003年にAstrophytum caput-medusae (Velazco & Nevarez) D. R. Huntという意見がありましたが、2015年のVazquez-Loboらの論文によりこれが正しいことが確認されました。


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Carnegiea giganteaは巨大な柱サボテンです。映画などで砂漠の風景に登場するサボテンと言ったほうがわかりやすいかも知れません。日本では弁慶柱とも呼ばれています。育つのが遅く巨大に育つため、個人で栽培するタイプのサボテンではありませんから、日本では基本的に植物園で見ることになります。
私がちょうどCarnegieaについの論文を読んでいた時、衝撃的なニュースが流れて来ました。以下のニュースはアリゾナのCarnegieaが暑さて次々と枯死しているというのです。論文の内容とも合致します。

さて、本日ご紹介するのはカーネギアの将来を占うThomas V. Orumらの2016年の論文、『Saguaro (Carnegiea gigantea) Mortality and Population in the Cactus Forest of Saguaro National Park: Seventy-Five Years and Counting』です。国立公園でカーネギアの個体数を実に75年に渡り調査した驚きの記録です。以降はカーネギアのネイティブな呼び名であるSaguaroと呼ぶことにしましょう。

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弁慶柱 Carnegiea gigantea

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神代植物公園の大温室の巨大なカーネギア

「サボテンの森」
調査はアリゾナ州のTucsonにあるSaguaro国立公園のRincon Mountain地区にある「サボテンの森」で、野生のSaguaroの個体群の死亡率と再生について、1942年から2016年までの75年間に渡り調査されました。
「サボテンの森」では調査からわずか7年後の1940年には、管理人がSaguaroの高い死亡率に気が付きました。個体数に対する懸念から死亡率が研究され始めました。さらに、Mielkeは調査地域に若いSaguaroがほとんどいないことを観察し、大きなSaguaro以外は被覆がなく地面が剥き出しであることを説明しました。これらは、過放牧や木材(木版画用)、げっ歯類の多さに起因していました。1950年代は深刻な長期間の干ばつに見舞われ、これは過去400年間で最悪の干ばつであったと見なされました。

再生の始まりから終わりまで
1942年はSaguaroの加齢に伴い著しく死亡率が上昇しました。しかし、Saguaroの再生は1959年頃に始まり、1977年〜1984年の間にピークを迎えました。その後は先細りとなり、1993年には再生は終了しました。再生期間中に828個体の新しいSaguaroが増えましたが、1993年以降はわずか3個体しか増えませんでした。
1962年にAlcorn & Mayは、このまま再生が起こらなければ、2000年にはすべてのSaguaroが失われると予測しました。1962年の予測の10年半後に再生が始まったものの、1942年に調査された6区間のSaguaroの1437個体は2016年には34個体(2%)まで減少してしまいました。
1963年にNiering、Whittaker、Lowe は、「サボテンの森」で放牧が続いているため、個体群の再生には悲観的でした。彼らは自然環境の影響ではなく、人為的な原因である放牧と捕食者(コヨーテ)の制御を指摘しました。牛は大地を被覆する草本を減らしてしまい、捕食者の欠如がげっ歯類の数を増やしてしまい、若いSaguaroが定着する前にげっ歯類に食べられてしまいます。彼らの努力もあって、最終的に放牧は削減されました。
再生が終わった1993年以降は、長期間の干ばつにより、Saguaroの芽生えを保護してくれるナース植物(paloverdeとmesquite)が大幅に減少しました。

エルニーニョによる再生
Betancourtらは、1900年から1930年の間、および1960年から少なくとも1993年の間には、頻繁なエルニーニョ現象が発生したと述べています。エルニーニョの頻繁する期間はSaguaroの再生とリンクしています。Swetnam & Betancourtは、1976年以降(1977年〜1984年)はニューメキシコの樹木からは、前例のない年輪により特徴づけられると述べています。これは、より湿った状態を意味します。

繁殖能力
Pierson、Turner、Betancourtは、長期間の再生不良が続くと、繁殖能力が低下した状態が続いてしまうと指摘しました。繁殖能力を測るために、個体数ではなく分岐した枝の数を1ヘクタールあたりの本数で調べたところ、再生期間中は最高で63〜80本に達しました。しかし、2003年にはわずか29本に減少し最小を記録しました。それでも、2010年には68年ぶりに上昇し、2012年を除いて上昇を続けています。

現在の干ばつ
Weiss、Castro、Overpeckは、1950年代と2000年代の干ばつを比較し、2000年代の干ばつの方が気温が高いことを指摘しています。彼らは気温が高いほど、特にモンスーン前に蒸散を増加させているようです。つまり、現在は枝の本数=繁殖能力よりも、干ばつがSaguaroの再生を妨げる要因と考えられます。
2000年以降の干ばつは、実際には1996年から始まりました。1993年以降の干ばつ前に発芽したSaguaroは、1〜4歳の時に始まった干ばつによりほぼ全滅したと考えられます。1997年から1998 年にかけてエルニーニョがありましたが、干ばつ前に間に埋め込まれたエルニーニョでは、Saguaroの再生を支えるには不十分でした。アリゾナ州Tucsonに近いTumamoc Hillでの85年に渡る研究に基づき、Pierson & Turnerは、凍結や干ばつの影響を受けやすい苗木は死亡率が高く、雨期がSaguaroの再生につながるとは限らないと警告しています。


凍結による枯死
Saguaroの枯死の主な理由は凍結によるものです。しかし、1979年から2011年まで、30年以上に渡り壊滅的な凍結はありませんでしたが、Saguaroの老化に伴う枯死率の増加は急速に続いています。
2007年には大規模な凍結が発生し、1978年以来最大の凍結でしたが、壊滅的なものではありませんでした。しかし、2011年には壊滅的な凍結がおきました。非常に若い個体と老化した個体は高い枯死率でした。若い個体はナース植物や被覆により守られています。また、通常の個体は枝にダメージを受けても回復可能でした。特に80歳以上の個体が凍結の影響を受けやすいことが分かりました。

 
以上が論文の簡単な要約です。
Saguaroが数を減らし新しく芽生えた若い個体が少ないことが分かります。しかし、それが地球規模の気候変動のせいなのかどうかは分かりません。
Saguaroは30〜45歳で果実の生産を始め、寿命は125〜175歳と推定されます。この長い寿命は、毎年種子をばらまいて、苗が育つ環境になるのを待っているからでしょう。おそらく、苗は数年間、干ばつがなければ育つのかも知れません。しかし、沢山の雨が降って沢山の苗が芽生えても、翌年に干ばつがあれば1歳の苗はすべて枯死するでしょう。
多肉植物は寿命が長いものが多いようです。過去に読んだ論文や報告でも、Haworthiopsis koelmaniorumには若い個体がいないだとか、Gasteriaでは若い個体がいないが種子を蒔くとほぼ100%発芽するから実生はほとんど枯死するのだろうなどという内容でした。これらの多肉植物も毎年のように種子を作り、いつか種子が育つ環境になるまで待っているのでしょう。
とはいえ、近年の異常気象や温暖化を考えると、これらの多肉植物たちにはもうチャンスは訪れないのかも知れません。ニュース記事では次々と枯死しており、将来に期待するのも中々困難です。野生の多肉植物たちに、我々はいつまで出会うことが出来るのでしょうか。


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AgaveはサボテンやOcotilloと共にメキシコの砂漠を代表する植物です。近年、日本ではAgaveが大変な人気で、観賞用に栽培されています。しかし、Agaveの利用と言えば、繊維をとるためにプランテーションで産業的に栽培されたり、テキーラの原料として畑で栽培される方が物量的には多いでしょう。このテキーラの原料となるのは、Agaveの樹液には糖分が含まれているためアルコール発酵させることが出来るからです。テキーラは醸造された酒を蒸留して、アルコール分を高くした蒸留酒です。しかし、Agaveの樹液から作られた酒は、昔から一般でも作られていたようです。南米ではトウモロコシ酒などが家庭で作られており、旅行記などを読むと度々出て来るのである程度は知っていましたが、Agaveの酒については情報があまりなく、よくわからないままでした。そこで、何か良い論文はないかと調べたところ、Agaveからとったアガヴェシロップの利用について書かれた論文を見つけました。それは、Rizwan Yargatti & Arti Muleyの2022年の論文、『Agave syrup as a replacement for sucrose: An exploratory review』です。内容はAgaveの酒についてだけのものではありませんが、利用方法の1つとして酒についても言及があったので、本日はこの論文をご紹介しましょう。

アガヴェは古くから利用されてきた
Agaveという用語は、「輝かしく立派なこと」を意味するギリシャ語に由来します。ヒスパニック以前の人々は「Metl」と呼び、スペイン人は「Maneuy」と呼んでいました。かつて、カリフォルニアのインディアンは、野菜が不足しがちな春には、Agaveが食事の45%に達したと考古学的には考えられています。
紀元前7000年〜西暦1500年の359ものcoprolite(糞石)に関する研究や、遺跡の調査によりAgaveが利用されてきたことが分かりました。アステカ文明(紀元前1300年)は、Agaveの茎から樹液(Agumiel)を使用して、pulqueという粘性のあるビールを作っていました。蒸留はメキシコ中北部を植民地化したスペイン人により導入され、現在はよりアルコール含有量が高いTequila、Miscal Bcanora、Siscalが製造されています。
遺跡からはAgaveの柔らかい部位、花茎や葉の根元などが食用とされました。硬い葉からは繊維を取りました。また、Agaveから搾り取られたシロップや、種子を焼いてから砕いて粉末にしてトルティーヤを作りました。

スペイン人襲来
15世紀と16世紀にスペイン人が襲来し、Agaveの消費と栽培が拡大しました。スペイン人は先住民にAgaveの栽培を強要しました。また、スペイン人はフィリピン人労働者を連れてきて、Agaveから蒸留酒を作りました。Agaveの消費量の拡大の一方、甘味料としての利用は、17世紀のサトウキビの導入により減少しました。

アガヴェシロップの作り方
アガヴェシロップの生産に必要な成熟度になるためには、最低でも6年はAgaveを育てなければなりません。収穫したAgaveは芯以外を取り除き、繊維を粉砕してジュースを取り、濾してカスを除きます。自然に加水分解をおこして、徐々に80℃まで温度が上がります。その後、ジュースは精製され、90℃の真空蒸発により余分な水分が除かれます。収穫されたAgaveの約10%がアガヴェシロップの製造に使用されます。
メキシコ政府はアガヴェシロップに対していくつかの法律を制定しましたが、これは主に品質などについてのもので、Agaveの種類に指定はありません。しかし、実際に利用されるAgaveは、A. tequilana、A. americana、A. potatorum、A. salminiana、A. atrovirensなどです。

アガヴェシロップの分析
様々な形で私たちは砂糖=ショ糖を摂取しています。ショ糖はお菓子やデザート、飲料の製造などに広く使用されていますが、ショ糖の大量摂取は肥満や糖尿病など様々な病気の原因にもなります。論文ではAgaveからとられたアガヴェシロップを健康的な糖分としての可能性を調査しました。
まずは、アガヴェに含まれる糖分を分析しました。A. tequilanaは、果糖(フルクトース)が71〜92 %、ブドウ糖(グルコース)が4〜15%、ショ糖(スクロース)が4%、イノシトールとマンニトールが0.31〜0.43%でした。A. salmianaは、果糖が70%以上、ブドウ糖が、25%以上、ショ糖が2%以上、イノシトールとマンニトールが0.02〜2.54%でした。

アガヴェシロップの効能
アガヴェシロップは低GI、抗酸化作用、抗菌作用により需要が高まっています。考えられる効果として、プロバイオティクスによる腸内環境の改善、抗酸化作用やミネラルの吸収、抗糖尿病、ガンの阻害作用などが挙げられています。
アガヴェネクターの代謝効果に関する研究が、若いマウスに対して行われました。アガヴェネクターとは、A. salmianaの樹液から採取される天然甘味料です。離乳34日目からアガヴェシロップおよびショ糖を与え、体重や血糖値、血中インスリン値、脂質量をモニタリングしました。結果として、アガヴェネクターは体重調節や血糖値改善、インスリン恒常性を支持しました。
Agaveは果糖が重合したフルクタンが含まれます。水溶性食物繊維として近年注目されます。アガヴェシロップはラットの体重低下に効果があり、肝臓IL-16(※)レベルの低下が観察されました。

(※) 肝臓障害を引き起こすサイトカイン。

アガヴェシロップでデザートを
論文ではアガヴェシロップを利用した料理が提案されています。詳細は省きますが、主にお菓子やデザートのショ糖をアガヴェシロップで代替、あるいは栄誉補助食品やフルクタンによるアガヴェ繊維などを利用しています。チョコレートやカップケーキ、アイスクリームなどに利用されたこともあるようです。

欠点は?
最後にアガヴェの欠点についてですが、果糖の大量摂取は銅代謝を妨げ、尿酸値の上昇などがあるとされます。また、比較的安価なコーンシロップの混入が懸念されます。

以上が論文の簡単な要約です。
論文中に出て来る低GIは近年注目されていますね。曰く、血糖値の上昇を緩やかにするのだとか言われているようです。また、水溶性食物繊維など、アガヴェシロップは健康に寄与する可能性が分かりました。ただし、とり過ぎも問題のようですから、その全てにおいてではなく、一部の食品についてアガヴェシロップが代替出来れば良いのでしょう。
今回の内容はどう考えても、野生のAgaveの話ではなく、栽培されたものの産業利用の話です。しかし、これはこれで問題があり、海外に導入されたAgaveのプランテーションを作るために土地が開発され、環境蛾破壊されていることから、あまり簡単に考えない方が良いとは思います。まあ、今回はメキシコ国内での話でしょうから、そこまでの問題ではないのでしょう。将来的にアガヴェシロップが世界中に流通していくのでしょうか?


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マダガスカルは希少な動植物の宝庫で、マダガスカル島にしかいない固有種が多いことでもよく知られています。マダガスカルと言えばキツネザルが有名ですが、国際的な違法取引が蔓延しており危機的な状況にあります。あまり一般、あるいはメディアでは話題になりませんが、マダガスカルは植物の固有種も非常に多く、CITESにより国際的な取引が禁止されている種も沢山あります。しかし、残念ながらあまり関心を向けられないこともあり、多くのマダガスカルに分布する植物は絶滅の危機に瀕しております。マダガスカルは花キリンやアロエ、パキポディウム、ディディエレアなど多肉植物の宝庫ですから、多肉植物好きな私は関心を向けざるを得ません。という訳で、本日はマダガスカルの植物と環境について解説したJean-Andre Audissouの2007年の報告、『MADAGASCAR: which future?』をご紹介します。
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Pachypodium densiflorum

森林の著しい減少
島の最初の住民は約2500年前に到着しました。マダガスカル島は森林に覆われていましたが、人口増加と共に伐採され、1950年以降は原生林は50%以上が失われました。1年あたり30万ヘクタールが破壊され、現時点では92%の森林が破壊されました。
著者は近年、マダガスカルを旅し、環境の劣化が加速していることを確認しました。最も重要な問題は、森林破壊、焼畑農業、過放牧ですが、これに外来種の侵入が加わる可能性があります。
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Euphorbia makayensis

森林破壊
マダガスカルでは樹木の伐採は禁止されていますが、先住民は森に侵入し定期的に伐採を繰り返しています。そのため、島の北にあるフランセ山では着生ランや地生ラン、Impatiens tuberosaの希少性に気が付きます。
2006年に著者は3年振りにAmbositraの原生林を訪れましたが、非常に大きな変化がありました。森林は伐採され焼け落ち、生き残ったカメレオンが積もった灰の中を歩いていました。多くの野生ランやカランコエ、着生するペペロミアなどが消滅していました。
Tulear近郊のような一部の地域では、森林伐採により木材が枯渇し、木炭の価格が全国平均の5倍になっています。
2005年に著者と共にAmbalavao地方を訪れたJohn Lavranosは、ほんの30年前は一帯が森林に覆われていたと打ち明けてくれました。
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Euphorbia tulearensis

過放牧と焼畑農業
数千万頭のコブウシと多数のヤギは、マダガスカルの生態系に大きな圧力をかけています。かつての森林は野焼きにより草原になり、家畜の放牧が行われています。乾季には草原も野焼きが行われますが、あまりに頻繁で大まかなため、放牧地以外も不必要に燃やされています。そのため、雨季に土壌の流出により土地が侵食されている地域もあります。Aloe macrocladaはかつては非常に豊富なアロエでしたが、分布域の広さからすると、今では希少となってしまいました。A. macrocladaは火災にも耐える能力はありますが、絶対ではありません。もう1つの例はAloe albifloraで、1939年のBoiteau以降は見つかっていません。2003年にNorbert Rebmannが指揮する探検隊に参加し、特にTsivory地方でA. albifloraを探しましたが、見つけることは出来ませんでした。この地域は焼畑農業が盛んで、A. albifloraは絶滅した可能性が高いようです。
マダガスカル南部では過放牧により破壊的な被害がありました。ディディエレア科の乾燥性森林は、1年の2/3に及ぶ乾季に家畜の侵入を受けます。植物は食べられたり踏みつけられたりし、CeropegiaやSenecio、Euphorbia、Stapelianthusなどの多数の小型の草本が消滅します。例としてTsiombeの東にあるIhodaの塩湖地域の周囲の森があり、よく保存されていると考えられていましたが、2006年に著者が訪れた時には大変な被害を受けていました。
これらの地面を被覆する植物の消失は、土壌流出を起こします。何世紀もサイクロンに耐えてきたAloe suzannaeも土壌侵食により倒壊しました。
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Aloe albiflora

移入種
Agave sisalanaは海外から導入された経済植物で、プランテーションで栽培されます。Amboasary地域では、良質な繊維が取れるAgaveの栽培のために、数千ヘクタールの乾燥地帯の森林が破壊されました。3年間に2回訪れた著者は、Euphorbia ambovombensis var. ambatomenaensisが消滅していることに気が付きました。また、Aloe ruffingianaはまだ豊富にあるものの、適度に遮光してくれていたディディエレアの減少により、強光にさらされてしまっています。
その他の移入種としては、Agave ixtlii があり家畜を囲うための生け垣として利用されますが、大量のムカゴを生成し、ムカゴは地面にばらまかれ増えるため、自然植生に悪影響を及ぼします。
18世紀に導入されたOpuntia monacanthaはやはり生け垣として利用されました。しかし、あまりに増えすぎたため、1923年に天敵のコナカイガラムシの導入が決定されました。それからわずか4年でO. monacanthaは急激に減少しましたが、コナカイガラムシも同時に減少しいなくなりました。するとO. monacanthaは再び急激に増殖を開始しました。
Opuntia ficus-indica var. anacanthaisは乾季の牛の餌とするために導入されました。牧畜民は火でトゲを焼いてから牛に与えます。しかし、Saint Marie岬の保護区にO. ficus-indicaが投棄されたようで、年々分布を拡大しています。
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Euphorbia ambovombensis

外来の樹木による悪影響
森林再生の試みも外来種の発生源となっています。薪や木材の不足を緩和し、土壌侵食を食い止めるためにユーカリや松、アカシアなどの外来種の植林が1世紀前から開始されました。残念ながらこれらの植林地も野放図な焼畑により更地になり、土壌侵食が進行していることも珍しくありません。また、これらの樹種の下では、在来種は育ちません。Fort Dauphinではユーカリが土壌を不毛にしてしまい、元来の植生が徐々に消えつつあります。例えば、Euphorbia francoisiiは深刻な絶滅の危機に瀕しています。
Ambositra地域では、松のプランテーションにより植生に被害が出ています。IvatoではAloe coniferaは針葉樹の生えない花崗岩の岩の上にしか残っていません。残念ながら他にも沢山の例が挙げられます。

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Euphorbia francoisii

開発による脅威
最近、Fort Dauphinで大規模な石炭鉱床が発見されました。露天掘りによる開発が始れば、数百ヘクタールの植生を破壊してしまいます。この地域はアロエやユーフォルビアなどの多肉植物や食虫植物、蘭などの重要な自生地です。開発前に植生の調査が実施されないことは残念です。
石炭輸送のために幹線道路と港湾の工事が進行中です。Aloe bakeriの自生していた丘は石材のために爆破され、今は更地になってしまいました。
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Aloe bakeri

未記載種
マダガスカルにはまだ発見されていない種が沢山あると考えられており、毎年のように新種が発見されています。地元の採取者により採取されたため、正確な自生地が分からないものもあります。Aloe pronkiiやAloe florenceaeなどがそうです。しかし、発見される前に消滅した種が沢山あるはずです。
植生が消滅した地域に再び植林出来ると考えるのは幻想的です。侵食した土壌は不毛の地になります。この侵食による深い傷である「lavaka」(※)がそれを証明しています。
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Aloe florenceae

(※) マダガスカルの丘の側面によく見られる侵食地形のこと。自然でも形成されるが、森林破壊、過放牧、道路建設、野焼きなどによることもある。

以上が2007年の報告の簡単な要約です。
想像以上に状況は悪化していることが分かります。しかし、地元の人々が貧したゆえに、生きるために短期的な利益を得るため自然破壊を行うことを、我々が咎めることが果たして出来るでしょうか? 短期的な利益のためであったとしても、土壌侵食や植生の消滅は、将来的に地元の人々を養うことを不可能にするでしょう。著者も「人口増加と政治当局の欠陥は、この国に取り返しのつかない暗い未来を示しているようだ。」という一文で締めています。非常に残念なことですが、我々に出来ることはあまりにも小さく無力であることを実感させられます。果たして解決策はあるのでしょうか?


