ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

2023年06月

植物の花は繁殖のための器官であり、種子を作るには受粉する必要があります。ですから、植物にとって受粉は非常に重要です。当ブログも植物の受粉に関して度々記事にしていますが、それは私が非常に興味があるからでもあり、実際に植物の論文では受粉に関係するものが非常に多いという現実を映しているせいでもあります。何か面白い論文はないかと探していたら、2009年の「South African Journal of Botany」という学術誌の75号に、南アフリカの植物の受粉についてまとめた社説が掲載されていたので、本日は簡単に見ていきましょう。タイトルは『Advances in the pollination biology of South African plants』です。

1. ダーウィンから現在まで
ダーウィンは1859年に自然淘汰、1862年にランの受粉、1877年に植物育成システムについての本を出版しました。ダーウィンは受粉生物学の枠組みを提供し、ヴィクトリア朝に南アフリカに入植した自然主義者に大きな影響を与えました。この時期、南アフリカに拠点を置く博物学者による花の機能形態に関する論文がダーウィンに送られ、リンネ協会のジャーナルに掲載されました。この時期の注目すべき人物は、東ケープに拠点を置くイギリスの博物学者であるJP Mansell Wealeや、グラハムズタウンに拠点を置く入植者のMary Barber、ケープタウンの南アフリカ博物館の最初の学芸員であるRoland Trimenなどが挙げられます。
受粉生物学はダーウィンの時代に開花した後、南アフリカでは衰退しました。1951年にStefan Vogelが南アフリカに遠征し、1954年に南アフリカの花の受粉に関する画期的なモノグラフを出版するまであまり研究されませんでした。1950年から1980年の間、受粉生物学の分野では持続的な研究はありませんでした。例外は1978年のDelbert Wiens & John Rourkeによる研究で、ヤマモガシ科植物のげっ歯類による受粉の発見につながりました。1980年代には、鳥類とフィンボスの植物の受粉相互作用に焦点が当てられました。
1990年から現在までは、南アフリカでは受粉生物学の研究は著しく増加しています。注目に値するのは、アヤメ科およびラン科植物の、昆虫による高度に専門化された受粉システムや、花の擬態様式、共進化といった概念が研究されています。受粉生物学がまだ探索段階であり、次々と新しい植物鳥花粉媒介者の相互作用が発見されています。最近の論文は、効果的な花粉媒介者の特定、受粉の状況、花のポリネーターへのアピールと報酬の定量化、新しい植物育種システム、第三者による相互作用という5つのテーマがあります。

2. 効果的な花粉媒介者
①昆虫による受粉システム
Potgieterら(2009)は、Plectranthus属のS字形の花冠が花粉媒介者である蜂の湾曲した口に対する適応であり、花粉を媒介者しない、あるいは効率の悪い訪問者を排除するフィルターとして機能する可能性を指摘しました。
次に花粉媒介者に適応した送粉シンドロームと花粉媒介者の関係についてです。De Merxemら(2009)は、Tritoniopsis revolutaの細長い花は口器の長いナガテングバエにより受粉するとされてきました。しかし、ナガテングバエがいない場合、蜜が溜まって口器の短いミツバチも蜜を吸うことが出来ることが分かりました。
ミツバチは鳥媒花にも訪れます。アロエは南アフリカの代表的な鳥媒花ですが、Symelら(2009)はAloe greatheadii var. davyanaを訪問するミツバチが、重要な花粉媒介者であることを示しました。
アフリカのソテツであるEncephalartos属は、甲虫により花粉が媒介される可能性があります。Suinyuyら(2009)は、3種類の甲虫(ヒラタムシとゾウムシ)がEncephalartos friedrici-guilielmiの効果的な花粉媒介者であることを示しました。

②脊椎動物による花粉媒介
南アフリカはオーストラリアと同様に、鳥類や哺乳類による受粉に適応した割合が高いとされています。Brownら(2009)は高地のKniphora属の植物の花の、最も頻繁な訪問者はDrakensberg Siskinというヒワの仲間でした。これは、蜜を主食としない鳥による開花時期だけの花粉媒介者が、非常に受粉に重要であることが分かりました。
Westerら(2009)は、Whiteheadia bifoliaという1属1種のユリ科植物が、げっ歯類による花粉媒介を受けていることを明らかとしました。

3. 花のポリネーターへのアピールと報酬
ほとんどの植物は受粉のために動物の行動を誘導する必要があります。花粉媒介者にアピールするための花の色や香り、報酬となる蜜と花粉を利用します。
Peterら(2009)は、地生蘭であるHabenaria epipactideaの香りの生成が、スズメガの活動時間と一致していることを示しました。
上で取り上げたBrownらの論文では、Kniphoraの蜜は非常に希薄でヘキソースが優勢であり、鳥媒花に一般的なパターンであることを示しました。
タイヨウチョウ(sunbird)は蜜を専門とするスペシャリストですが、効率化した採蜜により受粉に関与しない盗蜜を頻繁に行います。Coombsら(2009)によると、ゴクラクチョウカの仲間(Strelizia reginae)の強化された花被の基部により、タイヨウチョウや昆虫の盗蜜を防ぐ障壁となっているということです。
植物は動物を利用しますが、それが無報酬であることすらあります。Combs & Pauw(2009)によると、報酬のないランであるDisa karrooicaへのナガテングバエの訪問は、近隣に生えるペラルゴニウムに似ているからかも知れません。


以上が論文の簡単な要約です。この号は花粉媒介者や受粉に関する特集号だったみたいで、そのまとめのようなものです。内容を限定したにも関わらず、内容は多岐にわたり受粉生物学の研究が盛んであることが分かると同時に、新しい知見の多さからはあまりに調査が進んでいない分野であることも分かります。
花粉媒介者と受粉のシステムは考えられていたよりも非常に複雑で、意外性のあるものでした。当ブログでも度々取り上げてはいますが、論文を読むたびに毎度驚かされます。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

世界各地には未だに伝統医学が存在し、地域によっては住民の生活に深く根付いています。特に現代医学が浸透していない開発途上国には顕著です。しかし、このような伝統医学は様々な野生の植物を利用するため、場合によっては希少な植物が用いられてしまうこともあります。このような場合、野生の植物ではなく栽培された植物を利用することが出来れば、簡単に解決するでしょう。しかし、問題は栽培した植物が野生の植物より劣っていないかという疑念です。これは、薬用植物の栽培を考案する際の一番の問題点で、栽培品を下に見るのことは世界的に一般的です。しかし、希少植物の保護の観点から薬用植物の栽培を行う場合は、栽培品はその効果が疑われ、結局は野生の希少植物が使われてしまうという悪循環を断つことが中々出来ていない現状があります。ですから、栽培品の品質の証明は野生植物の保全対策としても急務課題と言えます。本日は栽培された蒼角殿(Bowiea volubilis)を市場で取引される野生株との薬効を比較した、M. A. Masondoらの2013年の論文、『A comparison of the pharmacological properties  of garden cultivated and mutch market-sold Bowiea volubilis』を見ていきます。

DSC_1654
蒼角殿 Bowiea volubilis

DSC_0845
B. volubilisの花

蒼角殿(Bowiea volubilis)は、南アフリカ東部に広く分布し、南アフリカの伝統医学で使用される薬用植物の14%におよびます。球根にはいくつかの強心配糖体が含まれています。強心配糖体は心筋に作用し鬱血性心不全の治療にも使用されますが、使い方次第では心臓に悪影響があります。しかし、伝統医学では様々な病気に対して利用されてきました。球根の汁を分娩時に妊婦に与えたり、感染症対策に皮膚に塗布したり、眼痛に対しても使用されます。さらに、ズールーの薬草医は腹水、不妊、膀胱炎、腰痛、筋肉痛などのためにB. volubilisを処方します。

南アフリカでは公式あるいは非公式の市場の両方で、薬草植物の需要は増加しており、明らかに規制はされていません。最大の懸念は使用される薬用植物の部位の85%は、球根や塊茎、樹皮などの再生不可能な部位であることです。多くの植物が過剰収穫により絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕しています。B. volubilisもまた、過剰収穫により減少し、南アフリカのレッドデータリストで脆弱種に指定されています。
研究者は薬用植物の絶滅リスクに対抗するために、薬用植物の小規模農業を提案しました。しかし、伝統医学のヒーラーは野生の薬用植物はより強力であると信じているため、栽培品への転換は進まないままです。

著者らは大学の植物園で栽培された約5歳のB. volubilisを、Muthi市場で取引されている株と比較しました。B. volubilisは乾燥させてから粉末にし、5gを石油エーテル(PE)、ジククロメタン(DCM)70%エタノール(EtOH)、および水で1時間の超音波処理により抽出しました。抽出物を濾過した後に真空濃縮し、これを微生物への薬効を見るためにエイムズ試験を実施しました。エイムズ試験では、4種類の最近株である枯草菌ATCC6051株、黄色ブドウ球菌ATCC12600株、大腸菌ATCC11775株、肺炎桿菌ATCC13883株、および真菌であるカンジダ・アルビカンスATCC10231株を試験しました。 
エイムズ試験の結果は、枯草菌に対しての各抽出物は栽培品と野生植物で同等あるいは栽培品の方がやや有効、黄色ブドウ球菌に対しては栽培品が有効なものと野生植物が有効なものとがあり、大腸菌は栽培品と野生植物で同等、肺炎桿菌は野生植物の方がやや有効、真菌は野生植物の方がやや有効でした。
B. volubilisは様々な感染症に利用されていますが、今回の試験結果では野生植物であっても抗菌力はかなり貧弱でした。とはいえ、今回試験された微生物以外に効果が高い可能性もあります。とりあえず、今回の結果からは栽培品と野生植物の間で大きな違いはないことが確認されました。植物の薬理活性は育ち方や年齢、サイズ、季節により異なるとされ、効果が最大となる栽培方法が分かればより有効かも知れません。


次に抗炎症作用(いわゆる消炎作用)についても試験され、栽培品も野生植物も抗炎症作用を持つことが確認されました。有機溶媒で抽出されたものより、水で抽出されたものの方が作用は強いものでした。2種類の炎症物質を阻害するかを見ましたが、1種類(COX-2)は水抽出物では栽培品も野生植物も100%炎症物質を阻害しました。もう1種類(COX-1)は水抽出物では栽培品は約50%の阻害、野生植物では90%以上を阻害しました。今回の結果から、伝統医学における疼痛および炎症性疾患に対するB. volubilisの有効性が確認されました。

以上が論文の簡単な要約となります。
抗菌力に対しては調べた範囲では曖昧な結果でしたが、消炎作用に関しては強い作用があることが確認されました。わざわざ有機溶媒を使用しなくても水で抽出可能であったことは、伝統医学での利用方法と合致しており、実際に利用される際に利便性が高いと言えるでしょう。COX-1に関しては野生植物の方が強い作用があるようですが、論文中にもあるように適切な栽培方法の確立により解決可能であるかも知れません。また、野生植物においてもCOX-2に対する効果の方が高いので、COX-2の効果に適した利用方法を考慮するという考え方もあるでしょう。
この論文の最大のネックは、その検体の少なさです。そもそも、B. volubilisが収穫された場合により生育が異なるでしょうから、期待される効果にバラツキがあるかも知れません。あちこちの産地を比較する必要があります。もしかしたら、産地により大幅に成分比率が異なるかも知れず、その場合は栽培品以下のものもあるかも知れません。さらに言えば、栽培品の生育環境が不明であり、それが標準的な栽培方法かどうか考えなければなりません。
最後に、抗菌力に関して1つだけ。本来ならば、B. volubilisが利用される地域で疫学調査を行い、その地域でB. volubilisにより治療などで対策される微生物を特定し、その微生物に対して効果があるかを見る必要があります。しかし、現実的には①薬用植物の薬理作用の研究、
②薬用植物の原産地における利用方法の調査、③疫学調査の3点はバラバラに研究されています。この3点はセットにならないと本当の意味における確証が得られませんから、本来の目的である栽培品への代替は進まないでしょう。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

冬は室内に多肉植物を取り込んでいますから、室内には水受けやらミニ扇風機やら色々ありますが、なんと未だに出しっぱなしです。最近、ようやく受け皿を洗ったりはし始めましたが、片付いておらずやや雑然としています。ネタがないので、今日は少し多肉植物の様子をご紹介します。

230624085454047
Pachypodium densiflorum
春先からずっと開花しています。

230624085506325
枝が多いので、どれかしらの枝から花茎が出て来ます。

230624085524144
Dioon spinulosum
新しい葉が出てきましたが、我が家のソテツの中ではかなり遅いフラッシュ。


230624085534872
Dioon edule
スピヌロスムよりエドゥレの方が早かったので、整った美しい葉が展開中です。


230625093343114
Zamia furfuracea
フルフラケアは新しい葉の展開はすでに完了しました。

230628000603430
Aloe bowiea
初めての開花です。
230628000543802
非常に地味な花ですが、株が充実してきた証拠でしょう。 しかし、この地味であまり開かない花は、ミツバチではなく蛾により受粉するのかも知れませんね。

なにやら、風邪を引いて治りかけたと思ったらまたかかってみたいなことを繰り返していましたが、これは私だけではないみたいですね。たちの悪い風邪が小学校で大流行しており、長引くのが特徴みたいです。最近、会社の同僚が子供から風邪をうつされたらしく、毎日激しく咳き込んでおり、案の定私もうつされてさしまいました。まあ、うつされたのは私だけではありませんが。とにかく咳が止まらないので、休日は家に引きこもっています。体調不良というよりは周囲に風邪をばらまいて歩きたくないですからね。咳が治まるまでは、しばらくは色々と自重です。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

花はそのサイズや形、花色により、花を訪れる花粉媒介者はある程度は決まっていたり制限されています。小さな花はそれだけで訪問者をある程度は限定しますし、細長い管状の花ならば差し込むことが出来る細長いクチバシや口吻が必要です。逆に巨大な花ならば、ミツバチのような小型の昆虫は花粉に触れることがなく、花粉に触れていても柱頭に触れることがなければ受粉しませんから有効な花粉媒介者とは言えません。学術的には花の構造などから有効な花粉媒介者が想定されており、花を訪れても受粉には重要な役割を果たしていないと見なされることがあります。しかし、それは実際の調査により観察され、花粉媒介者の種類により結実するか否かを確認する必要があります。本日は、そんな本来予測される花粉媒介者ではない花粉媒介者の意義について調査したD. Geelhand de Merxemらの2009年の論文、『The important of flower visitors not predicted by floral syndrome』をご紹介します。

論文で調査の対象となるのは、Tritoniopsis revolutaという南アフリカ固有のアヤメ科植物です。管状の花を咲かせ、長い口吻を持つProsoeca longipennisというツリアブモドキ科の昆虫(以下、ナガテングバエ)により受粉すると考えられています。この論文では、本来の花粉媒介者ではないAmegillaというミツバチがT. revolutaの花を訪れる意義について調査しています。
T. revolutaは産地により花の長さが異なり、管状の花に適応した花粉媒介者により受粉すると考えられています。Swartberg山地ではT. revolutaの管の長さは14〜34mmで観察によりテングバエ(Prosoeca ganglbaueri)が花を訪れることを確認しました。Langeberg山地では管の長さは最大84mmに達しており、これまでの観察では花粉媒介者は不明なままです。ナガテングバエは38〜40mmの口吻を持ち、T. revolutaの花粉媒介者とされますが、その口吻はLangeberg山地のT. revolutaの花より短いものでした。

著者らはLangeberg山地のGysmanshoek峠沿いに生えるT. revolutaを調査しました。峠の北側には非常に長い花(平均55.8mm)が生え、南側には短い花(平均30.5mm)のT. revolutaが生えていることがわかりました。また、Tradouws峠の北側には非常に長い花(平均69.6mm)を持つT. revolutaが自生します。Tradouws峠の南側には短い管状の花(平均10.6mm)を持つTritonio ramosaが自生しますが、ミツバチにより受粉したという記録があります。さらに、Potberg近郊のDe Hoop自然保護区に短い花(平均29.6mm)を持つT. revolutaでも観察されました。観察は日中に花を訪れた昆虫の種類と、実際の花の長さ、花が受粉し種子が出来たかを確認し受粉成功率を算出しました。

結果として、T. revolutaにはミツバチがどの場所でも訪れました。ミツバチはGysmanshoek峠の短い花に頻繁に訪れ、Gysmanshoek峠の長い花とT. ramosaにはあまり訪れませんでした。Tradouwsではナガテングバエが採集されました。また、GysmanshoekではCosmina fuscipennisというハエが花粉を食べている様子が観察されています。このC. fuscipennisというハエは、9匹中1匹のみが花粉を持っていました。ミツバチ(
Amegilla)は21匹中18匹で86%が花粉を持っていました。他の種類のミツバチも7匹中5匹で花粉を持っていました。ナガテングバエは採集された1匹には花粉がありました。
口吻の長さはミツバチでは4.6〜8.6mmでしたが、ナガテングバエでは71.3mmでした。これは、TradouwsのT. revolutaの花の長さと一致しています。しかし、著者らの3年間に及ぶ観察では、ナガテングバエはほとんど観察されていません。ミツバチ(
Amegilla)は数が多くT. revolutaの花に頻繁に訪れ、花粉が付着している可能性が高いことから、T. revolutaにとってミツバチが重要な花粉媒介者であると考えられます。ミツバチは長い花にはあまり訪れず、短い花により多く訪れました。長い花は種子が少なく、短い花のT. revolutaはT. ramosaと同じくらいの種子を作りました。これらの結果から何が言えるでしょうか?
著者はナガテングバエが豊富にいた場合は、ミツバチは蜜にアクセス出来ず頻繁に訪れないと言います。これは、ナガテングバエは口吻が長く上手に蜜を吸ってしまうため、競合したらミツバチには分が悪いということなのでしょう。ただ、ナガテングバエの個体数は変動が激しく、ナガテングバエが少なければミツバチがメインの花粉媒介者となるのでしょう。

