花キリンとはユーフォルビアに属するマダガスカル原産の低木です。赤や白、ピンクなどのユーフォルビアにしては目立つ花(実際には花弁ではなくて苞)を持つEuphorbia milii系(※1)は、園芸店で様々な品種が販売されています。 しかし、花キリンにはE. milii系だけではなく、様々なタイプがあります。その中には小型で、多肉質の時に縮れた葉を持つ塊根性のものもあります。その代表的な種類は、Euphorbia decaryiやEuphorbia francoisiiでしょう。しかし、E. decaryiやE. francoisiiという名前は間違っているのだというJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonの論文が出ています。しかし、J.-P.Castillon & J.-B.Castillonの論文はフランス語で書かれており、残念ながらフランス語が分からない私には読むことが出来ませんでした。一応、機械翻訳をかけてはみたのですが、学名や専門用語が多いせいかは分かりませんが実に酷いもので、何を言っているのかさっぱり分かりませんでした。一文一文を丁寧に単語から翻訳していけば、おそらくは理解出来るのでしょうけど、あまりに面倒臭いので見て見ぬふりをして放置していました。

(※1) 2021年に定義が曖昧だったE. miliiは再定義され、流通している良く目にする花キリンはEuphorbia splendensとされています。本来のE. miliiは先端をカットしたような葉を持つものに限定されるとのことです。まだ論文の要約しか読んでいませんから、そのうち詳細をご紹介出来ればと考えております。

さて、本日ご紹介するのは、2021年のTiomas Haevermans & Wilbert Hetterscheidの論文、『Taxonomy decisions and novelties in the informal Euphorbia decaryi group from Madagascar』です。なんと、J.-P.Castillon & J.-B. Castillonの論文の内容を踏まえて、Euphorbia decaryiと関連のある仲間をE. decaryiグループとして、新たに再構成しています。私が読むことが出来なかった論文の内容も英語で解説されており、非常に助かりました。

①E. decaryiとE. francoisii
まず、2016年にJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonにより、いくつかの名前が混乱したユーフォルビアについて、標本などの資料から正しい学名を明らかにしました。一般的にEuphorbia francoisiiと呼ばれている花キリンは実はEuphorbia decaryiのことで、今までEuphorbia decaryiと呼ばれていた花キリンはEuphorbia boiteauiだというのです。
DSC_0085
一般的にE. francoisiiの名前で販売されているこの花キリンは、実はE. decaryiでした。つまり、E. francoisiiという学名は異名となります。(※2)

(※2)とはいえ、市販されるE. francoisiiは複雑に交配されており、様々な種類が混じっている可能性があります。

_20230318_210719
一般的にE. decaryiの名前で販売されているこの花キリンは、実はE. boiteauiとのことです。

②E. decaryiの変種についての概要
次にE. decaryiには3つの変種がありましたが、2016年のJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、2つの変種をE. boiteauiの変種としました。つまり、E. decaryi var. spirosticha →E. boiteaui var. spirosticha、E. decaryi var. ampanihyensis →E. boiteaui var. ampanihyensisという変更です。しかし、3つ目の変種であるE. decaryi var. robinsoniiは、これが「真の」E. decaryi(本来のE. decaryi)であるのか、E. suzanneae-marnieraeのことを示しているのか曖昧なため、学名は現状維持で変更されませんでした。著者らはJ.-P.Castillon &  J.-B.Castillonの意見に基本的には同意しますが、異なる意見も持っています。著者らはE. boiteaui var. ampanihyensisはE. boiteaui var. spirostichaと同種であり、独立種であるEuphorbia spirostichaであるとしています。
また、旧・E. francoisii系(本物のE. decaryi)の変種であるE. francoisii var. crassicaulisをJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは本来のE. decaryiの変種としてE. decaryi var. crassicaulisとしました。しかし、著者らは独立種であるEuphorbia crassicaulisとしています。

③E. cap-saintemariensisは独立
さて、1984年にCremersはE. decaryiグループについて記載しました。それが、E. decaryi var. ampanihyensis、E. decaryi var. robinsonii、E. decaryi var. cap-saintemariensisです。しかし、var. cap-saintemariensisをE. decaryiの変種とすることはRauh & Buchlohにより批判され認められた学名ではありません。J.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、var.cap-saintemariensisをE. boiteauiとせずに、独立種たる特徴があるとして1970年に命名された最初の名前であるE. cap-saintemariensisを受け入れました。

