昨今、環境問題が声高に叫ばれてはいますが、中々どうして解決策が見つからない難題です。環境破壊や異常気象は植物の生育にも多大な影響を与えます。日本でも夏の暑さは徐々に酷くなり、熱帯のようなスコールがあったり、超大型台風が頻繁に発生したりと異変は続きますが、実際に冷夏・暖冬も含め農作物の被害は相当なものがあります。異常気象を含め気候変動は野生の植物にも様々な影響を与えるはずです。分かりやすい例では、温暖化によって高山植物の分布はかなり変動しているそうです。数十年も継続して調査されている山では、かなりダイナミックに分布や高山植物の種類が変動していることが分かりました。高山はある意味で極端な環境ですから、気候変動の影響を受けやすいように思えます。その極端な環境に適応しているので、高山植物は急激な変動には対応しにくい植物と言えるでしょう。同様に極端な環境に育つ多肉植物にも、気候変動は影響して来るはずです。本日は、そんな多肉植物の1つ、砂漠に生えるパキポディウムと気候変動の関係について考察したDanni Guo, Leslie W. Powrie, Danielle W. Boydの2019年の論文、Climate Change and Biodiversity Threats on Pachypodium Species in South Africa』です。

南アフリカ南部にはPachypodium succulentumとPachypodium bispinosumという2種類のパキポディウムが分布します。この2種類のパキポディウムは分布が重なり、一見して良く似ていますが、遺伝的にも近縁であることがわかっています。
気候変動は南アフリカにおいても重大な問題であり、特に降雨量の変動は元より乾燥地に生える多肉植物にとって深刻な脅威である可能性が高いでしょう。
さて、この研究では過去の南アフリカの気象データから、今後の気候変動をコンピューターでシミュレートし、現在の2種類のパキポディウムの分布をやはりコンピューターでシミュレートしています。


結論として、P. bispinosumは気候変動により大幅に生息地が減少することが分かりました。もともとP. bispinosumは生息域が狭いこともあり、急激に個体数が減少する可能性が高いようです。なぜなら、分布が広ければ環境も様々で中には対応出来る環境があるかもしれませんが、分布が狭いとそうはいかないでしょう。
逆にP. succulentumはそれほど生息地が減少しません。ある生息地は消滅しますが、代わりに現在P. succulentumが生息していない他の地域に分布が移動しています。生息地が広いことが幸いしているようです。
さて、気候変動のうちパキポディウムに影響を与える要因をピックアップすると、降水量の季節性、乾季の降水量、暖かい四半期の降水量が挙げられます。これらは正にも負にも影響します。重要なことは、パキポディウムに影響を与えるのは気温ではなく降水量の変動であるということです。

以上が論文の簡単な要約です。地球温暖化は何も気温が高くなるだけではなく、海水面が暖められて海流に影響したりと、蒸発した湿った空気が影響を及ぼしたりと、様々な影響があります。当然ながら、南アフリカの降水量にも影響が出てくるのでしょう。しかし、今回はパキポディウムに影響を与えうるであろう他の様々な要因については考慮されていません。論文の主張だけでは弱く、まだ絶滅のリスクについて語ることは難しいとしています。ただし、それは人間の環境に与える様々な負の影響も加算されることになりますから、パキポディウムの明るい未来を描くことは大変難しいことのように思われます。


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