サボテンは種類が多く趣味家も多いせいか、多肉植物の中では割と研究されている方だと思います。しかし、残念ながら私の好きなGymnocalyciumについての論文はほとんどありません。そんな中、去年発表されたばかりのGymnocalyciumの論文を見つけました。という訳で本日はMartino P, Gurvich E.D, Las Penas M.L.の2022年の論文、『DNA CONTENT AND CYTOGENETIC CHARACTERISTIC OF Gymnocalycium quehlianum (CACTACEAE) ALONG AN ALTITUDINAL GRADIENT』をご紹介します。
植物は標高により植生が変わることは一般的なことであり、世界中で見られる普遍的な現象です。それはサボテンも同様で、標高により異なるサボテンが見られます。Gymnocalyciumもまた標高により見られる種類が異なります。Gymnocalyciumは南アメリカに固有の属であり、約50種類からなります。一般的に地理的分布は狭いとされています。
Gymnocalycium quehlianumはアルゼンチンのCordoba州に固有で、Sierra ChicaからSierra Norteまでの、標高500~1200mの山岳に生えます(Charles 2009, Gurvich et al. 2004)。G. quehlianumは灰色がかった緑色で、小さな放射状のトゲを持つ肋(ribs)、奥が赤みを帯びた白い花を咲かせます(Charles 2009, Kiesling and Ferrari 2009)。ちなみに、G. quehlianumはTrichomosemineum亜属に分類されます。
瑞昌玉、竜頭、鳳頭などはGymnocalycium quehlianumの1タイプとされます。
「瑞昌玉」
「竜頭」
「鳳頭」
さて、標高の変化は環境も変動しますから、遺伝的な違いが生まれている可能性があります。一般的に標高が高くなると気温は低下し日照は弱まります。環境に適応するために起こりうることが想定されるのは倍数体とゲノムサイズの変動です。生物は一般的に二倍体です。しかし、植物はゲノムが重複して三倍体や四倍体となったものも普通に見られます。倍数体は種分化と種の多様性のパターンに影響を与える要因です。取り敢えず過去に調べられた情報では、D. quehlianumは二倍体であるDNA量は6.46pg(2C)だったということです(Das and Das 1998)。
※1pg(ピコグラム)は1mgの10億分の1の重さ。
著者らはSan Marcos SierraとCamino del Cuadradoの標高勾配に沿う4つのG. quehlianum集団を調査しました。植生は亜熱帯乾燥林から温帯草地まで様々でした。今回の調査ではG. quehlianumは二倍体でした。さらに、2Cという部分のDNA量は、標高615mで4.3pg、標高744mでは3.83pg、標高948mでは3.89m、標高1257mでは3.55pgでした(※1)。また、1998年の論文では2Cは6.46pgでしたから、今回の結果と大分異なります。しかし、これは解析方法が異なり、この論文で用いた手法は非常に感度が高く正確な値であるということです。
このゲノムサイズの違いは、高温や乾燥への適応である可能性があります。また、著者らは2021年にこの4つの集団では遺伝的特徴よりも生態学的特徴の変動が大きいことを報告しています。
※ 1 ) 確かに違いはありますが、これだけだと615m>948m>744m>1257mとなり、標高と関連があるとは言いがたいように思えます。しかし、DNAの他の部分(4c, 8C, Cx)を見てみると、基本的に615m>744m≧948m>1257mであることが分かります。傾向としては、低地>中間地点>高地と言えるでしょう。
以上が論文の簡単な要約となります。
このように、新たな知見が得られたことは大変喜ばしいことなのですが、それなりに問題もあります。例えば、今回は標高を指標にしていますが、同じ標高の離れた地点ではどうなっているのでしょうか? 単純に距離が離れたものは違いが大きいというだけかもしれません。では採取地点の地形を見てみましょう。採取地点同士の距離と、集団ごとの隔離具合が分かります。その結果はやや微妙なものでした。というのも、山の低地から高地までの一直線上に生える4地点をイメージしていましたが、全く異なっていたからです。615mと744mの地点は割と近く、確かに一直線上の低地と高地でした。それでも16kmほどの距離があります。744m地点から948m地点まで30kmほどの距離がありますが、山を越えた場所なのでやや比較が難しいように思えます。しかし、距離があり山向こうでも、744m地点と948m地点のDNA量は似ていました。なんとなく、標高とゲノムサイズに相関があるような気がします。何れにせよ、調査地点を増やして関係を見ないと、意味があるのは垂直距離なのか水平距離なのかは断言出来ないでしょう。
