Euphorbia resiniferaはモロッコ原産のサボテンに似た多肉質のユーフォルビアです。日本では「白角キリン」の名前があります。アフリカのユーフォルビアの中では、それほど特徴的ではないためか人気があるとは言い難く、あまり見かけない多肉植物ではあります。しかし、多肉質なユーフォルビアの多くは南アフリカを中心に、アフリカ東岸を北上してソマリアやエチオピアの高地、紅海の向こう岸のアラビア半島、さらにはマダガスカル島に分布するものが大半です。その点で言えば、北アフリカのモロッコに分布する多肉質のユーフォルビアは珍しくはあります。同じモロッコ原産の「大正キリン」が何故か普及種となっていますが、そちらの方が不思議な感じがします。大正キリンもそれほどインパクトのある見た目とは言えませんからね。さて、実は個人的にE. resiniferaについては興味があったので、2月に池袋の鶴仙園に行った際、たまたま見かけたのですが、迷わず購入しました。
白角キリン Euphorbia resinifera
さて、E. resiniferaですが、調べてみると思わぬ記述に遭遇しました。なんでも、「紀元前25世紀頃に東方の王により発見された、おそらくは最初にユーフォルビアと名付けられた植物である可能性がある」というのです。「東方の王」が誰を指すのかは分かりませんが、気になる記述です。
もう少し調べて見ると、最も古い薬用植物の書物の中に、「Euphorbium」と呼ばれるラテックスを含む抽出物についての記述がありました。また、Numidiaの王であるJuba2世の侍医であったEuphorbusへの言及により大プリニウスにより注目されたとあります。つまりは、Euphorbusという医者がE. resiniferaの乳液を薬として使用していて、それが後にEuphorbiumと呼ばれていたということですかね? Euphorbiaという属名自体がここら辺から来たのでしょう。
Numidiaは北アフリカの地中海沿岸部に存在した王国です。現在のモロッコは、かつてのNumidiaのちょうど隣にありますから、E. resiniferaがNumidiaで知られていたことは不思議ではありません。
さて、私が気になっていたのは、アフリカのユーフォルビアの遺伝子解析の結果です。2013年に発表された論文によると、E. resiniferaはE. venefica(E. venenificaは異名)の仲間であるというのです。E. veneficaの仲間として、E. sapinii、E. sudanica、E. unispinaがあげられていますが、この仲間は木質化する幹の先端から葉を出すタイプです。論文では調べられていませんが、E. poissoniiもこの仲間でしょう。さて、何が不思議かと言うと、1つはあまりに形状が異なることです。E. resiniferaはあまり背が高くならず、地際で分岐してクッション状に育ちます。多肉質でサボテンのようなE. resiniferaとE. veneficaの仲間はあまりに異なります。とりあえず、論文の遺伝子解析の結果を見てみましょう。
┏━━E. sudanica
┏┫ (モーリタニア~東アフリカ)
┃┗━━E. venefica
┏┫ (東アフリカ)
┃┗━━━E. unispina
┏┫ (ギニア湾~チャド、スーダン)
┃┗━━━━E. sapinii
┫ (アフリカ中央部)
┗━━━━━E. resinifera
(モロッコ)
どうやら、E. resiniferaはE. veneficaの仲間の根元にある植物のようです。E. resiniferaに一番近縁なのはE. sapiniiです。もちろん、これはE. resiniferaからE. sapiniiが進化したという訳ではなく、E. resiniferaとE. sapiniiの共通祖先からそれぞれが進化したという意味です。しかも、共通祖先から分かれた時からE. resiniferaが存在したとは限らず、そこから再び分岐した結果の1つがE. resiniferaであるかもしれないのです。
何故かと言うと、絶滅した植物がかつては存在したかもしれないからです。化石では基本的に遺伝子は調べられませんし、そもそも化石になる植物はほんの一握りであり、そのほとんどは朽ちてしまい化石にはなりません。よく、進化論への反論として、進化の空白を指摘する「ミッシング・リンク」という考え方がありますが、これは生き物が死んだら必ず化石になるという素朴な勘違いがあるように思えます。例えば、庭の植木が秋に紅葉し、やがて葉が落ちたとしましょう。その落ち葉は、やがて腐って腐葉土になり土に還ります。では、庭の落ち葉が腐らずに化石になる可能性はどれくらいあるでしょうか? 考えてみたら、直ぐに庭の落ち葉が化石になる可能性はまったくないことに気が付きます。実は化石になるには、腐る前に無酸素状態に置かれるなど、かなり特殊な条件が必要です。植物の化石はある種の奇跡的な偶然の産物なのです。
