ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

2022年11月

「乙姫の舞扇」ことKumara plicatilisは、かつてAloe plicatilisと呼ばれていました。現在でも販売されている苗はAloe plicatilisの名札が付いています。以前、ネットに転がっているような情報については調べてまとめました。
しかし、それもイギリス王立植物園のデータベースと、南アフリカの生物に関する公的データベースを参照としましたから、情報量は国内とは比較にならないほど大きいものでした。しかし、最近では学者論文も参照にしていますから、Kumara plicatilisについても何かないか調べてみました。そんなこんなで見つけたのが、S. R. Cousins, E. T. F. Witkowski, M. F. Pfab, R. E. Reddles, D. J. Mycockの2013年の論文、『Reproductive ecology of Aloe plicatilis, a fynbos tree aloe endemic to the Cape Winelands, South Africa』です。論文のタイトルにはAloe plicatilisとありますが、Kumara plicatilisという学名が提唱されたのは2013年ですから、タイミング的にAloe plicatilisはこの時は正しい学名でした。まあ、AloeからKumaraに名前は変わっても、植物自体が変わったわけではありません。論文ではまだAloeですから、解説もA. plicatilisの表記でいきます。

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Kumara plicatilis=Aloe plicatilis

さて、論文の内容ですが、A. plicatilisの繁殖について調査したものです。まずは、アロエの繁殖に関する研究について振り返ります。
調査が行われた南アフリカにはアロエが約140種確認されており、最もアロエの多様性が高い地域です。アロエは管状の鮮やかな花を咲かせる傾向があり、一般的に自家受粉しないため受粉は花粉媒介者(ポリネーター, pollinator)に依存します。多くのアロエは冬に開花して蜜を出すため、食糧の不足する冬の食糧源として重要です。アロエは鳥をポリネーターとする鳥媒花とする種類については複数の研究があります。長い管状の花を咲かせるアロエは濃い蜜を少な目に出し、花の蜜を専門とする太陽鳥をポリネーターとしています。対して、短い花のアロエは薄い蜜を大量に出し、花の蜜を専門とする太陽鳥ではなく、専門ではない鳥をポリネーターとしています。
この時、なぜ太陽鳥が受粉に寄与しないかを調べた論文については、過去に記事にしたことがあります。

アロエの種子は通常は長さ3~5mmで、2つの翼(一部の種は3翼)を持つものは風で散布されます。しかし、翼がない種は親植物の近くで育ちます。アロエは豊富に種子を生産しますが、発芽は雨に依存しており新しい苗は希です。アロエの種子は通常3週間以内に発芽し、1年後では大幅に発芽力が低下することがあるそうです。アロエの苗は、強光や暑さ、乾燥、霜、食害から保護してくれる他の植物が重要です。

A. plicatilisはケープのフィンボスに自生する唯一の樹木アロエです。A. plicatilisはケープ南西部のWinelandsの山岳地帯に分布が制限されています。標高は200~950mです。この地域は地中海性気候で、乾燥した夏(平均気温15~25℃)と雨の多い冬(平均気温7~15℃)がある環境です。自生地は急な岩だらけの斜面で、水捌けのよい酸性土壌です。10~3年間隔で夏に火災が発生します。
A. plicatilisは生長が遅く、2つに分岐する枝を持ち、葉は扇形になり12~16枚です。茎の直径は15cmまで、高さは80cmほどで成熟します。成体の高さの平均は1.5mほどですが、最大で5mに達する可能性があります。
花は円筒形で長さ5cm程度で、15~25cmの総状花序に25~30個の緋色の花が咲きます。A. plicatilisは8~10月(時に11月)に開花し、11月上旬に結実します。実は12~1月に裂開し、種子には翼があります。


著者はA. plicatilisのポリネーターを調査しました。方法は一部の花に網をかけて鳥や小型哺乳類を排除し、結実する季節に観察を実施するという割とアバウトなものです。結実は①排除なし、②鳥や小型哺乳類の排除、③すべてのポリネーターの排除という3パターンです。結果は、①>②>③の順番でした。A. plicatilisの場合、鳥や小型哺乳類の排除は結実にあまり影響を与えていないことが示されており、A. plicatilisの主たるポリネーターは昆虫である可能性があります。おそらくは、主要なポリネーターはミツバチと考えられます。
しかし、①の排除なしは②より高いため、昆虫だけではなく鳥も重要かもしれません。A. plicatilisの花を訪れた鳥は太陽鳥ですが、筒状の花の形状から太陽鳥以外の鳥は採蜜が難しいので、太陽鳥が受粉の効率を高める効果があるのかもしれません。

さらに、種子がどれくらい散布されるのかを確認しています。方法は実際の自生地で0.8mの高さから種子を落として、どの程度種子が拡散するかを計測しています。結果は、平均風速が遅い地域では1.3m、早い地域では15.3mに達しました。
この種子散布の1年後に土壌を採取し、温室で水を与えましたが、実生は生えてきませんでした。種子の寿命は1年もないことになります。散布後6ヶ月では少数の発芽があっただけで、種子は土壌中で長く生存しないことがわかりました。


採取した種子を、室内の冷暗所に保存した場合に発芽するかを試験しました。やはり、温室で水を与えましたが、発芽までの期間は3ヶ月保存では0.8週、18ヶ月保存では2.5週、24ヶ月保存では2.3週かかりました。
ここで面白いことがわかりました。6週間保存した新しい種子は発芽率が28%と非常に低いというのです。しかし、種子を調べると(種子の活性を調べるテトラゾリウム試験)、発芽能力があることがわかりました。どうやら、種子は散布された後に熟成される必要があるようです。また、室内で管理した種子は長期保存しても発芽したため、自生地の環境が種子の保存に適していないことが考えられます。

論文の簡単な要約は以上となります。
このように生態を詳しく調査することにより、植物の保護に対する重要な情報を提供します。例えば、今回のA. plicatilisの場合、種子の保存安定性があまり良くないことがわかりました。もし、植物の保護や繁殖を考えた時に、種子の保存は必然的です。事前に参照可能な情報があるとないとでは、大きな違いがあります。このような地道な研究が貴重な生物の未来を支える礎となるかもしれないのです。



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マカレンシス(Euphorbia makallensis)はエチオピア原産のユーフォルビアです。マカレンシスは安価なミニ多肉が園芸店に並ぶこともある普及種ですが、どういうわけがほとんど情報がありません。元より国内のサイトにはたいした情報はないのですが、割と海外のサイトでは詳しい情報が得られることが多いと感じています。しかし、マカレンシスはそれも見つけられませんでした。以前、情報がないということと、学名についてのみの薄い記事を書いたことがあります。
しかし、ネットの情報がダメなら論文を読めばいいのです。しかし、意外とユーフォルビアの論文ってないんです。いや、検索すると沢山出てくるのですが、多肉植物ではないユーフォルビアの論文がほとんどです。しかも、大抵はヨーロッパのユーフォルビアの化学成分についてのもので、アフリカ原産のユーフォルビアは有名な種類について調べても、出てくる論文がない場合が多いと感じています。
そんな中、マカレンシスについて書かれた論文を見つけました。Trevor Wilson & Neil Munroによる2019年の論文、『Euphorbia makallensis Carter, a northern Ethiopia cushion-forming Euphorbia of very limited distribution』です。

1973年、エチオピアのTigray州は繰り返される干魃と飢饉に見舞われました。エチオピア皇帝Haile Selassieの甥である州知事のRas Mengesha Seyoum殿下は、イギリス大使を通じて財政的・技術的な支援を求めました。先ずはイギリスのコンサルタント会社により、Tigrayの植生、土壌、地形が調査されました。農地の開発のためには情報が必要だったのでしょう。
1974年から1975年にエチオピアの開発調査の過程で、小規模な農地の近くにクッション状の植物が発見されました。これが後のマカレンシスです。マカレンシスはトラックで移動する際にはただの岩だと思われていましたが、突如として花を咲かせました。植物は採取され、Addis Ababaの国立植物標本館に持ち込まれました。採取されたのは標高2293m地点でした。数週間後、キュレーターにより新種と判断されました。
標本はイギリスのキュー王立植物園にも送られ、採取地点の調査や、研究のために栽培も行われました。
マカレンシスはIgre Hariba村の近くの約4平方kmの狭い範囲に限定されていました。自生地は標高2260~2385mのAcacia etbaicaと希にEuclea schimperiが疎らに生える、石灰岩を含む玄武岩の岩場と急な丘の中腹でした。

マカレンシスの1975年の栽培の試みは失敗しましたが、キュー王立植物園では成功し、1981年に新種Euphorbia makallensis S. Carterとして記載されました。Carterはマカレンシスは、ソマリア北部とアラビア半島に自生するクッション状ユーフォルビアに関連性があるように見えると述べました。マカレンシスは4稜(希に5稜)で、一見してモロッコ原産のE. resinifera(白角キリン)に似ています。
マカレンシスはTigray中央に限定的と考えられていましたが、2011年に著者のN. Munroは標高2323mにあるHawzenの南、元のグループから北に75kmで、新たな野生のマカレンシスを発見しました。このグループは砂岩由来の土壌に育っていました。

2018年11月初旬、著者の二人はマカレンシスの2つの自生地に赴きました。Igre Hariba村の近くのグループはその分布やサイズに変化はないようでした。Hawzenのグループは開花しているものもありました。マカレンシスの自生地では5月と6月に乾季が終わり、11月の降雨の後に開花します。
マカレンシスは限られた自生地に生えますが、減少している様子はありませんでした。付近の農地とも分かれており、どうやら邪魔にはならないため、農地開発の影響は考えなくても良さそうです。

以上が論文の簡単な解説です。
一般の情報が少ないマカレンシスですが、少し情報が得られました。瓢箪から駒ではありませんが、農地の調査から新種の発見というやや珍しい経緯でした。しかし、マカレンシスは原産地がエチオピア高地ですから、夏の暑さを嫌うのかもしれません。エチオピア高地産と言えばEuphorbia gymnocalycioidesですが、難物として知られています。マカレンシスはE. gymnocalycioidesほどではないにしろ、注意が必要である可能性もあります。普及種ではありますが、思ったより趣深いユーフォルビアなのかもしれません。


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カクチペス(Pachypodium cactipes)はマダガスカル原産のパキポディウムの1種です。学名は1895年にPachypodium cactipesと命名されましたが、2004年にはロスラツムの亜種とされPachypodium rosulatum subsp. cactipesとされています。国内ではカクチペスのラベルがついた実生苗を見かけることがあります。しかし、このカクチペスについて、その原産地について疑問を投げ掛けた論文を見つけました。それは、Jean-Philippe Castillon, Jean-Bernard Castillon, Solo H. J. V. Rapanarivoの2021年の論文、『Correction d'une erreur a propos de Pachypodium cactipes K. Schum』です。

論文の概要は、P. cactipesのタイプ標本はTolanaro地方 ではなく、Mahajanga州で採取されたものというものです。それに従うと、P. cactipesはP. rosulatumと同種あるいは亜種ということになるとあります。また、Tolanaro(Fort-Dauphin)のパキポディウムはP. cactipesと間違われているということです。

詳しく内容を見てみましょう。
K. Schumannは1895年にタイプ標本のない最小限の説明でP. cactipesを命名しました。後の1907年にP. cactipesはCostantin & Boisにより取り上げられ、タイプ標本J. M. Hildebrandt3114であることを確認しました。この標本は後にRapanarivoとLeeuwenbergによりレクトタイプ化され 、P. cactipesのタイプ標本とされています。この標本は詳細な産地は不明ですが、相当するTambohoranoとBesalampyの間のRanobe川付近ではP. rosulatumが見られます。
Costantin & Boisは同じ記事でP. cactipesをP. rosulatumの異名としました。1934年のPierrier de la Bathieや1949年のPichonも異名であると確認しました。
ただし、P. rosulatumのタイプ標本Baron256は調べると、なんとP. horombenseに相当することがわかりました。しかし、P. horombenseとP. rosulatumという学名は、1世紀に渡り広く知られているため、1999年にLeeuwenbergとRapanarivoは現在知られているため組み合わせが正式な学名となるように変更しました。

Luthyは2004年にP. rosulatumを分類しました。北西部にはsubsp. rosulatum、Isaloにはsubsp. gracilius、Berevo(Tsiribihinana)にはsubsp. bicolor、Makayにはsubsp. makayense、Fort-Dauphinにはsubsp. cactipes、Bemarahaにはsubsp. bemahenseが分布します。ただし、それほど分離しているわけではないようです。P. cactipesはP. rosulatumの分布の南端で、Tolanaroから1000km以上離れたMahajanga州に由来します。
著者はP. cactipesはP. rosulatum subsp. rosulatumと同種であると考えています。また、Bemarahaの石灰台地がBesalampyまで途切れることなく続いているため、P. rosulatum subsp. bemahenseと同一種である可能性も指摘されているそうです。

さて、著者はTolanaroのパキポディウムがカクチペスではないことを明らかにしましたが、ではカクチペスの産地とされてかたTolanaroのパキポディウムとは何でしょうか。それは、1907年に命名されたPachypodium rosulatum f. stenantha Costantin & Boisです。これは、誤ってvar. stenanthaと表記されることもあります。また、1934年に同じ種にP. rosulatum var. delphinense H. Perrierと命名されたこともあるようです。しかし、f. stenanthaは現在認められている学名ではありません。しかし、著者はf. stenanthaをロスラツム系ではなく、独立した別種とすべきと考えています。P. rosulatumとの形態学的な違いや、f. stenanthaの地理的孤立からの考えのようです。
また、最新の遺伝子解析についても最後に少し触れていますが、これはBurgeらの2013年の論文、
Phylogeny of the plant genus Pachypodium (Apocynaceae)』ですね。なんで知っているかというと、すでに記事にしているからです。
この論文では、P. rosulatum系は、subsp. rosulatumとsubsp. bemahensieは近縁でしたが、subsp. makayense、subsp. gracilius、subsp. bicolor、subsp. cactipes(著者の言うTolanaroに分布するP. stenantha)はP. rosulatumとは近縁とは言いがたい結果でした。著者はこのP. rosulatumの亜種の独立と、f. stenanthaを復帰すべきとしています。

論文の内容は以上です。私も2013年の論文を読んで、ロスラツム系のまとまりのなさを知り、学名の大幅な改変が必要ではないかと感じました。それは、研究者たちも同じでしょう。しかし、現在でもロスラツム系は健在です。いつかロスラツム系が解体される時は来るのでしょうか?
また、著者の提唱するPachypodium stenanthum (Costantin & Bois) J. B. Castillon, J. P. Castillon & Rapanarivo, comb. et stat. nov.はいつか正式な学名として記載されるのでしょうか。その場合は、P. rosulatum subsp. cactipesはP. rosulatum subsp. rosulatumに吸収されてしまうのでしょうか。大変気になる話題ですから、私も注視していきたいと考えております。


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先日、五反田TOCで開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールへ行って来ました。ビッグバザールでは安目のユーフォルビアやらアロエやらを購入したわけですが、調べてもよく分からないユーフォルビアがありました。以外の記事に書きましたが、公的なデータベースに記載がなかったのです。
そのユーフォルビアの名前は、Euphorbia longituberculosaと言います。ネットで検索すると、国内外のE. longituberculosaの、まあ多くは販売サイトですが割と出てきます。しかし、イギリスのキュー王立植物園のデータベースを検索すると、何故かヒットしません。何かおかしいと思い、E. longituberculosaの論文を検索したところ、『New Euphorbia species Related to E. longituberculosa Boiss』という論文が出てきました。しかし、残念なことに有料の雑誌ですから内容はわかりません。とはいえ、E. longituberculosaという学名が論文で使用されたものであることは確かです。

取り敢えず、データベースに"Euphorbia long"と入れてみます。すると、学名の候補が出てきました。上から、Euphorbia longecornuta、Euphorbia longepetiolata、Euphorbia longeramosa、Euphorbia longetuberculosa…、はいありましたね。どうやら、Euphorbia longituberculosaではなく、Euphorbia longetuberculosaが正しい学名のようです。"longi"ではなく、"longe"でした。
なんでこんなことをしたかと言うと、以前カタカナで書かれた名札がついたユーフォルビアを購入した際、カタカナの名前ではネット検索にすら引っ掛からないので、先ずはスペルを調べるところから始めました。その時の方法がうまくいきました。

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Euphorbia longetuberculosa

しかし、ネット検索では"longi"の方の学名だと沢山ヒットしますが、"longe"の方の学名ではあまりヒットしません。"longi"の学名の方が一般的なようです。しかも、学術論文ですら間違えているとなると、単純な販売業者の記入ミスではないのでしょう。
まあ、論文で誤った学名が使用された挙げ句、その誤った学名が流通してしまった例(Euphorbia venenificaは誤りで、正しくはEuphorbia venefica)もありますから、研究者でも間違うことはあるのでしょう。しかし面白いのは、この論文がKew Bulletinというキュー王立植物園の雑誌で、しかも著者は国立ユーフォルビア協会(IES)の会長であるSusan Carterという事実でしょう。

学名は1862年に記載されたEuphorbia longetuberculosa Hochst. ex Boiss.です。Titymalus braunii Schweinf.という異名もありますが、記載は1863年と1年遅い命名でした。命名規約は命名は早い方が優先しますから、実に惜しかったですね。
命名者はFerdinand von HochstetterとPierre Edmond Boissierです。
E. longetuberculosaはジブチ、エチオピア、ケニア、オマーン、ソマリア、イエメンの原産です。


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冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールの続きです。
会場では、先ずラフレシアリサーチさんを覗いて、変わったユーフォルビアがないかだけチェックしました。1点ものがある場合は急がなくてはなりませんから。しかし、今回はこれと言って琴線に触れるものはありませんでした。流行りのアガヴェも出てましたが、サボテンも結構ありましたね。
お次は秋のビッグバザールで安いユーフォルビア苗を購入したブースへ。相変わらず卓上には大きなコーデックスが並んでいましたね。しかし、私は床に置かれた安い苗しか見ません。今回もユーフォルビアがありました。今回は安いものしか買わないと決めていましたから幾つかはスルーしましたが、3点のユーフォルビア苗を購入しました。ビッグバザールでもユーフォルビアはあまりないこともあり、毎度ユーフォルビアを持ってきてくれて嬉しい限りですね。
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E. モラティー
マダガスカル原産のEuphorbia moratii。塊根性の花キリンです。