以上が論文の簡単な要約となります。
T. revolutaの花はミツバチの口吻の3倍程度の長さがあることから、T. revolutaはナガテングバエの受粉に適応している可能性は高いのですが、短い花ならばミツバチにより受粉します。どっちつかずな気もしますが、花の長いT. revolutaはナガテングバエとの共生を強化していき、いずれミツバチが完全にアクセス出来ないより長い管状の花に進化するかも知れません。しかし、短い花はミツバチにより受粉しますから、花が長くならないかも知れません。ミツバチは学習効果により、短い花が生える地域に多く訪れますから、やがて生殖隔離が起きて別種となるかも知れませんね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

昨日はコウモリや蛾により受粉する柱サボテンについての論文をご紹介しました。論文で調査されたPilosocereus leucocephalusは夜間に開花する柱サボテンでした。夜間に咲く花は白色のものが多いのですが、サボテンは日中咲くものの方が多いでしょうし、花色も多様です。日中に花が咲くサボテンの受粉はどうなっているのでしょうか? 一般的に花の受粉は蜂の役割が大きいとされますが、アフリカの大型アロエは様々な鳥が蜜を吸いに来ますし、受粉に対する寄与は蜂よりも鳥の方が大きいことが明らかになっています。アメリカ大陸にはハチドリという花の蜜に特化した鳥が分布し、ハチドリに受粉を依存する鳥媒花も存在するはずです。という訳で、本日はP. Gorostiague & P. Ortega-Baesの2014年の論文、『Haw specialised is bird pollination in the Cactaceae?』をご紹介します。サボテンの鳥媒花に関する調査を実施しています。

一般に南アメリカでは鳥媒花のサボテンが多いとされ、主にハチドリにより受粉すると考えられています。Oreocereus属、Cleistocactus属、Matucana属、Denmoza属などの細長い管状の花は、鳥媒花として進化してきたとされています。論文で調査したサボテンは高地性のCleistocactus属で、管状の赤系統の花を咲かせます。Cleistocactus baumamniiとCleistocactus smaragdiflorusは、管状の細長い花を咲かせ、ほとんど開かず先端が少し開くぐらいです。調査地はアルゼンチンのSalta州、La Bodeguitaです。

観察の結果、C. baumanniiにはハチドリだけが訪れました。C. smaragdiflorusは、ハチドリとクマバチ(Xylocopa)、さらにミツバチが訪れました。花からは蛾の鱗粉の付着はなく、UVランプで捕獲された蛾にはCleistocactusの花粉はありませんでした。

調査された2種類のCleistocactusは赤い管状の花を持ち、典型的な鳥媒花の特徴を持ちます。この管状の花は鳥類形質(ornithophilous trait)とも呼ばれ、他の花粉媒介者に対する物理障壁として機能する可能性があります。また、鳥が訪れる花の花粉は赤いことが多いようです。

以上が論文の簡単な要約です。
論文では過去のサボテンの花粉媒介についても長々と解説されていましたが要約が難しく、話があちこちに飛んで焦点を絞れないため割愛させていただきました。
さて、内容についてですが、今回調査したCleistocactus2種は、花色的にも形状からも日中に訪れる花粉媒介者により受粉している可能性が大きいことが分かります。さらに、C. baumanniiはハチドリ以外の花への訪問者はなかったことから、この種は鳥媒花に特化しているようです。C. baumanniiの花はほとんど開かないため、細長いクチバシを差し込むことが出来るハチドリ以外は利用出来ないのかも知れません。C. baumanniiはハチドリに非常に強く依存しており、おそらくはハチドリ以外では受粉出来ないのでしょう。
調べるとサボテンも中々面白い話が沢山あるようです。他にも何か面白い論文がないか調べてみようと思います。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

本日はElaiosmeなる種子に付いた謎の栄養分についての論文をご紹介する予定でした。Elaiosmeについて基本的なことがわかりそうな論文が見つかったのでPDFをダウンロードしたところ、何故か違う論文でした。リンク先が誤っているというか、2つの論文が逆になっているのかと、ダウンロードした論文のタイトルで検索してダウンロードしたところ、また別の論文が出てきてしまいました。もうめちゃくちゃですね。仕方がないので、論文の掲載誌に飛んでダウンロードしましたがエラーが出てしまい、時間を変えてダウンロードして下さいというメッセージが表示されてしまいました。サイト自体が駄目みたいです。いやはや、困ったことです。という訳で、本日は誤ってダウンロードしてしまった論文を、せっかくなのでご紹介したいと思います。それは、Antonio Mipanda-Jacomeの2019年の論文、『Bats and moths contribute to the reproductive success of the columnar cactus Pilosocereus leucocephalus』です。もう、タイトルからして「コウモリと蛾は〜」で始まってますからね。たまたまダウンロードしたのに、すでに面白そうです。早速内容を見てみましょう。

柱サボテンの花は釣鐘形でピンク色がかった白色、不快な臭いが特徴で、このタイプの花を「chiropterophilic flowers」と呼んでいます。論文で調査したPilosocereus leucocephalusもchiropterophilicな花を咲かせます。P. leucocephalusは過去に昼間を訪れる花粉媒介者(蜂や鳥)と夜間に訪れる花粉媒介者(コウモリや蛾)の受粉への貢献度が調査されています。P. leucocephalusの花を観察すると、鳥や蜂も花を訪れていましたが、昼間の花粉媒介者による結実は11.9%に過ぎず、夜間の花粉媒介者により88.1%が結実していました。
柱サボテンの受粉は、一般にコウモリによるものと考えられています。しかし、赤外線カメラにより蛾も柱サボテンの花を訪れていることが明らかになりましたが、蛾は花粉や柱頭に触れていないため受粉には寄与しないと考えられて来ました。

この論文では、P. leucocephalusを夜間に訪れるコウモリと蛾により、花が受粉したかを調査しました。コウモリや蛾は夜間に活動するため直接の観察は困難です。だからと言ってライトを使用すると、訪れる花粉媒介者に影響を与えるかも知れません。論文では、3.5cmメッシュの金属製のカゴによりコウモリが入れない花と、ナフタレンを花の周囲に撒いて蛾が来ないようにした花を準備しました。赤外線カメラで花を観察し、訪れた花粉媒介者の種類を特定し、実際にその花が結実したかを確認しました。
観察では、全体的な花への訪問率は、蛾は62.3%でコウモリの37.7%より高いものでした。しかし、柱頭や葯に花粉媒介者が触れた割合は、蛾は28%でコウモリほ95%でした。しかし、赤外線カメラの観察では詳細は不明瞭でしたから、蛾の訪問は過小評価されているかも知れません。
実際に花が結実したかを確認したところ、コウモリが訪れた花は100%が結実し、蛾が訪れた花は34%が結実しました。

結果としてP. leucocephalusの主要な花粉媒介者はコウモリでした。これは、コウモリが毛深く花粉を大量に運搬し、機動力に優れているためと考えられます。対して、蛾の受粉への貢献度はコウモリよりも低いものでしたが、訪れる数が多く必ずしも無視出来ない結実率でした。蛾の受粉は以前に考えられて来た以上に重要である可能性かあります。

以上が論文の簡単な要約です。
花粉媒介者がいなければ受粉出来ませんから、花粉媒介者は植物にとっては重要なファクターです。しかし、花粉媒介をするコウモリは季節により渡りをする習性があり、渡りの移動先の環境破壊によりコウモリは最近非常に数が減少しています。コウモリの数が好転する可能性は低く、将来的な柱サボテンの花粉媒介者の絶滅は時間の問題かも知れません。今回の論文の調査により、コウモリだけではなく蛾も受粉にある程度は貢献することが明らかとなりました。コウモリの減少が進んでも、受粉はゼロにはならないことは柱サボテンにとってプラスの要因です。しかし、受粉率の低下により、野生の柱サボテンの数は除々に減少していく可能性があります。そう考えるとあまり安心は出来ない現状ではあります。将来的にも巨大な柱サボテンが育つ、素晴らしい自生地の姿が見られなくなるのは悲しいことです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

標高と植生は非常に強い関連があります。標高と植生などと言うと、いったい何のことを言っているのかと思われるかも知れませんが、簡単に言うと山に登ると生えている植物が変わりますねというだけのことです。山に登ると除々に気温が低下していきますから、温帯にある山に登っても、頂上のお花畑で見られる植物は亜寒帯と似ていたりします。これは、氷河期に現在の温帯域まで分布を拡大した北方の植物が、氷河期の終焉の際に涼しい山地に取り残されたものです。まあ、それほどの高地ではなくても、平地と異なる環境に適応した植物が優勢になりますから、北方からの遺存種だけではなく在来の植物にも変化があります。では、多肉植物は標高の変化により、何かしらの違いが生じるものなのでしょうか?
という訳で、本日は標高の違いとサボテンの関係を調査したD. E. Gurvichらの2014年の論文、『Diversity and composion of cactus species alnong an altitudinal gradient in the Sierras del Norte Mountains (Cordoba. Argentina)』です。早速見てみましょう。

アルゼンチンのコルドバ州のSierras del Norte山脈のサボテンの豊富さと組み合わせを明らかにすることを目的としています。標高203〜970mの55点において調査し、8属24種のサボテンが確認されました。11種類が球状、5種類が短い柱状、3種類は柱状、5種類はウチワサボテン型でした。最も頻繁に見つかったのは、81%で見つかったOpuntia sulphurea(ウチワサボテン型)と、56%で見つかったGymnocalycium erinaceum(球状)でした。1箇所でのみ見つかったのは、外来種のOpuntia ficus-indica(ウチワサボテン型)でした。次に少なかったのは、2箇所で見つかったGymnocalycium robustum(球状)、Opuntia salmiana(ウチワサボテン型)、Cereus aethiops(短い柱状)でした。
ギムノカリキウムの6種、Gymnocalycium bruchii、Gymnocalycium monvillei、Gymnocalycium erinaceum、Gymnocalycium mostii、Gymnocalycium robustum、Gymnocalycium quehlianumはコルドバの固有種であり、そのうちG. erinaceumとG. robustumはこの調査地点に固有です。

注 ) 柱状のサボテンとは、論文では「Arborescent」、つまりは「樹木状」となっています。これは、背が高くなって枝分かれする柱サボテン状の育ち方のサボテンのことです。「樹木状」と訳してしまうと、コノハサボテンと間違う可能性があるため「柱状」としました。ここで、「柱サボテン」と訳さなかったのは、「Arborescent」にはウチワサボテンであるOpuntia quimiloを含んでいたからです。ちなみに、「ウチワサボテン型」というのも、「ウチワサボテンのような」という意味ですから、O. quimiloを除外しています。

柱状のサボテン以外は全体的に1種類は確認されましたかが、柱状のサボテンは600m以上の標高には分布しませんでした。球状のサボテンでは、G. erinaceumは広い範囲の標高に分布しましたが、G. bruchii、Parodia erinacea、G. monvilleiは狭い範囲の標高に分布しました。ウチワサボテン型のサボテンは標高との関連は見られませんでした。

高い標高に特徴的なサボテンはすべて球状で、G. monvillei、G. bruchii、P. erinaceaでした。対する低地には、Stetsonia coryne(柱状)、Cleistocactus baumannii(短い柱状)、G. schickendantzii(球状)がよく見られました。

種の豊富さは、調査地点により1〜11種類と変化があり、平均5種類が観察されました。傾向としては、標高が高いほど全体の種類は減少し、柱状および短い柱状のサボテンは標高が低いほど豊富でした。

標高により形態が単調になるのはすでに報告がありますが、この研究では柱状および短い柱状の種類の減少として見られます。この結果は、形態が低温に異なる反応を示すことを示します。背が高い柱状のサボテンは、より低温に影響されます。球状のサボテンは背が低いことが低温に耐えられる要因かも知れません。球状のサボテンは低温に耐性があるものの、その特徴は暖かい環境では優位にはならないということです。著者らは、これらの標高と植生の関連を、主に低温に由来すると考えています。しかし、一般に標高が上がるとより乾燥する傾向があります。種子の発芽などを考慮するならば、標高と乾燥の関係性も調査する必要を感じているそうです。

以上が論文の簡単な要因となります。
サボテンも標高により遷移があるということが明らかになりました。この論文は調査地がアルゼンチンのSierrar del Norte山脈でしたが、他の地域ではどうでしょうか? サボテンの構成や環境が異なると違いはあるのか、あるいはサボテン以外の多肉植物ではどうかと、興味が尽きない話題かも知れません。
さて、論文では24種類のサボテンを4つの形態に分類して分析していました。一応、それらを一覧で示すことにします。

①球状のサボテン(Globose)
Echinopsis aurea
Echinopsis spiniflora
Gymnocalycium bruchii
Gymnocalycium erinaceum
Gymnocalycium monvillei
Gymnocalycium mostii
Gymnocalycium quehlianum
Gymnocalycium robustrum
Gymnocalycium schickendantzii
Parodia erinacea
Parodia mammulosa

②短い柱状のサボテン(short columnar)
Cereus aethiops
Cleistocactus baumannii
Echinopsis candicans
Echinopsis leucantha
Harrisia pamanensis

③柱状のサボテン(Arborescent)
Cereus hankeanus
Stetsonia coryne
Opuntia quimilo

④ウチワサボテン型のサボテン(Opuntioid)
Opuntia anacantha
Opuntia elata
Opuntia ficus-indica
Opuntia salmiana
Opuntia sulphurea


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

本日は小ネタです。『Southern African Journal of Botany』という学術誌に、研究の要約が掲載されていました。今回は、南アフリカの花の受粉に関する2つの記事をご紹介します。記事のタイトルにあるポリネーターとは、花の花粉を運ぶもの、つまりは花粉媒介者のことを指します。

1本目は、アフリカで花の蜜を吸うことに特化した鳥であるタイヨウチョウの、花の色に対する好みを調査したA. Heystekらの2013年の記事、「Flower color preference of sunbird pollinators」です。
植物が別種に進化する際、花色などに変異が生じる可能性がありますが、花粉媒介者の好みにより新たなタイプが維持されるかが決定されるのかも知れません。花色の多型はフィンボスのEricaで頻繁に生じ、Orange-breasted Sunbird(Anthobaphes violacea)による採蜜により受粉します。調査では白とピンク色の二色性の花を咲かせるErica perspicuaを観察し、花を訪れるタイヨウチョウを記録しました。タイヨウチョウは花から隣の花へ移動しながら採蜜しますが、色ではなく距離が近い花へ移動し採蜜しました。花色を考慮しないのであれば、二色性の花の多型が維持される可能性は低くなります。しかし、タイヨウチョウが最初に選ぶ花は87%がピンク色の花でした。タイヨウチョウが訪れた花の受粉率は花色で違いはありませんでした。
以上が記事の内容ですが、タイヨウチョウはアロエやガステリアの受粉に関与するため、私も気になる存在でした。記事を読んだ感想としては、おそらくはタイヨウチョウには花色に対する好みがあるのでしょう。しかし、それよりも少ない移動距離で効率的に採蜜する行動が優先された結果として、タイヨウチョウの持つ花色に対する好みがマスクされてしまった可能性があります。

2本目は、養蜂が鳥媒花に及ぼす影響を調査したS. Geerts & A. Pauwの2009年の記事、『Does farming with native honeybee affect bird pollination in Cape fynbos?』です。
飼育されたミツバチは、自然環境の在来植物や花粉媒介者に悪影響を及ぼすことが知られています。野外の自然環境下で養蜂の影響がテストされた研究はありませんが、養蜂により環境中のミツバチが自然な数より多くなり過剰になる可能性があります。記事ではミツバチの巣箱を南アフリカのフィンボス地域に設置し、野生のヤマモガシ科植物を対象に観察しました。主に蜜が利用出来るのか、採蜜する鳥の数、鳥の多様性、ミツバチの豊富さを、巣箱の設置前後で比較しました。結果として、環境中のミツバチの数を増やすことは出来ましたが、蜜の利用可能性、鳥の個体数、鳥の多様性に変化はありませんでした。ミツバチの密度が高い場所では、サトウガラという鳥は減少しましたが、単なる傾向であり重要なものとは見なされません。ヤマモガシ科植物の豊富な蜜は、資源をめぐる競争の可能性を排除するようです。ミツバチが影響を与える場合は、蜜の量が制限されるような環境が考えられます。よって、ミツバチが環境中に増えたとしても、ヤマモガシ科植物とその蜜を食べる鳥には悪影響はないと結論づけます。
以上が記事の内容となります。ミツバチは花の受粉にとって重要なことは知っていましたが、競合する採蜜者に影響を及ぼす可能性をすっかり失念していました。確かにミツバチが増えて蜜を独占してしまえば、競合に負ける花粉媒介者が現れるでしょう。しかし、その場合に、競争相手として想定されるのは、同じ採蜜性の在来のハチでしょう。移動距離から考えても、鳥の方が範囲が広く、花がないなら容易に他の地域に移動してしまいます。また、蜜が豊富ヤマモガシ科植物ではなく、蜜に制限がある小型〜中型の花ではどうでしょうか? より影響が強く出るのような気がします。少し気になることもあります。それは、採蜜=受粉ではないということです。動物が蜜を求めて花を訪れたとしても、雄しべや雌しべに訪蜜者が触れなければ受粉は起こらない訳で、植物からすればただの蜜泥棒ということになります。記事にあるヤマモガシ科植物はミツバチにより受粉しているのでしょうか? 気になることが沢山ありますね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