という訳で、かつて存在したかもしれない祖先はまったく分かりません。どうしたら、近縁であるはずのE. resiniferaとE. sapiniiの間に、このような形状の違いが生まれるのでしょうか? 大変不思議です。かつて存在した、E. resiniferaとE. sapinpiiの共通祖先から分岐したE. sapinpiiの祖先は、E. resiniferaとE. sapiniiの中間的な形状だったのでしょうか? 無論、共通祖先がどのような形状であったかすら分からないのですが…
Euphorbia sapinii
次に分布にはそれなりの謎があります。E. resiniferaはモロッコ原産ですが、近縁なはずのE. sapiniiはカメルーン中央アフリカ、チャド、ガボン、ザイール原産であり、あまりに地理的に距離がありすぎます。かつては分布が異なりお互いに隣接していたとか、中間を埋める絶滅種がいた可能性もあります。さらに言えば、かつては共通祖先が広く分布しており、西部はE. resiniferaとなり東部ではE. sapiniiとなったというシナリオも考えられます。
しかし、不思議なのはE. sapiniiの分布するモロッコの隣国である、モーリタニアまで分布するE. sudanicaとは遺伝的に一番距離があるということです。とは言え、E. sudanicaは東アフリカまで分布が非常に広いので、現在の分布は単純に分布域が拡大しただけかもしれません。
Euphorbia poissonii
最後に学名について見てみましょう。学術的に認められた学名は、1863年に命名されたEuphorbia resinifera O.C.Berg & C.F.Schmidtです。1882年にはTithymalus resinifera (O.C.Berg) H.Karst.とする意見もありましたが、認められていません。また、1942年には、Euphorbia resinifera var. typica Croizat、Euphorbia resinifera var. chlorosoma Croizatという2つの変種が提唱されましたが、やはり現在は認められていない学名です。
まあ、以上のように長々と語ってきた訳ですが、実はこの仲間の遺伝子解析にはやや問題があります。論文はE. veneficaの仲間だけを調べたのではなく、様々なユーフォルビアを解析した中の1つに過ぎません。全体の関係を見る事が目的ですから、細かい部分の精度が低い様子がうかがえます。E. veneficaの仲間だけで新たに解析して欲しいところです。なんだかんだで、だいぶ妄想を語ってしまった訳で、何かしらの確証が欲しいですね。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村
にほんブログ村
白角キリン Euphorbia resinifera
さて、E. resiniferaですが、調べてみると思わぬ記述に遭遇しました。なんでも、「紀元前25世紀頃に東方の王により発見された、おそらくは最初にユーフォルビアと名付けられた植物である可能性がある」というのです。「東方の王」が誰を指すのかは分かりませんが、気になる記述です。
もう少し調べて見ると、最も古い薬用植物の書物の中に、「Euphorbium」と呼ばれるラテックスを含む抽出物についての記述がありました。また、Numidiaの王であるJuba2世の侍医であったEuphorbusへの言及により大プリニウスにより注目されたとあります。つまりは、Euphorbusという医者がE. resiniferaの乳液を薬として使用していて、それが後にEuphorbiumと呼ばれていたということですかね? Euphorbiaという属名自体がここら辺から来たのでしょう。
Numidiaは北アフリカの地中海沿岸部に存在した王国です。現在のモロッコは、かつてのNumidiaのちょうど隣にありますから、E. resiniferaがNumidiaで知られていたことは不思議ではありません。
さて、私が気になっていたのは、アフリカのユーフォルビアの遺伝子解析の結果です。2013年に発表された論文によると、E. resiniferaはE. venefica(E. venenificaは異名)の仲間であるというのです。E. veneficaの仲間として、E. sapinii、E. sudanica、E. unispinaがあげられていますが、この仲間は木質化する幹の先端から葉を出すタイプです。論文では調べられていませんが、E. poissoniiもこの仲間でしょう。さて、何が不思議かと言うと、1つはあまりに形状が異なることです。E. resiniferaはあまり背が高くならず、地際で分岐してクッション状に育ちます。多肉質でサボテンのようなE. resiniferaとE. veneficaの仲間はあまりに異なります。とりあえず、論文の遺伝子解析の結果を見てみましょう。