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Euphorbia longituberculosa
こちらは何故かデータベースに名前がないユーフォルビアです。海外でもこの名前で流通しているのにどうしてでしょうか? 学名はEuphorbia longituberculosa Hochst. ex Boiss.ということはわかりますが、命名年や記載された論文の情報がありません。海外のサイトではTitymalus brauniiという異名があるとしていますが、こちらは検索しても全くヒットしません。よく分からないですね。
追記 : 本来の学名はE. longetuberculosaみたいです。記事にしました。

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E. ガムケンシス
Euphorbia gamkensisの小さい実生苗。タコものユーフォルビアですが、あまり見かけないユーフォルビアです。過去のビッグバザールでは、それっぽい姿まで生長した苗が万単位で売られていて手が出ませんでしたが、安い苗なら買えます。しかし、こんなに小さい苗は初めて見ました。


次にSucculent connectionさんのブースへ。相変わらず宝石のようなピクタ系交配種が並んでおり、人が途切れない感じでした。前回同様にH. sordidaはありましたが、基本的に軟葉系ハウォルチアですね。
お次は以前にEuphorbia gymnocalycioidesを購入したブースへ。ここは割と変わり種があるので要注意です。今回は初めて見るユーフォルビアがあったので購入しました。

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Euphorbia handiensis
剣光閣という名前もあるようです。多肉ユーフォルビアでは珍しいカナリア諸島原産。艶やかな肌が面白いですね。

最後に毎度お馴染みのRuchiaさんのブースへ。今回は硬葉系ハウォルチアは少な目。冬型、特にケープバルブがかなり豊富でした。秋のビッグバザールでもサボテンがありましたが、今回もありました。天平丸が気になりましたが、南米病が怖くて中々手が出ません。アロエとガステリアを購入しました。
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Aloe descoingsii
最小のアロエと言われることもあるA. descoingsiiですが、あまり見かけません。何故かA. descoingsiiの交配種はよく見かけるのは謎です。


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Gasteria disticha
見た瞬間、飛び上がらんばかりに嬉しかったです。いやぁ、美しいですね。店主も「いいのに気づいたね~。端の方にあったのに。(ニヤリ)」とのことで、入手出来て実にラッキーでした。2鉢しか置いていなかったんですよ。


以上が今回の購入品でした。しかし、なにやら冬のビッグバザールなのに、購入品は冬らしからぬラインナップで申し訳ない感じはあります。
しかし、冬のイベントですし、最近の傾向から見て、私の好みの多肉植物はあまりなさそうな感じでしたが、思いの外面白いものがあって嬉しい限りです。


そういえば、ビッグバザールが開催されるTOCビルが2023年春に解体されるそうです。ということは、今回がTOCで開催される最後のビッグバザールとなりそうです。では、来年はどこで開催されるのでしょうか? あまり交通の便が悪い場所は避けたいのですが、中々難しいでしょうか。五反田は行きやすくて良かったのに残念です。


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今年最後のビッグイベント、冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールが昨日開催されました。私も見物がてら行って参りました。冬は私の好きなユーフォルビアはお休みの季節ですから、何があるのかわかりませんでしたが、イベント好きなので珍しい多肉植物を沢山見てやろうという魂胆です。

先ずは、行く前に方針を決めます。
今年の秋のビッグバザールではメセンがお目見えしていましたが、さすがに冬のビッグバザールではかなり豊富に出ているでしょう。しかし、残念ながら私はメセンを育てるのがどうにも下手なので見るだけです。また、冬
と言えば冬型の多肉植物ですが、私はほとんど冬型は持っていません。いまいち育て方がわからないため、枯らしそうで怖くて手が出ません。しかし、高額な冬型コーデックスは沢山あるでしょうね。おそろしや。
そういえば、去年の冬のビッグバザールではサボテンとパキポディウム苗を購入しました。まあ、パキポディウムはこれ以上集めるつもりはないため、良いギムノカリキウムがあればと思いますが、変わった種類は期待薄でしょう。ラフレシアリサーチさんが変わった輸入品を持ってきてくれることを祈るだけです。
そういえば、秋のビッグバザールではRuchiaさんがギムノカリキウムを幾つか持ってきていましたね。今回あったら買おうかと思います。
さて、私の好きなユーフォルビアですが、毎度ある時はある、ない時はないみたいな感じです。去年の冬のビッグバザールではほとんどない感じでしたが、同じく去年の冬に開催された木更津Cactus & Succulentフェアではまあまあありましたね。今年の秋のビッグバザールでは格安の苗をワゴンセール的な売り方をしていたので、思いもよらず珍しい種類を入手出来ました。
お次はHaworthiopsis、Tulista、Astroloba、Gasteriaあたりですが、秋のビッグバザールでは壊滅的でした。Tulistaで欲しいのはオパリナくらいですが、まあないでしょう。そもそもTulista自体ないでしょうけど。
Astrolobaはあったりなかったりですが、期待はしないことにします。あっても1鉢とかそんなものですからね。
Gasteriaは何故かありません。夏のビッグバザールでは有名なブロガーさんが参戦していて、Gasteriaを複数持ってきてくれていましたから非常にラッキーでした。今回はどうやら出店しないようです。残念。
 Haworthiopsisは秋のビッグバザールでは思わずソルディダが入手出来ました。とはいえ、Haworthiopsis自体は最近のビッグバザールの中でも少ない感じでした。ここはRuchiaさんに期待するしかないのでしょうか? ソルディダを持ってきたSucculent Connectionさんは、10月末に開催されたSucculent Station宮崎台では窓が綺麗な交配系ハウォルチアがメインでした。やはりソルディダはありましたが、それ以外のHaworthiopsisはなかった模様。今回はどうでしょうか? 一応、覗いてみますが…

という、どうでも良い話を考えながらビッグバザールへ向かいます。今年最後のビッグバザールは、普通に寝坊しました。直近の2回のビッグバザールでは開場前に並びましたが、それ以前は昼近くだったので品薄でした。そういうわけで、本当は早く出るつもりでしたが
昨日は終電に飛び乗って帰宅したので、今日はどうにも今一つ調子が良くありません。今回はTOCへの到着は開場後でしたが、まあ9時半くらいですから流石にスカスカのパレットを見るはめにならなくて良かったです。

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TOCビルは早くもクリスマス仕様です。

今回のビッグバザールは全体的には冬型が優勢でした。出店も今年では一番多かったように見受けられ、非常に賑わっていました。
さて、今回はケープバルブの専門店が幾つもありました。見ても詳しくないので正直よくわかりませんが、綺麗な花が咲いていたりして華やかでした。皆さん熱心に選んでいましたから、ケープバルブのファンが沢山おられるようです。あと、メセンも沢山出ていましたが、秋のビッグバザールより少し多いくらいでした。
前回のビッグバザールではアガヴェがあちこちにありましたが、今回も同様です。毎回出店している専門店は相変わらずすごい人だかりで、何が売っているのかもわからない状態でした。他のブースでも、アガヴェの比率は上がっていました。アガヴェ人気はまだしばらくは続きそうです。
そういえばピクタ系などの美しいハウォルチアが最近のイベントでは人気があるようです。今回もカラフルな交配系ハウォルチアには人だかりが出来ていました。最近のビッグバザールではお馴染みのパキポディウム苗は今回は減少傾向でした。冬だからという部分もあるのかもしれませんが、去年の冬よりも減っており、扱うブースも減りました。流行り廃りを実感します。まあ、アガヴェに喰われたのでしょう。
とまあ、傾向としてはこんなところです。しかし、私は流行りどころには縁がないため、残念ながらこれらは見るだけです。

ところで、自宅の置き場しに困るようになってきたこともあり、闇雲に多肉植物を増やすのは如何なものかと最近では少し考えたりもしました。というわけで、今回は安いものだけ、上限を3000円に設定しました。ビッグバザールの多肉植物は万単位のものも普通ですから、ほとんどは見るだけになります。といいつつ、安い苗を沢山買ってしまい、結局は増えてしまい同じことでしたが…。まあ、お財布には少し優しいかもしれませんけど。

それでは、購入品のご紹介といきましょう。
まず、会場の入り口でアロエを沢山並べているブースがありました。珍しい種類が沢山あったのですが、根がない状態で置かれていました。輸入品でしょうかね。見たことがない珍品があって面白く見ました。しかし、購入品は根があるやつにしました。こちらのほうがお安かったので。
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Aloe aristata
綾錦と呼ばれています。現在はAristaloe aristataとなり、アロエ属ではなくなりました。
しかし、私の所有している綾錦はもっとアロエ感が強いのですが、野生株の写真を見ると意外とアロエ感が薄いのが気になっていました。ハウォルチアとの交配種もあると聞いていましたから、ハウォルチアに似ていない私の所有株が純粋な綾錦だと勘違いしておりました。じゃあ何かと言われると困ります。図鑑だと私の所有株にも綾錦と書いてあったりしますが…


記事が長くなってしまったので、記事を分けます。続きは明日です。

続きはこちらの記事です。


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フロリダソテツあるいはフロリダザミアは名前の通りフロリダに分布するソテツです。一般的にはZamia floridanaの学名で苗が販売されています。しかし、現在のところ学術的に認められているフロリダソテツの学名はZamia integrifoliaです。これはイギリス王立植物園のデータベースを根拠としています。そして、私もことあるごとにそう主張してきました。ただし、そう言うのもイギリス王立植物園がそう主張しているからというだけではなく、ちゃんとその理由もあります。それは、国際命名規約にある、先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」をもとにしています。
簡単に結論だけまとめると、Z. floridanaの命名よりZ. integrifoliaの命名の方が早いというだけの話です。しかし、このことについて過去に疑義が提出されていることに気が付きました。しかも、その疑義に対する回答を提案している論文まで見つけました。果たして、一体何が問題だったのでしょうか? また、それに対する回答案とはどのようなものだったのでしょうか?

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Zamia floridanaか?Zamia integrifoliaか?

先ずは、Z. integrifoliaに対する疑義を提出した2009年のDaniel B. Wardの論文、『ZAMIA FLORIDANA (ZAMIACEAE), THE CORRECT NAME OF THE FLORIDA CYCAD』を見てみましょう。

著者は主張するところによると、Zamia integrifoliaはZamia pumilaの同義語として引用されたため違法な学名であり、Zamia floridanaが正しい学名であるとしています。ことの経緯を説明しましょう。
論文では解説もされず詳細は不明ですが、ニュアンス的にどうやらZ. integrifoliaはZ. pumilaと混同されてきたようです。Stevensonの1987年、1991年の西インド諸島のソテツのレビューでは6種類が区別されており、Z. integrifoliaの学名を採用しているようです。また、Landryの1993年の論文でもZ. integrifoliaの学名をを採用し、Z. pumilaと区別しました。

ここからは、話が少しややこしくなるため、論文の内容に進む前にフロリダソテツの学名について少しまとめます。
フロリダソテツが初めて記載されたのは、1789年のことです。記載はWilliam Aitonによるものです。著者が主張するZ. floridanaは1868年にA. DeCandolleにより記載されました。命名には79年の差があります。

Zamia integrifolia L. f., 1789
Zamia floridana A. DC., 1868

Z. integrifoliaを命名したのは現在の学名のシステムを考案したCarl von Linneの息子のLinne filiusです。この"filius"は名前ではなくて息子という意味ですから、"Linne filius"は「リンネの息子」という意味です。実は親子で同じ名前なのでこのような表現となっています。

さて、論文の内容に戻ります。
どうやら著者はZ. integrifolia=Z. pumilaと捉えているようで、Linne filiusがZ. integrifoliaについて同義語であるZ. pumilaを引用している誤りを犯しているといいます。詳しい経過を追って見てみましょう。
1763年にCarl von LinneがZ. pumilaを命名しました。Linneはラテン語の"Spadix more fructus Cupressi divisus in floscules"という語句を付けました。ラテン語はわからないのですが、「小さく分割された肉質花序、ヒノキより大きい球果」という意味でしょうか?
一方、Linne filiusは父親とは独立してZamiaを研究したようです。Linne filiusはロンドンでWilliam Aitonと仕事をし、執筆の手伝いもしました。Z. integrifoliaが初めて公表されたAitonの1789年の出版「Iortus Kewemis」では、Zamiaの説明はLinne filiusによるものです。Linne filiusはZ. integlifoliaにラテン語で"foliolis subintegerrimis obtusiusciilis miidcis rectis nitidis, stipites inermi"と記しました。ここで重要なのは、"stipites inermi"=「除外された異名」です。Linne filiusはZ. pumilaのみを参照として引用し、これを「除外された異名」と述べました。この除外された異名という文言がフロリダソテツの命名に関する不確実性の起源であると著者は述べています。
著者はフロリダソテツの命名に関する質疑応答を、国際命名規約の特派員とメールでやり取りしました。このあたりのやり取りは、規約に関する話ですから、私にはよく理解できない部分もあります。 しかし、内容的には、Linne filiusの「除外された異名」というワードについての議論が重要なようです。

ここで、また一旦立ち止まってデータベースの資料を漁ってみます。Aitonの1789年の書籍でLinne filiusはZ. integlifolia、Z. furfuracea、Z. debilisを命名しましたが、これらはZ. pumilaから分離されたものかもしれません。ちなみに、この内Z. debilisは現在ではZ. pumilaの異名とされています。


論文の内容に戻ります。どうやら、Linne filiusはZ. pumilaに複数の種が含まれていると考えていたようです。そして、著者はZ. integlifoliaからZ. pumilaが完全に除外出来ていないと考えているようです。しかし、特派員は除外出来ていると捉えており、Z. integlifoliaを異名とすることに慎重な姿勢です。

以上が論文の簡単な要約となります。国際命名規約の特派員とのやりとりは、実際には規約を巡る長い応報や、Linneが実際に植物を見たどうかといった細かい話が長々と続きますが、詳細は割愛させていただきました。最後に著者は、Z. integlifoliaを廃した場合でも、Z. floridana以外の命名もされているため注意が必要であるとして締めています。

長くなりましたが、続いてDaniel B. Wardの主張に対する返答をお示ししましょう。2011年のDennis W. Stevenson & James L. Revealの『(2004) Proposal to conserve the name Zamia integrifolia (Cycadaceae) with conserved type』という論文です。

この論文はZ. integlifoliaからZ. pumilaが排除出来ていることを示しています。特にLinne filiusの「除外された異名」というワードに対して、これをZ. pumilaと分ける重要な情報と捉えているようです。しかし、著者はWardの意見を尊重し、解釈の検討を提案しています。ただし、著者はZ. integlifoliaが長く使用された一般的な名前であり、保存されるべきであると考えています。
もし、Z. integlifoliaが廃された場合、Z. floridanaではなく、Z. media、Z. tenuis、Z. dentataといった学名が優先される可能性があります。しかし、最も古く一般的に使用されるZ. integlifoliaという名前を保存する事により、命名法上の安定性が最大となるとしています。

さて、論文の内容は以上ですが、解説が必要でしょう。実はZ. floridanaの命名より前に幾つかの学名が提案されています。以下に示します。2本目の論文にも出てきたZ. mediaやZ. tenuisがあります。Encephalartos pruniferは関係なさそうですが、Z. integlifoliaと同じ植物に対して命名されているため、この学名も候補です。その場合、Zamia pruniferという名前に変更されます。現在命名されているZamiaの学名と被らなければ有効でしょう。
Zamia integrifolia L. f., 1789
Zamia media Jacq., 1798
Zamia tenuis Willd., 1806
Encephalartos prunifer Sweet, 1839
Zamia floridana A. DC., 1868
 
ちなみに、論文に出てきたZ. dentataは、現在ではZ. pumilaの異名とされているようです。ですから、Z. integlifoliaの代わりにはなりません。
Zamia pumila L., 1763
Zamia dentata Voigt, 1828


さて、現在の学名はどうなっているのかというと、イギリス王立植物園のデータベースでは、Z. floridanaではなくZ. integlifoliaが正式な学名とされています。しかし、注意が必要なのは、学名の後ろに"nom.cons."という表記があることです。
nom.cons.とはラテン語でnomen conservandumの略で、英訳するとconserved nameで、いわゆる保存名(保留名)のことです。保存名とは命名規約によると「広く使用される名前が先取権によりsynonym(異名)として処理されると学名が混乱する場合」に適応される名前です。この場合は、学名がZ. integlifoliaではなくZ. mediaやZ. tenuisとされた場合に混乱が生じかねないとの判断でしょう。

Z. integlifoliaはどうやら、海外でも園芸的にはZ. floridanaの名前で流通しており、それは日本でも同じです。おそらくは、輸入種子もZ. floridanaの名前で輸入されているのでしょう。論文でもZ. integlifoliaとZ. floridanaが混雑しており、好ましいとは言えない状況です。しかし、Z. integlifoliaには疑義があったとしても、Z. floridanaは「流通している名前である」こと以外に使用される必然性がありません。しかし、命名規約上は「先取権の原理」が優先事項ですから、Z. floridanaが今後、正式な学名として採用される可能性は基本的にないと言えます。


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ソテツは起源の古い植物で、同じ裸子植物であるイチョウとともに生きた化石と呼ばれることがあります。このソテツの分類ははっきりせず、図鑑ごとに違ったりもします。細かく分類を分ける場合もありますが、最近は日本のソテツ(蘇鉄)を含むCycas属をソテツ科、Cycas属以外のZamia属などをザミア科とする分類方法もあります。
さて、それでは遺伝的にはどのように分類されるのでしょうか? また、ソテツにはCycas、Zamia、Encephalartos、Macrozamia、Dioon、Stangeriaなど沢山の属がありますが、それぞれの関係性はどのようになっているのでしょう?
本日ご紹介するのは、ソテツの遺伝子を解析して系統関係を探ったK. D. Hill, M. W. Chase, D. W. Stevenson, H. D. Hills & B. Schutzmanによる2003年の論文、『THE FAMILIES AND GENERA OF CYCAD : A MOLECULAR PHYLOGENETIC ANALYSIS OF CYCADOPHYTA BASED ON NUCLEAR AND PLASTID DNA SEQUENCES』です。

