以前、アロエの葉の配置についてのBayerの見解を記事にしました。これは要するに二列性と三列性の話でした。
以下の記事をご参照下さい。
この時、コメント欄で「2/5葉序」ではないかというご指摘をいただきました。大変、有難いことです。
さて、この2/5葉序は葉が重ならないで、太陽光が満遍なく当たる上手い配置です。しかし、なぜこのような葉の配置となるのでしょうか? もちろん、進化の結果として適者生存の理によって、2/5葉序が選択されたのだと言ってしまえばそれまででしょう。それでも、進化は新たな機能の付加より、すでに存在するものの改変や転用が多いことを考えたら、2/5葉序も既存のシステムを利用しているような気がします。
とりあえずは、色々と広く浅く調べたところ、フィボナッチ数に行き当たりました。Wikipediaではフィボナッチ数の例としてヒマワリの花の螺旋状の構造を示しています。この螺旋状の構造は、何となく多肉植物のロゼット型を想起させます。まず、そこからスタートしましょう。
Aloiampelosに見られる葉序。葉が回転しながら重ならないように配置されます。
さて、とは言うものの、Wikipediaに書かれた沢山の数式を眺めていたところで、残念ながら私の頭では意味がまったく分かりません。介助してくれる本が必要です。調べたところ、近藤滋による『波紋と螺旋とフィボナッチ』(秀潤社、2013年)という本を見つけました。生物の形、例えば巻き貝の巻き方、羊などの角の巻き方、シマウマや魚の縞模様など、生物界に現れる様々なパターンについて解説している本です。
フィボナッチ数とは、連続した2項の和が次の項になる、ということらしいです。わかったようなわからないような感じですが、具体的には1、1、2、3、5、8、13、21、34、55…、という数列です。なるほど、1+2=3、2+3=5、3+5=8、5+8=13という規則ですね。
一般的に植物の花弁はフィボナッチ数が多く、パイナップルや松ぼっくりなどの螺旋構造もフィボナッチ数とされるようです。マーガレットなどのキク科植物の花の中央部分はよく見ると螺旋状で、右巻きの螺旋と左巻きの螺旋を数えると正にフィボナッチ数なのだそうです。試しに、螺旋状の構造をとるGymnocalycium saglionisとEuphorbia gorgonisで螺旋の本数を数えて見ました。
Gymnocalycium saglionisの右巻きの螺旋は7本。フィボナッチ数ではありません。
左巻きの螺旋は11本。うーん、フィボナッチ数ではありませんね。しかし、サボテンは稜が増えていくため、例として適切ではないかもしれません。このG. saglionisはまだ20cm程度で最大サイズではないため、稜が最大となった場合に、右巻き螺旋が8本、左巻き螺旋が13本になるのかもしれません。
Euphorbia gorgonisの右巻きの螺旋は13本。フィボナッチ数です。
左巻きの螺旋は8本。なんと、こちらもフィボナッチ数でした。
フィボナッチ数での葉の展開は黄金角という角度になっており、約137.507度ということです。確かにこのこの角度だと、葉が重ならないように葉が配置されます。しかし、よくよく考えたら約137.507度である必然性はないのかもしれません。なぜなら、例えば132度で葉が展開した場合、回転するようにしてつく葉が一回りして重なるのは、実に11枚後ということになります。11枚も葉があれば茎もそれなりに伸びて距離がありますし、そもそも太陽光は真上から当たるわけではありません。キク科植物の花に見られるフィボナッチ数は太陽光と何ら関係がないということを加味すると、フィボナッチ数は葉が重ならないように葉を展開するためという考え方は誤りである可能性があるのです。
著者はもっと機械的な見方をしています。植物は生長点から出る植物ホルモンにより新しい葉が生長しますが、植物ホルモンが古い葉に影響しないためにはどうしたら良いでしょうか。一つは植物ホルモンに濃度勾配がある場合、新しい葉の原基は古い葉の原基から距離があれば良いということになります。あるいは、古い葉に植物ホルモンを阻害する物質が出ているとしても、やはり同じことです。3枚前の古い原基の影響まで加味すると、影響を受けない理想的な角度は黄金角となるそうです。要するに、植物が螺旋構造を構築する際に、植物ホルモンの影響により必然的に黄金角となってしまうというのです。