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多肉植物の流行はドイツ、フランス、イギリスなどがアフリカの植民地の調査と絡んで発展しましたが、その後は米国が巨大な多肉植物の市場となりました。しかし、最近では日本、韓国、中国などの東アジアの国々でも多肉植物の流行があり、違法取引が心配されます。とはいえ、日本は第二次世界大戦前からサボテンブームがあったわけで、多肉植物新興国と呼べるかは微妙です。それでも、世界規模の流通拡大に伴い扱われる植物の種類も増え、趣味家も爆発的に増えたことは確かでしょう。さて、本日は東アジアの例として、韓国の事例を取り上げます。それは、Jared D. Marguliesの2020年の論文、『Korean 'Housewives' and 'Hipsters' Are Not Driving a New Illicit Plant Trade: Complicating Consumer Motivations Behind an Emergent Wildlife Trade in Dudleya farinosa』です。

Dudleya farinosaは絶滅危惧種ではない
植物は動物と比較すると関心が低く、違法取引に関する研究も進んでいません。絶滅危惧種は植物の方が多いにも関わらず、違法な野生生物取引(IWT)の植物に対する資金は少ない現実があります。メディアからの注目度も低いものでした。近年、注目されるIWTの例として、Dudleya farinosaが挙げられます。現在、DudleyaはCITESによる国際取引の制限はされていません。D. stoloniferaとD. traskiaeは生息地が限られ、絶滅の危機があり、違法取引の懸念があったため、CITESの附属書Iに記載され国際取引が禁止されていました。しかし、国際貿易による脅威に直面していないと考えられたため、2013年のCITES締結国会議(CoP)によりリストから除外されました。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでも、Dudleyaは記載されていません。しかし、多くのDudleyaはカリフォルニア州、および米国連邦絶滅危惧種リストに記載されていますが、D. farinosaは記載されていません。D. farinosaは分布が広く絶滅危惧種ではありません。ですから、D. farinosaの取引で問題となるのは、土地の所有者に無許可で行われた密猟や、検疫許可証を取得しない密貿易や品目を偽って輸出した場合です。

ことの発端
2017年にカリフォルニア州魚類野生生物局(CDFW)は、外国人によるD. farinosaの密猟が増大していることに気が付きました。
ことの発端はカリフォルニア州の小さな町の郵便局から大量の荷物を出荷しようとしている男性がいたということから始まります。偶然居合わせた市民が郵送物から土がこぼれ落ちる様を見て、地元で問題となっているアワビの密猟ではないかと疑いました。その後、警察はこの事件を追い、2018年にD. farinosaを密猟した2人の韓国人を逮捕しました。彼らは多肉植物の販売業者で、世界中で違法採取を行っていました。CDFWはこれが単独の孤立した事例ではなく、グループ犯罪であることに気が付きました。2017年から2018年の間に、カリフォルニアで外国人によるD. farinosaの密猟は摘発されただけで6件ありました。事件の規模は約50個体を密猟した単独犯から、CDFWが100万米ドルを超える価値があると推測する数千本の植物の大量密貿易までありました。専門家や裁判所は、過去数年間の間にもDudleyaの密猟が行われていた可能性が高いとしています。

そもそも、D. farinosaは合法的に入手可能な市場がすでにあるため、わざわざ違法取引をする必要はありません。なぜ、密猟が繰り返されるのでしょうか? 著者は韓国のニュース報道や裁判記録、さらには韓国の人々にインタビューし、D. farinosaの入手の動機を明らかにしました。

韓国メディアの説明
韓国の複数のメディアは、D. farinosaを韓国の消費者が欲する理由を挙げています。曰く、「サボテンのようにDudleyaは乾燥した気候で生きるため、その葉や茎に水を含む植物です。空気清浄化と家の装飾用に、韓国の投資ツールとして脚光を浴びています。」ということです。
他の記事では、特に中国や韓国では、必需品ではない人気アイテム、特に世話が必要なアイテムの購入を通じて、他人に経済的な地位を誇示するために、D. farinosaを入手する圧力があったという憶測もありまます。また、D. farinosaの形は東アジアの宗教的シンボルである蓮の花を彷彿とさせるという指摘(※)もありました。

(※) これは流石にこじつけに感じます。最低限、日本人の感性ではありません。これは、1952年のWardの報告ですが、元の文書を読んでいないので、実際の調査で判明した事実なのか、Wardが東アジア文化を調べる中で思いついた話なのかは不明です。

CDFWの説明
CDFWの説明はもっと一般的なもので、Dudleyaのみに対してだけの説明ではありません。しかし、Dudleyaを含めあらゆる希少生物に対応可能な考え方です。つまり、希少生物は入手が難しく、その希少さゆえに価値が上がり、密猟者はより希少生物を欲しがります。違法であるということは価値なのです。

インタビューによる説明
まずは、2019年の韓国の地方検事局のインタビューでは、中国と韓国は巨大な中産階級が台頭しており、増えた可処分所得で家を美しく飾りたいと思っています。ブームになっているD. farinosaは、「これはこの場所から来た」という由来が重要です。それは、天然サーモンと養殖サーモンのようなものかも知れません。
ほとんどのインタビュー対象者は、投機的な性質を表明しました。しかし、D. farinosaに対する消費者の需要の高まりの背後にある動機について、メディア記事とインタビュー対象者の間で一貫性がありました。ある記事によると、韓国と中国の「主婦」と「流通に敏感な人々(Hipster)」の間で急速に多肉植物「熱」が高まっていることに起因するというのです。この枠組みはメディアで繰り返し使われています。

業者による説明
韓国の多肉植物業者によると、メディアの説明とは異なり、D. farinosaは専門的で通常は経験豊富なコレクターに特に望まれていることを強調しました。韓国では多肉植物が流通していますが、その多肉植物人気とD. farinosaを所有したい人との間にほとんど関連がないと言います。実際の多肉植物の小売業者によると、D. farinosaは一般的な人気はないため、通常は在庫は置かないそうです。D. farinosaは一般の市場ではなく、多肉植物をオンライン販売している専門業者からのみ入手可能でした。
また、カリフォルニアと韓国の業者や植物専門家によると、D. farinosaを栽培する場合は屋外では難しいと言います。D. farinosaは崖の急斜面に生えるため排水を好み、水やりに気をつけないと根腐れの可能性があります。韓国の業者はD. farinosaは初心者向けの植物ではなく、高度なレベルのケアが必要とし、多くの場合は温室を借りて栽培していることを確認しました。


一般的な説明は憶測
CDFWの職員、カリフォルニアの自然保護活動家、多肉植物専門家は、アジアの消費者はD. farinosaが野生起源であるからこそ評価しているのだという憶測を表明しました。しかし、著者のインタビューでは、D. farinosaの生産者や販売業者は、野生起源かどうかには興味がなく、実際の植物の美的な品質に興味を持っていました。業者の顧客にとっても、野生起源であることが価値を高めるということはありませんでした。顧客はカリフォルニア原産であることは知っていましたが、重視したのは価格とサイズ、品質についてでした。なぜ、東アジアではD. farinosaが非常に人気があると信じられているのだろうかという質問に、ある業者は「これは、中国のコレクターや日本のコレクター、韓国のコレクターについてではなく、個々の(Dudleyaなどを好む)コレクターが望んでいるからだ。」と答えました。

野生個体は好まれない
D. farinosaは起源による価値はありませんでしたが、植物のサイズや年齢は重視されていました。著者の観察によると、輸入されたD. farinosaは温室で輸出のダメージを回復させ、新しい葉が出て見映えが良くなるまで販売されません。野生植物の特徴である、虫食われ跡や自然環境による痛みは好まれず、低品質で価値を下げるものと捉えられています。
著者は韓国の多くの業者がD. farinosaを種子から栽培していることを確認しました。熱心なコレクターが好むのはより大きい植物でしたが、大きく育てるには時間がかかります。しかし、韓国の業者による栽培苗は評判が高く、「エキゾチックなカリフォルニアの植物」に対する需要ではなく、韓国の温室で栽培されている植物に対する需要でした。

主たる動機
人々を密猟に駆り立てた主な推進力は、D. farinosaの需要と供給のバランスが崩れたことにあります。国内の植物を急激に枯渇させる世界的な需要がありました。数年前、韓国、中国、日本、ヨーロッパなどで、ソーシャルメディアの普及により情報が急速に拡散し、専門のコレクターの間でD. farinosaへの関心が急上昇しました。ソーシャルメディアとグループメッセージは合法取引と違法取引の両方のプラットフォームとして機能します。多肉植物コミュニティ内でD. farinosaが流行るにつれ、コレクターはオンラインコミュニティ内でD. farinosaの栽培経験を共有することに関心を持ちます。このようなことを、Thomas Walters(2020)は「交際への欲求により動機付けられる」としています。

国際市場に少ないことが原因
韓国国内ではD. farinosaに需要があるものの、すぐに入手可能な供給はありません。植物検疫証明書の発行と植物輸入許可は非常に高コストで、業者からすると単に「高すぎる」ということです。米国内で商業的に入手可能(しかも合法的に)なはずのD. farinosaの供給が足りていないのは、皮肉にも米国におけるD. farinosaの人気が低下していたからです。あるDudleyaの専門家のコメントでは、「彼らが野生のDudleyaを盗んだものの、5ドルで売ることも出来ない」としています。このような状況が違法取引を蔓延させた原因と考えられます。

正しい動機の解明が必要
メディアが繰り返し仮説を「リサイクル」して記事を書く度に、いつの間にか仮説は常識になってしまいます。これは、CDFWなどの米国側も同様で「東アジア人はエキゾチックな野生植物を好む」という人種的な仮説がいつの間にか固定観念になってしまっていました。IWTに対処するには正しい動機の理解が必要です。

以上が論文の簡単な要約となります。
日本ではDudleyaは人気はあまりあるとは言えないでしょう。基本的に市販はされていません。また、日本にも現地球信仰はありますが、それは原産地へのエキゾチックな思いではなく、単純に野生植物の見た目の良さに惹かれているだけです。Dudleyaのように古い葉が新しい葉に容易に更新される植物に対して原産球を求めるとはとても思えません。
さて、繰り返される言説はいつの間にか常識となり、仮説は真実となります。D. farinosaについて言うのならば、単純に国際市場で不人気ゆえにファームであまり栽培されず、そのためD. farinosaを求める東アジア市場の盛り上がりに対して国際市場が対応出来なかったことが原因です。だからといって密猟や密貿易を仕方がないとは思いませんが、その動機を正しく理解していないとIWTへの効果的な対応は不可能でしょう。もし、当局の言う「エキゾチックな野生植物」を信じるならば対処は困難で地道な監視や摘発しかありませんが、「国際市場での枯渇」が原因ならば割合その対処は容易です。
この論文のような地道な調査が、野生動植物の保全に非常に力になるでしょう。思い込みで対処せずに正しく理解し対処出来るように、このような研究が推進されることを望みます。


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野生の多肉植物は様々な原因で減少しており、絶滅が危惧されているものも珍しくありません。サボテンは種類も多く、そのうち絶滅危惧種もまた多いとされています。そんな野生のサボテンは今どうなっているのでしょうか? とりあえず、Barbara Goettschらの2015年の論文、『High proportion of cactus species threatened with extinction』をご紹介しましょう。

植物は調査不足
近い将来、多くの植物が絶滅の危機に瀕すると予測されています。しかし、動物と比較するとあまり調査がなされず、植物が直面するリスクの大きさとその性質は不明です。しかも、植物の絶滅の危機に対する評価は、ソテツや針葉樹、マングローブ、海草(海藻ではなくアマモなどの顕花植物)など、少数の植物群に偏よっています。そのため、推定30万種類のうち19374種、つまりわずか6%が評価されたに過ぎません。植物はデータが少なく、動物より人気がないため評価のための資金も足りていません。
この論文では、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにカテゴリーされた最大の植物分類群であるサボテン科の評価を報告します。サボテンは最も絶滅の危機に瀕している分類群の1つです。著者らはサボテンの1480種類を評価しました。うち、2種類は情報不足で評価出来ませんでしたが、評価された1478種類のうち31%に絶滅の可能性あります。これは、すべての動植物群のうち5番目に高い絶滅の危機率で、ソテツ(63%)、両生類(41%)、針葉樹(34%)、サンゴ(33%)に次ぎます。

サボテンの豊富さと危機
サボテンの種類の豊富さのピークは、ブラジルのRio Grande do Sul州南部とウルグアイのArtigas北部のごく限られた地域にあります。また、この地域は絶滅の危機に瀕している種類のピークも示しています。その他のサボテンの絶滅の絶滅に瀕している比率の高い地域は、Queretaro州とSan Luis Potosi州、Tehuacan-Cuicatlan地域のOaxaca州とPuebla州、ブラジルのBahia州東部とMinas Gerais州北部、チリのAntofagasta南部、ウルグアイ東部にあります。

サボテンの脅威
農業および水産養殖への土地の転換、野生植物の採取、宅地および商業開発は、メキシコ北部やメソアメリカ、南アメリカ南部の大部分のサボテンにとって主たる脅威となっています。メキシコやカリブ海地域、バハ・カリフォルニア半島などの沿岸地域は、主に宅地開発や商業開発の影響を受けています。メキシコの太平洋岸とブラジル中央海岸に沿った地域では、農業開拓の影響を受けています。ペルーやチリの海岸沿いに分布するものは、コレクション目的の採取や材木用の伐採が影響を与えています。もちろん、これらのすべての要素の影響を受けているメキシコ中部やブラジル東部もあり、絶滅危惧種が集中しています。
絶滅危惧種のサボテンに与える脅威は、園芸用取引や個人によるコレクション目的の採取が47%、放牧用地としての開拓が31%、農地開拓が24%となっています。ブラジル東部と南部では牧畜と農地開拓により、それぞれ61種と46種に影響を及ぼしています。しかし、ブラジル南部の最大の脅威は、ユーカリのプランテーション開発か原因です。絶滅危惧種のParodia muricataを含む27種類が影響を受けています。ユーカリの落ち葉がサボテンを覆ってしまい、受粉や開花を阻害したり枯らしてしまいます。また、ブラジル東部では採石によりBahia州で15種、Minas Gerais州で19種が影響を受け、状況は悪化する一方です。これらの植物は土壌特異性で、Acanthocereus glazioviiやColeocephalocereus purpureusなどのブラジル原産種は鉱業に重要な鉄分が豊富な赤鉄鉱々床または残丘でのみ育ちます。最も危機的なのはArrojadoa marylaniaeで、白い石英岩上にのみ生えるため、その採掘により脅かされています。メキシコ中北部では脅威はブラジルと似ていますが、遊牧民の放牧も要因として追加されます。メキシコ北西部ではエビ養殖が砂漠に向けて拡大しており、Mammillaria bocensisやCorynopuntia reflexispinaなどが予想以上にダメージを受けています。

サボテンの利用
他の絶滅の危機に瀕している植物とサボテンの違いは、サボテンの57%の種が人々により利用されているということです。最も一般的な用途は観賞用で674種類が栽培され、コレクションのために野生の植物や種子が採取されます。また、サボテンは154種類は食用、および64種類は薬(家畜用を含む)にも利用されます。調査によると、保護地域と比較して保護されていない地域は、脆弱種や絶滅危惧種の割合が高いことが確認されました。また、栽培される絶滅危惧種のサボテンのうち、86%が野生植物由来であることが分かりました。それでも、1975年以来CITESによる規制や、国際市場で種子繁殖による植物が入手可能となり違法取引は減少しました。しかし、ペルーのようにCITESが施工されたばかりの国では、違法取引により脅威が蔓延しています。特に新種は違法採取されやすく、脅威にさらされます。例えば、Mammillaria luethyiの正確な産地は伏せられ、野生個体群の保護のために少数の専門家にのみ知られています。

データが足りない
絶滅のリスクを評価するためには、その種に対する十分な情報が必要です。サボテンはデータ不足とされた種類は、129種類(8.7%)もありました。他の植物では、針葉樹1%、ソテツ1%、マングローブ4%、海草12%となっています。
サボテンの場合、種の評価には約6時間かかり、人件費で167米ドルかかりました。1人で1年あたり約363種類を評価出来ます。従って、割合安価で評価は可能です。サボテン以外の植物も保全活動をするための評価が必要です。2020年までに記載されたすべての植物を評価するには、少なくとも157人のスタッフが5年間フルタイムで働くことにより達成出来ます。この場合、約4700万米ドルの費用が必要です。植物種のかなりの割合を評価することは不可能ではありません。