論文ではまずソテツについての経緯を示しています。現在の学名のシステムを作ったLinneは、Cycas circinalisとZamia pumilaを記載しましたが、その後は調査の進展により1800年までに7種、1850年までに33種、1900年までに85種が記載されました。 ソテツはソテツ目という単一の目にすべて含まれ、(この論文が書かれた2003年の時点で)3~5科、10~12属、約300種とされています。
分類は変遷を繰り返してきました。ソテツは1789年にde Jussieuによりシダとされましたが、1809年にRichardによりシダとヤシの間にある分類群とされました。1827年のBrownと1829年のBrongniartにより針葉樹との類似性が観察され、これが1830年のLindleyや1843年のLehmannによりより高次の分類群の確立に繋がりました。1837年にRichenbachによりソテツ科からザミア科を分離しましたが、当時は受け入れられなかったようです。1868年にde Candolleはすべてのソテツを1科にまとめました。1959年および1961年にJohnsonはStangeria科を創設し、ソテツ科、ザミア科とあわせて3科とし、後続の研究者もこれに従いました。1981年にStevensonはBowenia科を創設し、StangeriaとBoweniaの間に関連性があるとしました。
その後、1990年にChigua、1998年にEpicycasが新たに記載され、その分類については議論の余地があります。

ソテツ目の分子系統
                                        Bowenia
                                ┏━B. serrulata
                ┏━━━┫
                ┃            ┗━B. spectabilis
                ┃                    Encephalartos
                ┃        ┏━━E. leavifolius
                ┃        ┃
                ┃    ┏┫┏━E. ghellinkii
                ┃    ┃┗┫
            ┏┫    ┃    ┗━E. arenarius
            ┃┃┏┫            Lepidozamia
            ┃┃┃┃    ┏━L. hopei
            ┃┃┃┗━┫
            ┃┃┃        ┗━L. peroffskyana
            ┃┃┃                Macrozamia
        ┏┫┃┃            ┏M. moorei
        ┃┃┗┫        ┏┫
        ┃┃    ┃        ┃┗M. communis
        ┃┃    ┃    ┏┫
        ┃┃    ┃    ┃┗━M. elegans
        ┃┃    ┃┏┫
        ┃┃    ┃┃┗━━M. pauliguilielmi
        ┃┃    ┗┫
        ┃┃        ┗━━━M. fraseri
        ┃┃                        Dioon
        ┃┃                ┏━D. edule
    ┏┫┗━━━━┫
    ┃┃                    ┗━D. tomasellii
    ┃┃                           Ceratozamia
    ┃┃                        ┏━C. miqueliana
    ┃┃┏━━━━━┫
    ┃┃┃                    ┗━C. norstogii
    ┃┃┃                       Chigua
    ┃┃┃            ┏━━━C. restrepoi
    ┃┃┃            ┃       Zamia
    ┃┃┃        ┏┫    ┏━Z. lindenii
┏┫┗┫        ┃┗━┫
┃┃    ┃        ┃        ┗━Z. skinneri
┃┃    ┃    ┏┫
┃┃    ┃    ┃┃        ┏━Z. floridana
┃┃    ┃    ┃┗━━┫
┃┃    ┃┏┫            ┗━Z. pseudo
┃┃    ┃┃┃                     parasitica
┃┃    ┃┃┃
┃┃    ┗┫┗━━━━━Z. paucijuga
┫┃        ┃                   Microcycas
┃┃        ┗━━━━━━M. calocoma
┃┃                               Stangeria
┃┗━━━━━━━━━S. eriopus
┃                                   Cycas
┃                                ┏━C. circinalis
┃                        ┏━┫
┃                        ┃    ┗━C. furfuracea
┗━━━━━━┫
                            ┃    ┏━C. revoluta
                            ┗━┫Epicycas
                                    ┗━E. miquelii


上に示しました分子系統を見ますと、Chigua属はZamia属に、Epicycas属はCycas属に含まれるということです。
①Cycas属
Cycas属は分岐の根元にあり、他のソテツから離れています。分類学的にはCycasとその他のソテツという分け方が妥当かもしれません。Cycas属はインド洋から南アジア、東南アジア、東アジア、ニューギニア島を含まないオセアニアの島嶼部に分布します。

②Stangeria属
Stangeria属はCycasの後に分岐したグループです。しかし、Bowenia属はBowenia属との類似性をStevensonに指摘されていましたが、遺伝子解析ではStangeria属に近縁ではありませんでした。Stangeria属はアフリカに分布します。

③オーストラリアのソテツ
Macrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属は南半球Cladeです。形態学により指摘されてきたLepidozamia属とMacrozamia属の近縁性より、Lepidozamia属とEncephalartos属の方が近縁でした。ただし、Macrozamia属とLepidozamia属はオーストラリアに分布し、Encephalartos属はアフリカに分布します。Encephalartos属は地理的にはかなりの距離がありますから、系統関係にはやや疑問があります。

④アメリカ大陸のソテツ
Microcycas属はZamia属の姉妹群ですが、Ceratozamia属はMicrocycas属+Zamia属の明確な姉妹群ではありませんが、分析結果では他の属よりは近縁なようです。しかし、形態学的な系統関係の想定よりも、Ceratozamia属はMicrocycas属+Zamia属と遺伝的な違いは大きいようです。しかし、Ceratozamia属、Microcycas属、Zamia属はすべて中央アメリカ周辺に分布します。

⑤Bowenia属、Dioon属
Bowenia属はオーストラリアに分布し、③のMacrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属に関連性があります。Dioon属はアメリカ大陸に分布しますが、Bowenia属を含むグループの姉妹群としました。
しかし、著者はBowenia属、Stangeria属、Dioon属は、遺伝子解析でもややあやふやな部分があるため、さらなる解析が必要であるとしています。


分かりにくいのでまとめます。

            ┏━━Bowenia
            ┃       (オーストラリア)
        ┏┫    ┏Encephalartos
        ┃┃┏┫(アフリカ大陸)
        ┃┃┃┗Lepidozamia
        ┃┗┫    (オーストラリア)
        ┃    ┗━Macrozamia
        ┃            (オーストラリア)
        ┣━━━Dioon
    ┏┫            (アメリカ大陸)
    ┃┃     ┏━Ceratozamia
    ┃┃     ┃   (アメリカ大陸)
    ┃┗ ━┫┏Microcycas
┏┫         ┗┫(アメリカ大陸)
┃┃             ┗Zamia
┃┃                 (アメリカ大陸)
┫┗━━━━Stangeria
┃                     (アフリカ大陸)
┗━━━━━Cycas
                         (アジアなど)


以上が論文の簡単な要約です。ここからは、私の軽い感想を述べます。
ソテツ目の中で最も祖先的なのはCycas属で、おそらくは熱帯アジアが起源なのでしょう。もちろん、もともと広く地域に分布していて、やがて分布域が減少して残ったのが現在の分布である可能性はあります。化石記録については知らないので、なんとも言えません。
Cycas属の次に現れるStangeria属はアフリカ大陸原産ですが、Cycas属がマダガスカルまで到達していることを考えたらそこまで奇妙な結果ではないのかもしれません。
ここからは2~3グループに別れます。まず、アメリカ大陸に分布するCeratozamia属、Microcycas属、Zamia属は近縁です。アフリカ原産のStangeria属からどのように伝播したのでしょうか。南アメリカ東岸とアフリカ大陸西岸はパズルのようにピッタリ合わせられることが知られていますが、両者はもともと1つでした。ですから、大陸が分離する前にStangeria属あるいはStangeria属の祖先が広く分布しており、分離後にアメリカ大陸で
Ceratozamia属、Microcycas属、Zamia属が進化したのかもしれません。
Dioon属はやや立ち位置が微妙なのでグループを分けました。Dioonも他のアメリカ大陸原産属と同じように進化したのでしょう。
最後にMacrozamia属、
Lepidozamia属、Encephalartos属、Bowenia属ですが、Lepidozamia属、Bowenia属はオーストラリアに分布していますから、近縁なのも分かります。しかし、Encephalartos属がアフリカ原産なのはなぜでしょうか? しかも都合の悪いことに、Bowenia → Macrozamia → Lepidozamia・Encephalartosのように見えますから、まるでオーストラリアからアフリカに派生したかのようです。おそらくは、オーストラリアとアフリカ大陸が1つだった時代の共通祖先が2つに別れたのかもしれませんが判然としません。
どうにもあやふやな部分や伝播が気になります。後続の研究がないか調べてみます。


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ユーフォルビアが好きでチマチマ集めていますが、一鉢一鉢をじっくり見る機会も少なく、いつの間にか育っていたりします。私は基本的に放任栽培で、週1回の水やり以外なにもしません。寒くなってきて多肉植物たちを室内に取り込みましたから、ここぞとばかりにじっくり観察しています。購入時に撮影した画像があったので、生長の具合を比べて見ました。

DSC_0111
2020年2月、鶴仙園西武池袋店にて購入。
墨キリン Euphorbia canariensis
多肉ユーフォルビアでは珍しいカナリア諸島原産。多肉ユーフォルビアは南アフリカからアフリカ東側が多く、北西部の原産種は少ないですよね。とはいえ、墨キリンは普及品ですから国内では珍しくありませんが。


DSC_1889
現在の墨キリン。すっかり大きくなりました。姿が乱れにくいことが墨キリンの特徴です。しかし、渋い色合いです。

DSC_0045
2020年1月、コーナン港北インター店にて購入。
勇猛閣 Euphorbia ferox
トゲが強いユーフォルビアです。普及種ですが美しい種類。しかし、普及種ゆえ軽視されているのか、あまり育てている人の報告を聞かないことは少し残念です。


DSC_1662
現在の勇猛閣。トゲも強さを増し、枝も増えて良い仕上がりです。ちゃんと育てれば普及種だって良いものはあります。

DSC_0014
2020年1月、オザキフラワーパークにて購入。
白樺キリン Euphorbia mammillaris cv.
鱗宝の斑入り品種。ミルクトロンの名前で販売されています。ご覧の通り小さいミニ多肉でした。

DSC_1898
現在の白樺キリン。だいぶ育ちました。白樺キリンにしてはまあまあ太く育ったのではないでしょうか? これだけ斑が入っているにも関わらず、強光に強いので遮光しません。ヒョロヒョロした姿には育てたくありませんからね。

DSC_0203
2020年3月、コーナン港北インター店にて購入。
Euphorbia 
 submamillaris f.pfersdorfii
ホームセンターの環境では限界といった雰囲気でした。

DSC_1974
現在のプフェルスドルフィイ。
すっかり生長して復活しました。下部はかさぶた状でこれ以上は太らないので、ある程度伸びたら切り返して挿し木しますかね。仕立て直しです。


DSC_0406
2020年6月、鶴仙園西武池袋店にて購入。
Euphorbia tulearensis
葉が少なく、薄く縮れが弱い感じです。


DSC_1849
現在のトゥレアレンシス。葉の枚数が増えて、厚みを増し縮れが激しくなっています。枝を伸ばさないで、こんもりと育てたいものです。

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2020年6月、鶴仙園西武池袋店
貴青玉錦 Euphorbia meloformis cv.
非常に美しい斑入り。すごい珍しいというわけでもないのに、非常にお高いユーフォルビアです。


DSC_1661
現在の貴青玉錦。子を吹きました。だいぶ大きくなっときたので、子ははずしても良いかもしれません。非常に丈夫です。

DSC_0012
2020年1月、オザキフラワーパーク
紅彩ホリダ E. heptagona × E. horrida
ホリダと紅彩閣の交配種。ミニ多肉として苗を購入しました。


DSC_1917
現在の紅彩ホリダ。太く育ちましたが、子に埋もれ勝ちになっています。

いやぁ、だいぶ育ちましたね。せいぜい2年くらいですから、たいしたことはありませんが…
ただ大きくするだけではなく、そろそろ仕立て直し必要があるかもしれませんね。



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Gasteria baylissianaは群生する小型のガステリアです。学名は1977年にRauhにより記載されました。しかし、このG. baylissianaの発見と命名には多少の前日譚があるようです。 そのことについて書かれたGideon F. Smith, Elsie M. A. Steyn & E. van Wykによる1999年の報告書、『359. GASTERIA BAYLISSIANA』をご紹介します。

DSC_1954
Gasteria baylissiana

Gasteria baylissianaは1960年にJohn Truterにより発見されました。Truterは南アフリカの東ケープ州、Suurberg山脈近くの農家で、多肉植物愛好家でした。Truterは偶然Suurbergの斜面でG. baylissianaを見つけ、Brand van Bredeに識別のために送りましたが、残念ながら命名はなされませんでした。
1965年に熱心な植物探検家のRoy Douglas Abott Bayliss大佐は、Suurberg付近で10種類ほどの植物を採集しました。1972年頃、Bayliss大佐は生きた植物をドイツのWerner Rauhに送りました。この中にG. baylissianaが含まれており、1977年に正式に記載され、Bayliss大佐にちなんでGasteria baylissiana Rauhと命名されました。

ガステリア属は著者曰く「分類学者の悪夢」と言わしめるほどの混乱ぶりで、一握りの種類に対して100以上の学名がつけられていました。しかし、南アフリカの植物学者であるErnst van Jaarsveldにより、1992年にガステリア属の概要についての出版がなされ、以降はvan Jaarsveldによりガステリア属の整理が行われました。

G. baylissianaはBayliss大佐の努力により栽培法は確立されましたが、Suurbergでは野生個体は非常に稀となりました。van JaarsveldはTruterの助けを借りて、1986年にSuurbergでG. baylissianaを4個体採集しました。van Jaarsveldは採集した4個体とBayliss採集個体の子孫を組み合わせて他家受粉による種子を取ることに成功しました。最終的に英国のサボテン・多肉植物協会(BCSS)による援助により、1993年にvan JaarsveldはG. baylissianaの自生地に210個体の繁殖したG. baylissianaを移植しました。

G. baylissianaは9~11月(春~初夏)に開花し、10月にピークを迎えます。
G. baylissianaは種子、挿し木、葉からでも簡単に増やすことが出来ます。葉は1週間ほどで容易に発根します。
G. baylissianaは非常に干魃に強いにも関わらず、日陰を好みます。


以上が簡単な要約となります。
Gasteria baylissianaの命名にもそれなりのドラマがありました。発見されたものの命名されず、17年後に第一発見者ではない採集個体から命名されるという数奇な運命をたどりました。また、自生地の野生個体の減少から、研究者自らG. baylissianaの保護が行われたことも印象的です。G. baylissianaの保護のための援助を行った英国のサボテン・多肉植物協会(BCSS)は、趣味家を対象とした民間団体ですから、イギリスは趣味家の力が強いですね。見習いたものです。



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Dioon spinulosumは最近販売されるようになったソテツの仲間です。種子のついた苗をたまに園芸店で見かけます。私も苗を園芸店で購入しましたが、以前にD. spinulosumについての記事を書いた際、意外と情報がないことに気が付きました。

とりあえず、D. spinulosumが命名された1883年の論文を探してみましたが、残念ながら見つかりませんでした。まあ、140年近く前の古い論文ですから仕方がないことです。しかし、代わりに1909年に書かれたD. spinulosumについての論文を見つけました。Charles J. Chamberlainの『Dioon spinulosum』です。いや、こちらも100年以上前の古い論文ですけどね。
論文を読むと、当時はDioonはまだ3種類しか見つかっていなかったようです。D. edule、D. spinulosum、D. purpusiiですが、D. purpusiiはほんの数ヶ月前に記載されたばかりで、D. eduleとよく似ていたために間違われてきたとあります。

論文の中では1883年のDioon spinulosumを公表したEichlerの記述について書かれております。しかし、どうやら記載時のD. spinulosumの葉は最大65cmしかないため、まだ若い苗だったのかもしれません。D. spinulosumはメキシコのVera Cruz州Cordobaの苗床由来で、そこのガーデナーによるとTuxtla近くに自生しているとのことです。ただ、この時は球果が見つからなかったので、Dioonであるか疑わしいと思われるかもしれないとEichlerは述べています。
D. spinulosumははじめはDyerにより発見されたようで、産地はProgresoとされています。おそらくは栽培された個体から標本が作られたようです。

補足 : この時(1909年)の学名はDioon spinulosum Dyerとされていることから、EichlerはD. spinulosumをはじめて記載したのはDyerだと考えていたようです。しかし、現在ではDioon spinulosum Dyer ex Eichlerとなっていることから、どうやらDyerの記述は学名を命名する際の要件を満たしていなかったのでしょう。それを、Eichlerが正式に記載したという形になっています。

著者は1906年のメキシコへの旅行中、Vera Cruzの公園でD. spinulosumの小さな個体を見つけましたが、野生個体であるかはわかりませんでした。州捜査局のAlexander M. GawはそのD. spinulosumがVera Cruzの南東部の町Tlacotalpamに由来していることを突き止めました。また、ほとんどの人がD. spinulosumとD. eduleを区別していないことにも気が付きました。

1908年に著者はD. spinulosumを採集するためにメキシコ南部を訪れました。Tuxtepecに向かう途中のTierra Blanca付近でD. spinulosumを沢山見かけるらしく、実際にTierra Blancaの西部と少し北にある山でD. spinulosumを見つけました。南に行くほど沢山生えているという情報があり、実際にTierra Blancaから離れ、Vera Cruzの南約60マイルには非常に豊富で巨大なD. spinulosumが見られました。土地は石灰岩地でD. spinulosumは日陰を好むようです。

Tierra Blancaの南西部約40マイルのPapaloapam川沿いの町Tuxtepecから、半日ほど馬に乗ると豊富なD. spinulosumがある山に着きました。場所によってはD. spinulosumが唯一の大型植物であり、Dioonの森と言っても過言ではありませんでした。今回の調査では高さ12mのD. spinulosumを発見しましたが、BarnesとLandは著者の数ヶ月後にTierra Blancaを訪れ高さ16mのD. spinulosumを発見したということです。著者は、「細い幹と優雅な曲線を描く葉は、Dioon eduleのずんぐりした幹と堅くまっすぐ上の伸びる葉とは対照的」と称します。
DSC_1964
Dioon spinulosum
(1909, C. J. Chamberlain)