植物栽培は様々な病害虫との闘いですが、そのなかでも致命的なのはウイルス病です。簡単に伝播・蔓延し、基本的に治す手段はありません。この植物のウイルス病については、何故かあまり園芸書にも詳しく書かれていません。そんな植物のウイルス病について書かれた珍しい本がありますので、ご紹介します。本日ご紹介するのは、井上成信による『ランのウイルス病 診断・検定・防除』(農文協、2001年)です。

230621024151593~2

植物のウイルスはインフルエンザウイルスのように、空中を漂って感染したりはしません。基本的に接触感染ですが、ウイルスに感染した植物に触れた手で他の植物に触ると感染する可能性があります。特に植え替えの際にランの根は傷つきやすく、大量のウイルスが手に付くことになります。また、株分けや枯れ葉の処理のために使用したハサミやナイフからも感染します。また、アブラムシ、ハダニ、アザミウマ、センチュウなどにより媒介されます。灌水した際に鉢底から流れ出る水からもウイルスは検出され、特に吊り鉢から流れ出る水がウイルスをばらまくことがあります。面白いことに、市販のタバコはタバコモザイクウイルスが90〜100%という高率で含まれているという報告があります。しかも、紙巻きタバコに加工されていても感染力があるため、タバコをもみ消した時などに葉に指が触れた手で植物に触れると、感染が起こる可能性があるということです。
基本的にウイルス病は治す手段がないため、持ち込まないことが重要です。そして、感染源となるアブラムシやハダニの防除に努めるしかありません。また、ウイルス病の鉢があった場所に、他の鉢を置くと感染してしまうため、置き場を流水でよく洗い、漂白剤などで消毒します。鉢同士も葉が接触しないように少し離し、落ち葉が他の鉢に落ちないように気を配る必要があります。使用するハサミやナイフ、ピンセットなども使いまわしはせず、流水で物理的な汚れを取り除いてから消毒します。鉢や用土の使いまわしはウイルスの感染が起きるため注意が必要です。用土は使いまわしはせず、鉢はしっかりと洗浄と消毒が必要です。
本書は様々な種類のウイルス病についての専門的な解説もありますが、興味を引くのはなんと言っても様々な症状が写真で示されていることです。ウイルス病ではよくあるまだら模様になるだけではなく、葉がよれたり、褐斑を生じたり、凹みを生じたりと症状は様々です。

以上が本の一部を抜粋したです。あくまでランの話であってサボテンや多肉植物には関係がなさそうですが、必ずしもそうとは言えません。ランはウイルス病の見本市のようなもので、とにかくウイルス病はなんでも感染してしまうため、このような本が出たわけです。しかし、植物のウイルス病は本来の宿主とは異なる植物にも感染するため、サボテンや多肉植物にも野外の植物からアブラムシやハダニなどを介してウイルスが感染する可能性があります。実際にランのウイルスを鑑定するために、他の植物にランのウイルスを接種する試験があるくらいです。

植物のウイルス病と言えば、オランダのチューリップバブルの頃は、モザイク斑がウイルス病であると分からず、非常に高額で取引されました。これは、日本の古典植物にも見られ、江戸時代の園芸書の品種には、明らかにウイルス病とおもわれるものがありました。本書でも、寒蘭などの古典園芸で用いられてきたCymbidiumには、「金砂」と呼ばれる明瞭な斑が現れるタイプがありましたが、これはORSVというウイルスによるものでした。この事実は著者が明らかにしたということですが、植物に価値がなくなるため、中々受け入れられなかったそうです。しかし、ウイルス斑であるか否かなど我々のような素人には分かりませんから、斑入りの植物を目の前にした時に区別が付かない気もします。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

私はハウォルチアをいくつか育てていますが、基本的に硬葉系、つまりは現在のHaworthiopsisばかりです。硬葉系ハウォルチアのイボイボした連中が好みです。しかし、相変わらず本物のファスキアタ(H. fasciata)は見かけず、アテヌアタ(H. attenuata)系統ばかりです。まあ、アテヌアタはアテヌアタで改良が進み、コレクションするのにうってつけです。何だかんだで、私もアテヌアタを見かけるとついつい買ってしまいます。さて、そっくりさんとして有名なファスキアタとアテヌアタが、まあまあ集まりましたから、箸休め的な軽い記事にしてみました。

230620062503695
十二の巻
日本では昔からありますが、有名な割に由来がよく分からない多肉植物です。日本で作出された園芸品種と言われています。葉の内側にイボがある特徴からは、十二の巻がアテヌアタ系とするのが妥当でしょう。しかし、純粋なアテヌアタとも考えにくいため、アテヌアタ系としておくのが穏当かも知れません。十二の巻は若干外見が異なるいくつかのタイプがあることから、おそらくは交配種なのでしょう。最近は大柄の荒々しいバンドの品種も十二の巻の名前で販売されていますが(次の十二の巻)、交配種を十二の巻と称しているだけで、本来の十二の巻ではない気がします。

DSC_2324
十二の巻
バンドが荒々しく入るタイプ。実は従来の十二の巻の方が、均整がとれて美しい姿となります。最近はこちらのタイプも十二の巻として販売されています。

230620062445639
松の雪
アテヌアタのバンドがつながらず、細かく散るタイプ。私の手持ち個体は、やや均整が乱れた姿です。

230620062535594
アテヌアタ 特アルバ
アテヌアタの選抜品で、バンドは太く強いのですが、どうにも姿が乱れてしまいます。

230618183223686
スーパーゼブラ
バンドが太いアテヌアタ系の品種です。通常の十二の巻に一番近いバランスの良い姿です。ラベルにはH. fasciataとありますが、葉の内側にもイボがあるためアテヌアタ系でしょう。純粋なアテヌアタではなく十二の巻の選抜品種なのでしょう。

230620062426507
Haworthiopsis attenuata f. tanba
アテヌアタの矮性品種。品種改良されたものではなく、野生の個体が由来です。

230618183307403
Haworthiopsis fasciata DMC05265
次はファスキアタです。フィールドナンバー付き。バンドはよく見るとつながっていません。

230620062454230
Haworthiopsis fasciata fa.vanstaadenensis
ファスキアタの矮性品種。野生の個体が由来みたいですが、あまり情報がありません。イボは小さくまばらです。

思うこととして、本来のアテヌアタは葉が開いた形なのではないかということです。私の手持ちでは、特アルバと松の雪、f. tanbaは純粋なアテヌアタですが、葉は開きます。しかし、十二の巻は葉があまり開かないため、あるいはファスキアタの血も入っているのかも知れません。ただ、特徴的には葉の内側にイボがあるため、アテヌアタ系のように見えます。単純に良型の個体を選抜しただけの可能性もありますが、なにせ十二の巻の誕生は非常に昔のことですから真相は誰にも分からないでしょう。しかし、由来が分からないにも関わらず、十二の巻は非常に優れた園芸品種です。丈夫でちゃんと育てれば大変美しいものですが、その丈夫さ故に室内でインテリア代わりにされて徒長していたり、野外で放置されてカリカリに干上がっている十二の巻を見るのは悲しくもあります。

DSC_1045
去年、神代植物公園で開催された多肉植物展へ行きましたが、素晴らしい仕上がりの十二の巻がありました。普及種であっても、ちゃんと育てればこれだけの貫禄が出るのです。このような素晴らしい十二の巻を育てられるようになりたいものです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

多肉植物の論文を読んでいると、大抵の多肉植物は様々な原因で減少しており、絶滅が危惧されているものも珍しくないということが分かります。都市開発や農業開拓などの大規模な環境破壊もありますが、放牧による家畜の踏みつけなども侮れない要因です。しかし、他の植物と比べて多肉植物に多いのは、違法採取による減少です。
しかし、自生地の環境の悪化や開発に関しては、現地調査による論文がありますが、違法採取や違法取引に関しては正確な状況は不明瞭です。本日はサボテンの違法取引に対する、我々のような趣味家の意識調査を実施したJared D. Margulieらの2022年の論文、『Prevalence and perspective of illegal trade in cacti and succulent plants in the collecter community』を参照にしてみましょう。

論文では、違法な野生生物取引(IWT)は生物多様性に対する深刻な脅威であるにも関わらず、違法な植物採取と違法取引の蔓延に関する研究は不足しているとしています。サボテンと多肉植物の愛好家のいくつかのグループの441人を対象に、サボテンと多肉植物の違法採取や違法取引に関するアンケートを実施しました。
違法なIWTは比較的裕福な国が主体となり、植物の違法取引は量も金額でもIWTの大部分を占めます。植物は絶滅の可能性のおそれのある種の国際取引に関する条約(CITES)に記載される種の85%にもなります。鑑賞用に国際取引される植物の中でも、サボテンと多肉植物は過剰採取により最も強く脅かされており、その多くは違法です。国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種レッドリストのサボテンの評価では、種の31%が絶滅の危機に瀕しており、47%が鑑賞用のコレクションのための採取の影響を受けていることが明らかとなっています(2015年)。

CITESに対する意識調査
調査はオンラインの匿名で実施され、主にアメリカ合衆国とイギリスの愛好会を対象としました。
回答の59%はサボテンの国際輸送にはCITESの文書が必要であることを知っていましたが、他の多肉植物(Aloe、Pachypodium、Euphorbia)においてもCITESに関係していることを理解している人はあまりいませんでした(39%以下)。また、メキシコのサボテンの種子の国際輸送にCITESの許可が必要であることは、回答者の半数(50.8%)が知っていました。

CITESに関する意識調査では、CITESがサボテンや多肉植物の保護のために非常に重要である(60.6%)、やや重要である(26.5%)と捉えています。また、CITESがサボテンや多肉植物の違法採取や違法取引を減らすためにやや役立つ、あるいは非常に役立つとする回答は72%に上りました。しかし、一方で否定的な意見もあります。例えば、「種子は自由取引されるべきで、種子からの栽培は利益の少なさから植物密輸業者には旨味がありません。CITESがあっても違法取引は行われており、CITESは金銭的利益のために生息地での商業的違法採取を止めていません。それは、種子から苗床で栽培された無害な国際取引を違法としているため、監視されていない密輸を奨励する結果となっています。」という意見がありました。CITESの有効性に関しての懸念は、CITESは種の喪失に対する主要な脅威に対処していない、あるいは不十分な抑止であるとするものでした。回答者はCITESは重要であることは認めつつ、「希少種の繁殖は促進されるべきで、そのような植物が合法的に購入できるのならば、違法採取はなくなるでしょう。」と、ただ禁止するだけのシステムを批判し解決策を提示しています。

さて、このようなCITESに対する懸念にも関わらず、74%の回答者は野生のサボテンと多肉植物の採取が非常に深刻な問題であり、71%が違法採取の問題の増加を認識していました。回答者は野生植物の採取は受け入れられないと考えています。愛好家は野生植物の採取より種子の採取に肯定的でした。

では、実際の愛好家たちの植物の取引について見てみましょう。結果、回答者の5.3%が書類なしで植物を購入し、8.6%が書類なしで植物を輸送したと回答しました。
回答者の85%がサボテンと多肉植物の愛好会が植物保護の取り組みにおいて、重要なあるいは非常に重要な役割を持っていると報告しました。回答者はCITESが愛好家と協力し、植物を合法的かつ安全に繁殖と配布を行うことを望んでいました。

CITESに対する疑念
回答者はCITESの存在とサボテンと多肉植物の国際取引の許可にかなり精通し、ほとんどの回答者がCITESを非常に重要であると捉えていました。しかし、27%の回答者はCITESの有効性に対して不確実性あるいは疑問を呈し、一部はCITESに関する十分な知識の欠如によるものでした。回答者の認識としては、CITESは「欠陥がある」、「効果がない」、「多くの抜け穴がある」としており、大幅な改訂を望んでいます。CITESに対する信頼の低下は、貿易規制を無視することを正当化してしまう原因になる可能性があります。

東アジアが原因?
回答者の中には、違法採取の深刻化は北米やヨーロッパの趣味家には関係がなく、東アジアの趣味家の問題であると回答しました。しかし、実際に最近起きている事件は、アジア地域特有の問題ではなく、ヨーロッパやアメリカ合衆国でも依然として問題となっています。このような、「擦り付け」は非常に人気があるようです。しかし、ヨーロッパ地域とアメリカ合衆国だけではなく、多肉植物の違法取引需要の中心地の1つとして、中国、日本、韓国を含む東アジアが重要なことは確かであり、調査が必要です。

違法取引を減らすことは可能か?
回答者はCITESに詳しく、愛好会に対して教育すれば良いという問題ではないことが明らかとなりました。サボテンや多肉植物の愛好家は人工繁殖した植物や種子の提供し、サボテンや多肉植物の保全に対し貢献できると考えています。著者らは保全対策立案者やCITES締結国に対し、利害関係者との協議を奨励します。合法で人工的に繁殖した植物のみを収集することを提唱すると共に、愛好会内の違法取引を減らすことが不可欠です。

以上が論文の簡単な要約です。
基本的にCITESは違法取引の監視と規制が主体であり、希少植物の取引自体を減らすための取り組みが、十全になされているとは言えません。回答者の例にあるように、希少植物の人工繁殖により流通量を増加させる取り組みは必要だと思います。しかし、この方法は規制に穴を開けるために悪用されたり、偽装が行われる可能性があるでしょう。しかし、ただ手をこまねいているより、監視体制や取引を厳格にすることなどにより、運用すべきではないでしょうか。現状は守りに入っているだけですが、これからは積極的に違法取引の旨味を1つずつ潰していく必要を私は感じます。


あと、日本を含めた東アジアの違法取引の現状については、私にもよく分かりません。ただし、 Pachypodium rosulatum subsp. graciliusなどの現地球が、あちこちの園芸店に当たり前のように置かれ、その状態が10年以上続いている現状は恐ろしく感じています。近年ではコピアポアが人気なようですが、取引が禁止されている現地球と思われるサイズの黒王丸(Copiapoa cinerea)がなぜか市場に現れているようで、何かしらの疑念が拭えません。とはいえ、日本政府がCITESを無視しているという事実はなく、日本もCITESに従い希少植物の輸入を禁止していますし、摘発された事例もそれなりにあります。しかし、事実として沢山の希少植物が輸入されていることもまた事実ですが、必要な書類が揃っていれば日本政府はそれ以上の追求は出来ないため、日本政府を責めても解決はしないでしょう。むしろ、現地球の入手に関して、我々趣味家の意識を変えることの方が重要かも知れません。現地球の購入や栽培は、あるべき趣味家の姿として恥ずべきことであるという共通認識を持ち、現地球の栽培に対して批判的な姿勢を趣味家の多くが持つことが出来れば、国際的な批判を受けざるを得ない現状を変えることが出来るかも知れません。完成された現地球を調度品のように飾るのではなく、日本で実生された苗を現地球の姿を目指し工夫して育て上げることは、むしろ趣味家としての本懐であり本来のあるべき姿であると言えないでしょうか?


