今年の3月にザ・ガーデン本店ヨネヤマプランテイションで開催された多肉植物BIG即売会に行って参りました。家からは遠いのですが、たった1回の乗り換えで行けて、横浜市営地下鉄ブルーラインの新羽駅から降りて直ぐにありますから大変楽チンです。今年の即売会は例年より規模を拡大しており、あちこちから仕入れたようで、数だけではなく割と珍しいラインナップでした。
そこで入手したのがEuphorbia bubalina、いわゆる「昭和キリン」と呼ばれるユーフォルビアです。決してレアな種類ではありませんが、やや面白味の欠ける見た目のせいか、基本的に園芸店には並びません。

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Euphorbia bubalina

さて、何か情報はないかと調べてみましたが、役に立ちそうなものはほとんどありませんでしたね。販売サイトはまあまああるのですが、一番知りたい原産地の情報などは残念ながら見つけられませんでした。アフリカの多肉植物となるユーフォルビアに関しては、何故か論文も非常に少ないので、こういう時困ってしまいます。

とりあえず、学名について見てみましょう。学名は1860年に命名されたEuphorbia bubalina Boiss.です。異名として、1898年に命名されたEuphorbia laxiflora Kuntze、1915年に命名されたEuphorbia tugelensis N.E.Br.があります。
E. bubalinaの命名者のPierre Edmond Boisserは、スイスの植物学者で探検家でした。19世紀最大のコレクターの一人で、ヨーロッパ、北アフリカ、中東を旅して、膨大な分類学的な成果をあげました。Boisserは著名な植物学者であるde Candolleに師事していたということです。
そのBoisserが1860年の出版した『Centuria Euphorbium』を入手したので見てみました。なんと、ラテン語で植物の特徴を羅列しただけの昔ながらの記載方法でした。一応、翻訳をかけてみましたが、「直立、細長い、多肉質、円筒形…」というような形式で淡々と書かれているだけで正直よく分かりませんでした。"bubalina"という種小名の由来を知りたかったのですが、特に記載はありませんでした。残念。
ちなみに、Boisserの1860年の論文以外にも、E. bubalinaの根拠となる論文があります。それは、P.V.Bruynsの2012年の論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』です。この論文は南アフリカに分布するユーフォルビアのリストを、ひたすらに列挙した面白味のないものです。ただ、初めて命名された論文、タイプ標本の情報、異名について調べられており、大変便利なものです。E. bubalinaについてはどう書かれているでしょうか?

Centuria Euphorbium: 26(1860).
Type: South Africa, Cape, among thorn-bushes near Buffelsriver, Drege 4615 (P, holo.). [Boisser(1860) cited a specimen in 'h. Bunge', so this sheet is taken as the holotype.]

一行目はBoisserが初めて記載した論文の名前と、ページと記載年ですね。二行目からは種を記載する基準となる標本(ホロタイプ)の情報です。採取地点が「Buffelsriver」なんて書いてありますね。要するに「バッファロー川」という意味でしょう。すると、「bubalina」とはバッファローを表すラテン語の「bubal」から来ているのではないでしょうか?

ちなみに、E. bubalinaは、この論文では「Euphorbia subg. Rhizanthium」とされています。要するに「Rhizanthium亜属」ですが、論文によっては「Athymalus亜属」だったりします。さて、このRhizanthium亜属(Athymalus亜属)には様々なユーフォルビアを含みます。少し詳しく見てみましょう。

2013年に発表された『
A molecular phylogeny and classification of the largely succulent and mainly African Euphorbia subg. Athymalus (Euphorbiaceae)』という論文では、Athymalus亜属の遺伝子を解析しています。その論文では、E. bubalinaはAnthacantha節(Section Anthacanthae)のFlorispina亜節(Subsection Florispinae)に分類されます。Florispina亜節には、E. obesa、E. polygona(E. horridaを含む)、E. pulvinata(笹蟹丸)、E. susannae(瑠璃晃)、E. stellispina(群星冠)、E. ferox(勇猛閣)、E. heptagona(=E. enopla, 紅彩閣)、E. bupleurifolia(鉄甲丸)などの有名種を含みます。E. bubalina自体はE. clava(式部)に近縁なようです。また、Anthacantha節には他にもMedusea亜節(Subsection Medusea)があり、名前の通りタコものユーフォルビアが含まれます。

そう言えば、キュー王立植物園のデータベースには、「Native to: Cape Provine, KwaZulu-Natal, New Zealand North」なんて書いてありました。前の2つは南アフリカの州ですが、何故かニュージーランドとあります。いや、さすがにニュージーランドは自生地ではなくて移入種ですよね。E. bubalinaを含むFlorispina亜節はどれも南アフリカ原産ですから、さすがに誤記だと思います。


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