以上が論文の簡単な要約です。
この論文の趣旨は、ただサボテンの絶滅の危機を評価することだけではなく、その他の植物にも適応出来ることを示したということです。しかし、サボテンはその多くが危機的な状況にあるようです。開発による危機はそのキャスティング・ボードは自生地の国々にあるわけですから、我々趣味家にはどうにもならない問題です。しかし、違法採取や違法取引については、我々にも出来ることがあります。まあ、気をつけましょうという話です。しょっ引かれることは無いにしろ、犯罪に加担したくはありませんからね。



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CITESとは、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」のことです。CITESの附属書に記載された動植物は国際的な取引に制限があり、しその国際的な取引は禁止あるいは許可が必要です。昨日はCITESの基本的な理念についてご紹介しました。しかし、その本当の評価は理念ではなく現実的な運営とその結果に求められます。本日はそんなCITESの現実についての事例を調査したPatrick O. Waeberらの2023年の論文、『Gaps in CITES policy undermine conservation of threatened species by providing loopholes for illegal trade』をご紹介したいと思います。

莫大な利益
Rose wood(紫檀)やEbony(黒檀)はその独特の材の色から高級木材として珍重されており、いくつかの科からとれます。その希少性と美しさから、種類を無視して品質のみを基準に取引されます。主にアフリカおよびアジア諸国から輸出され、ゾウやサイ、大型のネコ科動物を合わせたよりも巨大な利益をもたらします。紫檀などの違法取引は年間700億〜1710億米ドルを生み出し、麻薬や武器、および人身売買と同じ規模の利益があり、犯罪シンジケートにより密輸されています。

違法取引が罰せられない
CITESは184か国の締結国が参加する政府間の国際協定です。北朝鮮と南スーダンだけが締結していません。
さて、2014年にシンガポールはマダガスカルから違法に輸出された5000万米ドル相当の紫檀の丸太29434本を押収しました。これは、CITES保護種に対する過去最大の押収でした。さらに、ケニアとスリランカは同様の押収を行い、合計8069本の紫檀の丸太を押収しました。
シンガポールとケニアでは、複数の栽培と上訴にも関わらず、裁判所は違法取引をした荷送人に紫檀の返還をするという判決を下しました。これらの国内裁判所は、CITESについてあまり理解していないようです。また、CITESがこれらが違法な手段で輸出され、附属書IIにより保護されているという通知を発行したのは、裁判が終了し判決が下った後でした。さらに、スリランカの関税は、2022年に押収した紫檀の販売について入札しました。

ロンダリングされる禁輸植物
このような取引が制御されないまま放置されると、多くの種が絶滅に追いやられてしまいます。犯罪グループは、CITESの決定と国内法との矛盾や、関係国のCITES勧告に対する実行能力、および政治的、経済的利益などを含む、政策-能力-起訴のギャップをついてきます。CITESとマダガスカルの禁輸措置に違反した丸太の輸出と押収品の管理の不備は、合法的な転売を通じて違法取引された丸太の(出所の)洗浄を可能とします。

CITESは実効性皆無
CITESの附属書に記載された種は押収されますが、国際的な押収が増加しているにも関わらず起訴される違法取引業者はほとんどいません。さらに、押収物を販売してしまうと、新たな需要を生み出し、より多くの違法取引を助長する可能性があります。CITESは2016年に違反に取引されて材料に関するガイダンスを発行しました。CITESは違法取引に対処するために、2019年にタスクフォースを設立し、持続可能な割り当て量と目録を焦点に当て、高価値の木材の非有害性調査結果(NDF)を確立するためのガイダンスを提供しました。

CoP19は見て見ぬふり
2022年にパナマで開催されたCITES締結国会議(CoP19)は、シンガポール、ケニア、スリランカで押収された4万本の紫檀に関して一切の行動を示さず、押収した国の国内問題であるとして見て見ぬふりをしました。押収後の措置をしなければ、違法な紫檀は中国へ送られるでしょう。マダガスカルに備蓄されている数千本の紫檀と黒檀の丸太もCoP19で議論されましたが、管理の強化は指示されたものの、持続可能な貿易を確保するための具体的な行動への措置は削除されました。

違法取引に対処するための提案
紫檀と黒檀は絶滅の危機に瀕しており、中国の需要を減らすか取引を完全に停止する必要があります。著者らは紫檀と黒檀の違法取引に対して3つの対策を提案します。
①押収物の管理
CITESのタスクフォースが開始した作業を拡大し、CITESの記載種の保管、遺伝子のサンプリング、押収物の処分まで含めるべきです。

②押収物の処分
違法取引の押収物を販売することは、違法採取物を合法な材料に変換してしまうことになりかねません。押収物は原産地の科学者と連携して、種ごとにNDFを準備する必要があります。さらに、当事者が取得調査評価を実施し、違法に輸出された木材を合法化しなようにする必要かあります。

③科学に基づく監視

マダガスカルの紫檀と黒檀の監視と追跡が進んでいます。野生の樹木の状態が評価されています。また、リアルタイムの監視システム技術も開発されています。しかし、まだ情報が不足しており、NDFを策定出来ていません。

以上が論文の簡単な要約です。
状況は思う以上に深刻で、せっかく締結したCITESが機能していないことは明らかです。違法取引の規模の大きさから個人レベルではなく、大規模な犯罪グループの存在が想定されます。しかし、CITESはそのような犯罪グループに対しまったくの無力です。CITES締結国会議(CoP)も非常に無責任ですが、あるいは政治的な力学が働いているのかも知れません。紫檀などの高級木材は莫大な金を産むため、マダガスカルでは大統領選の年は材の違法取引が活発化するなど、政治権力との関係性も不透明です。正直、現状を鑑みれば解決は不可能ではないでしょうか。最後の著者らの提案も割と曖昧ですが、これは違法取引された材料を押収した国の国内問題となっている現状から、CITES側に権利を移す狙いもうかがえます。しかし、残念なからCoPの態度からして、このような提案が認められる可能性はあまり期待出来ないかも知れません。


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「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以外、CITES)」は希少な野生の動植物の国際的な取引を禁止しています。サボテンや多肉植物の多くはCITESの附属書に記載された希少な植物です。我々のような趣味家にも無関係ではなく、知らずに違法取引による植物を入手してしまう可能性もありますが、それでも知らないでは済まされないことだと私は思います。ですから、私自身の勉強を兼ねて、CITESや植物の違法取引について、今日から何本かの論文を参照に見ていきましょう。
CITESは重要ですが、条約が存在するだけでは意味がなく、有効的に運用されて初めて意味を持ちます。本日は、サボテンや多肉植物に関するCITESの取り組みについて書かれた、Maurizio Sajevaらの2007年の論文、『The Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES) and its Role in Conservation of Cacti and Other Succulent Plants』をご紹介します。少し古い論文ですが、基礎的なことから丁寧に解説されています。

CITESの誕生と目的
生息地の破壊は生物多様性の減少の主な原因ですが、2番目は野生動植物の取引が原因です。野生生物の取引の規制は、1963年のICUN(国際自然保護連合)に承認された決議草案により生まれました。CITESのテキストは、1973年に約80か国により承認され、1975年の7月に発効しました。CITESはUNEP(国連環境計画)を通じて国連の傘下にあります。現在(2007年)、170か国以上がCITESの加盟国になっています。
CITESは生息地での生存に対する深刻な脅威となる、あるいは将来に取引される可能性のある種の取引を管理・規制することを目的としています。


CITESの骨格
CITESは国際条約であり、締結国は管理当局と科学当局を任命する必要があります。管理当局は政府の部門であり、条約の規定を実行しCITESの許可を発行する責任があります。CITESの事務局はスイスのジュネーブに本拠があり、条約の実施を支援します。
科学当局はCITES許可する申請について管理当局に科学的な助言をします。また、植物の輸出、または輸入が野生の生物に有害であるかを管理当局に助言します。CITES締結国会議(CoP)の会合は、2〜3年ごとに開催され、締結国が附属書を修正し、政策の問題について議論します。採決は投票により行われ、各国政府に1票の投票権があります。非政府組織もCoPに参加出来ますが、投票権はありません。

附属書
CITESは脅威のレベルに応じ、3種類の附属書を発行しています。CITES附属書には、約5000種類の動物と25000種類以上の植物が含まれています。
附属書Iは、絶滅の危機に瀕しており、その取引が絶滅につながる種です。野生個体の取引は禁止されていますが、人工繁殖個体は適切な承認を条件に許可されています。
附属書IIは、取引が制御されず継続した場合、絶滅する可能性がある種です。附属書IIには、絶滅の危機に瀕していないかも知れないが、判別が困難な種も含まれています。ほとんどの野生植物は附属書IIに含まれ、その取引には許可が必要です。
附属書IIIは、各国により保護され、CITESの締結国から協力を求められている種です。

CITESの及ぶ範囲
CITESは植物そのものだけではなく、植物の一部や、植物から作られた製品の取引も管理の対象です。また、植物標本などの科学資料も含まれます。
各国は自国の貿易に関する年次報告書を作成しなくてはなりません。問題が発生した場合、CITES常任委員会が制裁を行う可能性があり、多くの場合は是正措置が行なわれるまで貿易禁止の対象となります。

サボテンと多肉植物
昔からサボテンや多肉植物は栽培されてきましたが、第二次世界大戦後は福祉と輸送の改善のため、その栽培と取引は急増しました。
野生植物に対する高い需要は、野生の個体群に非常に高い圧力をもたらし、一部の分類群は1970年代の終わりまでに絶滅しました。

サボテン科 Cactaceae
サボテンはアメリカ大陸に固有で、リプサリスなどの着生種の一部はマダガスカルやスリランカに自生します。サボテン科は祖先型のペレスキアから、アリオカルプス、メロカクタスまで非常に幅広い形態を持ちます。直径はブロスフェルディアの数センチメートルから、エキノカクタスの1メートル以上まで、高さはカーネギアの数メートルまで様々です。
CITESが発効された時、サボテン科はすべて附属書IIに記載され、一部は附属書Iに記載されました。附属書Iには約90種が含まれます。


②ユーフォルビア属 Euphorbia

ユーフォルビア属には2000種類以上が含まれ、世界中に分布しています。一年草から木本、多肉植物まで様々な形態を持ちます。最も有名なユーフォルビアは、ポインセチア(Euphorbia pulcherrima)です。
ほとんどの多肉質のユーフォルビアは緑色の茎を持ち、高さは数センチメートルから高さ4メートルを超えるものまで様々です。通常、葉は短命で、トゲを持つものもあります。多肉質なユーフォルビアは、アメリカ大陸でサボテンが担う役割をアフリカで果たしています。多肉質なユーフォルビア約700種は附属書IIに記載され、10種類のマダガスカルの矮性種が附属書Iに記載されています。

③アロエ属  Aloe

アロエ属には500種以上が含まれ、アフリカ南部とアフリカ東部、マダガスカルに集中しています。
22種類のアロエが附属書Iに記載され、Aloe vera以外のアロエは附属書IIに記載されています。Aloe veraはCITESの対象とならない唯一のアロエで、医薬品や化粧品産業に供給するために世界中で栽培されています。1994年のCoPでAloe veraは野生個体が存在しないとされ、CITESから除外されました。

④パキポディウム属 Pachypodium

パキポディウム属は附属書IIに記載され、3種類は附属書Iに記載されています。附属書Iに記載された種はマダガスカル原産で、その希少性と貿易需要のため1990年代にリストアップされました。

⑤ディディエレア科 Didiereaceae

ディディエレア科はAlluaudia、Alluaudiopsis、Decarya、Didiereaからなる多肉植物です。マダガスカル南部と南西部の乾燥したトゲのある森林の重要な構成員です。ディディエレア科植物は伐採により生息地は脅かされています。園芸取引の需要は1980年代にピークを迎え、その後は一般化しました。ディディエレア科のすべては附属書IIに記載されています。

⑥フォウクエリア属 Fouquieria

フォウクエリア属には11種類が含まれ、メキシコと米国南西部に限定的に分布します。
附属書IにはF. fasciculataとF. purpusiiが記載され、F. columnarisなど3種類は附属書IIに記載されています。

⑦アナカンプセロスとアボニア
     Anacampseros & Avonia
アナカンプセロスとアボニア(かつてはアナカンプセロスに含まれていた)には20種類以上が含まれ、その大部分はアフリカ原産です。すべての種は附属書IIに記載されています。
アフリカ原産種は園芸的に価値が高く、コレクターは脅威です。しかし、現在のCITESの貿易データでは、取引はほとんどされていないことになっていますが、違法取引の報告はあります。

⑧Welwitschia mirabilis

ウェルウィッチアは霧などの湿気で生存する最大1500年に及ぶ長寿命の固有種です。以前は附属書Iに記載されていましたが、生息数はそれほど珍しくはなく、十分に保護されていることから、附属書IIに下げられました。種子を除いて野生個体が取引される可能性は低いと考えられます。アンゴラとナミビアの原産です。

⑨アガヴェ Agave

リュウゼツラン属には200種類以上が含まれますが、CITESで規制されているのは2種類だけです。附属書IにはA. parvifloraが、附属書IIにはA. victoria-reginaeが記載されています。これらの種類が国際取引される可能性はあまりありません。

⑩パイナップル科 Bromeliaceae
いわゆるアナナスとかブロメリアの仲間ですが、これらを多肉植物と考える人もいます。熱帯アメリカに300種類以上あり、着生植物でエアプラントと呼ばれています。原産地では電線などにも着生し一般的です。これらのうち、7種類は附属書IIに記載されています。グアテマラは主要な生産・輸出国です。アナナスの貿易は持続可能と考えられて来ましたが、Tillandsia xerographicaの栽培品とされるものが、CITESの人工繁殖の定義に当てはまるのか疑問視されています。

人工繁殖の免除
CITESの利点の1つは、多くの植物の人工繁殖を促進することです。人工繁殖は野生個体への圧を取り除き、野生植物を採取する必要をなくし、安価で高品質で病気のない植物を提供出来ます。このことから、締結国はCITESの管理からいくつかの種類を免除しました。サボテンの栽培品種を始め、ユーフォルビアの3種、蘭の栽培品種が含まれます。
CITESの人工繁殖の定義は、管理された環境下での栽培品を指します。野生個体を採取してきて栽培したものは当てはまりません。栽培品はCITESの許可により確立したものでなくてはなりません。違法採取された野生個体から種子をとり、その種子を実生してできた個体は人工繁殖したものとは見なされません。人工繁殖をするためには野生個体を採取する必要が生じますが、これもCITESの許可により実施されるべきです。


以上が論文の簡単な要約です。
しかし、読んでいて思うのは、内容があまりに理想主義過ぎるということです。そうであるべきであるというのは分かりますが、実際にそうであるかはまた別の問題です。CITESは万能ではありません。明日はそんなCITESの現実的な話についてご紹介したいと思います。残念ながら多肉植物ではありませんが、貴重な植物の宝庫であるマダガスカルも関係する樹木の輸出に関する話題です。CITESのこれからを占う重要な論文です。ぜひ、御一読のほどをお願いいただけますと嬉しく思います。


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最近、サボテンの受粉についての論文をいくつかご紹介してきました。花は受粉のための器官なのですから、花の受粉は植物にとっても重要です。しかし、受粉し種子が出来ても、そのままでは意味がありません。種子は適切に散布される必要があります。種子の散布は、甘い果実を動物に食べてもらい、種子が糞と共にあちこちに散布されるという方法が一般的です。では、サボテンの種子の散布はどうなっているのでしょうか?
本日はチリの固有種であるEulychnia acidaの種子散布について調査したRocio A. Caresらの2018年の論文、『Frugivory and seed dispersal in the endemic cactus Eulychnia acida: extending the anachronism hypothesis to the Chilean Mediterranean ecosystem』をご紹介します。その前に、論文中に出て来る「時代錯誤仮説」について説明しましょう。その植物の適正な種子散布者が存在しないことがあり、それは種子散布者がすでに絶滅し存在しないからだと考えられます。Janzen & Martin(1982)は、新たに導入された外来の大型草食動物が、絶滅した本来の種子散布者の代わりをするのではないかという説を唱えました。これを時代錯誤仮説と呼びます。
有名な例では南米原産のホウガンノキがあります。ホウガンノキの巨大で著しく硬い果実を割ることが出来る動物は存在しません。かつて存在したゾウなどの巨大動物により種子が散布されていた可能性があります。
著者らはEulychnia acidaの種子散布について、時代錯誤仮説が当てはまるのではないかと考えたようです。時代錯誤仮説は熱帯地方を想定していますが、チリの地中海性気候の生態系にも適応出来るでしょうか?

種子の発芽には果肉の除去が必要です。これは果肉に含まれるアブシジン酸が種子の発芽を抑制するからです。ですから、動物に果実が食べられて、種子が散布される必要があります。そのため、本来の種子散布者が絶滅した場合、種子が出来ても発芽せず、いずれ絶滅する可能性があります。

Eulychnia acidaは、チリの北向きの斜面に生える円柱状のサボテンです。果実は黄緑色で直径5〜6cmになり、小さな鱗片で覆われています。果実は白く甘酸っぱく、平均して1930±95.7個の小さな黒い種子を含みます。果実は熟すと枝から落ちますが、地面に落ちた果実を食べる動物は確認されていません。しかし、保護されていない地域では、外来種のヤギがE. acidaの果実を食べたことが観察されました。ヤギはE. acidaの失われた種子散布者の代わりとなるのでしょうか?