幹の表面の畝模様は樹冠により形成されるため、樹齢を推測する根拠となります。これは、D. eduleは明瞭で樹冠が2年持つことがすでに明らかであるため、幹を見ればD. eduleの樹齢がわかるというものです。しかし、D. spinulosumは幹の表面の畝模様が不明瞭でありそもそもはっきりしないだけではなく、D. eduleのように樹冠が2年持つのか不明ですから、D. spinulosumの樹齢の根拠にはならないかもしれません。それでも、D. eduleよりもD. spinulosumは生長が早い可能性があり、最大個体でも樹齢400年は超えないのではないかと著者は考えております。著者はD. spinulosumの10mの個体は、D. eduleの1mの個体より若いのではないかと感じているようです。

D. spinulosumは急峻な崖地に生えるものは、根が岩に沿って垂れ下がり、12m以上地上に露出することもあります。
幹はD. eduleほど硬くないとのことです。
Eichlerの観察では長さ65cmの葉では小葉は片側で38枚、Dyerの観察では1mの葉で小葉は片側で70枚でした。高さ2m以上で葉のサイズは最大になりますが、フルサイズの葉は2.2mとなり片側117枚の小葉があります。
DSC_1965
Dioon spinulosumの小葉とトゲ
(1909, C. J. Chamberlain)

DSC_1971
我が家のDioon spinulosum
小葉はまだ片側17枚に過ぎません。


_20221115_144233
Dioon spinulosumの巨大な球果
(1909, B. J. Chamberlain)
球果は裸子植物最大で、3月頃に最大15kgに達します。

以上が論文の簡単な要約となります。まだ、Dioon spinulosumの報告から年月が経っていないこともあり、著者も確かめながらの探索的な内容となっています。「半日馬に乗って」という表現を見ると、そのような時代の論文かと改めて思いました。しかし、このような古い論文が残っていること、さらにはPDF化して保存と公開をしてくれた方には多大な感謝を述べなくてはならないでしょう。


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Uncarinaというマダガスカル島原産の塊根植物が最近販売されるようになりました。Uncarinaはゴマ科の植物で、多くの種類は黄色い花を咲かせます。趣味の園芸の「多肉植物 コーデックス」の巻を購入して読んでいたところ、Uncarinaの交配と採種についての解説があり、初めてUncarinaの不思議な形の果実を知りました。



本の写真ではUncarinaの果実は、返しのついたトゲだらけのやたらに攻撃的なフォルムでした。なぜ、Uncarinaはこのようなトゲだらけの果実を持っているのでしょうか?
一般的に 果実や種子のトゲは動物の毛に付着して運ばれるためにあります。私も子供のころは、オナモミやヌスビトハギの種子が知らない間に服に付いていたこともありました。では、Uncarinaの果実を運ぶ動物はなんでしょうか? この疑問に答える論文が見つかりました。それが、2009年のJeremy J. Midgley & Nicola Illingの『Were Malagasy Uncarina fruits dispersed by the extinct elephant bird?』です。

トゲに被われた果実や種子は2種類あり、体毛に付着する粘着イガと、踏みつけることにより蹄や足に刺さる踏みつけイガとがあります。昔私の服についたオナモミは粘着イガでしょう。では、踏みつけイガとはどういうものでしょうか。知られている例では、Uncarinaに近縁とされるHarpagophytumの果実があります。HarpagophytumはUncarinaとよく似た果実を持ち、その特徴から果実はライオンゴロシ、英語で"devils claw"と呼ばれます。Harpagophytumの果実はダチョウに踏まれてその足につき、ダチョウが走る度に少しずつ壊れて、種子が少しずつこぼれていくそうです。Harpagophytumの果実は丈夫なため、ダチョウの踏みつけがないと種子が出てきません。

実際のUncarinaの果実を観察してみましょう。Uncarinaの果実は熟すと地面に落ちますが、ここが重要です。普通、動物の毛に付着する場合は、地面ではなくてある程度高い場所、つまりは生った状態が好ましいはずです。その場合は植物の近くを動物が通って体が植物に触れれば、果実が自然と付着するはずです。しかし、果実が地面に落ちた場合、踏まれることはあったとしても、自然と毛に付着するのは難しいのではないでしょうか。
また、著者はUncarinaのトゲが大きくてトゲ同士が離れすぎているため、毛に付着するのは難しいのではないかと推察しています。実際に毛に付着する果実や種子は、トゲは小さくてトゲに生えるさらに細かいトゲや毛があるといいます。しかし、Uncarinaの種子は無毛です。
これらの情報から、Uncarinaは粘着イガではないと考えられるのです。

Uncarinaの果実は踏みつけイガである可能性が高いとして、想定される動物像はどんなものでしょうか。まずは、頑丈なUncarinaの果実を破壊できる体重がないといけません。想定される動物は、ある程度大型である必要があります。
現在、マダガスカル島に生息する動物で可能性があるのはキツネザルだけですが、最大のキツネザルであるインドリ(Indri indri)は6~7kgで体重が軽すぎます。大型キツネザルとしては、紀元前に絶滅したArchaeoindris fontoynontiiはゴリラサイズで、体重は200kgに達したと考えられています。ただし、キツネザルは足の裏が柔らかいので、Uncarinaの種子を踏むつけても大丈夫な硬さはないと考えられます。そして、硬い足の裏で踏みつけて、果実が壊されなくてはならないことも重要です。また、巨大キツネザルの化石はUncarinaの分布域からは発見されていません。

著者はUncarinaの果実を運んだのは、"elephant bird"ではないかと考えています。では、
"elephant bird"とはなんでしょうか? 直訳だと「象の鳥」ですが、これは調べてみるとエピオルニス(Aepyornis)という絶滅した鳥のことでした。エピオルニスは高さ3~4m、体重400~500kgになる巨大な飛べない鳥でした。17世紀までは生存していた可能性があるようです。Harpagophytumとダチョウの関係のように、Uncarinaの果実を踏みつけて運んだ可能性があるのはエピオルニスしか候補がありません。

類似した果実を持つUncarinaとHarpagophytumは、ともに巨鳥による踏みつけイガによる種子の分散がおきます。しかし、Harpagophytumはアフリカ大陸原産で、しかもマダガスカルに近いアフリカ東岸には分布しておりません。ですから、踏みつけイガを持つUncarinaとHarpagophytumの共通祖先がアフリカ大陸とマダガスカルに拡散し、アフリカ大陸ではHarpagophytum、マダガスカルではUncarinaに進化したという筋書きは難しいかもしれません。むしろ、アフリカ大陸とマダガスカルで、それぞれ個別に踏みつけイガを進化させただけかもしれません。このように、別々に同じ機能を獲得した場合の進化を、一般に収斂進化と呼びます。

また、Uncarinaは種類によってトゲのサイズが異なります。問題となるのは、Uncarina  leandriiの極端に短いトゲです。7.5mm以下という短さですから、エピオルニスをターゲットとした可能性は低そうです。おそらくは、絶滅したゾウガメにより運ばれた可能性を著者は指摘しています。

というわけで、Uncarinaの種子をばらまく可能性が高い動物はエピオルニスやゾウガメなど、絶滅してしまっていることが明らかになりました。踏みつけ果実は踏みつけられないと頑丈な果実が壊れずに種子がこぼれないため、そもそも種子は発芽しません。運搬者がいないと繁殖が出来ませんから、将来的に絶滅する可能性があります。確かに、Uncarinaの野生個体はそのほとんどが大型個体に片寄っています。しかし、地域によっては、小型の若いUncarinaも確認されています。エピオルニスは絶滅したのにどうしてでしょうか。
わかったこととして、若いUncarinaが見られる地域では、大型のUncarinaは家畜の通り道沿いに点在していることです。そして、牛がUncarinaの果実を踏みつけて運んでいるらしいことがわかりました。自然環境が保全されている地域では果実の運搬者がいないために増えることができず、開発されている撹乱した環境では増えることができるという皮肉な状況と言えます。

以上が論文の簡単な要約となります。
UncarinaとHarpagophytumの収斂進化は、たまたま似ていただけだという結論は、やや唐突な感じがします。しかし、UncarinaとHarpagophytumは近縁ですから、元々果実にトゲなどの装飾が発達しやすい下地は共通していたのかもしれません。そして、巨大な鳥が生息する環境も共通しています。収斂する要素はそれなりにあるのでしょう。
しかし、人の手が入ったことにより個体数を増やすことが可能となった珍しい例です。しかし、農業や牧畜、さらには資源開発が進めば、Uncarinaが育つこともやがて難しくなるでしょう。そもそも、エピオルニスが絶滅したのは人が原因なのですから、Uncarinaからしたら今さらありがたい話でもないでしょうけどね。


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昨日はアロエ類の蜜の組成について記事にしましたが、今日はその続きです。具体的には1993年のNectar Sugar Composition in Subfamily Alooideae (Asphodelaceae)』と、一部は2001年のInfrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』のデータをご紹介します。
まずは近年のアロエ類の遺伝子解析の結果を示します。今回の論文は遺伝子解析前のものなので、古い分類となっています。私の記事では気が付いたものは最新の分類に修正しています。


分子系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

論文では蜜に含まれる糖の組成を解析しています。【Fructose, Glucose, Sucrose】の順番に糖の比率を示しています。Fructoseは果糖、Glucoseはブドウ糖、Sucroseはショ糖のことです。
分子系統に示された分類群を、上から順番に見ていきましょう。

Astroloba、Aristaloe、Gonialoe、Tulistaは近縁なグループです。
Astrolobaは虫媒花ですが、基本的に白花です。蜂は色のついた花に来ますから、Astrolobaに来るのは蛾あるいは蝿や虻なのかもしれません。
また、遺伝子解析の結果からPoellnitziaはAstrolobaに含まれることになりました。しかし、Poellnitziaは赤い花が咲かせ、鳥媒花とされているようです。論文によると、Astrolobaは果糖の比率は低くショ糖の比率が高い傾向がありますが、Poellnitziaはショ糖はなく果糖とブドウ糖の比率が高くなっています。よく見ると、Poellnitziaの蜜の組成はAloe(狭義)によく似ています。Aloeは鳥媒花ですから鳥が好む糖の組成なのかもしれません。
Aristaloeはデータがありません。GonialoeはAstrolobaに組成はよく似ています。Gonialoeも赤花です。
Tulistaは典型的なHaworthia型の花で目立たない白花です。蜜の組成は果糖が少なくショ糖が多くなっています。しかし、Haworthia(狭義)と比較するとブドウ糖が低く、成分はAstrolobaに近縁です。

Astroloba
A. congesta【4%, 32%, 64%】
A. foliolosa【4%, 16%, 80%】
A. spiralis【2%, 13%, 85%】

旧・Poellnitzia
A. rubriflora①【48%, 52%, - %】
A. rubriflora②【47%, 53%, - %】

DSC_1835
Poellnitzia rubriflora
=Astroloba rubriflora


Gonialoe
G. variegata【45%, 55%, - %】

Tulista
T. minima【7%, 24%, 69%】
T. pumila① 【1%, 14%, 85%】
T. pumila② 【3 %, 17%, 80%】
T. pumila③ 【7%, 19%, 74%】


DSC_0900
Gonialoe variegata

DSC_0788
Tulista pumila

HaworthiopsisとGasteriaは姉妹群です。Haworthiopsisはややまとまりがありませんが、Gasteriaはよくまとまった分類群です。
Gasteriaは分布と分類がリンクしています。Gasteriaは南アフリカの原産で、西部→南西部→南部→南東部→北東部という風に、分布を広げながら進化したようです。論文で扱われたGasteriaは、西部にはG. pillansii、南西部にはG. vlokii、G. brachyphylla、G. carinata、G. disticha、南部にはG. rawlinsonii、南東部にはG. excelsa、G. actinacifoliaがあります。また、G. maculataは現在ではG. oliquaのことです。
西部と南西部のGasteriaはショ糖が低く、南部と南東部のGasteriaはショ糖がやや低めの傾向です。まあ、調べた種類が少ないので断言出来ませんが…
Gasteria全体としてはAstrolobaに近縁ですが、ブドウ糖の比率は低い傾向があります。ショ糖に特化したグループと言えます。ただし、Gasteriaは鳥媒花ですが、ショ糖の比率が低いAloe(狭義)やPoellnitziaとは異なる組成です。糖の組成は花粉媒介者の好みを反映していないのでしょうか? ただの系統関係の遠近を示すだけなのでしょうか?

Gasteria
G. acinacifolia【10%, 14%, 76%】
G. baylissiana【2%, 4%, 94%】
G. brachyphylla【1, 1, 98】
G. carinata【5,% 8%, 87%】
G. disticha【2%, 4%, 94%】
G. excelsa【7%, 9%, 84%】
G. maculata
   var. maculata【2%, 2%, 96%】
G. maculata
   var. liliputana①【7%, 8%, 85%】
G. maculata
   var. liliputana②【6%, 7%, 87%】
G. pillansii【2%, 3%, 95%】
G. pulchra【6%, 8%, 86%】
G. rawlinsonii【12%, 13%, 75%】
G. vlokii【5%, 9%, 86%】
DSC_1954
Gasteria baylissiana

HaworthiopsisはGasteriaと蜜の組成の傾向は似ていますが、どちらかと言えばAstrolobaに似ています。Haworthiopsis自体は虫媒花でしょう。同じ虫媒花であるAstrolobaやTulistaのグループとHaworthiopsis+Gasteriaのグループが別れた時の祖先的な蜜の組成が残存しているのかもしれません。
H. koelmaniorumはややHaworthiopsisからやや遺伝的距離が離れています。しかし、糖の組成はHaworthiopsisとしては普通です。

Haworthiopsis
H. glauca【1%, 19%, 80%】
H. granulata①【5%, 25%, 70%】
H. granulata②【4%, 24%, 72%】
H. koelmaniorum【5%, 23%, 72%】
H. limifolia①【4%, 41%, 55%】
H. limifolia②【3%, 24%, 73%】
H. longiana【3%, 20%, 77%】
 H. nigra【 - %, 25%, 75%】
H. tessellata①【1%, 29%, 70%】
H. tessellata②【2%, 24%, 74%】
H. viscosa【2%, 32%, 66%】
H. woolley【1%, 22%, 77%】
DSC_1948
Haworthiopsis koelmaniorum

DSC_1796
Haworthiopsis nigra

以上が論文に示されたデータの結果です。解説は私の個人的な考えですから、論文の著者の考えではありませんからご注意下さい。
しかし、かねてよりの懸案であったAloeとPoellnitziaについての蜜の組成が示すことができてすっきりしました。逆にGasteriaについては、鳥媒花なのに糖の組成が同じ鳥媒花であるAloeやPoellnitziaとは異なる結果でしたが、この謎に対する答えを私は持ち合わせておりません。引き続き調査が必要でしょう。



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花は受粉のために動物を利用しますが、その報酬として蜜を用意しています。実はこの花の蜜は、種類ごとに成分が異なるという論文を以前紹介しました。

以前の記事では、HaworthiaやAstroloba、Chortolirionについて調べたGideon F. Smith, Ben-Erik van Wyk, E. M. A. Steyn & I. Breuerの2001年の論文、『Infrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』をご紹介しました。
実はここ10年でアロエやハウォルチアなどを含むアロエ類は、遺伝子解析により大幅に変更されました。そのため、アロエ類のメンバー全体についての情報が欲しかったのです。しかし、よく調べたところ、1993年に
Ben-Erik van Wyk, Charles S. Whitehead, Hugh F. Glen, David S. Hardy, Ernst J. van Jaarsveld & Gideon F. Smithの『Nectar Sugar Composition in Subfamily Alooideae (Asphodelaceae)』というが出ていたことに気がつきました。2001年の論文では調べていないアロエ属や個人的に懸案のPoellnitzia rubrifloraについても解析しています。
まずは、近年の遺伝子解説によるアロエ類の分子系統を示します。アロエ属(広義)はAloe(狭義)、Kumara、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoeに分割され、逆にLomatophyllumとChortolirionがアロエ属に統合されました。さらに、ハウォルチア属(広義)は軟葉系はHaworthia(狭義)に、硬葉系はHaworthiopsisとTulistaに分割されました。なお、PoellnitziaはAstrolobaに含むものとされています。
さて、ではこれらの分類と蜜の組成には関連があるのでしょうか?