本のおかげで基本的なことは分かりました。さらに調べたところ、2018年の岡部拓也の論文、『葉序の究極要因』を見つけました。論文では葉序は光合成効率には関係がないと、初めから明言されています。著者が言うには、計算上では光が当たる効率は葉序以外の要素の方が大きいということです。さらに、パイナップルや松ぼっくりなどの光合成しない器官の方が、規則性が正しく現れるということです。
さて、よく見られる葉の配列は2/5葉序と3/8葉序です。3/8葉序では葉が重なるまでに8枚の葉があり、茎を3周します。自然界に見られる開度には法則性があり、これをシンパー・ブラウンの法則と呼ぶそうです。最もよく見られる開度は1/2、1/3、2/5、3/8、5/13、8/21、13/34、21/55…、といういわゆる葉序の主列と呼ばれるものです。なにやら見覚えのある数字が並んでいますが、これは要するにフィボナッチ数です。螺旋葉序では2/5葉序でも3/8葉序でも、開度は変わらずに約137.5度です。黄金角ですね。これは、分数開度の極限値であり、137.5度は極限開度と呼ばれます。そもそも開度が137.5度ならば、茎の伸長により主列は1/3、2/5、3/8、5/13…となるのは数学的必然です。フィボナッチ数を実現するために開度137.5度になっているのではなく、逆に開度が137.5度だから自然とフィボナッチ数になっているだけかもしれません。
とは言うものの、一般的に特定の植物に特定の葉序があるように書かれがちですが、実際には枝によって葉序が異なっていたり、同じ枝の根元と葉先では葉序が変化することもよくあることだそうです。これを、葉序転移と呼ぶそうです。
ここで面白いことが書いてありました。シンパー・ブラウンの法則のブラウンによると、ヤナギの尾状花序、スゲの穂、サトイモの肉穂花序、バンクシア、サボテン、トウダイグサ(Euphorbia)、ヒカゲノカズラの螺旋構造は例外的であるとしています。どうも、サボテンはフィボナッチ数とは関係がなさそうです。また、Euphorbiaはやはり無関係かと思いきや、Euphorbia gorgonisはばっちりフィボナッチ数でした。とはいえ、Euphorbiaと言っても広いですからね。多肉植物ではなく、草本のEuphorbiaを例に調べただけかもしれません。
開度137.5度からは様々な葉序系列が導かれますが、若い時には1/3、2/5、3/8などのより単純な葉序を経由します。いわゆる葉序転移ですが、この葉序転移にかかるコストを計算すると、開度99.5度と137.5度の時に最小となります。この事実も重要なファクターかもしれません。
また、葉は茎の維管束と繋がっていることから、維管束の配置とも関係があります。葉が縦列をなす傾向は維管束が縦に並ぶからであり、これが葉の原基のパターン形成に選択圧を及ぼすと考えられます。維管束は自由自在に出せないため、維管束の伸長が葉のつきかたを限定するのです。葉は縦に規則的に並びますが、これが葉序の規則性を進化させる駆動力であり究極要因です。
よって、葉序は外部環境(日照)への適応ではなく、あくまで内部的な適応と考えた方が自然であるとしています。
始まりは二列性・三列性の話でしたが、2/5葉序を知ったことにより黄金角やフィボナッチ数に行き当たり、葉が重ならないからよく日が当たるという常識的な見方の否定にまで至りました。正直なところ、読んだ資料の全てを理解出来ておりませんし、内容的にも完全に証明された訳でもないように思われます。様々な可能性は示されますが、それを証明する手段がないような気もします。ただし、葉序により良く日が当たるからだという説明は、確かに間違いなのでしょう。今後、何か学術的に進展がありましたらまた記事にしたいと思います。まあ、あくまで私に理解出来る範囲の話ならばですが。