調査はチリ中北部の半乾燥地帯にあるLas Chinchillas国立保護区とその周辺で行われました。気候は半乾燥地中海型で、降雨は6〜8月に集中しています。エルニーニョの影響により、干ばつと多雨が繰り返されています。植生は、Flourensia thurifera、Bahia ambrosioides、Porlieria chilensisなどのトゲのある低木や、Trichocereus chiloensisやEulychnia acidaなどの円柱状のサボテン、Cumulopuntia sphaericaやEriosyce aurataなどの球状のサボテンで構成されていました。

野生下でE. acidaの果実を食べたのは、げっ歯類のデグー(Octodon degus)のみでした。
また、デグーとヤギ、グアナコ(草原性のアルパカやリャマの仲間)にE. acidaの果実を与え、糞の中の種子を取り出して発芽実験を行いました。
この摂食試験では、デグーは1つの果実を食べたものの、糞中の種子はわずか15個しかありませんでした。1つの果実の中には平均1930個の種子があることからしたら、デグーはE. acidaの種子散布者ではないことが分かります。種子はほとんどが消化されてしまったようです。
ヤギとグアナコは、糞中におそらくすべての種子が見つかりました。ヤギの糞中から取り出した種子は60%の高い発芽率を示しました。対照的にグアナコの糞から取り出した種子は13%しか発芽しませんでした。
ちなみに、保護区の内外でE. acidaの数を調査したところ、保護区内は2.15ヘクタールで30の若い個体と186の大人の個体があり、保護区外では2.11ヘクタールで104の若い個体と254の大人の個体がありました。つまり、保護区外の方が若い個体が多く、種子の散布が行われているのです。著者らは保護区外にはヤギがいるためである可能性があるとしています。
また、E. acidaの果実は2種類の鳥につつかれましたが、種子を散布するほど食べられてはいませんでした。サボテンも種類によってはその果実を鳥が好んで食べますが、E. acidaの果実は糖分がなく酸味があるため、一般的に鳥には好まれないことが考えられます。
著者らはヤギがE. acidaの種子散布者として有効であると考えます。一般的にヤギは過放牧により砂漠化を進行させますが、E. acidaの増加に寄与した可能性があるのです。

著者らはE. acidaの本来の種子散布者はグアナコである可能性があるとしています。南米では更新世に大型哺乳類のほとんどが絶滅しましたが、グアナコが唯一残った大型哺乳類です。しかし、グアナコは16世紀にスペイン人が到着してからは急激に減少し、牧畜により生息地を追い出され、現在ではアンデス山脈の標高の高い地域にのみ分布します。現在の保護区にはグアナコは存在しないため、過去数世紀はヤギがE. acidaの種子を散布していたと考えられます。しかも、グアナコと異なり、ヤギによる種子散布は発芽率を下げないため、非常に重要な役目を果たしたとしています。これらのことにより、時代錯誤仮説をチリの地中海気候の生態系にも適応出来ることを示唆します。

以上が論文の簡単な要約です。
もはやその種子を散布する本来の動物がいないEulychnia acidaですが、若い個体が沢山育っていることから、ヤギが種子を散布している可能性が大きいとしています。本来の種子散布者がいないのに、外来種が代わりを務めているのです。グアナコの減少はE. acidaの絶滅へのカウントダウンだったわけですから、絶滅の可能性を減じたとはいえ、多くの植物には有害なヤギが必要というのも皮肉な話です。
そう言えば、マダガスカル島固有種のUncarinaも、そのトゲだらけの果実は絶滅した巨鳥エピオルニスが想定されています。つまり、Uncarinaの種子散布者は存在しないのです。Uncarinaはトゲでエピオルニスの足に絡みついて、歩くごとに果実は踏みつけられて、種子が少しずつこぼれるとされています。現在、野生のUncarinaは生長した個体ばかりで実生が見られません。ただし、牧場の牛の通り道にはUncarinaの苗が沢山生えています。これは牛がエピオルニスの代わりに種子を散布しているようです。これも、時代錯誤仮説の実証例だったわけですね。
時代錯誤仮説を私は知りませんでしたが、調べたら意外とそのような植物はあるのでしょう。ただ、グアナコの人為的な減少は悲しいことです。調べられていないだけで、このような関係が破綻し絶滅へ向かう植物は沢山あるのかも知れません。調査される前に絶滅した植物もあるのでしょうから、科学的な調査と適切な保全が活発に行なわれることを願います。


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サボテンの受粉は、様々な動物により行われてます。夜間に白い花を咲かせる柱サボテンは、種類によりますがコウモリや蛾により受粉します。逆に日中に咲く赤系統の細長い花にはハチドリが訪れます。ところで、花の受粉と言えばミツバチですが、サボテンではどうなのでしょうか? 近年では今までほどミツバチは重要ではない可能性が指摘されています。しかし私自身、サボテンとミツバチの関係についてよく知らないことに気が付きました。何か良い論文はないか調べたところ、M. E. Mcintoshの2005年の論文、『Pollination of two species of Ferocactus: interaction between cactus-specialist bees and their host plants』が見つかりました。内容は、2種類のFerocactusの花を訪れるミツバチを調査したものです。この論文で調査されたFerocactus cylindraceusとFerocactus wislizeniの2種類はミツバチにより受粉することが前提として、研究がスタートしています。では、何を調べたのかと言えば、スペシャリストとジェネラリストについてです。花粉媒介者は、ある植物の花に特化したスペシャリストと、様々な植物の花を訪れるジェネラリストに分けられます。スペシャリストが来るからと言っても、必ずしもスペシャリストが受粉に適しているとは限りません。その植物と1対1の関係を結んでいるのならばまだしも、タイヨウチョウのように花の蜜に特化したスペシャリストだと、植物の種類によっては単なる蜜泥棒となります。

さて、著者らはFerocactus cylindraceusとFerocactus wislizeniの花を観察し、花への訪問者とその花の結実と種子を確認しました。アリゾナ州のツーソンの北西の尾根でF. cylindraceusを、ツーソンの南40kmのサンタリタ実験場でF. wislizeniを観察しました。F. cylindraceusは4月下旬から9月に開花し、F. wislizeniは7月中旬から10月に開花しました。どちらも自家不和合性で、自身の花粉での受粉は約2%に過ぎません。
結果として、2種類のFerocactusはサボテン専門のミツバチである「サボテンミツバチ」の訪問を受けていることが明らかとなりました。特に、F. cylindraceusは、ほぼDiadasia rinconisというサボテンミツバチしか訪問せず、その他の少数の訪問者もSvastra duplocinctaやAshmeadiella opuntiaeという、異なる種類のサボテンミツバチでした。
対するF. wislizeniは、上記の3種類のサボテンミツバチにより65〜80%受粉しました。3種類のミツバチの割合は毎年変動がありました。
また、外来種のセイヨウミツバチやハエ、蝶の訪問では受粉しませんでした。
ここで、花粉媒介者の質を見てみます。
F. wislizeniには3種類のサボテンミツバチが訪問しますが、花への訪問による結実には違いがありました。D. rinconisの訪問は約33%に過ぎないにも関わらず、種子生産の79%を占めていました。

以上が論文の簡単な要約です。
2種類のフェロカクタスは、サボテンに特化したスペシャリストにより受粉することが明らかとなりました。しかも、Diadasia rinconisという特定種に依存しています。しかし、スペシャリストとの関係は大変興味深いものです。スペシャリストが受粉に有利であるならば、サボテンも受粉率が上がり増えやすくなります。サボテンの個体数が増えれば、サボテンミツバチにも有利な環境となります。このような緩い共生関係は、気付かないだけで自然界では幾重にも張り巡らされているのでしょう。
そう言えば、セイヨウミツバチが受粉に関与しないとされています。近年、セイヨウミツバチの受粉について過大評価であったとされていますが、ここでも確認出来ます。そもそも、種類によるとは思いますが、野生のサボテンにはあまりセイヨウミツバチは訪れないという観察は昔からされています。ただし、著者らは、サボテンミツバチの毛深さが花粉媒介者として重要かも知れないと言います。ですから、アリゾナ州のツーソンではサボテンミツバチによるというだけで、マルハナバチなどが生息している地域では異なるかも知れません。まあ、マルハナバチがサボテンの花を積極的に訪れるならばの話ですが。


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アロエは高さ5mを越える巨大なものから、株全体が数センチメートルしかない小型なものまで、そのサイズは様々です。しかし、その種類は大型種は少なく小型種は多くあり多様化していることがうかがえます。では、小型であることが進化を促進したのでしょうか? 本日はそんなアロエのサイズと多様性について調査したFlorian C. Boucherらの2020年の論文、『Diversification rate vs. diversification density: Decoupled consequence of plant height for diversification of Alooideae in time and space』をご紹介します。

多様化率と多様化密度
生物多様性はその空間分布では非常に不均一です。生物の種類はホットスポットと呼ばれる非常に生物の多様性が高い地域に集中し、それ以外では比較的少ないと言われます。このホットスポットの起源に関する進化的説明は、伝統的に種の多様化の時間的要素を強調してきました。つまり、多様化とは単位時間あたりの種分化率の上昇や、絶滅率の低下により表されて来ました。しかし、南アフリカのケープ地域の一部では、種が長期間に渡り蓄積し、多様化は適度な速さであるにも関わらず、種は非常に豊富です。ホットスポットの特徴は多様化率の上昇だけではなく、特定地域の種の蓄積と増加に関連するかも知れません。ですから、この論文では時間による多様化と空間による多様化の類似点と違いを探ります。一般的に単位時間あたりの多様化を多様化率と呼びますが、新たに単位面積あたりの多様化を多様化密度と呼ぶことにします。
近年、サイズ、特に植物の背の高さが多様化に与える影響が議論されており、一般的に小型の植物は種分化率が高く絶滅率も低いとされています。これらは単位時間あたりの種分化として議論されますが、単位面積あたりの種分化にもよく当てはまります。小型の植物は分散距離が短いため、大型の植物より狭い面積で地理的隔離が起きやすく、より高い種分化密度となる可能性があります。


アロエ類とは?
論文ではアロエ類を用いて、植物のサイズと多様化密度について研究しました。ここでいうアロエ類とは、Aloe属とそこから分離したAloidendron属、Aloiampelos属、Aristaloe属、Gonialoe属、Kumara属、さらにHaworthia属とそこから分離したHaworthiopsis属、Tulista属、加えてGasteria属とAstroloba属が含まれます。
著者らはアロエ類のうち204種の遺伝子を解析し、系統関係を類推しました。遺伝子を調べた種のサイズを調べ、そのサイズにより単位面積あたりの種が蓄積する傾向があるかどうか、つまりは草丈が多様化密度と相関するかをテストしました。
アロエ類の草丈は小型のものが多く、より小型の種へ進化する傾向があります。計算上のアロエ類の最適な草丈は8cmでした。なぜ、小型化するのか、その理由の推測は困難です。一般的に植物の背の高さは、太陽光をめぐる植物同士の競争に関連します。しかし、乾燥地においては太陽光をめぐる競争は最小限か、まったくない可能性があります。さらに、背の高い植物、特に樹木は、干ばつのストレスを受けやすいとされます。小型種はくぼみなどに生えることにより、ストレスを緩和出来るかも知れません。多くのアロエ類は植物同士の競争や草食動物から、あるいは火災から逃れるために、岩の割れ目などでも育ちます。
結論としては、アロエ類の小型種が優勢な傾向は、小型化する系統の多様化が加速されたのではなく、より小型化する方向へ進化する傾向の結果であるということです。


多様化率は上昇しない
草丈が多様化率に与える影響を2種類の検定により解析しましたが、アロエ類は草丈の低下とともに多様化率を高めるということの証拠を示しませんでした。この結果からは、草丈以外の要因も関係する可能性を排除出来ません。著者らは、調査した204種類が不十分である可能性も指摘しています。
アロエ類の多様化の歴史は2つの代表例があります。1つは、小型種を多く含むHaworthia属におこり、草丈の低下が多様化の加速に関連していました。しかし、最も劇的な多様化率の上昇は、Aloe属のどちらかといえば草丈の高いグループでおきました。その理由は明らかではありませんが、Aloe属はアロエ類の中で唯一アフリカ南部以外に分散し、マダガスカルやアラビア半島にまで分布します。広範囲の分散が草丈の低下よりも重要な要素として多様化率を刺激したと考えられます。


多様化密度は上昇する
アロエ類の草丈は多様化率に影響しませんが、多様化密度はアロエ類の草丈と関連することが分かりました。多様化密度の上昇は、地域全体の遺伝子流動が容易に阻害されるため、生息地の局所的な適応がおこります。小型であることで、生息数が多く密度が高くなり、種分化しやすくなります。
南アフリカは地球上で最も植物が多様化した地域の1つで、フィンボス、草原、砂漠、森林を含みます。ケープのフィンボスはホットスポットであると認識されています。また、カルー植物相(冬季降雨砂漠植物相)は、フィンボスほどの種類はありませんが、単位面積あたりの種とその固有性が異常に高くなっています。そして、カルー植物相には多くの小型多肉植物が生息しています。このカルー植物相の単位面積あたりの多様性は、まさにアロエ類の草丈と多様化密度の関係を物語ります。
著者らはアロエ類だけではなく、他の植物でも調査が必要であるとしています。例えば、Cotyledon、Crassula、Pelargonium、ハマミズナ科(メセン類)なども、多様化密度の研究に適しています。

以上が論文の簡単な要約です。
記事を書いている私自身、妙に分かりにくい論文だとは思いました。多様化率というのは単位時間あたりの多様化と言いますが、よく分かりませんね。アロエ類の遺伝子を解析すると、その変異の度合いから分岐年代が分かります。つまり、調査した204種類のアロエ類が、いつの時代にどの種が種分化したかが計算可能なのです。ですから、今回の論文ではアロエ類の多様化は、短い時間に急激に進化した訳ではないということです。むしろ、アロエ類は種が長く保存され、小型種は絶滅率が低下しているというのです。
まあ、なんのこっちや分からんという方も多いかも知れませんが、申し訳ないのでが私自身これ以上は上手く説明出来ません。ひたすらにややこしい論文を直接読んでいただくしかありませんね。


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ここのところ、異常な暑さが続いており、多肉植物も試練の時を迎えています。我が家は簡素な遮光しかしていませんから、多肉植物はやや日照過剰気味かも知れません。そんな猛暑の中の多肉植物の様子を見てみましょう。

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Pachypodium densiflorum
デンシフロルムは丈夫で花はよく咲きますが、花は割と地味なほうです。デンシフロルムは地域によりかなりの個体差があり、花のサイズや色に変異があります。遺伝的には複数種を含んでいる可能性もあるようです。


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Gonialoe sladeniana
この暑いさなかに開花しました。スラデニアナの花は淡い色合いです。濃いオレンジ色の花が咲くヴァリエガタとは印象が大きく異なります。このほとんど開かない花に来る花粉媒介者は何でしょうか? 花色からするとタイヨウチョウではないような気もしますが、どうでしょうか?


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Gasteria glauca
最近、来たばかりのグラウカです。ホームセンターで痩せていましたが、植え替えてから水やりしたら少しふっくらしました。


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Euphorbia sp. nova somalia hordio
謎の未記載種ですが、非常に美しい新しい枝が出て来ました。


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Stephania pierrei
今年は初めて開花もしましたが、暑い中でも中々元気です。あまり強光にも乾燥に強い感じはしませんが。


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Aloe bowiea
ボウィエアも今年2本目の花茎を伸ばし始めました。強光には弱いものの暑さは平気みたいですね。


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Zamia integrifolia
今年は新しい葉が2枚出ました。小さな苗ですが徐々に充実してきています。

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Cycas nongnoochiae
珍しく実生しました。根が出てから3ヶ月近く経ちますが、ようやく葉が展開しました。今年はこの1枚だけでしょうね。しかし、しなやかで美しい葉です。


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Euphorbia gorgonis
ゴルゴニスは強光のストレスで真っ赤ですが、花芽が出て来ました。ゴルゴニスは強光下で育てて枝を短くするのが好みです。


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Agave multifilifera
少しフィラメントが出てようやく特徴が出て来ました。室内から出した時にひどく日焼けしましたが、すぐに回復しました。アガヴェは詳しくありませんが、水やりは多めの方が調子が良さそうです。


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Euphorbia sapinii
サピニィイはようやく葉が出て来ました。去年は葉が3枚でしたが、今年は何枚出るでしょうか?


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Euphorbia groenewaldii × Euphorbia venefica
この暑いさなかに開花中です。


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Euphorbia opuntioides
成長点が潰れてしまい、生長が2年ほど止まっていましたが、ようやく動き始めました。opuntioides=「ウチワサボテンのような」ですから、本来は平たい形に育ちますが、まだ特徴が出ていません。


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Euphorbia globosa
グロボサですが、一年中花が咲いています。
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よく見ると、花茎の先にできた子株から花が咲いています。面白いですね。

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Euphorbia iharanae
イハラナエは非常に調子がよく、美しい葉が沢山出ています。よく似たE. neohumbertiiは強光に弱いので対照的です。


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Euphorbia saundersii
いわゆる白馬城ですが、パキポディウムの中では葉の動きが良いほうです。


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Pachypodium brevicaule
今年はパキポディウム苗の動きが悪く心配ですが、ブレヴィカウレは元気です。

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Euphorbia windsorii
ウィンドゥソリイはまだ去年の葉か残っていましたが、ようやく新しい葉が出て来ました。一安心。


という訳で、この猛暑の中でも多肉植物は割と元気です。しかし、暑さより陽光の強さがよろしくないみたいで、やや色合いが怪しいものもあります。最近はわが街は37度だとか38度とだとか、中々の灼熱ぶりです。これからまだ暑くなるのでしょうから、今年は40度を超えかねません。遮光ネットが必要ですかね…


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Aloe feroxは高さ5mに達する巨大アロエです。開花時には複数本の花茎を伸ばし、大量の花をつけます。一般的に巨大アロエの花の受粉は日和見鳥により行なわれるとされています。日和見鳥とは普段は花の蜜を専門としていない鳥のことで、花の開花時期だけ蜜を吸いに来ます。アフリカにはタイヨウチョウという花の蜜を専門とする鳥がいますが、タイヨウチョウは巨大アロエを訪れても花粉や柱頭に触れないで上手く蜜だけを掠め盗ります。ですから、タイヨウチョウは巨大アロエの受粉には関与していないのです。むしろ、普段は花の蜜を吸わない鳥は、採蜜行動が洗練されていないので花粉だらけになり花粉を運びますから、日和見鳥は巨大アロエの受粉には重要です。
しかし、一般的に花の受粉にはミツバチが重要な働きをしているとされます。それはミツバチ自体の数が多く、そのため花を訪れる数が非常に多いからです。巨大アロエにもミツバチは非常に頻繁に訪れます。巨大アロエの受粉にミツバチはどの程度貢献しているのでしょうか? 本日はそんな巨大アロエの1種であるAloe feroxの受粉にミツバチが寄与するかを調査したCarolina Dillerらの2022年の論文、『Why honeybees are poor pollinators of a mass - flowering Plant: Experimental support for the low pollen quality hypothesis』をご紹介します。

著者らはミツバチの花粉媒介者としての能力を測るために、まずミツバチが運搬する花粉の量を測定しました。その結果、花粉の運搬量はミツバチより日和見鳥のほうが多く、一度に大量の花粉を運びます。しかし、ミツバチは非常に頻繁に花を訪れるため、運ばれる花粉の総量はそれほど劣ってはいませんでした。この事実からすると、ミツバチはA. feroxの重要な花粉媒介者に思えます。しかし、一般的に巨大アロエの受粉にはミツバチの寄与は小さいとされています。それはなぜでしょうか?
A. feroxは自家不和合性で自分の花粉では受粉せず、他個体の花粉により受粉するとされます。著者らはこれはミツバチが同じ花を訪れるため自家不和合性により受粉しないのではないかという仮説を立てました。この仮説を検証するためには、柱頭についた花粉を見分ける必要があります。ただし、花の柱頭についた花粉が自家か他家かを直接見分ける手段はありません。基本的に種子が出来たかを見て間接的に判断されます。直接らは、ミツバチが訪れた花が受粉したかに加え、花を訪れたミツバチを捕獲し、花粉がついていない花に人工的に受粉させました。この時、半分は自家受粉させ、残りの半分は他家受粉させました。

