Euphorbia flanaganiiは南アフリカ原産の多肉質なユーフォルビアです。日本では「孔雀丸」の名前があります。一般にタコもの、海外ではMedusoid Euphorbiasと呼ばれるタイプのユーフォルビアで、主頭から一過性の枝を放射状に出します。E. flanaganiiはタコものでは小型で、丈夫で育てやすい入門種となっています。タコものは基本的に普及しておらず、ある程度コンスタントに流通しているのはE. flanaganiiとE. gorgonisくらいですが、E. gorgonisはそれなりに高価なので、安価なE. flanaganiiは初めてのタコものユーフォルビアとしてはうってつけです。そんなE. flanaganiiの情報を少し調べて見ました。

DSC_0189
通常はこのように枝が細長く伸びます。

DSC_0580
一枚目と同じ株ですが、良く日に当てて締めて育てると、このように太く短い枝が出ます。

さて、まずは学名から見ていきましょう。学名は1915年の命名で、Euphorbia flanaganii N.E.Br.です。異名として、1915年に命名されたEuphorbia discreta N.E.Br.、Euphorbia passa N.E.Br.があります。この2つの異名はすべてN.E.Brownにより記載されましたが、どうやらE. flanaganiiと同じ論文で公表されています。BrownはE. flanaganiiを3種類に分けて、それぞれを別種と考えたようです。しかし、3つの名前の中で、E. flanaganiiが正統な学名とされたのは何故なのでしょうか?
国際命名規約によると、学名は早く命名された名前を優先する「先取権の原理」により正統性が決定されます。しかし、E. flanaganiiのように同時に記載された場合、その論文を引用して記述された最初の名前を正統とする「第一校訂者の原理」により決定された可能性があります。残念ながら、調べた限りではその校訂者は分かりませんでした。あるいは、単に学術的な混乱が起きかねないので、論文などで最も良く使われている学名を正統とする、というパターンもあるにはあります。


ここで、P.V.Bruynsの2012年の論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』を見てみましょう。この論文は南アフリカに分布するユーフォルビアのリストを、ひたすらに列挙した面白味のないものです。ただ、初めて命名された論文、タイプ標本の情報、異名について調べられており、大変便利なものです。E. flanaganiiについてはどう書かれているでしょうか?
E. flanaganii N.E.Br., Flora capensis 5(2): 314(1915).
Type: South Africa, Cape, grassy slopes near Kei Mouth, 100' , June 1893, Flanagan…(以下略)
一行目は、E. flanaganiiは「Flora capensis」という雑誌の1915年の5号の2の314ページで、N.E.Br.により初めて記載されたことが書かれています。N.E.Br.はイギリスの植物学者であるNicholas Edward Brownのことで、特にMesembryanthemumをはじめとした南アフリカの多肉植物の研究で有名です。
以降はタイプ標本の話で詳細は割愛しましたが、「南アフリカケープのKei Mouthの近く草地の斜面100フィート」で、「1893年の6月にFlanaganが」採取したとあります。Flanaganは南アフリカの植物収集家のHenry George Flanagan(1861-1919)のことでしょうか? すると、種小名の"flanaganii"とは、Brownが標本を記載の22年前に採取したFlanaganに対して献名したということなのでしょう。

ここで、BruynsはE. flanaganiiとその類似種についてまとめています。それによると、1915年のBrownは、E. discreta、E. ernestii、E. flanaganii、E. flanksiae、E. gatbergensis、E. passa、E. woodiiを別種として認識しました。1941年のWhiteらは、E. discreta、E. passaをE. woodiiの異名としました。Brownはこれらの植物がサイズや枝の数が大きく変動することを観察しました。それにも関わらず、BrownはE. flanaganiiはE. woodiiより「はるかに短い枝」という特徴により区別しました。Whiteらは個体ごとの大きさの変動があることから、それは意味をなさないと考えました。E. woodiiは子房に長い毛がありますが、E. flanaganiiには毛がないか短いので分けられるという考え方もあります。しかし、Bruynsは毛のある個体とない個体がいるだけなので、区別する方法としては不適切であるとしています。そのため、BruynsはこれらのタコものユーフォルビアをすべてE. flanaganiiと同一種と判断しました。
しかし、以上の論考は現在認められておらず、Whiteらの主張通りE. passaとE. discreta以外はE. flanaganiiの異名となり、それ以外は独立種とされています。このBruynsの論文は便利なためかよく引用されていますが、基本的に類似した種を1つにまとめる傾向があるため、異名に関しては注意して読む必要があります。

次に「LLIFLE」というサイトの情報を見てみます。それによると、原産地は南アフリカの東ケープ州、旧・Transkeiとの境界、あるいはEast London、Komgha districts、Kei Mouth、Mazeppa Bayなどの砂地の草原に局在します。Jellyfish Head Euphorbia、Medusa's Head、Medusahoved、Green Crown、Medusa Headなどと呼ばれます。


最後に1976年の「Kakteen und andere Sukkuleten」から、David V. BrewertonによるE. flanaganiiの解説を見てみましょう。
Euphorbia flanaganiiは南アフリカに由来します。ヤコブセン博士はグループ13、PseudomedusaeのE. gorgonis、E. pugniformis、E. woodiiの仲間としました。
円錐円筒形の主幹は高さ約5cmで、イボ状で多数の枝が伸び長さ10cm、太さ6~8mm になります。
E. flanaganiiの世話はそれほど難しくありません。通常の温室で十分です。生長期は年の初めに始まります。豊富な散水を許容し、よく生長します。冬は約10℃に保ちます。しかし、あまり長い間完全に乾燥させてはなりません。枝が縮小してしまいます。もし、完全に乾燥させたなら、2~3℃あるいはそれ以下まで耐えられますが、枝は死にます。枯れ枝は鋭いナイフで取り除くことが出来ますが、保護手袋やゴーグル、作業後の手洗いをおすすめします。
自然の植物の説明やイラストはありません。光が弱く細長く育ち勝ちですが、出来るだけ日当たりのよい場所に置くべきです。また、E. flanaganiiはEuphorbia cap-medusaeと誤ってラベルされてものが頻繁に販売されています。E. flanaganiiは真夏の遮光と、冬の暖かさを必要としています。


とまあ、こんなところです。いかがでしょうか? 日本のブログでは海外の有名なサイトの翻訳をそのまま張ったものが散見されますが、今回はちょっとマニアックな情報を集めてみました。E. flanaganiiという普及種でも調べるとなかなか面白いものです。
また、E. passaとE. discretaをE. flanaganiiの異名としたWhiteらの論文が、1915年に同時に命名された3種類の中でE. flanaganiiを正統な学名とした根拠かなあとも思いましたが、確かめる術がありませんでした。それには、E. flanaganiiの名前が出てくる論文を1915年以降すべて調べなければなりませんから、素人の私には土台からして無理な話でしたね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村