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この時、コメント欄で「2/5葉序」ではないかというご指摘をいただきました。大変、有難いことです。
さて、この2/5葉序は葉が重ならないで、太陽光が満遍なく当たる上手い配置です。しかし、なぜこのような葉の配置となるのでしょうか? もちろん、進化の結果として適者生存の理によって、2/5葉序が選択されたのだと言ってしまえばそれまででしょう。それでも、進化は新たな機能の付加より、すでに存在するものの改変や転用が多いことを考えたら、2/5葉序も既存のシステムを利用しているような気がします。
とりあえずは、色々と広く浅く調べたところ、フィボナッチ数に行き当たりました。Wikipediaではフィボナッチ数の例としてヒマワリの花の螺旋状の構造を示しています。この螺旋状の構造は、何となく多肉植物のロゼット型を想起させます。まず、そこからスタートしましょう。
Aloiampelosに見られる葉序。葉が回転しながら重ならないように配置されます。
さて、とは言うものの、Wikipediaに書かれた沢山の数式を眺めていたところで、残念ながら私の頭では意味がまったく分かりません。介助してくれる本が必要です。調べたところ、近藤滋による『波紋と螺旋とフィボナッチ』(秀潤社、2013年)という本を見つけました。生物の形、例えば巻き貝の巻き方、羊などの角の巻き方、シマウマや魚の縞模様など、生物界に現れる様々なパターンについて解説している本です。
フィボナッチ数とは、連続した2項の和が次の項になる、ということらしいです。わかったようなわからないような感じですが、具体的には1、1、2、3、5、8、13、21、34、55…、という数列です。なるほど、1+2=3、2+3=5、3+5=8、5+8=13という規則ですね。
一般的に植物の花弁はフィボナッチ数が多く、パイナップルや松ぼっくりなどの螺旋構造もフィボナッチ数とされるようです。マーガレットなどのキク科植物の花の中央部分はよく見ると螺旋状で、右巻きの螺旋と左巻きの螺旋を数えると正にフィボナッチ数なのだそうです。試しに、螺旋状の構造をとるGymnocalycium saglionisとEuphorbia gorgonisで螺旋の本数を数えて見ました。
Gymnocalycium saglionisの右巻きの螺旋は7本。フィボナッチ数ではありません。
左巻きの螺旋は11本。うーん、フィボナッチ数ではありませんね。しかし、サボテンは稜が増えていくため、例として適切ではないかもしれません。このG. saglionisはまだ20cm程度で最大サイズではないため、稜が最大となった場合に、右巻き螺旋が8本、左巻き螺旋が13本になるのかもしれません。
Euphorbia gorgonisの右巻きの螺旋は13本。フィボナッチ数です。
左巻きの螺旋は8本。なんと、こちらもフィボナッチ数でした。
フィボナッチ数での葉の展開は黄金角という角度になっており、約137.507度ということです。確かにこのこの角度だと、葉が重ならないように葉が配置されます。しかし、よくよく考えたら約137.507度である必然性はないのかもしれません。なぜなら、例えば132度で葉が展開した場合、回転するようにしてつく葉が一回りして重なるのは、実に11枚後ということになります。11枚も葉があれば茎もそれなりに伸びて距離がありますし、そもそも太陽光は真上から当たるわけではありません。キク科植物の花に見られるフィボナッチ数は太陽光と何ら関係がないということを加味すると、フィボナッチ数は葉が重ならないように葉を展開するためという考え方は誤りである可能性があるのです。
著者はもっと機械的な見方をしています。植物は生長点から出る植物ホルモンにより新しい葉が生長しますが、植物ホルモンが古い葉に影響しないためにはどうしたら良いでしょうか。一つは植物ホルモンに濃度勾配がある場合、新しい葉の原基は古い葉の原基から距離があれば良いということになります。あるいは、古い葉に植物ホルモンを阻害する物質が出ているとしても、やはり同じことです。3枚前の古い原基の影響まで加味すると、影響を受けない理想的な角度は黄金角となるそうです。要するに、植物が螺旋構造を構築する際に、植物ホルモンの影響により必然的に黄金角となってしまうというのです。