結果は、ミツバチが訪れた花の受粉率は非常に低いものでした。そして、自家不和合性の試験でも、やはりA. feroxは自家受粉しないことが明らかとなりました。

著者らは、受粉に寄与しないミツバチが花に頻繁に訪れることにより、植物は蜜や花粉を盗まれて受粉を阻害されている可能性を指摘します。
ミツバチは様々な栽培果物の受粉に利用されて来ましたが、近年ではミツバチの花粉媒介の効率に疑問を生じさせています。ミツバチは同じリンゴの木を訪れることが多いという報告が50年以上前の1966年(Free)になされていましたが、まったく重要視されてきませんでした。しかし、近年では農業においても自然環境においても、ミツバチは以前に考えれてきた程には重要ではないことを示す証拠が増えて来ています。
セイヨウミツバチ(Apis mellifera)の本来の分布はヨーロッパ、アフリカ、中東ですが、養蜂のために世界中で飼育されています。ミツバチが蜜泥棒であるならば、本来は分布しない地域で飼育されるセイヨウミツバチが、自然環境中の植物の受粉に悪影響を及ぼす可能性が懸念されます。

以上が論文の簡単な要約です。
驚くべきことに、巨大アロエはミツバチが受粉にあまり寄与しないというものでした。さらに、果樹でもミツバチの受粉に疑問符がついていることが分かります。しかし、これらの結果は、1個体の植物が沢山の花を咲かせる場合の話だと私は受け取りました。というのも、ミツバチは花の場所を覚えていて採蜜した場所に再び帰ってきますが、これは必ず採蜜出来る可能性が高いからです。新たな花を探すより、沢山の花が咲いている場所に行けば、花を探すための時間と労力を省略出来ますから、最適化された行動と言えます。では、野原に一面に生える草の花ならば、どうでしょうか? この場合もミツバチは同じ場所を訪れるはずですが、草花は1個体で大量の花を果樹ほどはつけませんから、ミツバチは同じ花ばかり訪れることはないはずです。ミツバチは周囲の花を順繰りに訪れるでしょうから、受粉への寄与は非常に高そうです。
ただし、この場合においても、野生のミツバチではない養蜂によるセイヨウミツバチは環境に悪影響があるかも知れません。私が思うに養蜂されるミツバチが沢山いる場合、花粉や蜜を競合する野生のミツバチなどの他の昆虫に対する悪影響は考えなければならないでしょう。当たり前のように利用されているセイヨウミツバチの利用も、その効果や環境への影響について、改めて調査し考え直す必要があるのかも知れません。


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菊水(Strombocactus disciformis)は生長が遅く、どちらかといえば地味な渋いサボテンです。希少なサボテンですが、最近ではそれなりに実生苗が流通しそれほど珍しくないように思えます。しかし、国際的にはどうやら違法取引が蔓延しているようです。サボテンは違法採取や違法取引は非常に蔓延していると言われますが、摘発されたというニュース以外ではその実態に触れることは中々ありません。サボテンの違法取引は現在どうなっているのでしょうか? 今回は菊水を例にサボテンの違法取引の一端について調査したVania R. Olmis-Lau & Maria C. Mandujanoの2016年論文、『An open door for illegal trade: online sales of Strombocactus disciformis (Cactaceae)』をご紹介します。

菊水
菊水 Strombocactus disciformis

Strombocactus disciformisはIUCN(国際自然保護連合)により脆弱種として指定されているメキシコの固有種で、CITESの附属書Iに指定され国際取引が禁止されています。その自生地はわずか10箇所であり、過剰な違法採取により個体数が減少しています。メキシコのレッドリストにも絶滅危惧種とされ、種子の採取であっても許可が必要で、野生植物の商業取引は許可されていません。

近年の植物の取引はオンラインが主体となっており、簡単に世界中の植物を購入出来ます。インターネットの普及により行なわれる商取引は、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引において重大な懸念事項となっています。
サボテンはCITESにより、Pereskia、Pereskiopsis、Quiabentia以外のサボテンは、附属書Iあるいは附属書IIに記載されており、国際取引には許可が必要です。附属書Iに記載されたサボテンは国際取引は禁止されており、人工繁殖した個体は取引可能です。しかし、その場合でも附属書II相当の扱いとなり、輸出許可が必要です。人工的に生産された雑種は証明書があれば取引でき、その雑種の種子や花なども取引可能です。しかし、附属書Iの種類の種子の取引にはCITESの許可が必要です。これは、メキシコから輸出されるすべてのサボテンの種子にも当てはまります。


著者らはスペイン語、英語、フランス語、ドイツ語でウェブサイト上のStrombocactusの販売について調査しました。結果としてストロンボカクタスの個体あるいは種子のいずれかを販売している32のオンラインストアを見つけました。そのうち、CITES認定苗床から入手し必要書類を提供すると述べているのは、Duben Kaktus、Seeds Cactus、B & T World Seeds、Kakteen-Haage、Uhlig-Kakteen、Mesa Gardenの6つだけでした。
5つのストアはCITESの文書は輸出に必要だが責任は負わないとしており、4つのストアはEU外に輸出しないのでCITESは免除されていると述べ、12のストアは植物あるいは種子による繁殖であると主張しています。
eBay、Amazon、Mercadolibreなどの大手オンラインストアやオークションサイトでは、24個体が見つかりましたが、eBayではCITES認定の植物を販売しているのはDuben Kaktusだけでした。
一部のオンラインストアではCITES文書が提供されており、その割合はドイツで17%、チェコ共和国では25%、フランスでは33%、イタリアでは50%でした。
種子はオンライン取引が盛んで、大抵は100粒未満ですが、一部のストアでは500〜1000粒の種子を販売していました。また、一部の民間ウェブサイトでは電子メールのやり取りにより、野生植物の種子の採取が公然と行なわれていました。

ほとんどのオンラインストアは、CITES文書なしで植物の国際取引を行っており、違法取引の可能性があります。eBayでは植物や種子の取引の禁止および制限品目のリストに基づき販売品目を報告するオプションがありますが、これは病害虫や雑草の蔓延を防ぐことを目的としています。この国際取引の方針は売り手が国際貿易法を認識することを期待し、法律が尊重されない場合は販売品目が削除される可能性があると警告してます。しかし、このような決まりはあるものの、現実には運用されていません。
これらのオンラインストアのほとんどは、CITESの附属書Iに記載されている他のサボテン(50種類近い)も販売されています。

以上が論文の簡単な要約です。
サボテンの売買も昔のようなカタログ販売ではなく、現在はウェブサイト上でのオンライン取引が主流です。しかし、そのインターネットの自由さが逆に違法取引の温床になっている様子が分かります。昨今のネット犯罪の蔓延とその摘発や監視の難しさは、様々なニュースで皆様もご存知のことと思います。中々こういったネット上の違法行為は決まりがあったとしても、運用する上では現実的には有効な規制は難しいでしょう。もし、このような状態が続くならば、今後国際的な大型オンラインストアでのサボテンの販売自体が禁止される可能性も出て来るでしょう。もし、そうなったとしても、電子メールなどによる個人取引に移行するだけかも知れません。しかし、いわゆる地下に潜った状態となり、一般的な多くの目に触れなくなるため、違法取引業者の旨味は減じるでしょう。
国際的な監視は重要ですが、監視を重くするということはその分だけ人と金がかかる訳ですから、簡単には解決しない問題です。著者らもこの問題は私たちが自問しなければならないと言うように、規制だけでは解決困難です。これは違法採取者や違法取引業者、オンラインストアだけの問題だけではなく、サボテン愛好家のモラルが問われているのだと私は感じましたが、皆様はどう思われたでしょうか?



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Euphorbia resiniferaはサボテンに似た多肉質なユーフォルビアで、多肉質なユーフォルビアでは珍しくアフリカ北西部に分布します。日本では「白角キリン」という名前もあります。このE. resiniferaはその樹液を薬としていたと言われています。かつて北アフリカに存在したNumidiaの王の従医であるEuphorbusがE. resiniferaを薬として使用したことから、Euphorbiaという名前がついたらしいのです。
さて、このE. resiniferaはその分布により表現型(姿形)に違い(=多形)があると言われています。本日はそのE. resiniferaの多形について調査したHassane Abd-dadaらの2023年の論文、『Phenotypeic diversity of population of an endemic Moroccan plant (Euphorbia resinifera O.Berg)』をご紹介します。

E. resiniferaはモロッコ原産のユーフォルビアで、高さ1mほどに育ち、枝が密につき直径0.5〜2mのマット状の茂みを作ります。そのため、土壌侵食を防ぐ働きがあるようです。また、小さな黄色い花はミツバチを引き寄せます。E. resiniferaの蜜は付加価値が高く、養蜂業が営まれ年間300トンの蜂蜜を生産しています。
しかし、近年では開発の影響によりE. resiniferaの数が減少しています。E. resiniferaはモロッコ固有種ですから、保護のために対策を講じる必要がありますが、まずはその多様性についての調査が不可欠です。著者らはE. resiniferaの表現型について調査しました。

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Euphorbia resinifera

2019年にモロッコに分布する12箇所のE. resiniferaが調査されました。様々な17部位の表現型が測定されました。例えば、トゲの長さは1.95mm〜3.88mm、ブッシュの直径は83〜196.6cm、果実は0.05〜0.17gなど、表現型に差がありました。
表現型に基づく分析により、E. resiniferaは3つのグループに分けられることが分かりました。ただし、特徴が近いものが分布が近いとは限りませんでした。調査地はいくつか山脈がありますが、山ごとに表現型が似ているということもなく、その違いは標高、降水量、気温に関係性がありませんでした。

以上が論文の簡単な要約です。
調査の結果は思わぬもので、これといった傾向がありませんでした。例えば日本は南北に長いため、同じ種類でも分布の最北端と最南端では、かなり表現型が異なることがあります。しかし、この場合はその中間はグラデーションのように特徴が移り変わります。また、気温や降水量により、表現型が局地的に変わることも観察されています。
しかし、不思議なことに、E.resiniferaでは様相が異なります。山頂から麓まで生えていない限り、基本的に好ましいある一定の範囲の標高に生えるため、山同士で植物は行き来が出来ません。つまり、
山は自然の障壁で、山ごとに特徴が異なったりもしますが、それもありません。大変不思議です。
ただ、もとより多様性が高く、様々なタイプが生えてくるだけかも知れません。つまり、様々な環境に適応するために、最初から多様になっているとしたらどうでしょうか? 例えば、乾いた環境でも様々なタイプの実生が生えますが、生き残るのは乾燥に強いものだけが生き残るという場合です。異なる環境では、その環境に最も適したものだけが生き残るのです。論文では環境と表現型の関係を否定していますが、表現型と環境適応は必ずしも関連があるとは限りません。最終的には遺伝子解析を行い、その結果と表現型と環境適応を照らし合わせて、総合的に理解する必要があるでしょう。


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Fouquieriaは米国とメキシコの乾燥地に生える砂漠植物です。Fouquieriaは一般的に水分を貯蔵する塊根や塊茎、多肉質な葉などを持ちません。一部の種類は塊茎を持ちますが、相当な大きさにならないと幹は太りませんし綺麗な壺型には育ちません。栽培されたFouquieriaは、枝を切り詰めて盆栽のように幹を太らせますが、これは自然な姿ではありません。水分を貯蔵する手段がないFouquieriaが乾燥地に生き残るための戦略は、乾季には葉を落として休眠し、雨が降れば急激に育つというものです。そのため、ほとんど生長が見られない年もあるようです。Fouquieriaは非常に長寿な植物と言われていますが、生長しない年があるのならば年輪が出来ておらず、Fouquieriaの正確な年齢が分からないかも知れません。という訳で、本日のお題はFouquieriaの幹の年輪は正確な年齢を表しているのか? という問題についてです。参考にするのは、Keith T. Killingbeckの2017年の論文、『Are growth rings accurate fingerprints of plant age in a stem-succulent, drought deciduous shurb growing in the Chihuahuan Desert?』です。

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Fouquieria splendens

米国とメキシコにあるチワワ砂漠とソノラ砂漠の象徴的な植物であるOcotillo(Fouquieria splendens)は2世紀以上の年齢に達する長寿命な低木と言われています。しかし、これまでに測定されたOcotilloは、最も古いものでも105歳にしかなりません。Ocotilloの年輪が正確な年齢を表しているのか分からないため、著者は調査を行いました。
温帯の植物は季節性の落葉をするため、1年に1つの年輪が出来ます。しかし、砂漠植物は雨が降らなければ生長せず、または雨が降れば1年に複数回生長することもあります。つまり、年輪が出来ない年、あるいは年輪が複数出来る年がある可能性もあります。
さて、調査はチワワ砂漠のNew Mexico州南部のJordana盆地Summerford山の麓で行われました。Ocotillo苗の枝の生長を記録し、年輪を数えました。

同い年のOcotilloでも生育が異なり、すべての枝の合計の長さは、最大の個体で1369cm、最小の個体で173cmでした。サイズは約8倍の差がありますが、年輪を数えるとまったく同じ本数でした。つまり、Ocotilloは生育の良し悪しでは年輪に違いはなく、1年に1本の年輪ができることが確認されました。これにより、Ocotilloの年齢を数えることが出来ます。

過去に計測された年輪は104歳でしたが、著者は107歳の年輪を計測しています。もっと古いであろう個体のサンプルもありましたが、残念ながら中央が抜けており年輪を正確に測定出来ませんでした。著者は非常に大量の枝を有する個体もいることから、より古い年齢のOcotilloが存在すると考えているそうです。

以上が論文の簡単な要約となります。
Ocotilloは温帯域の樹木と同様に、1年に1本の年輪を刻むことが分かりました。Fouquieriaは実際に育てていれば分かりますが、生長中であっても乾けば素早く葉を落とし休眠します。ですから、休眠中はまったく生長出来ません。また、葉を落として休眠してから雨が降れば、新しい葉が出て来て生長を開始します。おそらくは、野生でも葉を落としたり新しく葉を出したりを繰り返しているはずです。しかし、それでも年輪は増えたりはしないのです。通常は生長が止まったら新しい年輪が出来るような気がします。不思議ですね。さて、この研究により年輪が正確な年齢を表していることが明らかになりましたが、最も高齢なOcotilloは何歳かという謎はまだ未解明です。Ocotilloはいったい何歳まで生きるのでしょうか? 多肉植物はまだまだ謎だらけです。


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アポロカクタスは紐サボテンなどと呼ばれる細長く育つサボテンで、日本では金紐(Aporocactus flagelliformis)が有名です。どうも、メキシコの雲霧林に生える植物のようです。一般的にアポロカクタスは5種類、あるいは2種類あるとされています。いったいどちらの考え方が正しいのでしょうか? 詳しく研究した論文を見つけましたから、ご紹介します。それは、Isaura Rosas-Reinholdらの2021年の論文、『Systematic study and niche differentiation of the genus Aporocactus (Hylocereeae, Cactoideae, Cactaceae)』です。

アポロカクタスは雲霧林のマツ・コナラ林で、木に着生して垂れ下がって育ちます。アポロカクタス属はLemaireにより1860年に命名されました。1メートル以上のぶら下がる、円筒形の茎とピンク色の花を持つ種類のサボテンをグループ化しアポロカクタス属としました。LemaireはCactus属だった3種類をアポロカクタス属とし、A. flagelliformis、A. baumannii、A. colubrinusからなるものでした。また、Cactus leptophisをA. flagelliformisの異名としました。しかし、Lemaireは後にA. baumanniiとA. colubrinusをCleistocactus属に移しました。さらに、1868年にLemaireはCereus flagriformisをアポロカクタス属に移しました。
1920年にBritton & RoseはLemaire(1960, 1961年)により描かれたアポロカクタス属を認識し、アポロカクタスをA.fragelliformis、A. leptophis、A. flagriformis、A. martianus、A. conzattiiの5種類としました。同様にBravo-Hollis(1978年)もこの考え方を支持しました。
しかし、1986年に国際多肉植物研究機構(IOS)のHunt & Taylorは、アポロカクタス属は2種類からなると指摘しました。1989年にHuntは「北部の種は紫がかるピンク色の花を咲かせ、南部の種はほぼ規則的な緋色の花とやや硬い茎を持つ。前者がA. fragelliformis、後者がA. martianusに相当する。」と主張しました。他の3種類は異名とされました。
問題はこれらは形態学的な特徴に基づいていますが、実際の特徴は連続的であるため種の分離は困難ということです。

そこで著者はアポロカクタス属とされる5種類の遺伝子を複数個体で解析しました。すると、アポロカクタス属は2つのグループに分けられることが分かりました。
1つのグループは、A. martianusとA. conzattiiからなり、3個体のA. conzattiiはまとまりがありました。しかし、A. conzattiiはA. martianusの一部に見えます。A. martianusの産地により特殊化したタイプがA. conzattiiなのかも知れません。
もう1つは、残りのA. fragelliformis、A. flagriformis、A. leptophisからなります。ここでは、A. fragelliformis、A. flagriformis、A. leptophisは区別出来ません。2個体のA. leptophisはまとまりはなく、A. flagriformisもA. leptophisも、A. fragelliformisに完全に埋没しています。
要するに、アポロカクタス属はA. martianusとA. fragelliformisの2種類からなり、他の3種類は異名となりました。1989年のHuntの指摘は正しかったと言えます。

2種類の特徴を見てみると、A. fragelliformisの花は4〜7cmでピンク色からマゼンダ、A. martianusの花は7〜12cmで淡赤色から深赤色です。また、A. conzatiiとされてきた個体には固有の特徴はないということです。
また、A. fragelliformisはSierra Madre Oriental、Queretaro、Guanajuato、Hidalgo、Pueblo北部、Veracruz中央部に分布します。A. martianusはVeracruz中央部、Pueblo南部、Oaxaca州にかけて、主にSierra Madre del Surに分布します。アポロカクタスの2種類の分布限界は、Sierra Madre OrientalとSierra Madre d el SurがメキシコのTransvolcanic Belt (メキシコ横断火山帯)と交差するVeracruz州中央部に収束します。

論文ではアポロカクタス属の近縁種との関係性も調べています。なぜなら、アポロカクタス属がDisocactusに含まれるという考え方もあるためです。
遺伝子解析の結果では、アポロカクタス属は独立した分類群であり、Disocactusに含まれないことが明らかになりました。SelenicereusとWeberocereusが非常に近縁で、アポロカクタスはこの2属と共にまとまったグループを作ります(=Hylocereoid clade)。Hyrocereoid cladeの姉妹群が、Phyllocactoid cladeです。ここには、Disocactus、Epiphyllum、Pseudorhipsalisが含まれます。さらにその姉妹群がAcanthocereus cladeで名前の通りにAcanthocereusが含まれます。
アポロカクタスがDisocactusに含まれるという考え方は、花の特徴から来ています。曰く、ハチドリにより受粉するであろう形、明るさや昼行性であるという共通点がありますが、しかしこれらは各グループで複数回進化した特徴と考えられます。

以上が論文の簡単な要約となります。
5種類のアポロカクタスは2種類になりました。金紐は日本でも昔から知られている普及種ですが、思いの外、その分類は紛糾していたようです。しかし、金紐の花はよくよく見れば、細長い形と赤系統という特徴は鳥媒花の特徴をまずまず揃えています。サボテンの花には、アポロカクタスのようなタイプがそれなりにありますから、思ったよりサボテンの受粉に鳥が関わっているのかも知れませんね。


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最近はいよいよ暑くなり、多肉植物も日焼けを心配する季節になって来ました。こちらは体調が今ひとつで多肉植物もあまり手入れが出来ません。仕方がないので多肉植物の論文ばかり読んでいますが、やや侘しい気もします。そんな7月の我が家の多肉植物事情を久々にお披露目しましょう。

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怪竜丸
怪竜丸が開花中です。怪竜丸はGymnocalycium basiatrumらしいと言われているギムノカリキウムです。


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Pachypodium densiflorum
デンシフロルムが咲き終わりました。しかし、咲き終わった花茎の先に新しい花芽が出て来ました。まあ、こういうこともあります。また、別の枝からも新しい花茎が伸びています。いったいいつまで咲くのでしょうかね? 枝は40本以上あるため、まだまだ咲くかも知れません。


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Euphorbia handiensis
ユーフォルビアには珍しく雌雄同株みたいですね。どうやら受粉したみたいです。


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Euphorbia obesa
我が家の3代目オベサが開花の雰囲気です。初代は雌株、2代目は雄株でしたが、3代目はどっちでしょうか?