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

暑い日もあり、まったくハウォルチアの季節ではありませんが、いくつか花が咲いたのでご紹介します。まあ、ほとんど硬葉系ですけどね。

230618183307403
Haworthiopsis fasciata DMC05265
フィールドナンバー付きのファスキアタが開花中です。

230618183310865
花茎は非常に長く伸びます。
230618183330979
花はこんな感じ。

230618183156847
Haworthiopsis fasciata fa.vanstaadenensis
矮性のファスキアタです。花茎が初めて出て来ました。

230618183223686
スーパーゼブラ Haworthiopsis attenuata cv.
アテヌアタ系です。おそらくは、十二の巻の選抜タイプです。花はまだですが、大分育ってきました。


230618183407967
松の雪 Haworthiopsis attenuata
松の雪はアテヌアタの白いバンドがつながらないタイプです。

230618183411145
花茎が伸びています。
230618183420741
開花中。

230618183808358
Haworthiopsis scabra JDV 95/17
フィールドナンバー付きのスカブラです。初めて開花しました。
230618183812725
花茎が伸びています。
230618183833062
開花中です。

230618183549938
Tulista pumila var. sparsa
スパルサも花茎が伸びてきました。

230618183523698
Haworthia arachnoidea
アラクノイデアにも花茎が出て来ました。

230618184006704
Aloe bowiea
アロエ感のないアロエのボウィエアですが、大分株が充実してきました。去年は花茎は出ましたが枯れてしまったので、咲けば初めての開花です。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

ユーフォルビアは世界中に分布し、ポインセチアやハツユキソウのように多肉植物ではないものも沢山ありますが、乾燥地に生えるものは多肉質でサボテンによく似た種類もあります。基本的にユーフォルビアはシアチウム(Cyathium)と呼ばれる特殊な形状の花序により特徴付けられます。花の特徴は植物分類学では最も重要な因子で、植物分類学者ならば花の構造を見れば未知の植物でも大体の分類群が分かります。しかし、ユーフォルビアの小さな花序の特徴を肉眼で観察するのは、我々アマチュアには中々困難です。また、ユーフォルビアにはかなりの大きさにならないと開花しないものもありますから、趣味でユーフォルビアを栽培している場合、ユーフォルビアの花序を見ることはあまりに時間がかかるでしょう。ですから、我々のような趣味家は、花の特徴ではなくトゲなどの他の特徴をもって種類を特定しています。今日は、そんなユーフォルビアの花序以外のお話です。
本日、ご紹介するのは
Camelie IFRIMの2018年の論文、『STUDIES ON EPIDERMAL APPENDAGES FROM VEGETATIVE ORGANS AT EUPHORBIA SPECIES CULTIVATED IN BOTANICAL GARDEN IASSY』です。ルーマニアの大学からの論文のようです。植物園で栽培されるユーフォルビアの花序以外の外見的な特徴を取り上げています。やはり、論文中でも形態学的研究は非常に稀で、しかも北半球のユーフォルビア(おそらくは多肉植物ではない種類)についてです。南アフリカなどのユーフォルビアはトゲなどの付属物は研究されてきませんでした。著者はトゲと毛状突起、葉の跡について調査しました。
アフリカのユーフォルビアは多肉質でトゲがあり、サボテンによく似ています。これは、収斂進化のよく知られた例です。ユーフォルビアのトゲはサボテンのトゲ(※1)とは異なり、茎が起源(※2)であり「トゲの盾(※3)」(spine shield)があります。


(※1) 一般的にサボテンのトゲは葉が由来と言われます。しかし、木の葉サボテンには葉とトゲの両方がありますから、少しおかしいような気もします。確かにサボテンのトゲは葉が由来ですが、一般的に芽を守るために生える鱗片葉が由来ではないかと言われているようです。

(※2) 柱サボテン状のユーフォルビア(ユーフォルビア亜属)は、確かに角が硬質化してトゲが出来ているように見えます。しかし、ホリダやバリダなどのアティマルス亜属は花茎がトゲになっています。
DSC_0816
トゲは花茎由来です。花茎の先端に花が咲きます。

(※3) 柱サボテン状のユーフォルビアは、トゲとトゲの間が硬質化してつながるものがあります。
230528143931738

『Flora capensis』(Brownら、1925)では、アフリカのユーフォルビアのトゲには、3つのタイプがあるとしています。
1. 枝の頂点がトゲに変わった
  →E. stenoclada
2. 花序の茎がトゲに変わった。
  →E. ferox
3. 「托葉棘」と呼ばれる対のトゲ。葉の痕跡に向かって異なる位置にある。
  →E. caerulecens 

3種類目のトゲは托葉ではないことにBrownは気付きましたが、この用語はユーフォルビア属の専門文献(Carter, 2002)においても使用されています。

spine shield(トゲの盾)はアフリカのユーフォルビアの種の同定に重要かも知れません。しかし、Beentje & Chee, 2014では、spine shieldはほとんど使用されず、「トゲが突き出した角質パッド」(horney pad from which the spines stick out)として定義されています。Dorseyら(2013)は、spine shieldは「通常、2つか4つのトゲの生長をもたらす」と指摘しています。これは、Carter(1994)により「トゲとして修正された1対のトゲと1対の托葉」であると解釈されています。

論文においてはspine shieldの他に、葉の痕跡、毛状突起が、特徴として挙げられます。論文では最後に植物園のユーフォルビアの特徴を羅列していますが、これは意外と冗長でそれほど重要な事は書いていないので割愛します。その代わり、私の育てているユーフォルビアを例にして、ユーフォルビアの持つ外見的特徴を見てみましょう。
論文は割と大雑把な分け方で、あまり分類を意識していないようです。ここでは、せっかくなので遺伝子解析の結果から得られた分類に則って見ていきます。ユーフォルビア属は4亜属に分けられます。そのうちEsula亜属やChamaesyce亜属は多肉植物ではないものがほとんどです。ここでは、多肉質のユーフォルビアの大半を占めるEuphorbia亜属と、園芸用によく栽培されるAthymalus(Rhizanthium)亜属を扱います。

①New World clade
Euphorbia亜属はアジア・アフリカ・ヨーロッパなどの旧世界のものと、南北アメリカ大陸の新世界のものに分けられます。夜光キリン(E. phosphorea)など一部のものは、南米原産ですがNew World cladeではありません。
_20230505_221103
230617081623669
Euphorbia weberbaueri
ウェベルバウエリの茎の断面は歯車状ですが、ribは葉の跡から3本出ます。葉は非常に小さくすぐに脱落します。

②Goniostema節
Euphorbia亜属のOld World cladeは非常に多様で種類が多いので、節(section)ごとに見ていきます。
Section Goniostemaはいわゆる花キリンの仲間で、マダガスカル原産です。茎はトゲのあるものが多く、基本的に木質化します。多肉質なユーフォルビアの葉は脱落性のものが多いのですが、花キリンの葉は長期間脱落せずに残り、葉が脱落した跡が非常に目立ちます。また、塊根性のものが多くあります。花が美しいので鑑賞用に園芸品種が盛んに栽培されます。
230617080642595
Euphorbia viguieri
ヴィグイエリは葉と幹で光合成する花キリンでは珍しいタイプです。葉は大きく長く残ります。幹はサボテンのように太りトゲがあります。葉の跡は小さく目立ちません。


230617080704964
Euphorbia neohumbertii
ヴィグイエリとは他人の空似で、それほど近縁ではありません。幹は緑色ですが、ヴィグイエリと比べると光合成にあまり寄与していないように思えます。葉の跡は非常に目立ち、特徴的な縞模様になります。


230617081740856
Euphorbia didiereoides
大型の花キリンで幹は木質化します。トゲは強く葉の跡は目立ちません。


230617081641281
Euphorbia boiteaui
ボイテアウイははっきりしたトゲはありませんが、少し毛羽立ったような小さな突起があります。葉の跡は割と目立ちます。


230617080746918
Euphorbia ramena
ラメナはトゲではなく毛のようなものが出て来ます。


③Deuterocalli節
Old World cladeです。Section Deuperocalliは、マダガスカル原産の棒状の多肉植物です。同じマダガスカル原産のGoniostema節の姉妹群です。
230617081112047
Euphorbia alluaudii
アルアウディイは葉の跡が枝に沢山残ります。葉は非常に小さくすぐに脱落します。

④Momadenium節
Old World cladeです。かつては、Momadenium属でしたが、近年ユーフォルビア属とされました。そのため、学名が変更されています。
230617085800410
DSC_1628
Euphorbia magnifica
かつてのMonadenium magnificumです。特徴的なトゲと、まばらな葉の跡が目立ちます。葉は硬く丈夫で長く残ります。

⑤Euphorbia節
Old World cladeです。柱サボテン状で大半がアフリカ大陸原産ですが、一部はアジア原産です。トゲとトゲの間が角質化してつながるものがあります。大型の多肉質のユーフォルビアはSection Euphorbiaと考えて間違いありません。
230617081132372
Euphorbia canariensis
多くのユーフォルビアは生長点に葉を持ちます。トゲが出る時に一緒に葉が出て、その葉はいずれ脱落します。しかし、カナリエンシスは葉がまったく出ません。

230617080558090
Euphorbia griseola
グリセオラはトゲとトゲの間の稜が角質化してつながります。この特徴はEuphorbia節には良く見られる構造で、苗のころはつながっていない種類もあります。

⑥Florispina亜節
Athymalus亜属、Anthacantha節に分類されます。Subgenus Athymalusはいくつかの節(section)からなりますが、その大半は多肉植物ではなく樹木となります。多肉質なものはSection Anthacanthaに固まっており、その中でもSubsection Florispinaは中心的です。
Subsection Florispinaは園芸用に有名な種類が多く含まれ、いくつかの種類は大量生産されています。トゲは花茎由来ですが、花が咲かないとトゲが出ないものと、花が咲かなくてもトゲ(花茎)が出るものがあります。
230617080430031
Euphorbia meloformis
バリダはメロフォルミスに含まれています。枯れた花茎が残ってトゲのように見えます。メロフォルミスは花が咲かないとトゲは出ません。


230617080158352
Euphorbia polygona var. horrida
ホリダのトゲは花が咲かなくても出ます。しかし、花茎由来なので、よく見ると表面は滑らかではなく苞葉の残骸のような構造が見えます。


230617080216587
Euphorbia ferox
フェロクスのトゲは非常に強いのですが、やはりホリダと同じくトゲは花茎由来ですから苞葉の残骸のようなものが見えます。


230617080237797
Euphorbia bubalina
ブバリナはトゲはありませんが、葉は長く残ります。葉の跡が残ります。


230617085505963
Euphorbia bupleurifolia
ブプレウリフォリアはブバリナと似たような育ち方ですが、イボが鱗状になります。イボの先端が葉の跡なので、葉の跡が下を向きます。


⑦Dacthylanthes亜節
Athymalus亜属、Anthacantha節に分類されます。塊根から多肉質の枝を出すものがあります。
230617085640302
Euphorbia globosa
クロボサは脱落性の小さな葉の跡が点のように残ります。


⑧Medusea亜節
Athymalus亜属、Anthacantha節に分類されます。いわゆるタコもの(Medusoid)で、多肉質の幹からトゲのない枝を沢山伸ばします。枝は再分岐せず、いずれ脱落します。
DSC_1911
Euphorbia gorgonis
ゴルゴニスは本体が扁平に育ちますが、枝は非常に短く育ちます。枝には脱落性の小さな葉の跡があります。

230617081138803
Euphorbia schoenlandii
スコエンランディイは本体が縦に伸びるタイプです。枝は短く、枯れた枝が長く残りトゲのように見えます。

⑨Balsamis節
Athymalus亜属に分類されます。半多肉植物くらいの位置づけの乾燥地の灌木で、幹は水分を貯めるためにやや太りますが塊茎とまではいきません。
230617085427631
Euphorbia balsamifera
バルサミフェラは樹木状に育ちます。トゲはなく、幹は全体的にやや太くなります。

一般的に論文ではユーフォルビアの特徴として、花序(Cyathium)の詳細な解剖学的特徴が記されます。しかし、それ以外の特徴となると意外と曖昧で、大雑把すぎて近縁種との違いが分からないこともしばしばです。わざわざ、近縁種との見分け形を記述したような論文はあまりなく、入手したユーフォルビアの名札と本当に同じ種類か確かめるのも中々困難です。この論文はあくまでも基本的な情報と問題提起程度の内容ですから、今後発展させた論文が出てきて欲しいところです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

かつてハウォルチアと呼ばれていた植物は現在では3分割され、Haworthia、Haworthiopsis、Tulistaとなりました。これらは、花の特徴が似ていたため一つのグループとされていましたが、花以外の特徴は異なり、遺伝的にもそれほど近縁ではありません。Haworthiopsisは日本では硬葉系ハウォルチアと呼ばれていましたが、まだハウォルチア属だった頃はHexanglaris亜属とされていました。HaworthiopsisとTulista以外のハウォルチアを日本では軟葉系ハウォルチアと呼び、Haworthia亜属とされていました。
さて、本日はまだハウォルチアの分割が一般化していない2015年のNatalia Volodymyrivna Nuzhyna, Maryna Mykolaivna Gaydarzhyの論文、『Comparative characteristics of anatomical and morphological adaptations of plants of two subgenera Haworthia Duval to arid enviromental conditions』をご紹介します。論文では、Haworthia亜属とHexanglaris亜属の、乾燥への適応について、その形態と構造から検討しております。

この論文で調べられたのは、Haworthia亜属はH. angustifolia、H. blackburniae、H. chloracantha、H. cooperi、H. cymbiformis、H. marumiana、H. parksiana、H. pygmaea、H. retusaの9種類。Hexanglaris亜属はH. attenuata、H. coarctata、H. fasciata、H. glabrata、H. glauca、H. limifolia、H. pungens、H. reinwardtii、H. viscosaの9種類です。

DSC_2092
Haworthia cooperi cv.

Haworthia亜属のロゼットは直径5〜6cmを超えることはあまりありません。H. parksianaやH. blackburniaeなどの葉は細長く幅は5mmを超えません。葉はしばしば光沢があり滑らかで、しばしば透明の「窓」や毛状突起があります。
Hexanglaris亜属は濃い緑色で、
窓と毛状突起がありません(※)。葉の表面は厚くしばしばイボや突起があります。この特徴はH. limifoliaに典型的で、H. glaucaとH. coarctataでは適度にありますが、H. pungensとH. viscosaにはありません。しかし、H. viscosaは非常に厚いクチクラを持ちます。最小の葉はH. glaucaやH. reinwardtii、H. viscosaで、葉の幅はH. glaucaやH. reinwardtii、H. pungensが狭いようです。

(※) H. pungensには毛状突起があり、H. koelmaniorumには「窓」があります。

DSC_0384
Haworthiopsis limifolia

葉の気孔はHaworthia亜属は多く、Hexanglaris亜属は少ない傾向があります。全体として向軸(Adaxial side)より背軸(Abaxial side)に多く見られます。しかし、1mm×1mmの面積内の気孔は、Haworthia亜属のH. retusaは非常に多く向軸は23.9個、背軸で36.7個でしたが、H. chloracanthaは向軸で2.6個、背軸で5.3個で少ないものでした。また、Hexanglaris亜属のH. glaucaは向軸で2.6個、背軸で3.6個でしたが、H. reinwardtiiは向軸で14.5個、背軸で13.1個と多いものでした。

_20230207_205411
Haworthiopsis coarctata

葉の水分含有率を調べたところ、Haworthia亜属のほとんどが90%以上でしたが、Hexanglaris亜属は多くは87〜89%でした。Haworthia亜属の例外はH. parksianaで、水分含有率は87%でした。また、Hexanglaris亜属のH. glaucaの水分含有率は84%以下でした。

_20230217_003149
Haworthiopsis viscosa

以上の結果から、以下のことが言えるそうです。Hexanglaris亜属に見られる様々な付属物やクチクラの発達は、強い日光を分散します。逆に滑らかな表面を持つHaworthia亜属は水分の放出が大きくなっています。
気孔が向軸より背軸に見られるのは、太陽光が向軸にあたるからではないかとしています。

DSC_1671
Haworthiopsis pungens

以上が論文の簡単な要約です。
私は旧ハウォルチアを構成していたHaworthiopsisやTulistaは好きで集めていますが、軟葉系ハウォルチアには詳しくないため、論文を読んでいても今ひとつピンとこない感があります。しかし、硬葉系ハウォルチアの方が乾燥に強いのは、言われるまでもなくまあなんとなくわかりますよね。軟葉系ハウォルチアは窓以外は地中に埋まって育ったりしますから、強光や乾燥に耐えるための分厚いクチクラ層は必要ないのでしょう。今にして思えば、花以外の特徴は軟葉系ハウォルチアと硬葉系ハウォルチアで結構異なっていたわけですね。遺伝子解析の結果では、軟葉系ハウォルチアはKumara属(旧Aloe plicatilisなど)と近縁で、硬葉系ハウォルチアのTulista属はGonialoe属(旧Aloe variegataなど)、Aristaloe属(旧Aloe aristataなど)、Astroloba属に近縁とされており、
Tulista属以外の硬葉系ハウォルチアはGasteria属と近縁とされています。この論文のように花以外の特徴で、遺伝子解析の結果で近縁なもの同士を比較したらどうなるでしょうか? どうにも気になりますね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

バルサミフェラ(Euphorbia balsamifera)は、アフリカ北部に広く分布していると考えられていた灌木状のユーフォルビアです。しかし、遺伝子を解析すると、何とバルサミフェラと思われていたユーフォルビアは、3種類に分割されることになりました。ギニア湾沿いに広く分布している集団は、バルサミフェラとは別種のEuphorbia sepiumとして独立しました。また、アフリカ北東部に分布する集団は、以前はバルサミフェラの亜種とされがちでしたが、Euphorbia adenensisとして独立しています。では、肝心のバルサミフェラはというと、モロッコ、西サハラ、カナリア諸島にのみ分布する集団を指すようになりました。
さて、バルサミフェラはアフリカ大陸原産のユーフォルビアには珍しく、割と研究されており論文もそこそこ出ているようです。しかし、残念なことにユーフォルビア研究は毒性のある乳液の化学成分の解析が盛んで、その生態を調べたような論文は非常に稀です。やはり、毒性がある=何らかの強い活性を示す物質がある、という図式なのでしょう。そんな中、バルサミフェラの利用法について実験をした、 S.Y.Mudi & Y.Dattiによる2014年の論文、『REPELLENT EFFECT OF THE LEAF EXTRACTS OF EUPHORBIA BALSAMIFERA (AIT) AGAINST ANOPHELES GAMBIA』を見つけました。

DSC_2322
Euphorbia balsamifera

昆虫により媒介される伝染病には、マラリア、西ナイル熱、デング熱、ライム病など公衆衛生上、深刻なものが多くあります。その多くが虫刺されが原因ですから、病気の蔓延を防ぐための取り組みが必要です。これらは開発途上国、特に熱帯地方の最も重要な公衆衛生問題、および社会・経済的発展の障害の1つです。WHOの1997年の公表によると、マラリアだけで年間1.5〜270万人の感染死亡者と、3〜5億件の感染患者を出しています。
主に熱帯諸国の20億人以上の人がデング熱、マラリア、フィラリア症などの蚊媒介性疾患のリスクにさらされています。蚊による虫刺されを防止するには忌避剤の使用が実用的とされますが、化学合成された忌避剤はやや毒性が高いことが知られています。さらに、合成忌避剤は非分解性であり、環境負荷が高いことも問題です。最近では、バジル、クローブ、タイムなどの植物から蚊ご忌避する成分を抽出する試みがなされています。
論文ではバルサミフェラの葉を乾燥させて粉砕したものを、90%のエタノールに浸けて成分を抽出しました。これをろ過・濃縮し、メタノールに溶解しました。このメタノール溶解物を、石油エーテル、クロロホルム、酢酸エチルでそれぞれ再抽出し、抽出液を乾燥させました。この作業により、それぞれの有機溶媒に溶解する異なる成分が分離されてくるわけです。
これらの成分が蚊を忌避されるかを調べるために、腕にエタノールに溶かした抽出物を塗布し、蚊が忌避するかを確認しました。ただのエタノールのみを塗布した場合と比較して、効果を確認しています。使用した蚊は、ハマダラカの1種(Anopheles gambiae)で、大学が飼育しているものです。
では、忌避実験の結果を見ていきましょう。