アロエ類の分子系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

論文は1993年と当時の分類に従っています。しかし、現在では分類体系は大きく変わりました。
最新の遺伝子解析の結果に従って、論文の内容を再構成します。学名の後に、蜜に含まれる糖の組成を以下の順に示します。

【Fructose, Glucose, Sucrose】Fructoseは果糖、Glucoseはブドウ糖、Sucroseはショ糖のことです。
分子系統に示された分類群を、上から順番に見ていきましょう。


まずは、アロエ類の中で一番祖先的な"Tree Aloe"、つまりはAloidendronから。論文ではAloe ramosissimaとなっていますが、現在はAloidendron ramosissimumとなりました。
糖の組成はアロエ属(狭義)に近い値です。しかし、アロエ属(狭義)と比較すると、果糖がやや高くブドウ糖がやや低いことに気がつきます。たいした違いではないように思えますが、アロエ属(狭義)は39種類47検体も調べていますから、その値から多少とは言え逸脱していることには何か意味があるような気がします。
A. ramosissimum【55%, 45%, -%】


DSC_1221
Aloidendron dichotomum

次にKumaraとHaworthia(狭義)は近縁ですが、残念ながらKumaraはデータがありません。Haworthia(狭義)は5種類を調べています。
Haworthia(狭義)は割と組成がばらつきます。果糖は少なめですが、H. herbaceaは19%とやや高めです。これはアロエ属(狭義)とはかなり異なる組成ですが、これを鳥媒花のアロエ属(狭義)と虫媒花のハウォルチア属(狭義)の違いと見ることはできるのでしょうか。
H. arachnoidea【13%, 51%, 36%】
H. bolusii【6%, 39%, 55%】
H. comptoniana【4%, 54%, 42%】
H. cooperi【5%, 39%, 56%】
H. herbacea【19%, 46%, 35%】
DSC_1945
Haworthia arachnoidea

次にアロエ属(狭義)とAloiampelosについて見てみましょう。論文で分析されたアロエ属は47検体ですが、6検体は重複、2検体は変種です。また、現在はAloe ramosissimaはAloidendron ramosissimumに、Aloe variegataはGonialoe variegataとなっていますから、この一覧からは除外しました。また、現在はアロエ属とされるLomatophyllumは1種類2検体、Chortolirionは1種類3検体を調べています。Chortolirion angolensisは、現在ではAloe welwitschiiとされています。
Aloe37種類2変種の糖の組成は【40~51%, 47~60%,  - ~4%】でした。アロエ属はショ糖の割合が少ないことが特徴です。果糖とブドウ糖は半々くらいで、種類の違いによる変動幅は小さいと言えます。気になるのは、小型種であるA. bowieaが中型~大型種と糖の組成が変わらないことです。大型アロエは鳥媒花で、小型アロエは虫媒花なのではないかと思われますが、蜜の組成に違いはないのは不思議です。A. haworthioidesなどの他の小型種についてどうなのか知りたいところです。
Lomatophyllumの蜜の組成は完全にアロエ属の範囲内でした。形態的に特殊化したLomatophyllumが蜜の組成では変わっていないのは意外です。しかし、Chortolirionはショ糖の比率が70%を超えており、明らかアロエ属から逸脱しています。私はChortolirionについては知識がないため、その理由を推測出来ません。
Aloe ciliarisは現在ではAloiampelosとなっています。Aloiampelosの糖の組成は、アロエ属(狭義)の組成の幅に収まります。

A. abyssinica【47%, 49%, 4%】
A. aculeata【45%, 55%, - %】
A. affinis【46%, 53%, 1%】
A. arborescens①【45%, 55%, -%】
A. arborescens②【46%, 53%, 1%】
A. asperifolia【46%, 51%, 3%】
A. bellatula【49%, 51%, -%】
A. bowiea①【51%, 49%, - %】
A. bowiea②
【49%, 51%, - %】
A. branddraaiensis【40%, 60%, - %】
A. capitata
【47%, 53%, - %】
A. castanea
【46%, 52%, 2%】
A. citrina
【49%, 47%, 4%】
A. dewinteri
【48%, 49%, 3%】
A. divaricata
【46%, 54%, - %】
A. erinacea
【46%, 54%, - %】
A. fourei【47%, 50%, 3%】
A. gariepensis【49%, 51%, -%】
A. greatheadii
     var. greatheadii【48%, 50%, 2%】
A. greatheadii
     var. davyana【49%, 49%, 2%】
A. hardyi【46%, 54%, - %】
A. hereroensis
     var. hereroensis【47%, 52%, 1%】

A. humilis【47%, 53%, - %】
A. littoralis【46%, 50%, 4%】
A. lutescens【47%, 52%, 1%】
A. massawana【46%, 53%, 1%】
A. melanacantha【47%, 52%, 1%】
A. meyeri【49%, 50%, 1%】
A. microstigma【50%, 50%, - %】
A. monotropa【47%, 52%, 1%】
A. mutabilis【44%, 56%, - %】
A. nubigena【48%, 51%, 1%】
A. pachygaster【49%, 51%, - %】
A. parvibracteata【45%, 55%, - %】
A. pearsonii(赤花)【47%, 51%, 2%】
A. pearsonii(黄花)【50%, 50%, - %】
A. perfoliata【48%, 49%, 3%】
A. petricola【48%, 52%, - %】
A. pictifolia【48%, 52%, - %】
A. sinkata【42%, 57%, 1%】
A. speciosa【48%, 52%, - %】
A. suprafoliata【49%, 50%, 1%】
A. thompsoniae【48%, 49%, 3%】
A. tricosantha①【46%, 53%, 1%】
A. tricosantha②【47%, 52%, 1%】
A. tricosantha③【46%, 53%, 1%】
A. vanbalenii【45%, 55%, - %】
A. vaombe【45%, 55%, - %】
A. vera【46%, 54%, - %】
A. verecunda【48%, 52%, - %】

DSC_0066
Aloe arborescens

旧・Lomatophyllum
A. purpurea①【51%, 49%, - %】
A. purpurea②【50%, 50%, - %】

旧・Chortolirion
A. welwitschii①【8%, 21%, 71%】
A. welwitschii②【8%, 19%, 73%】
A. welwitschii③【7%, 20%, 73%】

Aloiampelos
A. ciliaris【49%, 49%, 2%】


記事が長くなってしまいました。Astroloba以下については、明日続きをご紹介します。


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昨日に引き続き、多肉植物の室内への移動というか、避難をしています。サボテンはそれほどありませんが、ギムノカリキウムは平たい小型種を少し集めています。大型のサボテンは冬でも戸外で、簡単な霜除け位で冬越ししています。おそらくは平気だとは思うのですが、最近集めた小型のサボテンは冬に耐えられない気がしますから、念のため室内に取り込みました。

DSC_1942
隙間なく並べるのに手間取りました。

DSC_1938
Gasteria carinata
はじめて花芽が上がってきました。


DSC_1955
Haworthiopsis fasciata
DMC05265というフィールドナンバー付き。花茎が伸び続けています。曲がりくねっていますが、長さを測ってみたら116cmもありました。まだ咲き続けるようです。


DSC_1956
十二の巻きではない、本物のH. fasciataです。ちなみに、十二の巻きはH. attenuata系です。

DSC_1958
Gymnocalycium erinaceum
WR726Bというフィールドナンバーつき。細かいトゲが多くあまりギムノカリキウムらしさがない姿が魅力。


DSC_1959
Gymnocalycium anisitsii subsp. damsii
VoS03-040というフィールドナンバーつき。ラベルには、G. damsii subsp. evea var. torulosumというよく分からない名前が書いてありました。
いわゆる麗蛇丸G. damsiiは、翠晃冠G. anisitsiiの亜種G. anisitsii subsp. damsiiとされているようです。相変わらずギムノカリキウムの分類は混乱しています。とはいっても、学名はそのうちまた変わる気がして、今一つ信頼性がないですよね。ギムノカリキウムについては細かい研究はあまり進んでいない感じがします。


DSC_1960
大型鬼胆丸 Gymnocalycium gibbosum var. nigrum
九紋竜G. gibbosum系は過去に命名された亜種や変種の大半は現在認められていせん。鬼胆丸G. brachypetalum(=G. gibbosum var. brachypetalum)とG. gibbosum var. nigrumは同種と言われていました。G. gibbosum var. nigrumは大型鬼胆丸の名前で購入しましたが、九紋獅子、黒鷲玉、黒瞳玉など様々な名前で呼ばれているらしいです。よくわからないですね


DSC_1961
Gymnocalycium gibbosum var. borthii
かつてG. borthiiと呼ばれていましたが、現在は九紋竜G. borthiiの唯一認められた亜種とされています。あまり九紋竜には似ていませんが…

DSC_1962
Gymnocalycium ochoterenae var. cinereum
var. cinereumは黒っぽい肌と根元が黒いトゲが特徴と言われています。でも何故か私のvar. cinereumはトゲが白いんですよね。どちらかと言えば守殿玉G. bodenbenderianumに似ています。そもそも、現在はG. ochoterenaeに亜種・変種は認められておりません。本当にギムノカリキウムは泥沼の世界ですね。


DSC_1963
Euphorbia gymnocalycioides
ギムノカリキウムに似たユーフォルビア。種小名の"-oides"は「~に似た」という意味ですから、「ギムノカリキウムに似た」という意味です。6月に購入した時には、何故か根があまりない状態でしたが、現在はしっかりと根が張りました。とはいえ、エチオピア高地原産の難物なので、正木でどこまで持つかわかりませんが…


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先週は寒さに弱いユーフォルビアたちを室内に取り込みました。しかし、HaworthiopsisやGasteriaはまだ外にあります。ハウォルチアの棚を簡易フレーム化する企みも当初はありましたが、結局のところ準備が間に合わず企画倒れとなってしまいました。仕方がないので、室内に避難させます。寒さに強いものもあるのかもしれませんが、私の居住地は最低気温がマイナス7℃になったこともある土地柄ゆえ、いきなり本番は怖いところです。もう少し、じっくり計画を練り直してみます。

DSC_1941
慌てて取り込んだので、とにかく詰め込みました。なんか、ごちゃごちゃしてますねぇ…

とりあえずは軟葉系ハウォルチアから。Haworthia sensu stricto(狭義のハウォルチア)は、透き通った透明な窓や、糸のような禾(ノギ)があります。あまり軟葉系は詳しくないのですが、個人的には禾が長いタイプが気になっています。
DSC_1944
Haworthia herbacea
ヘルバケアは小さな透明な窓が沢山あるタイプです。禾はオマケ程度。子を2つ吹きました。


DSC_1945
Haworthia arachnoidea
私のアラクノイデアは先端に少し窓が入るタイプです。禾がきれいです。Euphorbia susannaeとともに自生します。


DSC_1946
Haworthia maraisii var. notabilis
JVC87/197というフィールドナンバー付き。非常に整ったロゼットです。見えませんが小さい子が出来ています。


DSC_1947
Haworthia mucronata var. mucronata
JDV90/111というフィールドナンバー付き。全体的に少し透き通った感じがあります。なんとなく水っぽい葉です。よく増えます。


お次は硬葉系ハウォルチア=Haworthiopsis。
DSC_1948
Haworthiopsis koelmaniorum
Haworthiopsisの中でも、遺伝的に少し離れています。上面全体が窓になっています。


DSC_1949
竜城 Haworthiopsis tortuosa
実は交配種らしいです。ですから、現在H. tortuosaという学名は認められておりません。H. viscosa系ですかね? 詳しくは調べておりません。


DSC_1951
五重の塔 Haworthiopsis viscosa
生長はゆっくり。普及種ですが、色合いがいいですね。

DSC_1953
"Haworthiopsis triangularis"
実はH. triangularisという学名は存在しないので、こいつは名無しです。おそらくはH. viscosa系の園芸種。

DSC_1952
Haworthiopsis reinwardtii f. kaffirdriftensis
f. kaffirdriftensisは詰まった形が美しいですね。


ガステリアも少々。
DSC_1954
Gasteria baylissiana
小型で群生するタイプのガステリア。いくらでも増えます。また、ガステリアでは珍しく、成熟しても葉が回転しません。
浅い鉢に植えたせいか、実は根が沢山はみ出しています。しかし、ガステリアは浅い鉢に植えるように書いてあるサイトが海外だとたまにあります。ガステリアは太く長い根が伸びますから、深い鉢がいい様な気がしますが…



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昨日はAgave macroacanthaの受粉を行う動物を調査する論文をご紹介しました。2000年に出されたSantiago Arizaga, Exequiel Ezcurra, Edward Peters, Felnando Ramírez de Arellano & Ernesto Vegaによる『POLLINATION ECOLOGY OF AGAVE MACROACANTHA (AGAVACEAE) IN A MEXICAN TROPICAL DESERT』という論文です。
論文は二部構成で、昨日の
第1部では重要なポリネーター(花粉媒介者)は日中の訪問者である蜂やハチドリではなく、夜間に花を訪れる蛾やコウモリであることが示されました。第2部は『II. THE ROLE OF POLLINATORS』という題名で、夜間のポリネーターである蛾とコウモリのAgave macroacanthaの花の受粉への影響を調べています。

幾つかの論文で、Agave亜属ではコウモリによる受粉が指摘され、トゲが多いAgave(主にLittaea亜属)は昆虫により受粉がなされると指摘されています。しかし、それらはコウモリが花を訪れていたという観察記録であり、昨日の第1部で見た通り花を訪れたからといって種子が出来るわけではないことを考えれば、Agaveの受粉への実際の影響力は不明瞭でした。また、夜行性の蛾の受粉への影響は、Yucca以外ではあまり詳しい調査はなされていないようです。蛾が夜間にAgaveの花を訪れているという報告はありますが、やはり受粉への寄与についてはよくわかっておりません。

調査した結果、蛾やコウモリが訪れた花に出来た果実は、コウモリが訪れた花は蛾が訪れた花の2倍以上の種子が出来ていることが確認されました。よって、Agave macroacanthaの受粉にとって最も重要なポリネーターはコウモリであることがわかりました。
さらに、Agave macroacanthaを訪れたコウモリは、Leptonycteris curasoaeとChoeronycteris mexicanaの2種類でしたが、LeptonycterisはChoeronycterisより20%も多くの種子生産に寄与しました。

近年の調査では、Leptonycterisの個体数が著しく減少しており、牧畜や農業開発、伐採による環境の悪化や、事情はよく分かりませんが洞窟での直接殺害さが要因とされています。そのため、アメリカでは絶滅危惧種に指定されています。LeptonycterisやChoeronycterisは渡り鳥のように季節的に移動するため、その行き先のどこか1つの環境が悪化すると個体数が減少し、移動した他の地域の受粉にも悪影響を及ぼす可能性があります。当然ながら、これらのコウモリに依存的な柱サボテンやアガヴェは、受粉の成功率が減少し、やがて個体数も減っていくことでしょう。

以上が論文の簡単な要約です。コウモリ媒花という面白い現象がある一方、アガヴェの未来は明るくなさそうであるという厳しく現実があります。自然の生き物は種を超えて繋がりを持って生きていますから、コウモリとアガヴェのように連鎖的な減少が起こる可能性もあります。しかも、そのような関係が判明していない生き物も沢山ありますから、いつの間にか気付かない間に崩壊しているかもしれません。あまり具体的なことは書かれていないので詳しいことはわかりませんが、自然に生えるアガヴェの美しい姿をいつまでも見られる未来であって欲しいものですね。


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アガヴェはメキシコを中心としたアメリカ大陸に分布する多肉植物です。最近は多肉植物の中でもアガヴェが非常に人気で、園芸店でも見かけることが増えましたし、都内ではアガヴェの販売イベントも開催されているようです。アガヴェは若い人に人気がありますから、イベントもフットワークが軽く、昔からあるサボテンの即売会とは隔世の感があります。
さて、私自身はアガヴェを集めるつもりはないのですが、訳あって現在2種類のアガヴェを育てています。別に購入した訳ではなく、今年の多肉植物の即売会に行った際にオマケとしていただいたものです。なんとなく育てていますが、育てている以上はアガヴェについて多少なりとも気になります。何か面白い論文はないかと調べてみました。

そんなこんなで見つけたのが、2000年に出されたSantiago Arizaga, Exequiel Ezcurra, Edward Peters, Felnando Ram
írez de Arellano & Ernesto Vegaによる『POLLINATION ECOLOGY OF AGAVE MACROACANTHA (AGAVACEAE) IN A MEXICAN TROPICAL DESERT』という論文です。論文は2部に分かれており、本日は第1部である『I. FLORAL BIOLOGY AND POLLINATION MECHANISMS』についてご紹介します。第1部はAgave macroacanthaの花を訪れる動物を調査し、その中から実際に受粉により寄与した動物を突き止めることを目的としています。

調査はメキシコのTehuac
àn市の30km南にあるZapotitlàn Salinasで1994年の5月から9月に実施されました。植生は巨大な柱サボテンであるNeobuxbaumia tetetzoが優勢な乾燥地です。雨季は夏で5月下旬から9月下旬位です。
実験は個体密度が低いため、半径5km以内の16個体のAgave macroacanthaを観察区域内に移植し、もとから自生していた16個体と合わせて計32個体としました。ちなみに、アガヴェの花茎は放っておくとヤギにすべて食べられてしまうらしく、アガヴェは柵で囲んだそうです。

A. macroacanthaの花を人工的に受粉させた場合、自身の花粉ではほとんど種子は出来なかったそうです。A. macroacanthaは自家受粉はしない植物だと言えますから、ポリネーター(花粉媒介者)に依存して繁殖していることがわかります。
A. macroacanthaの花を訪れる動物を調べたところ、日中は9種類の蜂と蝶、ハチドリが訪れました。夜間には5種類の蛾と2種類以上のコウモリが訪れました。では、日中と夜間では、どちらの訪問者が受粉のために、より寄与しているのでしょうか。
それはポリネーターが訪れた花に、ちゃんと種子が出来るのか否かで判定しました。日中のポリネーターが訪れた花は、実験的にネットをかけてポリネーターが訪れないようにした花と同じで、ほぼ種子は出来ませんでした(※まれに風で受粉することもあり、完全にゼロにはならない)。夜間にポリネーターが訪れた花は、人工的に受粉を行った花と同じで、沢山の種子が出来ました。ちなみに、
花の蜜の分泌量を調べると、どうも夜間に沢山出ているようです。ということは、A. macroacanthaの受粉にとって重要なのは夜間に花を訪れるポリネーターということになります。

ここで疑問が湧きます。なぜ、日中の受粉はことごとく失敗するのでしょうか? 著者の仮説は、日中のポリネーターである蜂はサイズが小さいことが問題ではないかとしています。例えば、1981年のHowell & Rothの論文では、Agave palmeriを訪れる蜂やハチドリは受粉に寄与するような雌しべとの接触が最小限であったことが示されました。これは、私が考えるに、蜂やハチドリは蜜の採取者としては正に専門家=スペシャリストですから、うまく蜜だけを掠めとることができるということではないでしょうか。スペシャリストはその分野においては洗練されていますから、無駄が少なくなります。私も過去の記事でアロエと太陽鳥の関係性についての論文を紹介しましたが、その時も蜜を吸うスペシャリストである太陽鳥はアロエの受粉に寄与せず、蜜の専門家ではないヒヨドリは要するに採蜜が下手なので花粉だらけになりながら蜜を吸い、アロエの受粉に寄与しているらしいのです。では、重要な夜間のポリネーターは誰なのでしょうか? 蛾は蜂と同様に小さく受粉を行うのは難しい可能性もあります。ということは、残った選択肢はコウモリということになります。コウモリによる受粉は聞きなれないかもしれませんが、柱サボテンなどはすでにコウモリ媒花が知られています。同じメキシコですから、それほどの不思議ではないでしょう。一応、論文では蛾の可能性も残しているようです。
ただし、すべてのアガヴェがコウモリ媒花というわけではなく、蛾が主体の虫媒花も知られています。著者は亜属により異なるのではないかと推測しています。

以上が論文の簡単な要約です。あまり知られていないコウモリ媒花という事実は単純な面白さがあります。また、日中の受粉への寄与が少ないことを示唆していますが、これは非常に重要なものでしょう。なぜなら、このことが解明していないと、コウモリも受粉に関与しているであろう可能性を指摘することしか出来ないのです。
明日は2部に分かれている論文の第2部についてご紹介します。