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Euphorbia crassicaulis
クラシカウリスはずっと咲いています。旧・E. francoisii系は良く開花しますね。


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Euphorbia crassicaulis
こちらもクラシカウリスですが、f. rubrifoliaと言われる葉がより赤いタイプ。良く日に当てたら葉の模様が出て来ました。初めて開花しましたが、花も赤いようです。


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Euphorbia begardii
ベカルディイはなんかずっと咲いています。葉はあまり出ませんが…。かつては、E. primulifoliaの変種でした。


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Euphorbia moratii
モラティイは非常に勢いがいいですね。花芽も沢山出ています。多肉植物というより草っぽいんですけどね。



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Euphorbia hofstatteri
ホフスタテリは葉が大分増えました。綺麗なトゲが出ています。



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Euphorbia ambovombensis
アンボボンベンシスは何故か花が咲きません。

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これだけ葉の枚数が増えたのに不思議です。


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Gonialoe sladeniana
花茎が非常に長く伸びました。

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発根したばかりで、よくもまあ花芽を伸ばしたなと驚きました。古い葉は環境に適応出来ていないようで、変色してしまいました。まあ、新しい葉は馴れてくれるでしょう。
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G. variegataとの違いがありそうで楽しみです。


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Zamia integrifolia
インテグリフォリアのフラッシュ。我が家のソテツ類では一番最後でした。一般的にはZ. floridanaの名前で流通しているソテツです。購入時は葉が1枚しかありませんでしたが、これで6枚目の葉です。


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Haworthia arachnoidea
アラクノイデアも開花中です。

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しかし、この時期のハウォルチアは中々辛そうですね。
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アラクノイデアの花はこんな感じ。少し膨らんだ形です。


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Haworthia maraisii var. notabilis JDV 87/197
ノタビリスも開花中。

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ノタビリスの花は少し角張りますね。


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Operculicarya borealis
今年は大変好調です。何を変えたと言えば鉢を変えました。

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オペルクリカリアは塊根が長く伸びるため、ロングポットに植えました。塊根が底につくととぐろを巻いてしまいますが、これなら大丈夫なはず。まあ、調子が良いのは単純に水切れをおこしにくいからかも知れません。


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Haworthiopsis nigra IB 12484
真ん中の赤黒い方がメインで、左上の方はオマケです。ニグラは地下茎が伸びた先に子株が出来たので、親から離しました。あと、Euphorbia resiniferaを購入した時に、謎の多肉植物の小さな実生が生えていたので端に一緒に植えましたが、特徴が出て来ました。どうやらカランコエだったみたいですね。種類はカランコエに詳しくないのでよく分かりません。


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夏の間は辛そうな面々。耐えてほしいところです。


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Cycas nongnoochiae
春先に播種しましたが、5月に根が出てからまったく動きがありませんでした。芽をやられたかと思いましたが、ようやく葉が出て来ました。そう言えば、根が底についたくらいで葉が出て来るという話を聞いたことがありますが、ちょうど鉢底から根がはみ出してきたタイミングでした。鉢がプレステラ90の深型だったせいで、根が底に到達するまで時間がかかったのかも知れませんね。


今月は22日〜23日に、千駄ヶ谷でBOANICAL BOANICAL、幕張メッセで幕張プラントワールドが開催されます。両方行く予定でしたが、体調不良もあり取りやめです。イベント好きとしては悔しい限りです。体調を万全にして次回に期待したいですね。


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アフリカの乾燥地には多肉植物となった沢山の種類のユーフォルビアが分布します。これらのユーフォルビアの外敵は、害虫以外では開発やら違法採取やらをやらかす人間くらいな気もします。しかし、以前に毒性が高いと言われる矢毒キリン(Euphorbia virosa)について調べていた時に、クロサイは矢毒キリンを食べるらしいと聞いて大変驚いたことを覚えています。最近、たまたまクロサイとユーフォルビアについて書かれた論文を見つけましたので、本日はご紹介したいと思います。それはLinda C. Heilmannらの2006年の論文、『Will tree euphorbias (Euphorbia tetragona and Euphorbia triangularis) survive under the impact of black rhinoceros (Bicornis diceros minor) browsing in the Great Fish River Reserve, South Africa?』です。

この研究は南アフリカのGreat Fish River保護区で、クロサイがユーフォルビアに与える影響を調査したものです。クロサイはCITESの附属書I類の絶滅危惧種です。調査されたEuphorbia tetragonaとEuphorbia triangularisも附属書II類で取り引きが規制されています。クロサイは非常に減少しましたが、保護のために1986年にこの保護区に約70頭のクロサイが再導入されましたが、最近は数が急速に増加しています。クロサイはユーフォルビアを食べますが、クロサイは植物を押し倒してしまうため、大きなユーフォルビアを枯死させてしまいます。クロサイの増加はユーフォルビアにどのような影響を与えたのでしょうか?

一般的に動物は採餌に用する消費エネルギーを最小にすると言われています。そのため、クロサイは押し倒しやすい小さなユーフォルビアを好む可能性があります。また、草食動物があまり訪れない「避難所」がある場合があります。実際に斜面のアカシアはキリンに採餌されずに生き残りやすいことが分かっています。
このような大型草食動物による食害は、すでに過去に沢山の報告があります。バオバブ(Adansonia digitata)はアフリカゾウにより食害され、タンザニアの国立公園では2.7%が枯死し、ジンバブエのザンベジ渓谷では4.9%が枯死しています。ケニアではクロサイがEuphorbia tirucalliを押し倒し、動物保護区ではそうとうな被害があったようです。

2ヶ月の調査で、高さ2m以上の2本のE. tetragonaと11本のE. triangularisが押し倒されました。これは、4日に1本、全体の6.7%に達する数字です。現在の死亡率から計算すると、E. tetragonaはあと8年、E. triangularisは1.5年で調査地から消滅する可能性があります。
もちろん、倒されたからと言ってそのすべてがクロサイによるものとは限らないでしょう。しかし、クロサイがいない地域も同期間観察しましたが、倒木は全体の1.2%に過ぎませんでした。
また、クロサイ以外の動物の食害も過去に報告されています。1つはヒヒ(Papio ursinus)で、若い芽を食べることがあるそうですが、これは大したダメージにはなりません。2つ目はヤマアラシ(Hystrix africaeaustralis)が樹皮を齧ることがあり、これは茎が腐敗する可能性があります。しかし、調査中にヤマアラシの食害跡は観察されませんでした。

ただ、Goddard(1968)やDudley(1997)によると、E. tirucalliやE. ingensは主に乾季に押し倒されると言います。つまり、水資源が枯渇する乾季にのみ、ユーフォルビアを水分を摂取するために食べているのかも知れません。ただし、年間を通して被害が続く訳ではなくても、現在の破壊りつからすると今年の残りの期間に被害がなかったとしても、いずれE. tetragonaとE. triangularisは消滅すると考えられます。

以上が論文の簡単な要約です。
クロサイが消費エネルギーを最小にするという話がありましたが、どうやら2mほどのユーフォルビアがターゲットのようです。それ以上のサイズだと押し倒すのが大変でしょうし、あまり小さいとクロサイの巨体からしたら食べ甲斐がないのでしょう。
しかし、なぜクロサイは猛毒のユーフォルビアを食べても平気なのかは分かりません。とても不思議です。
最後に。クロサイはもはや非常に稀になった希少種ですから、その保護は当たり前のことです。しかし、その保護活動が他の希少種にダメージを与えるという、大変残念な結果となりました。調査地は元々はクロサイが生息していたものの現在は絶滅し、再び導入された地域です。しかし、クロサイとユーフォルビアのバランスは取れていないようです。本来あるべきクロサイとユーフォルビアの関係とはどのようなものでしょうか。保護活動の難しさを実感します。


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花の誕生はいつまでさかのぼるのでしょうか? おそらく初めての花は、シダ植物から裸子植物が進化する段階において誕生した風媒花だったのでしょう。しかし、その裸子植物の花は針葉樹のように実に目立たないものだったはずです。しかし、現在の植物の大半は目立つ花を咲かせる虫媒花です。これらの花は被子植物に特有ですが、その起源は謎に包まれていました。かのダーウィンが「忌まわしき謎」と称したぐらいです。この「忌まわしき謎」に化石記録から挑んだ本があります。されは、髙橋正道による『花のルーツを探る -被子植物の化石-』(裳華房、2017年)です。

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被子植物はどのくらい前から花を咲かせているのでしょうか。遺伝的変異の蓄積を時間軸に当てはめて計算した分子時計というものがあります。参照とする植物により結果が変わりますが、予測される被子植物の誕生時期は石炭紀〜白亜紀とかなり広いものでした。しかし、被子植物の花には1億年以上の歴史があることは明らかです。
とりあえず、現在見つかっている確かな最古の被子植物は、イスラエルの1億3200万年前の地層から見つかった花粉の化石です。しかし、裸子植物やシダ植物の花粉が圧倒的で、被子植物の花粉はわずか0.2%以下しかありませんでした。とはいえ、白亜紀には被子植物が存在したということだけは確かでしょう。また、さらに古い被子植物の花粉や花などの化石が報告されていますが、保存状態が悪くはっきりと断定できないものばかりで、可能性はありますが確実とは言えませんでした。
これまで発見された化石は時代を遡るほど単純化するため、著者は1億3500万年前くらいに被子植物が誕生したのではないかと考えているようです。

著者の専門は花の化石ですが、ここで化石について基本的なことを解説しておきます。ド素人の私の解説で申し訳ないのですが、結構勘違いされる向きがあるようですから少しお付合い下さい。まあとにかく言いたいのは、遺骸は化石として必ずしも残る訳ではないということです。基本的に生き物は死ぬといずれ腐ってしまい、消えて無くなります。分解されにくい骨や貝殻も、少しずつカルシウムが溶け出してしまい、脆くなり粉になってしまいます。
縄文時代には縄文人の骨が見つかりますが、弥生時代には見つからなくなります。昔は弥生人に滅ぼされたようにも考えられたりしましたが、実際には異なりました。というのも、日本の土壌は酸性で骨は溶けてすぐになくなってしまいます。縄文時代には海面が上昇(縄文海進)したため巨大な干潟が出現し、縄文人は干潟で採った貝の殻や魚の骨を穴に捨てました。いわゆる貝塚ですが、このため縄文時代は貝塚付近は土壌がアルカリ性となり縄文人の骨は残ったのです。次に弥生時代には、縄文海進が終わり貝塚が作られなくなりました。そのため、縄文人の骨はほとんど見つからないのです。ちなみに、弥生人の骨は壺に入れられて埋葬されたため溶けずに見つかるのです。ただし、そのような骨は大陸に近い海岸沿いでしか見つからず、縄文人の代わりになったというにはささやかなものです。
という訳で、化石は特殊な条件があって初めて出来るものです。昔、人類の化石が少ししか見つからず、しかもそれぞれの年代が離れていたので、それを「ミッシング・リンク」と呼びました。ただ問題は「ミッシング・リンク」を過大視して、進化論を否定する人が沢山いたことです。それは、古代人骨が必ず化石になるという素朴な勘違いによるものでした。ある意味、見つからない方が自然です。むしろ、化石が見つかった場合は何か特別なことが起きたからなのです。

長くなりましたが、化石は奇跡の産物です。植物化石なら、落ち葉の化石がよく見つかります。しかし、これは柔らかい粘土などに押された跡が残ったものです。そのものではありません。植物化石で確実なのは炭化することです。日本では遺跡から炭化した米が見つかりますが、これは米を炊いた時に出来たお焦げです。炭化した植物は立体的な構造が綺麗に残ります。野生の植物なら、山火事による偶然を期待するしかありません。しかも、偶然化石となっても、地層の圧力や褶曲により破壊されてしまいます。著者もあちこち調査に赴くも上手く行かず中々苦労したみたいです。
採取した堆積岩を溶かし、ふるいにかけ、塩酸に浸けてからフッ化水素に浸けて石英などの鉱物を溶かします。これらの処理を何度か繰り返し、1つのサンプルで3〜4ヶ月あるいはそれ以上かかるそうです。ここからが一番大変で、残ったものを顕微鏡で観察していきます。実際には壊れて破片になったゴミばかりですが、稀に壊れていないものが見つかるのです。そのような苦労の末、著者は日本で初めて白亜紀の花の化石を発見しました。日本は火山活動が活発なので、このような化石が見つかるのは中々にして奇跡的なことです。さて、白亜紀の被子植物の花はミリ単位の超小型な花です。被子植物の誕生時はこのようなサイズだったようです。日本の白亜紀はまだ大陸の一部だったころで、熱帯性のバンレイシ科植物の花化石がみつかるなど、暖かい気候だったようです。

被子植物の花化石の傾向を見ると様々なことが分かります。例えば、原初の花はモクレン科の花が想定され、枝の頂点に1つ付くとされます。しかし、花化石からは、古いものでも複数の花が集合しているものが沢山あり、著者はそのような集合した花序が古い形質と考えているそうです。また、モクレン科説では、花の中央の雄しべと雌しべからなる部分(花床、花托)は螺旋状ですが、原始的な花は螺旋状の花床が軸状に長くなったものとされます。しかし、古い花化石は短い花床のものが多いようです。この他にも、原始的な花について、その傾向が様々な角度から述べられています。
花の進化を知る上で、本書は非常に参考になります。白亜紀の花の電子顕微鏡写真が沢山載せてあり、原始的な花の姿を見ることが出来ます。メジャーなレーベルではないため本書の存在を知らない方が多いとは思いますが、良い本ですから是非おすすめしたい一冊です。


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土曜日はヨネヤマプランテイションの多肉植物BIG即売会に行ってきましたが、帰りにコーナン港北インター店に寄ってきました。3月のBIG即売会の帰りにも寄りましたが、まだ多肉植物の季節ではないので、冬を越したものばかりで少し侘しい感じでした。しかし、流石に7月となれば色々と新しく多肉植物も入って来ているはずです。どんな多肉植物たちがあるでしょうか?

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港北インター店は、横浜市営バスに乗って折本町というバス停降りてすぐにあります。入口すぐ右に広いエケベリア・コーナーが出来ており、かなりの数が入荷していました。いやはや、エケベリアの勢いはまったく落ちませんね。とりあえずハウォルチアを探しましたが、どうやら新しいものはほとんど入っていないようです。ここで冬を越した、ヘタリかけばかりでした。残念。あと、アガヴェは割と入っているみたいです。今回はあまりめぼしいものはありませんでしたが、記念にサイズの割に安いプリムリフォリアを購入しました。あと、ほぼワンコインのガステリア苗も購入。

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プリムリフォリア
Euphorbia primulifoliaです。E. primulifolia var. begardiiは持っていますが、単なるプリムリフォリアは未入手でした。しかし、本当に桜草の葉に雰囲気が似ています。名前はプラムラ(桜草)+フォリア(葉)ですからね。しかし、正直なところ変種ベガルディイはプリムリフォリアにまったく似てないよなあと思っていましたが、最近プリムリフォリアの変種から独立しE. begardiiとなりました。遺伝的にも近縁ではないみたいです。というか、プリムリフォリア自体、産地毎に遺伝的にかなりの差があるようですね。


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グラウカ
Gasteria glaucaです。1998年に命名された割と新しいガステリア。まだ特徴が出ていませんね。G. glomerataや臥牛に近縁です。

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臥牛
手持ちのG. nitida var. armstrongiiはざらつかない特殊なタイプだけでしたから、普通の臥牛は初めてです。こんな可愛らしい苗なのに臥牛らしい雰囲気が出てるのが面白いところです。ところで、臥牛はG. nitidaの変種扱いですが、実は遺伝的解析結果ではG. nitidaとは近縁ではありません。G. armstrongiiとして独立させた方が望ましく思えます。

今回はこんなところです。久しぶりのイベントで、久しぶりの横浜遠征でしたから、結構楽しめました。いつもは朝イチで行きますが、今回は遅く行ったせいか電車が大変混んでしまい疲れました。帰宅後は体調不良もありダウンしてしまいました。無理は禁物です。


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久しぶりにヨネヤマプランテイションに行ってきました。7月8日9日の土日で多肉植物BIG即売会が開催されたからです。3月にも開催されて、その時は大変な盛況ぶりでした。
さて、最近は調子がいまいちで、さらに先日も職場でたちの悪い風邪をうつされてしまい、とにかく咳が止まらないので休みの日はなるべく外出しないようにしていました。前日まで行くか悩みましたが、まだ咳は出ますが大分落ち着いてきたので少し無理をして見てきました。


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今回はゆっくり行ったせいか、割と空いていました。前回は非常変わったものが色々あって驚きましたが、今回は割と普通でしたね。パキポディウム苗にアガヴェ、カクタス長田の多肉植物苗がメインなのはいつも通りでした。あと、サボテンがいつもより沢山あって、緋牡丹錦とスーパー兜?だったかがあり、個体差がかなりあり面白くてついつい買ってしまいそうになりました。あと、継ぎ木のAstrophytum caput-medusaeや柱サボテンなど種類もまあまあありましたね。あとは、小型のサンセベリアとアデニウムは、それぞれコーナーが出来ていました。私の好きなユーフォルビアは、かなり立派なE. tulearensisが沢山ありましたが、そのサイズだけあり中々のお値段でしたね。あと、E. pachypodioidesや花キリンくらいでしょうか。あと、外売り場の奥にある山野草コーナーに何故か立派なアガヴェが並んでましたね。
今回は私が興味のある多肉植物があまりないことや、持っているものばかりでしたから、やや期待はずれ感はありました。まあ、これはあくまで私の個人的な趣味の問題に過ぎないのですけどね。という訳で、今回はサボテンが沢山あったので、例によってギムノカリキウムを購入しました。まあ、なんか安かったので…


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天平丸 Gymnocalycium spegazzinii
難物ギムノカリキウムです。とにかく南米病が怖くて今まで手を出さないでいました。今回は安かったので試しに育ててみることにしました。しかし、南米病の原因は何なのか気になりますね。人によって意見が違う気もします。


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フリードリッヒ LB2178
流行りすぎてすっかり安くなったため購入しました。何故か交配種が出回ったこともあり、もはやその純血性に疑問があるLB2178です。あちこちで最近見るLB2178は模様の間隔などかなりの個体差があり、明らかに何か混じってますよね。このカクタス長田株はどうでしょうか?