抽出物名   12.5%含有 25%含有
エタノール   90.9%   96.9% 
石油エーテル  41.0%   30.7%
クロロホルム  97.2%   100%
酢酸エチル   32.4%   21.6%
メタノール   53.6%   46.3%

12.5%と25%含有したものを使用しています。%は蚊の忌避率です。最初のエタノール抽出物には様々な成分が入っているはずで、忌避効果のない物質も沢山あるはずです。それでも、非常に高い蚊の忌避率でした。クロロホルムで再抽出したものは、さらに高い蚊の忌避率でしたから、クロロホルムで抽出される分画に忌避作用のある物質が含まれているのでしょう。

以上が論文の簡単な要約になります。著者はクロロホルム分画に含まれている物質を特定したいと結んでいます。
さて、この論文は珍しく薬ではありませんでしたが、多肉植物の論文を読んでいると、植物から薬効成分を分離しようという試みは一般的です。私はそういうタイプの論文を記事にはしないのですが、あまり知られていないように思えますから、少しこの点について解説しましょう。
植物から薬効成分を分離し、やがては薬にといった論調の論文は沢山あります。しかし、現実には成分を分析して、効果を試してみて、有効成分を特定して、そこで終わりです。基本的に現代では生物から薬は作られません。どうしてでしょうか?
昔は科学の程度が低かったので、抗生物質を始めとした生物から薬効成分を探していました。しかし、現代では科学の進歩に伴い、薬の開発は様変わりしました。例えば、ある病気に対する薬を開発する場合、昔は様々な生物の抽出成分や化合物を、反応させて薬効を確認していました。しかし、今では病気の分子構造を分析し、そこにピッタリ結合する分子構造を考えだして、合成専門のプロが合成方法を考案し、実際に合成された物質を用いて薬効を試験します。自然物質はその多くが偶然効果のある部分が多少ある程度ですが、合成物質は始めから効果があることがわかっているのです。ですから、植物由来成分が薬になる可能性はほとんどありません。実際に日本の大学でも盛んに生物由来の薬効成分探しはされていますが、その探し出された薬効成分に対して興味を示す製薬会社は基本的にありません。せいぜいが健康食品になる程度です。
では、植物由来成分には意味はないかと言うと、必ずしもそうとも言えないと思います。化学合成による製薬は、あくまで製薬会社の理論です。化学合成薬は欧米諸国では流通しますが、貧しい国の人々には手が届きません。製薬会社は開発費用を回収しなければ赤字になってしまいますから、基本的に新薬は高価です。現実を見ると、貧しい国には現代医療が圧倒的に不足しており、未だに民間療法が中心です。中には毒性が高いものもあり、処方を誤ると非常に危険です。民間療法で使用される植物から薬効成分を抽出出来れば、地産の素材で安価な薬剤を作り出すことが出来るかも知れません。当然、薬効は合成薬より弱いかも知れませんが、現状を変える可能性はあります。
さて、この論文のように、その土地に生える植物を利用するというのは良いアイディアです。環境の合わない外国産の植物を環境破壊しながら無理をして育てるより、元々自生する植物を栽培した方が良いでしょう。特に乾燥地で無理な灌漑農業をすると、地下水が毛細管現象で引っ張られてしまい、土壌中の塩分が地表に析出してしまいます。もし、外国産の植物が乾燥に強かった場合では、逆に野外に逸出する可能性があるためやらないに越したことはありません。現代は少数のメガファーマが医薬品業界を牛耳っていますが、地産地消の医薬があっても良いのではないかと思います。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

Haworthia koelmaniorumは、葉の上面に透明な窓があるハウォルチアです。しかし、硬葉系ハウォルチアはHaworthiaから分離しHaworthiopsisとなったことから、コエルマニオルムもHaworthiopsis koelmaniorumとなりました。さて、このコエルマニオルムですが、原産地の南アフリカでは減少しており、保護の対象となる希少な多肉植物であるとされています。本日はコエルマニオルムの生息地を調査したE.T.F.Witkowski & R.J.Listonの1997年の論文、『Population structure, habitat profile and regeneration of Haworthia koelmaniorum, a vulnerable dwarf succulent, endemic to Mpumalanga, South Africa』を参考に見ていきましょう。

DSC_2074
Haworthiopsis koelmaniorum
透き通っている様子が良く分かります。

DSC_1389
夏場は遮光していても、ストレスで赤くなり透明な窓が分かりにくくなります。

コエルマニオルムは珪岩で出来た尾根の斜面に7個体群が存在しますが、すべて自然保護区外です。1994年のBoydによる保全報告書では1800〜2000個体が自生すると推定されました。コエルマニオルムの知られている脅威は、コレクターによる収集や、伝統医学の医薬品としての採取があります。また、近年では特に日本のコレクターがハウォルチアに対して非常に熱心です。
この7つの個体群は、すべてMpumalanga州のGroblesdal地区(標高900〜1100m)に位置します。25年間の年間降水量の平均は720mmであり、その84%は10月から3月にかけて降ります。平均気温は暑い月で37.1℃、寒い月で3.1℃でした。冬には霜が下ります。また、コエルマニオルムの分布する尾根の間の低地が麦畑となったたことで、畑にならなかった高地のコエルマニオルムだけが飛び地状に残った可能性もあるそうです。


さて、実際の調査の結果、全体で1591個体のコエルマニオルムを確認しました。個体群は場所により25〜588個体までと幅がありました。また、火災により67%が被害を受けていました。種子を採取して発芽させたところ、湿らせてから7〜9日で発芽しました。発芽率は79〜89%でした。コエルマニオルムに近縁とされるH. limifoliaの種子の寿命は約5〜7ヶ月であるため、コエルマニオルムは貯蔵種子(seed bank)は持たない可能性が高いと考えられます。
コエルマニオルムの生える尾根と、尾根と尾根の間のコエルマニオルムが生えていない地域の土壌も比較されています。それによると、どこの土壌も砂質でほぼ同じでしたが、小さな違いはあったようです。分布域の土壌はほぼ同質でしたが、コエルマニオルムが生えていない土壌はやや粘土質が多い傾向がありました。
コエルマニオルムは岩の亀裂に生える傾向がありました。ただ、岩の亀裂がコエルマニオルムの生育に適しているかは分かりません。例えば、通常の場所に生えたコエルマニオルムは牛の踏みつけにより破壊されていることが報告されています。さらに、そういう場所は他の草も生えていることから、火災があった時に枯れ草を燃料として強く燃え上がり、コエルマニオルムに強いダメージを与えた可能性があります。
自生地のコエルマニオルムは、成熟した植物はありましたが苗は見られませんでした。これは、発芽はするもののすべて枯れてしまっているようです。苗にとって非常に好ましい特殊な環境がある程度長く続いた時のみ、苗は定着可能であると考えられます。そのため、自生するコエルマニオルムは分結して増えているものも多いと推定され、遺伝的多様性は低いと考えられます。
コエルマニオルムは寿命が長い植物と考えられており、分結と稀に訪れる苗の生育可能な時まで種子を作り続けることにより維持されてきたようです。ですから、家畜の踏みつけや違法採取により親植物が失われると、非常にダメージが大きいと考えられます。その生長の遅さもあり、回復には大変な時間が必要でしょう。

火災のダメージについては、多肉植物を対象とした2つの仮説があります。
①多肉植物は火に耐性はなく、燃えやすい他の植物が生えない岩場や砂場、たまたま火災が起きていない場所でのみ生きられる。
②多くの多肉植物は生長点が十分に保護されており、火災に強い。
コエルマニオルムは火災が起きない岩場の破れ目に生えることにより、火災から身を守っているようにも見えます。しかし、コエルマニオルムは火災によりダメージを受けても、生き残ることも確認されています。上記の2つの仮説はコエルマニオルムに関して、両方とも当てはまると言えます。岩の破れ目付近には、燃料となる植物が少なく、火災が起きても強い火力で焼かれにくいことは明らかだからです。さらに、他の植物より火災に強いコエルマニオルムは、火災により他の植物が失われることにより、他の植物との競争を有利なものとしている可能性もあります。

コエルマニオルムは自然な種子繁殖はあまり期待出来ないため、種子由来の苗を人工的に育てて移植するなどの方法により、保護活動を行う必要があります。牛の放牧を減らしことにより、踏みつけによる被害を減少させることが出来ます。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、野生のコエルマニオルムはたった1591個体しか存在しないというのは、中々衝撃でした。現在、国内で売りに出されているコエルマニオルムは1500株ではすまないでしょうし、趣味家が育てているコエルマニオルムはそれ以上でしょうから、野生のコエルマニオルムがいかに少ないかが分かります。我々趣味家としては、野生の多肉植物の減少は悲しむべきことでしょう。
しかし、論文の中で日本のコレクターの台頭が軽く触れられておりますが、これは何を意味するでしょうか? さすがに日本人が南アフリカまで頻繁に行って、違法採取を繰り返しているという訳ではないでしょう。違法採取は現地の人たちの収入源になっていたりしますが、これはその違法採取した植物を欲しがる人がいるから行われているのです。
現在の日本の状況は、正直あまり褒められたものではありません。輸入されてきたベアルートがイベントや専門店だけではなく、基本的に管理が出来ない大型園芸店などにも並べられており、どれだけの野生株が違法採取により失われたのかを考えると胸が痛みます。違法採取された植物は正規ルートでは買えませんが、あちこち回って採取情報がロンダリングされてしまうため、結局は市場に出回ることになります。これは種子の売買以外を禁止することでしか防ぐ方法はありません。その他の取り組みとしては、例えばソテツは市場に流通量が増えれば違法採取は減ると考えて、効率の良い増やし方や育て方が研究されています。また、Euphorbia susannaeは原産地では非常に希少な多肉植物ですが、どうやらアメリカで組織培養による大量生産がされたようで、市場流通量が激増して一気に安価な普及種となり、もはや違法採取されまものをわざわざ購入する必要はなくなりました。日本でもE. susannaeは、種子によるものと考えられますが、大手業者により大量生産されており、流通量も多く安価な普及種となっています。
現地株ではなく種子由来の苗が出回れば良いわけですが、現在日本国内に流通しているのは小型の苗ですから国内実生なのでしょう。コエルマニオルムは日本では人気種ではありませんが、軟葉系ハウォルチアなどは人気です。しかし、日本ではきらびやかな交配種が人気で、ハウォルチアの現地球を求めている人はほとんどいないでしょう。とはいえ、我々趣味家も野生の多肉植物の保全に対して、もう少し興味を持っても良いように思います。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

かつて、Aloeに近縁と考えられていた、HaworthiaやGasteria、Astrolobaは、近年の遺伝的解析の結果においてもやはり近縁であることが判明しました。アロエ属自体が分解されたこともあり、このAloeに近縁な仲間をまとめてアロエ類と呼んでいます。このアロエ類の増やし方と言えば、種子をまくか葉挿しが一般的でしょう。Haworthiaは割と増えやすいので株分け出来ますし、葉挿しも容易です。Gasteriaは小型種は良く子を吹くので株分けで増やせますが、大型種は中々増えにくいものです。また、Gasteriaは葉挿しも出来ますが、難しいものもあるようです。Aloeは葉挿しは出来ません。小型種は容易に子を吹くものが多く、中型種でも割と子を吹きます。茎が伸びるものは、茎を切って挿し穂に出来ます。しかし、Aloeには子を吹かず、茎も伸びないような種もあるため、繁殖は種子によるしかないものもあります。
さて、このような増やし方をされているアロエ類ですが、バイオテクノロジー分野での培養技術についても検討がされています。本日ご紹介するのは、Arthur M. Richwineの1995年の論文、『Establishment of Aloe, Gasteria, and Haworthia Shoot Culture from Inflorescence Explants』です。この論文は、人工的な培地上でアロエ類を培養して増やすことを目的としています。早速内容を見ていきましょう。

今回、実験に使用したのはAloe 、Gasteria、Haworthiaというアロエ類です。種類としては、Aloe  barbadensis、Aloe  harlana、Gasteria liliputiana、Gasteria species(不明種)、Haworthia attenuata、Haworthia coarctata、Haworthia limifoliaでした。
人工培養では、不定形の細胞塊を作るカルス培養が一般的ですが、著者はシュート培養に挑んでいます。シュート培養は培養上で植物組織を培養し、茎と葉がついたシュートが出来て伸長します。シュート培養は、著者により確立した、red yucca (Hesperaloe parviflora)の花序を用いた方法を適応しています。zeatin ribosideという物質を含んだ培地に、アロエ類の未熟な花序を1cmの長さに切断して培養します。切断した花序は、薄めた塩素系漂白剤と界面活性剤に浸けて表面を滅菌しています。25℃で白色蛍光灯を当て、6週間ごとに新しい培地に移しました。

結果は8週間以内に、Aloe 2種、Haworthia3種、G. liliputianaでは、苞葉の窪みからシュートが出て来ました。12週までにG. speciesからシュートが出て来ました。
シュートは長期維持が可能で、8ヶ月維持されました。シュートは通常培地に移すだけで、植物ホルモンの添加なしでも容易に発根し、その後に土壌に植栽されました。

以上が論文の簡単な要約です。
シュート培養について、私は詳しくは知らないのですが、花茎から増やす面白い方法だと思いました。一般的に植物を増やすバイオ技術としては、カルス培養があります。このカルス培養は、葉も根もない細胞の塊を増やし、植物ホルモンを添加することにより葉や根を形成させる方法です。簡単に増やすことが出来ない洋蘭では、昔から使用されてきました。カルス培養はほぼ無限に増やせますから、非常に効率の良い方法です。しかし、不定形の細胞を爆発的に増やすせいか突然変異が起きやすく、増やせば増やすほど変異が蓄積していきます。しかし、シュート培養は大量生産には向きませんが、突然変異を起こしにくい方法です。園芸目的の生産より、希少な野生植物の増殖においてより有効な増殖方法ではないでしょうか。
そう言えば、胡蝶蘭は稀に花茎から子を吹くことがありますが、私の育てている多肉植物でも花茎から子を吹くことがありました。そもそも、花茎は子を作る能力がはじめからあるのでしょう。

DSC_0290
Gasteria distichaですが、花茎から芽が出ています。
DSC_0293
拡大するとちゃんと葉があります。これを挿し木すれば増やすことが出来ます。

DSC_1806
Euphorbia globosaの花茎の先端(左上)からも、子が出来ています。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

Fouquieriaはメキシコの砂漠に生える灌木です。F. columnarisやF. fasciataは幹が太る塊茎植物として園芸用に栽培されます。しかし、ほとんどのFouquieriaは塊茎植物ではありませんから、それほど人気があるという訳ではありません。
そう言えば、私が入手したFouquieriaはいつの間にやら8種類になりました。最近は様々な多肉植物の苗が流通していますから、人気があろうがなかろうが、あちこちのイベントに行っていると簡単に集まってしまうのです。私の育てているFouquieriaはすべて苗で、小さい代わりに何より安価でしたから、コレクションするにもハードルが低くていいですね。さて、Fouquieriaはここ数年はよく目にしますが、あまり育てている人の話はネットでも聞きませんし、花が咲いたという話もありません。それなりに流通しているはずですから不思議です。単純にFouquieria好きが少ないので、話題に出にくいだけかも知れませんけどね。
実はFouquieriaは乾くとすぐに葉をポロポロ落としてしまうので、困っていました。去年は頻繁に水やりしてみましたが、暑い日には乾くのが早いせいかやはり葉が落ちてしまいました。砂漠に生える植物なのにおかしな話です。基本的に塊茎や塊根がないため、なぜ砂漠に生えることが出来るのか不思議です。根も細く細かいため、とても乾燥に強く見えません。いったい、どのような手段で砂漠に生えることが出来ているのでしょうか? 今後、調べてみたいですね。
という訳で、あまりにも育たないので、仕方なくFouquieriaはすべて腰水栽培しています。私のライフサイクルでは、水やりはせいぜい週2回くらいしか出来ませんから仕方がなくです。しかし、驚くべきことに、今のところFouquieriaたちは大変調子がよく、葉が勢いよく出てきました。

230528172100093
腰水栽培中。

Fouquieriaは遺伝子を解析されており、種同士の遠近が明らかとなっています。それは、2018年に発表された『Recent radiation and  dispersal of an ancient lineage : The case of Fouquieria (Fouquiericeae, Ericales) in American deserts』という論文で、Fouquieriaの遺伝的な系統関係を調べています。ちなみに、Fouquieriaは現在11種類が認められていますが、この論文ではF. burrageiは調べていないようです。(◎は私が育てているFouquieria)

                            ┏━━◎F. ochoterenae
                        ┏┫
                        ┃┗━━◎F. leonilae
                    ┏┫
                    ┃┗━━━◎F. diguetii
                    ┃
                ┏┫        ┏━◎F. splendens
                ┃┃┏━┫
                ┃┗┫    ┗━F. shrevei
    ┏━━┫    ┃
    ┃        ┃    ┗━━━◎F. macdougalii
    ┃        ┃
┏┫        ┗━━━━━◎F. formosa
┃┃
┃┗━━━━━━━━◎F. columnaris

┃                            ┏━F. purpusii
┃                        ┏┫
┗━━━━━━┫┗━◎F. fasciculata 1
                            ┃
                            ┗━━◎F. fasciculata 2