┏━━E. sudanica
┏┫ (モーリタニア~東アフリカ)
┃┗━━E. venefica
┏┫ (東アフリカ)
┃┗━━━E. unispina
┏┫ (ギニア湾~チャド、スーダン)
┃┗━━━━E. sapinii
┫ (アフリカ中央部)
┗━━━━━E. resinifera
(モロッコ)
どうやら、E. resiniferaはE. veneficaの仲間の根元にある植物のようです。E. resiniferaに一番近縁なのはE. sapiniiです。もちろん、これはE. resiniferaからE. sapiniiが進化したという訳ではなく、E. resiniferaとE. sapiniiの共通祖先からそれぞれが進化したという意味です。しかも、共通祖先から分かれた時からE. resiniferaが存在したとは限らず、そこから再び分岐した結果の1つがE. resiniferaであるかもしれないのです。
何故かと言うと、絶滅した植物がかつては存在したかもしれないからです。化石では基本的に遺伝子は調べられませんし、そもそも化石になる植物はほんの一握りであり、そのほとんどは朽ちてしまい化石にはなりません。よく、進化論への反論として、進化の空白を指摘する「ミッシング・リンク」という考え方がありますが、これは生き物が死んだら必ず化石になるという素朴な勘違いがあるように思えます。例えば、庭の植木が秋に紅葉し、やがて葉が落ちたとしましょう。その落ち葉は、やがて腐って腐葉土になり土に還ります。では、庭の落ち葉が腐らずに化石になる可能性はどれくらいあるでしょうか? 考えてみたら、直ぐに庭の落ち葉が化石になる可能性はまったくないことに気が付きます。実は化石になるには、腐る前に無酸素状態に置かれるなど、かなり特殊な条件が必要です。植物の化石はある種の奇跡的な偶然の産物なのです。
という訳で、かつて存在したかもしれない祖先はまったく分かりません。どうしたら、近縁であるはずのE. resiniferaとE. sapiniiの間に、このような形状の違いが生まれるのでしょうか? 大変不思議です。かつて存在した、E. resiniferaとE. sapinpiiの共通祖先から分岐したE. sapinpiiの祖先は、E. resiniferaとE. sapiniiの中間的な形状だったのでしょうか? 無論、共通祖先がどのような形状であったかすら分からないのですが…
Euphorbia sapinii
次に分布にはそれなりの謎があります。E. resiniferaはモロッコ原産ですが、近縁なはずのE. sapiniiはカメルーン中央アフリカ、チャド、ガボン、ザイール原産であり、あまりに地理的に距離がありすぎます。かつては分布が異なりお互いに隣接していたとか、中間を埋める絶滅種がいた可能性もあります。さらに言えば、かつては共通祖先が広く分布しており、西部はE. resiniferaとなり東部ではE. sapiniiとなったというシナリオも考えられます。
しかし、不思議なのはE. sapiniiの分布するモロッコの隣国である、モーリタニアまで分布するE. sudanicaとは遺伝的に一番距離があるということです。とは言え、E. sudanicaは東アフリカまで分布が非常に広いので、現在の分布は単純に分布域が拡大しただけかもしれません。
Euphorbia poissonii
最後に学名について見てみましょう。学術的に認められた学名は、1863年に命名されたEuphorbia resinifera O.C.Berg & C.F.Schmidtです。1882年にはTithymalus resinifera (O.C.Berg) H.Karst.とする意見もありましたが、認められていません。また、1942年には、Euphorbia resinifera var. typica Croizat、Euphorbia resinifera var. chlorosoma Croizatという2つの変種が提唱されましたが、やはり現在は認められていない学名です。
まあ、以上のように長々と語ってきた訳ですが、実はこの仲間の遺伝子解析にはやや問題があります。論文はE. veneficaの仲間だけを調べたのではなく、様々なユーフォルビアを解析した中の1つに過ぎません。全体の関係を見る事が目的ですから、細かい部分の精度が低い様子がうかがえます。E. veneficaの仲間だけで新たに解析して欲しいところです。なんだかんだで、だいぶ妄想を語ってしまった訳で、何かしらの確証が欲しいですね。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村
にほんブログ村