DSC_2298
Euphorbia cap-saintemariensis

④var. spirostichaとvar. ampanihyensis
E. decaryi var. ampanihyensisはE. boiteaui var. ampanihyensisとされましたが、Cremersの言うところのvar. ampanihyensisの茎や葉が小さいなどの特徴はE. boiteauiと一致しません。Cremersにより強調されたvar. ampanihyensisは、葉と杯状花序苞(※3)の至るところに「腺」が存在するということです。この「腺」は、実際には腺機能はない肥大した円錐形の乳頭様の細胞です(※4)。確かに、その「腺」はE. decaryi var. ampanihyensisのパリにあるホロタイプ(模式標本)と、Boisser自身が作製したカラースライドで見ることが出来ます。
E. decaryiグループのいくつかでは、葉や茎、杯状花序苞の表面に「乳頭細胞」が見られます。「乳頭細胞」が多いE. tulearensisや、数が少なくしばしばより小さく面積が狭いE. boiteauiやE. suzannae-marnieraeがあります。これらの観察から、著者らはE. boiteaui var. ampanihyensisの匍匐根系(※5)、「乳頭細胞」の形態と分布、茎、斑点、葉、杯状花序苞のサイズと形態は、E. spirostichaとの密接な関係を示しているように見えます。E. spirostichaの現生植物の特徴はE. decaryi var. ampanihyensisと一致しますが、一見すると茎の形に違いがあるようです。E. spirostichaの茎は大抵は丸みがあり、葉の落ちた跡は螺旋状に並び、古い茎には跡が残らず滑らかです(※6)。しかし、1984年のCremersの記述ではE. decaryi var. ampanihyensisの茎は角張っているが、跡は残らないとしています。とはいえ、実際の生きた標本は角ばり、また様々な段階の茎があり、強い螺旋状から弱い螺旋状、あるいは直線的なものもあります。このように、E. spirostichaは言われているよりも多様であることが分かります。結論として、1984年のCremersの示すE. decaryi var. ampanihyensisは、1986年のRauh & Buchlohの示すE. decaryi var. spirostichaは同じであるということが示唆されます。また、本来ならば先に命名された名前が優先されますが、var. ampanihyensis(1984年)よりもvar. spirosticha(1986年)の方が広く知られているため、著者らは敢えてvar. spirostichaを優先し、E. spirostichaと命名しました。

(※3)ユーフォルビアの花には花弁がなく、一見して花弁に見えるのは苞。Cyathophyll.
(※4)「腺」とは一般的に液体を分泌する構造を示します。
(※5)stoloniferous roots system. 
下の写真は鉢から抜いたE. boiteauiですが、太く白いものは根ではなく地下茎です。

DSC_1369

(※6)E. boiteauiは角張った茎を持ち、葉の落ちた跡は直線的で、古い茎には跡が残ります。下の写真のE. boiteauiは、分岐の根元まで突起や葉の落ちた跡が残っています。
_20230321_084502

⑤var. robinsoniiとは?
1984年にCremersはE. decaryi var. robinsoniiを報告しました。2016年のJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、var. robinsoniiに関してはE. boiteauiあるいはその他の種に移動させませんでした。Cremersの示したvar. robinsoniiの分布地域をJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonが数回訪れましたが見つけることが出来ませんでした。著者らはCremersの標本を探しましたが残念ながら追跡出来ませんでした。J.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、この曖昧な状況と、E. decaryi、E. suzannae-marnierae、E. waringiaeとの類似性がありはっきりと判断出来ないことから、E. decaryi var. robinsoniiの名前は維持されることになりました。
しかし、著者らは地理的な不確実性にも関わらず、var. robinsoniiはE. suzannae-marnieraeであると考えています。1984年のCremersの記述に手がかりがあります。ホロタイプのE. decaryi var. robinsoniiは、塊根と長い葉柄があり、縁が波状の幅の狭い披針楕円形から狭菱形の葉には特に上面に「腺」があるとしています。
類似性があるとされるEuphorbia waringiaeは、菱形の葉ではなく狭披針形から線状であり、托葉全体に縁があるため除外出来ます。しかし、CremersのE. decaryi var. robinsoniiは縁全体に托葉があります。いわゆるE. francoisii(本当のE. decaryi)は様々な形状の葉があり、Cremersの言うvar. robinsoniiの披針形や菱形のものもありますが、葉には乳頭はなく滑らかで光沢があります。また、Cremersはvar. decaryiは典型的なE. decaryiよりもかなり小さいと述べています。CremersはE. francoisii var. francoisiiの名前も使用していますが、これはおそらくEuphorbia crassicaulisに基づいています。
以上からvar. robinsoniiはE. suzannae-marnieraeであると著者らは考えています。乳頭状の葉の上面と葉柄が狭く菱形で基部が短く、狭く長い葉などの特徴など、E. suzannae-marnieraeと一致します。栽培するとE. suzannae-marnieraeは匍匐根を持ち直立する傾向があります。