230610083749517
Fouquieria columnaris
コルムナリスは「観峰玉」という名前もあります。かつては、Idria属とする意見もありましたが、遺伝的解析の結果で、完全にFouquieriaに含まれることが確定しました。しかし、葉が薄く柔らかいせいかハダニが付きやすくてやや難儀しています。


230610083746140
Fouquieria splendens
スプレンデンスは先月入手したばかりです。葉のない状態でしたが、外に出して腰水したら急激に葉が出てきました。葉はコルムナリスによく似ていて薄く柔らかいのですが、少し幅がなく細長い雰囲気があります。面白いことに、遺伝的には他のFouquieriaよりコルムナリスに近縁という訳ではありません。シュレヴェイに近縁です。


230610083753309
Fouquieria macdougalii
小さく丸い葉に覆われたマクドウガリイですが、葉は薄く柔らかいものです。スプレンデンスに近縁です。


230610083756391
Fouquieria diguetti
ディグエティイは、葉柄が長くスプーン型の葉が特徴です。葉はやや厚みがあります。レオニラエやオコテレナエに近縁です。


230610083759624
Fouquieria formosa
フォルモサは、葉に厚みがあり硬い方です。葉は小さいものの、長さに対して幅は広く丸く見えます。


230610083810830
Fouquieria leonilae
レオニラエは小型種の割に葉は大きいようです。室内で出た葉は外に出したら陽焼けしましたが、遮光はしません。灌木は葉が陽焼けしても、強光に適応した新しい葉が出て来ますから問題はありません。オコテレナエに近縁です。


230610083814730
Fouquieria fasciculata
ファスキクラタの葉は厚みがあり硬い方です。葉に光沢があるのは、表面にケチクラ層が発達しているからです。クチクラは葉の耐久性を高め、病害虫に対して抵抗性が高くなります。プルプシイに近縁です。


230610083944733
Fouquieria ochoterenae
オコテレナエも葉に光沢がありますから、葉は厚みがあり硬い方です。レオニラエに近縁です。

以上のように8種類のFouquieriaの葉を比べてみましたが、意外にも葉の特徴は遺伝的な遠近とは無関係でした。本当は花や枝振り、トゲについても比較したいところですが、まだ苗なのでまだ出来ません。
Fouquieriaは赤色の変わった形の花が咲き、ハチドリが蜜を吸いに訪れるそうです。ぜひ、花を拝みたいところです。しかし、花が咲くまでにどれくらいかかるでしょうか? F. leonilaeは小型種で、早く花が咲くと海外の園芸雑誌にありました。非常に楽しみです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

昨日のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入した多肉植物を植え替えました。というのも、販売されている多肉植物は意外と乾きにくい用土に植えられていたりしますから、気付かずに育ててしまい、過去に根腐れしてしまったものもあります。また、根の状態も気になります。根の張りが弱いものは、あまり厳しくしないで養生させる必要があるかも知れません。という訳で全部鉢から引っこ抜いて、根の状態をチェックしてみましょう。

230611172706886
Euphorbia lenewtonii
根の張りは悪くありません。まだ、苗ですからこれからでしょう。


230611172700822
Euphorbia hofstatteri
どうやら、挿し木苗のようですから塊根は出来なさそうです。まあ、格安でしたから特に文句もありません。根は少し弱いですね。排水の良い用土で水やりを多めにして、根を伸ばしていきます。


230611173925948
植え替え後。プレステラ90に植えました。水やりは多めにしますが、日照は割と強めで行きます。

230611172313201
Gymnocalycium ragonerii
球根みたいですがサボテンです。根は貧弱でした。どうやら塊根性みたいです。


230611172720273
Aloe  florenceae
高地性のアロエですが、根はかなり強いので意外と丈夫そうですね。

230611173912591
植え替え後。プレステラ90に植え替えました。ラゴネシイはしばらくは乾かしておきます。A. florenceaeは焦げそうな色合いですから、ハウォルチア棚に置きます。

230611172711579
Gasteria carinata var. verrucosa
根の状態は非常に良好です。


230611172714884
Gasteria obliqua
Gasteria bicolorの名前で購入したガステリア。根詰まり気味でした。根の勢いが非常に強いですね。枯れ葉は取り除きました。


230611173858108
植え替え後。根が非常に強いので大きめのプレステラ105に植え替えました。根が良いので今年の生長は期待出来ます。冬には花が咲いて欲しいですね。

植え替えはこんなところです。用土や鉢が異なると乾き具合が変わってしまい、鉢ごとの把握が難しくなります。今年は何とか統一させようと悪戦苦闘中です。それはともあれ、引き込んだ風邪をしっかりと治すところから始めます。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

風邪っ引きでしたが、ビッグバザールに行きました。昨日は体調を整えるために一日寝て過ごしましたが、やはりというか予想通り朝起きられずに、のんびり向かいました。まあ、今までも開場前には来ても、早い時間に整理券を貰ってまで並んだことはありませんけどね。あいにくの雨模様で少し涼しいくらいでしたが、毎度ビッグバザールは会場が暑いので、逆に良かったくらいです。逆に蒸された感じはしましたが…。開場前に並んでいないのでお客さんの入具合はよく分かりませんでした。えらく混雑はしていましたが、今回はどういう訳か40店くらい出店があり、会場がけっこう狭い感じでしたから、正直よく分からないところです。まあ、毎度ながら盛況なのは変わらずといったところでしょうか。
あまり遅く来るとスカスカに歯抜け状態の売り場を見る羽目になりますが、私の好きな多肉植物は人気はそれほどでもないため、まあ問題がないと言えばなかったりします。しかし、まあ早く行けば珍しい多肉植物を色々見られるというメリットはありますけどね。

今回は体調も万全ではないため、会場を1週ぐるりと巡って帰りました。とはいえ、混雑のため40分くらいかかりましたが。いつもは、じっくり見てくるところですが、今日はサラッと見て目に入ったものを購入。相変わらず安い苗ばかりです。以下、購入品ですが、名前はラベル表記のママです。

①まずは、会場の入口入ってすぐ左の、アロエのカットしたものが並べてあるブースへ。毎回、この位置ですが、以前にEuphorbia greenwayiやGonialoe sladenianaを購入しました。今回もアロエのカット苗と筒アナナスを並べていました。今回は珍しいことにガステリア苗があったので2つ購入。
230611120242630
Gasteria verrucosa
現在はGasteria carinata var. verrucosaとなっています。カリナタ系のガステリアは非常に美しいですね。


230611120337632
Gasteria bicolor
現在はGasteria obliquaと同種とされています。G. obliquaの方が命名が早かったので、G. bicolorの方が異名となりました。

②お次は錦玉園さんのブースへ。相変わらずエケベリアが沢山あり、女性陣に人気で人だかりが出来ていました。私は安い花キリン苗を購入。
230611120253063
230611120352879~2
Euphorbia hofstatteri
花は下向きですが、模様が入っていますね。割と新しく見つかった花キリンです。

③前回、神蛇丸を購入したブースへ。なにやら可愛らしいアロエがあったので購入しました。アロエは置き場所を逼迫するのでなるべく買わないようにしていますが、小型種だし安かったこともありついうっかりね…
230611120216844
アロエ フロレンシア
Aloe  florenceaeです。マダガスカルの高地性アロエです。ネット販売では希少だのなんだのと煽って高額になってますが、こいつはものすごく安かったですよ?


④最後にぺてぃのお店というブースへ。ここ数年では初めてみました。大阪の茨木からお越しみたいです。珍しくラゴネシーがあったので購入。あとユーフォルビア苗を1つ。皇帝がかなり安かったのですが、残念ながら今回は予算オーバーでしたから泣く泣く断念。
230611120235093
Gy ラゴネシー
Gymnocalycium ragoneseiです。可愛らしい扁平なギムノカリキウムです。


230611120228654
Eu レネウトニー
Euphorbia lenewtoniiです。タンザニア原産。育つと枝が混んで面白い形になりそうです。


ということで、ビッグバザールの購入品でした。今回はユーフォルビア苗は少ないような気もしましたが、よく考えると結構珍しい種類はあったような気がします。ただ、私の持っているものばかりでしたから、買わなかっただけですね。お安いユーフォルビア苗では、E. obesa、子吹きオベサ、E. polygona v. horrida、E. polygona v. noorsveldensis、E. gorgnis、E. squarrosa、E. cap-saintemariensis、E. decaryi(E. boiteaui)、E. francoisii(E. decaryi)、E. pachypodioides、E. guillauminiana、E. cylindrifolia、E. rossii、E. gymnocalycioidesあたりはあったと思います。今回はかつては高価だったE. tulearensisの実生苗があちこちにありました。数年前の半額以下まで安くなっています。まだ高額の時に購入してしまった私は歯噛みする思いです。しかし、E. tulearensisは丈夫で育てやすく美しい塊根植物ですからお勧めです。
出店がかつてない規模でしたから、本当に様々な多肉植物があったようです。しかし、今回はあまりゆっくりしていられませんでしたから、よく覚えていません。Haworthiopsis sordidaは相変わらずあちこちにありました。以前は高価で珍しかったのですがね。今一番勢いがあるアガヴェは相変わらず人気で、専門店は人だかりで囲まれていてまったく売り場が見えませんでした。まだまだアガヴェ・ブームは続きそうです。あと、一時は少なかったパキポディウム苗が復活して、あちらこちらにありました。多肉植物のご新規さんが沢山流入している証拠かも知れません。まったくもって嬉しい限りですね。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

いよいよ、明日は五反田TOCでサボテン・多肉植物のビッグバザールが開催されます。なぜか「夏の」ではなく「6月の」になっていますね。
しかし、私は以前引き込んでしまった風邪が、治りかけたりぶり返したりを繰り返して、基本的に体調不良です。仕事帰りに論文を読むもののいまいち集中出来ず、見た内容がそれこそ右から左にといった有様です。明日はビッグバザールに行くつもりではいますが、朝起きられる感じはしませんね。まあ、しかし今日は体調を整えるために、一日寝て何もせずぐうたら過ごすつもりです。という訳で、記事を書く気力がありません。仕方がないので、最近撮影した写真などをちょろりと載せてお茶を濁す次第。


230603184332801
Euphorbia gottlebei
花キリンの仲間であるゴトゥレベイが開花しました。頭に固まって咲きます。枝は途中で分岐せず、根元から叢生します。私のゴトゥレベイはまだ1本なので、少し寂しい感じがしますね。


230603184356774
Euphorbia leistneri
レイストネリに新葉が出てきました。レイストネリはダム建設に伴う原産地の消滅の可能性がある悲運のユーフォルビアです。


230610083425941
Dioon edule
分かりにくいのですが、エドゥレにも新葉が出てきました。エドゥレは非常に生長が遅く、樹齢の長いソテツです。メキシコで調査したところ樹齢2000年を超えるものもあったと言います。このエドゥレは冬に購入しましたから、我が家では初めてのフラッシュです。これから、葉が展開していきますから楽しみですね。


230610083500840
Dioon spinulosum
スピヌロスムは世界最大のソテツです。フラッシュ直前みたいですね。1909年の論文では高さ16mの個体が見つかっています。ちなみに、著者は高さ10mのスピヌロスムは、高さ1mのエドゥレより若いかもしれない、なんて述べています。
DSC_1964
1908年に撮影されたDioon spinulosum

230610083157589
蘇鉄 Cycas revoluta
日本のソテツはZamia furfuraceaよりフラッシュは遅かったのに、葉の伸長はとても早いですね。新葉は20枚以上出ました。


230604172403569
Euphorbia denisiana var. ankarensis
なぜか撮影してあったアンカレンシス。しかし、葉の産毛具合がよく撮れています。たまたまですが、良い写真です。E. ankarensisと呼ばれてきましたが、最近デニシアナの変種とされました。

230610083712883
鉄甲丸 E. bupleurifolia
鉄甲丸に新芽と花が出てきました。鉄甲丸は調子が良いと、周年ちょくちょく開花します。


230610083238801
Euphorbia gorgonis
ゴルゴニスが限界の色合いです。しかし、ゴルゴニスはタコものの中でも強光に強いので平気でしょう。


230610083545137
Euphorbia gymnocalycioides
こちらも中々厳しい色合いです。真夏は場所を変えないと焦げそうです。

230610084059963
Stephania pierrei
ステファニアが開花しました。S. erectaは実は異名で、正しくはピエレイです。
230610084059963~2
花は地味ですね。

230610083304723
そう言えば花菖蒲の季節ですね。いつの間にやら咲いていました。

230610083334359
黄菖蒲も開花中。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

ソテツは起源の古い植物で、針葉樹やイチョウと同じ裸子植物です。針葉樹は風で花粉を運ぶ風媒花ですから、裸子植物は概ね風媒花と考えられて来ました。しかし、20世紀中頃くらいからソテツの仲間は風媒花ではなく、アザミウマやゾウムシにより受粉する虫媒花であると言われるようになりました。しかし、ソテツには昆虫にアピールするための目立つ花弁や苞はありませんし、昆虫に対する報酬である花の蜜もありません。いかなる手段で昆虫を引き寄せているのでしょうか?
調べてみたところ、2021年の割と新しい論文が見つかりました。それは、Shayla Salzmanらの論文、『Cycad-Weevil Pollination Symbiosis Is Characterized by Rapidly Evolving and Highly Specific Plant-Insect Chemical Communication』です。早速、内容を見ていきましょう。

Zamia属のソテツは、Rhopalotriaというゾウムシにより受粉が行われる虫媒花です。ゾウムシはソテツの雌花(corn)を食べて繁殖します。Zamiaはゾウムシに受粉を依存し、ゾウムシもまたZamiaに依存しています。要するに、これは共進化であり、お互いがお互いに適応して進化したと考えられます。例えば、Zamia furfuracea(※1)にはRhopalotria furfuraceaというゾウムシが、Zamia integrifolia(※2)にはRhopalotria slossoniというゾウムシという風に、ソテツとゾウムシの決まった組み合わせが出来ているのです。

(※1) Zamia furfuracea
日本ではZamia pumilaの名前で販売されることが多いようですが、Z. furfuraceaとはまったくの別種です。Z. furfuraceaは葉の幅が広く厚みがありますが、Z. pumilaの葉は細長く国内ではまったく流通していません。
DSC_0187
Zamia furfuracea

(※2) Zamia integrifolia
一般的にはZamia floridanaの名前で販売されています。古い論文でも、Z. floridanaの名前が使われていましたが、Z. floridanaより命名の古い名前が複数あることが判明し、最も命名が古いZ. integrifoliaが正しい学名とされました。このZ. integrifoliaが正しくZ. floridanaにあたる植物に相当するかは議論もあるようですが、その場合においてもZ. floridanaより古い他の名前が採用されるため、Z. floridanaが今後学術的に使用されることはありません。
DSC_0203
Zamia integrifolia

ゾウムシはソテツの発する揮発性物質に誘引されていると言います。論文ではZ. integrifoliaの雌花から揮発性物質を採取し、含まれる物質にゾウムシが反応するかを試験しました。ゾウムシを誘引する物質はサリチル酸メチルである、Z. furfuraceaのゾウムシを誘引する物質とは異なっていました。実際にZ. furfuraceaに誘引されるゾウムシは、サリチル酸メチルに反応しませんでした。逆にZ. furfuraceaから放出される1,3-オクタジエンは、Z. integrifoliaに誘引されるゾウムシは反応しませんでした。やはり、決まった相手と深く関係を結んでいることが明らかになりました。

また、論文ではZamiaの遺伝子を解析し、系統関係を調べています。さらに、Zamia各種の雌花から揮発性物質を採取し、そちらも分析して種類による違いを調べています。まず、
Zamiaの遺伝子の遠近と葉の形などの外見には、あまり相関が見られませんでした。要するに、葉の形が似ているからと言って近縁とは限らないということです。しかし、雌花から放出される物質は、外見よりも遺伝的遠近に関係が見られました。

以上が論文の簡単な要約です。
これは、大変興味深い結果だと私は思いました。ソテツとゾウムシが一対一の関係を結び、さらにはソテツの揮発性物質に系統関係と相関するならば、ソテツに来るゾウムシの系統関係を調べるべきでしょう。おそらくは、ソテツの遺伝子の分岐の仕方と、ゾウムシの遺伝子の分岐の仕方は、ある程度は相関があるはずだからです。仮にソテツAにゾウムシAが関係している時、ソテツAからソテツBが分岐したとしましょう。この時に、ゾウムシAと無関係のゾウムシXがソテツBと関係するようになる訳ではなく、ゾウムシAからソテツBに反応するゾウムシBが分岐する可能性が高いと考えられます。このような関係は、実際に様々な生物間で発見されています。
例えば、新型コロナはコウモリが由来ではないかという説があります。その真偽は兎も角として、コウモリの種分化と、感染するコロナウイルスの種分化には相関が見られます。他の例では、カメムシとカメムシの腸内細菌でも、この関係が見られます。カメムシはストロー状の口で植物の汁を吸いますが、植物の汁は糖分ばかりでタンパク質など様々な栄養素がほぼ含まれておりません。そのため、カメムシは腸内に種類ごとに特有の細菌がいて、植物の汁の糖分から様々な栄養素を作り出します。カメムシと腸内細菌の分子系統は驚くほどよく似ています。

実はソテツの受粉に関する話は過去に記事にしたことがあります。それは、日本のソテツに対する研究の話です。日本のソテツであるCycas revolutaは基本的に風媒花ですが、それは近くにある個体同士だけの話であり、ケシキスイという昆虫が花粉媒介に関わっているというものです。日本のソテツは風媒も虫媒もしていますから、まさに風媒花から虫媒花への移行の途中段階を目の当たりにしているのかも知れませんね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