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多肉植物たちも1年経てば、それぞれの速度で生長していきます。私の育てている多肉たちも、生長が早いもの遅いもの、去年はいまいちでも今年はよく生長したもの、逆に去年はよく生長したのに今年はいまいちだったものなど、一株一株皆異なり様々です。
最近、寒くなり室内に多肉植物たちを取り込みましたから、毎日じっくり見る時間が出来ました。普段は帰宅すると暗くてよく見えず、休日に見るくらいですが、暑いわ蚊は出るわで中々じっくり多肉植物たちを見られませんでしたから。
寒さによって生長は鈍り、種類によっては完全に生長が止まったものもあるでしょう。この1年の生長を振り返る良い機会です。本日は我が家のアロエについて、少し振り返ります。まあ、それほど沢山のアロエを育てているわけではありませんが、アロエは丈夫なものが多く生長も早いので、なんと行っても目に見えて大きくなりますから育てる喜びがあります。そんな我が家のアロエたちを少しご紹介しましょう。

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2021年の12月に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで購入したAloe pegleraeです。まだ若く葉の枚数が少ないため、A. pegleraeらしさはありません。

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最近のAloe peglerae。見違えるように葉が増えました。葉の枚数が増えたので、葉がやや内側に巻いてきて、少しA. pegleraeらしくなってきました。トゲも強くなり、赤味が増して荒々しさが出ています。

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同じく2021年の12月のCactus & Succulentフェアで入手したAloe spectabilisです。A. pegleraeを購入したオマケでいただいた抜き苗です。真冬に植え込みましたから少し心配でした。
二列性と言って、アロエは苗の頃は葉が左右に並びますが、ご覧の通り見事な二列性の苗でした。

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最近のA. spectabilis。葉が旋回を始めました。葉の幅がかなり広くなり、A. spectabilisらしさが出てきました。まあ、A. spectabilisは高さ5メートルになる巨大アロエですから、まだまだ赤ちゃんみたいなものでしょうけど。

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2022年の2月に鶴仙園池袋店で購入したAloe somaliensis。冬なので乾かしぎみ、あるいは断水管理なのかもしれません。カリカリに乾いて、葉が巻いています。

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夏のA. somaliensis。あまりの強光に焦げて外側の葉をやられてしまいました。

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最近のA. somaliensis。焦がしてから遮光して、ようやく落ちつきました。来年は葉の枚数を増やしたいものです。

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2020年の1月に埼玉のシマムラ園芸で購入したAloe aristata。今は属が変更されてArirtaloe aristataです。カチカチに硬いタイプです。
※おそらくはGasteriaとの交配種の可能性あり。

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最近のA. aristata。すっかり葉が増えて同じ種類には見えません。隠れていますが、根元から幾つか小さい子を吹いています。

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2022年の4月に五反田で開催された春のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入したAloe parvula。寒さにすっかり赤くなっていました。写真ではわかりませんが、葉先はだいぶ枯れ込んでいました。凍みてしまう一歩手前に見えましたが、さてどうなるやら。

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最近のA. parvula。中々、赤味が抜けなくて苦労しましたが、ご覧の通り葉も増えて美しい緑色を取り戻しました。こういうしなやかな葉のアロエは気に入っています。

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2020年の3月に横浜のコーナン港北インター店で購入したAloe haworthioides。柔らかい小型アロエです。この時点では3株でした。

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最近のA. haworthioides。8株に増えました。

室内に取り込んだ多肉植物を眺めていると、ああ随分生長したなあと思います。今回、あまり変わっていなように見えても、昔の写真と比較すると思いの外生長していて驚いたりもしました。
そういえば、我が家の多肉植物に冬型はほとんどありません。ですから、基本的に冬はお休みの季節です。ブログも論文の紹介などがメインになるかもしれません。 

論文の紹介は私の記事としてはあまり人気はありませんが、重要なことが書かれており、私は個人的に面白くて仕方がないので是非内容を共有したいと考えています。学術論文だからと言って真面目に構えて読む必要はなく、流し読む位の気楽なものと捉えてほしいのです。科学研究は研究者だけの独占物ではなく、社会に還元することが求められます。それは、必ずしも実社会で実用的である必要はなく、書籍や大学のホームページなどで研究成果を説明していただくだけでも意味があると思います。しかし、すべての研究者の業績が書籍となるわけではなく、若手研究者や海外の研究については学術論文以外では知る術がないのが現状です。といったところで、学術論文を検索するのはハードルが高いかもしれません。ですから、あくまで私の興味のある部分だけではありますが、多肉植物の論文をこれからも紹介していきたいと考えております。



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最近、Bowiea volubilisについて少しずつ調べています。Bowieaは葉のないモジャモジャした蔓を伸ばす緑色の玉葱のような球根植物です。アフリカでは薬草として利用されてきたことや、現在はB. volubilisの亜種とされているsubsp. gariepensisについても記事にしました。実際の薬理作用についても気になるところで、良さげな論文がありましたら記事にしてご紹介出来ればと考えております。
Bowieaにはもうひとつ、Bowiea kilimandscharicaという小型種があります。しかし、このB. kilimandscharicaは現在ではB. volubilisと同種とされ、B. kilimandscharicaという学名は異名とされています。しかし、小型であること位しか情報がありません。何か情報はないかと調べても、B. kilimandscharicaについては、何故かよくわかりません。せめて、B. kilimandscharicaが初めて記載された論文を探してはみたものの、1934年に出版されたドイツ語の「Notizblatt des Botanischen Gartens und Museums zu Berlin-Dahlem.」という雑誌らしいのですが、PDF化されていないのか見つかりません。まあ、探し方が悪いだけかもしれませんが…
 
しかし、調べる過程でBowieaを含むアフリカの球根植物の分類に挑戦した論文を発見しました。B. kilimandscharicaの調査は続行するとして、本日はアフリカの球根植物についての論文をご紹介します。

ご紹介するのは、Mario Martine-Azorin, Manuel B. Crespo, Maria Angeles-Vargas, Michael Pinter, Neil R. Crouch, Anthony P. Dold, Ladislav Mucina, Martin Pfosser & Wolfgang Wetschnigの2022年の7月に出たばかりの論文『Molecular phylogenetics of subfamily Urgineoideae (Hyacinthaceae) : Toward a coherent generic circumscription informed by molecular, morphological, and dirtributional data』です。
内容はキジカクシ科Urginea亜科(ヒヤシンス亜科)植物の遺伝子解析による分子系統を構築し、今後の分類の改訂を提案してあるようです。大変力が入った研究で、内容や議論されている内容をつぶさに検討すると、大変なボリュームとなってしまいますから、私の記事では分子系統を示すに留めたいと思います。まあ、球根類には詳しくないので、よく分からないという部分も大なのですが…

Urginea亜科の分子系統
                            ┏Austronea
                        ┏┫
                        ┃┗Fusifilum
                        ┃
                    ┏┫    ┏Boosia
                    ┃┃┏┫
                    ┃┃┃┃┏Fusifilum magnifium
                    ┃┗┫┗┫
                    ┃    ┃    ┗Urginea revoluta
                    ┃    ┃
                ┏┫    ┗Geschollia
                ┃┃
                ┃┣Urgineopsis
                ┃┃
                ┃┣Drimia
                ┃┃
                ┃┣Litanthus
                ┃┃
                ┃┣Schizobasis
                ┃┃
                ┃┣Rhadamanthopsis
                ┃┃
                ┃┃┏Rhadamanthopsis
                ┃┣┫          namibiensis
                ┃┃┗Aulostemon
                ┃┃
                ┃┣Squilla
                ┃┃
                ┃┣Tenicroa
                ┃┃
                ┃┗Rhodocodon
                ┃
                ┃    ┏Ebertia
                ┃┏┫
                ┃┃┗Vera-duthiea
                ┃┃
                ┃┃        ┏Indurgia
                ┣┫        ┃
                ┃┃    ┏┫┏Spirophyllos
                ┃┃    ┃┗┫
            ┏┫┃┏┫    ┗Urginea
            ┃┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┗Iosanthus
            ┃┃    ┃
            ┃┃    ┃┏Sekanama
            ┃┃    ┗┫
            ┃┃        ┗Zulusia
            ┃┃
            ┃┃        ┏Ledurgia
            ┃┃        ┃
            ┃┃    ┏╋Thuranthos
        ┏┫┃    ┃┃
        ┃┃┃┏┫┗Zingela
        ┃┃┃┃┃
        ┃┃┗┫┗Urginavia
        ┃┃    ┃
    ┏┫┃    ┗Sagittanthera
    ┃┃┃
    ┃┃┗Striatula
┏┫┃
┃┃┗Mucinaea
┫┃
┃┗Rhadamanthus

┗Bowiea


馴染みがない名前が多いのですが、南アフリカなどのアフリカの冬型球根としては、Drimia、Urginea、Schizobasisあたりは辛うじて知られています。最近ではケープバルブも見かけるようになってきましたから、聞いたことがあるものもあるかもしれません。しかし、ケープバルブと言っても、要するに南アフリカの冬型球根の総称ですから、分類すると特に近縁ではないいくつものグループが含まれています。この論文では扱われていない種類も沢山あります。

気になるBowieaについてですが、この論文ではB. gariepensisもB. kilimandscharicaも独立種とされています。分子系統を見ると、B. volubilisとB. kilimandscharicaは近縁で、B. gariepensisの2株は少し離れています。現在のところは、B. kilimandscharicaはB. volubilisに含まれてしまい、B. gariepensisはB. volubilisの亜種とされていますが、3種類の関係性は分子系統の結果と符合します。特徴や分布が異なり、生殖隔離もあるようですから、3種は別種としても良いのでないかと思います。そもそも、Bowieaの種の認定を左右する根拠は1987年のBruynsの論文によるものでしょうから、遺伝子解析が発達した近年の研究により改訂されるべきでしょう。この論文は2022年の最新のものですから、今後学名の変更の可能性はあります。ただし、そのためには様々な地域のB. volubilisとB. kilimandscharicaを比較して、B. kilimandscharicaがB. volubilis集団から明瞭に分離できるということが求められるかもしれません。

Bowieaの分子系統
                    ┏B. gariepensis 1
┏━━━━┫
┃                ┗━━B. gariepensis 2

┃    ┏━B. kilimandscharica
┗━┫
        ┗━━━━B. volubilis


以上が論文の内容ですが、本当に一部のみの抜粋です。論文では様々な議論が展開されています。著者は分類群を統合する分類学の流れに対し、意義を唱えています。例えば、一塊の分類群は「教育目的にはより実用的」(Chase et al., 2009)であるとか、分類群は「数が少ないほど扱いがより安定する」(Manning et al., 2004, 2009)と述べられています。しかし、その議論はあまりに推測的で不当ではないか、科学的根拠に欠けるのではないかと、著者は考えているようです。


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Euphorbia susannaeは南アフリカ原産のユーフォルビアです。日本では実生苗が大量に出回っているため、すでに普及種として安価で入手可能です。瑠璃晃なる名前も付けられており、園芸店で販売されているE. susannaeに差してある名札によく書かれています。
しかし、驚くべきことに、E. susannaeは絶滅が危惧されている希少な植物であるというのです。
E. susannaeを普及種だと思っている我々日本人からすると、実に意外な話です。

DSC_1880
瑠璃晃 Euphorbia susannae
強い日照を浴びて赤みが増しています。E. susannaeは栽培下では子を盛んに吹いて群生します。しかし、私は栽培条件を厳しくしているため、あまり子を吹きません。現在、直径6cmですが、偏平な形を維持しています。


DSC_1881
子株に花が咲いています。下の葉は雑草なので気にしないように。

さて、本日ご紹介するのはLaaiqah Jabar, Stefan John Siebert, Michele Franziska Pfab, Dirk Petrus Cilliersの2021年の論文、『Population biology and ecology of the endangered Euphorbia susannae Marloth, an endemic to the Little Karoo, South Africa』です。

論文は南アフリカのE. susannaeの自生地を調査することにより、生息環境と個体数の把握を目的としています。南アフリカの希少植物はあまり調査がなされていないため、先ずはその実態を把握するための研究と言えます。
調査によると、E. susannaeはLangebergの北麓に8亜集団が確認されました。分布の東西の幅は、わずか32kmでした。また、集団が道路などのインフラにより分断されてしまっている自生地もありました。調査では野生のE. susannaeの全個体数をカウントしておりますが、なんとE. susannaeの野生株はわずか1845個体に過ぎないことが明らかになりました。保護区域内は良いてして、人が立ち入りやすい区域では盗掘による被害が以前より知られていたそうです。また、牛の踏みつけによる損傷も観察されました。

E. susannaeの自生地は石英からなる砂利と石からなる白い土壌です。何でも、太陽光線を反射することにより土壌の温度を下げる効果があるそうです。
また、E. susannaeの3/4は日陰で生長していることが明らかになりました。その多くは低木の下で、Haworthia arachnoideaとともに育ちます。低木は茂みを作るキク科のDicerothamnus(Elytropappus) rhinocerotisが多いようです。


E. susannaeの花に訪れるのは、その86%はアリでした。E. susannaeはアリにより受粉する虫媒花である可能性が高いとされているようです。また、甲虫類(7%)やハエ(7%)もE. susannaeの花に訪れていました。少し気になったのは、ここでいう「ハエ」はハナアブを含むのかどうかです。論文では、ただ"flies"とあるだけですが、こういう英語の機微はよくわかりません。
ユーフォルビアは一般的に種子が成熟すると、種子を遠くに撥ね飛ばします。それはE. susannaeも同様で、0.6~2.5m以内に種子を飛散させるそうです。しかし、種子に綿毛をつけて風で飛ばしたり、鳥などの動物に運んでもらう他の植物の戦略と比較すると、E. susannaeの種子の分散距離は短いと言えます。これは、親株の近くの方が生育できる環境である確率が高いからかもしれません。乾燥地域の厳しく環境では、例えば低木の下の日陰以外では実生が育たない可能性が大きいでしょう。要するに、種子の落ちる場所はどこでもいいわけではないということです。
また、種子にはelaiosome(種子に着いている栄養分でアリはelaiosome欲しさに種子ごと巣に運ぶ)がないとされていることから、myrmecochory(アリによる二次散布)の可能性は低いと言われていますが確認はされていないようです。アリが地下にある巣に運んでくれると、自動的に地中に埋められることとなり、地上よりも涼しく湿った環境で発芽することができる可能性が高くなります。


どうやら、カナダとアメリカからE. susannaeが大量に世界市場への大量輸出があったようです。これは、あまりに大規模だったため、著者は組織培養による増殖の可能性があるとしています。他の方法ではここまで急激な増殖は難しいとしています。そのため、ここ10年で違法採取は緩和したと見られています。やはり、実生にしろ組織培養にしろ、大量に生産されて普及してしまえば、わざわざ違法採取株を購入する必要がなくなります。市場価格も低下しますから、違法採取の旨味も減じることでしょう。

論文の内容は以上です。今回の調査で、野生での絶滅が危惧されるE. susannaeは2000個体を切る危機的な状況であることが明らかとなりました。しかも、保護されている環境にあるのは、わずか20%に過ぎないこともわかりました。野生生物が現在置かれている状況を先ずは把握しないと、効果的な保護活動は難しいものとなります。そのため、非常に精度の高いこの調査は大変価値が高いものでしょう。貴重な野生のE. susannaeが絶滅しないことを切に願っております。


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相も変わらず、ユーフォルビアの室内への取り込みをしています。しかし、ようやく終了です。毎年面倒ではありますが、多肉植物の状態や生長をまじまじと見られる良い機会だと割りきって作業しています。

DSC_1915
ゼブラホリダ Euphorbia polygona var. ???
むやみやたらに花が咲くので、花殻が濡れて汚い感じになってしまいます。ビニールを張って雨が当たらないようにしていますが、霧雨だったり風が強いと雨が吹き込んで濡れてしまいます。中々綺麗に育てるのは難しいですね。
ゼブラホリダはE. horrida var. zebrinaとか言われていましたが、ホリダ自体がE. polygonaの変種になってしまったので、名無しになってしまいました。しかし、ホリダは花が緑色でポリゴナは紫色とか言われますが、全然関係ないように見えます。何せゼブラホリダもアノプリアも花は紫色ですからね。

DSC_1917
紅ホリダ
ホリダE. polygona var. horridaと紅彩閣E. hepatogona(=E. enopla)の交配種。紅彩閣よりも太く、少し白い粉をまといます。ホリダの根元から子吹きする性質と、紅彩閣の枝分かれしやすさが合わさって、みっちりした姿になりました。

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紅彩閣 Euphorbia heptagona
紅ホリダと比べると細長く育ちます。紅彩閣はE. enoplaとされますが、E. heptagonaが正式な学名です。

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Euphorbia polygona var. anoplia
E. anopliaからポリゴナの変種になりました。野生個体は見つかっていないので、トゲと白い粉がない矮性のタイプなのでしょう。
しかし、際限なく子を吹くので、鉢が歪んでしまっています。キリがないので、来年の植え替えではすべて外します。

 DSC_1916
以前に間引いたアノプリアの子を植えましたが、小さいのに花も咲いて子を吹いています。


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群星冠 Euphorbia stellispina
トゲが特徴的です。トゲは花柄の跡ですが、画像を検索するとトゲは割とまばらになりがちみたいですね。私は厳しく育てトゲが詰まった株を目指しています。この冬に出るだろう新しいトゲが綺麗に出たら、全体的にトゲで覆われたかなり見られる株になるでしょう。


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飛竜 Euphorbia stellata
購入時に、何が気に入らないのかこじれてしまい、生長が思わしくありませんでした。今年の春に植え替えてからは割と状態は良さげです。こじれていた間は塊根は太らなかったので、これからに期待しましょう。


DSC_1912
閃紅閣 Euphorbia fruticosa cv.
日本で流通しているE. fruticosaはトゲがまばらなタイプで、おそらくは突然変異の園芸種なのだと思います。一応海外ではE. fruticosa var. inermisなんて呼ばれたりもしますが、学術的に認められた学名ではありません。


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亀甲竜 Dioscorea elephantipes
芋は地中に埋めた方が早く大きくなりますが、芋を地上に出さないとコルク層が発達しません。私は小さい苗の時からあえて地上に出して育てていますから、芋は小さいのにコルク層はかなりの厚みです。