本のおかげで基本的なことは分かりました。さらに調べたところ、2018年の岡部拓也の論文、『葉序の究極要因』を見つけました。論文では葉序は光合成効率には関係がないと、初めから明言されています。著者が言うには、計算上では光が当たる効率は葉序以外の要素の方が大きいということです。さらに、パイナップルや松ぼっくりなどの光合成しない器官の方が、規則性が正しく現れるということです。
さて、よく見られる葉の配列は2/5葉序と3/8葉序です。3/8葉序では葉が重なるまでに8枚の葉があり、茎を3周します。自然界に見られる開度には法則性があり、これをシンパー・ブラウンの法則と呼ぶそうです。最もよく見られる開度は1/2、1/3、2/5、3/8、5/13、8/21、13/34、21/55…、といういわゆる葉序の主列と呼ばれるものです。なにやら見覚えのある数字が並んでいますが、これは要するにフィボナッチ数です。螺旋葉序では2/5葉序でも3/8葉序でも、開度は変わらずに約137.5度です。黄金角ですね。これは、分数開度の極限値であり、137.5度は極限開度と呼ばれます。そもそも開度が137.5度ならば、茎の伸長により主列は1/3、2/5、3/8、5/13…となるのは数学的必然です。フィボナッチ数を実現するために開度137.5度になっているのではなく、逆に開度が137.5度だから自然とフィボナッチ数になっているだけかもしれません。
とは言うものの、一般的に特定の植物に特定の葉序があるように書かれがちですが、実際には枝によって葉序が異なっていたり、同じ枝の根元と葉先では葉序が変化することもよくあることだそうです。これを、葉序転移と呼ぶそうです。
ここで面白いことが書いてありました。シンパー・ブラウンの法則のブラウンによると、ヤナギの尾状花序、スゲの穂、サトイモの肉穂花序、バンクシア、サボテン、トウダイグサ(Euphorbia)、ヒカゲノカズラの螺旋構造は例外的であるとしています。どうも、サボテンはフィボナッチ数とは関係がなさそうです。また、Euphorbiaはやはり無関係かと思いきや、Euphorbia gorgonisはばっちりフィボナッチ数でした。とはいえ、Euphorbiaと言っても広いですからね。多肉植物ではなく、草本のEuphorbiaを例に調べただけかもしれません。
開度137.5度からは様々な葉序系列が導かれますが、若い時には1/3、2/5、3/8などのより単純な葉序を経由します。いわゆる葉序転移ですが、この葉序転移にかかるコストを計算すると、開度99.5度と137.5度の時に最小となります。この事実も重要なファクターかもしれません。
また、葉は茎の維管束と繋がっていることから、維管束の配置とも関係があります。葉が縦列をなす傾向は維管束が縦に並ぶからであり、これが葉の原基のパターン形成に選択圧を及ぼすと考えられます。維管束は自由自在に出せないため、維管束の伸長が葉のつきかたを限定するのです。葉は縦に規則的に並びますが、これが葉序の規則性を進化させる駆動力であり究極要因です。
よって、葉序は外部環境(日照)への適応ではなく、あくまで内部的な適応と考えた方が自然であるとしています。
始まりは二列性・三列性の話でしたが、2/5葉序を知ったことにより黄金角やフィボナッチ数に行き当たり、葉が重ならないからよく日が当たるという常識的な見方の否定にまで至りました。正直なところ、読んだ資料の全てを理解出来ておりませんし、内容的にも完全に証明された訳でもないように思われます。様々な可能性は示されますが、それを証明する手段がないような気もします。ただし、葉序により良く日が当たるからだという説明は、確かに間違いなのでしょう。今後、何か学術的に進展がありましたらまた記事にしたいと思います。まあ、あくまで私に理解出来る範囲の話ならばですが。
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