最近、Euphorbia confinalis subsp. rhodesiacaという、柱サボテン状のユーフォルビアを少しに見かけるようになりました。このユーフォルビアは大変美しい模様が入ります。しかし、ついこの間、川崎市にあるタナベフラワーさんで開催された多肉植物のイベントで、奈良からお越しのたにっくん工房さんからEuphorbia confinalisを購入しました。subsp. rhodesiacaと書かない以上は、これはsubsp. confinalisのことなのでしょう。これはまだ若い個体で、特徴が完全に明らかではない可能性もあり、比較は難しいかも知れません。しかし、中々情報が少なくやや難儀しましたが、多少は情報が集まりましたから列挙してみましょう。

とりあえずは、キュー王立植物園のデータベースで、現在認められている正しい学名を調べてみましょう。というのも、インターネットで検索すると「rhodesiaca」だったり「rhodesica」、あるいは「rhodesia」だったりと様々だからです。
E. confinalisの命名は割と遅く、1951年のEuphorbia confinalis R.A.Dyerです。R.A.Dyerとは、南アフリカの植物学者、分類学者であるRobert Allen Dyerのことです。ヒガンバナ科植物と多肉植物を専門としていました。
1966年には亜種rhodesiacaが命名されました。Euphorbia confinalis subsp. rhodesiaca L.C.Leachです。亜種rhodesiacaはジンバブエに分布します。L.C.Leachとは、ローデシアのアマチュア出身の植物学者であるLeslie Charles "Larry" Leachのことです。自費でスタペリア、ユーフォルビア、アロエを収集し研究しました。
230528143945495
Euphorbia confinalis subsp. rhodesiaca

亜種rhodesiacaが命名されたことにより、亜種rhodesiaca以外のE. confinalisはEuphorbia confinalis subsp. confinalisとなりました。亜種confinalisはモザンビーク、ジンバブエ、南アフリカ北部州に分布します。
230604170808973
Euphorbia confinalis subsp. confinalis

JSTORという論文などの電子ファイルを提供するサイトに、特徴が記されていたので見てみましょう。ただし、ここでいうE. confinalisが、亜種コンフィナリスを指しているかは不明です。もしかしたら、亜種ロデシアカを含んだ解説かも知れません。
◎E. confinalisは高さ4.5〜8(9.5)mの多肉質でトゲのある高木です。幹は単頭か数本の主枝から上向きの枝を出します。枝は長さ1〜1.5mで、3〜5稜です。稜の盾(稜の硬い部分)は、若い時は隣と離れており、やがてつながるようになります。トゲは0.5〜12mmで、すぐに脱落する葉は1mm×1mmくらいです。集散花序はトゲの2〜5mm上に水平に1〜3個あり、Cyathiaは垂直にあります。花柄は長さ2mm、集散花序の枝は長さ3mmほどです。Cyathiaは4.5〜6.5mmでカップ状の総苞があります。腺(glands)は幅2〜2.5mmで緑がかる黄色で、裂片(lobes)は1.5mm×1.5mmで丸く、深い鋸歯があります。雄花の苞葉の長さは3mmで葉状で、雄しべの長さは4〜5mmです。雌花の花被は三角形で直径3mm、花柱は長さ1.5〜3mmで途中で結合し頂端は二裂します。蒴果は深く裂け5mm×8mmで、長さ5〜8mmの反り返った枝があります。
◎Euphorbia confinalis subsp. rhodesiacaの幹は5〜6稜で、通常は枝がいくつもあります。末端の枝は4〜5稜です。トゲは強固で、長さ12mmまでです。

World of Succulentというサイトに、Euphorbia confinalis subsp. confinalisの情報があったので見てみます。サイトによると、「Labombo Euphorbia」という名前もあるようです。ここでは、両性花が指摘されています。
◎高さ9.5mまで生長するトゲのある多肉植物です。枝は単純かいくつかの枝があり、それぞれに湾曲した上向きの枝の冠があります。枝は3〜5稜で、淡い緑色から青緑色で、長さは最大1.5mmになります。トゲは対になっており、最大0.8mmです。花は小さく淡黄色で、トゲのすぐ上に3個のグループで咲きます。中央が雄花で、他2つは両性花です。

Flora of Zimbabweというサイトに亜種ロデシアカについての記述がありました。
◎多肉質のトゲのある木で、主幹はいくつかの幹のような枝に分かれており、それぞれの枝には湾曲した上向きの枝が冠されています。この亜種は5〜6本の稜、より多くの主枝、連続的なトゲにより亜種コンフィナリスと区別されます。

いくつかのサイトを見てみましたが、なにやら似たような文言が並びます。おそらくは、共通した元ネタがあるのでしょう。とはいえ、元の文章がどこから来ているのかは分かりませんが…

さて、次いでE. confinalisの分類を確認しておきましょう。まずは
アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のTaxonony browserで検索してみます。
subgenus Euphorbia
section Euphorbia
つまりは、ユーフォルビア属(トウダイグサ属)、ユーフォルビア亜属、ユーフォルビア節ということです。ユーフォルビア節は、柱サボテン状の多肉質なユーフォルビアのほとんどが含まれる巨大なグループです。

次に2013年に発表された『Phylogenetics, morphological evolution, and classification of Euphorbia subgenus Euphorbia』という論文を見てみましょう。この論文ではユーフォルビアの遺伝子を解析しています。論文によると、E. confinalisに近縁なユーフォルビアは、E. evansii、E. grandidens、E. ramipressa、E. tanaensis、E. tetragonaあたりのようです。

2012年の『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』という論文では、E. confinalisは1951年の『Bothalia』という雑誌の6号222ページにおいて記載されたとあります。タイプ標本は南アフリカのTransvaal、Krunger国立公園は「The Gorge Camp」において、1949年の5月20日にCodd & De Winterにより採取されたものだそうです。

まあ、こんなところでしょうか。結局、大した情報はありませんでしたね。それはそうと、柱サボテン状のユーフォルビアはE. confinalisのように斑入りのものが多いのですが、この模様は種類ごとに決まったパターンがあるわけではありません。同じ模様でも異なる種類かも知れませんし、逆に異なる模様でも同じ種類かも知れません。一番重要なポイントは花ですが柱サボテン状ユーフォルビアはある程度のサイズにならないと開花しないものもありますから、トゲや稜、幹の形などの特徴で見分ける必要があります。


ブログランキング参加です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

一般に砂漠や湿地、高山などの特殊な環境に生える植物は環境の変動に脆弱です。当然ながら、乾燥地に生えるサボテンも強い影響を受ける可能性があります。世界規模で地球環境が変動する可能性が指摘されていますが、実際にはどうなのでしょうか? 気候変動がサボテンに与える影響をシミュレーションしたMichiel Pilletらの2022年の論文、『Elevated extinction risk of cacti under climate change』を見てみましょう。

サボテンは南北アメリカ大陸に分布しますが、環境により常に他の植物より優占している訳ではありません。サボテンは乾燥に適応したものが多いのですが、より湿った環境では、乾燥にそれほど強くない植物には勝てません。
しかし、今後アメリカ大陸は乾燥化がより進むと予想されるため、より乾燥に強いサボテンがむしろ増えるのではないかという意見もあります。たしかに、乾燥に強くないの植物は乾燥化に耐えられないでしょう。サボテンはCAM植物(※1)であり、乾燥化に対してはより有利だとされます。
しかし、乾燥化だけではなく、より高温となることも予測されており、多くのサボテンにとって好ましい状況とは言えないかも知れません。最近の研究では、わずか+2℃の高温によりサボテンに光合成障害が起きることや、高温によるサボテンの種子の発芽率の低下が報告されています。

(※1) CAM植物は、暑い日中は気孔を閉じて水分の放出を最低限とし、涼しい夜間に気孔を開いて二酸化炭素を吸収します。さらに、取り込んだ二酸化炭素をリンゴ酸として水に溶かした状態で貯蔵することが出来ます。ただし、その分だけコストがかかりますから、通常の植物(C3植物)より生長は緩やかとなります。

論文では、408種類のサボテンを評価しています。シミュレーションは、2050年と2070年の予測下の気候変動に対して、サボテンがどのように分布を拡大・縮小するかを見ています。
結果としてはSCA(※2)の変動が起きました。サボテンの大部分は好ましい気候の減少を経験する可能性があります。平均SCAは6%の減少に過ぎないため、比較的軽微に見えますが、これは一部の種類の大幅な増加により、減少が隠されてしまっているからです。分析すると、SCAの中央値付近では23%がSCAの1/4以上を失い、わずか2%がSCAの1/4以上を獲得すると予測されます。全体としては、種の60%がSCAの減少を経験します。

(※2) 適切な気候地域。(suitable climate area)

サボテンには種の多様性が高いホットスポットが存在し、メキシコ中央部、ブラジルの大西洋岸、ブラジルのCaatingaなどが知られていますが、将来的にこれらの地域では絶滅危惧種の急激な増加が予測されます。フロリダ州とアメリカ中央部の広い範囲で、サボテンの50%以上の種類が失われ、カリブ海地域や中南米のほとんどで絶滅危惧種が増加する可能性があります。

以上が論文の簡単な要約となります。
シミュレーションや解析のアルゴリズムは、残念ながら私には理解出来ませんから、その妥当性についての判断は出来ませんでした。しかし、過去の知見からすると、将来訪れるであろう高温に対し、サボテンがどこまで耐えることが出来るのかは悲観的にも感じます。また、乾燥に対しても論文ではサボテンに有利としていますが、それは他の植物との競争に対しての話でしかありません。他植物より相対的に乾燥に強いというだけで、極度の乾燥に強いという訳ではないはずです。以前、マダガスカルのユーフォルビアは、幹を太らせるサボテンタイプより、乾季に葉を落として休眠する塊根タイプの方が、乾燥に強いという論文をご紹介しました。果たして、サボテンは極度の乾燥に耐えられるのでしょうか?  ユーフォルビアとサボテンは異なりますから、イコールではないかも知れませんが、あまり甘い見立てで安心すべきではないと思います。何れにせよ、論文を読んでいて気候変動が多肉植物に対してポジティブに働くケースを私は知りません。まったくの一般人である私には、美しい野生の多肉植物がこの世界から失われないことをただ祈るだけです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

トウダイグサ属(Euphorbia)は、最も種数が多い属の1つとされ、基本的に毒性のある乳液があります。種類によっては、皮膚に乳液がつくと激しい炎症を引き起こしたり、目に入ると失明する可能性があると言われています。一般的に植物の毒は草食動物に対する防御策であることが知られていますが、ユーフォルビアはどうでしょうか? 植物が毒を持つと、動物も毒に耐性を持ったものが現れ、さらに異なる毒を植物が産生するようなりに、その毒に対して動物が…、という風に植物と動物で終わりのない軍拡競争が行われます。では、ユーフォルビアの毒性はそのような軍拡競争の末の産物なのでしょうか?

調べてみたところ、M. Ernstらの2018年の論文、『Did a plant-herbivore arms race drive chemical diversity in Euphorbia?』を見つけました。タイトルはズバリ、「植物と草食動物の軍拡競争はユーフォルビアの化学的多様性を促進しましたか?」です。植物と草食動物の軍拡競争により、ユーフォルビアの毒の種類が多様になったのかを検証しています。
ユーフォルビアは約2000種あり、約4800万年前にアフリカで発生したと考えられています。3000万年前と2500万年前の2回に渡り、世界中に分散しアメリカ大陸まで分散が拡大しました。ユーフォルビアの毒は多環ジテルペノイド類によります。論文では43種類のユーフォルビアの遺伝的多様性、分布、毒の成分を調査しています。

ユーフォルビアは、旧世界のユーフォルビア亜属(subgenus Euphorbia)、アティマルス亜属(subgenus Athymalus)、エスラ亜属(subgenus Esula)と、主に新世界のカマエシケ亜属(subgenus Chamaesyce)からなります。
ユーフォルビア亜属は、南アフリカやマダガスカルに分布し、柱サボテン状になるE. cooperiやE. grandicornisのように巨大に育つもの、マダガスカルの花キリン類、飛竜などの塊根性のもの、旧・モナデニウムなどがあります。また、一部は南米原産のものもあります。
アティマルス亜属は南アフリカや西アフリカ、アラビア半島の一部に分布し、E. obesaやE. polygona var. horrida、鉄甲丸(E. bupleurifolia)、群生する笹蟹丸(E. pulvinata)、E. gorgonisなどのタコものなど、よく園芸店で見かけるユーフォルビアが沢山含まれます。
エスラ亜属はヨーロッパ原産のカラフルなカラーリーフとして最近良く目にしますが、アジアにも広く分布します。
カマエシケ亜属は主に南北アメリカの原産です。


さて、当然ながら旧世界から新世界へユーフォルビアは分布を拡大したと考えられますが、4亜属をそれぞれ10種類前後を調べたところ、新世界に分布するカマエシケ亜属のユーフォルビアは含まれる毒性成分が少なく種類も貧弱でした。これは、旧世界にはユーフォルビアを食害する蛾がいますが、新世界にはいないからかも知れません。このHyles属の蛾の幼虫は、ユーフォルビアに特化しています。しかし、南アフリカとマダガスカルでは、Hyles属の蛾がいない地域でも、ユーフォルビア亜属やアティマルス亜属の植物は毒性が高いことが明らかになっています。これは、過去に存在した外敵に対するものだったのかも知れません。例えば、クロサイはユーフォルビア亜属のユーフォルビアを広く食べることが知られています。

以上が論文の簡単な要約となります。
おそらくは、現在のユーフォルビアの毒性は、食害する外敵との軍拡競争の結果としてもたらされた産物なのでしょう。しかし、新世界に渡ったユーフォルビアには、もはや軍拡競争の相手がいないため、毒性がマイルドになっていったのでしょう。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

『生物の科学・遺伝』という雑誌の2023年5月1日に発行されたVol. 77号を購入しました。この号は花ハスの特集で、面白そうですから買ってみました。隔月の刊行なので、今年の3号になるそうです。

230603220615898~2

購入を決めた決め手は、なんと言っても沢山のハスの品種の花の写真が掲載されていたからです。しかし、これほど沢山の品種があることには驚きました。そして、ハスの花は非常に美しいですね。それだけでも十分に楽しめました。もちろん、それだけではなくて、様々な角度からハスに迫っています。科学雑誌らしく、ハスの研究も紹介されています。
その前に、ハスの全般的な解説と利用についての総論、「花ハスの歴史と人々との関わり」や、2000年以上前の地層から発見されたハスの種子を発芽させることに成功させた、いわゆる古代蓮について経緯と特徴を解説した「大賀一郎博士とハスの研究」。さらに、様々な遺跡からハスの種子を見つけ、花を咲かせようというプロジェクトについて述べられた「お釈迦様のハスを探す冒険」があります。
科学的なものでは、次の論考があります。ハスの葉は水を弾きますが、その微細構造から撥水の仕組みを説明した「ハスの微細突起構造がもたらす超撥水性」や、ハスの葉のくぼみに溜まった水に気泡が出る現象を解説した「抽水植物ハスの換気システム」。ハスの地下茎であるレンコンの肥大についてと突然変異の赤いレンコンを調べた「根茎の肥大制御と着色」、ハスの花が発熱する現象を説明した「ハスの発熱現象と温度調節メカニズム」がトピックとしてあります。
赤いレンコンは将来的に食卓に登るかもしれないので気になりました。赤い色はアントシアニンという色素で、ブルーベリーなどに含まれるいわゆるポリフェノール類です。ポリフェノールは抗酸化作用がありますから、昨今の健康ブームから見て一般化するかも知れません。
そして、一番気になったのは、ハスの花の発熱現象についてです。なんと、この現象は明治31年に日本人研究者により英語論文が書かれており、その論文が世界初の報告だと言います。雑誌の内容的には、発熱のメカニズムが主です。しかし、気になるのはなぜ発熱する必要があるのかです。花の発熱と虫媒は関係すると聞いたことがありますが、それはどのような関係なのでしょうか? にわかに気になってきました。そのうち調べてみたいと思います。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

5月に神代植物公園のバラフェスタに行ってきました。バラも大変素晴らしかったのですが、大温室では様々な熱帯植物を見ることが出来ました。その中でもTacca chantrieriの花を見ることが出来て感激しました。実は去年も大温室に行きましたが、その時は残念ながら花を見ることが出来なかったのです。ですから、余計に嬉しかった訳です。
DSC_0521
Tacca chantrieri
見てお分かりのように、非常に不思議な形の花です。ぶら下がっている丸いものが花で、後ろの花ビラのようなものは苞でしょうか? しかし、垂れ下がる長いヒゲのようなものはいったい何でしょうか? 何より不思議なのは、なぜこのような形状をとったのかということです。花の形や色は意味があり、大抵は花粉媒介者に対するアピールです。このような地味な色合いの花には蝿が来たりしますが、その場合は腐敗臭やキノコ臭で蝿を呼ぶものが多いような気がします。では、この不思議な花を咲かせるT. chantrieriの受粉はどのように行われるのでしょうか。調べてみたところ、T. chantrieriの受粉に関してのLing Zhangらの2011年の論文、『PREDICTING MATING PATTERNS FROM POLLINATION SYNDROMES: THE CASE OF "SAPROMYIOPHILY" IN TACCA CHANTRIERI (TACCACEAE)』を見つけました。簡単に見ていきましょう。

