花を咲かせる植物は花粉を作りますが、花粉は受粉して種子を作るためです。というよりも、花粉のために花があるといった方が正しいかもしれません。受粉が風任せな風媒花(杉などの針葉樹、オオブタクサ、イネ科植物など)は目立たない花を咲かせますが、昆虫を呼び寄せて花粉を運んでもらう虫媒花は、昆虫を呼び寄せるために目立つ花を咲かせるのです。
もちろん、風媒花以外の花はすべて虫媒花という訳ではありません。アフリカのタイヨウチョウや新大陸のハチドリなど花の蜜を専門とする鳥もいることから、鳥媒花も存在します。また、コウモリにより受粉する蝙蝠媒花も存在します。とは言うものの、やはり動物による花粉の媒介は、その多くが昆虫によるものと考えられています。
アフリカの鳥媒花については、こちらの記事をご参照下さい。
蝙蝠媒花については、こちらの記事をご参照下さい。
一口に虫媒花と言っても花粉を媒介する昆虫は様々です。花を訪れる昆虫と言えば蜜蜂や蝶が思い浮かびますが、それだけではなく蝿や蛾も重要なポリネーター(花粉媒介者)です。これらの花と花粉を媒介する昆虫の関係について書かれた石井博の著作、『花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学』(2020年、ベレ出版)を本日はご紹介します。
花粉を運ぶ昆虫と言えばミツバチを思い浮かべますが。これは養蜂からの発想に過ぎません。実際には狩りバチや寄生バチ、ハバチなど様々なタイプのハチが花を訪れます。その中でも重要なのはハナバチの仲間です。ハナバチは非常に種類も多く、ハナバチが訪れることが重要な意味を持つ植物も多いようです。赤・橙・黄色系統の花を咲かせるアロエにもハチは訪れますから、暖色系の赤色の花にハチが来ると思っていましたが、ハチは赤色を認識出来ないようです。まあ、アロエの花は純粋な赤色ではないので、特におかしなことではないのでしょう。また、ハチが訪れる花の色は様々で幅が広く、それほど強い傾向はないようです。まあ、ハチの種類ごとには傾向があるのかもしれませんが。
しかし、ハチの口器の形からして、筒状あるいは先端や根元がすぼまった形の花からは採蜜は出来ないでしょう。例外はあるようですが基本的には開いた花に訪れます。ハチが訪れる花には、花の中央付近の色が濃くなったり異なる色の模様が入っているものが割と多く、これを蜜標(nectar guide)と呼ぶそうです。
次はやはり花に訪れる昆虫の代表格であるチョウを見てみましょう。しかし、チョウは口器がストロー状ですから花粉に触れないで採蜜出来るような気がします。つまりは、いわゆる盗蜜者ではないのかと私は考えていました。ところが、実際にクサギではアゲハチョウが花を訪れないと、受粉効率が低下するようです。そもそも、チョウが多く訪れる花には、蝶媒とも呼べる共通する特徴があると言います。それは、花の形がラッパ状や漏斗状で、葯や柱頭が飛び出しており、花粉に粘着性があり甘い芳香があるなどです。また、赤系統の花が多い傾向もあるようです。
次は蛾についてです。ガもチョウと同じく鱗翅目の昆虫ですから、当たり前ですが採蜜します。ガもやはり蛾媒と言える花の特徴があります。夜間に咲き、花は白か緑色、あるいは薄い色、葯や柱頭が飛び出しており、花筒や距が発達しており、強くて甘い香りを持つなどです。花は白や薄い色が多いのは、薄暗くても比較的見つけやすいとあります。しかし、個人的に思うのは、暗いためガは視覚ではなく嗅覚に頼っているので、花の色が不要なだけなような気もします。
次は蝿です。ハナアブやツリアブは花に特化しており、長い口器を持つものもあります。普通のハエも花を訪れて採蜜するそうです。花虻・蝿媒の花は皿状や椀状で単純な形で、葯や柱頭、蜜腺が露出し、花色は白か黄色、薄い緑色が多く、日中に開花し香りは弱いものが多いようです。一般的にハエ目の昆虫は色を識別する能力が低いため、花色は地味なのでしょう。長い口吻を持つツリアブは花筒が長く花蜜が、奥深くにある花を好みます。そして、様々な色の花を訪れ、他のハエよりハナバチに似た傾向があるようです。
他にも、ハエはラフレシアなど腐臭がする花に引き付けられます。マムシグサなどサトイモ科植物はキノコバエを誘引するため、キノコの匂いを出しているのかもしれません。
この他にも、ハナムグリやケシキスイなどの甲虫や、アザミウマによる花粉媒介なども知られています。また、鳥媒花とコウモリ媒花も紹介されています。赤い花にはハナバチが来ないため、Fouquieriaの赤い花は昆虫ではなくハチドリだけを呼ぶ算段なのかもしれませんね。ちなみに、コウモリ媒花の花は、夜間に咲いて、白かクリーム色、緑色などで、発酵臭などの強い匂いがあったりするそうです。面白いことに、綿毛に覆われた柱サボテンであるEspostoa frutescensは、綿毛が音を吸収することにより、花の音響を際立たせていると考えられているそうです。音の反射を利用して飛ぶコウモリに対する適応なのかもしれません。他にも、ヤドカリ、トカゲやヤモリ、ネズミなどが受粉に関与するケースもあるそうです。
本の内容的には以上の話はほんのさわりで、花と昆虫の複雑な関係のディープな話が盛り沢山です。植物と昆虫が一対一の関係を築いたり、昆虫が花を選択してある個体は同じ種類の花にばかり訪れたり、植物が昆虫を騙しておびき寄せたり、逆に昆虫が花の蜜を盗んだりと様々な事象が語られます。非常に勉強になり、かつ面白い本でした。