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幻蝶カズラ Adenia glauca
かなり遮光しないと塊茎が日焼けしてしまいますから、玄関内で育てています。ツルは私の背丈を越えました。


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寒くなり葉が萎びてきました。幻蝶カズラは寒さに弱いので、暖かい部屋に移します。ツルは根元からカットします。

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シバの女王の玉櫛 Pachypodium densiflorum
長年放置してきたパキポです。植え替えなしで、雨ざらしでした。枝がやたらと伸びがちですが、逆に枝がやたら多いので花は沢山咲きます。春から秋までずっと咲いていますが、冬でも室内が暖かい時にはポツポツ開花します。


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見栄えは良くありませんが、付き合いは長い方なのでなんだかんだ言って愛着があります。国内実生の小苗から育てており、サイズが大きいコトもありやたらと丈夫です。

というわけで、週末のユーフォルビアの室内への取り込みはなんとか終了しました。最近の寒さに慌てていましたから、とりあえずは一安心です。来週はユーフォルビア以外を何とかします。とはいっても、室内へ入れた多肉植物は適当に並べただけなので、やや乱雑な雰囲気です。並び替えが必要でしょう。さて、どうしようか…


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多肉植物の室内への取り込みの続きです。寒くなりこれから冬を迎えるにあたって、室内に上手く収納するにはどうすれば良いのか考えながらの作業です。しかし、後先考えずに購入してきたせいで、この1年に限っても多肉植物はまあまあ増えましたから、棚を増やしたりコンテナのサイズを変えたりと、色々画策してはいますが、すべてを取り込んでみないと正直わからない部分もあります。とりあえず、昨日に引き続きユーフォルビアメインです。

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白樺キリン(ミルクトロン)
Euphorbia mammillaris cv.
鱗宝の斑入り品種。何故か子吹きしませんが、太めに育っています。


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閃光閣 Euphorbia knoblii
普及種ですが大変美しいユーフォルビアです。今年は沢山の花を咲かせました。E. knobliiは多肉ユーフォルビアでは珍しい雌雄同株みたいです。


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Euphorbia debilispina
一見して地味なユーフォルビアですが、木質化した荒れた肌の根を持ちます。塊根ではありませんが、肥培して根を太らせて、多少根元を出して植え付けたら面白いかもしれません。再来年の植え替え時に、根の太り具合を見てみたいと考えております。


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孔雀丸 Euphorbia flanaganii
実はタコものは苦手です。E. flanaganiiは丈夫なのでまだしも、他のタコものユーフォルビアは枝が少なめになりがちです。もっと遮光した方が良いのかもしれません。


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金輪際 Euphorbia gorgonis
タコものの中でも一番簡単。真夏に無遮光でも日焼けしません。本体は直径6cm位ですが、どの程度大きくなるのでしょうか?

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Euphorbia sapinii
以外と入手しにくいユーフォルビア。木質化した茎が伸びていくタイプ。毒性が高いEuphorbia poissoniiに近縁と考えられていますが、E. sapiniiの毒性は如何ほどでしょうか。

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Euphorbia phillipsiae
ソマリアもの、その①。遮光しないと黄色くなりますが、なんとか耐えることが出来ます。しかし、やはり遮光した方がきれいでした。
E. phillipsiaeにはE. golisanaという異名があり、園芸店では「ゴリサナ」という名札がついていることが多いようです。

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Euphorbia phillipsioides
ソマリアもの、その②。E. phillipsiaeと名前が似ていますが、同じ地域に自生しよく似ていて今まで混同されてきたため、phillipsiaeに似た(-oides)という学名が付けられましたが、それはそれでややこしい感じがしますね。
日照が弱まると覿面にトゲが弱くなります。そのため、天候によりトゲのサイズが安定しないことが悩みです。ソマリアものですが暑さにはかなり強い印象です。


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Euphorbia columnaris
ソマリアもの、その③。まだ、正直特徴を捉えきれていません。根張りは弱い感じがありますから、いかにも夏に弱そうです。強光に弱い感じはありませんが、暑さが苦手なのかもしれませんね。

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Aloe somaliensis
ソマリアものつながりでA. somaliensisも室内へ。A. somaliensisは暑さよりも強光に弱いみたいです。まあ、斑が多い葉を見ればわかることなんですけど、私は夏に焦がしました。最近、ようやくきれいになりました。しかし、美しい斑です。


普及種から育ちずらいソマリアものまで、手当たり次第集めたので割とめちゃくちゃです。しかし、そのほとんどが普及種ですが、普及種と馬鹿にしたものではありません。育てれば美しいものも沢山あります。どう育つのか毎年楽しみにしています。
多肉植物の室内への取り込みも、いよいよ明日の記事で終了です。とはいっても、ユーフォルビアとアロエだけですけどね。それ以外は来週です。



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日中は暖かいのですが、夜は冷え込むようになりました。慌てて多肉植物たちを室内に取り込んでいます。まだ、室内に取り込まなくてもよい多肉植物もあるのかもしれませんが、今の調子でぼーっとしているとあっという間に12月になってしまいます。最低でもユーフォルビアは一気に片付けてしまいましょう。

とりあえずは、大きめなものから。
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白雲巒岳 Euphorbia confinalis subsp. rhodesiana
巒岳E. abbyssinicaとは関係ないにも関わらず、何故か巒岳の名前を戴いています。何やらピンク色になって来ました。寒いのでしょうか。


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墨キリン Euphorbia canariensis 
一年中、特に変化がない墨キリン。整然とした姿です。小さく見えますが現在高さ35cmです。
そういえば、原産地のカナリア諸島は観測史上の最低気温が2月の9.4℃とのことですから、見た目に変化はないけれど最近は寒かったかもしれません。


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瑠璃塔 Euphorbia cooperi
段が積み重なるように生長します。

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狗奴子キリン Euphorbia knuthii
枝が沢山吹いて長く伸びるのが特徴なのでしょうけど、我が家のE. knuthiiは枝はあまり出ないし伸びません。塊根は太りますが…

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Euphorbia clivicola
生長が遅いと言われますが、確かに目に見えて育った感はありません。


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闘牛角 Euphorbia schoenlandii
夏の終わりからずっと花が咲き続けています。この闘牛角は少し気になることがあります。


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闘牛角の枝は普通は先端は尖りあまり伸びませんが、このように棍棒状になる枝もあります。最近、棍棒状の枝から小さい枝らしきものが出てきました。この棍棒は挿し木出来るのではないか?と思っています。
と言いますのは、タコものユーフォルビアは通常は枝を挿し木しても細か長い枝がそのままひょろひょろと伸びるだけで、タコものらしい姿にはなりません。しかし、たまに枝の先に子株が出来ることがあり、挿し木により増やすことが出来ます。ですから、闘牛角もタコものユーフォルビアのはしくれですから、子株なのかなあと思った次第です。来年、挿し木してみようかと考えております。


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矢毒キリン Euphorbia virosa
今年の生長は今一つでした。夏前に日差しが強かった影響か動き出すのが涼しくなってからでした。


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Euphorbia leistneri
E. virosaとは対照的に、希少種のE. leistneriはよく生長しました。しかし、残念ながら自生地はダムに沈む運命らしいのです。


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Euphorbia magnifica
かつては、Monadenium magnificumと呼ばれていました。しかし、モナデニウム属はユーフォルビア属に吸収されてしまいました。


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葉の裏の葉脈からもトゲを出す面白い植物です。

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鉄甲丸 Euphorbia bupleurifolia
去年は葉がない夏越でしたが、今年は少し葉があります。思ったより水が好きなことはわかりましたが、適切な日照の強さはわかっていません。まだ、試行錯誤中です。

というわけで、室内への取り込み第2弾は、柱状のユーフォルビアを中心とした縦長組です。先週はPachypodiumと花キリンを取り込みました。しかし、まだ終わっておりません。取り込みはまだまだ続きます。


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Aloidendron dichotomumは代表的な木性アロエです。原産地では巨大に育つことで有名です。現在はアロイデンドロン属とされていますが、かつてはAloe dichotomaと呼ばれていました。
本日はA. dichotomumの発見と命名の経緯について書かれたColin C. Walkerによる2021年の論文『Aloidendron dichotomum The archetypal tree aloe』をご紹介します。私の所感や他の著者の論文による遺伝子解析の情報も追加しました。


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Aloidendron dichotomum

オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。その中には、A. dichotomumの絵も含まれていました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。van der Stelの日記には、A. dichotomumに対する記述があります。時に12フィートとなり、樹皮は硬いが中は柔らかく軽くスポンジ状つ、原住民は矢筒として利用されていることが記されています。これが、おそらくは最も古いA. dichotomumに対する記述でしょう。


次に南アフリカのA. dichotomumを訪れて記述したのは、Francis Massonです。MassonはJoseph Banks卿の命により、イギリス王立植物園のコレクションを強化するために南アフリカに派遣されたプラント・ハンターでした。Massonは数多くの新種の植物を発見しました。Massonは1774年にZwart Doon渓谷で新種のアロエを発見し、Aloe dichotomaと命名しました。 これが、A. dichotomumの最初の命名でしたが、Massonは当時の分類体系に正しく分類したことになります。

さて、A. dichotomumは初めて命名されて以来、200年以上A. dichotomaという学名でした。Aloidendronに移されたのが2013年のことでしたから、まだ10年も経っていないことになります。過去に出た図鑑もAloe dichotomaと表記していますし、販売される時にもAloe dichotomaの名札だったりしますから、Aloe dichotomaの方が馴染みがあります。ただし、現在のアロエ類の分類は、外見上の特徴ではなくて遺伝子解析の結果によりますから、より精度が高いものとなっています。ちなみに、Aloidendronとは、そのままTree Aloeという意味ですからわかりやすいですね。

アロエ類の分子系統図
┏━━━━━━━━★Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

Aloidendronはイギリス王立植物園のデータベースでは7種類が登録されておりますが、論文では6種類について述べられています。
Aloidendronのうち、A. dichotomumに最も近縁と考えられているのが、Aloidendron ramosissimumです。そのため、2000年にはA. dichotomaの変種、2002年には亜種とする考え方も提案されました。しかし、現在ではそれぞれ別種とされております。両種ともに南アフリカのケープ州からナミビアにかけて分布します。A. ramosissimumは枝分かれして高さ3mほどのブッシュ状となり主幹を持たないため、A. dichotomumとは異なり樹木というよりは低木とした方が正しいようです。
同じく南アフリカのケープ州からナミビアに分布するのが、絶滅の危機に瀕しているAloidendron pillansiiです。やはり、2002年にはAloe dichotomaの亜種とする意見もありました。A. pillansiiは幹は直立しますが、枝は少ないようです。また、花序は水平方向に伸びるらしく、花序が直立するA. dichotomumとの区別は簡単です。
他のAloidendronはA. dichotomumとは地理的に離れています。アフリカ南東部にはAloidendron barberaeとAloidendron tongaensisが分布します。A.tongaensisは南アフリカのKwaZulu-Natal州からモザンビークまで、A. barberaeは南アフリカの東ケープ州からKwaZulu-Natal州、北部州、スワジランド、モザンビークまで広く分布します。しかし、論文では2015年のvan Jaarsveldはモザンビークの分布を主張しましたが、2019年のWalkerの報告ではモザンビークでのA. barberaeの存在を確認出来ませんでした。A. barberaeは高さ18mになり、花のサイズとピンクがかった花色でA. dichotomumと区別されます。2010年に発見されたばかりのAloidendron tongaensisは、A.barberaeに似ていますが高さは8mほどです。黄色がかったオレンジ色の花が特徴です。
他のAloidendronとさらに地理的に隔離されているのが、Aloidendron eminensです。A. eminensはソマリアの固有種で分布は非常に狭いと言います。高さは15mまでの直立した幹を持ち、赤色の花を咲かせます。
最後に論文には記載がない7種類目は、Aloidendron sabaeumです。発見は1894年ですがAloidendronとされたのは2014年のことです。驚くべきことにA. sabaeumはアフリカ原産ではなく、サウジアラビアとイエメンに分布します。高さは5mほどで、垂れ下がる葉を持ちます。花は赤色から赤褐色です。ここまではカタログ・データですが、A. sabaeumの画像がいまいち見つかりません。ひょろひょろと細長く伸びて枝分かれしないミニチュアのヤシのような画像は出てきます。生長しても分岐せずに、姿は変わらないのでしょうか?

論文の内容は以上です。多少情報を追加しましたが、Aloidendron dichotomumの発見の経緯などはまったく知らなかったので、私は非常に面白く論文を読みました。こういう話はデータベースを漁るだけでは得られませんから、著者には感謝ですね。
また、この他にもA. dichotomumの絵が書かれた経緯などもありましたが割愛しております。悪しからず。



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最近寒い日があったりして、先週少し多肉植物を室内に取り込みました。しかし、室内の多肉植物置き場の整理がまだで、先週末は1日かけて何とか準備をしました。室内では植物用ライトを当てますから、スチールラックに並べて育てます。
去年はスチールラックに100均のコンテナを並べていました。一鉢ごとに水受け皿を並べるのも面倒なので、大変便利です。ただ、100均のコンテナはA4サイズなので、並べた時にデッドスペースが大きくてどうにも今一つでした。

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並べると角とか縁が重なり、置ける面積が狭くなります。

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一番の問題は、微妙な隙間が出来てしまうことです。右上の鉢は斜めになってしまっています。

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というわけで、こんなものを買ってみました。L型水産コンテナという名前らしいです。何でも、パレット(フォークリフトで運ぶための下敷き)に並べるとちょうどピッチリ並べられるサイズらしいです。

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サイズは今までのコンテナの倍くらいです。

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高さは低め。

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スチールラックに置くと、ちょうどいいサイズです。

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とりあえず、室内に取り込んだ多肉植物は適当に並べただけです。ミニ扇風機もセットしました。

まだ日差しが強いので、植物用ランプは使っていません。窓から入る陽光だけで十分です。ただ、室内は風がなく空気があまり動きませんから、用土の乾きが非常に悪くなります。冬の室内は日中暖かくなっても、水やり後1週間たってもまったく乾かないで、用土がじめじめしていたりしますから、生長が停止したり鈍っている多肉植物はどうしても根腐れしやすくなります。ですから、冬の間はミニ扇風機で風を当てています。タイマーで日中だけの稼働です。小さな扇風機ですが思いの外効果的です。
何でも、予報では私の居住地域の最低気温が5℃まで下がるとのことですから、寒さに弱いユーフォルビアは要注意です。いつまでもだらだらやっていると、気づいた時には12月だなんてことになりかねませんから、この土日で一気に片付ける予定です。


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Euphorbia apparicianaは今年の9月に開催された秋のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入しましたが、その時の記事で「見た瞬間、南米産のユーフォルビアであることがわかりました。独特の雰囲気があります。おそらくは、ユーフォルビア亜属New World Cladeのブラジリエンセス節なのでしょう。」だなんていい加減なことを言いました。しかし、E. apparicianaの画像を検索すると、まるでリプサリスのように枝分かれしながら横に拡がって育つ姿となることがわかりました。私は購入時の姿のまま直立して育つと早合点してしまったので、ユーフォルビア亜属だと思ってしまったわけです。しかし、この育ちかたからするとユーフォルビア亜属ではありません。では、E. apparicianaは分類学上どの位置にいるとされているのでしょうか?

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Euphorbia appariciana

調べてみると、どうやらChamaesyce亜属のようです。しかし、困ったことに私はChamaesyce亜属に詳しくありません。過去に調べて記事にしたのは、柱サボテン状のユーフォルビアや花キリンなど、多肉ユーフォルビアの大半を含むEuphorbia亜属と、タコものやオベサ、ホリダなどを含むRhizanthium亜属でした。残りのEsula亜属やChamaesyce亜属の大半は多肉植物ではない草本で、雑草や山野草が多いため論文は見つけていたものの、読んでいませんでした。
その論文は2012年のYa Yang, Ricarda Riina, Jeffery J. Morawetz, Thomas Haevermans, Xavier Aubriot & Paul E. Berryの『Molecular phylogenetics and classification of Euphorbia subgenus Chamaesyce (Euphorbiaceae)』です。Chamaesyce亜属のユーフォルビアは学名を見ても馴染みがないので、よくわかりません。というわけで、内容は詳しく読んでいないのですが、とりあえずChamaesyce亜属の遺伝子解析による系統図では、E. apparicianaはChamaesyce亜属Section Crossadenia(クロサデニア節)、Subsection Apparicianae(アパリキアナ亜節)とのことです。Crossadenia節の分子系統を示しましょう。


Section Crossadenia 
    ┏━━☆Subsection Appariciana
━┫
    ┃┏━◇Subsection Gueinziae
    ┗┫
        ┗━▽Subsection Sarcodes

        ┏━━━━☆E. flaviana
    ┏┫
    ┃┗━☆E. appariciana
    ┃
━┫    ┏━━━◇E. gueinzii
    ┃    ┃
    ┃    ┃        ┏━▽E. gymnoclada
    ┗━┫        ┃
            ┃    ┏┫        ┏▽E. sarcodes
            ┃    ┃┗━━┫
            ┗━┫            ┗▽E. goyazensis
                    ┃
                    ┃    ┏▽E. lycioides
                    ┗━┫
                            ┃    ┏━▽E. sessilifolia
                            ┗━┫
                                    ┗▽E. crossadenia

Gueinziae亜節のE. gueinziiだけは南アフリカ原産の塊根植物ですが、それ以外はブラジル原産です。Crossadenia節はE. appariciana以外も面白そうな種類がありそうです。気になったので調べてみるとCrossadenia節について書かれた論文を見つけました。2016年のOtávia Marques, Inês Cordeiro & Ricarda Riinaの『Lovers of sandy habitats and rocky outcrops : Euphorbia section Crossadenia』です。