Tacca chantrieriは中国南部や東南アジアに分布します。奇妙な花のために園芸で利用されます。しかし、奇妙な花を持つにも関わらず、Tacca属の受粉に関する調査はなされてきませんでした。1972年のDrenthや1993年のSawは、花の色と臭いが腐った有機物を模しており、訪れる蝿により受粉することを想定しました。暗い花色、長い糸状の付属物と苞、花のトラップ、蜜の欠如、腐敗臭は、蝿を利用するサトイモ科、ラン科、ウマノスズクサ科などの花の特徴です。しかし、T. chantrieriからは腐敗臭を感じません。著書らは人間には感知出来ない種類の臭気を発している可能性はあるとしています。

DSC_0508
Aristrochia salvadorensis
ウマノスズクサ科の花。

さて、実際の自生地における観察では、ほとんど昆虫は訪れませんでした。アリやコオロギが来ることがありましたが、雌しべや雄しべに触れることはありませんでした。まれに蜂が訪れて花粉を収集し受粉に寄与していましたが、頻度は低くメインの受粉媒介者ではなさそうです。不思議なことに、当初考えていた蝿は訪れませんでした。T. chantrieriは暗く湿った林床に生えますから、環境中に蝿は非常に豊富にも関わらずです。分かったことは、花に袋を被せて花粉媒介者を除外しても、受粉の効率に差はありませんでした。そこで、遺伝的を調べたところ、ほとんどの種子が自家受粉によるものでした。

私はこの結果を受けて、すぐに共進化による特殊化を思い浮かべました。植物が特定の昆虫と一対一の関係を結んでいた場合、花は特殊化し昆虫も適した形状に特殊化します。つまり、T. chantrieriはある昆虫に適した形状に進化しており、対応する昆虫はすでに絶滅している可能性です。もちろん、その昆虫が絶滅したのは今回の調査地である中国南部だけのことで、東南アジアの他のT. chantrieriは本来の受粉関係を結んでいる可能性もあるわけです。しかし、著者らは、対応する昆虫以外の昆虫が花に来れないような仕組みがT. chantrieriにはないため、その可能性は疑わしいとしています。著者らは訪れる昆虫の発生の増減が関係している可能性を指摘します。つまりは、訪れる昆虫が大量に発生した場合のみ、有効な他家受粉が起きるのです。また、中国南部が有効な花粉媒介者に適さない環境になったため、一見して受粉者がいないように見えるだけかもしれないとも言います。

DSC_0541
Anguraecum florulenthum
長い距がありますが、その先端に蜜が溜まっています。この蜜を吸えるのは、口器が特殊化した蛾のみです。蛾はこのランの蜜を吸うために特殊化し、ランと蛾は一対一の関係を結んでいます。しかし、もしその蛾が絶滅した場合、このランは受粉出来ず、いずれ絶滅してしまいます。

では、T. chantrieriは自家受粉に適応しているかというと、それも疑わしいとしています。何故なら、自家受粉に適応した植物は花が咲けばほぼ確実に結実しますが、T. chantrieriはそうではありませんでした。

さて、花の構造も受粉媒介者に影響する可能性があります。私はBulbophyllumというランを育てていますが、風で動く部分があります。花は大変な悪臭を放ちますから、蝿を呼んでいるのでしょう。すると、風で動く部分は蝿にアピールする効果があるのかも知れません。T. chantrieriも糸状の構造が沢山ありますから、受粉に関係していそうです。そこで、大きな苞葉や糸状の構造を除去する実験も行なわれました。しかし、そもそも除去していない植物にも昆虫がほとんどこないこともあり、除去しても差はありませんでした。
また、大きな苞葉は、日光を浴びて果実の発育のために光合成をしているとかも知れません。しかし、生える環境が暗い森の中であり、花茎が垂直に伸びるT. chantrieriは最適とは言えないため、説明としては疑問です。そのため、T. chantrieriの構造がどのような意味を持つのかは分かりません。

120526_154137
Bulbophyllum wendlandianum
花の根本に毛があり風になびきます。さらに、中心部分がピコピコ動きます。大変な悪臭を放ちます。


以上が論文の簡単な要約です。
割と詳しく調査されたにも関わらず、結局は何も分からない実にスッキリしない結果でした。著者らの考察もいまいち説得力がありません。しかし、明らか進展はありました。以前は確証もなく、蝿が来るだろうと思われていましたが、最低限この研究における観察中は蝿は訪れませんでした。もちろん、蝿の種類や、他の地域に生えるT. chantrieriは異なるのかも知れません。今回、判明したことを基礎に置いて、後続の研究が行われることを期待します。あるいは、他の種類のTaccaではどうなのでしょうか? もし、他種では普通に蝿が来ていたりした場合、合わせて系統関係を調べたら、花の謎は一気に解けるかも知れません。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

既知の生物にはすべて学名が付けられています。しかし、この学名の特に種小名は一見して由来が分からないものも沢山あります。学名の基本は属名+種小名です。ヒトの学名はHome sapiens、つまりHomo=ヒト属+sapiens=賢い、となります。植物の種小名を見ていると、①特徴を表したもの、②採取された地名に因むもの、③献名、という3パターンがあります。

①特徴を表したものは、「albiflora=白い花」のように見たままの特徴から来ていたり、「mirabilis=素晴らしい」のように抽象的なものもあります。

②採取された地名に因むものは、「japonica=日本の」、「chinensis=中国の」などは我々の身近な植物にはよくあります。しかし、あくまで採取地点ですから、最も個体数が豊富な分布の中心ではなく、飛び地のように僅かに生える場所に因んでいることも珍しくありません。また、日本には大陸から園芸用に様々な木々が持ち込まれましたが、江戸時代に日本を訪れたヨーロッパ人たちはそれらが日本で採取されたため、本来は分布しないのに日本の地名に因んだ名前を付けたりしました。しかし、実際には種小名はあくまで命名のための記号に過ぎないので、意味を問う必要性は皆無でしょうし、それらが訂正されることはありません。
この問題は①の特徴を表したものにも関係します。例えば、赤系統の花を咲かせる植物に、少しクリーム色の新種が発見された場合、「albiflora」と命名されたとしましょう。しかし、その後により白い花の新種が見つかった時、実態に合わせて種小名を変更したらどうなるでしょうか? おそらくは混乱します。2つの植物が同じ名前で呼ばれていたという事実は、禍根を残します。さらに、最も適した特徴の新種が見つかった場合、その都度学名を変更しなければなりません。これでは学名は不安定すぎて、同じ名前の植物について書かれていても、時代や人により異なる植物を示しているなんてことになりかねません。学名について書かれた論文を読んでいるとよく目にする「学名の安定のため」という文言は思った以上に重大なものなのかも知れません。

③の献名については、実はよく分かりません。論文を読んでいると、発見者や採取者、その分野の著名な研究者から来ていたりしますが、必ずしもそうではないような気がします。

前置きが長くなりましたが、今日の本題はこの献名についてです。献名のルールのようなものがあるのかよく分かりませんが、私は全く知らなかったため、何か参考になる論文はないかと少し調べて見ました。見つけたのが、Estrela Figueiredo & Gideon F. Smithの2011年の論文、『Who's in a name: eponymy of the name Aloe thompsoniae Groenew., with notes on naming species after people』です。論文の趣旨は簡単で、Aloe thompsoniaeというアロエは誰に対する献名なのかという話です。

230521165020125
Aloe thompsoniae

Aloe thompsoniaeはアフリカ南部の中では最も小さいアロエの1つです。Section Graminaloe Reynoldsに属するグラスアロエです。A. thompsoniae は南アフリカのリンポポ州の標高1500mを超える雲霧帯に分布します。
さて、1936年にGroenewaldがAloe thompsoniae Groenewという学名を発表しました。しかし、この「thompsoniae」が誰に対する献名であるかは混乱しており、Groenewaldも誰に対するものか記していません。しかし、1941年に出版されたGroenewaldのアロエに関する本では、「Mev. Dr. Thompson」、つまりはMrs. Dr. Thompsonという名前を繰り返し使用しています。どうやら、Thompson夫人が様々なアロエを採取したようです。しかし、いつしか「Mev.(=Mrs.)」が忘れ去られて、「Dr. Thompson」だけが独り歩きしたようです。
Reynoldsは献名を誤解した最初の著者で、1946年の著書ではThompson夫人をThompson博士と呼び、「Thompson博士が最初に植物を採取し始めたのは1924年頃」と述べています。しかし、それは実際には「Mev. Dr. Thompson」、つまり医師であったThompson博士の妻であるThompson夫人のことでした。ちなみに、Thompson夫人は博士号は持っていません。

GroenewaldはA. thompsoniaeのタイプ標本を指定しませんでした。後の1995年に、Glen & Smithによりレクトタイプ化されました。選ばれた標本はReynoldsにより示唆された1924年のものではなく、1930年にThompson夫人により収集されたとあります。Glen & SmithはThompsonという姓を「Sheila Clifford Thompson」という名前に関連付けました。これは、Gunn & Coddの1981年の植物収集家のリストにThompson夫人の記載がなかったせいかも知れません。その後、Sheila Clifford ThompsonはLouis Clifford Thompsonの母親であることが分かりました。また、Sheila Clifford Thompsonの娘であるAudrey Thompsonとする場合もありました。

この誤りは文献やインターネットで流布しています。Aloe thompsoniaeに献名されているのは、正しくはEdith Awdry Thompson(旧姓Eastwood)を示しており、Dr. Louis Clifford Thompsonと結婚しています。Sheila Clifford ThompsonはThompson夫人の娘です。

1903年、Awdry Thompsonは子供の頃、南アフリカのリンポポ州にあるHaenertsburg近くにあるWoodbushに到着しました。彼女は植物収集経験がある両親であるArthur Keble EastwoodとJane Mary Emma Eastwoodの影響により植物収集を開始しました。1910年にPaul Ayshford Methuenが訪れ、動植物の収集旅行をしたことにより、より関心が高まりました。彼女の標本から命名されたいくつかの動物には「eastwoodae」と献名されています。彼女の回想において、「私が夫とLowveldの農民であるHarry Whippと共に馬に乗り、放牧されていたHarryの牛を調べていた時、Wolkbergの山頂の平坦な場所でいくつかの岩の間で育っていました。」と、A. thompsoniaeの発見を記しています。

アロエに献名された女性は僅か19人しかいませんが、Awdry Thompsonはその1人です。Carl von Linneの時代から、植物学での業績や新種の発見者を称えるため、献名が行われてきました。例えば、2009年から2011年にかけて12種類のアロエに対し献名がなされましたが、そのすべてが植物学者やアマチュア研究者、採取者に対するものでした。しかし、アロエ以外の植物ではここ数年間で富裕者が献名の権利を購入するという新しい慣行が出現しました。金品と引き換えに名誉を得ようというこの慣行に対し、多くの植物学者は嘆かわしいことであると感じています。

献名は命名に際して一般的ですが、それが誰に対する献名か記載がない場合があります。しかし、それでは献名の持つ、特定の人物を記念するという目的に反します。場合によっては命名者しか知らない無名の人物に対する献名すら存在します。しかし、それらを禁ずる規則はありませんが、誤った人物と関連付けられる可能性に留意が必要です。よって、献名すらならば、献名する人物に対する情報を添付することをお勧めします。また、ラテン語は性別により語尾が変化しますから、性別についても述べる必要があります。A. thompsoniaeも男性にちなんで命名されたと勘違いされ、Aloe thompsoniとされたこともあります。

以上が論文の要約になります。
学名の由来についても記載がある図鑑を読んでいると、由来がはっきりしなかったり、複数の人物のいずれかの可能性があるなど、大変歯切れが悪いものが多くあります。命名は生物を分類することを目的としていますから、本質的には由来は重要ではありません。しかし、1753年以来、数多くの学者が活躍し数えきれないくらいの生物が命名されて来ました。最早、生物の発見や研究、命名ですら歴史となっています。過去の命名や発見に関する論文も、まだ数は少ないものの出て来ています。しかし、このような調査は古い資料の渉猟など、とにかく手間がかかりますから、やはり著書らが主張するように誰に対する献名が明記していただくのが最善なのでしょう。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村


昨日に引き続き、我が家の多肉植物の今をご紹介します。そう言えば、ソテツの新葉が出て来ました。我が家のソテツは一年に1〜2回しか葉が出ないため、あまり動きがないソテツが最も輝く季節です。Dioonのフラッシュはまだこれからですから楽しみですね。

230528172557589
Zamia furfuracea
フルフラケアのフラッシュ。毎年、ソテツの中で新葉が出て来るのはフルフラケアから始まります。去年は初めて開花しました。それなりに体力を消耗したでしょうから、今年はフルフラケアも久しぶりに植え替えをしました。

230528172605126
新しい葉は金色の毛に覆われています。

230528172430806
Cycas revoluta
日本の蘇鉄ですが、こちらもフラッシュが始まりました。ソテツシジミに加えて、最近はソテツにつく海外のカイガラムシが沖縄で爆発的に増えているそうですから、気を付けたいものですね。


230528172450091
瑞昌玉
Gymnocalycium quehlianumらしいと噂されている瑞昌玉です。開花中。


230528172200444
Gasteria baylissiana
バイリシアナが特徴的な形の花を咲かせています。1965年にバイリシアナを採取したBayliss大佐が栽培方法を確立したと言われますが、Bayliss大佐もこの可愛らしい花を愛でたのでしょうか。

230528172232695
Haworthiopsis fasciata
手前の花茎を長く伸ばしているのは、H. attenuata系の十二の巻ではなく、H. fasciataです。よく開花します。

230528172143705
Aloe parvula
女王錦と呼ばれます。葉が大分増えてきました。元々青みがありますが、日照が強いため赤みが増して、少し紫がかっていますね。美しいアロエです。

230528172100093
Fouquieriaたち
越水栽培中です。Fouquieriaは乾燥地の植物なのに水切れに敏感で、油断するとポロポロ葉を落としてしまいます。毎日手入れ出来ないため、最早こうするより他ありません。


230528172037669
Euphorbia suzannae-marnirae
一応、スザンナエ-マルニラエの名前で買いましたが、E. ambovombensisかもしれません。店主曰く、国内のスザンナエ-マルニラエは本来ないはずの塊根があり、アンボボンベンシスではないかと言うのです。この実生苗もスザンナエ-マルニラエ名義の種子由来でしょう。
しかし、葉の厚みが割とありますね。私が育てているアンボボンベンシスは葉があまり厚くなりません。違いはありそうですから、今後どのように育つのか楽しみです。


230528171949373
Euphorbia classicaulis
クラシカウリスが開花しています。葉に赤みが強いため、普通の植物では目立たない緑色の花がよく目立ちます。かつて、E. francoisiiの変種とされていましたが、現在は独立種です。


230528171814350
Euphorbia caput-medusae
「メデューサの頭」という名前を戴いたタコものユーフォルビアです。最初は枝のない豆粒のような苗でしたから、これでも大分育ちました。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

6月に入り日差しも強くなり、多肉植物たちの陽焼けも心配な季節です。今年は室内に取り込んだ多肉植物を外に出すのが遅れに遅れ、何とか5月中に終わりました。気付いたら梅雨が始まってしまいそうです。まあ、特段何か変わったことがあるわけではありませんが、最近の多肉植物たちをご紹介しましょう。

230528170901355
Aloe bakeri
冬に購入して普通に水やりしていたら根腐れを起こしてしまいました。化粧砂の下に水はけの悪い用土があったことが原因みたいです。根はなくなりましたが、腐った部分を取り除いて、水洗いして水はけの良い用土に植え替えました。最近、葉が硬くなり光沢が出てきたので、どうやら新しい根が出たみたいです。野生絶滅種。


230528170905538
十二の巻
十二の巻のバンドが荒々しく乱れるタイプです。新芽付近の柔らかい部分に大量のアブラムシがいて、いつの間にやらすっかりやられてしまいました。アブラムシは簡単に駆除出来ましたが、かなり傷んでしまいました。再生にはかなり時間がかかりそうです。

230528171556796
Pachypodium densiflorum
3月くらいから花を咲かせ続けていますが、植え替え後は多少ダメージがあったのか花芽は止まっていました。しかし、新しい葉とともに花芽がまた出てきました。


230528171633392
Pachypodium saundersii
白馬城も植え替えしましたが、新しい葉が勢いよく出ています。変に厳しく育てているせいか、なかなかパキポディウム苗たちは花を咲かせてくれませんけどね。


230528170947820
Pachypodium gracilius
小さな苗ですが現在甘やかしています。グラキリウスは、以前もう少し大きな苗を干からびさせた前科があるので、ある程度のサイズになるまで気が抜けません。

230528171727729
Euphorbia handiensis
ハンディエンシスに初めて花が咲きました。根本が膨らんだ不思議な形です。


230528171915791
Euphorbia confinalis
模様が大変美しいコンフィナリスが生長を開始しました。白斑と濃い緑色が鮮烈です。


230528172019181
Euphorbia moratii
花キリンで一番勢いがあるのが、このモラティイです。花は一段落しましたが、次々と新しい葉が出ます。


230528172118368
Euphorbia bongolavensis
ボンゴラベンシスは寒さに敏感で、冬の間は葉を落としていましたが、ようやく葉が揃って来ました。

230528172407633
Euphorbia didiereoides
強烈なトゲを持つディデイエレオイデスですが、これでも花キリンです。大きな葉が勢いよく出ていますね。ホームセンターで冬を越したのにこの勢いですから、どうやら丈夫な種類のようです。

230528173050805
Haworthia mucronata v. mucronata JDV 90-111
フィールドナンバー付きのハウォルチアです。しかし、このムクロナタは雑草のように強く、簡単に増えるためあまり有り難みがありません。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

このページのトップヘ