文庫クセジュはフランスの新書のシリーズですが、1941年に出版されている古くからあるシリーズです。日本でも1951年から白水社から翻訳されており、国内だけですでに1000点以上が出版されております。様々な内容の本がありますが、フランス独特?の癖が強くて読みにくいものが多く、一般的とは言えないかもしれません。
さて、気になる文庫クセジュはたまに購入していますが、『花の歴史』というタイトルの本を入手しましたのでご紹介します。1965年の刊行ですから、割と古い本ですね。


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あくまでも、当時のフランスの目の届く範囲の地域と出来事からなりますから、そのほとんどはヨーロッパとヨーロッパの植民地あたりの話が中心となります。内容は3部構成で、「古代の諸民族における花」、「芸術の中の花」、「花の歴史」からなります。
最初の「古代の諸民族における花」は文献や遺物から、ギリシャ、ローマ、エジプト、インドなどの古代に飾られたり植栽された植木な花を再現しています。次に「芸者の中の花」は、彫刻や絵画、文学等による花について語っています。
最後に「花の歴史」ですが、主にヨーロッパで流行した植物の話です。チューリップ・バブルの話やバラ、蘭もありますが、やはり気になるのはサボテンと多肉植物です。少し見てみましょう。

フランスではサボテンは19世紀から流行り始めました。特に第二帝政時代のメキシコ遠征により沢山のサボテンがもたらされました。しかし、それも長続きせず、19世紀末から20世紀初頭にはブームは過ぎ去ったようです。Ch.バルデにより1892年に出版された『フランスの園芸』には、サボテンはわずか一行しか記載がありませんでした。当時流行っていた菊や蘭、シダにかなりの部分を割いているそうです。しかし、それも短期間のことで、やがて愛好家が現れます。最初のサボテン愛好家協会は1890年にアンヴェルス(ベルギーのアントウェルペンのこと)に創立されました。ドイツは長い間サボテンの国になっていました。第二次世界大戦前にはサボテン熱は高まり、1935年にはサボテン協会の会員は2000人以上となり、主要な町にサボテン愛好家のグループがあったほどです。
1932年にはP.フルニエはフランスのサボテン趣味の再興を語っており、その理由を考察しています。曰く、「住居が狭くなり大抵の花は部屋で育てることは困難となったが、サボテンは置いた場所に満足している。その穏やかな不変の姿に接し、熱や苛立ちを鎮める楽しみを見つけている」とのことです。
著者はオプンチア(ウチワサボテン)は非常に丈夫だが、愛好家にあまり求められていないとしています。オプンチアは大きく育つので鉢植えで室内に置けないことが心配され、フランスの気候では花が咲きにくいことが不人気の原因のようです。ウニサボテン(Echinopsis?)は最も普通のサボテンで、栽培が容易く花を多く咲かせます。マミラリアは栽培が比較的易しく花が多く美しいことから、非常に評価されているということです。カニサボテンとクジャクサボテンは最も古くから知られたサボテンの1つで、Phyllocactus phyllanthoidesは夏の間は薔薇色の美しい花が沢山つき非常に良く  知られているそうです。
サボテンは現在では非常に細分化されましたが、はじめて学名がついたのはサボテンをすべて含むCactus属でした。この本が出版された当時はどうだったのでしょうか? 出てくる名前を現在と比較していませんが、結構変わっているものもありそうです。


さて、続いて多肉植物も少しだけ見てみましょう。Sempervivumのことを、山の岩壁に付着したアーティチョークのようと表現しています。ベンケイソウ科では、Sedum、Aeonium、Cotyledon、Crassula、Echeverie、Greenovia、Kalanchoe、Pachyphytum、Rocheaがあるとしています。メセン類は500種類、Agaveは300種類ほど知られているとしています。アオノリュウゼツランは地中海沿岸部や北アフリカ、アゾレス諸島、マデイラ諸島、南アフリカ、マウリチウス島、インド、インドシナで野生化しているそうです。Agave parryiやAgave utahensisはパリ平野でも生育しているとのこと。Agaveの近縁種としてYucca、Agaveに間違われる植物として約200種類あるAloeがあります。Sansevieriaは室内栽培植物として、またAstroloba、Gasteria、Haworthiaはフランスでもコレクションとして増えつつあるようです。euphorbes(Euphorbia)は不思議なほどサボテンに似ており、P.フルニエは「素人でなくても騙される」と述べつつ、800種類以上あるトウダイグサ科植物を分類しています。灌木性ユーフォルビア、柱状ユーフォルビア、メドゥーサ・ユーフォルビア(タコもの)、メロン形ユーフォルビア(E. meloformis、E. obesa)があるとしています。サボテン型のユーフォルビアはサボテンとして18世紀末にフランスに渡来しましたが、最近まで広まりませんでした。スタぺリアの仲間は200種類以上あり、時にサボテンに似ています。スタぺリアは開花時に乾いた音を出して破裂し、驚くほど大きい星形の肉質な花を咲かせます。しかし、不幸なことに死肉の臭いがしてハエを呼ぶので、部屋で栽培することは出来ないとしています。キク科にも多肉植物はあり、KleiniaとOthonna、Senecioが挙げられています。
以上のように多肉植物は現在の主要なものは概ねあったように思います。今では一般的なHaworthiaは当時のフランスではあまり出回っていなかったようですね。また、あまり導入されていない節があるユーフォルビアは、意外にも様々な形態のものが認識されていたことがわかります。


というわけで、58年前に出版された園芸書を少しだけご紹介しました。とはいえ、これは日本語版の出版年ですから、原版はもう少し遡るのでしょう。当時の認識は現在と異なることがありますが、意外とその差異が面白かったりします。サボテンや多肉植物以外の部分の方がヨーロッパでは園芸として長い歴史がありますから、実は今日ご紹介した部分以外の方が面白かったりします。「花の歴史」というタイトル通り、興味深いエピソードが語られます。ご紹介したいのは山々ですが、長くなってしまったので本日はここまでとさせていただきます。


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