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植物は標高により植生が変わることは一般的なことであり、世界中で見られる普遍的な現象です。それはサボテンも同様で、標高により異なるサボテンが見られます。Gymnocalyciumもまた標高により見られる種類が異なります。Gymnocalyciumは南アメリカに固有の属であり、約50種類からなります。一般的に地理的分布は狭いとされています。
Gymnocalycium quehlianumはアルゼンチンのCordoba州に固有で、Sierra ChicaからSierra Norteまでの、標高500~1200mの山岳に生えます(Charles 2009, Gurvich et al. 2004)。G. quehlianumは灰色がかった緑色で、小さな放射状のトゲを持つ肋(ribs)、奥が赤みを帯びた白い花を咲かせます(Charles 2009, Kiesling and Ferrari 2009)。ちなみに、G. quehlianumはTrichomosemineum亜属に分類されます。
瑞昌玉、竜頭、鳳頭などはGymnocalycium quehlianumの1タイプとされます。
「瑞昌玉」
「竜頭」
「鳳頭」
さて、標高の変化は環境も変動しますから、遺伝的な違いが生まれている可能性があります。一般的に標高が高くなると気温は低下し日照は弱まります。環境に適応するために起こりうることが想定されるのは倍数体とゲノムサイズの変動です。生物は一般的に二倍体です。しかし、植物はゲノムが重複して三倍体や四倍体となったものも普通に見られます。倍数体は種分化と種の多様性のパターンに影響を与える要因です。取り敢えず過去に調べられた情報では、D. quehlianumは二倍体であるDNA量は6.46pg(2C)だったということです(Das and Das 1998)。
※1pg(ピコグラム)は1mgの10億分の1の重さ。
著者らはSan Marcos SierraとCamino del Cuadradoの標高勾配に沿う4つのG. quehlianum集団を調査しました。植生は亜熱帯乾燥林から温帯草地まで様々でした。今回の調査ではG. quehlianumは二倍体でした。さらに、2Cという部分のDNA量は、標高615mで4.3pg、標高744mでは3.83pg、標高948mでは3.89m、標高1257mでは3.55pgでした(※1)。また、1998年の論文では2Cは6.46pgでしたから、今回の結果と大分異なります。しかし、これは解析方法が異なり、この論文で用いた手法は非常に感度が高く正確な値であるということです。
このゲノムサイズの違いは、高温や乾燥への適応である可能性があります。また、著者らは2021年にこの4つの集団では遺伝的特徴よりも生態学的特徴の変動が大きいことを報告しています。
※ 1 ) 確かに違いはありますが、これだけだと615m>948m>744m>1257mとなり、標高と関連があるとは言いがたいように思えます。しかし、DNAの他の部分(4c, 8C, Cx)を見てみると、基本的に615m>744m≧948m>1257mであることが分かります。傾向としては、低地>中間地点>高地と言えるでしょう。
以上が論文の簡単な要約となります。
このように、新たな知見が得られたことは大変喜ばしいことなのですが、それなりに問題もあります。例えば、今回は標高を指標にしていますが、同じ標高の離れた地点ではどうなっているのでしょうか? 単純に距離が離れたものは違いが大きいというだけかもしれません。では採取地点の地形を見てみましょう。採取地点同士の距離と、集団ごとの隔離具合が分かります。その結果はやや微妙なものでした。というのも、山の低地から高地までの一直線上に生える4地点をイメージしていましたが、全く異なっていたからです。615mと744mの地点は割と近く、確かに一直線上の低地と高地でした。それでも16kmほどの距離があります。744m地点から948m地点まで30kmほどの距離がありますが、山を越えた場所なのでやや比較が難しいように思えます。しかし、距離があり山向こうでも、744m地点と948m地点のDNA量は似ていました。なんとなく、標高とゲノムサイズに相関があるような気がします。何れにせよ、調査地点を増やして関係を見ないと、意味があるのは垂直距離なのか水平距離なのかは断言出来ないでしょう。
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