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ゼオライト 3kg
毎回、ここに来る度に買っています。実は購入したサボテンたちより高かったりします。これは、来年の植え替え用です。実はこれを買いに行っている説も多少あったりします。


という訳で、久しぶりヨネヤマプランテイションに行ってきました。久しぶりにイベントに行きましたから、色々見るだけでも割と楽しめました。ヨネヤマプランテイションは横浜市営地下鉄ブルーラインの新羽駅の近くにあります。お暇があれば皆様もぜひご参加下さい。本日も即売会は開催中です。
毎度のことですが、この後に近くにあるコーナン港北インター店に寄り道して来ました。その様子は明日記事にします。



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以前からStenocereus erucaという面白いサボテンがいることは知っていました。E. erucaは地面を這って育ち、接地面から根が出て育ちます。やがて、根元から枯れていきますが、先端は生長し続けるので移動しながら育つのです。去年、神代植物公園の大温室にて始めてS. erucaを見ることが出来ました。やはり、とても不思議なサボテンです。にわかに興味が湧き、少し調べてみると以下のことが分かりました。曰く、メキシコのソノラ砂漠に固有な2種類の柱サボテン、Stenocereus erucaとStenocereus gummosusが分布し、2種類は密接な関係があると考えられているというのです。それは、Francisco Molina-Freaner & Richardo Clark-Tapiaの2005年の論文、『Clonal Diversity and Allelic Relationships between Two Closely Related Species of Columnar Cacti from the sonolan Desert: Stenocereus eruca and Stenocereus gummosus』です。早速、見ていきましょう。

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Stenocereus eruca(神代植物公園)

S. erucaはその分布がバハ・カリフォルニア半島のMagdalena平原の沿岸部の狭い範囲に限定されます。対照的にS. gummosusはバハ・カリフォルニア半島全体に広がり、カリフォルニア湾の多くの島にも分布します。
S. erucaは横に這い、不定根を出しながら育ちます。苗の定着の可能性は非常に低く、主に枝分かれによるクローンにより繁殖していると考えられています。S. gummosusは半直立性で高さ1〜1.5mで地際からアーチ型の枝を伸ばします。枝の根元から発根し、やがて枝が本体から剥離し独立します。やはり、S. gummosusも苗が見られず、クローンにより繁殖している可能性があります。
Gibson(1989)によるとS. erucaはS. gummosusから進化した可能性を指摘しました。2種類の組織を比較すると、構造的にS. erucaは自重を支えることが出来ないため、特徴的な育ち方になったようです。緩い砂漠に対応した育ち方と言えます。


著者は遺伝子の違いから、E. erucaとE. gummosusが割と新しく種分化したものと推測しました。また、E. erucaの個体毎の差が小さいことも分かりました。つまり、E. erucaはE. gummosusよりクローン増殖に依存しているということです。しかし、予想より遺伝的に多様性がありました。当初
はE. erucaとE. gummosusはクローン増殖に強く依存していると考えらましたが、どうやらちゃんと種子による繁殖も行われているようです。

さて、E. erucaは海岸沿いのMagdalena平原のみ自生しますが、平原は海からの強風により砂が堆積して出来た砂丘です。E. erucaが這って育つことは、強い風に対して有効です。また、E. erucaの先端が少し上を向く特徴は、砂への埋没を避ける意味があることが観察されています。

以上が論文の簡単な要約です。
少し古い論文ですが、やはり近年の遺伝子工学の急速な発達からすると、遺伝子解析も詳細は分からない大まかなものであったことがうかがえます。しかし、その分、非常に丁寧に調べられています。
それはともかく、E. erucaの特殊なクローン増殖は興味深いものですが、E. gummosusのクローン増殖から派生していることは明らかです。しかし、私もE. gummosusのクローン増殖については知りませんでした。E. gammosusのクローン増殖しやすい特徴が受け継がれ、砂丘への適応で非常に役に立っているということも初めて知りました。このように、知らないことばかりですが、探せばいくらでも論文は出て来ます。私個人が無知なだけかも知れませんが、今後も面白い論文をご紹介出来ればと考えております。


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Fouquieriaはメキシコの乾燥地に生える灌木です。日本でも一部の種類は実生苗がある程度は流通しています。私も何種類か育てていますが、意外にもFouquieriaは乾燥に敏感で葉がすぐに落ちてしまい困っていました。そんな中、Fouquieriaを種子から10年間栽培したEnrico Ceottoの2017年の『Cultivation of Ocotillo from Seeds to Flowers: A Ten Year Experience in Northern Italy』という論文を見つけました。夏は暑く冬は寒い北イタリアでの栽培記録です。同じく、夏は暑く冬は寒い日本のFouquieria栽培の参考になるかも知れません。

野生のOcotillo
Ocotillo(Fouquieria splendens)は、米国南西部とメキシコ北部に分布する干ばつ落葉性砂漠低木です。高さは6mまでで、赤色の花を咲かせハチドリやミツバチにより受粉します。西部の個体は花が長くハチドリが主要な花粉媒介者で、東部の個体は花が短くミツバチが主要な花粉媒介者であるとされています。
干ばつ落葉植物は乾燥するとすぐに葉を落として休眠します。葉を落とすことにより、蒸散による水分損失を最小限として、長期間の乾燥に耐えるのです。Ocotilloも葉のない状態で干ばつに耐え、雨が降ると急速に葉を出します。

ボローニャの環境
論文ではイタリア北部のボローニャで著者がOcotilloを栽培しました。ボローニャの気候はOcotilloの自生地とは異なります。ここでは、アリゾナ州のツーソンと比較します。ボローニャの年間降水量は平均671mmで、主に春と秋に降ります。7〜8月はツーソンと比較するとボローニャの方が降水量が少なく乾きます。しかし、相対湿度はボローニャが通年にわたり高くなっています。ボローニャの気温はツーソンより低くなりますが、6〜8月には非常に暑くなることが頻繁にあります。ボローニャの夏は34〜37℃に達し、相対湿度が高いこともあり実際の気温より暑く感じます。このように、まったく異なる環境でOcotilloを、種子から10年間にわたり育てた記録です。

実生
Ocotilloの種子は平らで奇妙なものです。著者はアリゾナ州のMohave郡Yuccaで、2008年7月に種子を採取し月末に播種しました。播種した20個の種子は1週間以内に発芽し、14本の幼苗を得ました。
干ばつに強い砂漠の植物であっても、種子の発芽と幼苗の生存には水分が必要です。著者は発芽にはJiffy Peat Pellet(水で膨らむピートで出来たポット)を使用しました。ピートは多孔質で空気を含み、水分を貯蔵します。発芽後は根が急速に育つため、植え替えが必要です。

水やり
Ocotilloのアキレス腱は根腐れ病に対する弱さで、常に湿った土壌では生きられません。著者の経験ではサボテンと比較しても根腐れを起こしやすく敏感です。著者は水はけを重視し、砂質土とピートの組み合わせをチョイスしました。
Brookbank(1992)は、Ocotilloの土壌は湿らせておく必要があるが、ずっと湿っていてはならないと言っています。標準的な方法は、乾いてから水やりをすることです。著者は以下の2つの規則を採用しました。曰く、①土壌の表面が濡れている時には水をやらない、②土の表面の1/4以下湿らせ残りを乾いたままにする、ということです。
さて、実生は多くの水分を必要としますが、砂漠では湿った環境が数週間続くため幼苗は急速に育ちます。しかし、タイミングよく雨が降らないとその後は生き残れません。
栽培
から1年でOcotilloの特性を備えた成体のミニチュアに育ちました。すでに干ばつに耐えることができます。生育期に過剰にならない水をやることで、急速に育ちます。Ocotilloは通常は肥沃度の低い土壌に生えるため、施肥はほとんど必要ありません。とはいえ、著者は窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、および微量元素が入った液肥を与え、その効果は確認したようです。
著者の4年目の栽培では8月に雨が降らなかったため、葉を落として干ばつに耐えていましたが、8月31日に雷雨がありました。その10日後には新しい葉が生え揃いました。

害虫
著者は最初は室内で幼苗を育てようとしましたが、葉が不自然な見た目になったので、完全な日照を必要としていることを示しています。また、温室栽培は便利ですが、防除が難しいコナジラミがつきやすく、屋外ではクモなどにより害虫により減少しました。また、いくつかの年にはアブラムシがつきました。Ocotilloの新しい葉や茎はアブラムシに敏感でした。アブラムシは取り除くのはなかなか困難で、殺虫剤が必要です。

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Fouquieria splendens
アブラムシがついて少し葉が縮れました。


冬期
秋と冬はOcotilloは休眠します。温暖な気候では、休眠は11月から4月まで続きます。休眠中は土壌は乾燥させておきます。著者はOcotilloを無加温の温室に置いて、雨から保護しました。冬の間は氷点下になりましたが、Ocotilloは耐えることができました。

挿し木
Ocotilloは茎を挿し木することにより増やすことが出来ます。挿し木苗は実生苗と比べて急速に育ちますが、著者の挿し木苗は側枝がいつまで経っても出てこないということです。
木質化した茎を挿し木に使用しますが、冬の終わりに茎を切断すると夏の間は休眠状態となり、気候が穏やかな9〜10月に新しい葉を出す傾向があります。そのため、著者は秋に茎を切断して乾いたピートに挿して室内に置いておき、春先に控え目に水やりを始めればやがて葉が出て来ます。

開花
2016年の5月、8歳のOcotilloは開花しました。花は豊富な蜜を出し、ミツバチが頻繁に訪れます。著者はミツバチによる受粉によりOcotilloの種子を手にすることが出来ました。

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今年はよく育ち、枝は去年までの高さと同じくらい伸びました。

以上が論文の簡単な要約です。
私もFouquieriaを苗ですが何種類か育てており、乾燥に敏感ですぐに葉を落としてしまうことが悩みでした。これは論文にあるように、干ばつに耐えるための戦略で、何もおかしなことではなかった訳です。しかし、ちょうど乾いたタイミングで水やりをするのは中々困難なので、私の育てているFouquieriaは葉が出たり落ちたりを繰り返しており中々育ちません。仕方がないので、今年は浅く腰水して育てていますが、今のところ根腐れの兆候はありません。むしろ、急激に枝が伸び始めて驚いているくらいです。危ない橋を渡っているのかも知れませんからおすすめは出来かねますが…。まあ、ある程度大きく育てば、もう少し耐えられるようになるでしょうか? いずれにせよ、私がFouquieriaの花を拝めるのは遠い未来のようですね。



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Euphorbia pulvinataは、日本では笹蟹丸の名前でお馴染みの多肉植物です。普及種ですから非常に安価で購入出来ます。育てやすく見た目も面白いので、ユーフォルビアの入門種と言えます。たまたまですが、そんなE. pulvinataを題材とした論文を見つけたので、ご紹介します。それは、Luambo Jeffrey Ramarumoらの2019年の論文、『Euphorbia pulvinata Marloth: A useful succulent plant species in Vhembe Biosphere Resesve. Limpopo Province, South Africa』 です。

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笹蟹丸 Euphorbia pulvinata

この研究は南アフリカのLimpopo州Vhembe生物圏保護区の、Nzhelele地域のVhulaudziと隣接する村で実施されました。調査エリア内の人口は30683人でした。調査はEuphorbia pulvinataの利用方法について、30歳以上の無作為に選ばれた120人で実施されました。その内訳は、伝統医9人、薬草師21人、ハンター11人、農民31人、その他一般人48人でした。アンケートした120人全員がE. pulvinataを利用していました。

アンケートの結果として、まずは住民のE. pulvinataの利用方法から見ていきます。参加者の35.8%がトリモチを作るため、25%は家畜の薬として、17.5%は昆虫のトラップ、9.2%は観賞用、6.7%は儀式や魔術目的、5.8%が接着剤としてE. pulvinataを利用しました。アンケートによるとたまたまではなく、積極的にE. pulvinataを利用しており、内容は創造的かつ動的なものでした。
次に利用部位を見てみると、乳液は59%で利用され重要でした。乳液はトリモチや接着剤として利用されます。他には、家畜の薬に根が利用されました。また、トゲや花はあまり利用されませんでした。

以上が論文の簡単な要約です。
内容的には民族学的な調査でした。しかし、このような自生地における利用方法は、希少植物の保護を考える上での基本的な情報として重要です。著者らもその点を言及しています。
多肉植物は様々な要因で数が減少しており、保護が必要なものが多くあります。しかし、保護区を設定して、取引を法律で規制してもあまり意味はありません。保護活動に従事する人材や、違法採取や違法取引の取り締まりも必要です。さらには、この論文のように地元で植物を利用している人たちとの折り合いも必要です。この場合は、単に禁止するのではなく、地元の人を保護活動に従事するための人材として採用したり、なるべく野生個体を使わなくて良いように栽培を支援する活動など考えられることは沢山あります。
E. pulvinataは園芸用途としては普及種ですから、違法採取は問題とはならないかも知れません。自生地に住む人たちの利用もそれほどの脅威ではないかも知れませんが、今後の人口増による開拓、家畜の踏みつけなどが起きるかも知れません。このような調査は今後も実施されるこが望まれます。


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花を訪れ花粉を運ぶ花粉媒介者には、1種類の植物の花に特化したものも少数ですがあります。本日は、そのような特殊な共生関係について調査したJ. Nathaniel Holland & Theodore H. Flemingの2002年の論文、『Co-pollinators and specialization in the pollinating seed-consumer mutualism between senita cacti and senita moths』をご紹介します。

特定の花粉媒介者に対して植物が特殊化することがありますが、特定の相手以外の受粉者が豊富な場合は、そのような方向へは進化しないかも知れません。
ソノラ砂漠に生えるsenita cactus(Lophocereus schottii)は、senita moths(Upiga virescens)という蛾により受粉すると言われています。しかし、senita mothsは夜間にsenita cactusを訪れますが、実は日中(早朝)のsenita cactusにはミツバチが訪れます。このミツバチの受粉に対する寄与次第では、senita mothsの評価も変わってきます。果たして、senita mothsはsenita cactusと特殊な関係を結んだ特別な花粉媒介者なのでしょうか? それとも、沢山いる花粉媒介者の1種類に過ぎないのでしょうか?

senita cactusの花は白っぽいピンク色で、自己不適合で雌雄同株です。日没後に開花し16時間以内に閉じます。開花時期は3月下旬から9月まで続くことがあります。1995年、1996年、1998年から2000年にかけて、メキシコのソノラ州のsenita cactusを観察しました。ハチが来れないように日中にネットをかけた場合と、蛾が来れないように夜間にネットをかけた場合の結実率を比較しました。

ミツバチは日の出後の数時間はsenita cactusの花から花粉を集めましたが、蜜の採取は観察されませんでした。ただし、どちらかといえば、ミツバチは大量の花粉と蜜を持つsaguaro (Carnegiea gigantea)やorgan pipe (Stenocereus thurberi)に惹きつけられるようです。また、気温が高いと花が萎れ、senita cactusは日の出前に花が閉じてしまうこともあり、必ずしもミツバチが花に訪れることができるとは限りませんでした。ミツバチがsenita cactusの花を訪問できるのは、一般に気温が低い4月から5月中旬です。それ以降の開花では、ミツバチはsenita cactusの花を訪れることは出来ません。


さて、では結果を見てみましょう。基本的に花からミツバチを除外しても、結実率は減少しませんでした。しかし、蛾を除外すると結実率は大幅に減少しました。
また、蛾により花粉が運ばれた花に人工的に花粉を追加しても、結実率は高くはなりませんでした。senita cactusは日没後に開花するため、基本的にすでに蛾の訪問を受けた花に、日の出後にミツバチが訪問します。花粉の追加により結実率が上がらない以上、ミツバチが後から訪問することによる追加の花粉には意味がないのかも知れません。
ただし、たまたまsenita mothsが少ない年には、ミツバチの除外により結実率が減少しました。ミツバチはsenita cactusのメインの花粉媒介者ではありませんが、本来の花粉媒介者が少ない場合に補完する存在なのかも知れません。

Lophocereusは2種類ありますが、遺伝子解析の結果からは3種類からなるPachycereusと近縁とされ、現在ではLophocereusはPachycereusに含まれています。Pachycereusはコウモリ媒花と考えられておりますが、例えばP. marginatusは大きく日中に咲く赤い花は大量の蜜を分泌し、ハチドリにより受粉するとされます。しかし、senita cactusは小型で夜に咲く白っぽいピンク色の花を咲かせ、蜜の量は非常に少ないのが特徴です。この蜜の少なさから、senita moths以外の蛾は基本的に訪れないようです。このように、Pachycereusの中で、LophocereusはP. marginatusと同様に特殊化したものと言えます。

以上が論文の簡単な要約となります。
基本的にはミツバチはsenita cactusの重要な花粉媒介者ではありませんでしたが、場合によっては受粉に寄与することもあります。しかし、これはsenita cactusがsenita mothsとの深い共生関係を結ぶための進化にどのような影響があるのでしょうか? 長い開花期間中でミツバチが受粉可能な時期はあまりに短く、補完的な意味しかないならば、共進化に揺り戻しを起こすほどではないような気もします。ただ、現状が安定しているならばこのままでしょうし、開花時間は明るさや温度など機械的に決まるようですから、開花時間によるミツバチの完全排除は起きないような気もします。花の形状がsenita mothsに特化する可能性もありますが、そもそもが蜜が少ないのでミツバチは花粉を集めていることから、採蜜出来なくなったとしても影響はなくミツバチは花粉を集めに来るでしょう。