論文のタイトルにありますように、Crossadenia節は砂質あるいは岩質の過酷な環境を好みます。まずは、このCrossadenia節の話から始めましょう。
Crossadenia節はスイスのPierre Edmond Boissierが1862年に提案しました。この時、E. gymnocladaをタイプ種(分類群を作るための代表種)として確立しました。この時のCrossadenia節は5種類で、E. goyazensis、E. gymnoclada、E. lycioides、E. sarcodes、E. sessilifoliaでした。このうち、E. goyazensis、E. gymnoclada、E. lycioides、E. sarcodesはBoissierが1860年に命名されました。E. sasessilifoliaはBoissierが1862年に命名しています。ただ、命名者はKlotzsch ex Boissとなっており、はじめドイツのJohann Friedrich 
Klotzschにより発表されたが、何かしらの要件を満たしていなかったために、BoissierによりKlotzschを引用して正式に発表したということなのでしょう。
その後、1923年にドイツのFerdinand Albin PaxとKäthe HoffmannによりE. crossadeniaが、1989年にブラジルのCarlos Toledo RizziniによりE. apparicianaが命名されました。さらに、2008年にはM. Machado & HofackerによりE. teresが、そして2012年にはE. flavianaがCarn-Torres & Cordeiroにより命名されました。2013年にV. W. SteinmによりE. riinaeが命名されています。E. riinaeはボリビア原産ですが、それ以外はブラジル原産です。

Appariciana亜節は3種(E. appariciana, E. flaviana, E. teres)、Ephedropeplus亜節は7種(E. crossadenia, E. goyazensis, E. gymnoclada, E. lycioides, E. sarcodes, E. sessilifolia, E. riinae)です。Ephedropeplus亜節とはSarcodes亜節の同義語です。Ephedropeplus亜節は1874年の命名、Sarcodes亜節は2012年の命名ですから、Ephedropeplus亜節が優先されます。

Crossadenia節の特徴はPencil-stem、つまりは棒状の茎を持ちます。Appariciana亜節は脱落性の葉と鋸歯状付属体、5つのシアチアル腺があります。Ephedropeplus亜節はよく発達した葉と4つのシアチアル腺、線毛付属体があります。ただし、E. gymnocladaはEphedropeplus亜節ですが、例外的に5つのシアチアル腺を持ちます。
Crossadenia節の中でE. apparicianaだけはリブ付きの茎を持ちます。つまりは、茎の断面が歯車状となっているのです。
DSC_1884
Euphorbia apparicianaの特殊な茎

ブラジルのセラード(Cerrado、熱帯サバンナ、強酸性の赤土地帯)やCaating地域(トゲのある低木が生える半乾燥熱帯林)に自生するCrossadenia節は3種類(E. appariciana, E. crossadenia, E. gymnoclada)です。E. apparicianaとE. crossadeniaは絶滅危惧種、E. gymnocladaは危急種です。このうち、一般に栽培されているのはE. apparicianaだけです。


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ユーフォルビア属は傷付くと乳液を出しますが、この乳液には毒性があります。この乳液が肌につくと炎症、ひどいと水ぶくれを引き起こすと言われています。ただし、ユーフォルビアの毒性は種類により異なります。ユーフォルビアの中でも特に毒性が強いと言われるのが、Euphorbia poissonii、Euphorbia venenifica、Euphorbia unispinaの、誰が呼んだか「猛毒三兄弟」です。猛毒三兄弟は円筒形の木質化するもあまり太くならない茎を持ち、先端から多肉質の葉を出します。海外では"Cylindrical Euphorbia"なんて呼ばれています。しかし、このEuphorbia venenificaという学名と、Euphorbia unispinaとの関係性については議論があるようです。

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Euphorbia poissonii

本日ご紹介するのは、2020年にOdile Weber、Ergua Atinafe、Tesfaye Awas & Ib Friisの発表した『Euphorbia venefica Tremaux ex Kotschy (Euphorbiaceae) and other shrub-like cylindrically stemmed Euphorbia with spirally arranged single spines』です。
まず、エチオピアを調査してE. venenificaを探しました。さらに、世界中の大学や博物館に収蔵されている標本や資料を調査しました。
資料によると、フランスの写真家、建築家のPierre Tr
émauxがスーダンでE. venenificaと思われるユーフォルビアを発見し、1853年にEuphorbia mamillaris Trémauxと命名しました。しかし、E. venenificaは適切に命名されずかなりの混乱を経験したようです。Euphorbia mamillarisは1753年に命名されたEuphorbia mammillaris L.とmが入らないだけの同名であり混同される可能性があります。1857年にKotschyはE. venenificaに対する新しい情報と説明を提供しました。この時のドイツ語の説明では、Euphorbia veneficaという学名がつけられていました。これは命名規約の要件を満たしたものであり、Euphorbia venenificaと呼ばれている植物は、Euphorbia venefica Trémaux ex Kotschyが正しい学名であるとしています。しかし、その後はSchweinfurth(1862 & 1867, 1873)やBrown(1911)は、E. veneficaではなくE. venenificaと表記しています。
国際命名規約ではタイプミスや正書法の誤りの修正を除いて、元の綴りを保持する必要があるとしています。E. veneficaもE. venenificaも、毒を表す"venenum"というラテン語に基づいています。
ただし、E. veneficaに綴り上の誤りはなく、E. venenificaへの変更は命名規約上は認められないということです。上記のことからE. venenificaについては、ここからはE. veneficaと呼ぶことにします。

さて、Cylindrical Euphorbiaには、E. venefica、E. unispina、E. poissonii、E. sapinii、E. darbandensisが知られています。このうち、E. sapiniiとE. darbandensisは資料が不十分なため、論文では扱われておりません。また、E. veneficaに一見類似したE. sudanicaとE. pagonumは、茎のコルク質があまり発達しないなど、E. veneficaと明らかに特徴が異なります。著者は特徴が一致するE. venefica、E. unispina、E. poissoniiについて、その違いを詳しく調べています。

まず、E. veneficaとE. unispinaは、葉の形に違いがあるとされています。しかし、著者の調べた限りでは、どうやら葉の形の違いはE. veneficaの個体ごとの変異幅の範囲に収まってしまうと言います。E. veneficaは東アフリカ、E. unispinaはギニア湾沿いから東アフリカまで広く分布します。しかし、どちらかと言えば東アフリカと西アフリカで葉の形が異なるのではないかと述べています。つまりは、今まで言われてきたE. veneficaとE. unispinaの特徴は、どうやら当てはまらないということになります。よって、E. veneficaとE. unispinaは区別出来ない以上は、これらは同種であるというのが著者の主張です。

では、E. veneficaとE. poissoniiの関係はどうでしょうか。E. poissoniiの際立った特徴として、トゲがないことがあげられます。また、若い苗ではまれにトゲが見られることもあるそうです。ただし、1992年のNewtonのレビューでは、トゲの有無によるものではなく、大きい緑色のCyathia(Euphorbia特有の杯状の花)を持つものをE. poissonii、小さく赤色のCyathiaを持つものをE. unispinaとしました。ところが、Cyathiaの色は乾燥標本にすると色褪せてしまうため、過去の標本で確認出来ませんでした。
また、雄花が赤くなることがあると趣味家に指摘されることがあるそうです。また、実際の植物のCyathiaの観察では、種類ごとの共通した特徴は見られませんでした。
さて、やや混沌としてきましたが、E. poissoniiに関する歴史を振り返ります。1969年にRauhは植物園で行われた発生形態学的研究により、E. poissonii、E. venefica、E. unispina、E. sapinii、E. darbandensisは、同一種内であっても葉の形状とトゲの形成にはバリエーションがあるとしています。したがって、これらをE. venenifica(=E. venefica)の変種と見なすことを提案しました。2004年にArbonnierはRauhの結論に同意して、E. venefica、E. unispinaをE. poissoniiと同種であるとしました。しかし、
先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」からすると、これは誤りです。E. veneficaは1857年、E. unispinaは1911年、
E. poissoniiは1902年の命名ですから、命名が一番早いE. veneficaとされるべきです。
ただし、著者は詳細にE. veneficaとE. poissoniiの特徴を比較検討した結果、特徴が異なることを明らかにしました。よって、E. veneficaとE. poissoniiは別種とすべきとしております。

E. venefica
・トゲはよく発達し長さ8mmまで。
・果実の小花柄は5mm以内。

E. poissonii
・トゲは若い苗の時はあるが、成体では全くないか未発達。
・果実の小花柄は5mm以上。

以上が論文の内容となります。著者の主張をまとめますと、E. venenificaという学名は誤りで、正しくはE. venefica、②E. veneficaとE. unispinaは同種であり、E. veneficaとすべきである、③E. veneficaとE. poissoniiは別種、ということになります。このうち、①と③は認められていますが、②はこれからかもしれません。イギリス王立植物園のデータベースでは以下のようになっていました。


Euphorbia venefica
                  Trémaux ex Kotschy, 1857
    異名 : Euphorbia mamillaris 
                   Trémaux, 1853
               ※nomen illegitimum
・Euphorbia unispina N.E.Br., 1911
・Euphorbia poissonii Pax, 1902

ちゃんと、E. venenificaはE. veneficaとなっていますが、E. unispinaは健在です。また、E. mamillarisは
nomen illegitimum=非合法名とされております。

最後にE. poissoniiについて、私の所有苗を観察してみます。
DSC_1875
葉の付け根に2~3mmの小さなトゲがありますが、脆くて直ぐに脱落してしまいます。生長すると出なくなるのでしょうか。

DSC_1877
若い葉は先端が平らで、頂点は少し尖ります。

DSC_1878
成熟した葉は先端がやや凹みます。

まとめ : 猛毒三兄弟の長男はE. venenificaと呼ばれがちでしたが、本名はE. veneficaでした。次男はE. poissoniiです。三男E. unispinaは長男E. veneficaと同一人物でした。


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草花の花は美しく私達の目を楽しませてくれますが、植物達は私達を楽しませるために花を咲かせているわけではありません。受粉のために昆虫や鳥などを呼び寄せる際の目印として、目立つ花を咲かせているのです。もちろん、植物は花粉を運んでもらう報酬として、甘い蜜を準備しています。花に集まる昆虫や鳥もタダ働きは御免でしょうから、働きに見合う甘い蜜は必要なのです。
最近は多肉植物の花の受粉に関する論文を記事としてご紹介してきました。これまでの記事は花粉を運ぶポリネーターについての話でした。少し視点を変えて、本日はこの甘い蜜のお話をしましょう。

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Haworthiopsis scabra

よく考えてみると、花の話題はあっても、花の蜜の話題はあまり聞かない気がします。まあ、我々が直に花の蜜を吸うわけではないので、花の蜜と言えば蜂蜜くらいなものですからね。
ポリネーター(花粉媒介者)に対するアピールとして重要なのは、花の色や大きさ、形状です。花の色によって反応するポリネーターは異なります。しかし、花の蜜の成分はどうでしょうか。植物により異なるのでしょうか。あるいは、その成分とポリネーターの種類には相関があるのでしょうか。
とりあえず、多肉植物の蜜に関する論文を漁ってみたところ見つけたのが、G. F. Smith, B-E. van Wyk, E. M. A. Steyn & I. Breuerの2001年の論文、『Infrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』です。

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Haworthiopsis attenuata

まず、アロエ類についておさらいしましょう。アロエ類とは、古典的な分類ではAloe(広義)、Haworthia(広義)、Gasteria、Astrolobaからなる植物です。しかし、最近では遺伝子解析の進展により、Aloe(広義)は解体されてAloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Gonialoe、Arirtaloeとなり、Haworthia(広義)も、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなりました。しかし、この論文が出た時点ではここら辺の話はまだ出て来ておりませんでした。むしろ当時の問題点は、球根様のChortolirionや液果を持つLomatophyllumはAloeか否かとか、花が異なるPoellnitziaがAstrolobaか否かということでした。これらは研究者によって見解が異なるため、かなりの議論があったようです。現在では、遺伝子解析により、ChortolirionやLomatophyllumはAloeの、PoellnitziaはAstrolobaの特殊化したものに過ぎないことがわかりました。さて、前提はここまでにして、論文の内容に移りましょう。花の蜜を分析して、蜜に含まれる糖の種類の割合を算出しています。蜜に含まれる糖は、果糖(フルクトース)、ブドウ糖(グルコース)、ショ糖(スクロース)です。以下の一覧は、2001年当時ですから学名が現在と一部異なります。括弧の中は【フルクトース, グルコース, スクロース】の割合(%)を示しています。

Haworthia亜属(=狭義のHaworthia)
1   H. angustifolia             【 4, 48, 48】
2   H. angustifolia
       fa. baylissii                 【10, 25, 65】
3   H. arachnoidea①        【13, 51, 36】
4   H. arachnoidea②        【  5, 50, 45】
5   H. blackburniae           【24, 43, 33】
6   H. bolusii                      【  6, 39, 55】
7   H. comptoniana          【  4, 54, 42】
8   H. cooperi                    【  5, 39, 56】
9   H. cymbiformis
     var. cymbiformis          【14, 55, 31】
10 H. decipiens①             【  7, 51, 42】
11 H. decipiens②             【  9, 61, 30】
12 H. divergens                 【16, 52, 32】
13 H. emelyae①               【  8, 54, 38】
14 H. emelyae②               【12, 59, 29】
15 H. habdomadis
       var. morrisiae              【  2, 48, 50】
16 H. herbacea                  【19, 46, 35】
17 H. maculata①              【17, 49, 34】
18 H. maculata②              【16, 58, 26】
19 H. margnifica
       var. maraisii                 【  1, 50, 49】
20 H. marumiana               【16, 54, 30】
21 H. maughanii                 【  7, 58, 35】
22 H. nortierii                      【20, 60, 20】
23 H. pubescens                【11, 46, 43】
24 H. retusa                        【  4, 44, 52】
25 H. retusa
       var. dekenahii              【10, 39, 51】
26 H. rycroftiana                【  6, 57, 37】
27 H. semiviva                    【16, 52, 32】
28 H. truncata                     【  7, 47, 46】
29 H. unicolor                      【  5, 45, 50】
30 H. xiphiophylla               【25, 48, 27】
31 H. glauca                         【  1, 19, 80】

いわゆる軟葉系ハウォルチア、狭義のHaworthiaはグルコースあるいはスクロースが主成分です。フルクトースは少ないのですが、多いものでも25%程度です。

Hexangulares亜属(=Haworthiopsis)
32 H. koelmaniorum①    【  5, 23, 72】
33 H. koelmaniorum②    【  8, 28, 64】
34 H. limifolia
        var. limifolia①           【  4, 41, 55】
35 H. limifolia
        var. limifolia②           【  3, 24, 73】
36 H. limifolia
        var. limifolia③           【11, 29, 60】
37 H. limifolia
        var. gigantea             【  4, 34, 62】
38 H. longiana①              【  3, 20, 77】
39 H. longiana②              【  7, 19, 74】
40 H. nigra                        【   - , 25, 75】
41 H. venosa
     subsp. granulata①     【  5, 25, 70】
42 H. venosa
     subsp. granulata②     【  4, 24, 72】
43 H. venosa
     subsp. granulata③     【  8, 30, 62】
44 H. venosa
     subsp. tessellata①    【  1, 29, 70】
45 H. venosa
     subsp. tessellata②    【  2, 24, 74】
46 H. viscosa①               【  2, 32, 66】
47 H. viscosa②               【  4, 33, 63】
48 H. woolley                   【  1, 22, 77】

硬葉系ハウォルチア、つまりはHaworthiopsisはスクロースが主成分です。狭義のHaworthiaとの違いが目立ちます。
Haworthiopsisの中でもH. koelmaniorumやH. limifoliaは遺伝子解析の結果では、やや位置が異なると見られていますが、蜜の成分はHaworthiopsisとしては普通です。

Robustipeduculares亜属(=Tulista)
49 H. minima                  【  7, 24, 69】
50 H. pumila①               【  1, 14, 85】
51 H. pumila②               【  3 , 17, 80】
52 H. pumila③               【  7, 19, 74】

Tulistaはサンプルが少ないのが残念ですが、スクロースの比率が非常に高いようです。実はTulistaは狭義のHaworthiaやHaworthiopsisより、AstrolobaやArirtaloeと近縁です。
ちなみに、H. minimaは現在ではTulista minorとされています。

交配種など
53 H. woolley
         × H. sordida           【  4, 29, 67】
54 H. viscosa
         × H. longiana         【  8, 27, 65】
55 H. subg.
   Haworthia sp. nov.     【  6, 55, 39】
56 H. tortuosa                【11, 31, 58】
57 H. mcmurtryi             【  7, 26, 67】

Astroloba
58 A. bullulata                【20, 46, 34】
59 A. spiralis
      subsp. spiralis          【  2, 13, 85】
60 A. spiralis
      subsp. foliolosa①   【  4, 16, 80】
61 A. spiralis
      subsp. foliolosa②   【  7, 29, 64】
62 A. spiralis
      subsp. foliolosa③   【  9, 32, 64】

Astrolobaはスクロースの比率が高いようです。A. bullulataは異なります。
ちなみに、A. spiralis subsp. foliolosaはA. foliolosaとして独立種とされています。

Chortolirion
63 C. angolense①        【  8, 21, 71】
64 C. angolense②        【  8, 19, 73】
65 C. angolense③        【  7, 20, 73】

Chortolirionはスクロースの比率が高いようです。Chortolirionは現在はAloeとされていますが、Aloeの蜜の成分と比較したいところです。

蜜の糖の成分がこれ程、属ごとに異なるとは思いませんでした。むしろ、種類ごとにバラバラでもおかしくはないと思っていました。意外です。
蜜の成分とポリネーター(花粉媒介者)との関係性はどうなのでしょうか? 大型アロエは鳥媒花ですが、Chortolirionはわかりませんが同じ鳥媒花だとしたらスクロース比率が高いのでしょうか。しかし、Haworthia、Haworthiopsis、Astrolobaは虫媒花ですが、割と成分の比率は異なります。ただし、ターゲットの昆虫が異なる可能性はあり、蜜の成分の違いと花に集まる昆虫の関係性も気になります。
最大の疑問はAstroloba rubrifloraの蜜の成分でしょう。A. rubrifloraはかつてPoellnitziaとされていました。これは、白花で虫媒花であるAstrolobaに対し、赤い花で鳥媒花のPoellnitzia rubrifloraという違いがあったためです。ポリネーターが異なることと蜜の関係性が一番わかりやすい例でしょう。
どうにも知りたいことが多すぎて困ってしまいます。他に論文がないかさらに詳しく調べてみます。


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