240407125720139
Euphorbia waringiae

240609163306482
Euphorbia suzannae-marnierae

⑥新種E. decaryi var. durispina
近年、Euphorbia decaryi var. durispinaというラベルがついた植物が導入されています。導入元はドイツのExoticaでしたが、そのデータベースでは"Heidelberg74941"に対応するとあります。しかし、残念ながらハイデルベルク植物園にvar. durispinaを示すものはありませんでした。var. durispinaという名前は正式な学名ではなく園芸名です。著者らは過去に知られている種類ではないと感じましたが、由来が不明なため正式な記載を控えました。
ところが最近、Petr Pavelka氏から送られてきたマダガスカルのユーフォルビアの写真を調べたところ、Amboasaryの北にvar. durispinaが分布することが分かりました。また、同じ特徴の標本も発見しています。
著者らはvar. durispinaを独立種と考えています。形態学的に近縁なE. boiteauiの短い4mmの托葉とは異なり、var. durispinaはより長い7mmなどいくつかの特徴が異なります。また、E. spirostichaに似ますが、はるかに短い托葉突起(2mm)があり、しばらくすると消え、葉は非常に小さな結節(1mm)があります。
以上のことから、著者らはvar. durispinaを新種と考え、Euphorbia durispinaとしました。E. durispinaは高さは最大5cmで非常に小さく、匍匐根を持ちます。


⑦用語について
この論文では、かなり特殊な用語が使われています。正直、どう訳したものか悩みました。著者らによると、「podarium」とは、Rauh & Buchlohにより葉柄の周辺領域と定義されました。私は「托葉」と訳しましたが、一般的に定義される托葉とはまったく異なります。「podarium」は著者らが「podarium appendages」(=托葉突起と訳した)と呼ぶ、鱗片のような突起が融合した基部で構成されるそうです。また、E. decaryiグループの中で本来のトゲを発達させたのは、E. tulearensisとE. parvicyathophoraのみだそうです。

240615103509101
Euphorbia tulearensis

⑧キュー王立植物園のデータベース
さて、現在のキュー王立植物園のデータベースでは、E. decaryiグループはどのような分類となっていますでしょうか。論文に出てきた名前を調べてみました。以下に示します。

1, E. boiteaui Leandri
   ①E. boiteaui var. boiteaui
   ②E. boiteaui var. ampanihyensis
      (Cremers) J.-P.Castillon & J.-B.Castillon 
       =E. decaryi var. ampanihyensis Cremers
   ③E. boiteaui var. spirosticha
      (Rauh & Buchloh) 
 
        J.-P.Castillon & J.-B.Castillon
       =E. decaryi var. spirosticha
                 Rauh & Buchloh
2, E. crassicaulis (Rauh) Heav. & Hett.
       =E. francoisii var. crassicaulis Rauh
       =E. decaryi var. crassicaulis (Rauh)
              J.-P.Castillon & J.-B.Castillon
3, E. decaryi Guillaumin
    ①E. decaryi var. decaryi
        =E. francoisii Leandri
        =E. francoisii var. rubrifolia Rauh
    ②E. decaryi var. robinsonii Cremers
4, E. cap-saintemariensis Rauh
       =E. decaryi var. cap-saintemariensis
            (Rauh) Cremers
5, E. suzannae-marnierae Rauh & Petignat
6, E. waringiae Rauh & Gerold


見てお分かりのように、著者らの主張が認められているのは、E. crassicaulisの独立についてのみです。var. ampanihyensis=var. spirosticha、あるいはE. spirostichaの独立は認められておりません。さらに、var. robinsonii=E. susannae-marnieraeや、新種E. durispinaも認められていないようです。しかし、これは「現在は」という保留が付きます。まだ、論文が出たばかりですから、今後の変更は十分あり得るでしょう。
それはそうと、花キリンは非常に混乱した分類群ですが、最近整理され始めました。非常に気になるところです。E. decaryiグループも含め、まだ整理は続くのでしょう。今後も注視していきたいと考えております。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村