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多肉植物は言うまでもなく乾燥地に適応した植物です。大抵は水分を貯蔵することが出来る塊根や塊茎、あるいはサボテンのように植物全体で水分を貯めるものもあります。また、夜間に二酸化炭素を吸収するC4植物やCAM植物も、乾燥に対抗する手段の1つでしょう。さて、そんな多肉植物は乾燥に適応したことにより、非常に多様化したのだと言われているようそうです。それは果たして本当なのかを論証したJamie Thompsonらの2023年の論文、『Did succulent diversify in response to aridity? Evolutionary analyses of major succulent lineages around the world』を見てみましょう。

多肉植物は様々な分類群からなり、一見似ていてもお互いに近縁という訳ではありません。乾燥に適応するために結果として似たような姿となっただけです。これを収斂進化と言います。また、多肉植物は同じ分類群の中で、繰り返し独立に進化してきました。
約29万種の被子植物のうち、約12500種、あるいは推定3〜5%が多肉植物とみなされています。多肉植物は83科690属に分布します。多肉植物の分類群のいくつかは、植物の中でも最も高い多様化率を示すものもあり、急激に多様化していると考えられています。代表的な多肉植物は、ハマミズナ科(Aizoaceae、メセン科、マツバギク科、ツルナ科)2200種類以上、リュウゼツラン科(Agavaceae)300種類以上、ツルボラン亜科(Alooideae、=アロエの仲間)700種類以上、ガガイモ科(Asclepiadoideae)2900種類以上、サボテン科(Cactaceae)1500種類以上、ベンケイソウ科(Crassulaceae)1500種類以上、トウダイグサ属(Euphorbia)2000種類以上が含まれ、非常に多様化していることが分かります。しかし、1属1種の単型科のHalophytaceaeや13種類からなるMoringaceaeなどのように、必ずしも多肉植物が多様化する訳ではありません。

環境の乾燥化により多様化したと考えられる多肉植物ですが、いつ乾燥化したのかを知るための古代の気候の信頼性の高い情報や、多肉植物の化石の欠如により、仮説を検証することは困難とされてきました。そこで、著者らは多肉植物の7つの分類群の進化をシミュレーションし、多肉植物化した時期を推定します。単系統のグループと、複数の多肉植物群を含むグループを比較し、多肉植物が多様化を促進するかを評価します。また、中新世に大気中の二酸化炭素が減少したという仮説がありますが、この仮説が多肉植物のCAM植物化と関係するかを評価しました。

二酸化炭素濃度と各多肉植物の分類群の系統発生をシミュレーションにより評価したところ、必ずしも二酸化炭素濃度が多肉植物の進化と関係しているとは限らないことが明らかとなりました。しかし、個別に見ていくと、ガガイモ科は二酸化炭素濃度の変化により種分化しており、トウダイグサ属は種分化と絶滅が両方起きるパターンを示しました。さて、地球上で二酸化炭素が減少したのは約1500万年前までと考えられていますが、この時代に多様化のブレイク・ポイントを持つのは、ガガイモ科とトウダイグサ属でした。ガガイモ科は1500万年前から急激に種分化し、ユーフォルビア属はやや減少しました。
最も初期の種分化の促進は、始新世(5600万年前〜3390万年前)でベンケイソウ科とユーフォルビア属で回復します。漸新世(3390万年前〜2300万年前)にはハマミズナ科、サボテン科、ユーフォルビア属が回復します。中新世(2300万年前〜530万年前)ではすべてのグループで回復します。鮮新世(530万年前〜260万年前)ではリュウゼツラン科以外が回復します。更新世(260万年前〜1万1700年前)では、ガガイモ科とサボテン科のみが回復しました。計算上では中新世に多肉植物のグループの3分の2が誕生しています。


シミュレーションによると、乾燥化により多肉植物の種分化は促進されていました。強い乾燥レベルではリュウゼツラン科、ツルボラン亜科、一部のトウダイグサ属が種分化し、弱い乾燥化レベルではガガイモ科、サボテン科、残りのトウダイグサ属が種分化しました。
サボテン科とツルボラン亜科では多肉植物のグループの方が圧倒的に豊富でした。トウダイグサ属以外は、乾燥化により急激に種分化し多様化したと考えられます。トウダイグサ属はグループ内で複数回の多肉植物化が起きているようです。リュウゼツラン科とガガイモ科は乾燥化により急激に多様化し絶滅率が低いことが特徴です。ハマミズナ科は多肉植物化により種分化が促進されていませんが、多肉植物化した種の絶滅は少ないようです。ベンケイソウ科は多肉植物化することにより絶滅率は高くなったものの、不釣り合いなほど種分化は急速でした。


以上が論文の簡単な要約となります。
いくつかの多肉植物の分類群について、シミュレーションにより種分化を推定しました。しかし、これは現在あるデータから推測されたものですから、データが増えれば変わりうる一時的なものかも知れません。論文にあるグラフを示していないので分かりにくいとは思いますが、要するに仮説はまあ大体当てはまる傾向はあるみたいです。まだ説明がつかないことも沢山あるみたいですから、今後の進展に期待します。


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花と言えば、色とりどりの美しい姿を思い浮かべますが、それらは被子植物の花です。被子植物の多くは蜜などの報酬を与え、目立つ花弁で昆虫などの花粉媒介者を引き寄せ、花粉媒介者があちこちの花をめぐることにより受粉し種子が出来ます。被子植物より早い時代に誕生した裸子植物は、針葉樹などその多くが風媒花です。この裸子植物から被子植物への進化の過程で、古い時代に花粉媒介者により受粉する植物が誕生したのでしょう。近年、ソテツ類が昆虫により受粉する虫媒花であるという論文が出ており、様々な種類と分類のソテツで虫媒が確認されています。もしかしたら、ソテツが地球上で初めて花粉媒介者により受粉した植物かも知れません。当然、現在のソテツの花粉媒介者たちの祖先が、初めて花粉媒介者となった動物である可能性があります。ソテツの花粉媒介者は甲虫がよく知られていますが、アザミウマも関与するという話も聞いたことがあります。
さて、という訳で本日のお題は花粉媒介者の誕生についてです。本日ご紹介するのは、Irene Terryの2002年の論文、『Thrips: the primeval pollinators?』です。この「Thrips」とは「アザミウマ」のことです。アザミウマは原始的な昆虫で、一般的には作物や園芸植物につく害虫として知られていますが、実際にはカビや胞子を食べるものや、肉食のものもあります。アザミウマは非常に古い時代に生まれた昆虫ですが、地球で最初の花粉媒介者なのでしょうか?

アザミウマ媒花の発見
アザミウマには花粉食の種類が沢山おり、受粉に影響を与える可能性があります。しかし、学術的には見過ごされてきました。それは、アザミウマが効率的な花粉媒介者の特徴を欠いているからです。まず、アザミウマは非常に小さいため花粉が付着する数も少なく、花粉が付着するような構造もありませんし、移動性もあまりないと言われてきました。しかし、Gottsberger(1995)はアマゾンのシソ科植物2種類で、花粉を運ぶアザミウマを発見しました。花は小さく直径4mm以下でした。その後も、トウダイグサ科のMacaranga属の2種類など、熱帯地方の小型の花を咲かせる植物でアザミウマによる花粉媒介が報告されています。

ソテツと虫媒
さて、ソテツは古生代に生まれた雌雄異株の植物で、現存する裸子植物の中では最も古い植物です。長い間、ソテツは風媒花と考えられて来ました。しかし、Norstogら(1986)はメキシコ原産のソテツであるZamia furfuraceaはゾウムシにより受粉ことを観察し、ゾウムシの除去により種子生産が大幅に減少することを報告しました。それ以降、ゾウムシの仲間と様々なソテツとの共生関係が報告されています。

ソテツとアザミウマの関係
オーストラリアのソテツであるMacrozamia macdonnelliiは、1994年のFosterらの報告によりゾウムシにより媒介されることが明らかになりました。そのため、Macrozamiaはゾウムシか風により受粉すると考えられて来ました。しかし、Mound(1991)やChadwick(1993)によりMacrozamia communisで、Mound(1998)によりMacrozamia riedleの花でアザミウマが見つかりました。また、Terry(2001)によりMacrozamia communisのアザミウマの花粉媒介を試験しました。風の効果を除外したりゾウムシを除外しても、種子生産は減少しませんでした。

アザミウマの重要性
著者らは、複数のMacrozamia macdonnellii群で、1つの雄花で5万匹ものアザミウマ(Cycadothrips albrechti)を確認しました。雄花は10m離れた場所でも分かる強烈な臭気を発し、アザミウマは午後には一斉に臭気を発する雌花に移動しました。アザミウマ1匹あたり平均20粒の花粉をついていました。1日で胚珠あたり5700粒もの花粉が運搬されました。著者はC. albrechtiというアザミウマがM. macdonnelliiの唯一の花粉媒介者であると考えています。
Macrozamiaのうち4種類はアザミウマでのみ花粉媒介され、8種類はゾウムシでのみ花粉媒介され、3種類はアザミウマとゾウムシにより花粉媒介されます。また、20種類以上のMacrozamiaはまだ調査されていません。今まではアザミウマが花粉媒介する可能性を考慮していませんでしたから、今後の調査次第ではアザミウマ媒花のソテツは増えるかも知れません。

アザミウマ媒花は新しい?
Macrozamia属は化石による記録では、少なくとも白亜紀後期には誕生しています。しかし、ソテツのアザミウマ媒はオーストラリアでのみ見つかっています。アザミウマとソテツの関係は新しい時代に出来た可能性もあります。化石記録は不足しており、化石からの推定は困難です。
著者はオーストラリアの地理とソテツの分布から、アザミウマ媒の起源を考察しています。Macrozamiaは大陸全体に分布していましたが、現在はいくつかの地域に残されているだけです。対するCycadothrips属のアザミウマはすべての地域で見られ、他の植物には見られませんでした。さらには白亜紀の大規模な海洋侵入は大陸を島々に分裂しましたが、この島々はMacrozamiaとCycadothripsが対応していました。このことから、白亜紀の海洋侵入前にソテツとアザミウマは関係を結んでいたと考えることも出来ます。


化石記録からの推定
ソテツは少なくともペルム紀には存在し、初期のMacrozamiaは6500万年前の化石で、8500万年前にオーストラリアから分離したニュージーランドで発見されました。ゾウムシの祖先はジュラ紀後期に、現存するゾウムシ類は白亜紀前期から見つかっていますが、ソテツの受粉に関わるゾウムシの仲間は新生代まで進化しませんでした。現在、ソテツに関与するゾウムシは、木材に穿孔するタイプの祖先に由来すると考えられています。現在のソテツは各大陸に分布しますが、ゾウムシの花粉媒介はそれぞれ独立に進化したと考えられています。この仮説が正しければ、ソテツの花粉媒介者はゾウムシの進化の前に存在していたことになります。

アザミウマの起源
アザミウマの祖先グループは古生代に誕生し、被子植物と現代のソテツの属の誕生前から存在しています。Cycadothrips属はアザミウマの系統解析が結果からは被子植物の誕生前から存在すると考えられています。著者はアザミウマが植物の最も古い花粉媒介者であると考えています。

2億8000万年前  石炭紀
  →ソテツ誕生?
2億4400万年前  ペルム紀
  →アザミウマ誕生
2億1300万年前  三畳紀
  →ソテツ優勢、甲虫誕生
1億4400万年前  ジュラ紀
  →被子植物誕生?、ゾウムシ誕生
6500万年前  白亜紀
  →現代のソテツ科の誕生、Macrozamia誕生、
   現代のゾウムシ科の誕生
5500万年前  暁新世
  →現代のゾウムシ属の台頭?
3800万年前  始新世
  →ソテツと関係するゾウムシ属の誕生

以上が論文の簡単な要約です。
マクロザミアとアザミウマの関係から、始原の花粉媒介者の存在まで推定していますが、やや飛躍し過ぎている気もします。しかし、ソテツが一番古い虫媒花であるならば、それが絶滅した今は存在しない分類群の昆虫でない限りは、アザミウマかゾウムシが最も古い花粉媒介者である可能性があることは確かでしょう。だだし、著者に抜けているのは、風媒花の視点です。古代のソテツは、アザミウマやゾウムシが誕生してもまだ風媒花であり、虫媒を開始したのは最近かも知れません。化石記録が見つかるまではその可能性も除外出来ないのではないでしょうか?

しかし、それはそうと、最近は販売されるソテツも増えて来ましたが、まったくソテツは流行りませんでしたね。今は新葉が展開するソテツ栽培にとって素晴らしい時期にも関わらず、ネット掲示板のソテツスレも閑散としており、まったく悲しい限りです。私のソテツ関連記事も非常に不人気です。本当はもっとソテツが流行って、様々な種類が販売されるようになれば私も嬉しいのですが…


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花キリンはマダガスカル原産の、乾燥地に生える灌木です。分類的にはユーフォルビア属ゴニオステマ節に含まれます。塊根性花キリンはまあそれなりに人気がありますが、塊根がではない多くの花キリンは今ひとつ良く知られていないように思われます。本日は「MEMOIRES DE L' INSTITUT SCIENTIFIQUE DE MADAGASCAR」という書籍シリーズの第5巻、1954年に出版されたE. VRSCH et J. Leandriによる「LES EUPHORBES  MALGACHES EPINEUSES ET CHARNUES DU JARDIN BOTANIQUE DE TSIMAZAZA」を見てみましょう。なんと言っても、豊富な花キリンの図譜があり、眺めるだけでも楽しい本です。ちなみに、この図譜は植物園の植物を描いたもののようです。興味深いのは、Euphorbia viguieriの分類は今でもこの本が根拠となっていることです。まあ、内容はフランス語でまったく読めませんから、図譜だけ私の興味のあるものだけ見てみます。

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Euphorbia viguieri
これは我が家のE. viguieriですが、現在5つの変種がありすべてがこの本により定義されています。ちなみに、1954年のUrsch & Leandriにより4変種が分類され、それ以外は自動的にE. viguieri var. viguieriとなりました。ですから、単にE. viguieriと言った場合は、5変種を含んだ名前だったりします。とはいえ、我が家のE. viguieriは変種viguieriでしょう。


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Euphorbia viguieri var. tsimbazazae

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Euphorbia viguieri var. vilanandrensis

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Euphorbia viguieri var. ankarafantsiensis

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Euphorbia viguieri var. caproniana

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Euphorbia neohumbertii

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Euphorbia lophogona
このようなE. viguieriに似たタイプの花キリンは沢山ありますが、あまり見かけませんね。


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Euphorbia francoisii
現在、フランコイシイは存在しませんが、この花キリンは何者でしょうか? 一応、フランコイシイは現在E. decaryiとされていますが、この図譜は似ていません。かつて、E. decaryiと呼ばれていたE. boiteauiを指しているのかも知れません。

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Euphorbia didiereoides

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Euphorbia pedilanthoides

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Euphorbia finarantsoae

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Euphorbia ankarensis
現在はE. denisiana var. ankarensisとされています。


他にも気になる花キリンはありますが、まだ勉強中です。E. milii系の花キリンは最近整理されて、学名も変更されているみたいです。花キリン自体が現在でも整理中ですから、今後も変わっていく可能性が高いでしょう。学術的な動向には目が離せませんね。


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「サボテンの地理的二分法仮説」なる説を聞いたことがありますか? 私も今回記事を書くにあたって初めて知ったくらいですから、まったく偉そうなことは言えませんが、 何やら気になりました。という訳で、本日はサボテンの地理的二分法仮説について南アメリカで調査を行った、A. A. Azrabeらの2017年の論文、『Assesing the geographical dichotomy hypothesis with cacti in South-America』を見ていきましょう。

「地理的二分法仮説」とは、熱帯と温帯を比較した時に、熱帯は資源は豊富ですが一般的な花粉媒介者の種類が少なく、温帯は資源は限られますが一般的な花粉媒介者の種類は豊富であるということを指すようです。ただ、この時に熱帯の花は特殊化して花粉媒介者と強く関係を結び安定した受粉システムを持っており、温帯の花は沢山の種類の花粉媒介者が特定の関係を結ばずに受粉が起きているというのです。
過去にこの仮説は南アメリカでも検証されましたが、1種類のサボテンが該当するかを見ただけです。この研究は南アメリカのサボテンで本格的に地理的二分法仮説を検証する取り組みです。評価方法は、熱帯地域の5箇所、温帯地域の5箇所を選び、サボテンの受粉活動を観察しました。1箇所につき30個体のサボテンを監視しました。花粉媒介者の選考効果を最小化するために花の咲く高さは同程度とし、花粉媒介者の誘引に差がないように花の密度も類似した条件を選びました。

結果は、温帯のサボテンは熱帯のサボテンより1.9倍も花粉媒介者の種類が高いものでした。熱帯地域では、花粉媒介者の多様性や均一性が低下し、より専門的な受粉システムが見つかりました。しかし、これらの結果は過去に調査された、南アメリカや島嶼部での結果と一致しませんでした。
以下に調査したサボテンと、主たる花粉媒介者を一覧にしました。

熱帯地域
Cleistocactus sepium(エクアドル)
  →コウモリ、ハチドリ
Harrisia tetracantha(ボリビア)
  →ハチ目
Neocardenaria herzogiana(ボリビア)
  →ハチ目、甲虫目
Haageocereus pseudomelanostele(ペルー)
  →コウモリ、ハチドリ
Echinopsis atacamensis(チリ北部)
  →ミツバチ、ハチドリ、スズメガ

温帯地域
Echinopsis walteri(アルゼンチン北部)
  →ハチ目
Echinopsis atacamensis(チリ中央部)
  →ミツバチ、ハチドリ、スズメガ
Echinopsis leucantha(アルゼンチン中央部)
  →蛾、ハチ、鳥
Echinopsis leucantha(アルゼンチン中央部)
  →蛾、ハチ、鳥
Echinopsis chiloensis(チリ中央部)
  →スズメガ、ハチ、ハエ

※熱帯地域では1種類の花粉媒介者で全体の50%以上を占め、3種類程度でほぼ100%でした。しかし、温帯地域では1種類の花粉媒介者では全体の50%以下であり、主に4〜8種類の花粉媒介者で割と均一に訪花しています。

地理的二分法仮説は90年代半ばに策定されました。これは、北半球の熱帯地域で、柱サボテンがコウモリに依存する特殊化した花であるという評価から来ています。これらの検証はメキシコの熱帯地域と温帯地域でなされたものでした。しかし、南半球や島嶼部では結果は異なり、プエルトリコやボリビアでは、単一の花粉媒介者との親和性が見られたため、仮説は部分的にしか認められませんでした。
しかし、なぜ緯度に沿って二分されるのかは分かっていませんが、花の特徴(タイミング、色、報酬)、気候(気温、降水量)などが関係しているかも知れません。

以上が論文の簡単な要約となります。
私も地理的二分法仮説については初めて知りましたが、非常に不思議です。
それはそうと、過去の研究とは異なるということですが、当該論文を読んでいないので詳細は不明です。しかし、この論文のように条件を揃えたり、複数種を調査したりという確実性を担保するための工夫が足りていなかっただけかも知れませんね。まあ、島嶼部については別の理由があっても良さそうですけど。




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