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もちろん、風媒花以外の花はすべて虫媒花という訳ではありません。アフリカのタイヨウチョウや新大陸のハチドリなど花の蜜を専門とする鳥もいることから、鳥媒花も存在します。また、コウモリにより受粉する蝙蝠媒花も存在します。とは言うものの、やはり動物による花粉の媒介は、その多くが昆虫によるものと考えられています。
アフリカの鳥媒花については、こちらの記事をご参照下さい。
蝙蝠媒花については、こちらの記事をご参照下さい。
一口に虫媒花と言っても花粉を媒介する昆虫は様々です。花を訪れる昆虫と言えば蜜蜂や蝶が思い浮かびますが、それだけではなく蝿や蛾も重要なポリネーター(花粉媒介者)です。これらの花と花粉を媒介する昆虫の関係について書かれた石井博の著作、『花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学』(2020年、ベレ出版)を本日はご紹介します。
花粉を運ぶ昆虫と言えばミツバチを思い浮かべますが。これは養蜂からの発想に過ぎません。実際には狩りバチや寄生バチ、ハバチなど様々なタイプのハチが花を訪れます。その中でも重要なのはハナバチの仲間です。ハナバチは非常に種類も多く、ハナバチが訪れることが重要な意味を持つ植物も多いようです。赤・橙・黄色系統の花を咲かせるアロエにもハチは訪れますから、暖色系の赤色の花にハチが来ると思っていましたが、ハチは赤色を認識出来ないようです。まあ、アロエの花は純粋な赤色ではないので、特におかしなことではないのでしょう。また、ハチが訪れる花の色は様々で幅が広く、それほど強い傾向はないようです。まあ、ハチの種類ごとには傾向があるのかもしれませんが。
しかし、ハチの口器の形からして、筒状あるいは先端や根元がすぼまった形の花からは採蜜は出来ないでしょう。例外はあるようですが基本的には開いた花に訪れます。ハチが訪れる花には、花の中央付近の色が濃くなったり異なる色の模様が入っているものが割と多く、これを蜜標(nectar guide)と呼ぶそうです。
次はやはり花に訪れる昆虫の代表格であるチョウを見てみましょう。しかし、チョウは口器がストロー状ですから花粉に触れないで採蜜出来るような気がします。つまりは、いわゆる盗蜜者ではないのかと私は考えていました。ところが、実際にクサギではアゲハチョウが花を訪れないと、受粉効率が低下するようです。そもそも、チョウが多く訪れる花には、蝶媒とも呼べる共通する特徴があると言います。それは、花の形がラッパ状や漏斗状で、葯や柱頭が飛び出しており、花粉に粘着性があり甘い芳香があるなどです。また、赤系統の花が多い傾向もあるようです。
次は蛾についてです。ガもチョウと同じく鱗翅目の昆虫ですから、当たり前ですが採蜜します。ガもやはり蛾媒と言える花の特徴があります。夜間に咲き、花は白か緑色、あるいは薄い色、葯や柱頭が飛び出しており、花筒や距が発達しており、強くて甘い香りを持つなどです。花は白や薄い色が多いのは、薄暗くても比較的見つけやすいとあります。しかし、個人的に思うのは、暗いためガは視覚ではなく嗅覚に頼っているので、花の色が不要なだけなような気もします。
次は蝿です。ハナアブやツリアブは花に特化しており、長い口器を持つものもあります。普通のハエも花を訪れて採蜜するそうです。花虻・蝿媒の花は皿状や椀状で単純な形で、葯や柱頭、蜜腺が露出し、花色は白か黄色、薄い緑色が多く、日中に開花し香りは弱いものが多いようです。一般的にハエ目の昆虫は色を識別する能力が低いため、花色は地味なのでしょう。長い口吻を持つツリアブは花筒が長く花蜜が、奥深くにある花を好みます。そして、様々な色の花を訪れ、他のハエよりハナバチに似た傾向があるようです。
他にも、ハエはラフレシアなど腐臭がする花に引き付けられます。マムシグサなどサトイモ科植物はキノコバエを誘引するため、キノコの匂いを出しているのかもしれません。
この他にも、ハナムグリやケシキスイなどの甲虫や、アザミウマによる花粉媒介なども知られています。また、鳥媒花とコウモリ媒花も紹介されています。赤い花にはハナバチが来ないため、Fouquieriaの赤い花は昆虫ではなくハチドリだけを呼ぶ算段なのかもしれませんね。ちなみに、コウモリ媒花の花は、夜間に咲いて、白かクリーム色、緑色などで、発酵臭などの強い匂いがあったりするそうです。面白いことに、綿毛に覆われた柱サボテンであるEspostoa frutescensは、綿毛が音を吸収することにより、花の音響を際立たせていると考えられているそうです。音の反射を利用して飛ぶコウモリに対する適応なのかもしれません。他にも、ヤドカリ、トカゲやヤモリ、ネズミなどが受粉に関与するケースもあるそうです。
本の内容的には以上の話はほんのさわりで、花と昆虫の複雑な関係のディープな話が盛り沢山です。植物と昆虫が一対一の関係を築いたり、昆虫が花を選択してある個体は同じ種類の花にばかり訪れたり、植物が昆虫を騙しておびき寄せたり、逆に昆虫が花の蜜を盗んだりと様々な事象が語られます。非常に勉強になり、かつ面白い本でした。
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